(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転電機の固定子コイルにおける電気的測定を行う測定部と、前記測定部が取得した測定結果を演算処理する演算部と、前記演算部による演算結果から、前記固定子コイルを評価する評価部と、を有する余寿命診断システムによる余寿命診断方法であって、
前記測定部において、回転電機の固定子コイルに印加した印加電圧と前記印加電圧に対する部分放電電荷量とを測定し、その測定結果から印加電界と部分放電電荷量とを関連付けするステップと、
前記演算部において、前記測定部が取得した部分放電電荷量と印加電界との関係を演算処理するステップと、
前記評価部において、前記演算部による演算結果と予め設定した部分放電電荷量の発生電界、誘電特性、または前記発生電界と前記誘電特性との組み合わせに基づいて、前記回転電機の絶縁破壊強度残存率を推定し、その推定結果に基づいて前記回転電機の余寿命を推定するステップと、
を有する、余寿命診断方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0020】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0021】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0022】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0023】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0024】
(実施の形態1)
〈発明の概要〉
第1の概要は、測定部(電圧測定システム22、部分放電電荷量検出器23、コンピュータ24)、演算部(演算部30)、および評価部(評価部31)を有する余寿命診断システムである。
【0025】
測定部は、回転電機の固定子コイルに印加した印加電圧に対する部分放電電荷量の関係を取得する。演算部は、測定部が取得した部分放電電荷量と印加電圧との関係を演算処理する。
【0026】
評価部は、演算部による演算結果と予め設定した所定の部分放電電荷量における印加電界、誘電特性(Δ2)、または印加電界と誘電特性との組み合わせに基づいて、回転電機の絶縁破壊強度残存率を推定し、その推定結果に基づいて回転電機の余寿命を推定する。
【0027】
第2の概要は、余寿命診断システム(余寿命診断システム26)による余寿命診断方法である。余寿命診断システムは、回転電機の固定子コイルにおける電気的測定を行う測定部(電圧測定システム22、部分放電電荷量検出器23、コンピュータ24)、測定部が取得した測定結果を演算処理する演算部(演算部30)、および演算部による演算結果から、固定子コイルを評価する評価部を有する。
【0028】
この余寿命診断方法は、以下のステップを有する。
【0029】
測定部において、回転電機の固定子コイルに印加した印加電圧と印加電圧に対する部分放電電荷量とを測定し、その測定結果から印加電界と部分放電電荷量とを関連付けする。
【0030】
演算部において、測定部が取得した部分放電電荷量と印加電界との関係を演算処理する。
【0031】
評価部において、演算部による演算結果と予め設定した所定の部分放電電荷量の発生電界、誘電特性、または発生電界と誘電特性との組み合わせに基づいて、回転電機の絶縁破壊強度残存率を推定し、その推定結果に基づいて回転電機の余寿命を推定する。
【0032】
以下、上記した概要に基づいて、実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
まず、回転電機1の構造について簡単に述べる。
【0034】
図1は、回転電機の構成の一例を示す説明図である。
【0035】
回転電機1は、
図1に示すように、回転子2、および固定子3から概略構成される。固定子3は、
図2に示すように、固定子鉄心4、鉄心スロット5、および固定子コイル6を有している。
【0036】
固定子コイル6は、上コイル6a、および底コイル6bから構成されている。この固定子コイル6には、該固定子コイル6を鉄心スロット5に固定する楔7が設けられている。また、上コイル6aと底コイル6bとの間には、スペースを確保するための絶縁部材スペーサ8が配置されている。なお、固定子コイル6は、固定子鉄心4の外部で電気的に接続される。
【0037】
