特許第6147742号(P6147742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6147742静脈内針挿入又はカニューレ挿入に関する改良
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147742
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】静脈内針挿入又はカニューレ挿入に関する改良
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/132 20060101AFI20170607BHJP
   A61M 5/42 20060101ALI20170607BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   A61B17/132
   A61M5/42 510
   A61M5/142 508
   A61M5/142 520
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-522161(P2014-522161)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公表番号】特表2014-528742(P2014-528742A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】GB2012051820
(87)【国際公開番号】WO2013014468
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】1112933.5
(32)【優先日】2011年7月27日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508349702
【氏名又は名称】オルベロン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】バクティアリ‐ネジャド‐エスファハーニ アラシュ
(72)【発明者】
【氏名】アルトリップ ジョン ローレンス
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−538217(JP,A)
【文献】 米国特許第01824516(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/132
A61M 5/142
A61M 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の静脈内への、針又はカニューレの挿入を容易にする装置であって、
前記装置は、
流体チャンバであって、内部流体容積と、使用時に前記患者の皮膚と流体封止を形成するよう配置される下面と、上面とを有する流体チャンバと、
ファスナであって、前記患者の皮膚の表面と流体連通した状態で前記流体チャンバの前記内部流体容積を保持するように前記患者の肢の周囲に延在するよう配置されるファスナと、
を備え、
前記ファスナは、前記流体チャンバと一体的に形成されており、前記ファスナは、前記流体チャンバの前記上面を押し下げるように前記流体チャンバの両側に掛かることにより、使用時に前記流体チャンバの前記下面と前記患者の皮膚との間の前記流体封止を促進し、
前記装置は、下にある前記静脈の部分の拡大を促進するために、前記流体チャンバから流体を排出することにより前記流体チャンバ内に低減された圧力の容積を作成するように適合され、前記装置は、前記流体チャンバが前記患者の皮膚の表面と動作可能に係合されたままである間の、前記静脈の拡大された部分内への針又はカニューレの挿入を可能にするように配置される、装置
【請求項2】
前記ファスナは、使用の間、止血帯として働く、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記装置は、前記患者の皮膚に、前記装置の第2の端によって印加される圧力より大きな圧力を印加するように適合された第1の端を含み、ここで、前記第1の端は、使用中、前記静脈内の血流に関して、前記第2の端と比較して下流に位置するように適合され、前記止血帯は、前記ファスナと前記装置の前記第1の端とによって規定される、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記ファスナは、前記静脈に対して、前記流体チャンバの中心から前記装置の前記第1の端の方向にずれている前記流体チャンバの部分から延在する、請求項に記載の装置
