特許第6147688号(P6147688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147688
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ベーカリー製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/36 20060101AFI20170607BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20170607BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20170607BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20170607BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20170607BHJP
【FI】
   A21D2/36
   A21D13/00
   A21D13/80
   A21D10/00
   A23L35/00
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-40918(P2014-40918)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-165777(P2015-165777A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514054270
【氏名又は名称】サイアムモディファイドスターチカンパニーリミテッド
【氏名又は名称原語表記】Siam Modified Starch Co., LTD
(73)【特許権者】
【識別番号】514054281
【氏名又は名称】サイアムクオリティスターチカンパニーリミテッド
【氏名又は名称原語表記】Siam Quality Starch Co., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】浦上 淳一
(72)【発明者】
【氏名】菅野 祥三
(72)【発明者】
【氏名】ウェラワット レルトワナワタナ
(72)【発明者】
【氏名】スメート スリヴァラキアト
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−092938(JP,A)
【文献】 特開2012−231728(JP,A)
【文献】 特表2004−512846(JP,A)
【文献】 特開2007−325526(JP,A)
【文献】 特開2003−246803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00−17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を澱粉質原料として用いるベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜95質量部がもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合された澱粉質原料を用いて製造されたことを特徴とするベーカリー製品。
【請求項2】
加工もち種タピオカ澱粉が、α化もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー製品。
【請求項3】
加工もち種タピオカ澱粉が、ヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉、アセチルα化もち種タピオカ澱粉、及び、アセチル化架橋α化もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー製品。
【請求項4】
加工もち種タピオカ澱粉が、アセチルもち種タピオカ澱粉、アセチル化架橋もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉、及び、ヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー製品。
【請求項5】
ベーカリー製品が、パン類、ケーキ類、ドーナツ類、焼き菓子類又は非発酵パン類である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー製品。
【請求項6】
小麦粉を澱粉質原料として用いるベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜95質量部が、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合されたことを特徴とするベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックス。
【請求項7】
澱粉質原料に配合される加工もち種タピオカ澱粉が、請求項2〜4のいずれかに特定される加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする請求項6に記載のベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックス。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスを澱粉質原料として用いて、ベーカリー製品を製造することを特徴とするモチ食感とソフト感を有するベーカリー製品の製造方法。
【請求項9】
ベーカリー製品が、パン類、ケーキ類、ドーナツ類、焼き菓子類又は非発酵パン類である請求項8に記載のベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モチモチとした食感に優れ、しかも柔らかい食感、すなわち、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モチ(餅)は、主として糯米を蒸煮練上げ製造され、その独特の粘着力、付着力、弾力性の食感から、古くから愛されてきた、伝統的な食品であるが、近年、喫食時にモチモチした食感(モチ食感)を有する食品を好む消費者が増え、ベーカリー製品においてもモチ食感を有する製品が増加している。その中で、モチ食感だけでなく、モチ食感と合わせて喫食時にしっとりとした食感(しっとり感)や柔らかい食感(ソフト感)を有するベーカリー製品が市場で求められるようになってきた。しかし、モチ食感を有するベーカリー製品について、しっとり感やソフト感を強化しようとする場合、モチ食感が弱くなる傾向がある。
【0003】
