特許第6146968号(P6146968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本除蟲菊株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000006
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000007
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000008
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000009
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000010
  • 特許6146968-薬剤揮散具 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146968
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】薬剤揮散具
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/20 20060101AFI20170607BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20170607BHJP
   A61L 2/16 20060101ALI20170607BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   A01M1/20 C
   A01M29/34
   A61L2/16
   A61L9/01 H
   A61L9/01 Q
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-162015(P2012-162015)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-14345(P2014-14345A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-136458(P2012-136458)
(32)【優先日】2012年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】早味 知子
(72)【発明者】
【氏名】田丸 友裕
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−187798(JP,A)
【文献】 特開2010−155793(JP,A)
【文献】 実公平05−000938(JP,Y2)
【文献】 特開2003−250414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/20
A01M 29/00
A61L 2/00
A61L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温揮散性薬剤を含浸し、かつインジケータ部を端部に有する薬剤揮散体を容器に収納した薬剤揮散具であって、
前記容器が開口部を有するポリエチレンテレフタレート製の容器であり、
前記インジケータ部の中心が前記薬剤揮散体の外周縁から8mmより内側に設けられ、
前記薬剤揮散体を前記容器に収納した際に、前記薬剤揮散体と前記容器の内壁面との距離が、薬剤揮散具の断面視において1〜5mmとなるように設けられたものであることを特徴とする薬剤揮散具。
【請求項2】
常温揮散性薬剤を含浸し、かつインジケータ部を端部に有する薬剤揮散体を容器に収納した薬剤揮散具であって、
前記容器が開口部を有するポリエチレンテレフタレート製の容器であり、
前記インジケータ部が、
前記インジケータ部の中心から前記薬剤揮散体の外周縁までの距離が、前記薬剤揮散体の中心から外周縁までの最短距離の30%以上となるように前記薬剤揮散体の外周縁から内側に設けられ
さらに前記薬剤揮散体を前記容器に収納した際に、
前記薬剤揮散体と前記容器の内壁面との距離が、薬剤揮散具の断面視において1〜5mmとなるように設けられたものであることを特徴とする薬剤揮散具。
【請求項3】
前記薬剤揮散体を前記容器に収納した際の、
前記容器の、前記インジケータ部の背面に対向する部分には開口部を設けないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薬剤揮散具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローゼットなどの収納空間において使用される薬剤揮散具に係り、さらに詳しくは常温揮散性薬剤の揮散の影響を受けずに、当該薬剤成分の揮散の終了を表示するインジケータを薬剤揮散体と一体化しつつ、従前の薬剤揮散具に比べてより正確に薬剤の揮散終了時期を表示することができる薬剤揮散具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、常温揮散性薬剤を不織布などに含浸させた薬剤揮散体を容器に収納した薬剤揮散具は知られている。
