(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147675
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】パワーエレクトロニクスモジュールの構成要素を接合するためのペーストおよび方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20170607BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20170607BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20170607BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20170607BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20170607BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20170607BHJP
B23K 101/42 20060101ALN20170607BHJP
【FI】
B23K35/363 E
B23K35/363 C
B23K35/363 D
B23K1/00 330E
B23K31/02 310B
H05K3/34 507M
H05K3/34 512C
!B23K35/26 310A
!C22C13/00
B23K101:42
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-555804(P2013-555804)
(86)(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公表番号】特表2014-511279(P2014-511279A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】EP2012000978
(87)【国際公開番号】WO2012116846
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年2月26日
(31)【優先権主張番号】102011013172.8
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598080163
【氏名又は名称】フラウンホッファー−ゲゼルシャフト ツァー フェーデルング デア アンゲバンテン フォルシュング エー ファー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オッパーマン、ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ヒュッター、マティアス
(72)【発明者】
【氏名】エアハルト、クリスティアン
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−168293(JP,A)
【文献】
特開2003−211289(JP,A)
【文献】
特表2010−516478(JP,A)
【文献】
特開平02−194632(JP,A)
【文献】
特開昭56−094796(JP,A)
【文献】
特許第4753090(JP,B2)
【文献】
特開平07−303981(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0066681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/22
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーエレクトロニクスモジュールの構成要素を接合するためのペーストであって、
半田粉末と、
金属粉末とを備え、
加熱段階の前に、バインダによって前記半田粉末および前記金属粉末が結合され、
前記バインダは、フラックスを含まない、または、前記バインダ中の比率が5質量%未満で、L0型のフラックスまたはロジンであるフラックスを含むペースト。
【請求項2】
前記半田粉末は、半田ベースとして、すず、インジウムもしくはガリウムを含む、または、すず、インジウムもしくはビスマスの混合物を含む、請求項1に記載のペースト。