【請求項5】
前記装置は、1ショット射出成形によって製造される、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記ファスナは、前記流体チャンバの各側方から延在するアームを備え、前記ファスナアームは、前記患者の肢の周囲にループを形成するために一緒に接続されるように適合される、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記ファスナアームの間の接続は、解除可能であり、かつ、ある範囲の接続構成の間で調節可能であり、従って、前記ファスナは、ある範囲の異なるサイズの肢の周囲にしっかりと固定されるように適合される、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、前記流体チャンバに出口を設けることによって、前記流体チャンバ内に、低減された圧力の容積を作成するように適合され、これにより、前記流体チャンバからの前記出口を介した流体の排出が、前記流体チャンバ内の前記低減された圧力の容積の作成をもたらす、請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記出口は、一方向弁の形態を有する、請求項に記載の装置。
【請求項10】
封止部材が、前記流体チャンバと前記患者の皮膚との間の封止を形成し、前記患者の皮膚と接触する前記封止部材の部分であって、前記封止部材の残りの部分より大きく変形可能である前記部分によって、前記弁が提供される、請求項に記載の装置。
【請求項11】
前記流体チャンバの壁の少なくとも一部は、弾性的に変形可能であり、前記流体チャンバは、前記出口を介して流体を排出するためにユーザによって圧潰されるように適合される、請求項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置は、前記装置とは別個の部品である、針又はカニューレと共に使用するように適合される、請求項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置の第1の端は、低減された接触表面を用いて前記患者の皮膚と係合するための突起を含む、請求項に記載の装置。
【請求項14】
前記突起は、馬蹄形状を有し、前記装置の前記第1の端、及び側方の領域内で延在する、請求項13に記載の装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静脈内針挿入又はカニューレ挿入に関し、特に、患者の静脈内への針又はカニューレの挿入を容易にする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静脈内カニューレ挿入は、患者から血液を採集するため、又は、薬剤を静脈内投与するために一般的に使用される医学技術である。静脈のカニューレ挿入の前に、静脈は準備されなければならない。この準備は、静脈を含む患者の身体の部分の周囲に、但し、カニューレ挿入部位の下流の位置において、止血帯を適用することを含む。止血帯によって印加される圧力は、静脈の局所的な拡大を引き起こし、従って、静脈血による静脈の局所的膨張を引き起こす。更に、皮膚の表面における空気圧を低減させるための装置が使用されてもよい。これは、静脈血による静脈の更なる膨張を引き起こす。カニューレが、次に、静脈の拡大された部分内に挿入されることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのような装置の欠点は、一般に、単純な止血帯より製造に費用がかかるということである。加えて、圧力低減装置を止血帯と組み合わせて使用することは、特に針又はカニューレの挿入の間に圧力低減装置が所定の位置に留まる場合、厄介な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従来技術に関連する上述の欠点及び/又はその他の欠点を、克服する、又は、実質的に緩和するための改良された装置が、このたび考案された。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、患者の静脈内への針又はカニューレの挿入を容易にする装置が提供され、この装置は、患者の肢の周囲に延在するファスナによって、患者の皮膚の表面との動作可能な係合において保持されるように適合される、流体チャンバを含み、この装置は、下にある静脈の部分の拡大を促進するために、流体チャンバ内に低減された圧力の容積を作成するように適合され、この装置は、流体チャンバが患者の皮膚の表面と動作可能に係合されたままである間の静脈の拡大された部分内への針又はカニューレの挿入を可能にするように配置される。
