(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147726
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】タンパク質精製のためのバッファー系
(51)【国際特許分類】
C07K 1/16 20060101AFI20170607BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
C07K1/16
C07K16/00
【請求項の数】17
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-502775(P2014-502775)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公表番号】特表2014-509651(P2014-509651A)
(43)【公表日】2014年4月21日
(86)【国際出願番号】US2012031076
(87)【国際公開番号】WO2012135415
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年1月19日
(31)【優先権主張番号】61/468,814
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591002957
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】GlaxoSmithKline LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100104617
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 伸美
(72)【発明者】
【氏名】ケント、イー.ゴクレン
(72)【発明者】
【氏名】エリック、ジェイ.スダ
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ、ラウル、ウビエラ
【審査官】
田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−516773(JP,A)
【文献】
化学大辞典2,共立出版株式会社,1976年 9月10日,縮刷版第19刷,636頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
CAplus/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連のクロマトグラフィ工程によるタンパク質の精製のための多成分バッファー系であって、
クロマトグラフィのモードは、親和性クロマトグラフィ、アニオン交換クロマトグラフィ、カチオン交換クロマトグラフィ、および混合モードクロマトグラフィからなる群より選択され、
前記クロマトグラフィのモードは、結合‐溶出モードまたはフロースルーモードのいずれかで操作され、
前記多成分バッファー系は、有機酸、前記有機酸の共役塩基のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、および有機塩基を含み、ならびに
前記クロマトグラフィのモードは、NaClを添加することなく作製されたバッファーを用いて実施される、多成分バッファー系。
【請求項2】
前記親和性クロマトグラフィが、固相上に固定されたスーパー抗原を用いて実施される、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記スーパー抗原が、プロテインA、プロテインG、およびプロテインLからなる群より選択される、請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記有機酸が、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、グリシン、グリシルクリシン、コハク酸、TES(2‐{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、MOPS(3‐(N‐モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン‐N,N’‐ビス(2‐エタンスルホン酸))、およびMES(2‐(N‐モルホリノ)エタンスルホン酸)からなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の系。
【請求項5】
前記有機塩基が、トリス塩基、ビス‐トリス、ビス‐トリス‐プロパン、ビシン(N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン)、HEPES(4‐2‐ヒドロキシエチル‐1‐ピペラジンエタンスルホン酸)、TAPS(3‐{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、およびトリシン(N‐トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記有機酸の前記共役塩基が、前記有機酸の前記共役塩基のナトリウム、カリウム、またはアンモニウム塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記有機酸が酢酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記有機塩基がトリス塩基である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の系。
【請求項9】
前記有機酸が酢酸であり、かつ酢酸の前記共役塩基がナトリウム塩である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記タンパク質が、抗原結合タンパク質である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
前記抗原結合タンパク質が、IgGクラスの抗体である、請求項10に記載の系。
【請求項12】
前記抗原結合タンパク質が、免疫グロブリン単一可変ドメインである、請求項10に記載の系。
【請求項13】
前記一連のクロマトグラフィ工程が、プロテインAクロマトグラフィ、およびフロースルーアニオン交換クロマトグラフィを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
前記一連のクロマトグラフィ工程が、プロテインAクロマトグラフィ、フロースルーアニオン交換クロマトグラフィ、およびカチオン交換クロマトグラフィを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の系。