【請求項3】
前記金属粉末は、銅、銀、ニッケル、パラジウム、プラチナまたは金を含む請求項1または2に記載のペースト。
【請求項4】
前記フラックスを含まない前記バインダは、少なくとも、1つのアルコール、1つのアルカンまたは1つのフェノールを含む請求項1から3の何れか一項に記載のペースト。
【請求項5】
前記バインダは、純粋なロジンを含む請求項1または2に記載のペースト。
【請求項6】
前記半田粉末および前記金属粉末は、25質量%:75質量%から最大80質量%:20質量%の比率で存在する請求項1から5の何れか一項に記載のペースト。
【請求項7】
前記バインダと、前記半田粉末及び前記金属粉末の合計とが、2質量%:98質量%から最大25質量%:75質量%の比率で存在する請求項1から6の何れか一項に記載のペースト。
【請求項8】
前記金属粉末の平均粒子サイズは、1μmから50μmの間である請求項1から7の何れか一項に記載のペースト。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載のペーストを使用して、パワーエレクトロニクスモジュールの構成要素を接合する方法であって、
前記ペーストを、第1構成要素の一領域に塗布する段階と、
第2構成要素を、ペーストが塗布された前記一領域に圧接して、前記半田粉末を溶融する段階と、
前記半田粉末を溶融する段階の後に、前記第1構成要素および第2構成要素を活性雰囲気下で加熱して、前記ペーストの構成要素を再溶融し、前記バインダが揮発する段階と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーストに関し、望ましくは、電子モジュールの部品を接合するのに使用されるペーストに関する。ペーストは、半田粉末、金属粉末およびバインダを含み、半田粉末および金属は、加熱段階の前に結合される。本発明はまた、パワーモジュールを結合するためのペーストの利用に関し、上記のようなペーストを使用して電子モジュールの部品を結合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクスのモジュールの場合、廃熱を放熱させて温度上昇を抑えるために、パワー半導体と基板との間、及び、基板とベースプレートの間に、非常に良好な熱伝導性が必要とされる。パワー半導体の動作時には、温度変化及び固定されたスイッチング周期により、負荷が発生する。しかしながら、半田付けによる接合の場合、疲労により、この負荷が初期故障につながる。
【0003】
高温電子機器の分野では、周囲環境が160℃を超え、アプリケーションによっては、200℃又は300℃の温度に達する場合がある。しかしながら、一般的な鉛フリー軟質半田は、最高で160℃までしか使用できない。加えて、負荷が変化するとクリープ速度が急激に増加して、大きなクリープ歪みが急速に蓄積されることから、半田には大きな機械的負荷が掛り、疲労から故障につながる可能性が高くなる。
【0004】
鉛を多く含む半田の使用は禁止されていることから、鉛フリー軟質半田が、半導体と基板との接合及びベースプレートとの接合に標準的に使用されているが、疲労の結果、媒体積載がショートした後に、故障につながる。この問題を解決する一つの手段としては、パワー半導体の容量を適切に調整すること、すなわち、パワーモジュールを最大電力で動作させないことが挙げられる。
【0005】
上記の問題を解決する別の手段としては、焼結銀を使用して、疲労強度を上げることが挙げられる。しかしながら、銀の材料費は高く、段階能力が制限されてしまうことから、この解決方法の実装は不利益となる場合がある。別の解決手段としては、古くから知られているが、融点が高く軟質半田より硬い、金を多く含有する半田(AuSn、AuGe、AuSiまたはAuIn)を使用することが挙げられる。しかしながら、金の価格は高く、製造コストの増加につながる。
【0006】