固定子コイル6は、素線固めコイル9により構成されている。素線固めコイル9は、素線絶縁10を施した数本の素線9aを整列し、該素線9aを束ね絶縁詰め物11を施して一体化した構成からなる。素線固めコイル9の周囲には、ガラスクロスなどを裏打ち材としたマイカテープを所定回数巻回した主絶縁層12が形成されている。
【0038】
固定子コイル6は、例えば含浸槽にてエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を主絶縁層12に加圧含浸し、その後、熱硬化性樹脂を加熱硬化させたものや、予めエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含んだ半硬化状態のプリプレグマイカテープを熱プレスし形成したものがある。前記に代表される処理工程により、ボイドに代表される欠陥の少ない絶縁特性の良好な主絶縁層12を備えた固定子コイル6を得ることができる。
【0039】
主絶縁層12は、マイカテープ層と熱硬化性樹脂が完全に充填されていることが望まれるが、発電機用のコイルには、ボイドや剥離といった欠陥がある程度存在する。内部にボイドや剥離が存在する絶縁層に部分放電開始電圧以上の電圧が加わるとボイドや剥離といった微小欠陥部で部分放電が発生する。
【0040】
絶縁層内に初期から存在していた微小欠陥に加え、主に熱的、および機械的ストレスにより新たに微小欠陥が形成される。長期間の運転により熱的/機械的/電気的/その他のストレスが加わると、これらが進展していくので、絶縁破壊電圧や機械強度が低下していくことが知られている。
【0041】
図3は、本実施の形態1による印加電圧に対する部分放電電荷量特性の取得処理の一例を示すフローチャートである。
【0042】
図3に示す測定フローチャートでは、測定対象に対して印加電圧である交流電圧を印加した後に(ステップS101)、交流電圧を昇圧し(ステップS102)、部分放電電荷量を測定する(ステップS103)。これらの処理を繰り返し(ステップS104)、測定終了条件の電圧に到達した後に印加電圧に対する部分放電電荷量特性を取得する(ステップS105)。
【0043】
図4は、本実施の形態1による余寿命診断システムにおける構成の一例を示すブロック図である。
【0044】
余寿命診断システム26は、
図4に示すように、電圧測定システム22、部分放電電荷量検出器23、コンピュータ24、表示部25、接続端子29、演算部30、および評価部31を有する。
【0045】
電圧測定システム22は、
図1の固定子コイル6に印加した電圧である印加電圧を測定する。部分放電電荷量検出器23は、電圧印加に伴い、
図2の主絶縁層12から発生する部分放電の部分放電電荷量を取得する。
【0046】
接続端子29、電圧測定システム22、および部分放電電荷量検出器23には、高電圧電源21が接続されている。接続端子29は、
図1の回転電機1の固定子コイル6に高電圧電源21から供給される交流電圧を印加する端子である。
【0047】
コンピュータ24は、印加電圧と部分放電電荷量特性を取得する。表示部25は、評価部31の評価結果などを表示する。演算部30は、コンピュータ24が取得した特性に対して演算処理を行う。評価部31は、演算部30による演算結果に基づいて絶縁劣化の評価を行う。
【0048】
また、評価部31は、劣化レベル評価部33、絶縁破壊強度残存率推定部34、および余寿命推定部35を有する。劣化レベル評価部33は、演算部30にて得られた演算結果に基づいて劣化レベルの評価を行う。
【0049】
絶縁破壊強度残存率推定部34は、劣化レベル評価部33による劣化レベルの評価に基づいて、絶縁破壊強度残存率の推定を行う。なお、ここで絶縁破壊強度残存率とは、製作当初における新品の固定子コイル6の絶縁破壊強度に対する経年時(劣化後)の絶縁破壊強度の割合を指す。余寿命推定部35は、絶縁破壊強度残存率推定部34による絶縁破壊強度残存率に基づいて、余寿命を推定する。
【0050】
図4では、コンピュータ24、演算部30、および評価部31がそれぞれ異なるハードウェア構成となっているが、例えばコンピュータ24に、演算部30、および評価部31の機能を持たせる構成としてもよい。
【0051】
続いて、余寿命診断システム26における具体的な診断例について説明する。
【0052】
図5は、
図4の余寿命診断システムにおける具体的な診断例を示すフローチャートである。
【0053】
まず、余寿命診断が開始されて高電圧電源21が動作すると、交流電圧は徐々に昇圧する。診断対象である
図1の回転電機1の固定子コイル6には、接続端子29を介して高電圧電源21の交流電圧が印加される。なお、測定対象である固定子コイル6は、回転電機1から抜き取った1本の固定子コイル6の状態とすることも可能である。
