【実施例】
【0039】
実施例1:神経因性疼痛の2つの動物モデルにおけるカンナビノイドの効果
材料及び方法
試験したカンナビノイドは、CBG、CBC、CBDV及びTHCVであった。加えて、カンナビノイドCBDがこの実施例において使用した神経因性疼痛の動物モデルにおいて正の結果を過去に示しているため、このカンナビノイドを使用した。カンナビノイドは、精製された大麻植物の全植物抽出物から調製した。カンナビノイドは、腹腔内(i.p.)投与のためにリンゲル液/0.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解した。
【0040】
雄性CD−1マウス(35g〜40g)を、制御された照明(12h:12hの明:暗サイクル。午前6時に点灯する)及び環境条件(室温20℃〜22℃、湿度55%〜60%)下で、ケージ当たり3匹、実験の開始前に少なくとも1週間収容した。マウス用の固形飼料及び水道水は自由に利用可能であった。実験手順は、ナポリ第二大学(Second University of Naples)の倫理委員会によって承認された。動物の世話は、IASP及び実験研究における動物の使用及び保護に関する欧州共同体(E.C. L358/1 18/12/86)ガイドラインに従った。動物の苦痛を最小限に抑え、使用した動物の数を低減するために、あらゆる努力を行った。
【0041】
外科処置後の値との比較のためのベースラインを確立するために、外科処置の前に行動試験を行った。単神経障害を、Bourquin and Decosterd (2006)の方法に従って誘導した。
【0042】
マウスを、ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg、i.p.)を用いて麻酔した。右の後肢を、側臥位に固定し、僅かに上げた。切開を、大腿骨を目印として使用して、中央の腿のレベルで行った。坐骨神経を、三枝分岐(trifurcation)より遠位の中央の腿のレベルで露出させ、結合組織から解放した。坐骨神経の3つの末梢枝(腓腹神経、総腓骨神経及び脛骨神経)を、神経構造を伸張させることなく露出させた。
【0043】
脛骨神経及び総腓骨神経の両方を、ともに結紮及び処置した。湾曲した先端を有する顕微外科処置用ピンセットを、脛骨神経及び総腓骨神経の下に慎重に配置して、神経の周りに糸(5.0シルク、Ethicon, Johnson, and Johnson Intl, Brussels, Belgium)を滑らせた。両方の神経の密接な結紮を行った。腓腹神経を、いかなる神経の伸張又は神経の外科処置器具との接触をも回避することによって、慎重に保存した。筋肉及び皮膚を、シルク5.0の縫合部を有する2つの相異なる層中に閉じ込めた。
【0044】
強く再現性があり長時間持続する熱的痛覚過敏症及び機械的アロデニア様の行動は、傷害を受けていない腓腹神経皮膚領域において測定可能である。SNIモデルは、傷害を受けた神経及び傷害を受けていない神経等の病変部より遠位に傷害を受けた神経線維及び傷害を受けていない神経線維の混合が存在しない明確な解剖学的分布という利点をもたらし、領域を、更なる解析(すなわち、行動評価)のために容易に特定及び操作することができる。
【0045】
擬似手順は、神経の結紮及び離断を含まない同じ外科処置からなるものであった。
【0046】
マウスの群を以下のとおりに分割した。試験した各カンナビノイドが、それぞれ以下のマウスの群を有する:
i)無処置対照マウス(n=8)、
ii)ビヒクルで治療した擬似手術マウス(n=8)、
iii)カンナビノイドで治療した擬似手術マウス(n=8)、
iv)ビヒクルで治療したSNIマウス(n=8)、
v)カンナビノイドで治療したSNIマウス(n=8)。
【0047】
カンナビノイドを、14日間毎日投与した。試験した全てのカンナビノイドの用量は2.5mg/Kg及び5.0mg/Kgであった。ビヒクル溶液は、0.5%のDMSOを含むリンゲル溶液であった。
【0048】
侵害受容性の行動