従来より、ベーカリー製品にモチ食感を付与する方法として、いくつかの方法が開示されている。ベーカリー製品にモチ食感を付与する方法としては、2つの方法が知られている。その1つは特定の原料を用いる方法であり、もう1つは湯種生地を利用する方法である。該ベーカリー製品にモチ食感を付与する方法において、ベーカリー製品にモチ食感を付与するために、特定の原料を用いる方法として、例えば、特許文献1には、リン酸架橋ワキシーコーンスターチとα化澱粉を組み合わせ、弾力がありながら柔らかく、モチ食感に優れたベーカリー製品を製造する方法が開示されている。しかし、ワキシーコーンスターチには特有の穀物由来の匂いがあるため、該ベーカリー製品にはベーカリー本来の風味が損なわれるなどの問題があった。
【0004】
特許文献2には、小麦粉62〜92.5質量部、ヒドロキシプロピル澱粉及び/ 又はアセチル澱粉7〜30質量部及びα化澱粉質0.5〜8質量部からなる原料粉を用いることにより、モチ食感を有するパン類を製造する方法が開示されている。該パン類では、モチモチ感の付与のみを目的としたためソフトな食感は得られにくいという問題があった。また、特許文献3には、小麦粉、α化小麦粉及び/又はα化小麦でん粉、αアミラーゼを用いて、モチモチ感やしっとり感を有するパン類を製造する方法が開示されている。該パン類では、原料が小麦由来であることから、強力粉とエーテル化澱粉を用いたパン類に比べてモチ食感は弱いという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献4では、モチ性小麦粉を用いて湯種生地を調製するか又はモチ性小麦粉とα化澱粉を配合することで、モチ食感、ソフト感、しっとり感及び口溶け感が強化されたパン類の製造方法を開示している。該パン類では確かにモチ食感とソフト感のバランスが取られているものの、近年、より強いモチ食感を好む消費者を必ずしも満足させることができていない。
【0006】
一方、ベーカリー製品にモチ食感を付与するための湯種生地を利用する方法として、例えば、特許文献5には、小麦粉と油相含量3〜90質量%、水相含量10〜97質量%の乳化物とを少なくとも含有する種生地材料を、少なくとも該乳化物の水相中の水分を80〜100℃として混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法が開示され、特許文献6には穀粉類及び/又は澱粉類100質量部に対して、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が該固形分を基準として0.5質量%以上である乳原料を、固形分として0.05〜7質量部含有した湯種生地を用いたベーカリー製品が開示されている。湯種生地を利用する方法は、生地製造時に80℃〜100℃のお湯を使用する必要があり、工程が複雑となり、また湯温の厳重な管理が必要であり、最終製品にばらつきが出やすく容易に量産できないという問題がある。
【0007】
上記のように、ベーカリー製品にモチ食感を付与するための方法として、各種の方法が開示されているが、モチ食感とソフト感を両立させたベーカリー製品を量産する方法は開示されておらず、かかるベーカリー製品を製造する課題は依然として解決されていない。
【0008】
また、上記以外に、もち種の澱粉を利用したベーカリー製品として以下の技術が開示されている。特許文献7には、主原料粉としてもち種馬鈴薯澱粉を含有し、ミックス全体の蛋白含量が0〜4.0質量%であることを特徴とするベーカリー食品用ミックス及び該ミックスを用いて得られる従来にない外観および食感を有するベーカリー食品が開示されている。該ベーカリー食品には透明感があり、やわらかさを有することが記載されているが、モチ食感は付与されない。また、特許文献8には、小麦粉を主原料とする原料穀粉100質量部に対して、α化した加工ワキシーポテトスターチ0.2〜10質量部を含有する材料を用いて製造された保存性に優れ、ソフト感、しっとり感を有するベーカリー食品を開示している。該発明はベーカリー製品にソフト感、しっとり感を付与することが目的であり、該ベーカリー製品にモチ食感は付与されない。
【0009】
更に、特許文献9には、澱粉成分及び有機酸若しくは有機酸混合物を含む、パンケーキ、ワッフル、ブラウニー、マフィン、又はケーキを作るためのすぐ使用できる冷蔵可能な液体練り粉であって、練り粉を60℃から72℃の温度で、練り粉の細菌数を実質的に減少させるに十分な時間加熱することにより微生物学的に安定化させて、練り粉を8℃以下の温度で少なくとも3週間保存できるようにしたこと、及び水活性Awが0.90より大でありそして4℃、0.3rpmでの粘度が5,000〜60,000cPであることを特徴とする長期保存が可能な練り粉及び該練り粉を用いて得られる焼き製品が開示されている。該発明は調理中のみゲル形成をさせるため糊化温度の高い澱粉を使用することを1つの特徴とし、練り粉の長期保存が可能であることが記載されている。該練り粉には有機酸又は有機酸混合物を必須として含むため特有の酸味が付加され、ベーカリー製品の風味が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−056946号公報
【特許文献2】特開平10−295253号公報
【特許文献3】特開2003−199482号公報
【特許文献4】特開2010−057368号公報
【特許文献5】特開2004−000029号公報
【特許文献6】特開2009−201469号公報
【特許文献7】特開2013−179841号公報
【特許文献8】特開2007−325526号公報
【特許文献9】特開2004−512846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品及びその製造方法を提供すること、すなわち、本発明の課題は、「柔らかい食感」の「ソフト感」と、「モチモチとした食感」で「弾力がある食感」の「モチ食感」とを有するベーカリー製品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品の製造について、該ベーカリー製品の製造に用いる澱粉原料や、その配合等について鋭意検討する中で、もち種のタピオカ澱粉をベーカリー製品製造用の澱粉原料に、特定量配合することにより、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、ベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜100質量部がもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合された澱粉質原料を用いて、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することからなる。本発明のベーカリー製品の製造方法は、各種ベーカリー製品の製造に適用することができ、また、ベーカリー製品の製造において、冷蔵生地や冷凍生地を用いるようなベーカリー製品の製造にも適用して、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することができる。
【0014】
