【課題を解決するための手段】
【0004】
従来技術に関連する上述の欠点及び/又はその他の欠点を、克服する、又は、実質的に緩和するための改良された装置が、このたび考案された。
【0005】
本発明の第1の態様によれば、患者の静脈内への針又はカニューレの挿入を容易にする装置が提供され、この装置は、患者の肢の周囲に延在するファスナによって、患者の皮膚の表面との動作可能な係合において保持されるように適合される、流体チャンバを含み、この装置は、下にある静脈の部分の拡大を促進するために、流体チャンバ内に低減された圧力の容積を作成するように適合され、この装置は、流体チャンバが患者の皮膚の表面と動作可能に係合されたままである間の静脈の拡大された部分内への針又はカニューレの挿入を可能にするように配置される。
【0006】
本発明による装置の主たる利点は、使用の間、ファスナが、流体チャンバを、患者の皮膚の表面との動作可能な係合において保持するということである。これは、下にある静脈の部分の拡大を促進することにおける装置の有効性を増加させることが可能であり、また、使用の間、装置が外れることの可能性を低減させることも可能である。加えて、ファスナは、静脈の拡大を更に増大させるための止血帯として働くように適合されてもよい。
【0007】
本発明は、流体チャンバが患者の皮膚に対して封止するように適合される(例えば、ここで、流体チャンバの内部が患者の皮膚の表面と流体連通する)、本発明の実施形態と関連して特に有利である。特に、ファスナは、圧力低減の初期段階の間でさえ、すなわち、空気圧の差のみによって流体チャンバが皮膚に対して封止されるほど、流体チャンバ内の圧力が十分に低くなる前でさえ、効果的な封止が存在することを確実にする。
【0008】
本発明は、また、追加の固定配置の必要なしに良好な封止が確立されることを確実にする。特に、装置を所定の位置に保持するために、又は、患者の皮膚との封止を提供するために、粘着剤は必要とされず、従って、統合された包帯剤は必要ではなく、コストが低減される。
【0009】
ファスナは、好ましくは、使用の間、止血帯として働く。以下でより詳細に説明するように、装置は、好ましくは、患者の皮膚に、装置の第2の端によって印加される圧力より大きな圧力を印加するように適合された、第1の端を含み、ここで、第1の端は、使用中に静脈内の血流に関して、第2の端と比較して下流に位置するように適合される。止血帯は、好ましくは、従って、装置の第1の端において静脈(この中に針又はカニューレが挿入される)が圧潰されるように、ファスナと、装置の第1の端とによって規定される。このため、ファスナは、好ましくは、静脈に対して流体チャンバの中心から、装置の第1の端の方向にずらされた、流体チャンバの部分から延在する。
【0010】
ファスナは、好ましくは、流体チャンバとファスナとが単一の部品として形成されるように、流体チャンバと一体的に形成される。これは、ファスナと流体チャンバとの間の接続の、高度な確実性を提供する。更に、これは、装置が射出成形によって容易に製造されることを可能にし、また、1ショット射出成形のみでの製造を可能にし、その後の重要な組立工程を必要としない。
【0011】
現在好ましい実施形態では、ファスナは、流体チャンバの各側方から延在するアームを含み、ファスナアーム(複数)は、患者の肢の周囲にループを形成するために一緒に接続されるように適合される。ファスナアームの間の接続は、好ましくは、解除可能であり、かつ、ある範囲の接続構成の間で調節可能である。このようにして、ファスナは、好ましくは、ある範囲の異なるサイズの肢の周囲にしっかりと固定されるように適合される。
【0012】
ファスナアームは、好ましくは、ストラップ(特に、可撓性ストラップ)の形態を有する。可撓性ストラップは、しかし、固定する前の患者の肢上の位置決めを容易にするために、開かれた、接続されていない構成を維持するための十分な弾性を有してもよい。
【0013】
好ましい実施形態では、ファスナの2つの異なる部品が、流体チャンバの外面に、流体チャンバの両側方上の接続点において、固定的に接続される。これらの接続点は、好ましくは、流体チャンバの上面上にある。好ましい実施形態では、接続点は、流体チャンバの前方よりも後方に、わずかにより近い。接続点は、使用中に患者の皮膚に隣接する流体チャンバの部分に、隣接して位置してもよい。これは、封止の完全性を向上させる。流体チャンバのこの部分は、フランジの形態を取ってもよい。
【0014】
流体チャンバへのファスナアームの接続の確実性を向上させるために、ファスナアームは、各ファスナアームの近位端から突き出る2つのタブによって、流体チャンバに接続されてもよい。タブは、近接して間隔をあけられた位置において、流体チャンバに接続されてもよい。
【0015】
