(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施形態:
A−1.装置の基本構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、燃料電池スタック100の構成を概略的に示す外観斜視図である。
図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸を示している。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100がそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図2以降についても同様である。
【0019】
燃料電池スタック100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置された複数の燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」ともいう)102と、複数の発電単位102を上下から挟むように配置された一対のエンドプレート104,106とを備える。
図1に示す燃料電池スタック100に含まれる発電単位102の個数は、あくまで一例であり、発電単位102の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。なお、上記配列方向(上下方向)は第1の方向に相当する。
【0020】
燃料電池スタック100のZ方向回りの周縁部には、上側のエンドプレート104から下側のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる複数の(本実施形態では8つの)貫通孔108が形成されている。各貫通孔108に挿入されたボルト22とボルト22にはめられたナット24とによって、燃料電池スタック100を構成する各層は締め付けられて固定されている。
【0021】
各ボルト22の軸部の外径は各貫通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102に酸化剤ガス(各図において「OG」と表す)を供給する酸化剤ガス供給マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102から未反応の酸化剤ガス(以下、「酸化剤オフガス」といい、各図において「OOG」と表す)を排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する(
図2参照)。また、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における他の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102に燃料ガス(各図において「FG」と表す)を供給する燃料ガス供給マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102から未反応の燃料ガス(以下、「燃料オフガス」といい、各図において「OFG」と表す)を排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスとして例えば空気が使用され、燃料ガスとして例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0022】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、方形の平板形の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。各エンドプレート104,106のZ軸周りの周縁部には、上述したボルト22が挿入される貫通孔108に対応する孔が形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104(または上側のエンドプレート104に接続された別部材)は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106(または下側のエンドプレート106に接続された別部材)は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0023】
(発電単位102の構成)
図2から
図5は、発電単位102の構成を概略的に示す説明図である。
図2には、
図1、
図4および
図5のII−IIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、
図3には、
図1、
図4および
図5のIII−IIIの位置における発電単位102の断面構成を示しており、
図4には、
図2のIV−IVの位置における発電単位102の断面構成を示しており、
図5には、
図2のV−Vの位置における発電単位102の断面構成を示している。なお、
図2および
図3には、一部の断面を拡大して示している。
【0024】
図2および
図3に示すように、発電の最小単位である発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150のZ軸周りの周縁部には、上述したボルト22が挿入される貫通孔108に対応する孔が形成されている。
【0025】
インターコネクタ150は、方形の平板形の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレス等のCr(クロム)を含む金属により形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間でのガスの混合を防止する。なお、1つのインターコネクタ150は、2つの発電単位102に共用されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102における上側のインターコネクタ150、および、最も下に位置する発電単位102における下側のインターコネクタ150は省略可能である。
【0026】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0027】
電解質層112は、方形の平板形部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、X−Y平面で見た場合に電解質層112より小さい方形の平板形部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、X−Y平面で見た場合に電解質層112と同一の大きさの方形の平板形部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、固体酸化物を含む電解質層112を備える固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0028】