【0006】
本発明による装置の主たる利点は、使用の間、ファスナが、流体チャンバを、患者の皮膚の表面との動作可能な係合において保持するということである。これは、下にある静脈の部分の拡大を促進することにおける装置の有効性を増加させることが可能であり、また、使用の間、装置が外れることの可能性を低減させることも可能である。加えて、ファスナは、静脈の拡大を更に増大させるための止血帯として働くように適合されてもよい。
【0007】
本発明は、流体チャンバが患者の皮膚に対して封止するように適合される(例えば、ここで、流体チャンバの内部が患者の皮膚の表面と流体連通する)、本発明の実施形態と関連して特に有利である。特に、ファスナは、圧力低減の初期段階の間でさえ、すなわち、空気圧の差のみによって流体チャンバが皮膚に対して封止されるほど、流体チャンバ内の圧力が十分に低くなる前でさえ、効果的な封止が存在することを確実にする。
【0008】
本発明は、また、追加の固定配置の必要なしに良好な封止が確立されることを確実にする。特に、装置を所定の位置に保持するために、又は、患者の皮膚との封止を提供するために、粘着剤は必要とされず、従って、統合された包帯剤は必要ではなく、コストが低減される。
【0009】
ファスナは、好ましくは、使用の間、止血帯として働く。以下でより詳細に説明するように、装置は、好ましくは、患者の皮膚に、装置の第2の端によって印加される圧力より大きな圧力を印加するように適合された、第1の端を含み、ここで、第1の端は、使用中に静脈内の血流に関して、第2の端と比較して下流に位置するように適合される。止血帯は、好ましくは、従って、装置の第1の端において静脈(この中に針又はカニューレが挿入される)が圧潰されるように、ファスナと、装置の第1の端とによって規定される。このため、ファスナは、好ましくは、静脈に対して流体チャンバの中心から、装置の第1の端の方向にずらされた、流体チャンバの部分から延在する。
【0010】
ファスナは、好ましくは、流体チャンバとファスナとが単一の部品として形成されるように、流体チャンバと一体的に形成される。これは、ファスナと流体チャンバとの間の接続の、高度な確実性を提供する。更に、これは、装置が射出成形によって容易に製造されることを可能にし、また、1ショット射出成形のみでの製造を可能にし、その後の重要な組立工程を必要としない。
【0011】
現在好ましい実施形態では、ファスナは、流体チャンバの各側方から延在するアームを含み、ファスナアーム(複数)は、患者の肢の周囲にループを形成するために一緒に接続されるように適合される。ファスナアームの間の接続は、好ましくは、解除可能であり、かつ、ある範囲の接続構成の間で調節可能である。このようにして、ファスナは、好ましくは、ある範囲の異なるサイズの肢の周囲にしっかりと固定されるように適合される。
【0012】
ファスナアームは、好ましくは、ストラップ(特に、可撓性ストラップ)の形態を有する。可撓性ストラップは、しかし、固定する前の患者の肢上の位置決めを容易にするために、開かれた、接続されていない構成を維持するための十分な弾性を有してもよい。
【0013】
好ましい実施形態では、ファスナの2つの異なる部品が、流体チャンバの外面に、流体チャンバの両側方上の接続点において、固定的に接続される。これらの接続点は、好ましくは、流体チャンバの上面上にある。好ましい実施形態では、接続点は、流体チャンバの前方よりも後方に、わずかにより近い。接続点は、使用中に患者の皮膚に隣接する流体チャンバの部分に、隣接して位置してもよい。これは、封止の完全性を向上させる。流体チャンバのこの部分は、フランジの形態を取ってもよい。
【0014】
流体チャンバへのファスナアームの接続の確実性を向上させるために、ファスナアームは、各ファスナアームの近位端から突き出る2つのタブによって、流体チャンバに接続されてもよい。タブは、近接して間隔をあけられた位置において、流体チャンバに接続されてもよい。
【0015】