ここで、このような薬剤揮散具は、通常、薬剤成分の揮散の終了を表示するインジケータが薬剤揮散体とは別に設けられていることが多いが、近年においては例えば特許文献1〜4などのようにインジケータが薬剤揮散体と一体となっているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4543113号公報
【特許文献2】実公平5−938号公報
【特許文献3】特許第4753404号公報
【特許文献4】実用新案登録第2604345号公報
【特許文献5】特開平11−187798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインジケータ用紙については、インジケータが薬剤揮散体と一体となっているものの、薬剤揮散体内のどの位置にインジケータが一体化されているかについては記載がなされていない。また、特許文献2および特許文献3に記載のインジケータおよび防虫剤については、薬剤揮散体におけるインジケータの位置に関する記載があるものの、特許文献2の図2図6図9や特許文献3の図1に記載されている通り、インジケータは薬剤揮散体の中央部に設けられているものとなっている。
【0005】
なお、このような薬剤揮散具は、衣類とともにクローゼットなどの収納空間のハンガーポールに引っ掛けて使用されるものであることから、揮散の終了を示すインジケータは、同じくハンガーポールに引っ掛けている衣類の間からも見やすいように薬剤揮散体内でも端部に設けられていることが好ましいものである。
よって、特許文献1〜3に記載のインジケータは、使用時において揮散の終了を確認しづらいという問題がある。
【0006】
一方、特許文献4に記載のインジケータについては、特許文献4の図1図5に記載されている通り、インジケータが薬剤揮散体の端部に設けられていることから、使用時においても揮散の終了を確認し易いという長所がある。
しかしながら、特許文献4に記載のインジケータについては、薬剤揮散体が収納される容器に関する記載がなされていない。
【0007】
ここで、このような薬剤揮散具については、薬剤揮散体から揮散する常温揮散性薬剤が薬剤揮散具を収納する容器によって吸着されてしまうという問題があり、特許文献5の段落[0005]、[0006]に記載の通り、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを容器の材料に使用した場合などは、この吸着現象が顕著に表れ、常温揮散性薬剤の薬剤揮散体外周縁からの消失を促進することとなり、その結果、防虫効果などの効力低下やインジケータの精度低下という問題が発生することになる。
【0008】
この点、特許文献5においては、容器に脂肪族ポリケトンを用いることによってこの問題の解決を図っている。
しかしながら、特許文献5の[請求項2]や[0107]に記載されている通り、実際には脂肪族ポリケトンを汎用プラスチックにコーティング等をしなければ高価な脂肪族ポリケトンを使用することができず、そのためには、コーティング等の製造方法の工夫や脂肪族ポリケトンの剥離防止の対策などが必要となってくることから、製造工程が複雑になってしまうという欠点があった。
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、インジケータ部の中心を薬剤揮散体の外周縁から所定の領域に設け、かつポリエチレンテレフタレートによって容器を作製することによって、上記の問題点を解決する薬剤揮散具を実現できることを見出した。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、薬剤揮散体とインジケータを一体化しつつ、従前の薬剤揮散具に比べてより正確に薬剤の揮散終了時期を表示することができる薬剤揮散具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る薬剤揮散具は、常温揮散性薬剤を含浸し、かつインジケータ部を端部に有する薬剤揮散体を容器に収納した薬剤揮散具であって、容器が開口部を有するポリエチレンテレフタレート製の容器であり、インジケータ部の中心が薬剤揮散体の外周縁から8mmより内側に設けられ、薬剤揮散体を容器に収納した際に、薬剤揮散体と容器の内壁面との距離が、薬剤揮散具の断面視において1〜5mmとなるように設けられたものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る薬剤