(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147157
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】抗C型肝炎ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/409 20060101AFI20170607BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20170607BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
A61K31/409
A61P31/14
A61P1/16
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-200930(P2013-200930)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67549(P2015-67549A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21〜25年度 独立行政法人科学技術振興機構 国際科学技術共同研究推進事業・地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】516105947
【氏名又は名称】堀田 博
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】堀田 博
【審査官】
砂原 一公
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−524970(JP,A)
【文献】
特開平09−071531(JP,A)
【文献】
国際公開第99/007364(WO,A1)
【文献】
NONAKA, Takashi. et al.,Advantages of laserphyrin compared with photofrin in photodynamic therapy for bile duct carcinoma,Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences,2011年,vol.18, no.4,p.592-600,DOI:10.1007/s00534-011-0377-6
【文献】
GUO, Haitao et al.,Alkylated porphyrins have broad antiviral activity against hepadnaviruses, flaviviruses, filoviruses, and arenaviruses,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2010年12月 6日,Vol.55, No.2,p.478-486,DOI: 10.1128/AAC.00989-10,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3028764/pdf/0989-10.pdf
【文献】
CHENG, Yao et al.,A Novel Class of meso-Tetrakis-Porphyrin Derivatives Exhibits Potent Activities against Hepatitis C Virus Genotype 1b Replicons In Vitro,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2010年,Vol.54, No.1,p.197-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/409
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/MARPAT/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノ-L-アスパルチルクロリンe6(NPe6)又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する、抗C型肝炎ウイルス(HCV)剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗HCV剤が、感染性HCV粒子阻害剤である、請求項1に記載の抗HCV剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロリンe6のモノ-L-アスパルチル誘導体(Mono-L-aspartyl chlorin e6:NPe6)を有効成分とする抗C型肝炎ウイルス(HCV)剤に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV:Hepatitis C Virus)はフラビウイルス科へパシウイルス属に属するRNAウイルスで、C型肝炎の原因となる。HCV慢性感染者は全世界で約1億8000万人と推定され、日本には約200万人いるといわれている。HCVは持続感染することが多く、慢性肝炎、肝硬変を引き起こす。肝硬変になると、適切に治療しない場合には、1年に4〜7%の割合で原発性肝細胞癌(肝臓癌)を発症するといわれている。現在において、わが国には約200万人のHCV持続感染患者が存在し、毎年、約12000人がHCVによる肝硬変で、また、約25000人がHCVによる肝臓癌で亡くなっている。つまりHCVは重篤な疾患を引き起こす原因ウイルスである。現在、多くのC型肝炎患者に対してインターフェロン(IFN)、及び抗ウイルス薬であるリバビリンを併用した治療方法が多用されている。しかしながら、IFNが効きにくいタイプのHCV感染者も多く、上記治療方法では治療効果が低いという問題点がある。またIFNは、患者に対して強い副作用を示すことも明らかになっている。そのため、HCVの感染拡大の防止及びHCVの撲滅に向けた、新規治療薬及び新規ワクチンの開発が急務となっている。さらに、C型肝癌や非代償性C型肝硬変の治療として今後症例数がますます増加すると予想される肝移植の後のHCV再感染を予防するためのHCV感染阻害薬の開発も求められている。臨床応用可能なレベルで感染性ウイルス粒子を阻害する物質で、臨床使用可能な認可済み医薬品は従来報告されておらず、今後の開発が期待されている。