前記のように、従来より、ベーカリー製品にモチ食感を付与するための方法として、原料の選択及び配合や、その製造方法を工夫した各種の方法が開示されているが、モチ食感を有するベーカリー製品について、しっとり感やソフト感を強化しようとすると、モチ食感が弱くなるという傾向があり、モチ食感とソフト感を両立させたベーカリー製品を量産することが、技術的には難しいという問題があった。
【0015】
本発明のベーカリー製品の製造においては、澱粉質原料として、もち種タピオカ澱粉(βもち種タピオカ澱粉)及び/又は加工もち種タピオカ澱粉が用いられるが、該加工もち種タピオカ澱粉として、α化もち種タピオカ澱粉を用いることができる。また、該加工もち種タピオカ澱粉として、ヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉、アセチルα化もち種タピオカ澱粉、及び、アセチル化架橋α化もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉を用いることができる。更に、本発明のベーカリー製品の製造において用いられる加工もち種タピオカ澱粉として、もち種タピオカ澱粉(βもち種タピオカ澱粉)のアセチルもち種タピオカ澱粉、アセチル化架橋もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉、及び、ヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉を用いることができる。
【0016】
本発明のベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料は、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜100質量部が、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合されたベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスとして調製することができる。
【0017】
本発明は、本発明のベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスを澱粉質原料として用いて、ベーカリー製品を製造することからなる、モチ食感とソフト感を有するベーカリー製品の製造方法の発明を包含する。該ベーカリー製品の製造方法は、各種のベーカリー製品の製造に用いることができ、該ベーカリー製品としては、パン類、ケーキ類、ドーナツ類、焼き菓子類又は非発酵パン類を上げることができる。
【0018】
すなわち、具体的には本発明は、[1]小麦粉を澱粉質原料として用いるベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜95質量部がもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合された澱粉質原料を用いて製造されたことを特徴とするベーカリー製品や、[2]加工もち種タピオカ澱粉が、α化もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする上記[1]に記載のベーカリー製品や、[3]加工もち種タピオカ澱粉が、ヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉、アセチルα化もち種タピオカ澱粉、及び、アセチル化架橋α化もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする上記[1]に記載のベーカリー製品や、[4]加工もち種タピオカ澱粉が、アセチルもち種タピオカ澱粉、アセチル化架橋もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉、及び、ヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉から選択される1又は2以上の加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする上記[1]に記載のベーカリー製品や、[5]ベーカリー製品が、パン類、ケーキ類、ドーナツ類、焼き菓子類又は非発酵パン類である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のベーカリー製品からなる。
【0019】
また、本発明は、[6]小麦粉を澱粉質原料として用いるベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜95質量部が、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合されたことを特徴とするベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスや、[7]澱粉質原料に配合される加工もち種タピオカ澱粉が、上記[2]〜[4]のいずれかに特定される加工もち種タピオカ澱粉であることを特徴とする上記[6]に記載のベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスや、[8]上記[6]又は[7]に記載のベーカリー製品製造用の澱粉質原料ミックスを澱粉質原料として用いて、ベーカリー製品を製造することを特徴とするモチ食感とソフト感を有するベーカリー製品の製造方法や、[9]ベーカリー製品が、パン類、ケーキ類、ドーナツ類、焼き菓子類又は非発酵パン類である上記[8]に記載のベーカリー製品の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、柔らかく、しかもモチモチとした食感に優れたベーカリー製品、すなわち、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を提供する。本発明のベーカリー製品の製造方法は、各種ベーカリー製品の製造に用いることができ、広い範囲のベーカリー製品の製造に適用して、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することができる。更に、本発明のベーカリー製品の製造方法は、冷蔵生地や冷凍生地にも適用できるため、流通特性に優れた高品質のベーカリー製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ベーカリー製品の製造に用いる澱粉質原料において、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5〜100質量部がもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉であるように配合された澱粉質原料を用いて、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することからなる。