【0054】
電圧測定システム22は、ある電圧レベル毎に固定子コイル6に印加されている印加電圧レベルを測定し、部分放電電荷量検出器23は、ある印加電圧レベル毎における部分放電電荷量を測定する。
【0055】
これを繰り返し、所定の電圧まで電圧測定システム22、および部分放電電荷量検出器23が印加電圧と部分放電電荷量とを取得すると(ステップS201)、取得した印加電圧、および部分放電電荷量は、コンピュータ24に出力される。
【0056】
コンピュータ24は、受け取った印加電圧と部分放電電荷量との関連付けを行い、印加電圧に対する部分放電電荷量特性を取得する。なお、取得した印加電圧をそのまま用いて評価を行ってもよいが、コンピュータ24にて取得した印加電圧を試料の絶縁層の厚みで割り印加電界とすると、規格化した値として異なる絶縁層厚さのコイルに対して評価が可能となるため、ここでは、この印加電界−部分放電電荷量特性を用いて説明する。
【0057】
一般に部分放電電荷量は、例えば電流や電磁波の検出を用いたものが知られている。一例としては、特開平3−99286の
図4などに記載されている構成が挙げられる。上記方法で得られた印加電界に対する部分放電電荷量特性に対して、演算部30は演算処理を行う(ステップS202)。
【0058】
その後、演算部30にて得られた演算結果に基づき、評価部31の劣化レベル評価部33が劣化レベルの評価を行う(ステップS203)。そして、絶縁破壊強度残存率推定部34は、劣化レベル評価部33によって得られた劣化レベルの評価を基に絶縁破壊強度残存率の推定を行う(ステップS204)。
【0059】
続いて、余寿命推定部35は、劣化レベル評価部33によって得られた絶縁破壊強度残存率の推定結果に基づいて余寿命を推定する(ステップS205)。この推定結果は、例えば表示部25などに表示される。
【0060】
なお、本実施の形態では、0V/mm程度から予め設定された電圧レベルまで交流電圧を昇圧させながら測定しているが、その他にも、予め設定された電圧レベルから交流電圧を降圧させながらの測定、あるいは昇圧と降圧とを組み合わせて測定したデータに基づいて診診断するようにしてもよい。
【0061】
図6は、演算部30における演算方法に自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値を用いた場合の結果の一例を示す模式図である。
図7は、部分放電電荷量の印加電界に対する微分値を用いた場合の実測結果の一例を示す模式図である。
【0062】
図6(a)は、熱劣化の演算結果を示しており、
図6(b)は、機械的劣化の演算結果を示している。また、
図7(a)が、熱劣化の実測結果を示しており、
図7(b)は、機械的劣化の実測結果を示している。
【0063】
図6(a)では、印加電界を0V/mm程度から所定の電界まで上昇させた際に、バックグラウンドレベルから有意な差を持って微分値が急増して最大値となった後に、急減する電界領域(以下、第1のピーク27という)と微分値がバックグラウンドレベルでほぼ一定となる電界領域からなっている。ここで、バックグラウンドレベルとは、印加電圧の増加に対して部分放電電荷量が印加電圧0kVと見做せるレベルの値から増加がなく,ほぼ一定で推移する領域のことである。
【0064】
この第1のピーク27の微分値が最大となる印加電界E1を予め設定した印加電界に対する設定値Eと比較すると、印加電界E1は、設定値Eよりも低くなっている。このように演算処理を加えることで、測定者に依らない評価が可能となる。
【0065】
この
図6(a)に示した測定方法と演算処理によって得られた傾向は、
図7(a)に示す熱劣化を与えた場合の実測結果の一例と同様の傾向であり、これは、
図8(a)の模式図に示すように、主絶縁層12を形成するマイカテープの沿層方向の剥離やボイドが発生、進展しているためであり、熱劣化が進む程、これら剥離やボイドの発生進展の程度が大きくなる傾向を示す。このため、熱劣化により機械的強度が低下し、振動や電磁力、および遠心力などにより絶縁層に亀裂が生じやすくなる。
【0066】
図7(a)の例では、絶縁層の貫層方向に亀裂などの欠陥が形成されやすい状態になっていることを意味しており、診断期間の短縮などの対策を行う必要が有ると考えられるため、例えば第2のレベルである警戒レベルと評価することができる。
【0067】
