特許第6146978号(P6146978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146978
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】医療用器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   A61M25/00 610
   A61M25/00 620
   A61M25/00 630
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-224680(P2012-224680)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-76132(P2014-76132A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】393015324
【氏名又は名称】株式会社グッドマン
(72)【発明者】
【氏名】安藤 昭一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 都世志
【審査官】 和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0074308(US,A1)
【文献】 米国特許第05902287(US,A)
【文献】 実開平05−076448(JP,U)
【文献】 特開2010−167101(JP,A)
【文献】 特開平10−024098(JP,A)
【文献】 米国特許第05674197(US,A)
【文献】 米国特許第06168588(US,B1)
【文献】 特開2013−090716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に挿入される医療用器具であって、
周壁を有するシャフトを備え、該周壁は、
第1降伏伸度を有する第1材料で形成され、前記周壁のうちの周方向の一部を形成する第1周壁部と
前記第1材料と、前記第1降伏伸度とは異なる第2降伏伸度を有する第2材料とを含み、前記周壁のうちの前記第1周壁部以外の残余の部分を形成する第2周壁部と、を有し、
前記第2周壁部は、
前記第1材料と前記第2材料との混合物から形成された内側領域と、
前記第2材料から形成された外側領域と、を有することを特徴とする医療用器具。
【請求項2】
前記シャフトは湾曲部を有し、
前記湾曲部のコーナ内側部分のコーナ最内部は、前記第1周壁部と前記第2周壁部とのうちの高い降伏伸度を有する周壁部により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の医療用器具。
【請求項3】
前記コーナ内側部分は、前記湾曲部を直線状に変形させた状態で降伏しないように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の医療用器具。
【請求項4】
前記第1周壁部と前記第2周壁部とのうちの高い降伏伸度を有する周壁部は、前記湾曲部を伸ばすべく前記湾曲部に荷重を加えた場合に前記湾曲部において圧縮応力が生じる圧縮領域にはみ出さないようにして配置されていることを特徴とする請求項2または3に記載の医療用器具。
【請求項5】
前記シャフトは、前記周壁よりも内側に設けられた内側層と、該内側層と前記周壁との間に設けられた補強層とを有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の医療用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトを備える医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
体内に挿入される医療用器具としてはカテーテルやガイドワイヤなどのシャフトを有するものが知られている。このような医療用器具においては、シャフトに力が作用して、シャフトがその軸線に対してある特定の側に大きく変形され得るものがある。
【0003】
例えば特許文献1に記載のガイディングカテーテルでは、シャフトの先端側に湾曲部が形成されている。シースイントロデューサーを介してこのカテーテルを体内に挿入するためには、前記湾曲部をある程度まっすぐに伸ばす必要がある。すなわち、湾曲部はまっすぐになるように、その湾曲方向とは反対側に大きく変形する。
【0004】
また特許文献2に記載のガイドワイヤ配置用カテーテルでは、シャフトの先端側に、ガイドワイヤを主血管から側枝に導くための湾曲部が形成されている。側枝に挿入されたガイドワイヤに沿って更にガイドワイヤ配置用カテーテルを進めようとすると、湾曲部よりも基端側に位置するシャフトの直線状部分が湾曲部と同じ方向に曲がりながら側枝に挿入されていくこととなる。すなわち、主血管と側枝との間の角度が大きい場合、シャフトの直線状部分は、先端の湾曲部の湾曲方向と同じ方向に大きく変形する。
【0005】
また、このようなシャフトの変形は、カテーテルの使用時だけでなく、カテーテルの製造時などにも起こり得る。例えば、直線状のカテーテルシャフトに湾曲部を形成する場合、直線状部分の先端部に湾曲形状を有する芯材をシャフト内に挿入し、加熱することによりシャフトを形状付けすることが考えられる。その後、芯材をシャフトから取り外すときに、シャフトの形状付けされた湾曲部が芯材の直線状部分を通ることにより、シャフトの湾曲部が直線状に伸ばされてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平2−501893号公報
【特許文献2】国際公開第2011/100706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、シャフトが大きく変形すると塑性変形が生じ、シャフトが元の形状に復元しないおそれがある。そのため、塑性変形が生じにくい材料を用いてシャフトを形成することが考えられる。しかしながら、一般的に、塑性変形しにくい材料は剛性が小さいため、塑性変形しにくい材料を用いた場合はカテーテルのシャフトの剛性が低下する。この結果として、シャフトに所望の剛性が付与されないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シャフトの剛性の低下を抑制しながら復元性を高めることができる医療用器具を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、体内に挿入される医療用器具であって、周壁を有するシャフトを備え、該周壁は、第1降伏伸度を有する第1材料で形成され、前記周壁のうちの周方向の一部を形成する第1周壁部と、前記第1材料と、前記第1降伏伸度とは異なる第2降伏伸度を有する第2材料とを含み、前記周壁のうちの前記第1周壁部以外の残余の部分を形成する第2周壁部と、を有し、前記第2周壁部は、前記第1材料と前記第2材料との混合物から形成された内側領域と、前記第2材料から形成された外側領域と、を有することを特徴とする医療用器具である。
【0010】
シャフトに曲げ伸ばし等の変形が生じる場合、シャフトの一方の側では引張ひずみが生じ、その反対側では圧縮ひずみが生じる。一般に、ある材料に引張ひずみが生じた場合と圧縮ひずみが生じた場合とでは、引張ひずみが生じた場合のほうが塑性変形、すなわち降伏が生じ易い。
【0011】
そこで本発明によれば、シャフトの周壁において、第1周壁部は第1降伏伸度を有する第1材料から形成され、第2周壁部は、第1材料と第2降伏伸度を有する第2材料とを含む。この場合、第1周壁部と第2周壁部とは異なる降伏伸度を有する。この場合、シャフトが変形して、第1周壁部および第2周壁部のうちの高い降伏伸度を有する周壁部に引張ひずみが生じても、その変形した部分に塑性変形が生じることを抑制することができる。従って、シャフトの復元性を高めることができる。
【0012】
また、一般的に、低い降伏伸度を有する材料は高い降伏伸度を有する材料よりも剛性が高い。そこで、第1材料および第2材料のうちの低い降伏伸度を有する材料によって、シャフトの周壁の全体的な剛性の低下を抑制することができる。すなわち、本発明によれば、シャフトの剛性の低下を抑制しつつ復元性を高めることができる。
さらに、本発明によれば、第2周壁部の内側領域が第1材料と第2材料との混合物から形成されている。この場合、第2周壁部の内側領域は、外側領域および第1周壁部に対して高い接合強度を有することとなり、第1材料と第2材料という異なる材料を含むシャフトの周壁に剥離が生じる虞を低減することができる。