【0022】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として用いられる、「もち種タピオカ澱粉」とは、もち種タピオカを原料とした澱粉であり、アミロペクチンがほぼ100%で構成されたものを指す。該もち種タピオカ澱粉としては、Thai Tapioca Development Institute(タイ国)から入手したもち種タピオカの芋を原料として、Siam Quality Starch社(タイ国)で製造したもち種タピオカ澱粉を利用できる。
【0023】
本発明のベーカリー製品の製造においては、澱粉質原料として配合されるもち種タピオカ澱粉としては、加工していないもち種タピオカ澱粉(α化澱粉に対して、α化処理していない澱粉をβ澱粉と呼ぶ。)と、該澱粉を物理的、化学的に加工した加工もち種タピオカ澱粉を用いることができる。該加工もち種タピオカ澱粉として、α化もち種タピオカ澱粉を用いることができる。ここで、α化澱粉とは、澱粉を水の存在下、ドラムドライヤー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどを用いて加熱し、澱粉をα化、乾燥した後、必要に応じて粉砕した粉末状の澱粉を指す。βもち種タピオカ澱粉、α化もち種タピオカ澱粉を用いることができる。
【0024】
本発明のベーカリー製品の製造においては、澱粉質原料として配合される、化学的に加工した加工もち種タピオカ澱粉としては、βもち種タピオカ澱粉、α化もち種タピオカ澱粉を化学的に加工した加工もち種タピオカ澱粉を用いることができ、該もち種タピオカ澱粉の加工方法としては、澱粉の加工方法として一般的なヒドロキシプロピル化、アセチル化、架橋、酸化及び酸浸漬から選ばれる1種以上の方法を組み合わせて使用することができる。ここで、ヒドロキシプロピル化とは、澱粉にプロピレンオキサイドを反応させる処理を指し、アセチル化とは、澱粉に無水酢酸又は酢酸ビニールモノマー等を反応させる処理を指し、常法に従って実施できる。架橋とは、澱粉にメタリン酸塩、オキシ塩化リンなどの架橋剤を加え反応させる等の処理を指し、常法に従って実施できる。酸化とは、澱粉に次亜塩素酸Naを作用させる処理を指し、酸浸漬とは澱粉に硫酸を作用させる処理を指し、いずれも常法に従って実施できる。
【0025】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として配合されるβもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉は、該澱粉質原料100質量部のうち、0.5質量部以上が配合されれば、好ましいモチ食感及びソフト感をベーカリー製品に付与できる。該βもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉のより好ましい配合割合は10〜85質量部であり、モチ食感及びソフト感をより好ましいものにできる。
【0026】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として配合されるβもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉以外の原料穀粉等の澱粉質原料としては、ベーカリー製品の種類等を勘案し必要に応じて配合される小麦粉及び上記もち種タピオカ澱粉以外の澱粉及びその他穀物粉を配合することができる。該小麦粉としては、ベーカリーの製造に使用されている一般的な小麦粉を用いることができる。例えば、超強力粉、強力粉、中力粉又は薄力粉が利用でき、強力粉としてはカナダ・ウエスタン・レッド・スプリング小麦、中力粉としてはオーストラリア・スタンダード・ホワイト小麦、薄力粉としてはウエスタン・ホワイト小麦、ホワイトクラブ小麦などから製造される小麦粉が代表的なものとしてあげられる。また、日本国内で生産される小麦粉(例えば、ゆめちから、きたほなみ、春よ恋など)や低アミロース小麦粉、ハイアミロース小麦粉、もち種小麦粉なども用いることができる。
【0027】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として配合されるβもち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉以外の原料穀粉等の澱粉質原料として、小麦粉以外の澱粉質原料としては、コーン澱粉、ワキシコーン澱粉、馬鈴薯澱粉、ワキシポテト澱粉、小麦澱粉、もち種小麦澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、緑豆澱粉、えんどう豆澱粉、米澱粉、もち米澱粉、甘藷澱粉、及びこれらの加工澱粉、α化澱粉などの澱粉を用いることができる。該澱粉にグルテニン、グリアジン、グルテンなどタンパク質成分を混ぜて小麦粉代替として用いることも可能であり、このような使用の場合、グルテンなどのタンパク質成分も原料穀粉に含めて配合量を計算すればよい。また、人の消化酵素への耐性を付与した難消化性澱粉(RS)も用いることもできる。難消化性澱粉は一般的に4つの区分に分けられ、RS1、RS2,RS3,RS4と呼ばれる。RS1は蛋白質マトリクス内での顆粒の取り込みに起因し物理的に接近できない澱粉、RS2はα―アミラーゼによる消化に耐えうる澱粉、RS3は老化アミロースからなる澱粉、RS4はα―アミラーゼによる消化に耐えうる加工澱粉を指す。
【0028】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として配合される、その他穀物粉としては、全粒粉、ふすま、ライ麦、米、トウモロコシ、大麦、ひえ、あわ、きび、発芽玄米、黒米、赤米、大豆、小豆、アマランサス、キヌアなどの穀物粉を用いることができる。本発明のベーカリー製品に含まれるもち種タピオカ澱粉以外の澱粉質原料として特に好ましいものは小麦粉であり、ベーカリー製品本来の風味を際立たせることができる。
【0029】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として、配合されるα化もち種タピオカ澱粉及び/又は加工α化もち種タピオカ澱粉は、澱粉質原料100質量部に対し、0.5質量部以上の範囲で配合されるが、該α化もち種タピオカ澱粉の特に好ましい配合量としては、澱粉質原料100質量部に対し、0.5〜15質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。α化もち種タピオカ澱粉及び/又は加工α化もち種タピオカ澱粉を用いるとβもち種タピオカ澱粉及び/又は加工βもち種タピオカ澱粉を用いる場合に比べ、より少ない配合でより好ましいモチ食感、ソフト感をベーカリー製品に付与できる。上限については上記範囲を超えても本発明の目的は達成されうるがコスト的な観点から上記範囲を超えないほうが好ましい。