2つのファスナアームは、任意の好適な接続手段を使用して一緒に接続されるように適合されてもよい。いくつかの実施形態では、ファスナアームのそれぞれは、それぞれの接続手段又はコネクタ形成物を有する。好ましい実施形態では、ファスナアームのうちの一方の、その接続手段と流体チャンバとの間の長さは、他方のファスナアームの、接続手段と流体チャンバとの間の長さより大きい。これを提供するための一つの方法は、ファスナアームが等しくない長さを有することであってもよい。
【0016】
現在好ましい実施形態では、ラチェットタイプの接続手段が使用される。特に、ファスナアームのうちの一方は突起を備え、他方のファスナアームは、それぞれが突起を受け入れるような寸法に作られている一連の凹部を備える。突起を備えるファスナアームは、好ましくは、他方のファスナアームを受け入れるためのガイドスリーブであって、突起と対応する凹部との間の係合を維持するためのガイドスリーブも備える。突起は、流体チャンバに接続されるストラップの部分に対して、45°と90°との間の角度をなして配置されてもよい。そのような実施形態では、凹部は、突起の角度に対応するように角度を付けられてもよい。この配置は、凹部を備えるストラップが、締め付けの間により容易に突起を通過して引かれることを可能にする。接続と凹部との間の係合は、このような実施形態では、より確実である。
【0017】
突起は、例えば、外れることを阻止するために、ストラップに対して傾斜角を付けられてもよい。すなわち、突起は、垂直以外の角度をなしてもよい。
【0018】
突起の端は、平坦な輪郭を有してもよい。あるいは、端は、丸みを帯びた輪郭を有してもよい。
【0019】
例えば、ファスナアームのうちの一方のための第2の位置(ここにおいて、突起と、対応する凹部とは、相互に分離される)を提供することによって、2つのファスナアームの切り離しを容易にするために、ガイドスリーブ内に、カットアウト部(切り欠き部)が提供されてもよい。代替の接続手段は、マジックテープタイプのファスナ、粘着ファスナ、及びバックルタイプのファスナを含む。
【0020】
装置は、好ましくは、流体チャンバに出口を設けることによって、流体チャンバ内に、低減された圧力の容積を作成するように適合され、これにより、流体チャンバからの、出口を介した流体の排出が、チャンバ内の、低減された圧力の領域の作成をもたらす。流体は、通常、空気である。しかし、液体、又はゲルなどの、代替の流体の使用が想定されてもよい。
【0021】
出口は、好ましくは、圧力低減の間、流体(例えば、大気)が流体チャンバに入ることを許可しないように配置される。この配置は、低減された圧力が維持されるように、流体チャンバ内の圧力が維持されることを可能にする。最も好ましくは、出口は、アンブレラ弁、ダックビル弁、又は任意のその他の好適な弁の形態を有してもよい、一方向弁の形態を有する。更に、一方向弁は、別個の部品であってもよく、又は、流体チャンバの壁内に一体的に形成されてもよい。現在好ましい実施形態では、封止部材が、流体チャンバと患者の皮膚との間の封止を形成し、弁は、患者の皮膚と接触する封止部材の部分(この部分は、封止部材の残りの部分より大きく変形可能である)によって提供される。
【0022】
好ましい実施形態では、患者の皮膚と接触する封止部材の部分は、封止の完全性を向上させるための、封止流体を備える。
【0023】
チャンバから流体を排出する手段は、弾性的に変形可能な、チャンバの壁の少なくとも一部の形態を取ってもよく、チャンバは、出口を介して流体を排出するためにユーザによって圧潰されるように適合される。この実施形態では、チャンバの壁の弾性的性質は、チャンバの圧潰の間、チャンバの材料内に弾性エネルギーが蓄積されることを引き起こしてもよく、その材料内の原子間力が、チャンバを、その元の構成に向けて再形成するように働く。チャンバがその元の構成に向けて再形成するにつれて、周囲からチャンバに空気が入るのが防止され、従って、チャンバ内の圧力は、大気圧と比較して低減される。この再形成を引き起こしている原子間力が、チャンバ内の圧力と、大気圧との間の差によってバランスさせられるまで、チャンバは、その元の形状に再形成し続ける。この配置は、単純な構造であってもよく、従って、代替の方法と比較して低減された製造コストを有してもよい。
【0024】
あるいは、シリンジ又は真空ポンプなどの、流体チャンバから流体を排出するその他の手段が想定されてもよい。実際には、そのような手段の組み合わせが、装置内に組み込まれてもよい。例えば、装置は、弾性的に変形可能な流体チャンバと、一方向弁を有する出口と、流体チャンバから流体を更に排出するために、一方向弁に、シリンジ、真空ポンプ、又はその他の吸引装置を接続する手段とを含んでもよい。
【0025】
装置は、好ましくは、装置から独立した、及び、最も好ましくは、装置とは別個の部品である、針又はカニューレと共に使用するように適合される。この配置では、装置は、結果として低減された製造コストを有する、非常に単純な構造であってもよい。