【請求項15】
前記一連のクロマトグラフィ工程が、55mMトリス塩基、45mM酢酸の存在下、pH7.5にて実施されるプロテインAクロマトグラフィを含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の系。
【請求項16】
前記一連のクロマトグラフィ工程が、55mMトリス塩基、45mM酢酸の存在下、pH7.5にて実施されるフロースルーアニオン交換クロマトグラフィを含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
前記一連のクロマトグラフィ工程が、25mM酢酸ナトリウム、12.1mM酢酸の存在下、pH5.0にて実施されるカチオン交換クロマトグラフィを含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の系。
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、一連のクロマトグラフィユニット操作を用いた、細胞培養物または発酵ブロスからの組換えタンパク質精製の分野に関する。より詳細には、本発明は、タンパク質精製のための一連のユニット操作を通して用いられる塩化ナトリウム非含有バッファー系に関し、ここで、酸および塩基成分が、第三のナトリウム塩バッファー成分と共に決められた比率で組み合わされ、堅固なクロマトグラフィ操作のための適切なpHおよび導電率の制御が提供される。
【0002】
背景技術
組換えタンパク質の回収のための直交精製プロセス(orthogonal purification processes)は、バイオプロセス産業において充分に確立されており、改善されたスループット、不純物除去、商品コストの削減、開発時間の短縮、拡張性などのために進化を続けている。近年、プラットフォーム手法は、必要とされる開発労力が最小限である汎用テンプレートプロセスを、組換えタンパク質の様々なサブクラス、特にモノクローナル抗体の回収に用いることができるところまで著しく成熟してきた。この場合、モノクローナル抗体およびその他のタンパク質のためのプラットフォームプロセス開発の基礎となるコアコンセプトは、広範囲のクラスのターゲット分子に適用可能である一般的なユニット操作の識別および実行であり、それは、拡張性を有する堅固なプロセスの短時間での設計に用いることが可能であり得る精製工程のフレームワークへと繋がる。一連のクロマトグラフィおよび膜/ろ過工程に対する操作条件が確立されると、重要な検討事項は、堅固性およびプロセス性能の向上に繋がるバッファー成分の注意深い選択である。系統的な手法を行わず、従来からのベンチスケールでの実験を通したバッファー選択プロセスでは、ユニット操作からユニット操作へ必ずしも統合されていない数多くの成分に繋がる場合が多く、大スケールでの製造において実行することが困難であり得る。このような課題を克服し、統合されたプロセスに必要であるバッファー成分の数を制限するために、発明者らは、本明細書において、塩化ナトリウム非含有二成分バッファー系を提案する。
【発明の概要】
【0003】
一つの側面では、本発明は、一連のクロマトグラフィ工程によるタンパク質の精製のための多成分バッファー系に関し、
クロマトグラフィのモードは、プロテインAクロマトグラフィ、アニオン交換クロマトグラフィ、カチオン交換クロマトグラフィ、および混合モード(mixed-mode)クロマトグラフィからなる群より選択され、
クロマトグラフィのモードは、結合‐溶出モード(bind-elute mode)またはフロースルーモード(flow-through mode)のいずれかで操作され、
この多成分バッファー系は、有機酸、その有機酸の共役塩基のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、および有機塩基を含み、ならびに
クロマトグラフィのモードは、NaClを添加することなく作製されたバッファーを用いて実施される。
【0004】
別の側面では、本発明は、プロテインAクロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)固相上に固定されたプロテインAを、55mMトリス塩基、45mM酢酸を含む約pH7.5のプロテインA平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液からのタンパク質を、固相上に固定されたプロテインAに吸着させること、
(c)55mMトリス塩基、45mM酢酸、300mM酢酸ナトリウムを含む約pH7.5の第一のプロテインA洗浄バッファーを用いて固相を洗浄することにより、不純物を除去すること、ならびに
(d)1.8mM酢酸ナトリウム、28.2mM酢酸を含む約pH3.6のプロテインA溶出バッファーを用いて、固相からタンパク質を回収すること、ここでバッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
【0005】
別の側面では、本発明は、フロースルーアニオン交換クロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)アニオン交換マトリックスを、55mMトリス塩基、45mM酢酸を含む約pH7.5のアニオン平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液をこのアニオン交換マトリックスに適用し、第一のフロースルーを回収すること、ならびに
(c)55mMトリス塩基、45mM酢酸、300mM酢酸ナトリウムを含む約pH7.5のアニオン洗浄バッファーをアニオン交換マトリックスに適用し、第二のフロースルーを回収すること、ここでバッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
【0006】
別の側面では、本発明は、カチオン交換クロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)カチオン交換マトリックスを、25mM酢酸ナトリウム、12.1mM酢酸を含む約pH5.0のカチオン平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液からのタンパク質を、カチオン交換マトリックスに吸着させること、
(c)25mM酢酸ナトリウム、12.1mM酢酸を含む約pH5.0の第一のカチオン洗浄バッファーを用いて固相を洗浄することにより、不純物を除去すること、ならびに
