(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147089
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】クロロプレンゴム組成物、加硫成形体及び防振ゴム
(51)【国際特許分類】
C08L 11/00 20060101AFI20170607BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20170607BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20170607BHJP
C08L 15/02 20060101ALI20170607BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20170607BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
C08L11/00
C08K3/04
C08K3/22
C08L15/02
C08K9/02
F16F15/08 D
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-110563(P2013-110563)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-227532(P2014-227532A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北原 慧二
(72)【発明者】
【氏名】石黒 博行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 靖
【審査官】
大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/124442(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/015043(WO,A1)
【文献】
特開2001−131341(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/035109(WO,A1)
【文献】
特開2010−037435(JP,A)
【文献】
特開2010−184992(JP,A)
【文献】
特開平02−034645(JP,A)
【文献】
特開平11−323020(JP,A)
【文献】
特開2001−316525(JP,A)
【文献】
特開2007−231104(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/078700(WO,A1)
【文献】
特開平11−269309(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0344269(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0209644(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0200141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
F16F 15/00 − 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴム100質量部と、平均粒子径が0.05μm以上0.35μm以下、粒子径の範囲が0.01μm以上、1.0μm以下であり、かつ比表面積が10m2/g以上150m2/g以下である活性亜鉛華0.1質量部以上10質量部以下と、平均粒子径70nm以上600nm以下、かつDBP吸油量が15ml/100g以上60ml/100g以下であるカーボンブラック15質量部以上200質量部以下を有するクロロプレンゴム組成物。
【請求項2】
クロロプレンゴムが、キサントゲン変性クロロプレンゴム60質量%以上100質量%以下、メルカプタン変性クロロプレンゴム0質量%以上40質量%以下を含むものである請求項1に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項3】
クロロプレンゴム100質量部に、フェノール系、アミン系、アクリレート系、カルバミン酸金属塩、及びワックスから選ばれる少なくとも1種の一次老化防止剤0.1質量部以上10質量部以下と、リン系、イオウ系、イミダゾール系から選ばれる少なくとも1種の二次老化防止剤0.1質量部以上10質量部以下と、亜鉛粉末0.1質量部以上10質量部以下を添加した請求項1または請求項2に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項4】