【0003】
一方、B型肝炎ウイルス(HBV)、HCV、エイズウイルス(HIV)、デングウイルス(DENV)、マールブルグウイルス(Marburg virus: MARV)、 タカリベウイルス(Tacaribe virus: TCRV)及び フニンウイルス(Junin virus: JUNV)等のウイルスに対して、抗ウイルス作用を有する薬剤をスクリーニングし、アルキル基修飾ポルフィリンが広く抗ウイルス作用を示したことが報告されている(非特許文献1)。ここでは、Huh7細胞をHCV(HCV JFH-1株)で感染させ、細胞内でのHCV Coreタンパク質形成に及ぼす影響を確認したところ、クロリンe6がHCV Coreタンパク質の発現を抑制しうることが報告されている。また、細胞毒性を有することも報告されている。
【0004】
ポルフィリン誘導体のうち、光感受性物質であるモノ-L-アスパルチルクロリンe6(NPe6)について、吸収波長が長波長である腫瘍集積性が優れていることなど、その光生理、生化学的な性質から、癌に対する光線力学的治療(PDT)への応用が進められており、NPe6と同義のタラポルフィン製剤(商品名:レザフィリン
(R))が実用化されている(非特許文献2)。しかしながら、NPe6に関し、抗ウイルス作用に関する報告は一切ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Antimicrobial Agents and Chemotherapy 55: 478-486, 2011
【非特許文献2】Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences, 18: 592-600, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗HCV剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、光線力学的治療法用剤として既に認可されているモノ-L-アスパルチルクロリンe6(NPe6)に着目し、鋭意検討を重ねた結果、優れた抗HCV作用を示すことが確認され、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.NPe6又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する、抗HCV剤。
2.前項1に記載の抗HCV剤が、感染性HCV粒子阻害剤である、前項1に記載の抗HCV剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のNPe6又はその薬学的に許容しうる
塩を有効成分として含有する抗HCV剤は、クロリンe6と比較して、同等の抗HCV作用を示した。しかしながら、本発明のNPe6はクロリンe6に比べて細胞毒性が有意に低く、安全性に優れた製剤である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、NPe6又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する抗HCV剤に関する。本明細書においてNPe6又はその薬学的に許容しうる塩とは、クロリンe6のモノ-L-アスパルチル誘導体をいい、例えば以下の式(I)に示す化合物が挙げられる。式(I)に示す化合物は、タラポルフィンナトリウムともいう。有効成分としてのNPe6又はその薬学的に許容しうる塩は、合成により作製することができ、又はすでに市販されている製品を使用することができる。市販されている製品としては、例えばタラポルフィン製剤(商品名:レザフィリン
(R)、MeijiSeikaファルマ株式会社)が挙げられる。
【化1】
【0011】
本発明において薬学的に許容される塩とは、特に制限なく、当業者に公知の任意の塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などを挙げることが出来る。本発明の抗HCV剤は、有効成分として上述のNPe6又はその薬学的に許容しうる塩を含む他、他の化合物を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の抗HCV剤の剤型は特に限定されず、有効成分としてのNPe6又はその薬学的に許容しうる塩に当業者に公知の薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、滑沢剤及び着色剤などを適宜含ませることができる。本発明の抗HCV剤は、当業者に公知の任意の製剤調製方法で容易に調製することができる。例えば、適当な担体の例としては、ラクトース、デンプン、ショ糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール及びクロスカルメローズナトリウムなどを挙げることができる。或いは、適当な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、または、グルコース、無水ラクトース、自由流動ラクトース、ベータ-ラクトース及びトウモロコシ甘味料のような天然の糖、並びに、アラビアガム、グアーガム、トラガントもしくはアルギン酸ナトリウムのような天然及び合成のガム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、及びロウなどがある。又、これらの剤形に使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、及び塩化ナトリウムなどがある。