図6(b)では、印加電界を0V/mm程度から所定の電界まで上昇させた際に、微分値の第1のピーク27よりも高い電界領域において、微分値の第2のピーク28が現れており、印加電界に対して微分値は2つのピークが存在している。このように2つのピークが検出された場合は、機械的劣化が加わっていると推定できる。
【0068】
図6(b)に示す測定方法と演算処理によって得られた傾向は、
図7(b)に示す機械的劣化を与えた場合の実測結果の一例と同様である。この傾向は、
図8(b)に示す模式図のように絶縁層の貫層方向に進展する微小な亀裂や亀裂を介した剥離やボイドといった欠陥が結合し進展していることによるためである。
【0069】
絶縁層の貫層方向に進展する欠陥は、絶縁層にとっては致命的な欠陥であり、絶縁破壊電圧に代表される絶縁性能の大幅な低下を引き起こす可能性が高く、例えば第1のレベルである危険レベルと評価することができる。これにより、測定者に依らない評価が可能となる。
【0070】
第1のピーク27の微分値が最大となる印加電界E1が設定した値よりも大きく、第2のピーク28が存在しない場合は絶縁層に加わっている熱や機械力による劣化は小さく現時点では問題ないことを示している。このため、定期的な診断を継続して実施すればよいと考えられ、例えば第3のレベルである監視レベルと評価することができる。
【0071】
以上の評価に基づいて、劣化レベル評価部33は、評価処理を実行する。
【0072】
図9は、
図4の余寿命診断システム26に設けられた劣化レベル評価部33による評価処理の一例を示すフローチャートである。
【0073】
まず、劣化レベル評価部33は、演算部30による印加電界に対する部分放電電荷量に基づいて(ステップS301)、
図6の第1のピーク27、および第2のピーク28が検出されるか否かを判定する(ステップS302)。
【0074】
ステップS302の処理において、第1のピーク27、および第2のピーク28のいずれもが検出された際には、詳細な診断が必要な危険レベルと判定する(ステップS303)。
【0075】
また、ステップS302の処理において、第1のピーク27のみの検出の際には、該第1のピーク27の微分値が最大となる
図6に示す印加電界E1が予め設定された設定値E以下であるか否かを判定する(ステップS304)。
【0076】
印加電界E1が設定値Eよりも小さい場合には、診断期間の短縮などの対策が必要である警戒レベルと判定し(ステップS305)、印加電界E1が設定値E以上の場合には、現状問題なしであり、定期的な監視を継続する監視レベルと判定する(ステップS306)。
【0077】
図10は、
図4の余寿命診断システム26に設けられた絶縁破壊強度残存率推定部34による残存率推定処理の一例を示すフローチャートである。
【0078】
絶縁破壊強度残存率推定部34は、上述した劣化レベル評価部33にて劣化レベルを評価した後に、予め蓄積した基礎データに基づいて絶縁破壊強度残存率を推定する。
【0079】
劣化レベル評価部33の判定(ステップS401)が危険レベルと判定した場合(ステップS402)、絶縁破壊強度残存率推定部34は、所定の部分放電電荷量の発生電界Eimと絶縁破壊強度残存率との関係から絶縁破壊強度残存率を推定する(ステップS403)。
【0080】
図11は、危険レベルと評価した固定子コイルの部分放電電荷量の発生電界Eimと絶縁破壊強度残存率との関係を示す説明図である。部分放電電荷量の発生電界Eimを評価指標とすると、
図11に示すように、絶縁破壊強度残存率と相関があることが分かっている。なお、発生電界Eimとして、第1のピーク27の微分値が最大となる印加電界E1を用いてもよい。
【0081】
また、発生電界Eimを決定する電界は、演算結果の第2のピーク28を検出し、バックグラウンドレベルまで低下した電界、すなわち
図6(b)、および
図7(b)に示す印加電界E4よりも低い電界とする。
【0082】
一方、劣化レベル評価部33が警戒レベル、または監視レベルと判定した場合(ステップS402)、絶縁破壊強度残存率推定部34は、電界Eit、および誘電特性のΔ2と絶縁破壊強度残存率との関係から絶縁破壊強度残存率を推定する(ステップS404)。
【0083】
図12は、監視レベル、あるいは警戒レベルと評価した固定子コイルの電界Eitと絶縁破壊強度残存率との関係を示す説明図である。
図13は、監視レベル、あるいは警戒レベルと評価した固定子コイルのΔ2と絶縁破壊強度残存率との関係を示す説明図である。
【0084】
なお、電界Eitは、所定の部分放電電荷量が発生する電界であり、Δ2は、固定子コイル6に2kVの電圧を印加した際の誘電正接と定格電圧を印加した際の誘電正接との差である。