クロロプレンゴム100質量部に、可塑剤5質量部以上50質量部以下を添加した請求項1〜3のいずれか一項に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項5】
活性亜鉛華の蛍光X線分析装置を用いた定量分析による化学組成が、亜鉛を20質量%以上98質量%以下含むものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項6】
活性亜鉛華の蛍光X線分析装置を用いた定量分析による化学組成が、亜鉛を20質量%以上98質量%以下、カルシウムを1質量%以上30質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上30質量%以下含む化学組成のものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項7】
活性亜鉛華が、中心体とその表面の一部または全部を被覆した酸化亜鉛層からなる複合構造のものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項8】
活性亜鉛華の中心体が、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の無機塩からなる請求項7に記載のクロロプレンゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のクロロプレンゴム組成物を加硫成形して得られる加硫成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の加硫成形体を用いた防振ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンゴムと活性亜鉛華とカーボンブラックを有するクロロプレンゴム組成物に関する。さらに、このクロロプレンゴム組成物を加硫成形して得られる加硫成形体、及びこの加硫成形体を用いた防振ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは機械特性、耐候性、難燃性などの物性バランスに優れており、加工しやすいことから各種自動車用部品、ベルト、ホース、防振ゴムなどの工業用ゴム部品の原材料として広く使用されている。良好な機械特性、耐候性、難燃性といった特性を維持しつつ、工業用ゴム部品の耐オゾン性や耐熱性を向上させることは、技術の進展がある中でも絶えず求められている課題であり、例えば、その耐熱性を改善する方法としては、クロロプレンゴムに特定のカーボンブラックと亜鉛粉と特定の可塑剤を添加する方法(特許文献1)が開示されており、また機械特性や圧縮永久ひずみ、伸長疲労性を損なわず、耐熱性をさらに向上させた加硫ゴムが得られるクロロプレンゴム組成物やその加硫ゴム及びゴム部品(特許文献2)が開示されている。一方、防振ゴムの防振性能を向上させるため、ゴム成分と特定範囲の比表面積を有する微粒子亜鉛華とからなる防振ゴム組成物と防振ゴム(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−60581号公報
【特許文献2】国際公開第2009/35109号パンフレット
【特許文献3】特開2006−193621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、防振ゴム特性、デュロメータ硬さや破断伸びで示される機械特性を損なわず、耐熱性をさらに向上させた加硫成形体となるクロロプレンゴム組成物、該組成物の加硫成形体及びその防振ゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
係る課題を解決するためにクロロプレンゴムに配合する加硫剤の種類やその粒子径とその配合割合、カーボンブラックの粒子径とその配合割合を種々検討した結果、クロロプレンゴム組成物や該組成物の加硫成形体及びその防振ゴムの耐熱性を向上させるに到った。即ち本発明は、クロロプレンゴム100質量部と、平均粒子径が0.05μm以上0.35μm以下、粒子径の範囲が0.01μm以上1.0μm以下であり、かつ比表面積が10m
2/g以上150m
2/g以下である活性亜鉛華0.1質量部以上10質量部以下と、平均粒子径70nm以上600nm以下、かつフタル酸ジブチル吸油量が15ml/100g以上60ml/100g以下であるカーボンブラック15質量部以上200質量部以下を有するクロロプレンゴム組成物である。また、本発明は該クロロプレンゴム組成物を加硫成形して得た加硫成形体であり、またその加硫成形体よりなる防振ゴムである。なお本発明のクロロプレンゴムは、キサントゲン変性クロロプレンゴム60質量%以上100質量%以下、及びメルカプタン変性クロロプレンゴム0質量%以上40質量%以下を含むものとすることができる。また本発明のクロロプレンゴム組成物中に含まれるクロロプレンゴム100質量部に対し、フェノール系、アミン系、アクリレート系、カルバミン酸金属塩、及びワックスから選ばれる少なくとも1種の一次老化防止剤0.1質量部以上10質量部以下と、リン系、イオウ系、イミダゾール系から選ばれる少なくとも1種の二次老化防止剤0.1質量部以上10質量部以下と、さらに亜鉛粉末0.1質量部以上10質量部以下と、可塑剤0.1質量部以上50質量部以下と、加工助剤0.1質量部以上10質量部以下を添加することができる。また本発明の活性亜鉛華