【0013】
また、本発明は、前記シャフトは湾曲部を有し、前記湾曲部のコーナ内側部分のコーナ最内部は、前記第1周壁部と前記第2周壁部とのうちの高い降伏伸度を有する周壁部により形成されていることを特徴とする医療用器具である。
【0014】
医療用器具のシャフトが湾曲部を有している場合、医療用器具の使用や製造において、湾曲部が伸ばされるようにシャフトを大きく変形させることがある。このとき、湾曲部のコーナ内側部分には引張ひずみが生じ、コーナ外側部分には圧縮ひずみが生じる。さらに、コーナ内側部分のうちでもコーナ最内部はもっとも引張ひずみが大きくなる箇所である。そこで本発明では、コーナ内側部分のコーナ最内部は、高い降伏伸度を有する周壁部により形成されている。このため、引張ひずみが生じるコーナ内側部分が塑性変形することを抑制し、シャフトの復元性を高め、また、圧縮ひずみが生じるコーナ外側部分の剛性を高めて、ひいてはシャフトの剛性低下を抑制している。
【0015】
また、本発明は、前記コーナ内側部分は、前記湾曲部を直線状に変形させた状態で降伏しないように構成されていることを特徴とする医療用器具である。
【0016】
本発明によれば、医療用器具の使用や製造において湾曲部が直線状に伸ばされるようなことがあっても湾曲部が塑性変形せずに、もとの湾曲形状に復元させることができる。
【0017】
また本発明は、前記第1周壁部と前記第2周壁部とのうちの高い降伏伸度を有する周壁部は、前記湾曲部を伸ばすべく前記湾曲部に荷重を加えた場合に前記湾曲部において圧縮応力が生じる圧縮領域にはみ出さないようにして配置されていることを特徴とする医療用器具である。
【0018】
本発明によれば、高い降伏伸度を有する周壁部が、圧縮領域にはみ出さないように、引張領域のみに配置されるようになっている。すなわち、剛性の低い周壁部を引張領域にのみ配置し、圧縮領域には配置しないことによってシャフトの剛性の低下を更に抑制することができる。
【0023】
また本発明は、前記シャフトは、前記周壁よりも内側に設けられた内側層と、該内側層と前記周壁との間に設けられた補強層とを有することを特徴とする医療用器具である。
本発明によれば、補強層によりシャフトの剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態のカテーテルの平面図。
図2】(a)カテーテルの一部拡大図、(b)カテーテルの第2湾曲部の断面図。
図3】(a)カテーテルの製造に使用されるチューブの平面図、(b)チューブの断面図。
図4】(a)〜(c)カテーテルの形状付け方法を説明するための図。
図5】カテーテルの使用方法を説明するための図。
図6】(a)他の実施形態のカテーテルの平面図、(b)カテーテルの断面図。
図7】(a)〜(g)他の実施形態のカテーテルの断面図。
図8】(a)〜(d)他の実施形態のカテーテルの一部平面図。
図9】(a)〜(d)他の実施形態のガイドワイヤの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1の実施形態〕
以下、冠動脈用のガイディングカテーテルに本発明を適用した場合の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、一実施形態のガイディングカテーテル10の平面図である。図2(a)は、ガイディングカテーテル10の一部拡大図であり、(b)はガイディングカテーテル10の第2湾曲部の断面図である。
【0026】
ガイディングカテーテル10(以下、カテーテル10という)は、体内に挿入される医療用器具であって、図1および図2(b)に示すように全体として断面円環状の管状をなしている。詳細には、カテーテル10は、基端に設けられたコネクタ11と、コネクタ11からカテーテル10の先端まで延びるシャフト12とを備える。シャフト12の外径は1〜3mmとすることができ、好ましくは、1.3〜2.5mmとすることができる。シャフト12の内径は、0.5mm〜2.8mmとすることができ、好ましくは、1.0〜2.1mmとすることができる。シャフト12の肉厚は、0.05〜0.5mmとすることができ、好ましくは、0.1〜0.2mmとすることができる。例えば、本実施形態では、シャフト12は、1.8mmの内径および2.1mmの外径を有する。
【0027】
シャフト12は、略直線状の基端側シャフト13と、所定の形状が付与された先端側シャフト14とを備える。基端側シャフト13は、先端側シャフト14に連なり、先端側シャフト14以上の剛性を有する。先端側シャフト14は、先端側に位置する第1部分14aと基端側に位置する第2部分14bとから構成されている。
【0028】
カテーテル10の基端には基端側開口16が形成され、カテーテル10の先端には先端側開口17が形成されている。基端側開口16と先端側開口17との間には図2(b)に示すようにシャフト12の軸線AXに沿って断面円形状のルーメン18が延在している。ルーメン18は、ガイドワイヤやバルーンカテーテル、造影剤などが通る通路として機能する。
【0029】
次いで、カテーテル10の先端側シャフト14の形状について説明する。本実施形態のカテーテル10は、ジャドキンス・レフト(Judkins Left)と呼ばれる形状を有している。図1に示すように、カテーテル10の自然状態において、先端側シャフト14は、略直線状の最先端部21と、最先端部21から延在する第1湾曲部22と、第1湾曲部22から延在する中間部23と、中間部23から延在する第2湾曲部24と、第2湾曲部24から延在し、基端側シャフト13に連なる略直線部25とを備える。最先端部21と第1湾曲部22とが先端側シャフト14の第1部分14aを形成し、中間部23と第2湾曲部24と略直線部25とが先端側シャフト14の第2部分14bを形成している。 なお、自然状態とは、カテーテル10が体外にあり、他から力を受けていない状態のことである。
【0030】
略直線部25は、基端側シャフト13と同一直線状に延びている。第1湾曲部22と第2湾曲部24とは同じ方向に湾曲している。中間部23は、第1湾曲部22および第2湾曲部24と同じ方向にわずかに湾曲している。中間部23は、略直線部25と略平行になっている。
【0031】
次に、シャフト12の構成材料などを説明する。図2(a)に示すように、シャフト12は、複数の線材31aからなる補強層31を備えている。詳細には、図2(b)に示すように、シャフト12は、その先端から基端にかけて略円形の断面形状を有し、複数の層から形成され、内側層32と、周壁としての外側層33と、内側層32と外側層33との間に設けられた補強層31とを有する。補強層31は、シャフト12の剛性を高めるためのものであり、例えば、複数の線材31aを編み込むことにより形成された編組とすることができる。このような編組の線材31aとしては、ステンレス鋼などの金属から形成された平角線または丸線を用いることができる。
【0032】
内側層32および外側層33は合成樹脂から形成することができる。内側層32は、低摩擦材料から形成されており、これによりルーメン18内においてガイドワイヤやバルーンカテーテルなどを摺動させる際の抵抗を低減させている。内側層32の形成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂を用いることができる。
【0033】
内側層32および補強層31の各々は、シャフト12の各部において、すなわち、基端側シャフト13と第1部分14aと第2部分14bとにおいて同じ材料で形成されている。一方、外側層33は、基端側シャフト13と第1部分14aと第2部分14bとでは、異なる材料から形成されている。すなわち、外側層33は、第1部分14aに設けられた第1外側層と、第2部分14bに設けられた第2外側層と、基端側シャフト13に設けられた第3外側層とを有する。
【0034】