揮散具は、常温揮散性薬剤を含浸し、かつインジケータ部を端部に有する薬剤揮散体を容器に収納した薬剤揮散具であって、容器が開口部を有するポリエチレンテレフタレート製の容器であり、インジケータ部が、インジケータ部の中心から薬剤揮散体の外周縁までの距離が、薬剤揮散体の中心から外周縁までの最短距離の30%以上となるように薬剤揮散体の外周縁から内側に設けられ、さらに薬剤揮散体を容器に収納した際に、薬剤揮散体と容器の内壁面との距離が、薬剤揮散具の断面視において1〜5mmとなるように設けられたものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項に係る薬剤揮散具は、薬剤揮散体を容器に収納した際の、容器の、インジケータ部の背面に対向する部分には開口部を設けないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る薬剤揮散具によれば、インジケータを薬剤揮散体の外周縁から所定の領域に一体化するとともに、当該容器をポリエチレンテレフタレートとすることよって、1)薬剤の揮散の影響を受けずにインジケータを一体化できるとともに、2)容器成分が薬剤成分を吸着することによるインジケータの性能低下を防止することができ、3)従前の薬剤揮散具に比べてより正確に薬剤の揮散終了時期を表示できる薬剤揮散具を提供することができる。
【0017】
さらに容器に収納した際に薬剤揮散体を容器の内面から所定の距離以内となるように設けることによって、上記1)〜3)の効果を有しつつ、薬剤揮散具自体の厚みをより薄くした薬剤揮散具を提供することができる。
【0018】
加えて、薬剤揮散体を容器に収納した際において、容器の、インジケータ部の背面に対向する部分に開口部を設けず塞いでおくことによって、インジケータ部の性能低下をより防止することができ、より一層正確に薬剤の揮散終了時期を表示できる薬剤揮散具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の薬剤揮散具の正面図である。
図2】本発明に用いられる薬剤揮散体の一の例を示す正面図である。
図3】本発明に用いられる薬剤揮散体の別の例を示す正面図である。
図4】本発明の薬剤揮散具の一の例を示す背面図である。
図5】本発明の薬剤揮散具の別の例を示す背面図である。
図6図1のA−A‘断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。図1は本発明の薬剤揮散具の正面図であり、図2は本発明に用いられる薬剤揮散体の一の例を示す正面図であり、図3は本発明に用いられる薬剤揮散体の別の例を示す正面図であり、図4は本発明の薬剤揮散具の一の例を示す背面図であり、図5は本発明の薬剤揮散具の別の例を示す背面図であり、図6図1のA−A‘断面図である。
【0021】
(薬剤揮散具)
本発明の薬剤揮散具1は、図1および図2に示すように、インジケータ2を一体化しつつ常温揮散性薬剤を含浸させた薬剤揮散体3と、かかる薬剤揮散体3を収納する容器4によって構成されている。また、容器4にはクローゼットなどの収納空間のハンガーポールに引っ掛けて使用するためのフック5が設けられている。
【0022】
(薬剤揮散体およびインジケータ)
本発明の薬剤揮散具1に用いられる薬剤揮散体3は、紙などからなる基材6に後記する常温揮散性薬剤(図示せず)を含浸または練り込んだ担体のことをいい、所定の領域にインジケータ2が設けられているものである。具体的には、常温揮散性薬剤を含浸等した基材6に、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの顔料をメジウムや合成樹脂などのバインダーおよび有機溶剤などで分散した混合液をシルクスクリーン印刷等の印刷技法を用いて塗工することによって、薬剤揮散体3にインジケータ2が一体化されることになる。
【0023】
そして、かかるインジケータ2は薬剤揮散体3内において薬剤揮散体3の外周縁7から所定の領域に設けられている必要がある。かかる領域にインジケータ2が設けられていることによって、常温揮散性薬剤が薬剤揮散体3の外周縁7から消失することになっても、薬剤の揮散ムラの影響を受けずにインジケータ2を一体化することができるのである。また、後記するようにポリエチレンテレフタレートによって作製した容器に収納することによって、さらに薬剤の揮散ムラの影響を受けずにインジケータ2を一体化することができるのである。
ここで、「所定の領域8」については、厳密には薬剤揮散体3の大きさによって異なるものとなるが、具体的にはインジケータ2の中心からの距離が、薬剤揮散体3の中心から外周縁7までの最短距離に対して30%以上となるように、インジケータ2が配置されていることが好ましい。また、図2図3に示すようにインジケータ2の中心が薬剤揮散体3の外周縁7から5mmより内側に設けられていればより好ましく、さらに好ましくは8mm以内である。