の蛍光X線分析装置を用いた定量分析による化学組成が、亜鉛を20質量%以上98質量%以下含有するものとすることができ、活性亜鉛華の粒子は、中心体とその表面の一部または全部を被覆した酸化亜鉛層からなる複合構造であるものを採用することができる。また、活性亜鉛華の中心体は、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の無機塩を選択することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施により、防振ゴム特性、デュロメータ硬さや破断伸びで示される機械特性を損なわず、耐熱性をさらに向上させた加硫成形体となるクロロプレンゴム組成物が得られ、この加硫成形体は例えば優れた防振ゴムとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のクロロプレンゴム組成物は、(1)クロロプレンゴムと(2)活性亜鉛華と(3)カーボンブラックを含むものである。
【0008】
(1)クロロプレンゴム
クロロプレンゴムは、クロロプレンの単独重合体または、クロロプレンと、クロロプレンと共重合可能な他の単量体との共重合体である。クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、並びにアクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステル類などがあり、本発明の目的を満たす範囲で用いることができる。
【0009】
クロロプレンゴムは、用いる分子量調節剤によって、メルカプタン変性タイプ、キサントゲン変性タイプ、硫黄変性タイプに分類される。メルカプタン変性タイプのクロロプレンゴムは、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルオクチルメルカプタン、オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類を分子量調節剤に使用して得られるものであり、キサントゲン変性タイプのクロロプレンゴムは、アルキルキサントゲン化合物を分子量調節剤に使用して得られるものである。また、硫黄変成タイプのクロロプレンゴムは、イオウとクロロプレン系単量体を共重合したポリマーをチウラムジスルフィドで可塑化し、所定のムーニー粘度に調整したものである。
【0010】
これら各種のクロロプレンゴムのうち、本発明では、キサントゲン変性クロロプレンゴムまたはメルカプタン変性クロロプレンゴムから選ばれる少なくとも一種以上のクロロプレンゴムを用いることが可能である。キサントゲン変性クロロプレンゴムは、他の変性タイプのものに比較して引張り強さや破断時伸びなどの機械特性が優れるものであり、これを用いることによって、これらの機械特性を向上させたクロロプレンゴム組成物が得られる。メルカプタン変性クロロプレンゴムは、他の変性タイプのものに比較して金属との接着特性に優れたものであり、金属との接着性を向上させたクロロプレンゴム組成物が得られる。
【0011】
これらのクロロプレンゴムを併用することにより、得られるクロロプレンゴム組成物の特性を適宜調整することができる。特にクロロプレンゴム組成物の耐熱性を維持向上させることを目的とした場合は、メルカプタン変性クロロプレンゴムの配合割合を、全クロロプレンゴム100質量%中40質量%以下とすることが好ましい。
【0012】
(2)活性亜鉛華
活性亜鉛華は、クロロプレンゴムを加硫させるために配合するものであり、その特性によりゴム組成物中における活性亜鉛華粒子の分散状態やその加硫成形体の物性が左右される。本発明で使用する活性亜鉛華は、走査型電子顕微鏡法により測定したJIS Z8901に定義される平均粒子径が0.05μm以上0.35μm以下、粒子径の範囲が0.01μm以上1.0μm以下であり、かつJIS Z8830に準拠して窒素を吸着質としたBET法により測定された比表面積が10m
2/g以上150m
2/g以下であることを特徴とする。
活性亜鉛華の平均粒子径が0.05μm未満であったり、0.01μm未満の粒子を含む場合や、またその比表面積が150m
2/gを超えるような活性亜鉛華が非常に細かな微粒子であるときには、粒子同士が凝集しやすく分散不良となる。また平均粒子径が0.35μmを超えたり、1.0μmを超える粒子を含んだり、またその比表面積が10m