更に、第2部分14bの外側層33である第2外側層については、シャフト12の軸線AXに対する所定の側PSとその反対側OSとでは異なる構成となっている。具体的には、第2外側層は、第2外側層のうちの周方向の一部を形成する第1周壁部34と、第2外側層のうちの第1周壁部34以外の残余の部分を形成する第2周壁部35とを有する。より詳細には、第1周壁部34が第2外側層のうちの周方向の半分を形成し、第2周壁部35が第2外側層のうちの周方向の残余の半分を形成している。すなわち、第2外側層において、第1周壁部34は、軸線AXよりも所定の側PSを形成し、第2周壁部は、軸線AXよりも反対側OSを形成している。本実施形態では、第1周壁部34は、第2外側層のうちの、第2湾曲部24におけるコーナ内側部分34I(曲がりの内側に位置する部分)と、中間部23うちのコーナ内側部分34Iに連なる側の部分と、略直線部25のうちのコーナ内側部分34Iに連なる側の部分とから形成されている。一方、第2周壁部35は、第2外側層のうちの、第2湾曲部24におけるコーナ外側部分35O(曲がりの外側に位置する部分)と、中間部23のうちのコーナ外側部分35Oに連なる側の部分と、略直線部25のうちのコーナ外側部分35Oに連なる側の部分とにより形成されている。
【0035】
第1外側層は、第2外側層および第3外側層よりも柔軟な材料から形成されている。第2外側層については、第1周壁部34は、第1降伏伸度を有する第1材料から形成されている。一方、第2周壁部35は、第1材料と、第1降伏伸度とは異なる第2降伏伸度を有する第2材料とを含む。本実施形態では、第1降伏伸度は第2降伏伸度よりも高い。すなわち、第1材料は第2材料よりも高い降伏伸度を有しており、第1材料を高降伏伸度材料と呼び、第2材料を低降伏伸度材料と呼ぶこともできる。ここで、降伏伸度とは、ある材料が降伏した時の伸びを表し、降伏点伸びとも呼ばれるものである。高い降伏伸度を有する材料は、大きく変形しても降伏しにくく形状の復元性が高いが、一般的に低い剛性を有している。なお、剛性とは、具体的には「曲げこわさ(曲げモーメント)」のことをいい、ヤング率(縦弾性係数)と断面二次モーメントとの積に比例する値のことをいう。例えば、第1材料(高降伏伸度材料)の第1降伏伸を10%以上かつ100%以下とし、第2材料(低降伏伸度材料)の第2降伏伸度を1%以上か50%以下としてもよい。より好ましくは、第1降伏伸度を30%以上かつ80%以下とし、第2降伏伸度を5%以上かつ30%未満としてもよい。或いは、(第1降伏伸度/第2降伏伸度)の値を1.05以上としてもよく、より好ましくは、1.1以上かつ10以下としてもよい。
【0036】
第1周壁部34は、その全体が第1材料から形成されている。すなわち、第1周壁部34は、第1材料から形成された内側領域34aと、同じく第1材料から形成された外側領域34bとを有する。第2周壁部35は、第1材料と第2材料とを含む内側領域35aと、第2材料から形成された外側領域35bとを有する。具体的には、内側領域35aは第1材料と第2材料との混合物から形成されている。内側領域35aは第1材料を含んでおり、内側領域34a,35aは軸線AX周りの全周において第1材料を含んでいる。全体として、第1周壁部34は、第2周壁部35よりも高い降伏伸度を有しており、第2周壁部35は、第1周壁部34よりも高い剛性を有している。ここで、第1周壁部34及び第2周壁部35のうちの高い降伏伸度を有する第1周壁部34は、高降伏伸度周壁部HEと呼ぶこともできる。また、第1周壁部34及び第2周壁部35のうちの低い降伏伸度を有する第2周壁部35は、低降伏伸度周壁部LEと呼ぶこともできる。
【0037】
基端側シャフト13の外側層33である第3外側層は、第2外側層の全体的な剛性以上の剛性を有する材料から形成されている。すなわち、例えば、第2外側層の第1材料および第2材料の剛性が第3外側層の剛性以下であってもよい。あるいは、第2外側層の第2材料の剛性が第3外側層のより大きい場合であっても、第3外側層の剛性が、第1周壁部34および第2周壁部35を組み合わせた全体的な第2外側層の剛性以上となるようにすればよい。
【0038】
上記のように外側層33が構成されているため、シャフト12においては、第2部分14bは第1部分14aよりも高い剛性を有し、基端側シャフト13は第2部分14b以上の剛性を有する。すなわち、基端側シャフト13は先端側シャフト14以上の剛性を有する。最先端部21および第1湾曲部22は、中間部23、第2湾曲部24、略直線部25、および基端側シャフト13よりも高い柔軟性を有する。
【0039】
図1に示すように、最先端部21は、最先端部21の他の部分と比較して柔軟な保護チップ21aをその先端に備える。第1部分14aのうちの先端側のわずかな所定領域は、内側層32と補強層31とを備えておらず、第1外側層を構成する材料のみから形成され、それが保護チップ21aとなっている。そのため保護チップ21aは、最先端部21の他の部分と比較して柔軟になっており、非常に柔軟性が高いためカテーテル10の先端が血管に接触した際にも血管を損傷させる可能性が低減されている。
【0040】
このような硬度バランスを達成するために外側層33を構成する第1外側層、第2外側層、第3外側層のそれぞれを異なる種類の樹脂から形成してもよく、あるいは、複数の樹脂の混合物を用いて混合の割合を変えることにより硬度変更を達成してもよい。外側層33の形成材料としては、例えば、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリブチレンテレフタレート、またはこれらの混合物を用いることができる。なお、第1周壁部34および第2周壁部35を形成する第1材料および第2材料の各々は、単一の材料である必要はなく、例えば、第1材料または第2材料が複数種類の樹脂を混合した材料であってもよく、炭素繊維などを添加した材料であってもよい。
【0041】
次いで、シャフト12の第2湾曲部24が直線状に伸ばされる場合のひずみやそれに関連する第1周壁部34及び第2周壁部35の作用について説明する。第2湾曲部24をまっすぐに伸ばすように第2湾曲部24に荷重が加えられた場合には、第2湾曲部24において、所定の側PSとなるコーナ内側(曲がりの内側)では引張応力が発生し、反対側OSとなるコーナ外側(曲がりの外側)では圧縮応力が発生する。詳細には、第2湾曲部24においてシャフト12の軸線AXよりもコーナ内側の領域(以下、コーナ内側領域24Iという)では引張応力が生じ、軸線AXよりもコーナ外側の領域(以下、コーナ外側領域24Oという)では圧縮応力が生じる。この場合、コーナ内側領域24Iは、引張応力が生じて軸線AX方向へ伸び、引張ひずみが生じる引張領域となる。一方、コーナ外側領域24Oは、圧縮応力が生じて軸線AX方向へ縮み、圧縮ひずみが生じる圧縮領域となる。ここで、コーナ内側領域24Iは、第1周壁部34の一部であるコーナ内側部分34Iと補強層31の一部と内側層32の一部とを有している。コーナ外側領域24Oは、第2周壁部35の一部であるコーナ外側部分35Oと補強層31の一部と内側層32の一部とを有している。
【0042】
第2湾曲部24においてコーナ内側領域24Iとコーナ外側領域24Oとの境界面は応力の発生しない中立面となっている。コーナ内側領域24Iでは、引張応力と引張ひずみとはこの中立面からの距離に比例して大きくなり、コーナ外側領域24Oでは、圧縮応力と圧縮ひずみとは中立面からの距離に比例して大きくなる。なお、第1周壁部34と第2周壁部35との境界面も上記の中立面となっている。
【0043】
一般に、ある材料に引張ひずみが生じた場合と圧縮ひずみが生じた場合とでは、引張ひずみのほうが塑性変形(降伏)が生じやすい。より詳しくは、引張ひずみと圧縮ひずみとが同じ大きさである条件下での塑性変形の生じやすさを比較した場合、引張ひずみのほうが塑性変形(降伏)し易い。そのため、第2湾曲部24が伸ばされる際には、第2湾曲部24において最も大きな引張ひずみ(及び引張応力)が生じるコーナ内側のコーナ最内部、すなわち中立面から最も離れたコーナ内側の部位に塑性変形が生じることが考えられる。
【0044】
カテーテル10の自然状態において、第2湾曲部24のコーナ最内部の軸線AXに沿った長さD1を初期長さD1とする。ここで、第2湾曲部24が直線状になるまで伸ばされた場合には、コーナ最内部は、第2湾曲部24の軸線AXの長さD2(すなわち、中立面の軸線AX方向の長さ)と同じになるまで伸ばされることとなる。この場合、第2湾曲部24のコーナ最内部はD2−D1の長さ伸びることとなり、換言するとコーナ最内部に(D2−D1)/D1の引張ひずみが生じることとなる。以下、この引張ひずみを、すなわち第2湾曲部24において生じる最も大きな引張ひずみを最大引張ひずみMS(=(D2−D1)/D1)という。
【0045】