【0085】
警戒レベル、または監視レベルと評価した場合、部分放電電荷量が発生する電界Eitを評価指標とすると、
図12に示すように、絶縁破壊強度残存率と相関があることが分かっている。また、2kV印加時の誘電正接と定格電圧の誘電正接の差であるΔ2を評価指標とすると、
図13に示すように、絶縁破壊強度残存率と相関があることが分かっている。
【0086】
なお、電界Eitとして、第1のピーク27の微分値が最大となる印加電界E1を用いてもよい。さらに、電界Eitを決定する電界は、第1のピーク27を検出し、バックグラウンドレベルまで低下した電界よりも低い電界、すなわち
図6(a)、および
図7(a)に示す電界E3よりも低い電界とする。
【0087】
絶縁破壊強度残存率推定部34は、
図11〜
図13に示した評価指標と絶縁破壊強度残存率の関係を予め基礎データとして蓄積しておき、診断対象で実測された評価指標を基に絶縁破壊強度残存率を推定する(ステップS405)。
【0088】
具体的には、劣化レベル評価部33が危険レベルと評価した場合、
図11に示す評価指標と絶縁破壊強度残存率の関係から絶縁破壊強度残存率を推定する。また、劣化レベル評価部33が警戒レベル、あるいは監視レベルと評価した場合には、
図12、および
図13に示す評価指標と絶縁破壊強度残存率の関係から絶縁破壊強度残存率を推定する。
【0089】
絶縁破壊強度残存率を推定する際は、複数の評価指標各々で評価し、その中の最低の推定値を用いる、あるいは回帰分析などの多変量解析により複数の評価指標を組み合わせた推定方法を基に推定してもよい。
【0090】
なお、推定値は、95%信頼区間などの統計処理を行うと個体差などのバラツキを考慮した信頼性の高い診断が可能となる。また、上記統計処理を行った結果のうち、その下限値を評価に用いると機器の最も厳しい条件での評価が可能となり未然事故防止に有効となる。
【0091】
続いて、余寿命推定部35は、固定子コイル6における余寿命を推定する(ステップS406)。
【0092】
ここで、余寿命推定部35による余寿命の推定技術について説明する。
【0093】
図14は、
図4の余寿命診断システムに設けられた余寿命推定部による余寿命の推定の一例を示す説明図である。
【0094】
余寿命推定部35は、上記のように推定した絶縁破壊強度残存率に基づいて、余寿命を推定する。
図14において、横軸は年数であり、縦軸は絶縁破壊強度残存率を示している。この
図14のグラフに対して、上述のように推定された絶縁破壊強度残存率の95%信頼下限値をプロットする。
【0095】
そして、推定された絶縁破壊強度残存率の95%信頼下限値と初期値である100%とを結び、その線を外挿し、予め設定した寿命管理値の絶縁破壊強度残存率との交点と現在の年数差を余寿命として評価する。なお、初期値を絶縁破壊強度が100%に対する95%信頼下限値を基に評価を行うと製作時のバラツキを考慮した評価が可能となる。
【0096】
また、診断前後の運転状況などにより劣化進展程度が異なることも考えられるので、経年的なデータをトレンド管理しながら、その都度、余寿命推定の直線を補正することによって精度の高い診断結果を提供することができる。
【0097】
以上により、最大部分放電電荷量に代表される特性の絶対値には現れにくかった微小な欠陥の形成、進展による劣化現象を、自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値を基に評価可能とし、各々の劣化現象に対して予め蓄積した絶縁破壊強度残存率と評価指標の基礎データを基に推定することができる。
【0098】
そして、その推定結果に基づいて、信頼性の高い絶縁余寿命を推定可能な絶縁診断技術を提供することができる。
【0099】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、より精度の高い絶縁余寿命を推定する絶縁診断技術について説明する。
【0100】
図15は、本実施の形態2による印加電圧に対する部分放電電荷量特性の取得処理の一例を示すフローチャートである。
【0101】
余寿命診断システム26における構成は、前記実施の形態1の
図4と同様であり、電圧測定システム22、部分放電電荷量検出器23、コンピュータ24、表示部25、接続端子29、演算部30、および評価部31を有する。
【0102】
前記実施の形態1と異なるところは、高電圧電源21であり、該高電圧電源21は、例えばコンピュータ24によって、ある時間毎、例えば1秒当たりの昇圧速度、または降圧速度が制御される機能を有している点である。