セパレータ120は、中央付近に方形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における貫通孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。なお、セパレータ120が接合された単セル110をセパレータ付き単セルともいう。
【0029】
図2から
図4に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に方形の貫通孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。空気極側フレーム130によって、空気極114とインターコネクタ150との間に空気室166が確保されると共に、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0030】
図2、
図3および
図5に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に方形の貫通孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。燃料極側フレーム140によって、燃料極116とインターコネクタ150との間に燃料室176が確保される。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0031】
図2、
図3および
図5に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、複数の電極対向部145と、各電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。具体的には、燃料極側集電体144は、方形の平板形部材に切り込みを入れ、複数の方形部分を曲げ起こすように加工することにより製造される。曲げ起こされた方形部分が電極対向部145となり、曲げ起こされた部分以外の穴あき状態の平板部分がインターコネクタ対向部146となり、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ部分が連接部147となる。なお、
図5における部分拡大図では、燃料極側集電体144の製造方法を示すため、複数の方形部分の一部の曲げ起こし加工が完了する前の状態を示している。各電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触し、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触する。そのため、燃料極側集電体144は、燃料極116とインターコネクタ150とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間に、例えばマイカにより形成されたスペーサ149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150との電気的接続が良好に維持される。
【0032】
図2から
図4に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えばフェライト系ステンレス等のCr(クロム)を含む金属により形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触することにより、空気極114とインターコネクタ150とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。空気極側集電体134、または空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、集電部材の一例である。また、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135は、空気極114に向けて突出する突出部の一例である。
【0033】
図2および
図3に示すように、空気極側集電体134の表面は、導電性のコート136によって覆われている。コート136は、Zn(亜鉛)とMn(マンガン)とCo(コバルト)とCu(銅)との少なくとも1つを含むスピネル型酸化物(例えば、Mn
1.5Co
1.5O
4やMnCo
2O
4、ZnCo
2O
4、ZnMnCoO
4、CuMn
2O
4)により形成されている。空気極側集電体134の表面へのコート136の形成は、例えば、スプレーコート、インクジェット印刷、スピンコート、ディップコート、めっき、スパッタリング、溶射等の周知の方法で実行される。なお、上述したように、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。そのため、実際には、空気極側集電体134の表面の内、インターコネクタ150との境界面はコート136により覆われていない一方、インターコネクタ150の表面の内、少なくとも酸化剤ガスの流路に面する表面(すなわち、インターコネクタ150における空気極114側の表面や酸化剤ガス供給マニホールド161および酸化剤ガス排出マニホールド162を構成する貫通孔108に面した表面等)はコート136により覆われている。また、空気極側集電体134に対する熱処理によって酸化クロムの被膜ができることがあるが、その場合には、コート136は、当該被膜ではなく、当該被膜が形成された空気極側集電体134を覆うように形成された層である。以下の説明では、特記しない限り、空気極側集電体134(または集電体要素135)は「コート136に覆われた空気極側集電体134(または集電体要素135)」を意味する。
【0034】
空気極114と空気極側集電体134とは、導電性の接合層138により接合されている。接合層138は、コート136と同様に、ZnとMnとCoとCuとの少なくとも1つを含むスピネル型酸化物(例えば、Mn
1.5Co
1.5O
4やMnCo
2O
4、ZnCo
2O
4、ZnMnCoO
4、CuMn
2O