2つのファスナアームは、任意の好適な接続手段を使用して一緒に接続されるように適合されてもよい。いくつかの実施形態では、ファスナアームのそれぞれは、それぞれの接続手段又はコネクタ形成物を有する。好ましい実施形態では、ファスナアームのうちの一方の、その接続手段と流体チャンバとの間の長さは、他方のファスナアームの、接続手段と流体チャンバとの間の長さより大きい。これを提供するための一つの方法は、ファスナアームが等しくない長さを有することであってもよい。
【0016】
現在好ましい実施形態では、ラチェットタイプの接続手段が使用される。特に、ファスナアームのうちの一方は突起を備え、他方のファスナアームは、それぞれが突起を受け入れるような寸法に作られている一連の凹部を備える。突起を備えるファスナアームは、好ましくは、他方のファスナアームを受け入れるためのガイドスリーブであって、突起と対応する凹部との間の係合を維持するためのガイドスリーブも備える。突起は、流体チャンバに接続されるストラップの部分に対して、45°と90°との間の角度をなして配置されてもよい。そのような実施形態では、凹部は、突起の角度に対応するように角度を付けられてもよい。この配置は、凹部を備えるストラップが、締め付けの間により容易に突起を通過して引かれることを可能にする。接続と凹部との間の係合は、このような実施形態では、より確実である。
【0017】
突起は、例えば、外れることを阻止するために、ストラップに対して傾斜角を付けられてもよい。すなわち、突起は、垂直以外の角度をなしてもよい。
【0018】
突起の端は、平坦な輪郭を有してもよい。あるいは、端は、丸みを帯びた輪郭を有してもよい。
【0019】
例えば、ファスナアームのうちの一方のための第2の位置(ここにおいて、突起と、対応する凹部とは、相互に分離される)を提供することによって、2つのファスナアームの切り離しを容易にするために、ガイドスリーブ内に、カットアウト部(切り欠き部)が提供されてもよい。代替の接続手段は、マジックテープタイプのファスナ、粘着ファスナ、及びバックルタイプのファスナを含む。
【0020】
装置は、好ましくは、流体チャンバに出口を設けることによって、流体チャンバ内に、低減された圧力の容積を作成するように適合され、これにより、流体チャンバからの、出口を介した流体の排出が、チャンバ内の、低減された圧力の領域の作成をもたらす。流体は、通常、空気である。しかし、液体、又はゲルなどの、代替の流体の使用が想定されてもよい。
【0021】
出口は、好ましくは、圧力低減の間、流体(例えば、大気)が流体チャンバに入ることを許可しないように配置される。この配置は、低減された圧力が維持されるように、流体チャンバ内の圧力が維持されることを可能にする。最も好ましくは、出口は、アンブレラ弁、ダックビル弁、又は任意のその他の好適な弁の形態を有してもよい、一方向弁の形態を有する。更に、一方向弁は、別個の部品であってもよく、又は、流体チャンバの壁内に一体的に形成されてもよい。現在好ましい実施形態では、封止部材が、流体チャンバと患者の皮膚との間の封止を形成し、弁は、患者の皮膚と接触する封止部材の部分(この部分は、封止部材の残りの部分より大きく変形可能である)によって提供される。
【0022】
好ましい実施形態では、患者の皮膚と接触する封止部材の部分は、封止の完全性を向上させるための、封止流体を備える。
【0023】
チャンバから流体を排出する手段は、弾性的に変形可能な、チャンバの壁の少なくとも一部の形態を取ってもよく、チャンバは、出口を介して流体を排出するためにユーザによって圧潰されるように適合される。この実施形態では、チャンバの壁の弾性的性質は、チャンバの圧潰の間、チャンバの材料内に弾性エネルギーが蓄積されることを引き起こしてもよく、その材料内の原子間力が、チャンバを、その元の構成に向けて再形成するように働く。チャンバがその元の構成に向けて再形成するにつれて、周囲からチャンバに空気が入るのが防止され、従って、チャンバ内の圧力は、大気圧と比較して低減される。この再形成を引き起こしている原子間力が、チャンバ内の圧力と、大気圧との間の差によってバランスさせられるまで、チャンバは、その元の形状に再形成し続ける。この配置は、単純な構造であってもよく、従って、代替の方法と比較して低減された製造コストを有してもよい。
【0024】
あるいは、シリンジ又は真空ポンプなどの、流体チャンバから流体を排出するその他の手段が想定されてもよい。実際には、そのような手段の組み合わせが、装置内に組み込まれてもよい。例えば、装置は、弾性的に変形可能な流体チャンバと、一方向弁を有する出口と、流体チャンバから流体を更に排出するために、一方向弁に、シリンジ、真空ポンプ、又はその他の吸引装置を接続する手段とを含んでもよい。