(d)175mM酢酸ナトリウム、75mM酢酸を含む約pH5.0のカチオン溶出バッファーを用いて、固相からタンパク質を回収すること、ここでバッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
プロセスから塩化ナトリウムを排除することにより、高濃度の塩化物溶液によるステンレススチール製プロセス装置に対する腐食の影響が管理され、全体として回避されることが確実になされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、mAbプラットフォームに対するダウンストリームプロセスフロー図を表す。プロセスクロマトグラフィ制御のための重要なpHおよびイオン強度範囲を示す。
【
図2】
図2は、原料およびタンクの必要性を最小限に抑えるための、濃縮物からの理想的な大スケールバッファー作製の図を表す。
【
図3】
図3は、酢酸およびトリス塩基バッファー系に対する、算出および実験pH、イオン強度、および緩衝容量の曲線を表す。
【
図4】
図4は、クエン酸およびトリス塩基バッファー系に対する、算出および実験pH、イオン強度、および緩衝容量の曲線を表す。
【
図5】
図5は、酢酸およびリン酸ナトリウムバッファー系に対する、算出および実験pH、イオン強度、および緩衝容量の曲線を表す。
【
図6】
図6は、クエン酸およびリン酸ナトリウムバッファー系に対する、算出および実験pH、イオン強度、および緩衝容量の曲線を表す。
【0008】
本発明が、特定の方法、試薬、化合物、組成物、または生物系に限定されるものではなく、これらは当然様々であってもよいことは理解されたい。また、本明細書で用いられる専門用語は、単に特定の実施形態を記載する目的のものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本明細書および添付の請求項で用いられる場合、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、内容からそれ以外であることが明確に示されない限りにおいて、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「一つのポリペプチド」への言及は、2つ以上のポリペプチドの組み合わせを含む、などである。
【0009】
量、時間の長さなど測定可能な値に言及する場合に本明細書で用いられる「約」は、開示される方法を実施するためにそのような変動が適切である場合、示された値からの±5%、±1%、および±0.1%を含む±20%または±10%の変動を包含することを意味する。
【0010】
特に断りのない限り、本明細書で用いられる技術的および科学的用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の試験のための実践において、本明細書に記載のものに類似の、またはそれと同等のいかなる方法および物質も用いてよいが、好ましい物質および方法が本明細書にて記載される。本発明の記載および請求において、以下の専門用語が用いられる。
【0011】
塩化ナトリウム非含有二成分バッファー系の有益性は、酢酸およびトリス塩基を例とする、バイオプロセスに適する広範囲にわたる様々なバッファー成分で実現することができる。しかし、この特定の成分対は、第三のナトリウム塩共役塩基(例:酢酸ナトリウム)と合わせて、特に捕捉後仕上げ工程(post capture polishing steps)としてアニオンおよびカチオン交換クロマトグラフィが組み込まれるモノクローナル抗体プラットフォームにおいて利点を提供する。プロテインAクロマトグラフィでは、これらのバッファー種は特に適しており、この場合、平衡、ローディング、洗浄が、通常は中性pHで行われ、溶出は、低pHへの一段の変化を必要とする。ここで、酢酸/トリス混合物を、平衡化用にpH7.0‐8.0で緩衝するように設計し、プロセスおよび生成物関連不純物の最適な除去のためにイオン強度を高めるために高濃度酢酸ナトリウムを用いた、この同じpHでの洗浄用の酢酸/酢酸ナトリウム/トリス塩基混合物を設計し、ならびに低pH(3.6‐3.8)での溶出用に、酢酸/酢酸ナトリウム混合物を設計することができる。一つの他の利点は、該当するイオン交換クロマトグラフィ操作の過程での、酢酸塩およびトリスバッファー種の最小限の静電吸着または交換に単純に関連する。より具体的には、トリス塩基イオンは、中性pH(高い等電点を有する典型的な抗体のためのアニオン交換クロマトグラフィがここで一般的に行われる)にて正電荷を有することから、AEXフロースルー工程全体を通してそのほとんどが溶液中に残り、低イオン強度での適切な液相緩衝を提供する。対照的に、酢酸イオンは、負電荷を有し、カチオン交換クロマトグラフィを通して溶液中に残り、やはりバッファー共イオンの交換を回避し、酸性pH(例えばpH5.0)での緩衝を提供する。中間的なバッファー濃度でのこの手法は、工程の変化を通して一定のpHを維持する補助となり、不純物除去および工程の実施におけるロスに繋がり得るpHの遷移が回避される[1]、[2]、[3]。別の重要な利点は、これらの種の単一のpKa値、およびプラットフォームプロセス(
図1)の各工程において最も妥当であるpH値での緩衝容量に関連する。例えば、酢酸バッファーの単一のpKa値により、目標とする低pHの達成またはウィルス不活性化工程の過程での中和に必要とされる強酸および塩基の量を削減することが可能となり、それによって、添加の結果としてのイオン強度の増加が最小限に抑えられる。この工程の過程でのイオン強度の最小化は、以下のアニオン交換クロマトグラフィフロースルー工程の性能の最大化にとって極めて重要である。そして、アニオン交換生成物の低イオン強度は、カチオン交換クロマトグラフィ工程での高結合容量を可能とし、それによって、プロセスの4工程すべてが完全に統合され(バッファー選択の観点から)、工程間でのTFUFまたは希釈の必要性が回避される。最後に、プロセスから塩化ナトリウムを排除することにより、高濃度の塩化物溶液によるステンレススチール製プロセス装置に対する腐食の影響が管理され、全体として回避されることが確実になされる。特に酸性pHレベル(例えば、カチオン交換クロマトグラフィの過程で必要とされる)における高濃度塩化物溶液は、腐食を伴い、製造設備にとって問題であると報告されている[4]。
【0012】
本発明は、特に、塩化ナトリウムの代わりとしてのナトリウム塩バッファー成分、高濃度トリス塩基、またはイオン強度調節のためのその他の成分と組み合わせた、プラットフォームプロセスの場合における単純化された酸/塩基バッファー系の使用に関する。この手法により、より堅固なpHおよび導電率制御が3.4‐7.7のpH範囲にわたって得られ、その結果、より多くの数のバッファー成分を組み込んだより従来型のプロセスと比較して、各クロマトグラフィ工程の性能が改善される。