ここで、本実施形態では、コーナ最内部を含むコーナ内側部分34Iが第1材料の第1周壁部34から形成されている。第1材料は、第2周壁部35に含まれる第2材料よりも高い降伏伸度を有し、より詳しくは、最大引張ひずみMSが生じても降伏しない降伏伸度を有している。このため、第2湾曲部24を直線状に変形させた状態でも第1周壁部34、具体的には、コーナ内側部分34Iは降伏しない。また、第2湾曲部24を直線状に変形させた状態でも、補強層31および内側層32は降伏しない。すなわち、第2湾曲部24を直線状に変形させた状態でもコーナ内側領域24Iは降伏しないように構成されている。第2湾曲部24を直線状に変形させた状態でもコーナ内側部分34Iが降伏しないようにするために第1材料として様々なものを用いることができ、例えば、ポリブチレンテレフタレート(例、ノバデュラン)とポリエステルエラストマー(例、ハイトレル)とが混合された材料を第1材料として用いてもよい。
【0046】
一方、第2周壁部35は、第1材料よりも低い降伏伸度を有する第2材料を含んでいるが、第2湾曲部24を直線状に変形させた状態では、第2周壁部35に生じるひずみは圧縮ひずみであるため第2周壁部35は降伏しない。また、第2材料は第1材料よりも高い剛性を有しているため、第2周壁部35がシャフト12に必要な剛性を付与することとなる。さらに、第1周壁部34は圧縮領域にはみ出さないように配置されており、すなわち、第1周壁部34は引張領域にのみ配置されているため、この点からもシャフト12の剛性低下を抑制することができる。
【0047】
次に、カテーテル10の製造工程のうちの第1周壁部34及び第2周壁部35に関する工程について説明する。図3(a)は、カテーテル10の製造に使用されるチューブ40の平面図であり、(b)はチューブ40の断面図である。
【0048】
先端側シャフト14の第2部分14bの外側層33、すなわち第1周壁部34及び第2周壁部35を形成するために、図3(a),(b)に示す樹脂製のチューブ40を用いる。チューブ40は、断面円環状の管状をなしている。チューブ40の一端から他端にわたって断面円形状のルーメン41が延在している。チューブ40は、第2外側層よりもわずかに大きい内径および外径を有している。
【0049】
チューブ40は、周方向の一部を形成する第1壁部44と、第1壁部44のうちの残余の部分を形成する第2壁部45とを有する。具体的には、第1壁部44がチューブ40の周方向の半分を形成し、第2壁部45が残余の周方向の半分を形成している。この第1壁部44がカテーテル10の第1周壁部34に対応し、第2壁部45がカテーテル10の第2周壁部35に対応している。
【0050】
第1壁部44は第1材料から形成されている。第2壁部45は、第1材料と第2材料とを含む。具体的には、第1壁部44は、その全体が第1材料から形成されている。すなわち、第1壁部44は、第1材料から形成された内側領域44aと、同じく第1材料から形成された外側領域44bとを有する。第2壁部45は、第1材料から形成された内側領域45aと、第2材料から形成された外側領域45bとを有する。第2壁部45において、内側領域45aは、外側領域45bよりも厚みが小さくなっている。
【0051】
このようなチューブ40は、押出成形により製造することができる。例えば、第1材料および第2材料を同時に押出して一工程でチューブ40を製造してもよい。あるいは、第1材料を用いてチューブ40のうちの内側領域44a,45aのみを有する薄肉チューブを形成した後、その薄肉チューブの上に第1材料および第2材料を同時に押出すことにより外側領域44b,45bを形成して、チューブ40を製造してもよい。
【0052】
補強層31と内側層32との外側からチューブ40を被せ、チューブ40に対して熱溶着を行うことにより、第2外側層、すなわち第1周壁部34と第2周壁部35とを形成することができる。ここで、熱をかけることによりチューブ40において第1材料と第2材料とが溶融し、部分的に混合される。具体的には、第2壁部45の内側領域45aの第1材料と、第2壁部45の外側領域45bの第2材料とが混合される。この結果、第2壁部45の内側領域45aと外側領域45bとの境界とその境界の周辺において第1材料と第2材料との混合領域が形成されることとなる。
【0053】
ここで、チューブ40においては、第2壁部45の内側領域45aは、第2壁部45の外側領域45bよりも薄くなっている。このため、図2(b)に示すように熱溶着後は、第2周壁部35の内側領域35aは、第1材料と第2材料とが混合した領域となるとともに、第2壁部45の内側領域45aよりも肉厚となっている。また、第2周壁部35の外側領域35bは、第2材料から形成された領域であり、第2壁部45の外側領域45bよりも肉薄となっている。
【0054】
次に、シャフト12に対して先端側シャフト14の形状付けを行う工程について説明する。図4(a)〜(c)は、カテーテル10の形状付け方法を説明するための図である。この工程では、図4(a)に示すように、先端側シャフト14の内径と略同じ外径を有し、先端側シャフト14と略同じ形状を有する金属製の芯材47を用いる。具体的には、芯材47は、基端側シャフト13および略直線部25に対応する直線状の基端側部分47aと、最先端部21から第2湾曲部24までに対応する湾曲形状の先端側部分47bとを有する。
【0055】
まずは、シャフト12のルーメン18に芯材47を挿通させながら芯材47に対してシャフト12を先端側に引っ張りながら移動させることで、シャフト12を芯材47の外周側に配置する。この場合、図4(b)に示すように、シャフト12が芯材47の基端側部分47aから先端側部分47bに亘るようにシャフト12を配置する。この際、先端側部分47bにおいては、シャフト12の第1周壁部34がコーナ内側(曲がりの内側)、第2周壁部35がコーナ外側(曲がりの外側)に位置するようにシャフト12の周方向の向きを調節して配置する。
【0056】
次に、先端側シャフト14を所定の加熱条件で加熱することにより、先端側シャフト14に対して形状付けを行う。この場合、たとえば100〜300℃の温度条件下で数十秒〜数分間、先端側シャフト14を加熱する。これにより、先端側シャフト14に、最先端部21から第2湾曲部24までの形状を付与することができる。
【0057】
その後、図4(c)に示すように、シャフト12を芯材47に対して基端側に引っ張りながら移動させることにより、シャフト12を芯材47から取り外す。この場合、第2湾曲部24が芯材47の基端側部分47aを通過するため、その際、第2湾曲部24が直線状に、すなわち第2湾曲部24の曲がり側とは逆側に伸ばされることとなる。そのため、第2湾曲部24に塑性変形が生じることが懸念される。その点、本実施形態では上述したように、第2湾曲部24が伸ばされた際に第2湾曲部24において引張応力がコーナ内側領域24Iに生じるが、そのコーナ内側領域24Iのうちの外側層33であるコーナ内側部分34Iが高い降伏伸度を有する第1周壁部34から形成されている。このため、コーナ内側部分34Iに塑性変形が生じるのを抑制でき、ひいては第2湾曲部24に塑性変形が生じるのを抑制できる。具体的には、第1周壁部34では、最大引張ひずみMSが生じても降伏しない降伏伸度を有する第1材料が用いられているため、第2湾曲部24がまっすぐに伸ばされた場合でも第2湾曲部24に塑性変形が生じるのを防止できる。よって、シャフト12を芯材47から取り外した後、第2湾曲部24が元通りの湾曲形状に復元する。また、第1湾曲部22は、第2湾曲部24よりも湾曲の程度が小さく、また、第1湾曲部22の第1外側層は、第2湾曲部24の第2外側層よりも柔軟な材料から形成されているため、第1湾曲部22は、まっすぐに伸ばされた場合でも元通りの形状に復元する。これをもって、先端側シャフト14の形状付けが完了する。
【0058】
次に、カテーテル10の使用方法について説明する。図5はカテーテル10の使用方法を説明するための図である。
【0059】
まず、大腿動脈にカテーテルイントロデューサ(以下、イントロデューサという)を挿入し、次いでカテーテル10をイントロデューサに挿入する。このとき、カテーテル10の最先端部21から順にイントロデューサに挿入していくが、第2湾曲部24は伸ばされながらイントロデューサに挿入される。また、血管の中においても第2湾曲部24は伸ばされた状態となる。
【0060】
ここで、上述したように、先端側シャフト14の第2部分14bは、第2湾曲部24の塑性変形を抑制すべく高い降伏伸度を有する第1周壁部34を有している。このため、第2湾曲部24がまっすぐに伸ばされても塑性変形することなく、復元性が高められている。
【0061】