4)により形成されている。なお、本実施形態では、コート136と接合層138とは、主成分元素が互いに同一であるスピネル型酸化物により形成されている。ここでいう主成分元素とは、スピネル型酸化物を構成する金属元素のことをいう。また、スピネル型酸化物の同定は、X線回折と元素分析を行うことで実現できる。接合層138は、例えば、接合層用のペーストが空気極114の表面の内、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の先端部と対向する部分に印刷され、各集電体要素135の先端部がペーストに押し付けられた状態で所定の条件で焼成されることにより形成される。接合層138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面と接触していると述べたが、正確には、(コート136に覆われた)空気極側集電体134と空気極114との間には接合層138が介在している。
【0035】
A−2.燃料電池スタック100における発電動作:
図2に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161に酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、酸化剤ガス供給マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を経て、空気室166に供給される。また、
図3に示すように、燃料ガス供給マニホールド171に燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、燃料ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を経て、燃料室176に供給される。
【0036】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134(およびコート136、接合層138)を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば摂氏700度から1000度)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器により加熱されてもよい。
【0037】
酸化剤オフガスOOG(各発電単位102において発電反応に利用されなかった酸化剤ガス)は、
図2に示すように、空気室166から酸化剤ガス排出連通孔133、酸化剤ガス排出マニホールド162を経て、燃料電池スタック100の外部に排出される。また、燃料オフガスOFG(各発電単位102において発電反応に利用されなかった燃料ガス)は、
図3に示すように、燃料室176から燃料ガス排出連通孔143、燃料ガス排出マニホールド172を経て、燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0038】
A−3.空気極側集電体134および接合層138の詳細構成:
図2および
図3に示すように、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の上下方向に平行な各断面において、接合層138は、空気極114と集電体要素135における空気極114と対向する面(以下、「底面BF」という)の中央部の一部との間の領域に存在するが、当該領域から外側(上下方向に直交する方向側)には延びていない。すなわち、集電体要素135は、接合層138に覆われた被覆部分PCと、接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有しており、かつ、露出部分PEは、集電体要素135の角部CPを含んでいる。換言すれば、集電体要素135の角部CPは接合層138に覆われていない。ここで、集電体要素135の角部CPは、
図2および
図3に示すような底面BFと側面LFとが共に単一の平面である形態では、底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。本実施形態では、接合層138が集電体要素135の底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135の側面LFも覆っていないため、集電体要素135の角部CPが接合層138に覆われていない。
【0039】
本実施形態では、集電体要素135の上下方向に平行な任意の断面において、
図2および
図3に示す断面と同様に、集電体要素135の角部CPが接合層138に覆われていない。すなわち、空気極114側から見ると、集電体要素135の角部CPの全周が接合層138に覆われていない。また、
図2および
図3には、空気極側集電体134を構成する一部の集電体要素135の構成を示しているが、本実施形態では、空気極側集電体134を構成するすべての集電体要素135について、同様に、集電体要素135の角部CPの全周が接合層138に覆われていない。このような構成は、燃料電池スタック100を製造する際に、接合層用のペーストを、空気極114の表面の内、各集電体要素135の底面BFの中央部と対向する領域に印刷し(底面BFの周縁部と対向する領域には印刷せず)、各集電体要素135の底面BFで接合層用のペーストを押し潰しても集電体要素135の角部CPが接合層用のペーストで覆われないよう状態とすることにより実現される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100では、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において、(コート136に覆われた)集電体要素135は、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135の角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有している。すなわち、各集電体要素135の角部CPの全周は、接合層138に覆われておらず、接合層138に接触していない。ここで、
図6に示すように、集電体要素135の角部CPは、底面BFに加えて側面LFも有する部分であるため、角部CP以外の部分と比較してより多くの拡散表面を有していると言える。また、集電体要素135を覆うコート136の厚さは、角部CPの位置で薄くなりやすい。特に、コート136の形成が、スプレーコート、インクジェット印刷、スピンコート、ディップコート、めっき、スパッタリング、溶射等の方法で実行される場合には、その傾向が顕著である。そのため、