【0103】
まず、コンピュータ24に、測定終了電圧V、1秒間当りの昇圧速度v、または降圧速度v、電圧測定システム22によって印加電圧を測定する時間間隔Δt1、および部分放電電荷量検出器23によって部分放電電荷量を測定する時間間隔Δt2をそれぞれ設定する(ステップS601)。
【0104】
続いて、コンピュータ24は、高電圧電源21に制御信号を出力し、測定対象に対して印加電圧である交流電圧を印加させる(ステップS602)。続いて、コンピュータ24は、高電圧電源21に制御信号を出力し、ステップS601の処理において設定した1秒間当りの昇圧速度vまたは降圧速度vにて交流電圧を昇圧させ(ステップS603)、電圧測定システム22によって印加電圧を測定させ、部分放電電荷量検出器23によって部分放電電荷量を測定させる(ステップS604)。
【0105】
ここで、コンピュータ24、電圧測定システム22、および部分放電電荷量検出器23は、例えばGPIB(General Purpose Interface Bus)などによって接続されており、同期がとれている状態となっている。
【0106】
電圧測定システム22による印加電圧の測定間隔は、ステップS601の処理において設定した時間間隔Δt1毎であり、部分放電電荷量検出器23による部分放電電荷量測定の間隔は、ステップS601の処理において設定した時間間隔Δt2毎である。
【0107】
このように、コンピュータ24が、電圧測定システム22、および部分放電電荷量検出器23に同期した指令を出すことにより印加電圧に対する部分放電電荷量特性を自動で収録する。電圧測定システム22によって測定された印加電圧、および部分放電電荷量検出器23によって測定された部分放電電荷量は、例えばコンピュータ24が有するメモリなどに格納される(ステップS605)。
【0108】
なお、測定する部分放電電荷量の発生頻度は任意で設定してもよい。一例としては、商用周波数が50Hzの場合、発生頻度レベルを50パルス/秒、商用周波数が60Hzの場合には、60パルス/秒、すなわち印加電圧1サイクルに1回以上の発生頻度の信号を部分放電電荷量として取得するとノイズを効果的に除去することができる。
【0109】
また、時間間隔Δt1,Δt2は、0.5秒程度、測定終了電圧Vは、0.1kV/秒程度とすると、データ数と評価精度のバランスを適切に保てることを確認している。
【0110】
ステップS603〜S605の処理を繰り返して測定終了電圧Vまでの測定が終了すると(ステップS606)、演算部30は、コンピュータ24に記憶されている印加電圧と部分放電電荷量の関係に基づいて演算処理を行い、印加電圧に対する部分放電電荷量特性を取得する(ステップS607)。
【0111】
なお、前記実施の形態1に記載のように取得した印加電圧の値を絶縁層の厚みで割り、印加電界として評価を行うようにしてもよい。また、印加電界に対する部分放電電荷量特性を表示部25により表示してもよい。さらに、取得したデータは、随時表示部25に表示してもよい。
【0112】
演算部30は、自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値を導出する。なお、微分値は、任意の点数の印加電界と自然対数表示にした部分放電電荷量から導出してもよい。一例として、印加電界と対数表示した部分放電電荷量は、それぞれ10点程度のデータを基に微分値を導出すると、精度よく評価することができる。
【0113】
その後、得られた演算結果に基づいて、評価部31にて、前記実施の形態1の
図9、
図10、および
図14などに記載の方法に基づいて、劣化レベルを評価し、絶縁破壊強度残存率、および余寿命を推定して結果を表示部25に表示する。なお、ここでも、コンピュータ24に演算部30、および評価部31の機能を持たせる構成としてもよい。
【0114】
以上により、より詳細に、印加電界と部分放電電荷量のデータを収録することが可能となり、より信頼性の高い絶縁診断を実現することができる。
【0115】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、前記実施の形態1,2に記載した診断技術に、別の評価指標を加えて絶縁破壊強度残存率を推定する絶縁診断技術について説明する。
【0116】
劣化レベル評価部33は、前記実施の形態1の
図9に示すフローチャートに従って、劣化レベルを判定した後、絶縁破壊強度残存率推定部34が、予め蓄積した絶縁破壊強度残存率と評価指標の関係から絶縁破壊強度を推定する。
