(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記止血剤が、粒子状ヒドロキシアパタイト、塩化カルシウム、塩化亜鉛、硝酸銀、硫酸鉄、三塩化アルミニウム、トラネキサム酸、アミノカプロン酸、アプロチニン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載のシステム。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症とは、動脈血管に影響を与える症候群である。アテローム性動脈硬化症は、動脈壁中における、脂質、マクロファージ、泡沫細胞の蓄積、およびプラークの形成を大部分の原因として、動脈の壁中で慢性炎症反応をもたらす。当該病気の病態生理は、繊維性から、脂質性負荷、石灰性まで様々な異なるタイプの病変と共に現れるにもかかわらず、アテローム性動脈硬化症は、通常、動脈硬化と呼ばれている。血管形成術とは、典型的にはアテローム性動脈硬化症が原因で閉塞した血管を、機械的に広げることに関わる血管介入技術である。
【0003】
血管形成術中では、しっかりと折り重ねられたバルーンを備えたカテーテルが患者の血管系内に挿入され、血管の狭まっている個所まで通され、その場所で、典型的には血管造影剤の溶液である膨張流体を用いて、バルーンが決まったサイズに膨らまされる。通常、冠動脈血管形成術として知られる経皮冠動脈インターベンション(PCI)とは、冠状心疾患でよく見られる、心臓の狭窄冠状動脈を処置するための治療手法である。
【0004】
対照的に、経皮経管血管形成(PTA)として一般的に知られる末梢血管形成術とは、冠動脈以外の血管の機械的拡張に使用されるものを指す。PTAは、最も一般的には脚動脈、特に腸骨、外腸骨、浅大腿、および膝窩の動脈の狭窄の治療に用いられる。PTAはまた、静脈およびその他の血管の狭窄を治療することもできる。
【0005】
血管形成後には、血管がうまく拡張され得るものの、急性反跳およびけいれんに起因して、ときどき処置を受けた血管壁がバルーンの膨張または拡張後に突然閉塞を経験することが確定されている。インターベンション心臓医らは、急性反跳および血管けいれんを防ぐために血管にステント留置術を施すことにより、この問題に取り組んでいる。ステントとは、血管を開いたままにしておくために、血管形成後に血管内に挿入された、典型的には金属のチューブまたは骨組の器具である。
【0006】
ステントの登場が、血管形成術施術後の突然血管閉塞の合併症の多くを取り除いた一方で、ステント埋め込み術後6か月ほどで血管が再び狭まることが生じる可能性があり、この状態は再狭窄として知られている。再狭窄は、血管形成術の損傷に対する反応であることが発見され、損傷部に形成される瘢痕に類似する平滑筋細胞の増殖によって特徴づけられている。解決策として、血管狭窄の再発に取り組むために薬剤溶出性ステントが開発された。薬剤溶出性ステントの一例は、再狭窄過程を阻害することで知られる薬剤コートされた金属ステントである。特定の薬剤溶出性ステントの欠点としてあり得るのは、遅発性ステント血栓症として知られるもので、ステント内部で血栓が形成する事象である。
【0007】
薬剤コートされたバルーンは、アテローム性動脈硬化症の治療における、薬剤溶出型ステントに対する実行可能な代替策として考えられている。薬剤コートされたバルーンおよび薬剤溶出性ステントで治療を受けた患者における、再狭窄について、並びに、心臓発作、バイパス、反復狭窄症、または死などの主要な有害心臓事象(MACE)の比率について評価した研究では、薬剤コートされたバルーンで治療を受けた患者はたった3.7パーセントの再狭窄と、4.8%のMACEしか経験しなかったのに対し、薬剤溶出性ステントで治療を受けた患者では、再狭窄症は20.8パーセントであり、かつ22.0パーセントのMACE比率であった。(非特許文献1を参照されたい。)
【0008】
薬剤コートされたバルーンが実現可能な代替策であり、非特許文献1で示唆されている通り、いくつかのケースにおいては薬剤溶出性ステントよりも優れた効能を有し得るとしても、薬剤コートされたバルーンは、薬剤コートされたバルーン表面と血管壁との接触時間が非常に短いことに起因した課題を示す。薬剤コートされたバルーンによる前記薬剤の送達時間は、典型的には数週間から数カ月間かかる制御放出型の薬剤溶出性ステントの時間とは異なる。特に冠状動脈に対しては、当該バルーンはたった1分未満の間しか膨張しないことがあり、大抵は30秒間しか膨張しない。したがって、効能のある治療的な薬量が、30秒間から1分間の間に前記血管壁に移動されなければならない。末梢血管系の場合、許容膨張時間は1分超も可能であるが、それでも分単位で測定される。このように、短い膨張時間、結果として薬剤およびコーティング剤の短い移動時間が不可欠なことから、薬剤コートされたバルーンを介した薬剤送達に特有の課題が存在し、この課題は、一度移植されたら患者の血管系に留まる薬剤溶出性ステントによって示されない課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの必要性に対処するため、前記バルーン表面上に治療薬が直接配置されたバルーン、および種々の保護さやを有するバルーンを含め、薬剤コートされたバルーンの様々な実施形態が提案されている。しかしながら、バルーンおよび/またはベアメタルステントの外傷後の再狭窄を軽減させる点では、全ての実施形態が有効な応答の結果を示したわけではない。
【0012】
したがって、薬剤送達バルーン、そしてとりわけ、前記バルーン表面からの前記治療薬の効果的な送達を提供する治療薬でコートされたバルーンに対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示内容の目的および利点は、以下に記載する説明から明らかになるであろうし、本開示内容の実施により学習されるであろう。本開示内容のさらなる利点は、特に本願明細書および本願特許請求の範囲並びに添付図面に示される方法およびシステムによって実現、達成される。
【0014】
本開示内容の一態様に従って、治療薬を対象の血管壁に送達するシステムが提供される。当該システムは、遠位端、近位端、および当該遠位端と当該近位端との間の作業長を備えた拡張可能部材と、治療製剤とを含む。当該治療製剤は、前記拡張可能部材の前記作業長の少なくとも一部分上に配置される。前記治療製剤は、治療薬と、前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進する接着添加剤とを含有する。
【0015】
本願明細書に開示されている前記接着添加剤は、ポリカチオン性ポリマー、ポリアニオン性ポリマー、止血剤、またはこれらの組み合わせを含有することができる。
【0016】
本開示内容の一態様によれば、前記接着添加剤は、拡張可能部材から送達された後の前記製剤を前記血管壁の内皮組織に接着し、これにより前記血管壁内への前記治療薬の摂取を促進する。この点において適した接着添加剤は、ポリカチオン性ポリマーおよびポリアニオン性ポリマーを含有する。
【0017】
上記に加え、適したポリカチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリ(L−リジン)、ポリ(D−リジン)、ポリ(L−アルギニン)、ポリ(D−アルギニン)、ポリ(L−ヒスチジン)、ポリ(D−ヒスチジン)、およびゼラチン、またはこれらの組み合わせを含有することができる。
【0018】
また、適したポリアニオン性ポリマーとしては、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース−システイン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)、ポリ(D−アスパラギン酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)ナトリウム塩、ポリ(L−グルタミン酸)、ポリ(D−グルタミン酸)、ポリ(L−グルタミン酸)ナトリウム塩、またはこれらの組み合わせを含有する。
【0019】
本開示内容の別の態様によれば、前記接着添加剤は、血管壁上でのフィブリンまたは血栓の形成を促し、前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進し、これにより前記治療薬の摂取を促進する。この点において適した接着添加剤は、ポリカチオン性ポリマーおよび止血剤を含有する。