図6に矢印で示すように、集電体要素135の角部CPでは、角部CP以外の部分と比較して、Crが放出されて拡散しやすい。集電体要素135から放出されたCrが接合層138の内部に進入すると、Crが接合層138の成分と反応して接合層138の導電性低下を引き起こしたり、Crが接合層138内を通って空気極114との界面まで達し、空気極114での電極反応速度が低下する「空気極のCr被毒」と呼ばれる現象を引き起こしたりすることがあるため、好ましくない。本実施形態では、各集電体要素135の角部CPの全周が接合層138に覆われていないため、各集電体要素135の角部CPが接合層138に覆われている構成と比較して、各集電体要素135の角部CPからコート136を通過してCrが放出されても、放出されたCrが接合層138の内部に進入することが抑制され、接合層138の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を効果的に抑制することができる。
【0041】
なお、集電体要素135の角部CPから放出されて空気室166内に拡散したCrが、接合層138の内部に進入したり空気極114の表面に付着したりするおそれはあるが、一般に空気室166内には酸化剤ガスの流れがあるため、空気室166内に拡散したCrが接合層138の内部に進入したり空気極114の表面に付着したりするおそれは、集電体要素135の角部CPと接合層138や空気極114とが接触している構成と比較して、小さいと言える。また、仮に空気極114の表面にCrが付着するとしても、主な導電経路である接合層138に覆われた空気極114の部分の表面にCrが付着する可能性は低いため、空気極114の電極反応速度低下の発生する可能性は低いと言える。
【0042】
また、本実施形態では、接合層138がスピネル型酸化物により形成されているため、集電体要素135の角部CPから放出されたCrが接合層138内に入り込んでも、接合層138をペロブスカイト型酸化物等の他の材料によって形成する場合と比較して、Crの影響による抵抗値の上昇の程度を低く抑えることができるため、接合層138の導電性が低下することをさらに効果的に抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、接合層138の形成材料であるスピネル型酸化物はZnとMnとCoとCuとの少なくとも1つを含むスピネル型酸化物である。ZnとMnとCoとCuとの少なくとも1つを含むスピネル型酸化物は、長期間、比較的高温環境におかれてもスピネル構造を維持しやすい材料であるため、接合層138がそのようなスピネル型酸化物により形成されていると、接合層138の導電性の低下を抑制できる効果を長期間維持することができる。
【0044】
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態における空気極側集電体134の周りの構成を示す説明図である。
図7には、空気極側集電体134の周囲の部分についてのZ軸およびY軸に平行な断面構成を示している。第2実施形態の構成の内、上述した第1実施形態の構成と同一構成については、同一の符号を付すことによって、その説明を省略する。
【0045】
第2実施形態では、接合層138aの構成が、第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態では、接合層138aにおける空気極114との接触面積は、接合層138aにおける(コート136に覆われた)集電体要素135との接触面積より大きい。そのため、接合層138aと空気極114との接触面積を大きくすることができ、接合層138aの導電性の低下をさらに効果的に抑制することができる。また、第2実施形態では、空気極114の電子を受け取る反応界面(接合層138aとの接触界面)が大きくなり、発電性能を向上させることができる。
【0046】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において、集電体要素135は、接合層138aに覆われた被覆部分PCと、集電体要素135の角部CPを含む部分であって接合層138aに覆われず接合層138aから露出している露出部分PEとを有している。すなわち、各集電体要素135の角部CPの全周が接合層138aに覆われていない。そのため、第2実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と同一の効果を奏する。
【0047】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態における空気極側集電体134の周りの構成を示す説明図である。
図8には、空気極側集電体134の周囲の部分についてのZ軸およびY軸に平行な断面構成を示している。第3実施形態の構成の内、上述した第1実施形態の構成と同一構成については、同一の符号を付すことによって、その説明を省略する。
【0048】
第3実施形態では、接合層138bの構成が、第1実施形態および第2実施形態と異なる。具体的には、第3実施形態では、接合層138bにおける空気極114との接触面積は、接合層138bにおける(コート136に覆われた)集電体要素135との接触面積より小さい。そのため、接合層138bによって空気極114の内部へのガス拡散が阻害されることを抑制することができるため、発電性能の低下を抑制することができる。
【0049】
なお、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において、集電体要素135は、接合層138bに覆われた被覆部分PCと、集電体要素135の角部CPを含む部分であって接合層138bに覆われず接合層138bから露出している露出部分PEとを有している。すなわち、各集電体要素135の角部CPの全周が接合層138bに覆われていない。そのため、第3実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と同一の効果を奏する。
【0050】
D.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
上記各実施形態では、
図2および
図3に示すように、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の底面BFと側面LFとが共に単一の平面であるが、必ずしもこのような形態である必要は無い。
図9は、変形例における空気極側集電体134cの周りの構成を示す説明図である。
図9には、空気極側集電体134cの周囲の部分についてのZ軸およびY軸に平行な断面構成を示している。なお、後述の
図10から
図13についても同様である。
図9に示す変形例では、空気極側集電体134cを構成する集電体要素135cの側面LFに突起BUが存在する。この変形例においても、集電体要素135cの角部CPは、集電体要素135cにおける底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。