【0025】
装置は、好ましくは、装置から独立した、及び、最も好ましくは、装置とは別個の部品である、針又はカニューレと共に使用するように適合される。この配置では、装置は、結果として低減された製造コストを有する、非常に単純な構造であってもよい。
【0026】
患者の皮膚と係合する、装置の表面は、好ましくは、装置が係合される、患者の皮膚の部分の外形と、実質的に一致するように適合される。特に、装置が、患者の肢(腕など)の皮膚との係合を目的とする場合、係合表面は、好ましくは、アーチ型の断面形状を有する。
【0027】
装置は、好ましくは、患者の皮膚に、装置の第2の端によって印加される圧力より大きな圧力を印加するように適合された、第1の端を含み、ここで、第1の端は、使用中、静脈内の血流に関して、第2の端と比較して下流に位置するように適合される。第1の端は、第2の端の接触表面と比較して低減された面積の接触表面を有してもよい。特に、第1の端は、低減された接触表面を用いて患者の皮膚と係合するための突起(例えば、突出リブ)を含んでもよい。
【0028】
代替的に、又は加えて、第1及び第2の端は異なる可撓性を有してもよく、従って、異なる変形性を有してもよい。例えば、第1の端は、第2の端より可撓性が少なくてもよく、従って、変形性が少なくてもよい。この場合、第2の端は、装置の第2の端の可撓性を増加させるために、装置の残りの部分と比較して低減された厚さの領域を含んでもよい。これらの配置は、使用中、装置の第1の端の下にある静脈の部分を圧潰するように働き、同時に、装置の第1の端の下にある静脈の部分の拡大を許可することによって、静脈の膨張を促進する。
【0029】
好ましくは、装置は、弾性的に変形可能な上部ドーム形状領域を有する、概してドーム形状である。ユーザが装置を圧潰した場合に、好ましくは最大限まで変形するのは、この上部領域である。装置は、ドームが接続される、より弾性的な支持部を有してもよい。装置は、好ましくは、使用の間に患者の皮膚と係合する、封止フランジを含み、支持部は、上部ドーム形状領域と、この封止フランジとの間に接続されてもよい。ドームと支持部と封止フランジとは、通常、同じ材料から形成され、しかし、所望される弾性を提供するために、異なる厚さを有する。封止フランジの下面は、好ましくは、皮膚との係合表面を形成する。支持部は、フランジから概して上方に延在してもよい。支持部の高さは、好ましくは、装置の前方において、後方におけるより大きく、支持部は、好ましくは、ドームより弾性的である。ドームと支持部とは、ドーム及び支持部の厚さと比較して低減された厚さを有する材料の領域によって、分離されてもよい。低減された厚さのこの領域は、好ましくは、蝶番(この周囲で、ドームは、ドームの圧潰の間、支持部に相対的に変形する)として働く。この蝶番効果は、ユーザがドームを圧潰するのを、特に、圧潰の後期の間、補助する。
【0030】
患者の皮膚と係合する装置の表面は、好ましくは、装置が係合される患者の皮膚の部分の外形と実質的に一致するように適合される。特に、装置が患者の肢(腕など)の皮膚との係合を目的とする場合、係合表面は、好ましくは、アーチ型の断面形状を有する。
【0031】
装置は、低減された圧力の局所的な領域を大気圧と等しくし、これにより患者の皮膚からの装置の取り外しを容易にする手段を含んでもよい。例えば、取り外し手段は、低減された圧力の局所的な領域を、大気圧と等しくするように適合されてもよい。取り外し手段は、好ましくは、装置を皮膚の表面から取り外すために、ユーザによってしっかりとつかまれ、上方に引かれることが可能な、フラップの形態を有する。フラップは、装置の前方から延在してもよい。フラップは、好ましくは、更に、流体チャンバの出口の一部を形成する。
【0032】
上述のように、装置の第1の端は、低減された接触表面を用いて患者の皮膚と係合するための突起(例えば、突出リブ)を含んでもよい。突出リブは、好ましくは、馬蹄形状を有し、従って、これは、装置の第1の端、及び側方の領域内で延在する。この形状は、患者の皮膚との、完全性の高い封止が確立されることを可能にする、更なる機能を、リブが果たすことを可能にする。
【0033】