2/g未満であるような大きな粒子を含むときには、加硫剤としての効果が不十分となり、いずれの場合も本発明の目的である耐熱性の向上を達することが困難になる。
【0013】
活性亜鉛華の配合量は、クロロプレンゴム100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは3〜5質量部である。活性亜鉛華の配合量をこの範囲にすることにより、得られる加硫成形体の機械特性を低下させずに、耐熱性を向上させることができる。
【0014】
さらに本発明の活性亜鉛華の
蛍光X線分析装置を用いた定量分析による化学組成が、亜鉛
を20質量%以上98質量%以下の範囲であるものが好ましく、60質量%以上96質量%以下の範囲であるものがさらに好ましく、90質量%以上94質量%以下の範囲であるものが最も好ましい。また亜鉛以外の成分では、
蛍光X線分析装置を用いた定量分析による化学組成が、カルシウムを1質量%以上30質量%以下、マグネシウム0.01質量%以上30質量%以下の範囲であるものが好ましい。また本発明の活性亜鉛華は、中心体とその表面の一部または全部を被覆した酸化亜鉛層からなる複合構造のものであることが好ましく、その中心体は、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも一種以上の無機塩からなることが好ましい。このような構造の活性亜鉛華を用いることで架橋が効率的に進み、良好な特性の加硫成形体や防振ゴムを得ることができる。
【0015】
また本発明の活性亜鉛華に追加して、酸化マグネシウム、酸化鉛、四酸化三鉛、三酸化鉄、二酸化チタン、酸化カルシウム、ハイドロタルサイトから選ばれる一種以上の金属酸化物を加硫剤として添加することもできる。これらの加硫剤の添加量はクロロプレンゴム100質量部に対して3〜15質量部が好ましい。
【0016】
さらに本発明では加硫剤と併用して、クロロプレンゴムの加硫に一般に用いられるチオウレア系、グアニジン系、チウラム系、チアゾール系の加硫促進剤を添加することができ、特にチオウレア系が好ましい。チオウレア系の加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、トリエチルチオウレア、N,N’−ジフェニルチオウレアなどが挙げられ、特にトリメチルチオウレア、エチレンチオウレアが好ましい。また、3−メチルチアゾリジンチオン−2、チアジアゾールとフェニレンジマレイミドとの混合物、ジメチルアンモニウムハイドロジェンイソフタレートあるいは1,2−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール誘導体などの加硫促進剤も使用することができる。これらの加硫促進剤は上記に挙げたものを二種以上併用して用いてもよい。これらの加硫促進剤の添加量はクロロプレンゴム100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましい。
【0017】
さらに本発明では、加硫促進剤の効率を上げる助剤として、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛などの脂肪酸やその金属塩を添加することもできる。これら加硫促進助剤の添加量は、クロロプレンゴム100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましい。
【0018】
(3)カーボンブラック
本発明のカーボンブラックは、クロロプレンゴム組成物を加硫させて得られる加硫ゴムの機械特性を向上させるために配合する補強剤である。
【0019】
カーボンブラックは、JIS Z8901に準拠して電子顕微鏡を用いて観察した平均粒子径が70nm〜600nm、好ましくは80nm〜500nmの範囲にあり、かつJIS K6217−4の吸油量A法によるフタル酸ジブチル(以下DBPという)吸油量が15ml/100g〜60ml/100g、好ましくは25ml/100g〜50ml/100gのものである。平均粒子径とDBP吸油量がこの範囲を外れると加硫ゴムの耐熱性が低下して、目的とするクロロプレンゴム組成物の加硫成形体やその防振ゴムが得られない。
【0020】
カーボンブラックの配合量は、要求されるクロロプレンゴム組成物のゴム硬度に対応して任意に調整すればよい。特に限定するものではないが、クロロプレンゴム100質量部に対して15〜200質量部とすると、ゴムが固くなりすぎることなく、また可塑剤することなく弾性が損なわれることなく、得られるクロロプレンゴム組成物の耐熱性を向上させることができるため好ましい。また本発明では、例えば、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどカーボンブラック以外の補強剤や充填剤を、カーボンブラックと併用して添加することができる。これらの添加量は、クロロプレンゴム組成物の耐熱性を損なわない範囲で添加することができ、クロロプレンゴム100質量部に対して5〜100質量部の範囲が好ましい。