【0024】
また、本実施形態においては図2に示すようにインジケータ部2が「おとりかえ」の文字を一段に表記する形態となっているが、これに限定されるものではなく各種の形態を採用することができる。例えば、薬剤揮散体3は、容器4内に収納する際の容易性を考慮し、容器4の内寸に対して少し小さめのサイズとして、遊びを持たせて収納することが多いことから、かかる遊びによって薬剤揮散体3が容器4内で多少動いた場合でもインジケータ部2が視認できるように、図3に示すような「おとりかえ」の文字を複数段に表記する形態など各種の形態を採用することができる。
【0025】
なお、基材6の材質としては、当該薬剤を含浸または練り込むことができるものであれば特に限定されず、例えば、紙、パルプ紙、板紙、合成繊維混抄紙、不織布、織物、ポリオレフィン樹脂等が使用可能である。
【0026】
さらに、本発明の薬剤揮散具1に用いられる薬剤揮散体3は、基材6に常温揮散性薬剤を含浸、塗工、練り込むことなどによって作製されるが、基材6については何枚かの紙を複数用いてそれらを積層することにより1枚として形成したものを使用することが好ましい。このように薬剤揮散体を複数積層することでそれぞれの薬剤揮散体から常温揮散性薬剤を徐々に揮散させることができるため、安定した揮散効果を発現させることができる。
なお、積層数については特に限定されないが、3〜6層であることが好ましい。また、積層の方法については、接着や圧着などの公知の方法を用いることができるが、それぞれの薬剤揮散体から常温揮散性薬剤を揮散させることができる点から、パルプ紙を抄造して作製した基材に常温揮散性薬剤を含浸させた複数枚の薬剤揮散体を単純に重ねたものを薬剤揮散体3とすることが好ましい。
【0027】
(常温揮散性薬剤)
本発明の薬剤揮散具1に用いられる常温揮散性薬剤としては、常温において空気中に揮散する性質を有するものであれば特に限定されず、抗菌成分、防黴成分、消臭成分、香料成分を用いることができる。
例えば、防虫効果を求める場面では、p−メンタン−3,8−ジオール、p−メンタン−1,8−ジオール、テルピネオール、ゲラニオール、リナロール、シトロネラール、オイゲノール、カンファー、ユーカリプトール等のテルペン系防虫成分や、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン等のピレスロイド系殺虫成分等が挙げられる。なお、これらの揮散性のピレスロイド系防虫剤については、各種の光学異性体または幾何異性体が存在するが、いずれの異性体類も使用することができ、また、各種の添加剤を使用することもできる。
【0028】
芳香剤としては、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α―ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテートなどが挙げられる。
【0029】
消臭剤としては、揮発性のものではヒバ油、ヒノキ油、竹エキス、ヨモギエキス、キリ油やピルビン酸エチル、ピルビン酸フェニルエチル等のピルビン酸エステルなどが挙げられるが、活性炭、ゼオライト等の多孔性物質から成る消臭剤や銀、銅、亜鉛等の金属イオン、あるいは酸化チタン光触媒を有する消臭剤を、板状、顆粒状、シート状等の状態としたものも使用できる。
【0030】
防黴剤としては、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノールなどが挙げられる。
【0031】
抗菌剤としては、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネートなどが挙げられる。
【0032】
なお、本発明に用いられる薬剤揮散体3の製品1個当たりの有効成分使用量としては、使用される空間の容量や使用期間などに応じて適宜決定されることになるが、防虫成分がエムペントリンであれば100〜1200mg、プロフルトリンであれば50〜1000mgを含浸等させた担体を使用することで、一年間を通じて十分な防虫効果を発揮することができる。
【0033】
また、本発明の防虫成分には、各種の添加剤を使用してもよい。例えば、ヘキサン、パラフィン等の炭化水素系化合物や各種の石油系溶剤、各種の安定剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、消臭剤、芳香剤、香料等を配合することができる。具体的には、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等の抗菌剤、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノール等の防黴剤、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α―ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香剤、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒドが配合されている香料などが挙げられる。