【0013】
抗HCV活性を有するものとして、例えばインターフェロン(IFN)-αやリバビリン、NS3セリンプロテアーゼ阻害剤が公知である。IFN-αは細胞の抗ウイルスタンパク質を誘導してHCVタンパク質の合成やHCV RNAの複製を阻害する。また、リバビリンの抗HCV活性はイノシン−リン酸脱水素酵素(IMPDH)の阻害に起因するといわれている。すなわち、IMPDHはプリンのde novo合成の律速酵素であることから、この酵素活性が阻害されると急速に細胞内のGTPプールが減少し、その結果、HCV RNAの複製が阻害されるものと考えられる。さらに、NS3セリンプロテアーゼ阻害剤はHCV特有のプロテアーゼを特異的に阻害し、HCV前駆体タンパク質の切断・成熟を抑制し、HCVの複製を阻害する。このように、従来の抗HCV剤はHCVの複製を抑制することで、抗HCV効果を発揮しうるものと考えられた。即ち、従来の抗HCV剤はウイルスの増殖を抑制することはできるが、感染性ウイルス粒子そのものに対して抗ウイルス作用を示すものではなかった。一方、本発明の抗HCV剤は感染性HCV粒子阻害剤としての機能を有するものと考えられる。
【0014】
本発明の抗HCV剤は、HCV許容性細胞にHCVを加え、HCV吸着段階、又はHCV感染成立段階に応じて本発明の抗HCV剤を培養細胞に添加し、HCVゲノム量やHCVタンパク量を測定し、抗HCV剤による影響を調べることで確認することができる。ここでHCV許容性細胞とは、HCVゲノムRNAの複製能及び/又はHCVが感染しうる細胞を意味する。HCV許容性細胞は、肝細胞又はリンパ球系細胞由来の細胞であるが、これらに限定されるものではない。肝細胞としては、具体的には初代肝細胞や、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞、IMY-N9細胞、HeLa細胞、293細胞などが挙げられ、リンパ球系細胞としてはMOLT4細胞や、HPB-Ma細胞、Daudi細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましいHCV許容性細胞としては、Huh7細胞、RCYM1RC細胞、5-15RC細胞、HepG2細胞及びそれらの細胞から派生した株化細胞などが挙げられる。特に好ましくはHuh7細胞から派生した細胞であり、このような細胞としては、例えばHuh7.5細胞やHuh7.5.1細胞、Huh7-it細胞などが挙げられる。
【0015】
HCV感染細胞のHCV粒子産生能は、公知の任意のウイルス検出法を用いて確認することができる。例えば、HCV許容性細胞の培養上清を、ショ糖密度勾配により分画し、ウイルス粒子を検出することができる。HCVが感染し、HCVゲノムRNAが複製された細胞は、HCVタンパク質を発現する。従って、HCV感染細胞を培養し、HCVタンパク質を検出することができれば、その細胞はHCVゲノムRNAを複製しているものと推定することができる。さらに、HCVタンパク質の検出は、公知の任意のタンパク質検出法に従って行うことができる。具体的には、Kaito, M. et al., J. Gen. Virol 75: l755-1760, 1994の方法により、検出することができる。ウイルス粒子産生能は、培養上清中の感染性ウイルス粒子の数を確認することで行うことができる。感染性ウイルス粒子を含む培養上清を非感染細胞に接種し、18〜48時間後、好ましくは約24時間後に細胞を固定して、HCVタンパク質に対する特異抗体を用いて免疫染色し、染色陽性細胞の数を計測することで、培養上清中の感染性ウイルス粒子の数を確認することができる。他にも、感染性ウイルス粒子を含む培養上清をEnzyme-linked Immunosorbent Assay(ELISA)法により抗HCV Coreタンパク質抗体を反応させ、検出することによって行うことができる。
【0016】
HCV感染細胞において複製されるHCV RNAの解析は、通常の分子生物学的方法で解析することができる。細胞からRNAを抽出する方法は、自体公知の方法によることができる。具体的には、ノーザンブロット法、リボヌクレアーゼプロテクションアッセイ法やRT-PCR法などを用いて、複製されたRNAの量又は配列を解析することができる。RNAの定量を行う場合はノーザンブロット法や定量RT-PCRで、RNAの配列を解析する場合はシークエンス解析法を用いることができる。
【0017】
例えば、上記の方法により、本発明の抗HCV剤の抗HCV作用を確認した結果、HCV粒子そのものに対して直接的に作用する強い抗ウイルス作用があると考えられた。また、ウイルス感染成立後においても有意な抗ウイルス作用があると考えられた。このことより、本発明の抗HCV剤の作用メカニズムは、従来の抗HCV剤とは異なる作用を有するものと考えられる。
【0018】
本発明の抗HCV剤、すなわちNPe6又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分とする医薬組成物をそのまま投与してもよいが、経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。
【0019】
経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0020】
本発明の医薬組成物の投与量は、症状の程度、投与経路、投与対象、服用者の年齢、体重などに応じて適宜決定することができる。本発明の医薬組成物は、数回にわたり投与してもよいし、複数回のクールに分け、一クール当たりの投与回数、投与間隔などを任意に設定することができる。例えば、経口投与の場合には有効成分としての抗HCV剤、すなわちNPe6又はその薬学的に許容される塩を成人一日あたり0.01〜1000mg程度の範囲で用いることができる。また、非経口投与の場合にはNPe6又はその薬学的に許容される塩を点滴剤として一回成人1mg〜100mg程度の範囲で、1日〜2週間の間隔で反復して用いることができる。