【0020】
上記に加え、適したポリカチオン性ポリマーは、特に限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリ(L−リジン)、ポリ(D−リジン)、ポリ(L−アルギニン)、ポリ(D−アルギニン)、ポリ(L−ヒスチジン)、ポリ(D−ヒスチジン)、ゼラチン、コラーゲン、膀胱マトリックス、小腸粘膜下組織、脱細胞化細胞外マトリックス系材料、またはこれらの組み合わせを含有する。
【0021】
加えて、適した止血剤は、例えば、無機止血剤、小分子止血剤、およびペプチド止血剤を含有する。適した無機止血剤は、特に限定されないが、粒子状ヒドロキシアパタイト、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化亜鉛(ZnCl
2)、硝酸銀(AgN0
3)、硫酸鉄(Fe
2(S0
4)
3)、および三塩化アルミニウム(A1C1
3)を含有する。適した小分子止血剤は、例えば、トラネキサム酸およびアミノカプロン酸を含有する。適したペプチド止血剤は、特に限定されないが、アプロチニンを含有する。
【0022】
本開示内容の治療薬としては、ゾタロリムス、シロリムス、ラパマイシン、エベロリムス、バイオリムス、マイオリムス、ノボリムス、テムシロリムス、デフォロリムス、メリリムス、シロリムス誘導体、タクロリムス、ピメクロリムス、デキサメタゾン、デキサメタゾンアセテート、エストラジオール、パクリタキセル、プロタキセル、タキサン、ドセタキセル、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、カプトプリル、シラザプリル、リシノプリル、カルシウムチャネル遮断薬、ニフェジピン、アムロジピン、シルニジピン、レルカニジピン、ベニジピン、トリフルオペラジン、ジルチアゼム、ベラパミル、繊維芽細胞増殖因子拮抗薬、魚油、オメガ3脂肪酸、ヒスタミン拮抗薬、ロバスタチン、トポイソメラーゼ阻害剤、エトポシド、トポテカン、抗エストロゲン、タモキシフェン、これらの誘導体および類似体、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0023】
本明細書で具体化されるように、前記治療薬は細胞増殖抑制剤である。適した細胞増殖抑制剤は、ゾタロリムス、シロリムス、ラパマイシン、エベロリムス、バイオリムス、マイオリムス、ノボリムス、テムシロリムス、デフォロリムス、メリリムス、シロリムス誘導体、タクロリムス、ピメクロリムス、これらの誘導体および類似体、およびこれらの組み合わせを含有する。
【0024】
本開示内容の治療製剤は、界面活性剤、乳化剤、溶剤、可塑剤、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの化合物をさらに含むことができる。例えば、前記可塑剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(分子量<40000)、プロピレングリコール、グリセロール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ベンジルアルコール、脂肪族アルコール、安息香酸ベンジル、フェノキシエタノール、およびこれらの組み合わせとすることができる。例えば、溶媒は、アセトン、2−ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、第3級ブタノール、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、およびこれらの組み合わせとすることができる。
【0025】
ある実施形態では、本開示内容の治療製剤は、非イオン性ポリマーをさらに含むことができる。例えば、当該非イオン性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、シルク−エラスチン類似ポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、プルロニック(PEO−PPO−PEO)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、PVP−酢酸ビニル(コポビドン)、ポリソルビン酸塩80(TWEEN80)、およびポリソルビン酸塩20(TWEEN20)、ヒドロキシアルキルセルロース、またはそれらの組み合わせとすることができる。前記接着添加剤は、前記非イオン性ポリマーの、前記対象血管壁への組織接着を促進する。具体的な実施形態および製剤処方は、本願明細書に更に詳細に記載される。
【0026】
一実施形態では、本開示内容のシステムは、前記拡張可能部材上に搭載された人工器官をさらに備える。当該人工器官はステントとすることができる。一実施形態では、前記拡張可能部材は血管形成バルーンである。
【0027】
さらに本開示内容の別の態様によれば、治療薬を対象の血管壁に送達するためのシステムを製造する方法が提供される。当該方法は、遠位端、近位端、および当該遠位端と当該近位端との間の作業長を有する拡張可能部材を準備し、前記拡張可能部材の前記作業長の少なくとも一部分に治療製剤を配置することを含む。前記製剤は、治療薬およびポリカチオン性ポリマーを含有し、当該ポリカチオン性ポリマーが、治療薬の血管壁での滞留時間および血管壁内への移動を増大させるフィブリン形成を促進する。
【0028】
さらに本開示内容の別の態様によれば、治療薬を対象の血管壁に送達するためのシステムを製造する方法が提供される。当該方法は、遠位端、近位端、および当該遠位端と当該近位端との間の作業長を有する拡張可能部材を準備し、前記拡張可能部材の前記作業長の少なくとも一部分に治療製剤を配置する。前記製剤は、治療薬および接着添加剤を含有し、当該接着添加剤が、前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進する。
【0029】
前記接着添加剤は、ポリカチオン性ポリマー、ポリアニオン性ポリマー、止血剤、またはこれらの組み合わせを含有することができる。
【0030】
さらに本開示内容によれば、対象を治療する方法が提供される。当該方法は、システムを必要とする対象に、本願明細書に開示されたいずれかのシステムを提供することを含む。
【0031】
以上の説明、および以下の詳細な説明記載の双方ともが例示であり、本願請求項に記載された本開示内容の更なる説明を提供する意図であることを理解されたい。
【0032】
本願明細書に包含され、本願明細書の一部分をなす添付図面は、図解のため、および本開示内容のシステムについての更なる理解を提供するために含められている。本明細書とともに、当該図面は本開示内容の原理を説明する役割を果たす。本開示内容の例示された実施形態は、本願特許請求の範囲を限定する意図ではない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示内容の一態様によれば、対象の血管壁に治療薬を送達するためのシステムが提供される。当該システムは、遠位端、近位端、および当該遠位端と当該近位端との間の作業長を備える拡張可能部材と、治療製剤とを含む。当該治療製剤は、前記拡張可能部材の前記作業長の少なくとも一部分上に配置される。当該治療製剤は、治療薬と、前記治療製剤が血管壁へ接着することを促進させる接着添加剤とを含有する。
【0035】
本開示内容の種々の態様についての言及が、これより、詳細になされる。本開示内容の方法は、本願明細書で提供される前記システムの詳細な説明、図面、および実施例と併せて説明される。
【0036】
特に定義されない限り、本願明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本開示内容が属する分野における当業者によって一般的に理解されるのと同様の意味を持つ。本明細書に開示されたものと類似または均等な方法および材料がその実施に使用され得るが、好ましい方法および材料が以下に説明される。
【0037】