機械的アロデニアを、Dynamic Plantar Anesthesiometer(Ugo Basile, Varese, Italy)を使用することによって測定した。マウスを、金属メッシュ表面上に位置する閉鎖空間の2つの区画のうちの1つにおいて自由に運動させた。マウスを、いずれの測定を行う前にも、試験環境に順応させた。その後、機械的刺激を、自動試験装置によって試験チャンバーの床の下からマウスの後足の足底の表面に送達した。鋼ロッド(2mm)を電子的浮力(10秒で0g〜30g)を用いて押した。動物がその後足を引っ込めると、機械的刺激が自動的に取り除かれ、力を0.1gの桁に四捨五入して(to the nearest 0.1 g)記録した。
【0049】
熱的痛覚過敏症を、Plantar Test Apparatus(Ugo Basile, Varese, Italy)を使用することによって評価した。実験日に各動物を、ガラスの床を有するプラスチックのケージ(22cm×17cm×14cm(長さ×幅×高さ))に配置した。60分の馴化期間の後、後足の足底の表面を、ガラスの床を通じて放射熱のビームに曝露した。放射熱源は、赤外電球(Osram、halogen−bellaphot bulb、8V、50W)からなっていた。光電池は、足の動きが反射光を遮った時に、足から反射された光を検出し、ランプを消した。足引込め潜時は、0.1秒の桁に四捨五入して自動的に表示された。終了(cut-off)時間は、組織の損傷を防ぐために20秒であった。
【0050】
熱的感受性及び機械的感受性に関する侵害受容性応答を、熱的足引込め潜時(PWL)(単位:秒)及び機械的足引込め閾値(PWT)(単位:グラム)として表した。
【0051】
外科処置手順の前後の両方において応答を測定しており、各マウスがそれ自身の対照としての役割を果たした。PWL及びPWTは、治療内容を知らない観察者によって定量化された。
【0052】
統計解析
行動データ及び分子データは、平均値±S.E.Mとして示した。スチューデント・ニューマン・クールの事後検定を後で行うANOVAを使用して、群間の統計的有意性を決定した。P<0.01を統計的に有意とみなした。
【0053】
結果
機械的引込め閾値
図2、
図4、
図6、
図8及び
図10は、試験したカンナビノイド(それぞれ、CBC、CBG、CBDV、THCV、及びCBD(比較用))に関して得られた機械的引込め閾値データを示す。棒グラフは、動物にその後足を引っ込めさせるのに必要とされる重量(単位:グラム)を示す。明らかなように、試験したカンナビノイドの全てが、SNIを有する動物についてその動物がその足を引っ込めるまでに適用される重量を増大させることが可能であり、それによって、種々の度合いで、神経部分傷害後3日目、7日目及び14日目に機械的アロデニアを防ぐことが可能であった。5.0mg/kgの用量のカンナビノイドの投与を受けた動物においてより大きな効果が観察されたため、鎮痛効果は用量依存的であった。
【0054】
熱的引込め潜時
図3、
図5、
図7、
図9及び
図11は、試験したカンナビノイド(それぞれ、CBC、CBG、CBDV、THCV、及びCBD(比較用))に関して得られた熱的引込め潜時データを示す。棒グラフは、動物がその足を熱源から引っ込めるまでの時間(単位:秒)を示す。明らかなように、試験したカンナビノイドの全てが、SNIを有する動物についてその動物がその足を引っ込めるまでの時間を増大させることが可能であり、それによって、種々の度合いで、神経部分傷害後3日目、7日目及び14日目に熱的痛覚過敏症を防ぐことが可能であった。
【0055】
カンナビノイドCBC、CBG、THCV及びCBDに関しては、2.5mg/kg及び5mg/kgで治療した動物が同様の引込め潜時を有していた、又はより低い用量で最大の効果に到達しているため、効果は用量依存的ではないようである。
【0056】
しかしながら、カンナビノイドCBDVに関しては、用量依存的な効果が観察された。2.5mg/kgの用量で治療した動物は、神経傷害後3日目に対照群と同様の引込め潜時を有していた。しかしながら、5.0mg/kgの用量で治療した動物は、この群による神経傷害後14日目に無処置対照動物及び擬似対照動物と同様の引込め潜時を有する程度まで、足を熱源から引っ込めるまでの時間を増大させることが可能であった。
【0057】
データの組合せ