図9に示す構成では、接合層138が集電体要素135cの底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135cの側面LFも覆っていないため、集電体要素135cは、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135cの角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有していると言える。
【0052】
図10は、他の変形例における空気極側集電体134dの周りの構成を示す説明図である。
図10に示す変形例では、空気極側集電体134dを構成する集電体要素135dの側面LFが平面ではなく曲面である。集電体要素135dの側面LFにおける底面BFとの境界付近は、集電体要素135dの外側に凸な曲面となっている。この変形例においても、集電体要素135dの角部CPは、集電体要素135dにおける底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。
図10に示す構成では、接合層138が集電体要素135dの底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135dの側面LFも覆っていないため、集電体要素135dは、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135dの角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有していると言える。
【0053】
図11は、他の変形例における空気極側集電体134eの周りの構成を示す説明図である。
図11に示す変形例では、空気極側集電体134eを構成する集電体要素135eの側面LFが平面ではなく曲面である。集電体要素135eの側面LFにおける底面BFとの境界付近は、集電体要素135eの内側に凸な曲面となっている。この変形例においても、集電体要素135eの角部CPは、集電体要素135eにおける底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。
図11に示す構成では、接合層138が集電体要素135eの底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135eの側面LFも覆っていないため、集電体要素135eは、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135eの角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有していると言える。
【0054】
図12は、他の変形例における空気極側集電体134fの周りの構成を示す説明図である。
図12に示す変形例では、空気極側集電体134fを構成する集電体要素135fの側面LFおよび底面BFが平面ではなく曲面である。集電体要素135fの側面LFにおける底面BFとの境界付近は、集電体要素135fの内側に凸な曲面となっている。また、集電体要素135fの底面BFにおける側面LFとの境界付近は、集電体要素135fの外側に凸な曲面となっている。この変形例においても、集電体要素135fの角部CPは、集電体要素135fにおける底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。
図12に示す構成では、接合層138が集電体要素135fの底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135fの側面LFも覆っていないため、集電体要素135fは、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135fの角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有していると言える。
【0055】
図13は、他の変形例における空気極側集電体134gの周りの構成を示す説明図である。
図13に示す変形例では、空気極側集電体134gを構成する集電体要素135gの底面BFが平面ではなく曲面である。集電体要素135gの底面BFは、1つまたは複数の平面または曲面から構成されているが、全体として下側に凸形状の面を構成している。この変形例においても、集電体要素135gの角部CPは、集電体要素135gにおける底面BFと側面LFとの境界付近の部分である。
図13に示す構成では、接合層138が集電体要素135gの底面BFの中央部のみを覆って周縁部を覆わず、かつ、集電体要素135gの側面LFも覆っていないため、集電体要素135gは、接合層138に覆われた被覆部分PCと、集電体要素135gの角部CPを含む部分であって接合層138に覆われず接合層138から露出している露出部分PEとを有していると言える。
【0056】
また、上記各実施形態では、燃料電池スタック100が複数の平板形の発電単位102が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば特開2008−59797号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
図14は、他の変形例における燃料電池スタックの構成を概略的に示す説明図であり、
図15は、他の変形例における燃料電池スタックを構成する燃料電池セル1の構成を概略的に示す説明図である。
図14および
図15に示すように、この変形例における燃料電池スタックは、複数の中空平板形の燃料電池セル1と、集電体20とを備える。燃料電池セル1は、中空平板状の支持基板10と、中空平板状の支持基板10の周囲に設けられた多孔質の燃料極2と、緻密な電解質層3と、多孔質の空気極4と、緻密なインターコネクタ5と、空気極材料層14とを備える。支持基板10は、内部に、燃料電池セル1の配列方向に交わる方向(セル長さ方向)に伸びた複数の燃料ガス通路16を有している。集電体20は、一方の燃料電池セル1の空気極4に接合層25により接合されると共に、隣設する他方の燃料電池セル1の空気極材料層14に接合層25により接合され、これにより、複数の燃料電池セル1が電気的に直列に接続される。空気極4の外側に酸化剤ガスが供給され、支持基板10内のガス通路16に燃料ガスが供給され、所定の作動温度まで加熱されると、燃料電池スタックにおいて発電が行われる。
【0057】
図16および
図17は、
図14および
図15に示した他の変形例の燃料電池スタックにおける集電体20の詳細構成を示す説明図である。
図16および
図17において、集電体20の下側に燃料電池セル1の空気極4が配置されているものとする。集電体20は、例えばCrを含む金属により形成され、その表面が導電性のコート203で覆われている。ここで、