【実施例】
【0021】
本発明の理解を深めるために、本発明の内容を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことは明らかである。
【0022】
(実施例1)NPe6による抗HCV作用の確認
本実施例では、NPe6として、タラポルフィン製剤(商品名:レザフィリン
(R)、MeijiSeikaファルマ株式会社)を用いて、その効果を確認した。本実施例では、培養細胞として、Huh7細胞を用いた。培地は、10%牛胎児血清・非必須アミノ酸・ペニシリン・ストレプトマイシン添加Dulbecco's modified Eagle's培地を使用し、48ウェル培養プレートを用いて培養した。本発明の抗HCV作用を確認する実験のために使用するHCVストック液は、以下の方法で調製した。HCV株はJFH1株(ゲノム配列:GenBank accession number AB047639)を使用した。
【0023】
1.NPe6による抗HCV作用の測定
上記調製したHCVストック液(5.4×10
4 感染単位/ml)を様々な濃度のNPe6(モノ-L-アスパルチルクロリンe6)存在下でHuh7細胞に接種して37℃で2時間吸着させ、感染を成立させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、ウイルス接種時と同じ濃度のNPe6存在下で46時間培養した。また、感染性HCV RNAをエレクトロポレーションにより細胞に導入し、上記と同じ濃度のNPe6存在下で46時間培養した。比較例としてクロリンe6を作用させた。各物質は、0.1 μg/ml〜30 μg/mlで培養細胞に加えた。ウイルスは、多重感染価(multiplicity of infection; moi)が0.1となるように培養細胞に接種した。
【0024】
ウイルス産生能を確認するために、上記感染細胞培養液を10,000 rpmで3分間遠心し、その遠心上清を試料液とした。上記試料液をHCV非感染Huh細胞に接種し、24時間後に細胞を固定して、一次抗体としてHCVタンパク質に強く反応することが予め確認された患者血清、及び二次抗体としてAlexa488標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(Molecular Probe社)を用いて免疫染色して染色陽性細胞の数を計測し、HCV感染価を測定することでIC
50を算出した。
【0025】
本実施例では、培養細胞としてHuh7細胞を、また、HCV株としてHuh7細胞に適応したJFH1変異株を、それぞれ用いた。培地は、10%牛胎児血清・非必須アミノ酸・ペニシリン・ストレプトマイシン添加Dulbecco's modified Eagle's培地を使用し、48ウェル培養プレートを用いて培養した。また、感染性HCV RNAを試験管内転写反応により調製し、エレクトロポレーションによりHuh7細胞に導入して、HCV増殖を開始させた。
【0026】
HCVストック液(5.4×10
4 感染単位/ml)を様々な濃度のNPe6存在下でHuh7細胞に接種して37℃で2時間吸着させ、感染を成立させた後、ウイルス液を除き、培養液で3回洗浄後、ウイルス接種時と同じ濃度のNPe6存在下で46時間培養した。また、HCV遺伝子をエレクトロポレーションによりHuh7細胞に導入し、上記と同じ濃度のNPe6存在下で46時間培養した。比較例としてクロリンe6を作用させた。各物質は、0.1 μg/ml〜30 μg/mlで培養細胞に加えた。ウイルスは、多重感染価(moi)が0.1となるように培養細胞に接種した。
【0027】
2.NPe6による細胞毒性試験
Huh7細胞を、様々な濃度のNPe6で48時間培養後、生細胞中のミトコンドリア脱水素酵素によるテトラゾリウム塩(WST-1)のホルマザン色素への変換を基本とするWST-1試薬(細胞増殖試薬)を加えてさらに4時間培養した。細胞に取込まれたWST-1試薬は、ミトコンドリアの脱水素酵素により、フォルマザンに変換される。変換されたフォルマザンの量は生細胞数とほぼ相関する。変換されたフォルマザンの量を、マイクロプレートリーダーを用いて、450 nmと630 nmの吸光度を指標として測定した。薬剤で処理していない細胞の値を100とし、これを基準として、半数の細胞が障害される50%細胞障害濃度(CC
50)を算出した。
【0028】
上記の結果を表1に示した。「感染実験」では、ウイルス液と薬剤を混合して細胞に接種し、2時間のウイルス吸着後、46時間薬剤処理を継続して培養した。「Electroporation実験」では、ウイルス遺伝子RNAのみをHuh7細胞に導入し、46時間薬剤処理して培養した。その結果、NPe6による抗HCV作用(IC
50)は、「感染」と「Electroporation」のいずれの場合も、比較例のクロリンe6と同程度の作用を示した。
一方、細胞毒性については、本発明のNPe6が優れた効果を示した。これにより、本発明のNPe6は、安全性の高い抗HCV剤ということができる。
【0029】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上詳述したように、本発明のNPe6又はその薬学的に許容しうる塩は、安全性の高い優れた抗HCV剤ということができる。本発明の抗HCV剤は、その作用メカニズムの違いにより、公知の抗HCV剤と併用することで、より優れた効果を期待することができる。特に、C型肝癌や非代償性C型肝硬変の治療として今後症例数がますます増加すると予想される肝移植の後のHCV再感染を予防するためのHCV感染阻害薬としての利用価値は高く、しかもすでに臨床使用可能な認可済み医薬品であることから、産業上の利用可能性は相当高いものと考えられる。