【0030】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として、配合される、加工βもち種タピオカ澱粉として特に好ましいのは、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉又はアセチルもち種タピオカ澱粉であり、上記澱粉を更に架橋処理したヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉又はアセチル化架橋もち種タピオカ澱粉でもよい。上記加工βもち種タピオカ澱粉は、ベーカリー製品に好ましいモチ食感及びソフト感を付与でき、更にベーカリー製品の保存性を向上させる。
【0031】
本発明のベーカリー製品の製造において、澱粉質原料として、配合される、加工α化もち種タピオカ澱粉として特に好ましいのは、ヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉又はアセチルα化もち種タピオカ澱粉であり、上記澱粉を更に架橋処理したヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉又はアセチル化架橋α化もち種タピオカ澱粉でもよい。該加工α化もち種タピオカ澱粉は、ベーカリー製品に好ましいモチ食感及びソフト感を付与でき、更にベーカリー製品の保存性を向上させる。
【0032】
ここで、加工もち種タピオカ澱粉においてヒドロキシプロピル化又はアセチル化の反応の進行を示す指標に置換度(澱粉の無水グルコース残基当たりの置換基のモル数で表す)と呼ばれる指標がある。置換度の測定方法は澱粉・関連糖質実験法(中村,貝沼編,学会出版センター)に記載の方法に準じて測定することができる。本発明で使用される上記もち種タピオカ澱粉のヒドロキシプロピル化又はアセチル化の置換度は特に限定されないが0.02〜0.18が好ましい。
【0033】
また、架橋の進行を示す指標に沈降積という指標がある。沈降積の測定方法は以下の通り実施できる。乾燥物換算で試料2.0gを水98mLの割合で分散した懸濁液を、90℃で30分加熱後、30℃に冷却する。この澱粉溶液を100mLのメスシリンダーに入れ、液の上端を100mLに合わせ、24時間後の、白濁層の容量(mL)を測定し、該測定値を沈降積とする。本発明で使用される架橋されたもち種タピオカ澱粉の沈降積としては、特に限定されないが85以下が好ましい。
【0034】
本発明のベーカリー製品の製造には、澱粉質原料以外に必要に応じて、イースト、ベーキングパウダー、食塩、水、その他副材料を加えることができる。上記原料を元に常法に従ってベーカリー生地を作製し、焼成、フライ、蒸し等の加熱処理をおこない本発明のベーカリー製品が製造される。その際、原料穀粉はベーカリー製品100質量部に対し、10質量部〜80質量部含むことが好ましい。
【0035】
なお、副材料とは、一般にベーカリーの製造に使用されている副材料、或いはベーカリーの種類、望まれる品質などによって使用されている副材料で、具体的には砂糖、グルコース、異性化糖、希少糖、希少糖含有異性化糖(例えばレアシュガースウィート、松谷化学工業株式会社製)、オリゴ糖、デキストリン、還元澱粉分解物等の糖質、脱脂粉乳、全脂粉乳、牛乳などの乳製品、ショートニング、マーガリン、バター、粉末油脂、乳化油脂等の油脂類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤、シナモン、バジリコ等の香辛料、ブランデー、ラム酒等の洋酒類、レーズン、ドライチェリー等のドライフルーツ、アーモンド、ピーナッツ等のナッツ類、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコオキシターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシターゼ等の酵素、香料(例えばバニラエッセンス)、人工甘味料、(例えばアスパルテーム)、ペクチン、グアガム分解物、アガロース、グルコマンナン、ポリデキストロース、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、難消化性デキストリン、シトラスファイバー等の食物繊維、活性グルテン、ココアパウダー等が例示できる。
【0036】
本発明のベーカリー製品の製造方法において、該ベーカリーの製造方法自体は、澱粉質原料として、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉を配合した澱粉質原料を用いる点を除いて、原料、製造方法及び製造条件において、公知のベーカリーの製造方法と変わるところはない。本発明の、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉を配合した澱粉質原料は、ベーカリーの製造用の澱粉質原料ミックスとして調製することができ、また、本発明のもち種タピオカ澱粉を配合した澱粉質原料を、酵素等と組み合わせた品質改良剤として予め準備し、これをベーカリー製品用生地に添加することでも本発明のベーカリー製品は得られる。更に、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉を配合した澱粉質原料は、ベーカリー製造法の1つである、予め生地の一部をお湯で捏ねる湯捏法にも利用することは可能である。また、もち種タピオカ澱粉及び/又は加工もち種タピオカ澱粉を配合したもち種タピオカ澱粉は、近年ベーカリー食品の製造工程の合理化や流通上の目的で利用される冷蔵生地や冷凍生地にも適用できる。
【0037】
本発明のベーカリー製品の製造方法を適用できるベーカリー製品としては、パン類:「プルマン、イギリス食パン等の食パン類、バケット、パリジャンなどのフランスパン、菓子パン、デニッシュ、クロワッサン、バンズ、ベーグル、ナン、フォカッチャ、イングリッシュマフィン、テーブルロールなどの各種ロール類など」、ドーナツ類:「イーストドーナツ、ケーキドーナツなど」、ケーキ類:「蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ホットケーキ、マドレーヌ、マフィンなど」、非発酵パン類:「ポービリア、ポンデケージョなど」、焼き菓子類:「シュー生地、クレープ、ワッフル、どら焼き、カステラ、たい焼き、今川焼、クッキーなど」、ピザ、トルティーヤ、中華まん、蒸しパン、を挙げることができる。
【0038】
以下に実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。ここで、部とあるのは質量部を、%とあるのは質量%を示す。また、α化と明記のない澱粉についてはβ澱粉を示す。
【実施例】
【0039】
(使用澱粉について)
もち種タピオカ澱粉はSiam Quality Starch社(タイ国)のもち種タピオカ澱粉を用いた。また該もち種タピオカ澱粉を原料とし参考例1〜7に示すように、加工βもち種タピオカ澱粉、α化もち種タピオカ澱粉、加工α化もち種タピオカ澱粉を作製した。
【0040】
[参考例1]