【0013】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書にて交換可能に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを意味する。ポリペプチドは、天然源のもの(組織由来)であっても、原核もしくは真核細胞製剤からの組換えまたは自然発現のものであっても、または合成法を介して化学的に作製されたものであってもよい。これらの用語は、一つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的な化学的ミメティックであるアミノ酸ポリマー、ならびに天然アミノ酸ポリマー、および非天然アミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸ミメティックとは、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸に類似の方法で機能する化学化合物を意味する。非天然残基は、科学文献および特許文献に詳細に記載されており、天然アミノ酸残基のミメティックとして有用であるいくつかの代表的な非天然組成物およびガイドラインを以下に記載する。芳香族アミノ酸のミメティックは、例えば、D‐もしくはL‐ナフィルアラニン(naphylalanine)、D‐もしくはL‐フェニルグリシン、D‐もしくはL‐2 チエンイルアラニン(thieneylalanine)、D‐もしくはL‐1,‐2,3‐,または4‐ピレンイルアラニン(pyreneylalanine)、D‐もしくはL‐3 チエンイルアラニン、D‐もしくはL‐(2‐ピリジニル)‐アラニン、D‐もしくはL‐(3‐ピリジニル)‐アラニン、D‐もしくはL‐(2‐ピラジニル)‐アラニン、D‐もしくはL‐(4‐イソプロピル)‐フェニルグリシン:D‐(トリフルオロメチル)‐フェニルグリシン、D‐(トリフルオロメチル)‐フェニルアラニン:D‐p‐フルオロ‐フェニルアラニン、D‐もしくはL‐p‐ビフェニルフェニルアラニン、K‐もしくはL‐p‐メトキシ‐ビフェニルフェニルアラニン:D‐もしくはL‐2‐インドール(アルキル)アラニン、および、D‐もしくはL‐アルキルアミンによる置換によって作製してよく、ここで、アルキルは、置換もしくは無置換のメチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソ‐ブチル、sec‐イソチル(isotyl)、イソ‐ペンチル、または非酸性アミノ酸であってよい。非天然アミノ酸の芳香族環としては、例えば、チアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリル、およびピリジル芳香族環が挙げられる。
【0014】
本明細書で用いられる場合、「ペプチド」は、本明細書にて具体的に例示されるペプチドの保存的変異であるペプチドを含む。本明細書で用いられる場合、「保存的変異」は、別の生物学的に類似する残基によるアミノ酸残基の置換を意味する。保存的変異の例としては、これらに限定されないが、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、システイン、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、ノルロイシン、またはメチオニンなどの一つの疎水性残基を別の疎水性残基で置換すること、またはアルギニンのリジンでの置換、グルタミン酸のアスパラギン酸での置換、もしくはグルタミンのアスパラギンでの置換などの一つの極性残基を別の極性残基で置換することなどが挙げられる。互いに置換可能である天然親水性アミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、およびスレオニンが挙げられる。「保存的変異」はまた、無置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸を用いることも含むが、但し、その置換ポリペプチドに対して産生された抗体が、無置換ポリペプチドとも免疫反応を起こすことが条件である。そのような保存的置換は、本発明のペプチドのクラスの定義の範囲内である。本明細書で用いられる場合、「カチオン性」とは、pH7.4にて正味の正電荷を有するいずれのペプチドをも意味する。ペプチドの生物活性は、当業者に公知であり、本明細書に記載される標準的な方法によって測定することができる。
【0015】
「組換え」とは、タンパク質に関連して用いられる場合、異種核酸もしくはタンパク質の導入によって、または天然核酸もしくはタンパク質の変化によって修飾されたタンパク質を示す。
【0016】
本明細書で用いられる場合、「治療タンパク質」とは、哺乳類に投与されて、例えば研究者もしくは医師が求めている組織、系、動物、もしくはヒトの生物学的または医学的応答を引き起こすことができるいずれのタンパク質および/またはポリペプチドをも意味する。治療タンパク質は、2つ以上の生物学的または医学的応答を引き起こしてよい。さらに、「治療有効量」の用語は、そのような量を受けていない対応する対象と比較して、これらに限定されないが、疾患、障害、もしくは副作用の治癒、予防、もしくは寛解、または疾患もしくは障害の進行速度の低下をもたらす、いかなる量をも意味する。この用語はまた、正常な生理学的機能の向上に有効である量、ならびに第二の医薬剤の治療効果を向上または補助する患者の生理学的機能を誘発するのに有効である量もその範囲内に含む。
【0017】
本明細書にて識別される「アミノ酸」残基はすべて、天然のL‐配置である。標準的なポリペプチド命名法に従って、アミノ酸残基に対する略号を以下の表に示す。
【0019】
アミノ酸残基配列はすべて、本明細書にて、その左から右への配向が慣例的なアミノ末端からカルボキシ末端への方向である式によって表されることには留意されたい。
【0020】
別の実施形態では、ポリペプチドは、抗原結合ポリペプチドである。一つの実施形態では、抗原結合ポリペプチドは、可溶性受容体、抗体、抗体断片、免疫グロブリン単一可変ドメイン、Fab、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、閉構造多重特異性抗体、ジスルフィド結合scFv、または二重特異性抗体からなる群より選択される。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「抗原結合ポリペプチド」の用語は、抗体、抗体断片、および抗原に結合する能力を有するその他のタンパク質コンストラクトを意味する。
【0022】