別の解決手段として、過渡液相接合が挙げられ、これは、半田を溶融して、高い融点の金属と反応させて、より高い融点を有する金属間相へと変化させる。これは、半田付け段階の間に起こる(等温硬化または"化学的硬化"とも称される)、または、半田を硬化させた後のテンパリングの間にも拡散段階の結果、起こる。過渡液相接合の場合、2つの基本的な方法が存在する。a)高融点金属の金属層を接合される部材に設ける、すなわち、基板とパワー半導体との間の接合点または基板とベースプレートとの間の接合点に金属層を設ける。半田で金属層を濡らし、エッチングして、その一部を金属間相へと変化させる。従来技術では、拡散段階が非常に高温で長時間行われることから、この方法では、薄い金属間層しか形成することができなかった。b)高融点金属を粉末状にして、半田粉末と混合し、この混合粉末中の半田が溶融すると、金属粉末が半田で濡れてエッチングされ、金属間相へと変化する。この場合、a)の方法よりも厚みの大きな接合層を形成することができる、すなわち、様々なモジュール間の接合部に不均一な隙間が存在しても、これを充填することが可能である。
【0007】
しかしながら、b)の方法であっても、半田が金属粉末を濡らして金属間相が即時に生成されるが、金属粉末の粒子が接点に固定されてしまうという問題がある。一方、溶融半田は、金属粉末粒子間の隙間を充填にするのに十分ではない。したがって、接合部には、比較的大きな多数の空洞が形成されてしまい、接合層の電気的および機械的耐性が低減する。
【0008】
製造者の中には、例えば、エポキシドのようなポリマーを、半田または金属粉末に組み込んで、ポリマーをフラックスとして使用している。ポリマーは、接着剤のように空洞を充填して、接合される部材間の接着性を改善する。しかしながら、接合層の耐熱性はポリマーによって向上するものの、ポリマーは高温では安定ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、パワーエレクトロニクスモジュール間の安定した、上記のような問題点が解決された結合を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、請求項1および請求項10の特徴に係るペーストを使用すること、および、請求項11に係る方法によって達成される。
【0011】
本発明によれば、ペーストは、半田および金属粉末に加えて、フラックスフリーバインダまたは活性の低いフラックスのみを含むバインダを含む。
【0012】
本発明に係る方法では、型板またはスクリーンを使用して、基板もしくはベースプレート、または、パワーエレクトロニクスモジュールの別の構成要素上に混合されたペーストを付着させる。これに替えて、ペストを塗布またはスプレー塗布してもよい。ペーストが付着した第1構成要素を、第2構成要素に結合させる。これには、第2構成要素を第1構成要素に圧接させるが、第1構成要素と第2構成要素との間の接点には、ペーストが塗布された領域が含まれる。半田粉末を、第1溶融段階で溶融させる。この時、第1構成要素および第2構成要素を接合する接合装置は、圧力をかけた状態でペースト内の半田粉末を溶融する加熱ツールを備える。このような態様で、複数の構成要素を連続して同じ基板上で予備組立てすることができる。
【0013】
第1溶融段階において、半田の一部が、第1構成要素および/または第2構成要素に設けられているまたは設けられていない場合ももある金属部分を濡らし、金属粉末を金属部分上に固定する。付与される圧力によって混合粉末を予圧し、溶融段階において粉末が圧縮される。バインダは、フラックスを含まない、または、活性の低いフラックスを含むことから、液状の半田は、最初は金属粉末を濡らすのではなく、金属粉末の個々の粒子間に金属間相の半田ブリッジが即時に形成される。この場合、固体構造が形成されないことから、ペーストは初期段階では圧縮可能である。
【0014】
このようなペースト、及び、ペーストを使用した電子部品接合方法により、第1構成要素と第2構成要素との間に接合層が形成され、接合層の耐熱性は低いものの、温度変化耐性及び温度安定性は高い。したがって、鉛フリーソフト半田と比較して、格段の改良を達成できる。また、金を含有する半田、または、焼結銀を使用した接合と比較して、低コストである。溶融段階の間に、半田粉末がすぐに金属粉末の粒子を濡らさないことから、接合部の隙間で再溶融したペーストが空洞や孔が実質的にない状態で存在するような態様で第1構成要素と第2構成要素との接合が形成され、接合の品質が格段に向上する。
【0015】
方法またはペーストの更なる実施形態が、従属請求項および/または以下に記載される。
【0016】