「一つの」存在/物質("a" entity or "an" entity)とは、一つまたは複数のその存在/物質を指すことに留意すべきである。そのようなものとして、「一つの("a"、"an")」、「一つまたは複数の/一つ以上の」、および「少なくとも一つの」といった用語は、本願明細書においては区別しないで使用することができる。「を含有する」、「を含む」、および「を備えた/を有する」といった用語もまた区別しないで使用することができる。加えて、「量」および「レベル」の用語もまた区別しないで使用することができ、濃度または特定量を記述するために使用することができる。さらに、「からなる群から選択された」という用語は、その群に含まれる要素のうちの一つ以上の要素を指し、二つまたはそれ以上の要素の混合物(すなわち組み合わせ)を含む。
【0038】
「約」または「およそ」の用語は、当業者によって決定される特定の値に対する許容誤差範囲内であることを意味し、その許容誤差範囲は、ある程度、当該値がどのように測定または決定されるか、つまり測定システムの限界に依存する。例えば、「約」とは、本願の属する分野では、一実施あたり、3または3超の標準偏差内であることを意味し得る。あるいは、「約」とは、与えられた値の±20%以下、または±10%以下、または±5%以下、または±1%以下の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスについては、当該用語はある値の一桁内、またはその代わりとして5倍以内、もしくは2倍以内を意味し得る。薬剤の組成に関しては、当該用語「約」は、規制当局によって承認される製品の品質管理基準に対して許容可能な範囲を指す。
【0039】
提示されているシステムおよび方法は、治療薬を対象の血管壁に送達するために用いられ得る。本明細書に提示されている方法およびシステムはまた、薬剤コートされたバルーンカテーテルなどの医療器具の製造および組立てのために用いられ得る。本開示内容は治療薬の塗布について言及しているものの、ポリマー性、治療用、またはマトリックスのコーティングといった種々のコーティングが、希望に応じて、医療器具の様々な表面に塗布し得ると理解されたい。
【0040】
図1について言及すると、説明のためであって限定されないが、本開示内容に従ったバルーンカテーテル器具の代表的実施形態が
図1Aおよび
図1Bに概略的に示されている。
図1Aおよび
図1Bに描写されているように、バルーンカテーテル器具10は、通常は、近位端および遠位端を備える細長いカテーテルシャフト12と、前記カテーテルシャフトの前記遠位端の近くに位置する拡張可能部材またはバルーン30とを含む。当該拡張可能なバルーンは、前記カテーテルシャフトの前記遠位端部に配置された外表面と内表面とを備えている。本開示内容に従って、治療製剤40が、前記バルーンカテーテルの前記作業長の少なくとも一部分に付与されており、前記治療製剤は治療薬および接着添加剤を含有し、前記接着添加剤は前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進する。本開示内容の一態様によれば、一例として
図1Aに非限定的に示されるように、前記治療製剤は、前記バルーンカテーテルの前記外表面の前記作業長の少なくとも一部分に付与される。
【0041】
説明のためであって限定されないが、同軸配列を有する細長いカテーテルシャフト12が、外側チューブ部材14および内側チューブ部材16を含むことが示されている。外側チューブ部材14は、カテーテルシャフト12の前記近位端部と前記遠位端部との間に配置された膨張内腔20を定める。例えば、
図1Bに示される通り、内側チューブ部材16と外側チューブ部材14との間の同軸関係は、環状の膨張内腔20を定める。拡張可能部材30は、膨張内腔20と流体連通している。これらの間にある膨張内腔は、加圧下において拡張可能部材30に流体を供給すること、及び拡張可能部材30から流体を取り出すために陰圧をかけることができる。拡張可能部材30は、このようにして膨張および収縮することができる。前記細長いカテーテルは、曲がりくねった生体構造中で送達するためのサイズおよび構成にされ、ガイドワイヤー18を介して送達されることを許容するガイドワイヤー内腔22をさらに含むことができる。
図1Bに示される通り、内側チューブ部材16が、ガイドワイヤー18のためのガイドワイヤー内腔22を定める。
図1Aおよび
図1Bでは、前記ガイドワイヤー内腔がオーバーザワイヤー(OTW)構造を有することを示しているが、前記ガイドワイヤー内腔は、本願の分野でよく知られる通りのラピッドエクスチェンジ(RX)構造として構成されてもよい。同様に、前記シャフトは、本願の分野でよく知られる通りの多内腔部材、または二つ以上のチューブ部材の集まりとして提供されてもよい。
【0042】
図1Aにさらに描写されているように、拡張可能部材またはバルーン30は、遠位端32、近位端34、およびこれらの間に位置する作業長を有する。本明細書で具現化された拡張可能部材は、細長いシャフト12の膨張可能内腔20と流体連通した内部室36を有する。以下に更に説明されているように、多数の適した拡張可能部材の構造および形状うち任意のものを用いることができる。さらに、本開示内容に従って、治療薬および接着添加剤を含有する治療製剤40が、拡張可能部材30の前記作業長の少なくとも一部分に沿って配置されている。
【0043】
(接着添加剤)
本開示内容によれば、治療薬を対象の血管壁に送達するためのシステムが提供される。当該システムは、遠位端、近位端、および当該遠位端と当該近位端との間の作業長を備える拡張可能部材と、前記拡張可能部材の前記作業長の少なくとも一部分に配置された治療製剤とを含む。前記治療製剤は、治療薬と接着添加剤とを含有する。前記接着添加剤は、前記治療製剤を血管壁へ接着させることにより、並びに、これに加えて、またはこれに代わり、対象の前記血管壁上にフィブリンまたは血栓の形成を促進することにより、前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進する。その結果、当該接着添加剤によって、血管壁への移動、保持、および摂取が増大する。前記接着添加剤は、ポリカチオン性ポリマー、無機、低分子もしくはペプチドの止血剤、ポリアニオン性ポリマー、またはこれらの組み合わせとすることができる。
【0044】
本開示内容で使用される「接着添加剤」とは、一般的には前記治療製剤の血管壁への接着を促進する、並びに/或いは、前記血管内でバルーンが膨張した後に、前記治療製剤が前記血管壁上に保持されることを促進および/または保持時間を引き延ばす化合物を指す。ある実施形態では、前記接着添加剤はポリイオン性ポリマーまたは止血剤の少なくとも一つを含有する。
【0045】
本開示内容で使用される「ポリイオン性ポリマー」とは、数多くの異なるイオン、例えば、ナトリウム、カリウム、塩化物、重炭酸塩を含有する重合体を指す。当該ポリイオン性ポリマーは、「ポリカチオン性ポリマー」と呼ばれる正に帯電されたものでも、または、前記ポリイオン性ポリマーは、「ポリアニオン性ポリマー」と呼ばれる負に帯電されたものでもよい。
【0046】
本明細書で具現化されたポリイオン性ポリマーは、選択された治療薬と共に使用されるときは、前記治療製剤を前記血管壁へ接着させることにより、前記治療製剤の前記血管壁への接着を促進することができる。比較的低い組織接着性を示すポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびヒドロキシアルキルセルロースなどの非イオン性ポリマーと比較すると、ポリイオン性ポリマーは、静電相互作用、水和(または脱水)、水素結合、および鎖の絡み合いによって仲介される生体表面に対してはるかに強い接着性を示す。本開示内容に従って、ポリイオン性ポリマーは、前記治療製剤を前記血管壁に接着させ、拡張可能部材から前記血管壁へ送達された後の治療薬の前記血管壁上での保持力を高める。このようにして、ポリイオン性ポリマーを含有する治療製剤を前記拡張可能部材上に用いることにより、前記拡張可能部材の膨張に際して、より多くの治療製剤が血管壁に接着する。
【0047】
本開示内容のある実施形態では、前記ポリイオン性ポリマーはポリアニオン性ポリマーである。ポリアニオン性ポリマーは組織接着効果をもたらし、前記拡張可能部材から前記血管壁へ送達された後の前記治療薬の前記血管壁上での保持力を高める。負に帯電した内皮表面と相互作用する正味の正電荷を持つポリカチオン性ポリマーとは対照的に、ポリアニオン性ポリマーは粘膜接着性を示し、通常は、カルボキシレート基から、生体表面のムチンまたはグリコカリックス外層に水素結合を介して結びつく複数のアニオン電荷が当該ポリマー上に存在している。好ましいポリアニオン性ポリマーは、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース−システイン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)、ポリ(D−アスパラギン酸)、ポリ(L−アスパラギン酸)ナトリウム塩、ポリ(L−グルタミン酸)、ポリ(D−グルタミン酸)、およびポリ(L−グルタミン酸)ナトリウム塩を含む。