【0021】
本発明のクロロプレンゴム組成物には、加硫剤である(2)活性亜鉛華、補強剤である(3)カーボンブラックに加え、さらに従来のクロロプレンゴムに使用されている(4)一次老化防止剤、(5)二次老化防止剤、(6)亜鉛粉末、(7)可塑剤、(8)加工助剤を、クロロプレンゴム加硫成形体や防振ゴムの目標物性に到達させるべく適宜配合することができる。
【0022】
(4)一次老化防止剤
一次老化防止剤は、得られるクロロプレンゴム組成物加硫成形体やその防振ゴムが加熱されたときのデュロメータ硬さ、破断伸び、圧縮永久歪みの低下を抑え、耐熱性を向上させるために配合するものであり、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、アクリレート系老化防止剤、カルバミン酸金属塩及びワックスがある。これらの一次老化防止剤は、一種類もしくは併用して使用することができる。これら化合物の中でも、アミン系老化防止剤の4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンやオクチル化ジフェニルアミンは、耐熱性の改善効果が大きいため好ましい。
【0023】
一次老化防止剤の配合量は、クロロプレンゴム組成物中のクロロプレンゴム100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、2〜5質量部である。一次老化防止剤の配合量をこの範囲に設定することにより、得られる加硫成形体や防振ゴムのデュロメータ硬さ、破断伸び、圧縮永久歪みの低下が抑えられ、耐熱性を向上させることができる。
【0024】
(5)二次老化防止剤
二次老化防止剤は、得られるクロロプレンゴム組成物加硫成形体やその防振ゴムが加熱されたときのデュロメータ硬さ、破断伸び、圧縮永久歪みの低下を抑え、耐熱性を向上させるために配合するものであり、リン系老化防止剤、イオウ系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤を挙げることができる。これらの二次老化防止剤は、一種類もしくは併用して使用することができる。これらの化合物の中でも、リン系老化防止剤のトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、イオウ系老化防止剤のチオジオプロピオン酸ジラリウル、ジミスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、イミダゾール系老化防止剤の2−メルカプトベンゾイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾールは、耐熱性改善効果が大きいため好ましい。
【0025】
二次老化防止剤の配合量は、クロロプレンゴム組成物中のクロロプレンゴム100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、2〜5質量部である。二次老化防止剤の配合量をこの範囲にすることにより、得られる加硫成形体や防振ゴムのデュロメータ硬さ、破断伸び、圧縮永久歪みの低下が抑えられ、耐熱性を向上させることができる。
【0026】
(6)亜鉛粉末
亜鉛粉末は、耐熱性を向上させるために配合するものである。亜鉛粉末としては、特に限定するものではないが、平均粒子径が2〜10μmのものが好適に用いられる。亜鉛粉末の配合量は、クロロプレンゴム100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、3〜5質量部である。亜鉛粉末の配合量をこの範囲にすることにより、得られる加硫成形体や防振ゴムのデュロメータ硬さ、破断伸び、圧縮永久歪みの低下が抑えられ、耐熱性を向上させることができる。
【0027】
(7)可塑剤
クロロプレンゴム組成物に添加できる可塑剤としては、クロロプレンゴムと相溶性のある可塑剤であれば特に制限はないが、例えば、菜種油などの植物油、フタレート系可塑剤、DUP(フタル酸ジウンデシル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、エステル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、チオエーテル系可塑剤、アロマ系オイル、ナフテン系オイルなどがあり、クロロプレンゴム組成物に要求される特性に合わせて一種類もしくは複数を併用して使用することができる。可塑剤の配合量は、クロロプレンゴム100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。