ペーストの一実施形態では、半田粉末は、半田ベースとして、すず、インジウムまたはガリウムを含む。これ替えて、半田粉末は、すずとインジウムまたは、すずとビスマスのような様々な半田ベースの混合を含んでもよい。例えば、すずベースの半田として、SnCu、SnIn、SnZn、SnSb、Sn100、SnAgおよびSnAgCuが可能である。インジウムベースの半田の例として、AgInおよびCuInが挙げられる。ガリウムベースの半田の例として、CuGa、NiGaおよびAgGaが挙げられる。様々な半田のなかには、SnBiまたはBiInのように、半田粉末の1つの成分のみが金属間相を形成するものが存在し、別の成分はこのような相にならない。したがって、例えば、融点が271℃であるビスマスのような場合には、ペーストの融点をわずかに上昇させることができる。
【0017】
すず、インジウムまたはガリウムをベースとする半田の利点は、入手が容易であり、半田粉末を低コストで取得できることが挙げられる。
【0018】
更なる実施形態では、金属粉末は、銅、銀、ニッケル、パラジウム、プラチナまたは金を単体で、または、合金として含む。例えば、CuSn、SuMn、CuAl、CuZn、NiFe、AgPdおよびCuAgを、好適な合金として使用することができる。経済的な観点および金属間相の形成が良好に進むことから、上記したような金属又は合金のうち、銅ベースの金属粉末が特に有用である。例えば、銅ベースの金属粉末の場合、短時間で金属間相に遷移する。
【0019】
フラックスフリーバインダを使用する場合、更なる実施形態では、フラックスフリーバインダは、少なくとも1つのアルコール、1つのアルカンまたは1つのフェノールを含む。一価アルコールまたは多価アルコールのようなアルコールをバインダが使用する場合、ペーストの粘度を容易に調整することができる。この場合、ペーストを、例えば、印刷、スタンピングまたは吐出によって容易に塗布できるように、および、上記の第1溶融段階の間にアルコールが残留物を残すことなく揮発するような態様で、ペーストの粘度が選択される。第1構成要素と第2構成要素との間での半田材料の接着性が十分であり、高融点金属粉末が接合した状態に保たれる範囲に限って、還元剤の作用が望ましい。この時、接合部の隙間内に多孔質の充填剤が配置されることが望ましく、これにより、ガス状の還元剤を流入させることができる。これに替えて、または、バインダとしてのアルコールと組み合わせて、多価のアルカンまたはフェノールをバインダとして使用することができる。
【0020】
本願では、フラックスとは、表面還元性を有する化学物質を指し、すなわち、金属上の酸化層を溶解するのに好適な化学物質を指す。反対に、フラックスフリーバインダ、または、フラックスでないバインダの成分とは、還元性を有さない。
【0021】
弱い活性を有するフラックスを使用したバインダが望ましく、例えば、L0型のフラックスを使用したバインダが望ましい。この種のバインダは、規格IPC J-STD-004に規定されている。本発明に係る方法では、L0型の活性よりも強い活性を示すフラックスは使用されない、または、ほんの少量または微量存在するのみである。
【0022】
バインダにおけるフラックスの重量パーセントは、望ましくは、5重量%未満、より望ましくは、3重量%未満である。この重量比において、望ましくは、フラックス全量のうち、L0型とは異なる種類のフラックスは、20重量%未満(すなわち、バインダ全量のうちの1重量%未満または0.6重量%%未満)である。L0型以外の種類のフラックスがほとんど含まれないことが特に望ましく、全体として活性化度の低いフラックスであることが望ましい。この場合、微量含まれるものとして、L0型以外のフラックスが少量含まれることを意味し、わずかに含まれるL0型以外のフラックスによって半田の金属粉末が非常に少量還元されるが、これは全体に起きるのではなく、局所的な態様で起きる。すなわち、最初の再溶融段階において、電子部品またはパワーエレクトロニクス部品に圧力が印加される間に、フラックス還元作用を示すことはない。
【0023】
弱い活性を示すフラックスを使用したバインダが利用される場合、ロジン、特に、純粋なロジンをフラックスとして使用するのが望ましい。上記の例とは異なり、フラックスを含むバインダの場合、弱い活性を有する化学物質が使用される場合には、酸化物の溶解が遅くなるにすぎず、金属粉末が半田によって濡れることが、第1溶解段階においてさまたげられることに変わりない。
【0024】