【0026】
患者の皮膚と係合する、装置の表面は、好ましくは、装置が係合される、患者の皮膚の部分の外形と、実質的に一致するように適合される。特に、装置が、患者の肢(腕など)の皮膚との係合を目的とする場合、係合表面は、好ましくは、アーチ型の断面形状を有する。
【0027】
装置は、好ましくは、患者の皮膚に、装置の第2の端によって印加される圧力より大きな圧力を印加するように適合された、第1の端を含み、ここで、第1の端は、使用中、静脈内の血流に関して、第2の端と比較して下流に位置するように適合される。第1の端は、第2の端の接触表面と比較して低減された面積の接触表面を有してもよい。特に、第1の端は、低減された接触表面を用いて患者の皮膚と係合するための突起(例えば、突出リブ)を含んでもよい。
【0028】
代替的に、又は加えて、第1及び第2の端は異なる可撓性を有してもよく、従って、異なる変形性を有してもよい。例えば、第1の端は、第2の端より可撓性が少なくてもよく、従って、変形性が少なくてもよい。この場合、第2の端は、装置の第2の端の可撓性を増加させるために、装置の残りの部分と比較して低減された厚さの領域を含んでもよい。これらの配置は、使用中、装置の第1の端の下にある静脈の部分を圧潰するように働き、同時に、装置の第1の端の下にある静脈の部分の拡大を許可することによって、静脈の膨張を促進する。
【0029】
好ましくは、装置は、弾性的に変形可能な上部ドーム形状領域を有する、概してドーム形状である。ユーザが装置を圧潰した場合に、好ましくは最大限まで変形するのは、この上部領域である。装置は、ドームが接続される、より弾性的な支持部を有してもよい。装置は、好ましくは、使用の間に患者の皮膚と係合する、封止フランジを含み、支持部は、上部ドーム形状領域と、この封止フランジとの間に接続されてもよい。ドームと支持部と封止フランジとは、通常、同じ材料から形成され、しかし、所望される弾性を提供するために、異なる厚さを有する。封止フランジの下面は、好ましくは、皮膚との係合表面を形成する。支持部は、フランジから概して上方に延在してもよい。支持部の高さは、好ましくは、装置の前方において、後方におけるより大きく、支持部は、好ましくは、ドームより弾性的である。ドームと支持部とは、ドーム及び支持部の厚さと比較して低減された厚さを有する材料の領域によって、分離されてもよい。低減された厚さのこの領域は、好ましくは、蝶番(この周囲で、ドームは、ドームの圧潰の間、支持部に相対的に変形する)として働く。この蝶番効果は、ユーザがドームを圧潰するのを、特に、圧潰の後期の間、補助する。
【0030】
患者の皮膚と係合する装置の表面は、好ましくは、装置が係合される患者の皮膚の部分の外形と実質的に一致するように適合される。特に、装置が患者の肢(腕など)の皮膚との係合を目的とする場合、係合表面は、好ましくは、アーチ型の断面形状を有する。
【0031】
装置は、低減された圧力の局所的な領域を大気圧と等しくし、これにより患者の皮膚からの装置の取り外しを容易にする手段を含んでもよい。例えば、取り外し手段は、低減された圧力の局所的な領域を、大気圧と等しくするように適合されてもよい。取り外し手段は、好ましくは、装置を皮膚の表面から取り外すために、ユーザによってしっかりとつかまれ、上方に引かれることが可能な、フラップの形態を有する。フラップは、装置の前方から延在してもよい。フラップは、好ましくは、更に、流体チャンバの出口の一部を形成する。
【0032】
上述のように、装置の第1の端は、低減された接触表面を用いて患者の皮膚と係合するための突起(例えば、突出リブ)を含んでもよい。突出リブは、好ましくは、馬蹄形状を有し、従って、これは、装置の第1の端、及び側方の領域内で延在する。この形状は、患者の皮膚との、完全性の高い封止が確立されることを可能にする、更なる機能を、リブが果たすことを可能にする。
【0033】
本発明による装置は、流体チャンバを所定の位置に保持するための、又は患者の皮膚との効果的な封止を提供するための、包帯剤を必要としない。しかし、装置は、カニューレ挿入に続いて、カニューレを患者の皮膚に固定するために適用するための、包帯剤と共に提供されてもよい。この包帯剤は、標準的なカニューレ用包帯剤であってもよく、従って、特注の包帯剤は必要とされない。
【0034】
本発明の更なる態様によれば、針又はカニューレを静脈内に挿入する方法が提供され、この方法は、上述の装置を使用して、下にある静脈の部分の拡大を促進するために、患者の皮膚の表面において、低減された圧力の容積を作成するステップと、針又はカニューレを、静脈の拡大された部分内に挿入するステップとを含む。
【0035】
本発明の好ましい実施形態について、添付の図面を参照して、単なる例として、以下に説明する。