本発明による装置は、流体チャンバを所定の位置に保持するための、又は患者の皮膚との効果的な封止を提供するための、包帯剤を必要としない。しかし、装置は、カニューレ挿入に続いて、カニューレを患者の皮膚に固定するために適用するための、包帯剤と共に提供されてもよい。この包帯剤は、標準的なカニューレ用包帯剤であってもよく、従って、特注の包帯剤は必要とされない。
【0034】
本発明の更なる態様によれば、針又はカニューレを静脈内に挿入する方法が提供され、この方法は、上述の装置を使用して、下にある静脈の部分の拡大を促進するために、患者の皮膚の表面において、低減された圧力の容積を作成するステップと、針又はカニューレを、静脈の拡大された部分内に挿入するステップとを含む。
【0035】
本発明の好ましい実施形態について、添付の図面を参照して、単なる例として、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明による装置の第1の斜視図である。
図2図1の装置の側面図である。
図3図1及び図2の装置の断面図である。
図4図1図3の装置のストラップの接続の断面図である。
図5図1図3の装置のストラップの接続の更なる断面図であり、この図は、図4の図に直交している。
図6図1図3の装置の下面図である。
図7図1図3の装置の更なる断面図である。
図8図1図3の装置の正面図である。
図9図1図3の装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1図9は、全体として10で示されている本発明による装置を示す。装置10は、圧力低減部20と止血帯30とを含む。
【0038】
装置10は、弾性的に変形可能な材料の単一の部品として射出成形によって形成される。特に、装置10は、約60〜70ショアAの硬度を有する、熱可塑性エラストマー(TPE)の1ショットを用いて射出成形される。
【0039】
圧力低減部20は、約5〜10cmの長さと、約5〜6cmの幅とを有する。圧力低減部20は、わずかに伸長されたドームの形態を有するエンクロージャ24と、周縁フランジ27とを含む。フランジ27は、エンクロージャ24の壁と比較して低減された厚さを有し、従って、エンクロージャ24より可撓性があり、使用中に圧力低減部20と患者の皮膚との間の封止の形成を促進する。
【0040】
フランジ27は、装置の前方に位置する拡張部25を含み、これは、患者の心臓から最も遠くに、かつ、カニューレ挿入又は針挿入の部位の近くに配置される、圧力低減部20の端であることが意図される。特に、低減された厚さを有し、従って、圧力低減部20の残りの部分より大きな可撓性を有する圧力低減部20の一領域を、拡張部25が含む。
【0041】
エンクロージャ24は、エンクロージャ24をフランジ27に接合する周縁支持部21を除き、弾性的に変形可能である。エンクロージャは、少なくとも部分的に、弾性的に圧潰され、これにより、空気チャンバ23の容積を低減させることが可能である。特に、エンクロージャ24は、ユーザによってエンクロージャ24の上面に印加される、患者の皮膚に向かう全体的方向への手の圧力がエンクロージャ24を圧潰するように適合される。空気チャンバ23は、患者の皮膚に対して封止された場合、実質的に気密性がある。しかし、前方部25は、エンクロージャ24の圧潰の間に空気チャンバ23から空気が出ることを可能にするが、空気チャンバ23に空気が入ることは防止する、一方向弁28として働く。
【0042】
エンクロージャ24の弾性的性質は、エンクロージャ24の圧潰の間、エンクロージャ24の材料内に弾性エネルギーが蓄積されることを引き起こし、エンクロージャ24からの、手の圧力の解除に続いて、その材料内の原子間力は、エンクロージャ24を、その元の構成に向けて再形成するように働く。エンクロージャ24がその元の構成に向けて再形成し、従って、空気チャンバ23の容積が増加するにつれて、周囲から空気チャンバ23に空気が入るのが防止され、従って、空気チャンバ23内の圧力は大気圧と比較して低減される。この再形成を引き起こしている原子間力が、空気チャンバ23内の圧力と大気圧との間の差によってバランスさせられるまで、エンクロージャ24は、その元の形状に再形成し続ける。従って、低減された圧力の領域が空気チャンバ23の下にある皮膚の表面全体にわたって形成される。
【0043】