ペーストは、半田粉末、金属粉末、および、フラックスフリーまたは低い活性を有するフラックスのみを含むバインダのみから構成されるのが望ましい。詳細には、第1加熱段階の前に、これら3つの構成要素によって、ペーストの100重量%が構成されることが望ましい。
【0025】
別の一実施形態では、半田粉末と金属粉末の比率が、25重量%:75重量%から80重量%:20重量%の間である。半田粉末と金属粉末との比率は、所望の金属間相の構成に近ずくように選択される。しかしながら、半田が上記の比率より多い場合は、良好な空洞の充填を得るのに役立つ。高融点を有する金属粉末が多くなる場合は、接合層に含まれる金属を残し、残りの半田屑の比率を下げることにつながる。ランダムに金属粉末が分布している場合には、半田屑は局所的に存在する場合が多い。
【0026】
更なる別の実施形態では、半田粉末および金属粉末の合計量に対するバインダの比率は、2重量%:98重量%から最大で25重量%:75重量%である。ペーストの粘度、および、溶融した半田の流動挙動は、比率に応じて影響を受ける。
【0027】
更なる一実施形態では、金属粉末、半田粉末およびバインダの比率は、生成されるペーストが、200℃を超える、望ましくは、300℃を超える融点を有するように選択される。ハイパワーエレクトロニクスの分野で生じるこのような温度に設定することによって、半田はじきにつながらない。
【0028】
ペーストは、望ましくは、パワーエレクトロニクス分野における様々な部品を接合するのに使用される。この場合、パワー半導体と基板、または、基板とベースプレートとを、ペーストを使用して接合することができる。
【0029】
この場合、基板、半導体またはベースプレートが、ペーストの金属粉末に対応する金属部分を含むことが望ましい。第1溶融段階の場合、金属部分が半田で濡れて、ペーストの金属粉末が固定される。バインダが、フラックスを含まない、または、弱い活性を有するフラックスのみを含むことから、液相の半田によって金属粉末が濡れるのが妨げられ、金属間相から形成される強固なブリッジが即時に形成される。したがって、ペーストが圧縮可能な状態に保たれる。
【0030】
方法の一実施形態では、第1構成要素及び第2構成要素の第1の加熱段階の後、すなわち、ペースト内の半田粉末が溶融して金属粉末が固定された後に、第2構成要素と接合された第1構成要素を、第2加熱段階において活性雰囲気下、例えば、ギ酸を含む雰囲気下で、炉内で加熱を行い、再び溶融させる。その結果、金属粉末及び半田粉末は還元されて、金属粉末がより完全に半田で濡れて、金属間相への転換が起こる。転換の程度は、金属粉末の大きさ、半田の温度、半田時間および金属粉末の割合に依存する。転換が完全に行われない状態が継続される場合も考えられ、この場合、次に行われる加熱によって転換が完了する。
【0031】
金属粉末の粒子サイズとしては、望ましくは、平均粒子サイズが、1μmから50μmの間であり、望ましくは、3μmから30μmの間から選択される。
【0032】
第1構成要素及び第2構成要素の第1加熱段階の間に、これら構成要素は互いに接合される。第2溶融段階が行われる場合には、第1溶融段階と第2溶融段階との間に、通常、酸化層の還元が行われる。ガス状の還元剤を還元剤として使用することができ、この場合、ガス状の還元剤が多孔質の接合部の隙間に深く入り込み、酸化層を還元する。このようなガス状の還元剤としては、例えば、水素、一酸化炭素、または、ギ酸または酢酸のようなガス状の有機酸が好適である。酸化層が還元されるまでの反応時間は、還元ガス、温度、酸化物、および、接合層における孔の大きさに依存する。反応時間は、数分から数時間の範囲であり、例えば、酸化銅および酸化銀は容易に還元されるが、ニッケルの還元は容易ではないといったように、酸化金属の種類によって異なる還元能力を有することを考慮して、反応時間が決められる。
【0033】
半田の第2溶融段階を行う場合、高融点金属粉末、および、第1構成要素と第2構成要素との接合面が半田で濡れて、空洞は、液相の半田によって最大限充填される。半田と高融点金属粉末との間での反応が、再溶融によって、金属間相の形成および半田の消費につながる。半田の大部分が変換されると、再溶融点が高温にシフトする。半田粉末の残留量が低くなっても、第1構成要素と第2構成用との接合のための金属間相の形成された構造によって、局所的な溶融につながるだけであり、急に、機械的特性及び電気的特性が損なわれるわけではない。