試験したカンナビノイドの有効性の度合いの差異を確認するために、以下の表に、この実施例において生成されたデータを表形式で記載する。
【0058】
以下の表1に、マウスにおける機械的引込め閾値に対するカンナビノイドによる治療の効果を記載する。
【0059】
【表1】
【0060】
上の表1から明らかなように、2.5mg/kgの用量のカンナビノイドのほとんどが、動物がその足を引っ込めるまでに適用される重量の僅かな増大を示し、この効果は、3日目から7日目を経て14日目まで経時的に増大するようである。しかしながら、2.5mg/kgの用量のカンナビノイドCBDVを用いると、3日目の時点でさえも機械的引込め閾値は劇的に増大し、このカンナビノイドが迅速に効果を示すことが可能であることを示唆するが、他のカンナビノイドは効果を示すのに1週間以上を要する。
【0061】
5.0mg/kgの用量では、THCVを除くカンナビノイドの全てが、動物がその足を引っ込めるまでに適用される重量を増大させることが可能であった。カンナビノイドCBC及びCBDは7日目に大きな増大を示した。しかしながら、この閾値は14日目の時点で再び減少した。
【0062】
驚くべきことに、これらのデータは、試験した両方の用量で、カンナビノイドCBDVが全てのカンナビノイドの中で最も高い機械的引込め閾値を有することが示されたことを実証する。カンナビノイドCBG及びTHCVも、これらはかなり高い機械的引込め閾値を有していたため、良好な効力を示した。しかしながら、カンナビノイドCBC及びCBDは、この用量での神経因性疼痛の治療において相対的に効果が小さいことが示された。この知見によって、カンナビノイドCBDV、THCV及びCBGが、この実験において使用された動物モデルによって引き起こされる神経因性疼痛を治療するその能力においてCBDよりも優れていることが実証される。
【0063】
以下の表2に、マウスにおける熱的引込め潜時に対するカンナビノイドによる治療の効果を記載する。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、2.5mg/kgの用量のカンナビノイドのほとんどが、動物がその足を引っ込めるまでの時間の僅かな増大を示し、この効果は、3日目から7日目を経て14日目まで経時的に増大するようである。3日目の時点では、2.5mg/kgの用量のCBGのみが熱的引込め潜時の幾らかの増大を有するようである。カンナビノイドTHCVに関しては、7日目の時点で大きく増大するようであり、引き続き、更に7日後には減少する。
【0066】
5.0mg/kgの用量では、カンナビノイドCBC、CBG及びCBDが、3日目の時点で、動物がその足を引っ込めるまでの時間を増大させることが可能であった。しかしながら、カンナビノイドによる1週間の治療の後、全ての試験群が熱的引込め潜時の増大を示した。THCV及びCBDVの両方が、14日間の治療後に大きな増大を示し、カンナビノイドの有効性が経時的に増大することを示唆した。
【0067】
驚くべきことに、これらのデータは、2.5mg/kgの用量では、カンナビノイドCBGが全てのカンナビノイドの中で最も高い熱的引込め潜時を有することが示されたことを実証する。カンナビノイドCBDV及びTHCVも、これらはかなり高い熱的引込め潜時を有していたため、良好な効力を示した。しかしながら、カンナビノイドCBC及びCBDは、この用量での神経因性疼痛の治療において相対的に効果が小さいことが示された。5.0mg/kgの用量では、カンナビノイドCBDV及びTHCVの両方が最も効果的であることが示された。この知見によって、カンナビノイドCBDV、THCV及びCBGが、この実験において使用された動物モデルによって引き起こされる神経因性疼痛を治療するその能力においてCBDよりも優れていることが実証される。
【0068】
ヒト等価用量(HED)は、以下の式を使用して評価することができる:
HED=動物用量(mg/kg)×(動物のK
m/ヒトのK
m)
マウスのK
mは3であり、ラットの値は6であり、ヒトのK
mは37である。
したがって、およそ60kgのヒトに関しては、マウスにおける2.5mg/kgの用量は、約12mgのヒトの1日量に等しいと考えられる。