【0048】
カルボキシメチルセルロースは、認可された製品Nutropin Depot(Genentech社製)およびBicillin(Wyeth社製)に使用されている。ポリアミノ酸は良好な安全性プロファイルを持ち得るが、採用するにははるかに高価である。非分岐鎖であるアミノ酸のホモポリマーは、一般的には非免疫原性とみなされる。ポリ(アスパラギン酸)およびポリ(グルタミン酸)の重合体は、組織接着性となるのに必要なポリイオン性構造特性を有し、両方とも、幅広い分子量範囲において市場で購入することが可能である。加えて、代謝可能なポリ(アスパラギン酸)およびポリ(グルタミン酸)の重合体は、40000ダルトン腎クリアランス閾値超の分子量で使用され得る。
【0049】
本開示内容の別の実施形態では、前記接着剤がポリカチオン性ポリマーを含有する。ポリカチオン性ポリマーは、負に帯電した前記血管表面の内皮グリコカリックスとの比較的強い静電相互作用によって、前記治療製剤の接着力を部分的に促進する(非特許文献2を参照されたい)。前記内皮表面との強い相互作用を示す好ましいポリカチオン性ポリマーは、特に限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリ(L−リジン)、ポリ(D−リジン)、ポリ(L−アルギニン)、ポリ(D−アルギニン)、ポリ(L−ヒスチジン)、ポリ(D−ヒスチジン)、およびゼラチンを含む。
【0050】
ポリカチオン性ポリマーを用いたさらなる実施形態では、前記ポリカチオン性ポリマーの組織接着特性を増大させるために、前記接着剤をドーパミンと結合させることができる。ドーパミン中に見られるジヒドロキシフェノールまたはカテコール部位は、水素結合および配位メカニズムによって表面への接着性をもたらす。このような部位は、イガイおよび海産軟体動物の接着性タンパク質中のいたる所に存在する。
【0051】
加えて、または代替として、前記接着添加剤は、フィブリンおよび血栓の形成を促進することにより、前記治療製剤の前記血管壁への接着性を促進することができる。例えば、本開示内容のある実施形態によれば、ポリカチオン性ポリマーは、このような血栓およびフィブリンの促進効果をもたらすことができる。理解のためであって限定されないが、血小板は負に荷電されている(非特許文献3および非特許文献4を参照されたい)。幅広い種類のポリカチオン性材料は、負に帯電された血小板表面と結合することにより、血小板の凝集を誘発する。非特許文献5を参照されたい。正に荷電されたポリ(L−リジン)は、例えば、フィブリンプロトフィブリルの関連性を高め、フィブリンの重合化速度を増大し(非特許文献6を参照されたい)、また血小板の凝集も誘発する(非特許文献7および非特許文献8を参照されたい)。血小板も正味負のゼータ電位を持っており、その結果、静電気の力に応答して凝集することが可能である。ポリカチオン性ポリマーもまたフィブリン形成を促すので、前記治療製剤がフィブリンを通じて長期にわたって前記血管壁に接着することができる。
【0052】
血栓形成促進効果、例えばフィブリン形成特性を有するポリカチオン性ポリマーは、理解のためであって限定されないが、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン、ポリ−N−アセチルグルコサミン、ポリ(L−リジン)、ポリ(D−リジン)、ポリ(L−アルギニン)、ポリ(D−アルギニン)、ゼラチン、コラーゲン、膀胱マトリックス(UBM)、およびこれらの組み合わせを含む。ポリエチレンイミンおよびポリアリルアミンは、両方とも合成ポリカチオン性ポリマーである。腎臓を通じた経路を可能にする、低分子量級のポリエチレンイミンが入手可能である。ポリエチレンイミンは、単純に、例えばゾタロリムスなどの治療薬を含有するアルコール可溶性レンダリング製剤である。キトサンは、医療および軍事用途として種々の止血剤中に用いられている。キトサンは、組織、外傷、および血液に対して強力な接着効果を有する。ポリ−N−アセチルグルコサミンは、ポリカチオン性多糖である。ポリ−N−アセチルグルコサミンは、血管部、経皮的カテーテルまたはチューブ、および外科的創面切除などの出血傷における局所的対処への使用用途として食品医薬品局から認可されたSyvekPatch止血剤の主成分である。一実施形態では、ポリ−N−アセチルグルコサミンは海洋微細藻類から得ることができる。ポリアミノ酸であるポリ(L−リジン)は、塩酸塩として得ることができる。ポリアミノ酸として、ポリ(L−リジン)はかなり生体適合性がある。また、ホモポリマーのポリアミノ酸であるため、ポリ(L−リジン)は免疫原性が低い。一実施形態では、前記治療製剤はゾタロリムスおよびポリ(L−リジン)を含有しており、ゾタロリムスは有機ビークルの溶媒中に溶けており、ポリ(L−リジン)は微小球形状である。ゼラチンは変性コラーゲンであり、適度にカチオン性および血栓形成促進性の特性を有する。コラーゲンは、治癒反応を刺激する程度に血栓形成促進性を有する。典型的には、コラーゲンは活性化血小板の単層を蓄積する。膀胱マトリックス(UBM)、小腸粘膜下組織(SIS)、その他脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)系材料は、活性化血小板を容易に蓄積する生体活性成長因子を含むコラーゲン性マトリックスである。
【0053】
代わりに、前記治療製剤の接着性および保持力を高めるために血栓およびフィブリンの形成を促進する前記接着添加剤として、好ましい止血剤を使用することができ、接着添加剤は止血剤とする。例示のためであって限定されないが、止血剤が血小板および赤血球の凝集を促進することにより、血小板の凝集(つまり血栓形成)を促進することができる。代わりに、止血剤は、フィブリンの分解に関与する酵素の活性化を阻害することができる。さらに、止血剤は、バルーン膨張後の治癒反応中に、天然フィブリンおよび血栓の形成を早め、増大させることができる。このようなフィブリンおよび/または血栓成長の増大も同様に、前記治療製剤の接着性を高める結果をもたらし、それにより、前記治療薬の前記血管壁への送達を増加する。好ましい止血剤は、特に限定されないが、粒子状ヒドロキシアパタイト、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化亜鉛(ZnCl
2)、硝酸銀(AgN0
3)、硫酸鉄(Fe
2(S0
4)
3)、および三塩化アルミニウム(A1C1
3)などの無機止血剤、トラネキサム酸およびアミノカプロン酸などの小分子止血剤、並びにアプロチニンなどのペプチド止血剤を含む。
【0054】
本開示内容の説明のためであって限定されないが、これよりパクリタキセルとゾタロリムスとの比較試験について言及される。パクリタキセルは、バルーンカテーテルによって送達されたmTOR薬よりも優れた組織保持力を示すことが見られた。表1は、薬剤コートされたバルーンからの、種々の治療製剤を用いた異なる薬剤の移動効率の比較を示す。
【0055】
薬剤コートされたバルーンの特性および薬剤移動効率
【表1】
【0056】
表1に示される通り、薬剤コートされたバルーンからのパクリタキセルは、ゾタロリムスよりも比較的高い移動効率を有する。加えて、
図2は、冠状動脈バルーン上にゾタロリムスのみを用いた場合の移動効率の割合を示す。冠状動脈バルーンにステントを用い、ゾタロリムスのみでコートされたバルーンから血管中への投与量の割合が、約30分、1日目、および7日目時点で測定された。
図2に示されるように、ゾタロリムスが取り除かれると、組織中での薬剤の割合が急速に減少した。
図3に示されるとおり、パクリタキセルでコートされたバルーンをブタ冠状動脈中で用いた類似の試験が行われた。
図2および3の比較により、薬剤コートされたバルーンからの組織摂取の割合は、パクリタキセルの場合の方がゾタロリムスのみの場合よりも高かった。例えば、1日目(24時間)では、パクリタキセルでは約2%の組織摂取があったが、投与量をより多くしたゾタロリムス(投与量652μg)では約0.56%の組織摂取であった。