水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解し、この液にもち種タピオカ澱粉100部を分散させたスラリーを準備した。該スラリーにpH=11〜12のアルカリ条件下で、トリメタリン酸ソーダ1000ppmを加え、40℃で20時間反応させもち種タピオカ澱粉の架橋処理をおこなった。反応後のスラリーを硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥することでリン酸架橋もち種タピオカ澱粉(試料No.1)を得た。該澱粉の沈降積は4.5であった。
【0041】
[参考例2]
水130部にもち種タピオカ澱粉100部を分散させたスラリーを準備した。該スラリーに撹拌下3%の苛性ソーダ水溶液を加えpH8.0〜pH8.5に保持しながら、酢酸ビニル4.5%を加え、25℃で20分反応させもち種タピオカ澱粉のアセチル化処理をおこなった。反応後のスラリーを硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥することでアセチルもち種タピオカ澱粉(試料No.2)を得た。該澱粉の置換度は0.054であった。
【0042】
[参考例3]
水130部にもち種タピオカ澱粉100部を分散させたスラリーを準備した。該スラリーにpH=11〜12のアルカリ条件下でプロピレンオキサイド6.0%を加え、40℃で20時間反応させもち種タピオカ澱粉のヒドロキシプロピル化処理をおこなった。反応後のスラリーを硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥することでヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)を得た。該澱粉の置換度は0.097であった。
【0043】
[参考例4]
水130部にもち種タピオカ澱粉100部を分散させたスラリーを準備した。該スラリーにpH=11〜12のアルカリ条件下でプロピレンオキサイド6.0%を加え、40℃で20時間反応させた。次いで、トリメタリン酸ソーダ1000ppmを加え反応させ、硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥することで、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋もち種タピオカ澱粉(試料No.4)を得た。該澱粉の置換度は0.095、沈降積は4.9であった。
【0044】
[参考例5]
水120部にもち種タピオカ澱粉100部を分散させたスラリーを準備した。該スラリーをドラムドライヤーで乾燥し澱粉をα化後、粉砕することでα化もち種タピオカ澱粉(試料No.5)を得た。
【0045】
[参考例6]
水120部に試料No.4のヒドロキシプロピル化リン酸架橋もち種タピオカ澱粉を100部加えてスラリーを準備した。該スラリーをドラムドライヤーで乾燥し澱粉をα化後、粉砕することでヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉(試料No.6)を得た。
【0046】
[参考例7]
水120部に試料No.3のヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を100部加えてスラリーを準備した。該スラリーをドラムドライヤーで乾燥し澱粉をα化後、粉砕することでヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉(試料No.7)を得た。
【0047】
(ベーカリー製品の評価方法)
常法に従いベーカリー製品を作製し、該ベーカリー製品の喫食時の柔らかさ(ソフト感)、弾力(モチ食感)について評価を行った。評価に用いるベーカリー製品については、ベーカリー製品を作製後室温で自然冷却し、ベーカリー製品が室温に戻った後にビニール袋に入れて密封し、20℃で24時間保持し評価用サンプルとした。評価はよく訓練された10人のパネラーにより行い、ベーカリー製品のソフト感、モチ食感について表1に示すように各5点満点で評価を行った。なお、基準サンプルのソフト感、モチ食感の点数を3とした。パネラー10人の点数を平均し、各サンプルのソフト感、モチ食感の点数とした。
【0048】
総合評価は以下のようにおこなった。
×:ソフト感、モチ食感の点数が共に3.7未満
△:ソフト感、モチ食感の点数が片方のみ3.7以上
○:ソフト感、モチ食感の点数が共に3.7以上 且つ 両方の合計点が8.4未満
◎:ソフト感、モチ食感の点数が共に3.7以上 且つ 両方の合計点が8.4以上
【0049】
【表1】
【0050】
<試験1>
【0051】
(食パン試験1)
小麦粉の一部をもち種タピオカ澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーン澱粉、ワキシポテト澱粉又はポテト澱粉に置換した表2に示す配合割合で中種法により山形食パンを製造した。
【0052】
【表2】
【0053】
(食パン試験1の結果)
表3に示すように、もち種タピオカ澱粉を用いた場合、他の澱粉を用いた食パンに比べモチ食感とソフト感が十分にあり、目的の食パンが得られた。
【0054】
【表3】
【0055】
<試験2>
【0056】
(食パン試験2)
表4に示すように、もち種タピオカ澱粉の配合量を変えて中種法により山形食パンを製造した。
【0057】
【表4】
【0058】
(食パン試験2の結果)
表5に示すように、澱粉質原料100質量部に対するもち種タピオカ澱粉の配合が0.5質量部以上の場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0059】
【表5】
【0060】
<試験3>
【0061】
(食パン試験3)
表6に示すように加工βもち種タピオカ澱粉(試料No.1〜4)を用いて中種法により山形食パンを製造した。ここで、試料No.1は架橋もち種タピオカ澱粉、試料No.2はアセチルもち種タピオカ澱粉、試料No.3はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉、試料No.4はヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉、試料No.5はα化もち種タピオカ澱粉である。
【0062】
【表6】
【0063】
(食パン試験3の結果)
表7に示すように、加工βもち種タピオカ澱粉としては、アセチル処理、ヒドロキシプロピル処理又はヒドロキシプロピル処理に架橋処理したもち種タピオカ澱粉を用いた場合、ソフト感、モチ食感ともに特に好ましい結果となった。また、加工βもち種タピオカ澱粉とα化もち種タピオカ澱粉を組合せて使用した場合も好ましいソフト感、モチ食感となった。
【0064】
【表7】
【0065】
<試験4>
【0066】
(食パン試験4)
小麦粉の一部をα化もち種タピオカ澱粉(試料No.5)、加工α化もち種タピオカ澱粉(試料No.6、7)又はα化タピオカ澱粉(マツノリンM−22 松谷化学工業株式会社製)に置換した表8に示す配合で、中種法により山形食パンを製造した。
【0067】
【表8】
【0068】
(食パン試験4の結果)