そのまま、下行大動脈DA、上行大動脈AAを経て左冠動脈LAまでカテーテル10を挿入していく。このとき、必要に応じてガイドワイヤを使用してもよい。そして、図5に示すように、カテーテル10の最先端部21を左冠動脈LAに係合させる。このカテーテル10の留置状態では、第2湾曲部24は自然状態よりも伸ばされた状態となっており、最先端部21が第2湾曲部24の復帰弾性力によって左冠動脈LAに向かって押し付けられた状態となる。ここで、カテーテル10では、第2湾曲部24の復元性が高められているため、第2湾曲部24が伸ばされた状態で血管内を通過した後も、第2湾曲部24の復帰弾性力が低下することはない。そのため、左冠動脈LAへの最先端部21の左冠動脈LAへの挿入と押し付け状態とを良好なものとすることができる。すなわち、良好なバックアップ性が得られるようになっている。また、先端側シャフト14の第2部分14bは、低い降伏伸度を有する第2周壁部35を有しているため、第2湾曲部24の剛性低下が抑制されており、この点からも良好なバックアップ性が得られるものとなっている。
【0062】
その後、カテーテル10のルーメン18を通してPTCA用ガイドワイヤを左冠動脈LAに挿入し、そのガイドワイヤに沿わせてバルーンカテーテル等の治療用カテーテルを左冠動脈LAの病変部まで到達させ、治療を行う。
【0063】
バックアップ性について以下に説明する。左冠動脈LA内においてバルーンカテーテル等を押し進めるために、そのバルーンカテーテル等が強い力で押し込まれることがある。このとき、バルーンカテーテル等には、左冠動脈LAの末梢側方向に向かう力が作用し、その反作用としてカテーテル10には、左冠動脈LAから対向する上行大動脈AAの壁の方向に向かった力が働く。すなわち、カテーテル10は、その反作用を受けながらその反作用に抗してバルーンカテーテル等が左冠動脈LAの末梢側に進むのを支えることとなる。このようにカテーテル10が、バルーンカテーテル等がカテーテル10から血管の奥へと進めるように、バルーンカテーテル等を支える性能をバックアップ性という。
【0064】
なお、カテーテル10は大腿動脈に限らず他の血管から体内に挿入することもでき、例えば、カテーテル10を橈骨動脈から体内に挿入してもよい。
【0065】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
体内に挿入されるカテーテル10は、周壁としての外側層33を有するシャフト12を備える。外側層33は、第1降伏伸度を有する第1材料で形成され、外側層33のうちの周方向の一部を形成する第1周壁部34と、第1材料と、第1降伏伸度とは異なる第2降伏伸度を有する第2材料とを含み、外側層33のうちの第1周壁部34以外の残余の部分を形成する第2周壁部35と、を有する。シャフト12に曲げ伸ばし等の変形が生じる場合、シャフト12の一方の側では引張ひずみが生じ、その反対側では圧縮ひずみが生じる。一般に、ある材料に引張ひずみが生じた場合と圧縮ひずみが生じた場合とでは、引張ひずみが生じた場合のほうが塑性変形、すなわち降伏が生じ易い。そこでこの構成では、シャフト12の外側層33において、第1周壁部34は第1降伏伸度を有する第1材料から形成され、第2周壁部35は、第1材料と第2降伏伸度を有する第2材料とを含む。この場合、第1周壁部34と第2周壁部35とは異なる降伏伸度を有する。シャフト12、具体的には先端側シャフト14の第2部分14bが変形して、第1周壁部34および第2周壁部35のうちの高い降伏伸度を有する高降伏伸度周壁部HE(本実施形態では、第1周壁部34)に引張ひずみが生じても、その変形した部分に塑性変形が生じることを抑制することができる。従って、シャフト12の復元性を高めることができる。
【0066】
また、一般的に、低い降伏伸度を有する材料は高い降伏伸度を有する材料よりも剛性が高い。そこで、第1材料および第2材料のうちの低い降伏伸度を有する材料によって、シャフト12の外側層33の全体的な剛性の低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態によれば、シャフト12の剛性の低下を抑制しつつ復元性を高めることができる。
【0067】
シャフト12は第2湾曲部24を有し、第2湾曲部24のコーナ内側部分34Iのコーナ最内部は、第1周壁部34と第2周壁部35のうちの高い降伏伸度を有する高降伏伸度周壁部HE(本実施形態では、第1周壁部34)により形成されている。カテーテル10のシャフト12が第2湾曲部24を有しており、カテーテル10の使用や製造において、第2湾曲部24が伸ばされるようにシャフト12を大きく変形させることがある。このとき、第2湾曲部24のコーナ内側部分34Iには引張ひずみが生じ、コーナ外側部分35Oには圧縮ひずみが生じる。さらに、コーナ内側部分34Iのうちでもコーナ最内部はもっとも引張ひずみが大きくなる箇所である。そこで本実施形態では、コーナ内側部分34Iのコーナ最内部は、高い降伏伸度を有する第1周壁部34により形成されている。このため、引張ひずみが生じるコーナ内側部分34Iが塑性変形することを抑制し、シャフト12の復元性を高め、また、圧縮ひずみが生じるコーナ外側部分35Oの剛性を高めて、ひいてはシャフト12の剛性低下を抑制している。
【0068】
コーナ内側部分34Iは、第2湾曲部24を直線状に変形させた状態で降伏しないように構成されている。この場合、カテーテル10の使用や製造において第2湾曲部24が直線状に伸ばされるようなことがあっても第2湾曲部24が塑性変形せずに、もとの湾曲形状に復元させることができる。
【0069】
第1周壁部34と第2周壁部35のうちの高い降伏伸度を有する第1周壁部34は、第2湾曲部24を伸ばすべく第2湾曲部24に荷重を加えた場合に第2湾曲部24において圧縮応力が生じる圧縮領域にはみ出さないようにして配置されている。すなわち、剛性の低い第1周壁部34を引張領域にのみ配置し、圧縮領域には配置しないことによってシャフト12の剛性の低下を更に抑制することができる。
【0070】
第2周壁部35は、第1材料と第2材料との混合物から形成された内側領域35aと、第2材料から形成された外側領域35bと、を有する。この場合、第2周壁部35の内側領域35aは、外側領域35bおよび第1周壁部34に対して高い接合強度を有することとなり、第1材料と第2材料という異なる材料を含むシャフト12の周壁である外側層33に剥離が生じる虞を低減することができる。
【0071】
シャフト12は、外側層33よりも内側に設けられた内側層32と、該内側層32と外側層33との間に設けられた補強層31とを有する。この場合、補強層31によりシャフト12の剛性を高めることができる。
【0072】
第2湾曲部24において、第1周壁部34と第2周壁部35との境界面を中立面とした。中立面では第2湾曲部24が伸ばされた場合に応力が発生しないため、第1周壁部34と第2周壁部35との境界面に大きなせん断力が発生するのを抑制できる。これにより、第1周壁部34と第2周壁部35に剥離などが生じる虞を低減することができる。
【0073】
第1周壁部34は第2外側層の周方向の半分を形成し、第2周壁部35は第2外側層の周方向の残余の半分を形成している。そして、第1周壁部34は第1材料から形成され、第2周壁部35は第1材料と第2材料とを含む。すなわち、第2部分14bの外側層33は、第2材料よりも第1材料を多く含んでいる。そのため、第2部分14bの復元性、ひいては第2湾曲部24の復元性をより高めることができる。
【0074】
〔第2の実施形態〕
以下、造影用カテーテルに本発明を適用した場合の一実施形態を図面に基づいて説明する。図6(a)は、本実施形態における造影用カテーテル50の平面図であり、図6(b)はカテーテル50の断面図である。なお、第1の実施形態と同様の点については、適宜説明を省略する。
【0075】
造影用カテーテル50(以下、カテーテル50という)は、造影剤を冠動脈に注入するための医療用器具である。図6(a)に示すように、カテーテル50は、コネクタ11とシャフト52とを有する。カテーテル50の基端には基端側開口16が形成され、カテーテル50の先端には先端側開口17が形成されている。基端側開口16と先端側開口17との間に造影剤が通るルーメン18が形成されている。
【0076】