上述のように、エンクロージャ24は、エンクロージャ24をフランジ27に接合する周縁支持部21を含む。支持部21の材料の厚さは、フランジ27のものより大きい。圧力低減部20の外面内の溝44が、支持部21と、エンクロージャ24の残りの部分との間に位置し、エンクロージャ24の円周の周囲に延在する。溝44の領域内の、装置10の厚さは、支持部21又はエンクロージャ24の残りの部分の領域内の材料の厚さより小さい。エンクロージャ24がユーザによって圧潰される場合、低減された厚さのこの領域は、支持部21とエンクロージャ24の残りの部分との間の蝶番として働き、これにより圧潰を促進する。この利益は、エンクロージャ24が更に圧潰されるにつれてより顕著になる。
【0044】
圧力低減部20の後方端22は、意図されるカニューレ挿入又は針挿入部位の下流に位置する、装置10の端であることが意図され、従って患者の心臓の方を向く装置10の端であることが意図される。装置10に圧力が印加された場合、装置10の後方端は、その点において静脈を圧潰するように働き、従って、前方部25とカニューレ挿入又は針挿入の部位とにおける静脈の拡大を促進する。従って、圧力低減部20の後方端22は、ユーザによる圧力の印加時に、下にある静脈の部分の圧潰を可能にするほど十分に硬質である。
【0045】
下にある静脈の部分の圧潰を促進するために、圧力低減部20の下面は、フランジ27の内側縁から下向きに突出する突出リブ29を備える。リブ29は、概して馬蹄形状であり、従って、装置10の後方及び側方においてフランジ27から下向きに突出するが、装置10の前方においては突出しない。リブ29は、圧力低減部20の後方端において、患者の皮膚に印加される圧力を増加させる。リブ29の更なる機能は、装置10と患者の皮膚との間の封止の形成を補助することである。
【0046】
フランジ27の拡張部は、患者の心臓から最も遠くに、かつ、カニューレ挿入又は針挿入の部位の近くに配置される、装置10の端に位置することが意図される。圧力低減部20の前方におけるフランジ27の拡張部は、後方部より大きな可撓性を有するため、装置10の前方端においては装置10の後方端におけるよりも少ない圧力が、装置10によって患者の皮膚に印加される。この配置は、カニューレ挿入部位の領域における静脈の拡大を促進する。
【0047】
止血帯30は、圧力低減部20の各側方から延在する。止血帯30は、2つのストラップ34、35を含み、各ストラップは、1つの接続端と、圧力低減部20から延在する1つの端とを有する。特に、各ストラップ34、35の近位端は、圧力低減部20の前方端と後方端との間の位置において、圧力低減27部のフランジ27の上面から延在し、ストラップ34、35の遠位端は、相互に接続するように適合される。
【0048】
各ストラップ34、35は、弾性的に変形可能なプラスチック材料の薄いストリップ32を含む。2つの接続タブ33が、各ストリップ32の近位端から延在する。タブ33は、ほぼ同じ厚さであり、かつ、ストリップ32の約1/3の幅である。タブ33は、ストリップ32の端(ここからそれらのタブ33が延在する)と実質的に同じ平面内にあり、そして、その平面内で、それらのタブ33がU字形を形成し、それらのタブ33の間でU字型の間隙を有するように、湾曲する。タブ33は、圧力低減部20のフランジ27の上面と一体的に形成される。
【0049】
ストラップ34、35は、圧力低減部20の前方よりも後方にわずかにより近い位置において、圧力低減部20に接合する。これは、止血帯30が患者の肢の周囲の所定の位置にある場合に、止血帯30によって印加される力線が、圧力低減部20の前方よりも後方近くにある、ということを意味する。これは、突出リブ29が静脈に圧力を印加するのを補助する。
【0050】
ストラップ34、35の自由端は、ラチェット接続を用いて相互に接続するように適合される。特に、第1のストラップ34の内向き面は、一連の近接して配置された横凹部36を備える。凹部36は、ストラップ34、35がある平面に、直交する方向に伸長する。第2のストラップ35の外向き面は、ガイドスリーブ38内に位置する伸長突起37を備える。突起37は、第1のストラップ34上の伸長凹部36の輪郭に対応する輪郭を有する。ガイドスリーブ38は、概して矩形の断面を有し、第1のストラップ34を受け入れるように適合され、これにより、スリーブ内に第1のストラップ34を押し入れると、突起37が凹部36のうちの1つに入り、その中に弾性的に保持されることが引き起こされる。突起37の凹部36との係合は、ストラップ34、35を一緒に保持するように働く。
【0051】
図面に示されていない、現在好ましい実施形態では、突起37は、例えば、外れることを阻止するためにストラップ35に対して傾斜角を付けられてもよい。そのような実施形態では、凹部36は突起37の角度に対応するように角度を付けられてもよい。