表9に示すように、澱粉質原料100質量部に対するα化もち種タピオカ澱粉の配合が0.5質量部以上の場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。また、α化もち種タピオカ澱粉をヒドロキシプロピル処理又はヒドロキシプロピル処理した後架橋処理したα化もち種タピオカ澱粉を用いた場合も好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0069】
【表9】
【0070】
<試験5>
【0071】
(食パン試験5)
表10に示すように日本産の小麦粉と加工βもち種タピオカ澱粉(試料No.1〜4)を用いて中種法により山形食パンを製造した。ここで、試料No.1は架橋もち種タピオカ澱粉、試料No.2はアセチルもち種タピオカ澱粉、試料No.3はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉、試料No.4はヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉である。
【0072】
【表10】
【0073】
(食パン試験5の結果)
表11に示すように、日本産小麦粉を用いた場合でも、該小麦粉の一部をもち種タピオカ澱粉と置き換えることで、食パンに好ましいソフト感、モチ食感を付与することができた。
【0074】
【表11】
【0075】
<試験6(食パン試験6)>
タピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)と高吸水素材(ヘルパセルAQプラス)などをもちいて表12に示す配合で品質改良剤をつくり、該品質改良剤を用いて表13に示す配合で常法により食パンを製造した。
【0076】
【表12】
【0077】
【表13】
【0078】
(食パン試験6の結果)
表14に示すように品質改良剤として、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合においても得られる食パンは好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0079】
【表14】
【0080】
<試験7>
【0081】
(テーブルロール試験)
小麦粉の一部をもち種タピオカ澱粉、タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)に置換した表15に示す配合で、中種法によりテーブルロールを製造した。
【0082】
【表15】
【0083】
(テーブルロール試験の結果)
表16に示すように、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合、好ましいソフト感、モチ食感をしたテーブルロールを得ることができた。
【0084】
【表16】
【0085】
<試験8(菓子パン試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表17に示す配合で、中種法により菓子パン(あんぱん)を製造した。なお、餡については株式会社的場製餡所の餡を使用した。
【0086】
【表17】
【0087】
(菓子パン(あんぱん)試験の結果)
表18に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0088】
【表18】
【0089】
<試験9(デニッシュ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表19に示す配合で、常法によりデニッシュを製造した。
【0090】
【表19】
【0091】
(デニッシュ試験の結果)
表20に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0092】
【表20】
【0093】
<試験10(デニッシュ試験2)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表21に示す配合で、常法によりフラワーペースト折込生地を作製し該生地を焼成することでデニッシュを製造した。
【0094】
【表21】
【0095】
(デニッシュ試験2の結果)
表22に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0096】
【表22】
【0097】
<試験11(イングリッシュマフィン試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表23に示す配合で、ストレート法によりイングリッシュマフィンを製造した。
【0098】
【表23】
【0099】
(イングリッシュマフィン試験の結果)
表24に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0100】
【表24】
【0101】
<試験12(ベーグル試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表25に示す配合で、ストレート法によりベーグルを製造した。
【0102】
【表25】
【0103】
(ベーグル試験の結果)
表26に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0104】
【表26】
【0105】
<試験13(フォカッチャ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表27に示す配合で、ストレート法によりフォカッチャを製造した。
【0106】
【表27】
【0107】
(フォカッチャ試験の結果)
表28に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0108】
【表28】
【0109】
<試験14(ケーキドーナツ試験)>
タピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピル化架橋もち種タピオカ澱粉(試料No.4)を用いて表29に示す配合で、常法に従いケーキドーナツを製造した。
【0110】
【表29】
【0111】
(ケーキドーナツ試験の結果)
表30に示すように、澱粉質原料100質量部に対するもち種タピオカ澱粉の配合が30及び70質量部のとき、好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0112】
【表30】
【0113】
<試験15(蒸しケーキ試験)>
薄力粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)に置換した表31に示す配合で、常法に従い蒸しケーキを製造した。
【0114】
【表31】
【0115】
(蒸しケーキ試験の結果)
表32に示すようにもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いた場合に好ましいソフト感、モチ食感を示した。
【0116】
【表32】
【0117】