図16および
図17に示すように、集電体20における空気極4に向けて突出する突出部の角部CPは、接合層25に覆われず接合層25から露出している。そのため、集電体20の突出部の角部CPが接合層25に覆われている構成と比較して、集電体20の突出部の角部CPからコート203を通過してCrが放出されても、放出されたCrが接合層25の内部に進入することが抑制され、接合層25の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を効果的に抑制することができる。
【0058】
また、上記各実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(SOEC)の最小単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2014−207120号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した各実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した各実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、貫通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、貫通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上記各実施形態と同様に、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において集電体要素135の角部CPが接合層138に覆われていない構成を採用すれば、Crが接合層138の内部に進入することが抑制され、接合層138の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を抑制することができる。
【0059】
また、上記各実施形態(または各変形例、以下同様)では、燃料電池スタック100(または電解セルスタック、以下同様)に含まれるすべての発電単位102(または電解セル単位、以下同様)について、空気極側集電体134を構成するすべての集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において角部CPが接合層138に覆われていないとしているが、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの発電単位102について、そのような構成となっていれば、当該発電単位102において、Crが接合層138の内部に進入することが抑制され、接合層138の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を抑制することができる。また、空気極側集電体134を構成する複数の集電体要素135の内、少なくとも1つの集電体要素135についてそのような構成となっていれば、当該集電体要素135の位置において、Crが接合層138の内部に進入することが抑制され、接合層138の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を抑制することができる。また、各集電体要素135の上下方向に平行な少なくとも1つの断面において角部CPが接合層138に覆われていない構成とすれば、各集電体要素135の上下方向に平行なすべての断面において角部CPが接合層138に覆われている構成と比較して、Crが接合層138の内部に進入することが抑制され、接合層138の導電性低下や空気極114の電極反応速度低下の発生を抑制することができる。
【0060】
また、上記各実施形態では、コート136および接合層138は、主成分元素が互いに同一であるスピネル型酸化物により形成されているが、主成分元素が互いに異なるスピネル型酸化物により形成されていてもよい。また、上記各実施形態では、コート136および接合層138は、ZnとMnとCoとCuとの少なくとも1つを含むスピネル型酸化物により形成されているが、これらの元素を含まないスピネル型酸化物により形成されていてもよい。また、上記各実施形態では、コート136および接合層138は、スピネル型酸化物により形成されているが、ペロブスカイト型酸化物等の他の材料により形成されていてもよい。
【0061】
また、上記各実施形態において、電解質層112は固体酸化物により形成されているとしているが、電解質層112は固体酸化物の他に他の物質を含んでいてもよい。また、上記各実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記各実施形態では、空気極側集電体134は、Crを含む金属により形成されているが、空気極側集電体134は、コート136により覆われていれば他の材料により形成されていてもよい。また、空気極側集電体134を構成する各集電体要素135の形状は、四角柱状に限らず、インターコネクタ150側から空気極114側に突出するような形状であれば他の形状であってもよい。
【0062】
また、上記各実施形態において、電解質層112と空気極114との間に、例えばセリアを含む反応防止層を設け、電解質層112内のジルコニウム等と空気極114内のストロンチウム等とが反応することによる電解質層112と空気極114との間の電気抵抗の増大を抑制するとしてもよい。また、上記各実施形態において、空気極側集電体134と、隣接するインターコネクタ150とが別部材であってもよい。また、燃料極側集電体144は、空気極側集電体134と同様の構成であってもよく、燃料極側集電体144と、隣接するインターコネクタ150とが一体部材であってもよい。また、空気極側フレーム130ではなく燃料極側フレーム140が絶縁体であってもよい。また、空気極側フレーム130や燃料極側フレーム140は、多層構成であってもよい。
【0063】
また、上記各実施形態では、エンドプレート104,106が出力端子として機能するとしているが、エンドプレート104,106の代わりに、エンドプレート104,106のそれぞれと発電単位102との間に配置された導電板が出力端子として機能するとしてもよい。また、上記各実施形態では、各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間の空間を各マニホールドとして利用しているが、これに代えて、各ボルト22に軸方向の孔を設け、その孔を各マニホールドとして利用してもよいし、各マニホールドを各ボルト22が挿通される各貫通孔108とは別に設けてもよい。