【0057】
パクリタキセルによって示された、高い薬剤移動効率、または高い組織摂取を説明するための試験が行われた。パクリタキセルでコートされたバルーンから放出されたパクリタキセルは、血管壁上で長い滞留または保持時間を有することが判明した。
図4は、Paccocath技術によって実験された、血管壁上でのパクリタキセルの保持のメカニズムを図解する。PACCOCATH技術とは、低浸透圧性造影剤イオプロミドとパクリタキセルとの混合物を使用したB.ブラウンの技術である。イオプロミドは低分子量の水溶性非イオン性造影剤である。バルーンの膨張の際に前記マトリックスが分断され、分散され;イオプロミドが溶解し、親油性の前記パクリタキセルが内皮表面の局部に接着する。
図4の右パネルに、フィブリンで囲まれ、ハイライトされて表された材料がパクリタキセルとされる。イオプロミドは完全な水溶性なので、血管壁上では生存できない。 したがって、血管損傷時の治癒過程における血栓カスケード中に形成されるフィブリンによって、パクリタキセルが血管壁に接着されると仮定される。対照的に、ゾタロリムスのみのコーティング分断片が同様の態様で血管壁に接着するという明らかな組織学的証拠は未だない。血管壁上での保持時間の違いを説明する一つの理論は、ゾタロリムスがパクリタキセルよりも低い固有の血栓形成性を有することである。
図5は、種々の濃度のゾタロリムス、エベロリムス、シロリムス、およびパクリタキセルを用いたチャンドラーループを介した全血中のステントの急性血栓形成の測定を示す。
図5に示される通り、血餅重量および乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)によって測定した場合は、ゾタロリムスと比較して、パクリタキセルはより血栓形成性が高いが、トロンビン−アンチトロンビン(TAT)によって測定した場合はそうではない。追加試験により、これらの観察結果は裏付けられる。
【0058】
シロリムスは、血小板を介したフィブリンの後退を阻害し、固体血餅の形成を阻害することが実証されている(非特許文献9を参照)。このような結果は、ラパマイシンの哺乳類標的タンパク質(mTOR)の阻害に起因するものであり、ゾタロリムスによっても阻害される。それ故に、および上述の観点より、血管壁での細胞増殖抑制性mTOR剤の保持を促進させるための接着添加剤を含有する治療製剤は、改善された組織接着性、並びにそれによる細胞増殖抑制性mTOR剤の改善された組織摂取および対応する有効性の改善をもたらす結果となるだろう。
【0059】
(治療薬)
本開示内容によれば、説明のためであり限定のためでなく、前記治療薬または薬剤は、種々の適した、抗増殖性、抗炎症性、抗腫瘍性、抗血小板性、抗凝固性、抗フィブリン性、抗血栓症性、抗有糸分裂性、抗生物質の、抗アレルギー性、および抗酸化性の化合物の任意のものを含むことができる。このように、前記治療薬は、特に限定されないが、合成の無機または有機化合物、タンパク質、ペプチド、多糖およびその他の糖、脂質、DNAおよびRNAの核酸配列、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、受容体リガンド、酵素、接着ペプチド、ストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲン活性化因子などの血液凝固剤、抗原、ホルモン、成長因子、リボザイム、並びにレトロウイルスベクターとすることができる。
【0060】
本明細書で使用される用語「抗増殖性」は、化学治療薬のような、細胞増殖を阻害するために使用される薬剤を意味する。非限定的ないくつかの抗増殖薬の例は、タキサン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびプロタキセルを含む。抗増殖薬は抗有糸分裂薬とすることができる。本明細書で使用される「抗有糸分裂性」とは、細胞分裂を阻害、または細胞分裂に影響を与え、細胞分裂に通常関与する過程が起こらないようにする薬剤を意味する。抗有糸分裂薬の下位クラスの一つは、ビンカアルカロイドを含む。ビンカアルカロイドの代表例は、特に限定されないが、ビンクリスチン、パクリタキセル、エトポシド、ノコダゾール、インジルビン、ならびに、例えばダウノルビシン、ダウノマイシン、およびプリカマイシンなどのアントラサイクリン誘導体を含む。抗有糸分裂薬の他の下位クラスは、例えばタウロムスチン、ボフムスチン、およびホテムスチンなどの抗有糸分裂アルキル化剤、ならびに、例えばメトトレキサート、フルオロウラシル、5−ブロモデオキシウリジン、6−アザシチジン、およびシタラビンなどの抗有糸分裂代謝物を含む。抗有糸分裂アルキル化剤は、DNA、RNA、またはタンパク質を共有結合的に修飾し、それによりDNA複製、RNA転写、RNA翻訳、タンパク質合成、または前術の組合せを阻害することにより、細胞分裂に影響を与える。抗有糸分裂薬の一例は、特に限定されないが、パクリタキセルを含む。本明細書で使用されているように、パクリタキセルは、アルカロイド自体、並びに、アルカロイドの合成形態および半合成形態のみでなく、アルカロイドの天然形態および誘導体も含む。
【0061】
抗血小板薬は、(1)典型的には血栓形成性表面などの表面への血小板の接着の阻害、(2)血小板の凝集の阻害、(3)血小板の活性化の阻害、または(4)前記の組み合わせによって作用する治療体である。血小板の活性化とは、血小板が、静止、安静状態から、血栓形成性表面との接触により誘発される多数の形態変化を受ける状態に変えられる過程である。これらの変化は、偽足の形成、膜受容体への結合、並びに、例えばADPおよび血小板因子4といった小分子およびタンパク質の分泌をともなう血小板の外形の変化を含む。血小板の接着の阻害剤として作用する抗血小板薬は、特に限定されないが、エプチフィバチド、チロフィバン、gpIIbIIIaまたはavb3との結合を阻害するRGD(Arg−Gly−Asp)系ペプチド、gpIIaIIIbまたはavb3との結合を遮断する抗体、抗P−セレクチン抗体、抗E−セレクチン抗体、P−セレクチンまたはE−セレクチンがそれぞれのリガンドと結合することを遮断する化合物、サラチン、並びに抗フォンウィルブランド因子抗体を含む。ADPを介した血小板の凝集を阻害する薬剤は、特に限定されないが、ジサグレジンとシロスタゾールを含む。
【0062】
上に論じられたように、少なくとも一つの治療薬は抗炎症剤とすることができる。抗炎症剤の非限定的な例としては、プレドニゾン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、エストラジオール、トリアムシノロン、モメタゾン、フルチカゾン、クロベタゾール、ならびに、例えばアセトアミノフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、アダリムマブ、およびスリンダクといった非ステロイド性抗炎症剤を含む。アラキドン酸代謝物であるプロスタサイクリン、またはプロスタサイクリン類似体は、血管作動抗増殖性の一例である。これらの薬剤の他の例は、サイトカイン活性を遮断するもの、またはサイトカインもしくはケモカインにより伝達された炎症誘発性シグナルを阻害するためにサイトカインもしくはケモカインの同源受容体への結合を阻害するものを含む。これらの薬剤の代表例は、特に限定されないが、抗ILl、抗IL2、抗IL3、抗IL4、抗IL8、抗IL15、抗IL18、抗MCP1、抗CCR2、抗GM−CSF、および抗TNFの抗体を含む。
【0063】
抗血栓剤は、凝固経路における任意の段階において介入し得る化学的物質および生物学的物質を含む。特定の物質の例は、特に限定されないが、因子Xaの作用を阻害する小分子を含む。加えて、因子Xa(FXa)と血栓との両方を直接的または間接的に阻害できるヘパリノイド型剤は、例えばヘパリン、へパリン硫酸、例えば登録商標「Clivarin」を有する化合物などの低分子量へパリン、および、例えば登録商標「Arixtra」を有する化合物などの合成オリゴ糖を含む。また、例えばメラガトラン、キシメラガトラン、アルガトロバン、イノガトラン、およびトロンビンに対するPhe−Pro−Argフィブリノーゲン基質の結合サイトであるペプチド擬態などの直接的トロンビン阻害剤も含む。送達され得る抗血栓剤の別のクラスは、例えば抗因子Vll/VIIa 抗体、rNAPc2、および組織因子経路阻害剤(TFPI)などの因子Vll/VIIa阻害剤である。