【0034】
本発明に係るペーストを使用することにより、接合層によって第1構成要素と第2構成要素とを接合することが可能となり、接合層は局所的にのみ空洞を有する。局所的な空洞とは、望ましくは、空洞を内包するように形成された接合層の、望ましくは、5体積%未満、より望ましくは、3体積%を空洞が占めることと理解され、100体積%とは、第1構成要素と第2構成要素との間の接合部の隙間の堆積を表す、または、空洞を含む接合層の全体積を表す。すなわち、接合層は、その95体積%を超える部分、または、97体積%を超える部分が、溶融金属粉末、半田粉末および第1構成要素または第2構成要素の金属部分から構成されている。例えば、ポリマーによる空洞部の充填は必要ない。
【0035】
以下、具体的な例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】接合層を介して互いに接続される第1構成要素および第2構成要素からなるシステムが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る接合層は、再溶融段階の後に残るペーストの構成要素から形成される。すなわち、金属粉末、半田粉末および微量のバインダから形成され、適用可能な場合には、弱い活性を有するフラックスを含むバインダが使用される。微量のバインダは、再溶融段階において揮発しない成分である。
【0038】
[例1]
本発明に係るペーストの変形例は、半田粉末、金属粉末および様々なアルコールの混合物から構成される。半田粉末は、SnAg4Cu0.5である。金属粉末はCuであり、約10μmの直径を有する小さなボール形状で存在する。混合物では、様々なアルコールをバインダとして使用しており、本例の場合、ブタノールとテルピネオールが1:2の比率で混合されている。バインダは、フラックスを含有しない
。ペーストは、更なる構成要素を含まない。
【0039】
混合段階の後、半田粉末および金属粉末は、重量比60:40の割合で存在する。すなわち、半田粉末と金属粉末との組み合わせのうち、すずベースの半田が60重量%、および、銅が40重量%である。
【0040】
例1のペーストが、次いで、セラミックベースの基板および銅の金属部分に押し付けられて、全面に銅配線を有するIGBTチップが、ボンディング装置の加熱ツールを使用して加圧することにより、基板に設けられる。加圧および加熱により、すすベースの半田粉末が溶融する。半田粉末が溶融すると、基板の金属部分及びIGBTの金属配線がの一部が半田で濡れて、銅の粉末が固定される。バインダは、フラックスを含まないので、液体のすずベースの半田が銅のボールを濡らすのを妨げ、金属間相から強固なブリッジが即時に形成される。例えば、ベースプレート、基板およびパワーモジュールのように構造要素の異なる積層体の場合、個々の構造要素を連続して予備組み立てすることができる。第1溶融段階の後、セラミックベースの基板が、予備組立されたIGBTチップと共に、活性雰囲気下で炉内で加熱されて、再溶融させる。銅及びすずベースの半田が還元されて、銅のボールがほぼ完全にすずベースの半田によって濡らされて、銅/すずベースの金属間相に変換される。第2溶融段階の間に、銅のボール間の空洞の大部分が半田によって充填される。その結果および金属間相の形成の結果、基板とIGBTチップとの間に、局所的にのみ空洞を含む接合層が形成される。機械的特性および電気的特性が、大幅に損なわれることはない。この場合、局所的な空洞は、望ましくは、接合部の隙間の5体積%未満、特に望ましくは、3体積%未満を占める。接合部の隙間または接合層の残りの95体積%(または97体積%)は、銅および半田成分によって充填されており、上縁は、金属部分の構成要素で充填される。空洞内にポリマーの充填剤は設けられない。
【0041】
第1構成要素と第2構成要素との間に形成される接合層が
図1に示されている。金属配線2を有するIGBTチップ1が、セラミック基板3に貼り付けられ、第1再溶融段階および第2再溶融段階の前に、ペーストが基板に押し付けられる。上記の再溶融段階の後、図示される接合層4が生成され、接合層は、銅及び半田構成要素から形成されている。接合層4に含まれる空洞部の割合は低く、接合部の隙間6の体積に基づく空洞部5の割合は、5体積%である。接合部の隙間の体積は、高さHおよび構成要素の領域Fによって規定され、H×Fが、隙間の100体積%に対応する。この場合、接合層は、接合部の隙間の100体積%よりも少ない割合を占める。この場合、空洞部が占める5体積%は、空洞部を含む接合層に基づいて計算される。接合層はそれ自体で十分な安定性を有することから、空洞部を充填する、例えば、ポリマーのような充填剤は必要ない。