Fv、Fc、Fd、Fab、またはF(ab)2の用語は、これらの標準的な意味で用いられる(例えば、Harlow et al., Antibodies A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988)参照)。
【0023】
「キメラ抗体」とは、ドナー抗体由来の天然の可変領域(軽鎖および重鎖)を、アクセプター抗体由来の軽鎖および重鎖定常領域と合わせて含有する、遺伝子操作された抗体の種類を意味する。
【0024】
「ヒト化抗体」とは、非ヒトドナー免疫グロブリン由来のCDRを有し、分子の残りの免疫グロブリン由来部分は、一つ(以上)のヒト免疫グロブリン由来である遺伝子操作された抗体の種類を意味する。加えて、フレームワーク支持残基(framework support residues)は、結合親和性を保存するために、改変されてよい(例えば、Queen et al., Proc. Natl. Acad Sci USA, 86:10029-10032 (1989)、Hodgson et al., Bio/Technology, 9:421 (1991)を参照)。適切なヒトアクセプター抗体は、従来からのデータベース、例えば、KABAT.RTM.データベース、Los Alamosデータベース、およびSwiss Proteinデータベースより、ドナー抗体のヌクレオチドおよびアミノ酸配列に対する相同性によって選択されるものであってよい。ドナー抗体のフレームワーク領域に対する相同性(アミノ酸基準)によって特徴付けられるヒト抗体は、ドナーCDRの挿入のための重鎖定常領域および/または重鎖可変フレームワーク領域を提供するのに適切であり得る。軽鎖定常または可変フレームワーク領域を提供することができる適切なアクセプター抗体は、類似の方法で選択することができる。アクセプター抗体重鎖および軽鎖は、同じアクセプター抗体に由来する必要はないことには留意されたい。先行技術により、そのようなヒト化抗体作製のためのいくつかの方法が報告されており、例えば、欧州特許第0239400A号および欧州特許第054951A号を参照されたい。
【0025】
「ドナー抗体」の用語は、それ自体の可変領域、CDR、もしくはその他の機能性断片、またはそれらのアナログのアミノ酸配列を、第一の免疫グロブリンパートナーへ寄与し、それによって、改変免疫グロブリンコード領域を提供し、およびその結果として、ドナー抗体に特徴的である抗原特異性および中和活性を有する発現された改変抗体を提供する抗体(モノクローナルおよび/または組換え)を意味する。
【0026】
「アクセプター抗体」の用語は、ドナー抗体に対して異種であり、その重および/もしくは軽鎖フレームワーク領域、ならびに/またはその重および/もしくは軽鎖定常領域をコードするアミノ酸配列のすべて(またはいずれかの部分、しかしいくつかの実施形態では、すべて)を、第一の免疫グロブリンパートナーへ寄与する抗体(モノクローナルおよび/または組換え)を意味する。特定の実施形態では、ヒト抗体は、アクセプター抗体である。
【0027】
「CDR」は、免疫グロブリン重および軽鎖の超可変領域である、抗体の相補性決定領域アミノ酸配列として定義される(例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th Ed., U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987)を参照されたい)。免疫グロブリンの可変部分には、3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDR(またはCDR領域)が存在する。従って、本明細書で用いられる場合、「CDR」は、3つの重鎖CDRすべて、または3つの軽鎖CDRすべて(または、該当する場合、すべての重鎖CDRおよびすべての軽鎖CDRの両方)を意味する。抗体の構造およびタンパク質フォールディングによっては、他の残基が抗原結合領域の一部と見なされることを意味する場合があり、当業者であればそのように理解されるであろう。例えば、Chothia et al., (1989) Conformations of immunoglobulin hypervariable regions、 Nature 342, p 877-883、を参照されたい。
【0028】
本明細書で用いられる場合、「ドメイン」の用語は、タンパク質の残りの部分とは独立した三次構造を有するフォールドされたタンパク質構造を意味する。一般的に、ドメインは、タンパク質の別々の機能特性を担っており、多くの場合、タンパク質の残りの部分および/またはそのドメインの機能を喪失することなく、付加、除去、または他のタンパク質へ転移され得る。「抗体単一可変ドメイン」は、抗体可変ドメインに特徴的である配列を含むフォールドされたポリペプチドドメインである。従って、それは、完全な抗体可変ドメイン、および修飾可変ドメイン、例えば、一つ以上のループが抗体可変ドメインに特徴的ではない配列によって置き換えられたもの、または、切断された、またはN‐もしくはC‐末端伸長を含む抗体可変ドメイン、さらには少なくとも完全長ドメインの結合活性および特異性を維持する可変ドメインのフォールドされた断片を含む。
【0029】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」の語句は、異なるV領域またはドメインとは独立して、抗原またはエピトープと特異的に結合する抗体可変ドメイン(V
H、V
HH、V
L)を意味する。免疫グロブリン単一可変ドメインは、他の異なる可変領域または可変ドメインとのフォーマット(例:ホモまたはヘテロマルチマー)として存在し得るものであり、ここで、他の領域またはドメインは、単一免疫グロブリン可変ドメインによる抗原結合に必要ではない(すなわち、免疫グロブリン単一可変ドメインは、追加の可変ドメインとは独立して抗原と結合する)。「ドメイン抗体」または「dAb」は、その用語が本明細書にて用いられる場合、抗原と結合する能力を有する「免疫グロブリン単一可変ドメイン」と同じである。免疫グロブリン単一可変ドメインは、ヒト抗体可変ドメインであってよいが、げっ歯類(例えば、国際公開第00/29004号に開示されるように)、アメリカテンジクザメ、およびラクダ科(Camelid)V
HHdAb(ナノボディ)など、他の種からの単一抗体可変ドメインも含む。ラクダ科V
HHは、元々軽鎖のない重鎖抗体を産生するラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含む種由来である免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。そのようなV