【0064】
血栓(血餅)の分解を補助する薬剤として定義され得る血栓溶解剤もまた補助剤として使用することができる。それは、血餅を溶解する作用は、血栓のフィブリンマトリックス内に捕捉された血小板の分散を助けるからである。血栓溶解剤の代表例は、特に限定されないが、ウロキナーゼまたは組換えウロキナーゼ、プロウロキナーゼまたは組換えプロウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性剤またはその組換え形態、およびストレプトキナーゼを含む。
【0065】
さらに、前記治療薬は細胞増殖抑制剤を含む。本明細書で使用される「細胞増殖抑制」とは、細胞増殖を軽減し、細胞移動を可能にし、かつ細胞毒性を誘発しない薬剤を意味する。これらの細胞増殖抑制剤は、説明のためであり限定されないが、マクロライド抗生物質、ゾタロリムス、シロリムス、ラパマイシン、エベロリムス、バイオリムス、マイオリムス、ノボリムス、テムシロリムス、デフォロリムス、メリリムス、シロリムス誘導体、タクロリムス、ピメクロリムス、その誘導体および類似体、任意のマクロライド免疫抑制薬、およびそれらの組み合わせを含む。他の治療薬は、例えばTGFなどのアポトーシス誘導剤、並びに、10−ヒドロキシカンプトセシン、イリノテカン、およびドキソルビシンなどのトポイソメラーゼ阻害剤といった細胞傷害性剤を含む。
【0066】
本開示内容のある実施形態では、細胞増殖抑制剤は全部または一部が結晶形状で提供されることができる。説明のためであり限定のためでなく、このような結晶性の細胞増殖抑制剤は、比較的大きく、溶解性がより低い細胞増殖抑制剤の粒子を含有することができ、当該細胞増殖抑制剤はアモルファス形状である。このような、より大きく、より可溶性の低い細胞増殖抑制剤の粒子は、いくつかの実施形態では、当該細胞増殖抑制剤へのフィブリンの付着をさらに促進し、これにより前記組織における前記当該細胞増殖抑制剤の保持を促進する。
【0067】
ある実施形態では、本開示内容の治療製剤はゾタロリムスおよびポリ(L−グルタミン酸)を含有する。一実施形態では、前記製剤はさらにグリセロールを含有する。ゾタロリムス:ポリ(L−グルタミン酸):グリセロールの比率は、約2:1:0.4重量比である。一実施形態では、前記治療製剤は、パクリタキセルおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有する。前記製剤は、さらにDMSOを含有することができる。パクリタキセル:カルボキシメチルセルロースナトリウム:DMSOの比率は、約1:1:0.2重量比である。別の実施形態では、前記治療製剤はエベロリムスおよびポリ(L−グルタミン酸)を含有する。一実施形態では、ポリ(L−グルタミン酸)は、ポリ(L−グルタミン酸)−ドーパミンの形でドーパミンと結合される。エベロリムス:ポリ(L−グルタミン酸)−ドーパミンの比率は、約2:1重量比である。
【0068】
さらなる代表的な実施形態では、本開示内容の治療製剤はゾタロリムスおよびポリエチレンイミンを含有する。ゾタロリムス:ポリエチレンイミンの比率は、約1:1重量比である。前記治療製剤は、さらにゾタロリムスおよびポリ(L−リジン)を含有し得る。ゾタロリムス:ポリ(L−リジン)の比率は、約1:1重量比である。
【0069】
(前記治療製剤の追加の任意選択成分)
本開示内容によれば、前記治療製剤はさらに、界面活性剤、乳化剤、溶剤、可塑剤、およびこれらの組み合わせからなる群から選択された少なくとも一つの化合物を含有することができる。
【0070】
ある実施形態では、前記治療製剤はさらに可塑剤を含有する。ポリイオン性ポリマーは、極性が高く、かつ、水、またはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、およびエタノールなどの極性の高い溶剤に可溶である。その高い極性および水素結合に起因して、ポリイオン性ポリマーは乾燥状態で周囲温度よりも高いガラス転移温度(Tgs)を有する。その結果、ポリイオン性ポリマーを乾式コーティングすることは不安定となり得、コーティング強度に劣ることがある。乾式でも良好なコーティング強度を提供するための解決方法は、前記治療製剤を適切な可塑剤を用いて可塑化することである。適した可塑剤は低分子量であり、本質的に不揮発性の水溶性種である。当該可塑剤は、説明のためであり限定されないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(分子量<40000)、プロピレングリコール、グリセロール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ベンジルアルコール、脂肪族アルコール、安息香酸ベンジル、フェノキシエタノール、およびこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、DMSOといった前記可塑剤は、脂質流動性を高め、それにより当該組織内での薬剤の浸透および透過を向上させる。
【0071】
さらなる実施形態では、前記治療製剤はさらに溶剤を含有する。当該溶剤は、説明のためであり限定されないが、アセトン、2−ブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、およびこれらの組み合わせを含む。
【0072】
本開示内容によれば、前記治療製剤はさらに非イオン性ポリマーを含有することができる。当該ポリイオン性ポリマーは、対象の血管壁への非イオン性ポリマーの組織接着力を増大させる。例えば、増大した組織接着力のために、PVPを、より少ない量のカルボキシメチルセルロースまたはポリ(アスパラギン酸)と混合することができる。ポリ(アクリル酸)は、粘液ゲル中でのさらなる相互浸透を促進するために、PEG鎖とグラフト化することができる。PEGは、ジスルフィド結合を介して組織接着力を高めるために、システイン基で官能性をもたせることができる。前記非イオン性ポリマーは、説明のためであり限定されないが、PVP、シルク−エラスチン類似ポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、PEG、プルロニック(PEO−PPO−PEO)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、PVP‐酢酸ビニル(コポビドン)、ポリソルビン酸塩80(Tween80)、およびポリソルビン酸塩20(Tween20)、ヒドロキシアルキルセルロース、およびこれらの組み合わせを含む。
【0073】
(追加のシステム・コンポーネント)
幅広い種類のバルーンカテーテルおよびバルーン構成物が知られており、本開示内容に従った使用に適している。説明のためであり限定されないが、前記拡張可能部材はポリマー材料、例えばコンプライアント、非コンプライアント、もしくはセミコンプライアントなポリマー材料またはポリマーブレンド(例えば、ポリマーの混合物)などから製造される。一実施形態では、前記ポリマー材料は、限定されないが、ポリアミド/ポリエーテルブロック共重合体(一般的にPEBAまたはポリエーテル‐ブロック‐アミドと呼ばれる)などのコンプライアントである。ある実施形態では、前記ブロック共重合体の前記ポリアミド部およびポリエーテル部は、アミド結合またはエステル結合によってリンクされ得る。前記ポリアミドのブロックは、本願の技術分野で周知の種々の脂肪族または芳香族のポリアミドから選択され得る。いくつかの実施形態では、ポリアミドは脂肪族である。非限定的な例は、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン9、ナイロン6、ナイロン6/12、ナイロン6/11、ナイロン6/9、ナイロン6/6を含む。いくつかの実施形態では、前記ポリアミドはナイロン12である。前記ポリエーテルのブロックは、本願の技術分野で周知の種々のポリエーテルから選択され得る。非限定的なポリエーテル部の例は、ポリ(テトラメチレンエーテル)、テトラメチレンエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(ペンタメチレンエーテル)およびポリ(ヘキサメチレンエーテル)を含む。例えば、Arkema社(フランス)から供給されているPEBAX(登録商標)材料などの市販のPEBA材料も使用され得る。ポリアミド/ポリエーテルブロック共重合体からバルーンを形成する種々の技術は、本願の技術分野で周知である。この一例は、Wangの特許文献1に開示されており、当該開示内容は参照によって組み込まれている。