【0117】
なお、余寿命診断システム26における構成は、前記実施の形態1の
図4と同様であるので、説明は省略する。
【0118】
図16は、本実施の形態3による残存率推定処理の一例を示すフローチャートである。
図17は、危険レベルと評価した固定子コイルの部分放電電荷量Qimと絶縁破壊強度残存率の関係を示す説明図であり、
図18は、監視レベル、あるいは警戒レベルと評価した固定子コイルの部分放電電荷量Qitと絶縁破壊強度残存率の関係を示す説明図である。
【0119】
まず、劣化レベル評価部33による評価結果において(ステップS701)、危険レベルと判定された場合(ステップS702)、絶縁破壊強度残存率推定部34は、前記実施の形態1の
図11に示す評価指標と、
図17に示す所定の電界で発生する部分放電電荷量Qimとを組み合わせて絶縁破壊強度残存率を推定する(ステップS703)。
【0120】
なお、部分放電電荷量Qimを決定する電界は、前記実施の形態1の部分放電電荷量の発生電界Eimと同様に、
図6の第2のピーク28を検出し、バックグラウンドレベルまで低下した電界、すなわち
図6(b)、および
図7(b)に示す電界E4よりも低い電界とする。
【0121】
一方、劣化レベル評価部33が警戒レベル、または監視レベルと評価した場合は、
図12、および
図13に示す評価指標に加えて、
図18に示す所定の電界で発生する部分放電電荷量Qitを組み合わせて絶縁破壊強度残存率を推定する(ステップS704)。
【0122】
なお、 部分放電電荷量Qitを決定する電界は、
図6の第1のピーク27を検出し、バックグラウンドレベルまで低下した電界よりも低い電界、すなわち
図6(a)、および
図7(a)に示す電界E3よりも低い電界とする。
【0123】
上記した評価指標と絶縁破壊強度残存率の関係を予め基礎データとして蓄積しておき、診断対象で実測された評価指標を基に、絶縁破壊強度残存率推定部34が前記実施の形態1の
図10に示す処理を実行することによって絶縁破壊強度残存率を推定し(ステップS705)。その後、余寿命推定部35が、前記実施の形態1の
図14に基づいて固定子コイル6における余寿命を推定する(ステップS706)。
【0124】
以上により、複数の指標を組み合わせることによって、より高精度な絶縁診断を実現することができる。
【0125】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、診断に優位な信号を抽出することにより、より精度の高い絶縁診断を行う余寿命診断システム26について説明する。
【0126】
図19は、本実施の形態4による余寿命診断システム26の構成の一例を示すブロック図である。
【0127】
余寿命診断システム26は、
図19に示すように、電圧測定システム22、部分放電電荷量検出器23、コンピュータ24、表示部25、接続端子29、演算部30、および評価部31からなる前記実施の形態1の
図4と同様の構成に、新たに信号抽出部32が設けられた構成となっている。
【0128】
他のモータなどの回転電機が動作している際に余寿命診断を行うと、該モータのノイズの影響を受けて測定データに誤差が生じてしまう恐れがある。そこで、信号抽出部32によって、診断に優位な信号を抽出する。
【0129】
図20は、
図19の余寿命診断システムによる印加電圧に対する部分放電電荷量特性の取得処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図20においては、昇圧時のデータを基に説明しているが、降圧時のデータ、あるいは昇圧と降圧を組み合わせたデータを基にしてもよい。
【0130】
ここで、
図20のステップS801〜S807の処理は、前記実施の形態1の
図15におけるステップS601〜S607の処理と同様であるので説明は省略する。
【0131】
図20において、演算部30による印加電圧に対する部分放電電荷量特性の取得(ステップS807)が終了すると、信号抽出部32による信号抽出が行われる(ステップS808)。
【0132】
前記実施の形態1に記載したように自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値に対して、信号抽出部32にて、診断に有意な信号の抽出が行われる。信号抽出の一例としては、印加電圧位相によるノイズの分離、微分値に対して予め信号とするレベルのしきい値を設定しておく、あるいは微分値が複数の点で事前に設定したレベルを超えない場合はノイズとして処理するといった技術などがある。