【0028】
(8)加工助剤
クロロプレンゴム組成物がロールや成形金型、押出機のスクリューなどから剥離しやすくなるようにするなど、加工特性を向上させるために添加する加工助剤としては、ステアリン酸などの脂肪酸あるいはポリエチレンなどのパラフィン系加工助剤、脂肪酸アミドなどが挙げられ、クロロプレンゴム100質量部に対して0.5〜5質量部まで添加できる。
【0029】
クロロプレンゴム組成物は、クロロプレンゴムとこれら(2)〜(8)の添加剤を加え、加硫温度以下の温度で混練することで得られるものである。クロロプレンゴム組成物を混練する装置は、従来公知のミキサー、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、オープンロールなどの混練装置がある。
【0030】
得られたクロロプレンゴム組成物は、所望する各種の形状に成形した後に加硫するか、または予めクロロプレンゴム組成物を加硫ゴムにしておき、その後各種の形状に成形してもよい。クロロプレンゴム組成物や加硫ゴムを成形する方法は、従来のプレス成形、押出成形、カレンダー成形などの方法がある。これらは、通常のゴム工業で用いられている方法を採用すればよい。
【0031】
クロロプレンゴム組成物の加硫は特にその方法を選ばないが、一般的なスチーム加硫やUHF加硫により加硫ゴム化することができる。スチーム加硫は、未加硫のクロロプレンゴム組成物に、熱媒体としてのスチームガスによって圧力と温度を与えて加硫させる手段であり、UHF加硫は、クロロプレンゴム組成物にマイクロ波を照射して加硫させる手段である。また、プレス加硫や射出成形の際に成形用金型の内部にクロロプレンゴム組成物を保持したまま金型温度を加硫温度まで上昇させて加硫させてもよい。加硫温度はクロロプレンゴム組成物の配合や加硫剤の種類によって適宜設定でき、通常は140〜220℃が好ましく、150〜180℃の範囲がより好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
<実施例1〜
12、実施例14〜15、実施例17〜33及び比較例1〜7>
表1〜表3に記載した配合処方に従い、クロロプレンゴム、カーボンブラック、一次老化防止剤、二次老化防止剤、亜鉛粉末、酸化マグネシウム、可塑剤、ステアリン酸を所定の配合比率で混合した後、加圧式型ニーダー試験機で混練した。ニーダー試験機で得られた混練物に、活性亜鉛華、エチレンチオウレアを所定の配合比率で加えて直径8インチの2本オープンロールを用いてさらに混練し、厚さ2.3mmのクロロプレンゴム組成物シートを作製した。
【0033】
なお、表1〜表3中、キサントゲン変性クロロプレンゴムは、製品名:DCR−66(電気化学工業社製)、メルカプタン変性クロロプレンゴムは、製品名:DCR−36(電気化学工業社製)である。活性亜鉛華Aは、製品名:酸化亜鉛2種(堺化学工業社製、平均粒子径=1.38μm、粒子径範囲=0.45〜5.87μm、比表面積=3.2m
2/g)、活性亜鉛華Bは、製品名:活性亜鉛華META−Z102(井上石灰工業社製、平均粒子径=0.19μm、粒子径範囲=0.10〜0.30μm、比表面積=11.6m
2/g)、活性亜鉛華Cは、製品名:活性亜鉛華AZO(正同化学工業社製、平均粒子径=0.12μm、粒子径範囲=0.04〜0.44μm、比表面積=72m
2/g)である。カーボンブラックAは、製品名:Thermax N−990(Cancarb社製、平均粒子径=450nm、DBP吸油量=44ml/100g)、カーボンブラックBは、旭#22K(旭カーボン社製、平均粒子径=80nm、DBP吸油量=26ml/100g)、カーボンブラックCは、アサヒサーマル(旭カーボン社製、平均粒子径=80nm、DBP吸油量=28ml/100g)、カーボンブラックDは、シーストSO(東海カーボン社製、平均粒子径=43nm、DBP吸油量=115ml/100g)である。一次老化防止剤Aは、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)]メタン、製品名:イルガノックス1010(BASF社製)、一次老化防止剤Bは、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、製品名:ノクラックCD(大内新興化学社製)、一次老化防止剤Cは、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、製品名:スミライザーGM(住友化学社製)である。二次老化防止剤Aは、チオジオプロピオン酸ジラリウル、製品名:ノクラック400(大内新興化学社製)、二次老化防止剤Bは、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、製品名:ノクラックTNP(大内新興化学社製)である。可塑剤Aは、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート、製品名:サンソサイザーDOS(新日本理化社製)、可塑剤Bは、ジウンデシルフタレート、製品名:サンソサイザーDUP(新日本理化社製)、可塑剤Cは、エーテル・エステル系可塑剤である。また、酸化マグネシウム、エチレンチオウレア、亜鉛粉末、ステアリン酸はそれぞれ市販品を用いた。