シャフト52は、第1の実施形態のシャフト12と同様の形状を有している。シャフト52は、略直線状の基端側シャフト53と、所定の形状が付与された先端側シャフト54とを備える。先端側シャフト54は、略直線状の最先端部61と、最先端部61から延在する第1湾曲部62と、第1湾曲部62から延在する中間部63と、中間部63から延在する第2湾曲部64と、第2湾曲部64から延在し、基端側シャフト53に連なる略直線部65とを備える。
【0077】
シャフト52は、第1の実施形態のシャフト12とは異なる材料構成となっている。シャフト52は、合成樹脂から形成された管状の周壁55から形成されており、第1の実施形態のような補強層31や内側層32を有していない。周壁55は、基端側シャフト53と先端側シャフト54とでは異なる材料から形成されている。先端側シャフト54においては、先端側シャフト54の軸線AXに対する所定の側PSとその反対側OSとでは異なる構成となっている。具体的には、先端側シャフト54の周壁55は、周壁55のうちの周方向の一部を形成する第1周壁部74と、周壁55のうちの第1周壁部74以外の残余の部分を形成する第2周壁部75とを有する。より詳細には、第1周壁部74が周壁55のうちの周方向の半分を形成し、第2周壁部75が周壁55のうちの周方向の残余の半分を形成している。第1周壁部74は、コーナ外側部分74Oと、第1湾曲部62および中間部63のうちのコーナ外側部分74Oに連なる側の部分と、略直線部65のうちのコーナ外側部分74Oに連なる側の部分とから形成されている。一方、第2周壁部75は、コーナ内側部分75Iと、第1湾曲部62および中間部63のうちのコーナ内側部分75Iに連なる側の部分と、略直線部65のうちのコーナ内側部分75Iに連なる側の部分とにより形成されている。
【0078】
最先端部61は、第1周壁部74および第2周壁部75とは異なる材料から形成されている。詳細には、最先端部61は、第1周壁部74、第2周壁部75および基端側シャフト53よりも柔軟な材料から形成されている。
【0079】
第1周壁部74は、第1降伏伸度を有する第1材料から形成されている。一方、第2周壁部75は、第1材料と、第1降伏伸度とは異なる第2降伏伸度を有する第2材料とを含む。第2降伏伸度は第1降伏伸度よりも高い。すなわち、第2材料は第1材料よりも高い降伏伸度を有している。
【0080】
第1周壁部74は、その全体が第1材料から形成されている。すなわち、第1周壁部74は、第1材料から形成された内側領域74aと、同じく第1材料から形成された外側領域74bとを有する。第2周壁部75は、第1材料から形成された内側領域75aと、第2材料から形成された外側領域75bとを有する。従って、全体として、第1周壁部74は、第2周壁部75よりも高い剛性を有しており、第2周壁部75は、第1周壁部74よりも高い降伏伸度を有している。すなわち、第1周壁部74は低降伏伸度周壁部LEとなっており、第2周壁部75は高降伏伸度周壁部HEとなっている。
【0081】
基端側シャフト53は、先端側シャフト54の全体的な剛性以上の剛性を有する材料から形成されている。シャフト52の周壁55を構成する材料としては、第1の実施形態と同様の合成樹脂を用いることができる。
【0082】
第2湾曲部64をまっすぐに伸ばすように第2湾曲部64に荷重が加えられた場合には、コーナ内側部分75Iには引張応力が生じて伸びる。ここで、コーナ内側部分75Iのうちのコーナ最内部は、第2周壁部75の外側領域75bから形成されている。この外側領域75bは、最大引張ひずみMSが生じても降伏しない降伏伸度を有している第2材料から形成されているため降伏しない。
【0083】
一方、コーナ内側部分75Iのうちの、第2周壁部75の内側領域75aは第2材料よりも低い降伏伸度を有する第1材料から形成されている。しかしながら、この内側領域75aは外側領域75bよりも中立面に近く、内側領域75aに生じる引張ひずみは外側領域75bよりも小さい。また、内側領域75aは、シャフト52の周壁55の厚み方向(シャフト52の径方向)の全部ではなく一部のみを形成しており、比較的薄い。一般的に、同一材料においては、同程度の引張ひずみが生じた場合でも、厚く形成されたものよりも薄く形成されたもののほうが降伏しにくい。これらのことから、第2湾曲部64が伸ばされた場合であっても、第2周壁部75の内側領域75aは降伏しないようになっている。すなわち、第2湾曲部64をまっすぐに伸ばすように第2湾曲部64に荷重が加えられた場合であっても、コーナ内側部分75I、すなわち第2周壁部75は塑性変形しないようになっている。
【0084】
カテーテル50の第1周壁部74及び第2周壁部75を形成するためには、図6(b)の断面構成を有するチューブを用いればよい。このようなチューブを基端側シャフト53に接合することで第1周壁部74及び第2周壁部75を形成することができる。
【0085】
以上、詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。なお、第1の実施形態と同様の効果については説明を省略する。
【0086】
第1周壁部74は周壁55の周方向の半分を形成し、第2周壁部75は周壁55の周方向の残余の半分を形成している。そして、第1周壁部74は第1材料から形成され、第2周壁部75は第1材料と第2材料とを含む。すなわち、先端側シャフト54の周壁55は、第2材料よりも第1材料を多く含んでいる。そのため、先端側シャフト54の剛性、ひいては第2湾曲部64の剛性の低下を更に抑制することができる。
【0087】
第1湾曲部62が第1周壁部74と第2周壁部75とを有する。この場合、第1湾曲部62が、まっすぐに伸ばされ、更にはその伸ばされた方向にそのまま曲げられた場合であっても、第1湾曲部62は塑性変形することなく、もとの形状まで復元することができる。
【0088】
〔他の実施形態〕
(1)第1の実施形態では、第2周壁部35は、第1材料と第2材料との混合物から形成された内側領域35aと、第2材料から形成された外側領域35bと有していた。ここで、第1の実施形態において、補強層31と内側層32とにチューブ40を熱溶着する際の条件を変更することにより、第2周壁部35の全体を第1材料と第2材料との混合物から形成するようにしてもよい。すなわち、第2周壁部35の内側領域35aおよび外側領域35bが第1材料と第2材料との混合物から形成されてもよい。この場合でも、2周壁部35は、第1周壁部34に対して比較的高い接合強度を有することとなり、第1材料と第2材料という異なる材料を含む外側層33に剥離が生じる虞を低減することができる。
【0089】
(2)第1の実施形態では、チューブ40を用いて第2外側層を形成していた。これを変更して、第1の実施形態のカテーテル10において、第2の実施形態の先端側シャフト54を形成するためのチューブを用いて第2外側層を形成してもよい。この場合、第2材料は第1材料よりも高い降伏伸度を有している。カテーテル10のシャフトの第2外側層は第1材料から形成された第1周壁部をコーナ外側部分として有する。また、第2外側層は、第1材料と第2材料との混合物からなる内側領域と、第2材料から形成された外側領域とを有する第2周壁部をコーナ内側部分として有する。そして、これら周壁部の内側に補強層31と内側層32とが設けられている状態となっている。
【0090】
また、第2の実施形態のカテーテル50において、第1の実施形態のチューブ40を用いて先端側シャフトを形成してもよい。この場合、第1材料は第2材料よりも高い降伏伸度を有している。カテーテル50の先端側シャフトは第1材料から形成された第1周壁部をコーナ内側部分として有する。また、第2外側層は、第1材料から形成された内側領域と、第2材料から形成された外側領域とを有する第2周壁部をコーナ外側部分として有する。
【0091】
第1材料と第2材料とのうち、高い降伏伸度を有する材料を高降伏伸度材料とし、低い降伏伸度を有する材料を低降伏伸度材料とする。シャフト(周壁)の構成材料の量に関して高降伏伸度材料と低降伏伸度材料との合計に対する高降伏伸度材料の割合は、コーナ内側部分のほうがコーナ外側部分よりも大きければよい。より詳細には、コーナ内側部分は、高降伏伸度材料を低降伏伸度材料よりも多く含み、コーナ外側部分は、低降伏伸度材料を高降伏伸度材料よりも多く含んでいればよい。
【0092】
(3)上記実施形態を変更して、第2湾曲部24,64のみが第1周壁部34,74及び第2周壁部35,75を有するようにしてもよい。この場合、先端側シャフト14,54における第2湾曲部24,64以外の部分を周方向において単一の材料で形成すればよい。例えば、略直線部25,65を第1材料及び第2材料のうちの高い剛性を有する材料を用いて形成することにより、先端側シャフト14,54の剛性を高めることができる。すなわち、外側層33又は周壁55の軸線AX方向の少なくとも一部が第1周壁部34,74及び第2周壁部35,75を有していればよい。なお、第1の実施形態の外側層33の全体又は第2の実施形態の周壁55の全体が第1周壁部34,74及び第2周壁部35,75を有していてもよい。