【0133】
なお、ノイズ除去、信号抽出は、1つだけではなく複数を組み合わせることで、より効果的にノイズ除去、および信号抽出が可能である。そして、ノイズ除去、および信号抽出が行われた結果を基に、評価部31にて診断を行い、その結果を表示部25に表示する。なお、ここでも、コンピュータ24に演算部30、信号抽出部32、および評価部31、の機能を持たせる構成としてもよい。
【0134】
このように、信号抽出部32によってノイズ除去、および信号抽出され、診断に有意な信号に基づいて劣化レベルの判定、および余寿命の推定を行うことによって、信頼性の高い診断結果を得ることができる。
【0135】
(実施の形態5)
本実施の形態5は、演算部30による
図6の演算方法として、所定の電圧増加に対する部分放電電荷量の増加量、あるいは所定の電圧減少に対する部分放電電荷量の減少量を用いるものである。そして、その結果に基づいて、絶縁余寿命を診断する。
【0136】
予め演算処理に用いる電圧増加幅を設定し、実施の形態1において得られた印加電界と部分放電電荷量の関係に基づいて、設定した電界増加幅に対する部分放電電荷量の増加量を導出し、その結果に基づき絶縁劣化を診断する。
【0137】
これにより、劣化レベルを分類した結果を基に実施の形態1に記載の方法により絶縁余寿命の推定を行う。なお、電界、部分放電電荷量共に、降圧時、すなわち電圧減少幅に対する部分放電電荷量の減少量、昇圧と降圧を組み合わせた場合を基に診断してもよい。
【0138】
以上により、測定者に依存せず定量的に絶縁劣化の診断を行うことが可能となる。
【0139】
(実施の形態6)
本実施の形態6では、評価指標として所定の部分放電電荷量の発生電界Eim,Eitの代替として、誘電正接の電圧特性から誘電正接増加電界を用いて診断する技術について説明する。
【0140】
誘電正接は、部分放電に比べて電気的なノイズに対して強いことが知られている。そのため、近傍で電気的なノイズが発生するなどにより発生電界Eim,Eitが検出困難な場合は、その代替として誘電正接増加開始電界Etanδim,Etanδitを用いる。
【0141】
誘電正接の増加開始点の導出には、
図21に示す印加電界に対する誘電正接特性を基に導出を行う。導出には、
図21のように低電界側の誘電正接特性と高電界側の誘電正接特性それぞれの近似直線の交点から導出するなどの方法を用いてもよい。
【0142】
本評価指標に関しても、実施の形態1と同様に予め基礎データとして絶縁破壊強度残存率との関係を取得しておき、発生電界Eim、または発生電界Eitを誘電正接増加開始電界Etanδim,Etanδitとそれぞれ置き換えて、実施の形態1と同様の処理によって診断を実施し、余寿命の推定を行う。
【0143】
以上により、電気的なノイズが多い環境でも、精度の高い余寿命診断を提供することができる。
【0144】
(実施の形態7)
本実施の形態7では、印加電界−部分放電電荷量特性、または自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値をフィンガープリント法などによるパターン認識により、劣化レベルの評価を行い、その結果に基づき絶縁余寿命を求めるものである。
【0145】
予め基礎データとして監視レベル、警戒レベル、および危険レベルの印加電界−部分放電電荷量特性、または自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値のパターンをそれぞれ蓄積しておき、測定結果と蓄積したデータをフィンガープリント法などのパターン認識により評価する。
【0146】
その評価結果に基づき、前記実施の形態1の技術によって絶縁余寿命の推定を行う。なお、印加電界−部分放電電荷量特性、および自然対数表示にした部分放電電荷量の印加電界に対する微分値の両方を用いて評価を行うと信頼性の高い結果を得ることができるが、どちらか一方のみを用いて評価してもよい。
【0147】
以上により、測定者に依存せず定量的に劣化レベルの評価を行うことが可能な絶縁診断方法を提供することができる。
【0148】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0149】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0150】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。