【0042】
[例2]
金属粉末が銀のボール(Ag粒子)(または、Cu粒子およびAg粒子の混合)であり、バインダにロジンが3重量%含まれる以外は、例1のペーストと同様の構成を有する。
【0043】
本明細書に記載したように半田粉末と金属粉末の比率を変更することにより、例1および例2の変形例を生成することができる。
【0044】
本発明に係るペーストおよびペーストを塗布する方法は、特に、電子モジュールの製造、特に、パワーエレクトロニクスの分野において、半導体またはパワー半導体をDCB基板上に組み立てる場合、および、ベースプレート上にDCB基板を組み立てる場合に好適である。この種のモジュールは、エレクトロモビリティーが進む自動車や、送電システム、および、高出力装置の接続で使用されている。この種の構成要素は、高温電子部品およびセンサ技術のモジュールで使用可能である。他にも、例えば、LEDモジュールや電子点火システムのような発光デバイス技術でも使用可能である。
本実施形態の例を下記の各項目として示す。
[項目1]
望ましくは、パワーエレクトロニクスモジュールの構成要素を接合するためのペーストであって、
半田粉末と、
金属粉末とを備え、
加熱段階の前に、バインダによって前記半田粉末および前記金属粉末が結合され、
前記バインダは、フラックスを含まない、または、活性の低いフラックスを含むペースト。
[項目2]
前記バインダが前記フラックスを含む場合、
前記フラックスの前記バインダ中の比率が、5重量%未満であり、望ましくは、前記フラックス中のL0型以外のフラックスの割合が、20重量%未満である項目1に記載のペースト。
[項目3]
前記半田粉末は、半田ベースとして、すず、インジウムもしくはガリウムを含む、または、すず、インジウムもしくはビスマスの混合物を含む、項目1に記載のペースト。
[項目4]
前記金属粉末は、銅、銀、ニッケル、パラジウム、プラチナまたは金を含む項目1から3の何れか一項に記載のペースト。
[項目5]
前記フラックスを含まない前記バインダは、少なくとも、1つのアルコール、1つのアルカンまたは1つのフェノールを含む項目1から4の何れか一項に記載のペースト。
[項目6]
弱い活性のフラックスを有する前記バインダは、ロジン、望ましくは、純粋なロジンを含む項目1から3の何れか一項に記載のペースト。
[項目7]
前記半田粉末および前記金属粉末は、25重量%:75重量%から最大80重量%:20重量%の比率で存在する項目1から6の何れか一項に記載のペースト。
[項目8]
前記バインダと、前記半田粉末及び前記金属粉末の合計とが、2重量%:98重量%から最大25重量%:75重量%の比率で存在する項目1から7の何れか一項に記載のペースト。
[項目9]
前記金属粉末の平均粒子サイズは、1μm、望ましくは、3μmから、50μm、望ましくは30μmの間である項目1から8の何れか一項に記載のペースト。
[項目10]
前記ぺーストの融点は、200℃を超える、望ましくは、300℃を超える項目1から9の何れか一項に記載のペースト。
[項目11]
項目1から10の何れか一項に記載のペーストを使用して、パワー半導体と基板とを、または、基板とベースプレートとを接合する方法。
[項目12]
項目1から9の何れか一項に記載のペーストを使用して、パワーエレクトロニクスモジュールの構成要素を接合する方法であって、
前記ペーストを、第1構成要素の一領域に塗布する段階と、
第2構成要素を、前記ペーストが塗布された前記一領域に圧接して、前記半田粉末を溶融する段階とを備える方法。
[項目13]
前記第1構成要素および前記第2構成要素は望ましくは、活性雰囲気下で加熱され、前記ペーストの構成要素が再溶融されて、前記バインダが揮発する項目12に記載の方法。
[項目14]
前記半田粉末の表面が還元された後、前記半田が再び溶融される項目12または13に記載の方法。
[項目15]
項目1から10の何れか一項に記載のペーストを使用する中間接合層を有する、第1構成要素および第2構成要素からなるシステムであって、
再溶融された前記接合層は、局所的にのみ空洞を含むシステム。