【0074】
追加の実施形態では、前記バルーン材料がポリアミドから形成されている。いくつかの実施形態では、開示内容が参照によって本明細書に組み込まれているPinchukの特許文献2に開示されているように、ポリアミドは十分な引張り強度を有し、折り畳みおよび展開後であってもピンホール耐性があり、そして一般的に引掻き耐性がある。前記バルーンに適するポリアミド材料のいくつかの非限定的な例は、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン9、ナイロン69、およびナイロン66を含む。いくつかの実施形態では、前記ポリアミドはナイロン12である。非コンプライアントバルーンを構成するのに適する他の材料は、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、Hytrel熱可塑性ポリエステル、およびポリエチレンなどのポリエステルである。
【0075】
追加の実施形態では、前記バルーンは、TECOTHANE(登録商標)(Thermedics社)などのポリウレタン材料から形成される。TECOTHANE(登録商標)は、メチレンジイソシアネート(MDI)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、および1,4‐ブタンジオール鎖延長剤から合成される、熱可塑性の芳香族ポリエーテルポリウレタンである。ある実施形態ではTECOTHANE(登録商標)のグレード1065Dが適しており、ショア硬度計で65D、破断点が約300%の伸び、および耐力が約10000psiの高い引張り強度を有する。しかし、ショアD硬度75を有するTECOTHANE(登録商標)1075Dなどの他の適切なグレードを使用することもできる。他の適したコンプライアントポリマー材料は、両方とも熱可塑性ポリマーであるENGAGE(登録商標)(DuPont Dow Elastomers社) (エチレンα-オレフィンポリマー))およびEXACT(登録商標)(Exxon Chemical社)を含む。他の適したコンプライアント材料は、限定されないが、エラストマー性シリコーン、ラテックス、およびウレタンを含む。
【0076】
前記コンプライアント材料は、特定の用途に必要とされる前記バルーンの材料および特性に依存して、交差架橋されていても、交差架橋されていなくてもよい。ある実施形態では、前記ポリウレタンのバルーン材料は交差架橋されていない。しかし、ポリオレフィン系ポリマーENGAGE(登録商標)およびEXACT(登録商標)といった他の適する材料は、交差架橋されていてもよい。前記バルーンコンプライアント材料を交差架橋することにより、最終的に膨張されたバルーンのサイズを調節することができる。熱処理および電子ビーム露光を含む従来の交差架橋技術が用いられ得る。交差架橋、初期加圧、膨張、および予備収縮の後に、前記バルーンは、与えられた膨張圧力に対する応答として再現可能な直径に、制御された手法で拡張し、それによりステント(ステント送達システムで使用されるならば)が望まない大きさの直径にまで過度に拡張することが回避される。
【0077】
一実施形態では、前記バルーンは、シリコーン‐ポリウレタン共重合体といった低張力に設定されたポリマーから形成される。いくつかの実施形態では、シリコーン‐ポリウレタンはエーテルウレタンであり、より具体的には、PURSIL AL 575AおよびPURSIL AL10(Polymer Technology Group社)、並びに、ELAST−EON 3−70A(Elastomedics社)などの脂肪族エーテルウレタンであり、これらはシリコーンポリエーテルウレタン共重合体、より具体的には、脂肪族エーテルウレタンコシロキサンである。別の実施形態では、低張力に設定されたポリマーはジエン重合体である。特に限定されないが、ABおよびABAポリ(スチレン‐ブロック‐イソプレン)などのイソプレン、ネオプレン、スチレンブタジエンスチレン(SBS)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)などのABおよびABAポリ(スチレン‐ブロック‐ブタジエン)、並びに、1,4−ポリブタジエンといった種々の適したジエン重合体が使用され得る。ある実施形態では、前記ジエン重合体は、ポリ(スチレン‐ブロック‐イソプレン)などのイソプレン共重合体およびイソプレンブロック共重合体を含むイソプレンである。適したイソプレンは、Kraton社から入手可能なKraton 1161Kなどのスチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体である。しかし、Apex Medical社から入手可能なHT 200、Kraton社から入手可能なKraton R 310、およびDupont Elastomers社から入手可能なイソプレン(即ち、2−メチル−1,3−ブタジエン)などの種々の適したイソプレンが使用され得る。本開示内容において有用なネオプレンのグレードは、Apex Medical社から入手可能なHT 501、ならびにDupont Elastomers社から入手可能なNeoprene G、W、T、およびAタイプなどのDupont Elastomers社から入手可能なネオプレン(即ち、ポリクロロプレン)を含む。
【0078】
本開示内容の別の態様によれば、前記バルーンの前記外表面が変更される。この点において、当該バルーン表面は、以下に記載される通り、テクスチャー表面、粗表面、空隙、棘、チャネル、ディンプル、孔、もしくはマイクロカプセル、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0079】
本開示内容によれば、前記バルーンは必ずしもステントを含まなくてもよく、例えばステントが無くてもよい。しかし、前記コートされたバルーン上にステントを搭載することができ、摂取をさらに促進することができる。当該ステントはコーティング強度または薬剤送達に有害な影響を与えない。使用することができるステントの種類は、特に限定されないが、ベアメタルステント、バルーン拡張可能ステント、自己拡張型ステント、薬剤溶出性ステント、治癒促進性ステント、および自己拡張型易損性プラーク移植を含む。前記バルーンはステントとは独立してコートされることもできるし、ステントのコーティング工程と併せてコートされることもできる。当該ステントのコーティングは、バルーンカテーテルまたは拡張可能部材からの治療薬と同じまたは異なる治療薬を含有することができる。しかし、前記バルーンカテーテルまたは拡張可能部材上への特定のコーティングは、前記ステント上の前記治療性コーティングからとは異なる放出動態を有することができる。
【0080】
本開示内容のさらなる実施形態では、前記バルーンは、前記バルーン表面壁内に形成された少なくとも一つの空隙を有する多孔性エラストマー材料で形成される。例えば、当該バルーンの断面全体に複数の空隙を含むことができる。それに代えて、当該複数の空隙は前記バルーン外表面の選択長に沿って分布され得る。例えば、制限されることなく、当該複数の空隙は前記バルーンの作業部位にのみ沿って分布され得る。当該空隙は前記バルーンの外表面内にオープン空間の境界を定める。いくつかの実施形態では、前記治療薬は、前記バルーン外表面の断面にわたる当該複数の空隙によって境界が定められた空間内に分散される。
【0081】
作動中は、前記治療薬は当該バルーンの膨張の際に、前記孔隙から放出または吐出される。この点において、当該バルーン表面のポリマー材料、特に当該空隙の窪みの押し込み硬さは十分に柔軟なので、当該バルーンの膨張の際に、当該複数の空隙内に含まれる当該治療薬および/またはコーティング剤を排出させることができる。治療薬を含有する当該排出されたコーティングは、膨張したバルーンを取り囲みながら接触している前記血管内腔中または前記組織中に放出される。
【0082】