【0034】
(容器)
本発明の薬剤揮散具1に用いられる容器4は、上記した薬剤揮散体3を収納してクローゼットなどの収納空間のハンガーポールに引っ掛けるためのものであり、図1および、図4(または図5)に示すように開口部12が設けられているものである。
そして、本発明の薬剤揮散具1に用いられる容器4は、ポリエチレンテレフタレートによって作製されている必要がある。このようにポリエチレンテレフタレートによって作製した容器4を使用することによって、常温揮散性薬剤の容器への吸着を防止することができ、その結果、薬剤揮散体外周縁7からの常温揮散性薬剤の過剰な消失を抑制することができるのである。そして、段落[0023]に記載の通り、インジケータ2を薬剤揮散体3内において薬剤揮散体3の外周縁7から所定の領域に設けたこととの相乗効果によって、従前の薬剤揮散具に比べてより正確に薬剤の揮散終了時期を表示することができる薬剤揮散具1を提供することができるのである。
なお、図1および図4(または図5)に示す薬剤揮散具に使用している容器4は、上蓋部と下蓋部の2パーツから容器4を構成しているが、これに限定されるものではなく、3パーツ以上のパーツや一体成型などによって構成することもできる。
【0035】
次に、本発明の薬剤揮散具1に用いられる容器4の内壁面9と薬剤揮散体3との距離が所定の距離内に設けられていることが好ましい。このようにポリエチレンテレフタレートによって作製した容器4を使用しつつ、かかる距離に薬剤揮散体3を配置することによって、揮散効率を維持しながら薬剤揮散具1を薄くすることができるのである。
また、容器内壁面9と薬剤揮散体3との距離が短くなることから、薬剤揮散具1内において薬剤揮散体3を保持するためのリブ等の突起10を必要最小限のものとすることができ、容器4をより簡単な構造とすることができるのである。
さらに、容器内壁面9と薬剤揮散体3との距離が短くなることから、薬剤揮散体3を収納する容積が大きくなることに起因する容器自体の強度の低下を防止することができ、その上、薬剤揮散具1自体がスリムになることから、クローゼット等の収納空間内においてスペースを取ることなく、取扱いも容易になるという効果も奏するのである。
【0036】
ここで、「所定の距離内11」については、厳密には薬剤揮散具1の大きさによって異なるものとなるが、図6に示すように容器内壁面9と薬剤揮散体3との距離が薬剤揮散具1の断面視において10mm以内となるように設けられていれば、本発明の効果を発現させることができ、好ましくは5mm以内である。
【0037】
加えて、従前のように高価な脂肪族ポリケトンを用いて容器を作製したり、汎用プラスチックにコーティング等したりすることをすることなく、安価に薬剤揮散具1を提供することができる。
【0038】
また、本実施形態においては図1および、図4(または図5)に示すように正面および背面に開口部12を設けているが、これに限定されるものではなく側面にも設けることができる。なお、開口部12の各面における面積(開口率)においては使用される空間の容量や使用期間などに応じて適宜決定されることになるが、揮散効率の点から各面の30〜70%であることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の薬剤揮散具1に用いられる容器4については、図4に示すように薬剤揮散体を容器に収納した際の、容器のインジケータ部の背面に対向する部分に開口部を設けることもできるが、図5に示すように当該部分には開口部を設けないことが好ましい。
このように、インジケータ部の背面に対向する部分を塞いでおくことによって、インジケータ部の背面からの常温揮散性薬剤の揮散を抑制することができ、インジケータ部からの常温揮散性薬剤の揮散速度と、インジケータ部以外の薬剤揮散体からの常温揮散性薬剤の揮散速度をより均一なものとすることができる。その結果、インジケータ部の性能低下をより防止することができ、より一層正確に薬剤の揮散終了時期を表示することができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の具体的な効果を実施例と比較例とを対比させて詳しく説明する。
【0041】
(実施例1および比較例)
(薬剤揮散体の作製)