<試験16(ホットケーキ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表33に示す配合で、常法によりホットケーキを製造した。
【0118】
【表33】
【0119】
(ホットケーキ試験の結果)
もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造したホットケーキは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0120】
<試験17(スポンジケーキ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表34に示す配合で、オールインミックス法によりスポンジケーキを製造した。
【0121】
【表34】
【0122】
(スポンジケーキ試験の結果)
もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造したスポンジケーキは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0123】
<試験18(マドレーヌ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)、α化もち種タピオカ澱粉(試料No.5)又はヒドロキシプロピルα化もち種タピオカ澱粉(試料No.6)で置換した表35に示す配合で、常法によりマドレーヌを製造した。
【0124】
【表35】
【0125】
(マドレーヌ試験の結果)
もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉またはそのα化品を用いて製造したマドレーヌは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0126】
<試験19(カステラ試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表36に示す配合で、常法によりカステラを製造した。
【0127】
【表36】
【0128】
(カステラ試験の結果)
もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造したカステラは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0129】
<試験20(ソフトクッキー試験)>
小麦粉の一部をα化タピオカ澱粉、α化もち種タピオカ澱粉(試料No.5)又はヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉(試料No.6)で置換した表37に示す配合で、ソフトクッキーを製造した。
【0130】
【表37】
【0131】
(ソフトクッキー試験の結果)
α化もち種タピオカ澱粉を用いて製造したソフトクッキーは、一般に柔らかいクッキーとして知られているタピオカ澱粉を用いたクッキーに比べても更に柔らかく、なおかつ弾力がある食感になった。また、ヒドロキシプロピル化架橋α化もち種タピオカ澱粉を用いて製造したソフトクッキーは、上記α化もち種タピオカ澱粉を用いて製造されたクッキーよりも更に柔らかく弾力があり、経時変化も小さいことを確認した。
【0132】
<試験21(ポービリア試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表38に示す配合で、常法によりポービリアを製造した。
【0133】
【表38】
【0134】
(ポービリア試験の結果)
もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造したポービリアは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0135】
<試験22(ポンデケージョ試験:実施例62、63は、参考実施例)>
タピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)を用いて表39に示す配合で、常法によりポンデケージョを製造した。
【0136】
【表39】
【0137】
(ポンデケージョ試験の結果)
澱粉質原料の100%をもち種タピオカ澱粉又はヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造したポンデケージョは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0138】
<試験23(中華まん試験)>
小麦粉の一部をタピオカ澱粉、もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉(試料No.3)で置換した表40に示す配合で、常法により中華まんを製造した。
【0139】
【表40】
【0140】
(中華まん試験の結果)
もち種タピオカ澱粉、ヒドロキシプロピルもち種タピオカ澱粉を用いて製造した中華まんは好ましいソフト感、モチ食感をもつことを確認した。
【0141】
<参考試験1(クリープメータ試験)>
小麦粉の一部をもち種タピオカ澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーン澱粉、又はワキシポテト澱粉に置換した表2と同様の配合割合で中種法により山形食パンを製造した。作製したパンの中央を40mm四方、20mm厚でカットし、クリープメータ(RHEONERII CREEP METER RE−2−33005B、YAMADEN社製)を用いてパンを圧縮する際の抵抗力を測定した。1回圧縮した後、圧縮を解放し、その後2回目の圧縮をおこなった。1回目に圧縮する際に必要な最大荷重をソフト感の目安とし、2回目に圧縮する際の最大荷重をガム性荷重とし、ガム性荷重/(1回目の最大荷重)の値をモチ食感の目安とした。
【0142】
クリープメータ測定条件:
◎プランジャー:L50+No.2
◎圧縮速度 :5mm/秒
【0143】
(クリープメータ試験の結果)
測定結果を表41に示す。もち種タピオカ澱粉を用いて作製したパンは他の澱粉を用いて作製したパンに比べ、圧縮に必要な最大荷重が明らかに小さく、また、ガム性荷重/(1回目の最大荷重)値が明らかに大きく、もち種タピオカ澱粉を含んだパンがソフトであり、且つモチ食感を有していることを示した。
【0144】
【表41】
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は、柔らかく、しかもモチモチとした食感に優れたベーカリー製品、すなわち、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を提供する。本発明のベーカリー製品の製造方法は、各種ベーカリー製品の製造に用いることができ、広い範囲のベーカリー製品の製造に適用して、モチ食感に優れ、しかもソフト感を有するベーカリー製品を製造することができる。更に、本発明のベーカリー製品の製造方法は、冷蔵生地や冷凍生地にも適用できるため、流通特性に優れた高品質のベーカリー製品を提供することが可能となる。