HHドメインは、本技術分野で利用可能である標準的な技術に従ってヒト化することができ、そのようなドメインは、依然として、本発明において「ドメイン抗体」と見なされる。本明細書で用いられる場合、「V
Hは、ラクダ科V
HHドメインを含む。NARVは、アメリカテンジクザメを含む軟骨魚類中にて識別された別の種類の免疫グロブリン単一可変ドメインである。これらのドメインは、新規抗原受容体可変領域(Novel Antigen Receptor variable region)(一般的に、V(NAR)またはNARVと略される)としても知られる。さらなる詳細については、Mol. Immunol. 44, 656-665 (2006)および米国特許出願第20050043519A号を参照されたい。
【0030】
「エピトープ結合ドメイン」の用語は、異なるV領域またはドメインとは独立して、抗原またはエピトープと特異的に結合するドメインを意味し、これは、ドメイン抗体(dAb)、例えばヒト、ラクダ科、またはサメ免疫グロブリン単一可変ドメインであってよい。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「抗原結合部位」の用語は、抗原と特異的に結合する能力を有するタンパク質上の部位を意味し、これは、単一ドメイン、例えばエピトープ結合ドメインであってよく、またはこれは、標準的な抗体上で見ることができる対となったV
H/V
Lドメインであってもよい。本発明のいくつかの側面では、一本鎖Fv(ScFv)ドメインが、抗原結合部位を提供することができる。
【0032】
「mAbdAb」および「dAbmAb」の用語は、本発明の抗原結合タンパク質を意味するために用いられる。これら2つの用語は、交換可能に用いてよく、本明細書で用いられる場合、同じ意味を有することを意図している。
【0033】
一つの側面では、本発明は、一連のクロマトグラフィ工程によるタンパク質の精製のための多成分バッファー系に関し、クロマトグラフィのモードは、親和性クロマトグラフィ、アニオン交換クロマトグラフィ、カチオン交換クロマトグラフィ、および混合モードクロマトグラフィからなる群より選択され、クロマトグラフィのモードは、結合‐溶出モードまたはフロースルーモードのいずれかで操作され、この多成分バッファー系は、有機酸、その有機酸の共役塩基のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、および有機塩基を含み、ならびにクロマトグラフィのモードは、NaClを添加することなく作製されたバッファーを用いて実施される。
【0034】
一つの実施形態では、親和性クロマトグラフィは、スーパー抗原を用いて実施される。「スーパー抗原」とは、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーと、これらのタンパク質のターゲットリガンド結合部位とは別の部位にて相互作用を起こす一般的リガンド(generic ligands)を意味する。ブドウ球菌エンテロトキシンは、T細胞受容体と相互作用を起こすスーパー抗原の例である。抗体と結合するスーパー抗原としては、これらに限定されないが、IgG定常領域と結合するプロテインG(Bjorck and Kronvall, J. Immunol., 133:969 (1984))、IgG定常領域およびV
Hドメインと結合するプロテインA(Forsgren and Sjoquist, J. Immunol., 97:822 (1966))、ならびにV
Lドメインと結合するプロテインL(Bjorck, J. Immunol., 140:1194 (1988))が挙げられる。一つの実施形態では、スーパー抗原は、プロテインAである。
【0035】
多くの場合において、不純物の結合と同時に使用者のタンパク質が流出(flow through)する条件を実際に選択することがより有利であり得る。この結合モードは、「フロースルーモード」と称される場合が多い。本出願において、クロマトグラフィの過程で流出する溶液は、「フロースルー」と称される。
【0036】
本明細書で用いられる場合、「プロテインA」の用語は、その天然源から回収されたプロテインA、合成によって作製されたプロテインA(例:ペプチド合成により、または組換え技術により)、およびC
H2/C
H3領域を有するタンパク質と結合する能力を維持するその変異体を包含する。プロテインAは、レプリゲン(Repligen)、ファルマシア(Pharmacia)、およびフェルマテック(Fermatech)から市販のものを購入してもよい。
【0037】
スーパー抗原は、固相上に固定される。「固相」とは、スーパー抗原が接着可能である非水性マトリックスを意味する。本明細書で対象とする固相は、一般的に、ガラス、シリカ、アガロース、またはポリスチレン表面を含むものである。固相は、精製カラム、または個々の粒子の非連続相であってよい。好ましい実施形態では、固相は、制御ポアガラスカラム(controlled pore glass column)またはケイ酸カラムである。特定の実施形態では、固相は、不純物が固相へ非特異的に接着することを予防することを意図する試薬(グリセロールなど)でコーティングされている。
【0038】
「バッファー」は、その酸−塩基共役成分の作用により、pHの変化を阻止する緩衝溶液である。
【0039】
「平衡バッファー」は、本明細書にて、クロマトグラフィのための固相の調製に用いられるバッファーである。
【0040】
「ローディングバッファー」は、タンパク質および(1もしくは複数の)不純物の混合物を、クロマトグラフィマトリックス上へロードするために用いられるバッファーである。平衡バッファーおよびローディングバッファーは、同じであってよい。
【0041】
「溶出バッファー」は、クロマトグラフィマトリックスからタンパク質を溶出するために用いられるバッファーである。
【0042】
「塩」は、酸および塩基の相互作用によって形成される化合物である。
【0043】
一つの実施形態では、有機酸としては、これらに限定されないが、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、グリシン、リン酸、グリシルクリシン(glycylclycine)、コハク酸、TES(2‐{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸)、MOPS(3‐(N‐モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン‐N,N’‐ビス(2‐エタンスルホン酸))、およびMES(2‐(N‐モルホリノ)エタンスルホン酸)が挙げられる。
【0044】