層構造が1層となるように抄造した、縦5cm、横10cm、厚さ1mmの緑色の地色を有するパルプ紙を基板として、基板の外周縁からインジケータ中心までの距離が表1のAに示す距離(5mm、8mm、15mm、25mm)となるように、縦10mm×横10mmの大きさのインジケータを基板上にスクリーン印刷した。なお、インジケータには無定形シリカとバインダーを含有するインキを使用した。その後、本基板に約100日分に相当する量となる、エムペントリン350mgとパラフィン系溶剤40mgからなる常温揮散性薬剤を均一に含浸させて、実施例1および比較例に使用する薬剤揮散体を作製した。
【0042】
(薬剤揮散具の作製)
次に、薬剤揮散体を収納する部分の面積が5.8cm×10.8cmで容器の内壁面と薬剤揮散体との距離が表1のBに示す距離(1mm、3mm、5mm、10mm)となるようにした上蓋部と下蓋部の2パーツからなる容器を、ポリエチレンテレフタレート樹脂(実施例1)とポリプロピレン樹脂(比較例)の2種類を用いてそれぞれ成形することによって作製した。なお、容器には図1および図4に示すように正面と背面に常温揮散性薬剤を揮散させるための開口部(下蓋部のインジケータ部の背面に対向する部分にも上蓋部と同様の開口部を設けた)と、薬剤揮散体内のインジケータ部分を確認するための窓部を設け、上部にはハンガーポールに引っ掛けて使用するためのフックを設けるように作製した。
最後に、上記の薬剤揮散体を収納して、AおよびBの距離が表1に記載の水準となっている実施例1および比較例の薬剤揮散具を作製した。
【0043】
(評価)
実施例1および比較例の薬剤揮散具を30℃に調節された(この温度条件下であることによって、[0041]に記載の常温揮散性薬剤の量が100日分に相当することとなる)無風の試験室内に吊下げて、インジケータが白色に変化するまでの日数を評価した。またBの距離が5mmのものについては、別途、80日目から105日目までについて5日間間隔で薬剤揮散体の残量を分析し、常温揮散性薬剤が約5%にまで減少する日数(薬剤揮散体の終点)を調べ、インジケータが白色に変化するまでの日数との比較を行った。
【0044】
結果を表1に示す。
【表1】
【0045】
表1から容器がポリエチレンテレフタレート樹脂製である実施例1の薬剤揮散具については、インジケータ中心が薬剤揮散体の外周縁から5mm(所定の領域)より内側に設けられており、容器内壁面と薬剤揮散体との距離が10mm(所定の距離)内に設けられていることから、全ての水準において、設計通り(約100日分)のインジケータ精度を示した。特に、Aの距離(薬剤揮散体の外周縁からインジケータ中心までの距離)が8mm以内の水準においては、5mmの場合よりもさらに良好なインジケータ精度を示した。
また、Bの距離(容器内壁面と薬剤揮散体との距離)が5mm以内である場合においては、10mmの場合に比べてインジケータ部が開口部と近くなることから、実際の使用場面(タンス内などのハンガーポールに吊下げた際に斜めからインジケータを観察した際)において、特にインジケータの視認性が良好であった。
【0046】
これに対し、容器がポリプロピレン樹脂製である比較例の薬剤揮散具については、Aの距離およびBの距離が十分に確保されている場合においても、容器への常温揮散性薬剤の吸着が影響して、設計よりも短い期間で揮散性能が終了してしまった。そして、その中でもAの距離が8mmよりも短い場合やBの距離が狭い場合には、70日〜90日程度という設定よりも顕著に早い期間でインジケータの表示が現れてしまうという結果となった。
【0047】
ここで、インジケータの終点表示における精度は、1)使用者に実際に使用を止めてもらう常温揮散性薬剤の残量状態(薬剤揮散体のデッドロスを考慮し、常温揮散性薬剤が約5%残存している状態を終了の理想目安とする)と、2)インジケータの終点表示がほぼ一致することである。そして上記の通り、実施例1の場合には1)と2)とがほぼ一致した(外周縁からのインジケータの中心までの距離が8mm以上の場合は特に良好である)のに対し、比較例の場合にはインジケータの表示のばらつきが大きいうえに、外周縁からのインジケータの中心までの距離が8mm以上ある場合であっても、インジケータの終点表示が常温揮散性薬剤の残量状態よりも早くなってしまい、インジケータの精度が劣ることがわかった。
【0048】
(実施例2)
薬剤揮散具の各構成要件を以下の通りに変更した以外は実施例1と同様にして実施例2の薬剤揮散具を作製し、容積800Lのタンスの中に2個(約1年分に相当)吊るしてインジケータの文字が表示されるまでの日数を評価した。
基材:縦4.5cm、横9.8cm、厚さ1mmの緑色の地色を有するパルプ紙
インジケータ:13mm×20mmの枠内に「おとりかえ」の文字をスクリーン印刷
常温揮散性薬剤:エムペントリン300mgとパラフィン系溶剤50mgの混合物
薬剤揮散体を収納する部分の面積:4.9cm×10.2cm
Aの距離:9mm
Bの距離:2mm
【0049】
その結果、12ヶ月目に「おとりかえ」の文字が明瞭に表示され、精度の良いインジケータであることを示した。また、収納衣類は約1年間にわたり衣料害虫の食害を受けなかった。
【0050】