【0034】
なお、本発明で使用する活性亜鉛華の平均粒子径、粒子径の最大値及び最小値は、JIS Z8901に準拠した顕微鏡観察による方法で測定した。即ち、水で希釈した活性亜鉛華を超音波分散してから自然乾燥させたサンプルを走査型電子顕微鏡(FE-SEM SU6600:株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)で観察し、顕微鏡写真上で200個の粒子の円相当径を測定して、その算術平均値を平均粒子径とし、さらにそれらの最大値及び最小値から粒子径範囲を定めた。
【0035】
また、活性亜鉛華の比表面積は、JIS Z8830に準拠して窒素を吸着質としたBET法で測定した。即ち、水で希釈した活性亜鉛華を超音波分散してから自然乾燥させたサンプルを比表面積測定装置(モノソーブ:QUANTACHROME INSTRUMENTS社製)を用いてその比表面積を測定した。
【0036】
活性亜鉛華の化学組成に関しては、活性亜鉛華を乾燥機にて70℃で12時間乾燥させた試料を粉砕した後、活性亜鉛華中に含まれる元素を蛍光X線分析装置(ZSX100e:株式会社リガク社製)を用いて定量分析した。
【0037】
さらに本発明のクロロプレンゴム組成物の加硫成形体は、以下の方法で作製した試験片を用いて評価した。即ち、得られたクロロプレンゴム組成物シートを、さらに160℃×20分、圧力0.8MPaの条件でプレス加硫して厚さ2.0mmの加硫成形体シートを作製し、この加硫成形体シートを用いて、加硫成形した直後、及び該試験片をJIS K6257のA法に準拠して100℃の老化促進環境下(ギヤー式老化試験器GPHH―201型、エスペック社製を使用)に1000時間置いて老化促進処理した後の、(1)デュロメータ硬さ(Hs)と(2)破断伸び(EB)を測定した。また160℃×30分、圧力0.8MPaの条件でプレス加硫して直径29.0mm、厚さ12.5mmの加硫成形体の円柱状試験片を作製し、この円柱状試験片を用いて、加硫成形した直後の(3)防振ゴム特性(動倍率、Kd/Ks)と、老化促進処理後の(4)圧縮永久ひずみ(CS)を測定した。これらの測定値から防振ゴムとしての基本特性と熱老化促進処理前後のゴム物性の変化、即ち耐熱性を評価した。
【0038】
(1)デュロメータ硬さは、JIS K6253−3に準拠し、加硫成形体シートを3枚重ねた状態にして23℃で測定した。硬度計は(アスカーゴム硬度計A型、高分子計器社製)を使用した。(2)破断伸びは、JIS K6251に準拠して測定した。試験片は加硫成形体シートからダンベル状3号形試験片を切り出し、全自動ゴム引張り試験機(AGS‐H、島津製作所社製)を用いて、23℃で引張り速度を500mm/分の条件で測定した。(3)防振ゴム特性はJIS K6386に示される一般的な試験条件に準拠し、円柱状試験片を用いて23℃の条件で動的ばね定数(Kd)及び静的ばね定数(Ks)を測定し、動倍率(Kd/Ks)を算出した。測定装置は動特性試験機(KCH701−20、鷺宮製作所社製)を使用した。(4)圧縮永久ひずみは、JIS K6262に準拠し、加硫体の円柱状試験片を用い、また圧縮試験器のスペーサーを9.38mmとして、100℃で圧縮時間を1000時間とした条件で試験片を圧縮して評価した。圧縮後の試験片厚みは測厚器(アスカー試験片測厚器SDA−25型、高分子計器社製)を用いて測定し、圧縮永久ひずみを算出した。
【0039】
本発明の評価結果を表1〜表3に示す。なお、加硫ゴム成形体が防振ゴムとして機能するためには、その動倍率(Kd/Ks)が1.4以下であることが前提条件となり、防振ゴムの耐熱性に関する従来の課題解決のためには、老化促進処理前後におけるデュロメータ硬さの変化(ポイント値の増加分)が10以下、破断伸びの変化(%値の減少分)は10以下、老化促進処理後の圧縮永久ひずみは40%以下であることが必要であると判断した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
本発明で用いた活性亜鉛華の化学組成の測定値を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表1〜表3の結果から、機械特性や圧縮永久ひずみ、伸長疲労性、防振特性を損なわず、耐熱性をさらに向上させた加硫ゴム成形体が得られるクロロプレンゴム組成物、該組成物の加硫成形体及びその防振ゴムが得られたことが示され、本発明の効果が示された。