【0052】
現在好ましい実施形態では、第1のストラップ34上の、凹部36と圧力低減部20との間には、第2のストラップ35上の、突起37と圧力低減部20との間より大きな隔離距離が存在する。これは、第2のストラップ35より大きな長さを有する第1のストラップ34によって達成されてもよい。そのような実施形態では、突起37、及びガイドスリーブ38は、例えば、図3において50とラベル付けされた、円で囲まれた部分内に位置してもよい。装置を適用する、及び/又は、ストラップを固定する人によるアクセスを容易にするために、接続配置は、このようにして、ずらされてもよい。
【0053】
スリーブ38の外壁は、突起37の、凹部36からの係合解除を容易にするための、カットアウト40を備える。特に、ガイドスリーブ38は、この壁の平面内にあり、相互に向かい合う、2つの短い保持タブを含む。ストラップ34、35を切り離すことが所望される場合、ユーザは、第1のストラップ34の自由端をしっかりとつかみ、ストラップ35から離れる方向にこれを引く。これは、第1のストラップ34がタブに当たることを引き起こし、第1のストラップ34がタブの間を通過するまで、タブ、及び/又は、第1のストラップ34が、弾性的に変形することを引き起こす。タブ、及び/又は、第1のストラップ34は、次に、静止構成に戻る。この時点で、突起37の、凹部36からの係合解除が発生している。カットアウト40の領域は、第1のストラップ34がこれを通過することを許可するほど十分に広い。結果として、ユーザは、第1のストラップ34をガイドスリーブ38から引き出すことが可能になり、抵抗はほとんど体験しない。
【0054】
使用時、装置10は、カニューレが挿入される患者の静脈上の皮膚の好適に準備された領域上に、装置10の長手方向軸を静脈の長手方向軸に沿って整列させて配置される。圧力低減部20の前方部25は、カニューレ挿入又は針挿入の意図される部位の近くに位置し、圧力低減部20の後方端は、前方部25の下流に位置する。
【0055】
止血帯30の2つのストラップは、次に、上述のラチェット機構を使用して接続される。これは、装置10を所定の位置に保持し、装置10の後方端に圧力が印加されることを引き起こし、この圧力は、静脈を圧潰するように働き、従って、前方部25と、カニューレ挿入又は針挿入の部位とにおける、静脈の拡大を促進する。特に、止血帯30を適用すると、装置10に力が印加され、この力は、圧力低減部20の後方端と突出リブ29とを介して、下にある静脈の部分の圧潰のために伝達される。
【0056】
圧力低減部20のエンクロージャ24は、この段階では、その非変形構成にあり、従って、空気チャンバ18には、ある容積の空気が充填されている。次に、その容積の空気の一部がエンクロージャ24の上面への親指又は指の圧力の印加によって、空気チャンバ23から除去され、これにより、エンクロージャ24は圧潰され、チャンバ23の容積は低減される。従って、空気チャンバ23内の空気の一部は一方向弁28を介して空気チャンバ18から出る。エンクロージャ24から、ユーザによる圧力が解除された場合、エンクロージャ24は、その非変形構成に向けて再形成し、従って、空気チャンバ23の容積は増加する。
【0057】
この動作は、空気チャンバ23内の圧力を、大気圧と比較して低減させ、従って、装置10の空気チャンバ23の下にある皮膚の領域上に働く圧力を低減させる。低減された圧力の局所的な領域が、従って、静脈上に形成され、これは、装置の後方より上流にある静脈の区域が拡大することを引き起こす。この拡大された静脈の区域は、装置の前方縁から上流の短い距離に延在する。
【0058】
次に、カニューレが装置の前方端から上流に約1cmの位置において皮膚内に挿入される。
【0059】
フランジ27の拡大部25は、フラップ41を有する。フラップ41は、装置10と患者の皮膚との間に作られる封止の一部を形成しない。装置10が患者の皮膚に封止された場合、フラップ41と皮膚との間に、小さな間隙が存在する。ユーザが、装置10を皮膚から取り外すことを希望する場合、ユーザは、フラップ41をしっかりとつかみ、持ち上げることによって、これを行ってもよい。フラップ41は、従って、使用後の装置10の取り外しを容易にする。
図1
図2
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図9