(実施例3)
下蓋部の容器について、図5に示すように、インジケータ部の背面に対向する部分には開口部を設けないように変更した以外は実施例1と同様にして実施例3の薬剤揮散具を作製し、実施例1と実施例3の薬剤揮散具について以下の2つの雰囲気下における評価を行った。なお、1)、2)の評価ともサンプル数は10個とし、同じ評価を2回行った。
1)25℃に調節された(この温度条件下であることによって、[0041]に記載の常温揮散性薬剤の量が1年分に相当することとなる)無風の試験室内に吊下げて、インジケータが白色に変化するまでの日数を評価した。
2)10軒の家庭において、各家庭が使用しているクローゼットやタンスなどの収納空間中に吊下げて、インジケータが白色に変化するまでの日数を評価した。
【0051】
結果を表2に示す。
【表2】
【0052】
表2に示す通り、インジケータ部の背面に対向する部分に開口部が設けられている実施例1の薬剤揮散具についても十分なインジケータ精度を示したが、インジケータ部の背面に対向する部分に開口部が設けられていない実施例3の薬剤揮散具はそれ以上に高いインジケータ精度を示した。
また、雰囲気条件が異なるような、各家庭において使用する場合においても良好なインジケータ精度を示した。
【0053】
(実施例4)
(薬剤揮散体の作製)
層構造が5層となるように抄造した、縦5cm、横10cm、厚さ1mmの緑色の地色を有するパルプ紙を基板とし、エムペントリン300mgと香料100mgとパラフィン系溶剤40mgからなる常温揮散性薬剤を均一に含浸させた以外は実施例1と同様にして実施例4に使用する薬剤揮散体を作製した。
【0054】
(薬剤揮散具の作製)
次に、薬剤揮散体を収納する部分の面積が5.8cm×10.8cmで容器の内壁面と薬剤揮散体との距離が5mmとなるようにした上蓋部と下蓋部の2パーツからなる容器(下蓋部のインジケータ部の背面に対向する部分にも上蓋部と同様の開口部を設けた)に、上記の薬剤揮散体を収納して、実施例4の薬剤揮散具を作製した。
【0055】
(評価)
実施例1と実施例4の薬剤揮散具を10個用意し、25℃に調節された(この温度条件下であることによって、[0053]に記載の常温揮散性薬剤の量が1年分に相当することとなる)無風の試験室内に吊下げ、以下の2つの評価を2回行った。
1)10人の評価者によって、試験開始直後、6ヶ月後、12ヶ月後の各薬剤揮散具の香りを5段階(1:強い、2:やや強い、3:やや弱い、4:弱い、5: ほとんど香りはしない)によって官能評価した。
2)試験開始直後、6ヶ月後、12ヶ月後のエムペントリンの残量をガスクロマトグラフ法によって測定した。
【0056】
結果を表3および表4に示す。
【表3】
【表4】
【0057】
表3に示す通り、1)の官能評価については、1層構造の薬剤揮散体を使用した実施例1の薬剤揮散具についても十分な香りの持続性能を示したが、5層構造の基材を使用した実施例4の薬剤揮散具はそれ以上に高い香りの持続性能を示した。具体的には、12ヶ月後において実施例1と実施例4の評価は平均値では大差がない結果となったが、各試験者の評価結果において評価5(ほとんど香りはしない)と評価した試験者が、実施例1(1層構造)では3〜4人いたのに対し、実施例4(5層構造)では1人のみであったことから、実施例4の薬剤揮散具は、より高い香りの持続性能を示すものであることがわかる。
ここで、香料成分の揮散が持続するということは、同等の蒸気圧を有するエムペントリンについても同様に薬剤揮散体からの揮散が持続しているということを示すものである(このことは後記するエムペントリンの残量からもわかることである)。
【0058】
次に、2)のエムペントリンの残量についても、表4に示す通り、1層構造の薬剤揮散体を使用した実施例1の薬剤揮散具も十分なエムペントリンの残量が認められたが、5層構造の薬剤揮散体を使用した実施例4の薬剤揮散具はそれ以上の残量を示した。具体的には、12ヶ月後における実施例1と実施例4のエムペントリン残量の標準偏差は約2倍の差が認められた。
【0059】
以上から、本発明の薬剤揮散具に用いられる薬剤揮散体は、基材に常温揮散性薬剤を含浸または練り込んだ薬剤揮散体を複数枚用意して、それらを積層することによって形成したものを使用することが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の薬剤揮散具は、クローゼットなどの収納空間において使用される薬剤揮散具に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 薬剤揮散具
2 インジケータ
3 薬剤揮散体
4 容器
5 フック
6 基材
7 外周縁
8 所定の領域
9 内壁面
10 突起
11 所定の距離内
12 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6