【0093】
(4)上記実施形態では、第2湾曲部24,64を直線状に変形させた状態でもコーナ内側部分34I,75Iは降伏しないように構成されていた。これに限らず、第2湾曲部24,64を直線状に変形させた状態でコーナ内側部分34I,75Iが降伏するような構成であってもよい。この場合でも、コーナ内側部分34I,75Iを高降伏伸度周壁部HEから形成することにより、降伏の程度を低減すること、すなわち、降伏後の塑性変形を小さくすることができる。これにより、シャフトの復元性を高めることができる。
【0094】
(5)上記実施形態では、第1周壁部34,74と第2周壁部35,75とが軸線AXに直行する方向において軸線AXを基準として対称形状であった。これを変更して、第1周壁部と第2周壁部とをシャフトの軸線を基準として非対称形状としてもよい。すなわち、第1周壁部および第2周壁部の一方が周壁の周方向の半分より多くの部分を形成し、他方が周方向の残余の部分を形成してもよい。図7(a)〜(g)は、他の実施形態のカテーテルの断面図である。なお図7(a)〜(g)においては、ルーメン18の周りに位置する第1周壁部および第2周壁部について、便宜上、図3(b)や図6(b)のようなハッチングを省略している。
【0095】
例えば図7(a)では、第1周壁部81が、シャフトの周壁80のうちの周方向の半分より小さい部分を形成している。第2周壁部82は、周壁80のうちの周方向の半分より大きい部分を形成している。第1周壁部81は第1材料から形成されている。すなわち、第1周壁部は、第1材料から形成された内側領域81aと、同じく第1材料から形成された外側領域81bとを有する。第2周壁部82は、第1材料から形成された内側領域82aと、第2材料から形成された外側領域82bとを有する。ここで、第1周壁部81の側をカテーテル10,50の第2湾曲部24,64のコーナ内側(所定の側)としてもよい。この場合、第1材料を第2材料よりも高い降伏伸度を有するものとする。或いは、第2周壁部82の側をカテーテル10,50の第2湾曲部24,64のコーナ内側(所定の側)としてもよい。この場合、第2材料を第1材料よりも高い降伏伸度を有するものとする。この構成では、高降伏伸度周壁部である第2周壁部82は、湾曲部である第2湾曲部24,64を伸ばすべく第2湾曲部24,64に荷重を加えた場合に第2湾曲部24,64において圧縮応力が生じる圧縮領域にはみ出している。ここで、第2周壁部82(高伸度周壁部)は、周壁80のうちの周方向の3/4以下の部分を形成しているようにしてもよい。すなわち、第1周壁部81(低伸度周壁部)が、周壁80のうちの周方向の1/4より大きい部分を形成しているようにしてもよい。
【0096】
図7(b)に示すように、第1周壁部81が、シャフトの周壁80のうちの周方向の半分より大きい部分を形成し、第2周壁部82が、周壁80のうちの周方向の半分より小さい部分を形成してもよい。
【0097】
(6)上記実施形態では、周壁の外側領域において、第1周壁部と第2周壁部との境界は周壁の径方向に沿って設けられていた。これを変更して、例えば図7(c)に示すように、周壁80の外側領域81b,82bにおいて第1周壁部と第2周壁部との境界が周壁の径方向に対して傾斜していてもよい。
【0098】
(7)上記実施形態では、第2周壁部において内側領域が周壁の周方向において均一な厚みを有していたが、第2周壁部の内側領域の厚みが周方向において変わるようにしてもうよい。例えば図7(d)に示すように、第2周壁部82の内側領域82aが、第1周壁部81から離れるのにともなって薄くなるようにしてもよい。
【0099】
(8)上記実施形態では第2周壁部が内側領域と外側領域とから形成されていた。これを変更して、例えば図7(e)に示すように、第2周壁部82が、内側領域82aと外側領域82bとに加えて、中間領域82cを有していてもよい。或いは、図7(f)に示すように、第2周壁部82の外側領域82bの一部において追加領域82dが形成されてもよい。中間領域82c及び追加領域82dは、第1材料及び第2材料のいずれとも異なる降伏伸度を有する第3材料から形成することができる。或いは、中間領域82c及び追加領域82dは第1材料と第2材料との混合物から形成することもできる。
【0100】
(9)図7(g)に示すように、第2周壁部82の全体が、第1材料と第2材料との混合物から形成されてもよい。すなわち、第2周壁部82の内側領域82aと外側領域82bの両方が第1材料と第2材料との混合物から形成されてもよい。この場合でも、2周壁部は、第1周壁部に対して比較的高い接合強度を有することとなり、第1材料と第2材料という異なる材料を含むシャフトの周壁に剥離が生じる虞を低減することができる。
【0101】
(10)図7(a)〜(g)に示す断面構成を有するチューブを第1の実施形態の補強層31と内側層32の外側から被せて、チューブに対して熱溶着を行うことによりカテーテルに第1周壁部及び第2周壁部を形成してもよい。この場合、異なる材料間(例えば第1材料と第2材料の間)の境界とその境界の周辺では、その異なる材料が溶融し、混合される。この結果、その境界周辺において混合領域が形成されることとなる。
【0102】
(11)先端側シャフトの形状は任意である。図8(a)〜(d)は、他の実施形態のカテーテルの一部平面図である。例えば、図8(a),(b)に示すような形状であってもよい。図8(a)に示す先端側シャフト90は、直線状の最先端部91と湾曲部92と略直線部93とを有している。図8(b)に示す先端側シャフト95は、湾曲した最先端部96と湾曲部92と略直線部93とを有している。最先端部96は、湾曲部92とは反対方向に湾曲している。
【0103】
(12)第1周壁部および第2周壁部の配置状態は上記実施形態に限定されない。例えば、第1周壁部及び第2周壁部のうちの高い降伏伸度を有する周壁部(高降伏伸度周壁部HE)と、第1周壁部及び第2周壁部のうちの低い降伏伸度を有する周壁部(低降伏伸度周壁部LE)とが図8(a)に示すように配置されてもよい。最先端部91は、軸線AXと直交する方向に並ぶ高降伏伸度周壁部HE及び低降伏伸度周壁部LEを有している。湾曲部92のコーナ内側領域は高降伏伸度周壁部HEを有し、湾曲部92のコーナ外側領域は低降伏伸度周壁部LEを有している。最先端部91の高降伏伸度周壁部HEは、湾曲部92のコーナ外側領域の低降伏伸度周壁部LEと軸線AX方向に連続している。最先端部91の低降伏伸度周壁部LEは、湾曲部92のコーナ内側領域の高降伏伸度周壁部HEと軸線AX方向に連続している。なお、図8(a),(b)では便宜上、高降伏伸度周壁部HEにドットを付している。
【0104】
ここで、上述した先端側シャフト14の形状付け工程と同様にして先端側シャフト90の形状付け工程を行う場合について説明する。湾曲部92が形成された先端側シャフト90を芯材から基端側に引き抜く際には、最先端部91が芯材の湾曲した先端側部分を通過することとなる。このとき、最先端部91が先端側部分に沿って湾曲する。ここで、最先端部91の高降伏伸度周壁部HEが先端側部分の湾曲形状のコーナ外側に位置するが、高降伏伸度周壁部HEは高い降伏伸度を有しているため塑性変形が生じるのを抑制することができる。これにより先端側シャフト90の復元性を向上させることができる。
【0105】
(13)図8(b)に示すように、先端側シャフト95においては、最先端部96のコーナ内側領域は高降伏伸度周壁部HEを有し、最先端部96のコーナ外側領域は低降伏伸度周壁部LEを有している。最先端部96の高降伏伸度周壁部HEは、湾曲部92のコーナ外側領域の低降伏伸度周壁部LEと軸線AX方向に連続している。最先端部96の低降伏伸度周壁部LEは、湾曲部92のコーナ内側領域の高降伏伸度周壁部HEと軸線AX方向に連続している。
【0106】
上述した先端側シャフト14の形状付け工程と同様にして先端側シャフト95の形状付け工程を行う場合においても、湾曲部92及び湾曲した最先端部96が形成された先端側シャフト95を芯材から基端側に引き抜く必要がある。最先端部96は、湾曲部92に対応する芯材の先端側部分を通るとき、形状付けられた湾曲方向とは反対方向に湾曲させられ、最先端部96のコーナ内側領域に引張ひずみが生じる。ここで、最先端部96のコーナ内側領域は高降伏伸度周壁部HEを有しているため、塑性変形が生じるのを抑制できる。