一つの実施形態では、有機塩基としては、これらに限定されないが、トリス塩基、アルギニン、ビス‐トリス、ビス‐トリス‐プロパン、ビシン(N,N‐ビス(2‐ヒドロキシエチル)グリシン)、HEPES(4‐2‐ヒドロキシエチル‐1‐ピペラジンエタンスルホン酸)、TAPS(3‐{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、およびトリシン(N‐トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシンからなる群が挙げられる。
【0045】
一つの実施形態では、有機酸の共役塩基は、有機酸の共役塩基のナトリウム、カリウム、またはアンモニウム塩である。一つの実施形態では、有機酸は、酢酸であり、酢酸の共役塩基は、ナトリウム塩である。
【0046】
一つの実施形態では、タンパク質は、抗原結合タンパク質である。一つの実施形態では、抗原結合タンパク質は、抗体である。一つの実施形態では、抗体は、IgGクラスの抗体である。一つの実施形態では、抗原結合タンパク質は、免疫グロブリン単一可変ドメインである。
【0047】
一つの実施形態では、一連のクロマトグラフィ工程は、プロテインAクロマトグラフィ、およびフロースルーアニオン交換クロマトグラフィを含む。一つの実施形態では、一連のクロマトグラフィ工程は、プロテインAクロマトグラフィ、フロースルーアニオン交換クロマトグラフィ、およびカチオン交換クロマトグラフィを含む。
【0048】
一つの実施形態では、一連のクロマトグラフィ工程は、約55mMのトリス塩基、約45mMの酢酸の存在下、約pH7.5にて実施されるプロテインAクロマトグラフィを含む。
【0049】
一つの実施形態では、一連のクロマトグラフィ工程は、約55mMのトリス塩基、約45mMの酢酸の存在下、約pH7.5にて実施されるフロースルーアニオン交換クロマトグラフィを含む。
【0050】
一つの実施形態では、一連のクロマトグラフィ工程は、約25mMの酢酸ナトリウム、約12.1mMの酢酸の存在下、約pH5.0にて実施されるカチオン交換クロマトグラフィを含む。
【0051】
一つの側面では、本発明は、プロテインAクロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)固相上に固定されたプロテインAを、約55mMトリス塩基、約45mM酢酸を含む約pH7.5のプロテインA平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液からのタンパク質を、固相上に固定されたプロテインAに吸着させること、
(c)約55mMトリス塩基、約45mM酢酸、300mM酢酸ナトリウムを含む約pH7.5の第一のプロテインA洗浄バッファーを用いて固相を洗浄することにより、不純物を除去すること、ならびに
(d)約1.8mM酢酸ナトリウム、約28.2mM酢酸を含む約pH3.6のプロテインA溶出バッファーを用いて、固相からタンパク質を回収すること、ここで、バッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
【0052】
一つの実施形態では、この方法は、工程(c)の後および工程(d)の前に、以下の工程をさらに含む:約55mMトリス塩基、約45mM酢酸を含む約pH7.5の第二のプロテインA洗浄バッファーを用いて固相を洗浄することにより、不純物を除去すること、ここで、第二のプロテインA洗浄バッファーは、NaClを添加することなく作製される。
【0053】
一つの実施形態では、この方法は、工程(d)の後に、以下の工程をさらに含む:
(e)約30mM酢酸、約100mMHClを用いて、回収されたタンパク質を含有する溶液を約pH3.0まで滴定すること、
(f)工程(e)の溶液を、約30から約60分間約pH3.0に維持すること、および
(g)工程(f)の溶液のpHを、約1M トリスを用いて約pH7.5に調節すること。
【0054】
一つの実施形態では、この方法は、請求項18の工程(g)によって作製された溶液をろ過することをさらに含む。
【0055】
一つの側面では、本発明は、フロースルーアニオン交換クロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)アニオン交換マトリックスを、約55mMトリス塩基、約45mM酢酸を含む約pH7.5のアニオン平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液をアニオン交換マトリックスに適用し、第一のフロースルーを回収すること、および
(c)55mMトリス塩基、約45mM酢酸、約300mM酢酸ナトリウムを含む約pH7.5のアニオン洗浄バッファーをアニオン交換マトリックスに適用し、第二のフロースルーを回収すること、ここでバッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
【0056】
一つの実施形態では、不純物含有溶液は、請求項18の工程(g)で作製された溶液、または請求項19のろ過された溶液である。
【0057】
一つの実施形態では、第一のフロースルーおよび第二のフロースルーは、一つに混合されたフロースルー溶液に混合される。
【0058】
一つの実施形態では、第一のフロースルー、第二のフロースルー、および一つに混合されたフロースルー溶液のpHは、30mM酢酸、100mMHClを用いて、約pH5.0に調節される。
【0059】
一つの側面では、本発明は、カチオン交換クロマトグラフィにより、タンパク質をその不純物含有溶液から精製するための方法に関し、その方法は以下を含む:
(a)カチオン交換マトリックスを、約25mM酢酸ナトリウム、約12.1mM酢酸を含む約pH5.0のカチオン平衡バッファーを用いて平衡化すること、
(b)不純物含有溶液からのタンパク質を、カチオン交換マトリックスに吸着させること、
(c)約25mM酢酸ナトリウム、約12.1mM酢酸を含む約pH5.0の第一のカチオン洗浄バッファーを用いて固相を洗浄することにより、不純物を除去すること、および
(d)175mM酢酸ナトリウム、75mM酢酸を含む約pH5.0のカチオン溶出バッファーを用いて、固相からタンパク質を回収すること、ここでバッファーはすべて、NaClを添加することなく作製される。
【0060】
一つの実施形態では、不純物含有溶液は、請求項20または21の第一のフロースルー、請求項20または21の第二のフロースルー、請求項22の一つに混合されたフロースルー溶液、および請求項23で作製されたpH調節フロースルーから選択される。
【実施例】
【0061】
実施例1