更なる実施形態では、前記バルーンは、当該バルーンの膨張の際に、血管の動脈壁と接触または貫通するように形作られた突起部を含む。治療製剤は当該突起部上に配置され、膨張した際に、その治療製剤および/または治療薬が当該動脈壁の当該組織を覆うまたは当該組織に接着する。代わりに、当該バルーンは2つの同心円バルーンをネスティング形状内に含むことができる。前記治療製剤は当該2つの同心円バルーン間に配置されている。このように、一方がバルーン内部であり他方がバルーン外部である当該2つの同心円バルーン間の空間は、貯蔵部として作用する。この点において、前記突起部は、前記内部および外部の当該同心円バルーンの膨張の際に、前記治療製剤および/または治療薬が排出するための開口部を含むことができる。例えば、開示内容が参照によって本明細書に組み込まれている、Hektnerの特許文献3に記載されている通りである。
【0083】
別の実施形態では、前記バルーンは当該バルーン表面上に隆線を形成するよう形作られた長手突起部を含むことができる。全開示内容が参照によって本明細書に組み込まれているWangの特許文献4に記載されている通り、当該隆線は前記バルーンの円周にわたって等距離間隔で置かれたフィラメントから形成され得る。しかし、より大きなまたはより小さな数の隆線が代わりとして使用され得る。長手隆線は、前記バルーンの前記ポリマー材料によって完全にまたは部分的に覆われてもよい。
【0084】
更に他の実施形態では、前記バルーンは自身の外表面上にマイクロカプセルを含むことができる。この点に関し、当該マイクロカプセルは前記治療製剤および/または治療薬を包含するように形作られる。当該バルーンの膨張時に、当該バルーン表面上に位置する当該マイクロカプセルは、前記動脈壁の前記組織と接触する。それに代わり、当該マイクロカプセルは当該バルーン表面の壁内に形成され得る。当該治療製剤および/または治療薬は、当該マイクロカプセルの破砕および/または当該マイクロカプセルから動脈壁内への拡散により、当該マイクロカプセルから放出され得る。当該マイクロカプセルは、それぞれが参照によって完全に本明細書に組み込まれている、Drorの特許文献5、またはGrantzの特許文献6、およびそこにおいて参照されている特許に開示された方法に従って製造されることができる。
【0085】
本開示内容の別態様に、所望により、前記コートされたバルーンが体内内腔中を動いている間に、前記治療製剤が当該バルーンから擦落ちることから守るために保護さやが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、当該さやは、当該バルーンの形状に従った伸縮性且つ弾力性材料から作られ、特に、当該バルーンの膨張の際に拡張することができる。当該さやは、さやの長さに沿った開口部を含むことができる。作動中は、当該バルーンの膨張により、前記治療製剤および/または治療薬の前記動脈壁の前記組織への放出のために前記さやの開口部が広がる。いくつかの実施形態では、当該さやの厚みは10ミリメートル(mils)未満である。しかし、他の厚みも可能である。
【0086】
更なる実施形態では、当該さやは、前記バルーンの膨張の際に当該さやが破裂し、前記治療製剤および/または治療薬が前記血管動脈壁の前記組織上へ放出されるよう、少なくとも一本の弱い縦走線を有する。いくつかの実施形態では、当該さやはバルーンカテーテルへの使用に適することで知られるポリマー材料から形成される。当該さやの材料は、前記体内内腔のより多くを前記コーティングに露出するように分裂した時に跳ね返りもするエラストマー材料とすることができる。前記弱い線は、様々な周知技術によって設けることができる。しかし、非限定的な一例は、当該さやの材料にミシン目を設けることを含む。作動中では、当該さやは、収縮している状態ではコートされたバルーンを覆うように配置される。当該コートされたバルーンが膨張されると、当該さやは、前記弱い線における自身の伸縮性限界を超える程度にまで拡張し、破裂して露出し、それにより前記治療製剤および/または治療薬を動脈壁または血管内腔の組織へと放出する。例えば、参照によって全開示内容が組み込まれているAmundsonの特許文献7を参照されたい。
【0087】
追加の実施形態によれば、送達中の薬剤損失を防止するために、外側繊維状コーティングが、医療器具またはバルーンカテーテル上に電子紡糸されても、または張り巡らされてもよい。バルーン膨張中は、前記治療製剤またはコーティングが引延ばされることにより、コーティングの可溶化および放出を許容する。繊維直径および材料特性は、最適気孔サイズに合わせて微調整され得、治療薬を含有する前記粒子を放出する。拡張可能部材上の繊維状コーティングは、参照により開示内容が完全に組み込まれているR.von Oepenの特許文献8およびK.Ehrenreichの特許文献9に記載されている。
【実施例】
【0088】
本出願は、以下に提示される実施例によってさらに説明されている。このような実施例の使用は、説明のためのみであり、開示された要旨または例示された用語の範囲および意味を決して限定しない。
【0089】
(実施例1)
ゾタロリムス、ポリ(L−グルタミン酸)(ナトリウム塩、MW=50000〜70000)、およびグリセロールを約2:1:0.4の重量比で、エタノール/水の溶媒系中に全固形分約3%で含む治療製剤が調製された。VISIONバルーン、3×12mmがプラズマ処理され、この治療製剤が、当該バルーン上にゾタロリムス約500μgの薬剤付与量が得られるように噴霧塗布された。塗布後、当該治療製剤は、強制空気対流式オーブン内で約50℃にて約60分間乾燥された。
【0090】
(実施例2)
パクリタキセル、カルボキシメチルセルロースナトリウム(ナトリウム塩、低粘度級、MW=90000)、およびDMSOを約1:1:0.2の重量比で、DMF/エタノール/水の溶媒系中に全固形分約3%で含む治療製剤が調製された。VISIONバルーン、3×12mmがプラズマ処理され、この治療製剤が、当該バルーン上にパクリタキセル約340μgの薬剤付与量が得られるようにダイレクトシリンジ塗布によって塗布された。塗工後、当該治療製剤は、強制空気対流式オーブン内で約50℃にて約60分間乾燥された。
【0091】
(実施例3)
ポリ(L−グルタミン酸)、ナトリウム塩を、塩酸でpH2〜4に滴定された水溶液に添加し、クロロホルム中で中和ポリ(L−グルタミン酸)(PGA)を抽出することにより、プロトン化されたポリ(L−グルタミン酸)が調製された。単離後、当該中和PGAがドーパミンと結合され、有機可溶性PGA−ドーパミン塩が調製された。エバロリムスおよびPGA−ドーパミンを約2:1の重量比で、アセトン/エタノールの溶媒系中に全固形分約3%で含む治療製剤が調製された。VISIONバルーン、3×12mmがプラズマ処理され、この治療製剤が、当該バルーン上にエバロリムス約100μgの薬剤付与量が得られるようにダイレクトシリンジ塗布によって塗布された。塗布後、当該治療製剤は、強制空気対流式オーブン内で約50℃にて約60分間乾燥された。
【0092】
(実施例4)
200プルーフ・エタノール約9グラム(gm)中のゾタロリムス約0.5グラム(gm)およびポリエチレンイミン(MW=10000)約0.5グラム(gm)からなる治療製剤が調製された。ダイレクト流体塗布を用いて、約53μlの当該治療製剤が6×40mmのFoxSVバルーンに塗布され、結果として約300μg/cm
2の投与量密度を得た。
【0093】
(実施例5)
約0.89グラムの水中のポリ(L−リジン)(塩酸塩、MW=30000)約0.1グラムおよびTWEEN20約0.01グラムから溶液が調製された。混合しながら、この水溶液が200プルーフ・エタノール9グラムに添加された。約0.1グラムのゾタロリムスを溶解後、約133μlが6×100mmのFoxSVバルーンにダイレクト流体分与によって塗布され、約300μg/cm
2の投与量のコーティングを得た。
【0094】
(実施例6)
90/10のメタノール/水(重量/重量)約19グラム中のシロリムス約0.5グラムおよびトラネキサム酸約0.5グラムからなる治療製剤が調製された。ダイレクト流体塗布を用いて、約110μlの当該治療製剤が6×40mmのFoxSVバルーンに塗布され、結果として約300μg/cm
2の投与量密度を得た。
* * *
【0095】
本開示内容は、本開示内容の精神または本質的特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具現化し得る。記載されている実施形態は、全ての点において、限定としてではなく、例証としてのみ考慮されるものである。従って、本開示内容は、添付された請求項の範囲およびそれらの均等範囲内の修正および変更を含むことが意図されている。本明細書において引用されている全ての先行技術文献は、具体的な参照によって本明細書に完全に組み込まれる。