【0107】
(14)上記実施形態では、周壁の横断面における第1周壁部と第2周壁部との分割比率を先端側シャフトの軸線AX方向の全域において一定とした。これを変更して、軸線AX方向に沿って第1周壁部と第2周壁部との分割比率を変化させてもよい。例えば、図8(c)に示すように、先端側シャフト100の横断面全体に占める高降伏伸度周壁部HEの比率を基端側から先端側に向かって段階的に大きくしていってもよい。この場合、先端側シャフト100の横断面全体に占める低降伏伸度周壁部LEの比率を基端側から先端側に向かって段階的に小さくなっていく。この構成では、先端側シャフト100において基端側から先端側に向かって剛性が小さくなるため、先端側シャフト100の耐キンク性が向上する。
【0108】
また、図8(d)に示すように、先端側シャフト105において、先端側シャフト105の横断面全体に占める高降伏伸度周壁部HEの比率を基端側から先端側に向かって連続的に大きくしていってもよい。この場合、先端側シャフト105において基端側から先端側に向かって滑らかに剛性が小さくなるため、より一層耐キンク性が向上する。
【0109】
(15)第1材料及び第2材料のうちの一方又は両方に造影材料としてタングステン等の金属粉末や、酸化ビスマス、硫酸バリウム等のセラミックス粉末を混ぜ合わせてもよい。樹脂材料に造影材料粉末を混ぜ合わせると、樹脂材料の弾性率が増大して降伏伸度の小さい材料を得ることができる。従って、このような方法によっても第1材料と第2材料との降伏伸度を異なるものとすることができる。また、第1材料と第2材料とが異なる量の粉末を含むことにより、それらの降伏伸度を異なるものとすることもできる。
【0110】
(16)上記実施形態では、カテーテルの湾曲部に第1周壁部34,74,81及び第2周壁部35,75,82が形成されていたが、カテーテルの湾曲部ではなく直線部にのみ第1周壁部及び第2周壁部を形成していもよい。例えば、ガイドワイヤを主血管から側枝に導くためのガイドワイヤ配置用カテーテル(以下、配置用カテーテルという)では、側枝に挿入されたガイドワイヤに沿って配置用カテーテルをその側枝に挿入していく場合がある。このとき、配置用カテーテルのシャフトの直線部は、主血管と側枝との分岐部で湾曲しながら側枝に挿入されていく。このとき、湾曲したシャフトのコーナ内側には圧縮ひずみが生じ、コーナ外側には引張ひずみが生じる。そのため、シャフトに第1周壁部及び第2周壁部を形成することにより、配置カテーテルのシャフトの剛性の低下を抑制しつつ、復元性を高めることができる。具体的には、シャフトが湾曲したときにコーナ内側となる側には、第1周壁部及び第2周壁部のうちの低降伏伸度周壁部LEを配置し、シャフトが湾曲したときにコーナ外側となる側には、第1周壁部及び第2周壁部のうちの高降伏伸度周壁部HEを配置すればよい。すなわち、シャフトの軸線に対して所定の側のほうが反対側よりも大きな引張ひずみが生じる可能性が高いカテーテルにおいて、シャフトの前記所定の側には高降伏伸度周壁部を形成し、前記反対側には低降伏伸度周壁部を形成すればよい。
【0111】
(17)上記実施形態では、円管状、すなわち中空状のシャフトに対して第1周壁部と第2周壁部とを設けたが、これを変更して、中実状のシャフトに対して第1周壁部と第2周壁部とを設けてもよい。例えば、先端部に湾曲部が形成されたガイドワイヤにおいて、その湾曲部に第1周壁部及び第2周壁部を形成してもよい。図9(a)〜(d)は、他の実施形態のガイドワイヤの断面図である。
【0112】
図9(a)に示すように、ガイドワイヤのシャフト110(周壁)が第1周壁部111と第2周壁部112とを有している。第1周壁部111は、第1材料から形成された内側領域111aと、同じく第1材料から形成された外側領域111bとを有する。第2周壁部112は、第1材料から形成された内側領域112aと、第2材料から形成された外側領域112bとを有する。第2材料は第1材料とは異なる降伏伸度を有しているため、第1周壁部111と第2周壁部112とは全体として互いに異なる降伏伸度を有する。シャフト110の湾曲部のコーナ内側部分を、第1周壁部111と第2周壁部112とのうちの高い降伏伸度を有する高降伏伸度周壁部HEにより形成する。シャフト110の周方向において、第2周壁部112は、第1周壁部111よりも大きな割合を占めている。或いは、図9(b)に示すように、シャフト110の周方向において、第1周壁部111が第2周壁部112よりも大きな割合を占めるようにしてもよい。
【0113】
図9(c)に示すように、シャフト110の第2周壁部112の内側領域112aと外側領域112bとは、周方向において変化する厚みを有するように形成されていてもよい。このとき、シャフト110の横断面において、内側領域112aと外側領域112bとの境界は直線状となっている。
【0114】
図9(d)に示すように、シャフト110が、第1材料から形成された第1周壁部111と、第1材料と第2材料との混合物から形成された第2周壁部112とを有していてもよい。第1周壁部111及び第2周壁部112の各々は、半円形の断面を有しており、シャフト110の半分ずつを形成している。
【0115】
(18)本発明が適用される医療用器具のシャフトの横断面形状は、円形状でなくてもよく、四角形状や六角形状等の多角形状やその他の形状を有するものでもよい。
〔本明細書の開示範囲から抽出される他の発明について〕
【0116】
以下に、本明細書の開示範囲において課題を解決する手段に記載した発明以外に抽出可能な発明について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。
【0117】
(付記1)
体内に挿入される医療用器具であって、
湾曲部を有するシャフトを備え、
前記湾曲部において、そのコーナ内側となるとともにコーナ最内部を含むコーナ内側部分とそれよりもコーナ外側となるコーナ外側部分とを有し、
前記湾曲部は、第1材料と第2材料とを含み、
第1材料と第2材料とのうちの一方の材料は他方の材料よりも高い降伏伸度を有する高降伏伸度材料であり、該他方の材料は低降伏伸度材料であり、
構成材料の量に関して前記高降伏伸度材料と前記低降伏伸度材料との合計に対する前記高降伏伸度材料の割合は、前記コーナ内側部分のほうが前記コーナ外側部分よりも大きいことを特徴とする医療器具。
【0118】
医療用器具のシャフトが湾曲部を有している場合、医療用器具の使用や製造において、湾曲部が伸ばされるようにシャフトを大きく変形させることがある。このとき、湾曲部のコーナ内側部分には引張ひずみが生じ、コーナ外側部分には圧縮ひずみが生じる。さらに、コーナ内側部分のうちでも最内部はもっとも引張ひずみが大きくなる箇所である。そこで本発明では、前記高降伏伸度材料と前記低降伏伸度材料との合計に対する前記高降伏伸度材料の割合は、コーナ内側部分のほうがコーナ外側部分よりも大きくした。このため、コーナ内側部分は、コーナ外側部分よりも高い降伏伸度を有し、引張ひずみが生じた場合であっても塑性変形することが抑制され、復元性を高めることができる。また、一般的に、高い降伏伸度を有する材料は低い降伏伸度を有する材料よりも剛性が低い。そのため、コーナ外側部分は、コーナ内側部分よりも高い剛性を有し、ひいてはシャフトの剛性低下を抑制することができる。
【0119】
(付記2)
前記コーナ内側部分は、高降伏伸度材料を低降伏伸度材料よりも多く含み、前記コーナ外側部分は、低降伏伸度材料を高降伏伸度材料よりも多く含むことを特徴とする付記1に記載の医療用器具。
【0120】
この場合、コーナ内側部分の降伏伸度が更に高くなり、また、コーナ外側部分の剛性が更に高くなる。従って、シャフトの復元性を更に高めるとととに、シャフトの剛性低下を一層抑制することができる。
【符号の説明】
【0121】
10…医療用器具としてのガイディングカテーテル、12,52…シャフト、24,64…第2湾曲部、31…補強層、32…内側層、33…周壁としての外側層、34,74,81,111…第1周壁部、34I,75I…コーナ内側部分、35,75,82,112…第2周壁部、50…医療用器具としての造影カテーテル、55,80…周壁、110…周壁としてのシャフト。
図1
図2
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