二成分バッファー系に組み込むことが可能であり得る数多くの可能性のあるバッファー成分を、イオン強度調節のための第三の成分(意図的に塩化ナトリウムは除く)と共に、抗体精製のためのプラットフォームプロセスを通して評価した。表2に、一般的にバイオプロセスとの適合性を有すると見なされているこれらの成分を挙げる。これらの実験では、
図2aに示されるように、勾配供給機能を有する液体クロマトグラフィシステムを用いて濃縮バッファー溶液を混合し、様々な比率にてpHおよび導電率を測定した。
図3、4、5、6は、それぞれ、酢酸/トリス塩基、クエン酸/トリス塩基、酢酸/リン酸ナトリウム、およびクエン酸/リン酸ナトリウムのサンプル結果をそれぞれ示す。これらの図では、白丸のデータポイントは、バッファーモル濃度の関数としての実験測定されたpH値を表し、一方実線および点線は、水溶液中でのイオンの挙動を予測するための詳細に確立されたDavies数学モデル[5]の溶液によって決定される、算出されたpH、導電率(全体として、溶液導電率に比例)、および緩衝容量の値を表す。これらの曲線により、特定のpHおよびイオン強度レベルが得られるイオン種の混合物を作製するために必要とされるバッファー比を決定することができ、従って、それは、特定のクロマトグラフィ工程におけるバッファーの適切性を評価するためのツールとなる。
【0062】
【表2】
【0063】
例えば、
図3は、酢酸およびトリス塩基混合物におけるこれらの結果を示しており、例えばpH7.5での緩衝のためには、55mMトリス塩基、45mM酢酸の組成が必要であり、19mMの容量を提供することが示される。一般的に、バッファーは、緩衝容量がおよそ20mMに近づくと、「適切な」バッファーであると見なされる。表2に示す種々の成分のその他の組み合わせは、この方法で評価し、次にクロマトグラフィ実験で試験することができる。
【0064】
この手法を適用して、
図1に示されるプラットフォームプロセス全体において所望されるpHおよび導電率の範囲を満たすのに必要とされる酢酸およびトリス塩基の組成をさらに決定した。ある範囲のpH値が、低から高のある範囲の導電率レベルと共に、3.6から7.5pHユニットの範囲内で、プラットフォームの各クロマトグラフィユニット操作に対して特異的に必要とされる。この後者の必要条件(導電率制御)は、種々の成分で達成することができる。この例では、バッファーのイオン強度を高めるために用いられる酢酸に対する共役塩基として酢酸ナトリウムを選択し、ここで、ナトリウムイオンが、イオン強度の上昇を直接提供する。表3は、精製実験に用いたこの二成分バッファー系の最終バッファー組成を混合したものである。この表において、プロテインA洗浄およびカチオン交換クロマトグラフィ溶出工程における高濃度酢酸ナトリウムの使用、および塩化ナトリウムの非存在に留意されたい。
【0065】
【表3】
【0066】
実施例2
クロマトグラフィプロセスはすべて、GEヘルスケア(ピスカタウェイ,ニュージャージー州,米国)製のAKTA Explorer 100システムを用いて実施する。MabSelect SuReプロテインAおよびCaptoQクロマトグラフィ媒体は、GEヘルスケア(ピスカタウェイ,ニュージャージー州,米国)から入手する。GigaCapS 650Mカチオン交換樹脂は、トーソーバイオサイエンス(Tosoh Bioscience)(モンゴメリービル(Montgomeryville),ペンシルベニア州,米国)から入手する。クロマトグラフィ媒体は、ミリポアコーポレーション(ベッドフォード,マサチューセッツ州,米国)から入手した直径1.1cmのVantageカラム中、製造元の推奨に従って、25cmの層高さに充填する。本研究に用いたIgGモノクローナル抗体は、グラクソスミスクラインのアッパーメリオン事業所(GlaxoSmithKline Upper Merion site)(キングオブプルシア(King of Prussia),ペンシルベニア州,米国)にて、哺乳類細胞培養を用いて組換え発現されたものである。化学薬品はすべて、JTベーカー(JT Baker)(フィリップスバーグ(Phillipsburg),ニュージャージー州,米国)またはシグマアルドリッチ(セントルイス,ミズーリ州,米国)から入手したものであり、USPグレードである。
【0067】
プロテインAクロマトグラフィ
MabSelect SuReを用いたプロテインA親和性クロマトグラフィによるモノクローナル抗体の精製は、表2に従って実施する。まず、カラムを、55mMトリス塩基、45mM酢酸、pH7.5により平衡化する。次に、清澄化哺乳類細胞培養ブロスのカラムへの適用を、充分なロード質量がカラムに適用されるまで行う。次に、カラムを55mMトリス塩基、45mM酢酸、300mM酢酸ナトリウム、pH7.5で洗浄する。溶出の前に、カラムを55mMトリス塩基、45mM酢酸、pH7.5により再平衡化する。続いて、カラムに、1.8mM酢酸ナトリウム、28.2mM酢酸、pH3.6による一段の溶出を施す。
【0068】
ウィルス不活性化のための低pH処理
前工程からのプロテインA溶出液を、30mM酢酸、100mMHClによりpH3.5に調節する。この低pH調節物を、30から60分間保持し、次に1M トリス塩基によりpH7.5に中和する。次に、続いての精製工程への準備として、中和プールをろ過する。
【0069】
アニオン交換フロースルークロマトグラフィ
さらなる精製は、WFI(注射用水)による予備平衡リンスに続いて、55mMトリス塩基、45mM酢酸、pH7.5によりCaptoQカラムを平衡化することによって実施する。プロテインA平衡化に用いたものと同じ平衡バッファーをこの工程で再度用いており、それによって、作製する必要のあるバッファー溶液を最小限に抑えるという利点が得られていることに留意されたい。次に、中和プールをカラムに適用し、ここで、対象のタンパク質は流出し、回収され、不純物はカラムに結合して残留する。タンパク質の適用後、次に、残されたタンパク質がカラムから洗い流されて回収可能となるように、カラムを適切な平衡バッファーで洗浄する。
【0070】
カチオン交換クロマトグラフィ
アニオン交換フロースルー工程から回収したタンパク質を、30mM酢酸、100mMHClにてpH5.0に滴定する。ここでも、この工程でのpH調節に、低pH処理溶液を再度使用していることに留意されたい。GigaCapS 650Mカラムを、25mM酢酸ナトリウム、12.1mM酢酸、pH5.0により平衡化する。次に、滴定したロードを、所望されるロード質量に達するまでカラムに適用する。続いて、カラムを、25mM酢酸ナトリウム、12.1mM酢酸、pH5.0により再度平衡化する。次に、175mM酢酸ナトリウム、75mM酢酸、pH5.0をカラムに適用することによって、カラムに一段の溶出を施す。カラムからの排出液を回収し、さらなる処理のために保持する。
【0071】
参考文献: