特許第6147926号(P6147926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6147926ナトリウムインジウム硫化物緩衝層を有する薄膜太陽電池のための層システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6147926
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ナトリウムインジウム硫化物緩衝層を有する薄膜太陽電池のための層システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20170607BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-522545(P2016-522545)
(86)(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公表番号】特表2016-524340(P2016-524340A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】EP2014063747
(87)【国際公開番号】WO2014207226
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2016年2月1日
(31)【優先権主張番号】13173956.7
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パルム,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ポールナー,シュテフアン
(72)【発明者】
【氏名】ハップ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ディートミュラー,ローランド
(72)【発明者】
【氏名】ダリボール,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヨスト,シュテフアン
(72)【発明者】
【氏名】バルマ,ラジニーシ
【審査官】 井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−174306(JP,A)
【文献】 特開平10−125941(JP,A)
【文献】 特開平11−204810(JP,A)
【文献】 特表2011−521463(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0247745(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜太陽電池(100)のための層システム(1)であって、
黄銅鉱化合物半導体を含有する、光を吸収するための吸収層(4)と、
吸収層(4)の上に配置され、NaIny−x/3Sを含有し、
0.063≦x≦0.625、
0.681≦y≦1.50である緩衝層(5)
とを備える、層システム(1)であって、
緩衝層(5)中、ナトリウムとインジウムのモル分率の比率が0.2より大きく、緩衝層(5)は、ナトリウムのモル分率が5原子%より大きい、層システム(1)。
【請求項2】
緩衝層(5)が、NaIny−x/3Sを含有し、
0.063≦x≦0.469、
0.681≦y≦1.01である、請求項1に記載の層システム(1)。
【請求項3】
緩衝層(5)がNaIny−x/3Sを含有し、
0.13≦x≦0.32、
0.681≦y≦0.78である、請求項1に記載の層システム(1)。
【請求項4】
緩衝層(5)は、ナトリウムのモル分率が7.2原子%より大きい、請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項5】
緩衝層(5)は、ハロゲンのモル分率、または銅のモル分率が7原子%未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項6】
緩衝層(5)は、酸素のモル分率が10原子%未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項7】
緩衝層(5)は、層の厚みが10nmから100nmであり、緩衝層(5)は、アモルファス性または微結晶性である、請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項8】
黄銅鉱化合物が、CuZnSn(S,Se)、Cu(In,Ga,Al)(S,Se)、CuInSe、CuInS、Cu(In,Ga)SeおよびCu(In,Ga)(S,Se)から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)。
【請求項9】
薄膜太陽電池(100)であって、
基材(2)と、
基材(2)の上に配置される裏側電極(3)と、
裏側電極(3)の上に配置される請求項1からのいずれか一項に記載の層システム(1)と、
層システム(1)の上に配置される前側電極(7)とを備える、薄膜太陽電池(100)。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の薄膜太陽電池(100)のための層システム(1)を製造するための方法であって、
(a)黄銅鉱化合物半導体を含有する吸収層(4)を製造し
(b)吸収層(4)の上に緩衝層(5)を堆積することを含み、緩衝層(5)が、NaIny−x/3Sを含有し、
0.063≦x≦0.625、
0.681≦y≦1.50である、方法。
【請求項11】
緩衝層(5)を製造するために、工程(b)において、
吸収層(4)の上に硫化インジウムが堆積し、
硫化インジウムの堆積の前および/または最中および/または後に、硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムが吸収層(4)の上に堆積する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムが、湿式化学浴堆積、原子層堆積(ALD)、イオン層気体堆積(ILGAR)、噴霧熱分解、化学蒸着(CVD)または物理蒸着(PVD)、硫化インジウムおよび硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムのための別個の供給源からの、スパッタリング、熱蒸着または電子ビーム蒸着によって堆積する、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
吸収層(4)は、硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムの少なくとも1つの蒸気ビーム(12)および硫化インジウムの少なくとも1つの蒸気ビーム(11)を通るインライン方法または回転方法で運ばれ、これらは、輸送方向に交互に配置され、硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムの蒸気ビーム(12)から始まり、蒸気ビーム(11、12)が完全に、または部分的に重なり合う、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
吸収層(4)は、硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムの少なくとも1つの蒸気ビーム(12)および硫化インジウムの少なくとも1つの蒸気ビーム(11)を通るインライン方法または回転方法で運ばれ、これらは、輸送方向に交互に配置され、硫化ナトリウムまたはチオインジウム化ナトリウムの蒸気ビーム(12)から始まり、蒸気ビーム(11、12)が重なり合わない、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池を製造する技術領域にあり、薄膜太陽電池のための層システム、およびこのような層システムを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日光を電気エネルギーに直接変換するための太陽電池のための光電池の層システムがよく知られている。用語「薄膜太陽電池」は、厚みがわずか数ミクロンであり、十分な機械的安定性のために(担体)基材を必要とする層システムを指す。既知の基材としては、無機ガラス、プラスチック(ポリマー)または金属、特に、金属アロイが挙げられ、それぞれの層の厚みおよび特定の材料特性に依存して変わってもよく、剛性プレートまたは可撓性膜として設計されてもよい。
【0003】
薄膜太陽電池のための層システムは、適用される基材および材料に依存して、種々の設計で、市場で利用可能である。材料は、入射する日光のスペクトルが最大になるように利用するように選択される。物理特性および技術的な取り扱いの質に起因して、アモルファス、微細構造または多結晶性のケイ素、テルル化カドミウム(CdTe)、ヒ化ガリウム(GaAs)、銅インジウム(ガリウム)硫化セレニド(Cu(In,Ga)(S,Se))および銅亜鉛スズスルホセレニド(黄錫亜鉛鉱の群からのCZTS)を有する層システムおよび有機半導体が、薄膜太陽電池に特に適している。五成分半導体Cu(In,Ga)(S,Se)は、黄銅鉱半導体の群に属し、CIS(銅インジウムジセレニドまたは銅インジウムジスルフィド)またはCIGS(銅インジウムガリウムジセレニド、銅インジウムガリウムジスルフィドまたは銅インジウムガリウムジスルホセレニド)と呼ばれることが多い。省略語CIGSにおいて、Sは、セレン、硫黄、またはこの2つのカルコゲンの混合物を表してもよい。
【0004】
Cu(In,Ga)(S,Se)に基づく現行の薄膜太陽電池およびソーラーモジュールは、p−導電性Cu(In,Ga)(S,Se)吸収層およびn−導電性前側電極の間に緩衝層を必要とする。前側電極は、通常、酸化亜鉛(ZnO)を含む。現行の知識によれば、この緩衝層によって、吸収材料と前側電極との間の電気的アダプテーションを可能にする。さらに、その後のDCマグネトロンスパッタリングによる前側電極の堆積の処理工程において、スパッタリングの損傷から保護される。さらに、p半導体とn半導体の間に高抵抗中間層を構築することによって、導電性の低い領域の中にある導電性が電気的に良好な領域からの電流ドレインを防ぐ。
【0005】
今日まで、硫化カドミウム(CdS)は、緩衝層として最もよく用いられてきた。電池の良好な効率を作り出すことができるために、硫化カドミウムは、現在まで、化学浴方法(CBD方法)で湿式化学によって堆積してきた。しかし、これに関連して、湿式化学方法は、Cu(In,Ga)(S,Se)薄膜太陽電池の現行の製造の処理サイクルには十分に適合しないという欠点がある。
【0006】
CdS緩衝層の別の欠点は、毒性重金属であるカドミウムを含むことからなる。このことは、この製造方法において、例えば、廃水の廃棄において、安全性に関する多くの注意を払わなければならないため、製造費用を高くする。地域の法律に依存して、製造業者は、製品を廃棄するため、または製品をリサイクルするために回収を余儀なくされる場合があるため、製品の廃棄は、顧客の費用を高くすることがある。
【0007】
結果として、Cu(In,Ga)(S,Se)半導体の群からの異なる吸収材のための異なる吸収材のために、硫化カドミウムで作られる緩衝のさまざまな代替物、例えば、スパッタリングされたZnMgO、CBDによって堆積したZn(S,OH)、CBDによって堆積したIn(O,OH)、原子層堆積(ALD)、イオン層気体堆積(ILGAR)、噴霧熱分解または物理蒸着(PVD)法、例えば、熱蒸着またはスパッタリングによって堆積した硫化インジウムが試験されてきた。
【0008】
しかし、これらの材料は、CdS緩衝層を用いるものと同じ効率を達成しないため、Cu(In,Ga)(S,Se)に基づく太陽電池のための緩衝としての商業的な使用にまだ適切ではない。この効率は、太陽電池によって作られる電力に対する放射電力の比率を記述し、小さな表面の上の実験用電池のためのCdS緩衝層のほぼ20%の大きさであり、大きな面積のモジュールの10%から15%の大きさである。さらに、代替的な緩衝層は、光、熱および/または水分にさらされたときに、過剰な不安定性、ヒステリシス効果または効率の減少が存在する。
【0009】
CdS緩衝層の別の欠点は、硫化カドミウムが、直接的な電気バンドギャップが約2.4eVの直接的な半導体であるという事実にある。この結果、すでにCdS膜厚が数10nmのCu(In,Ga)(S,Se)/CdS/ZnO太陽電池において、入射光は、大部分が吸収される。緩衝層に吸収される光は、電場のために失われる。この層に発生する電荷キャリアは、すぐに再結合し、ヘテロ接合のこの領域および再結合中心として作用する緩衝材料に多くの欠陥が存在する。結果として、太陽電池の効率が低下し、これは薄膜太陽電池にとって不都合である。
【0010】
硫化インジウムに基づく緩衝層を有する層システムは、例えば、WO 2009/141132 A2から知られている。この層システムは、CIGS群の黄銅鉱吸収材からなり、特に、硫化インジウムから作られる緩衝層と組み合わせたCu(In,Ga)(S,Se)からなる。硫化インジウム(In)緩衝層は、例えば、わずかにインジウムが豊富な組成物であり、v/(v+w)=41%から43%である。硫化インジウム緩衝層は、種々の非湿式化学方法で、例えば、熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオン層気体反応(ILGAR)、カソードパッタリング(スパッタリング)、原子層堆積(ALD)または噴霧熱分解によって堆積させることができる。
【0011】
しかし、これらの層システムおよび製造方法の今日までの開発において、硫化インジウム緩衝層を有する太陽電池の効率が、CdS緩衝層を有する太陽電池よりも小さいことが示されている。
【0012】
ナトリウムとアロイを形成した硫化インジウムに基づく緩衝層は、Barreau et al.:「Study of the new β−In containing Na thin films.Part II:Optical and electrical characterization of thin films」、Journal of Crystal Growth、241(2002)、pp.51−56から知られている。
【0013】
この刊行物の図5からの結果として、緩衝層中、0原子%から6原子%のナトリウム分率の増加によって、バンドギャップは、2.95eVの値まで大きくなる。しかし、緩衝層は、特に、前側電極に対する吸収層のバンドアダプテーションの仕事を有し、典型的な吸収材料との相互作用におけるこのような高いバンドキャップによって、太陽電池の電気特性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2009/141132号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Barreau et al.:「Study of the new β−In2S3 containing Na thin films.Part II:Optical and electrical characterization of thin films」、Journal of Crystal Growth、241(2002)、pp.51−56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
対照的に、本発明の目的は、高い効率と高い安定性を有する緩衝層を有する黄銅鉱化合物半導体に基づく層システムを提供することにあり、この製造は、経済的であり、環境的に安全であるべきである。この目的および他の目的は、統合された請求項の特徴を有する層システムおよび層システムを製造するための方法によって、本発明の提案に従って達成される。本発明の有利な実施形態は、サブクレームの特徴によって示される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
薄膜太陽電池のための本発明の層システムは、光を吸収するための吸収層を備える。好ましくは、強制的ではないが、吸収層は、黄銅鉱化合物半導体、特に、CuZnSn(S,Se)、Cu(In,Ga,Al)(S,Se)、CuInSe、CuInS、Cu(In,Ga)SeまたはCu(In,Ga)(S,Se)を含有する。吸収層の有利な実施形態において、吸収層は、このような黄銅鉱化合物半導体から作られる。
【0018】
本発明の層システムは、さらに、吸収層の上に配置される緩衝層を備え、緩衝層は、分子式NaIny−x/3Sのナトリウムインジウム硫化物を含有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50である。
【0019】
分子式NaIny−x/3Sは、ナトリウムインジウム硫化物を基準として緩衝層中のナトリウム、インジウムおよび硫黄のモル分率を記述し、指数xは、ナトリウムの物質量を示し、インジウムの物質量について、指数xおよび別の指数yが明確である場合、インジウムの物質量は、y−x/3の値から決定される。硫黄の物質量について、この指数は常に1である。物質のモル分率を原子%で得るために、物質の指数を、分子式のすべての指数の合計で割り算する。例えば、x=1であり、y=1.33である場合、分子式NaInSが得られ、ナトリウム、インジウムおよび硫黄は、ナトリウムインジウム硫化物を基準として、それぞれの、モル分率が約33原子%である。
【0020】
ここで使用され、以下に使用されるように、ナトリウムインジウム硫化物の物質(元素)のモル分率は、分子式のすべての物質(元素)の物質量の合計を基準として、ナトリウムインジウム硫化物中のこの物質(元素)の物質量の分率を原子%で記載する。ナトリウムインジウム硫化物を基準とした物質のモル分率は、ナトリウム、インジウムおよび硫黄とは異なる元素が緩衝層中に存在しない場合、またはこれらの元素が無視できる分率を有する場合には、緩衝層中の物質のモル分率に対応する。
【0021】
一般的に、緩衝層は、分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物と、ナトリウムインジウム硫化物とは異なる1種類または複数の別の成分(不純物)とで構成される(または、作られる。)。本発明の有利な実施形態において、緩衝層は、実質的に、分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物からなる。このことは、ナトリウムインジウム硫化物とは異なる緩衝層の別の成分(不純物)が、無視できる分率を有することを意味する。
【0022】
ナトリウムインジウム硫化物の分子式の元素をベースとしていない場合、原子%での物質(不純物)のモル分率は、緩衝層中のすべての物質の物質量の合計を基準として(即ち、ナトリウムインジウム硫化物および不純物を基準として)この物質の物質量の分率を記述する。
【0023】
別の有利な実施形態において、別の成分(不純物)は、緩衝層中で無視できない分率を有し、緩衝層中の分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物のすべての元素の分率(原子%)は、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、さらになお好ましくは、少なくとも85%、さらになお好ましくは、少なくとも90%、さらになお好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも99%である。
【0024】
緩衝層の元素が、それぞれの場合に、異なる酸化状態で存在し得るため、すべての酸化状態は、特に明確に示されていない限り、この元素の名称に従って、均一に呼ばれる。例えば、この結果、用語「ナトリウム」は、元素ナトリウムおよびナトリウムイオン、および化合物の状態でのナトリウムを意味する。
【0025】
ナトリウムとのアロイを形成するために、本発明の層システムのナトリウムインジウム硫化物緩衝層は、有利には、アモルファス性または微結晶性の構造を有する。平均粒径は、緩衝層の厚みによって制限され、有利には、8nmから100nmの範囲、さらに好ましくは、20nmから60nmの範囲、例えば、30nmである。
【0026】
調査結果が示されるように、吸収層から緩衝層への銅(Cu)の内部拡散が、アモルファス性または微結晶性の構造によって阻害されることがある。このことは、ナトリウムおよび銅が、硫化インジウム格子中の同じ部位をなしており、これらの部位がナトリウムによって占められているという事実によって説明することができる。しかし、大量の銅の内部拡散は、緩衝層のバンドギャップが銅によって小さくなっているため、不都合である。これにより緩衝層への光の吸収が増加し、これにより効率が低下する。緩衝層中の銅のモル分率を7原子%未満、特に5原子%未満にすることによって、特に、太陽電池の高い効率を確保することができる。
【0027】
本発明の層システムの有利な実施形態において、分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.469および0.681≦y≦1.01であるナトリウムインジウム硫化物が、緩衝層に含まれる。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。今日までの最良の効率は、分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.13≦x≦0.32および0.681≦y≦0.78であるナトリウムインジウム硫化物が含まれる緩衝層について測定された。
【0028】
本発明の層システムの別の有利な実施形態において、緩衝層は、ナトリウムのモル分率が5原子%より大きく、特に、7原子%より大きく、特に、7.2原子%より大きい。このような高ナトリウム分率について、特に高い効率を測定することができた。ナトリウムおよびインジウムのモル分率の比率が0.2より大きな緩衝層について、同じことがあてはまる。
【0029】
有利な実施形態において、緩衝層は、ハロゲン、例えば、塩素のモル分率が7原子%未満、特に、5原子%未満であり、緩衝層が、まったくハロゲンを含まないことが好ましい。従って、特に高い効率の太陽電池を得ることができる。すでに述べられているように、緩衝層が、銅のモル分率が7原子%未満、特に、5原子%未満であることが有利であり、緩衝層が、まったく銅を含まないことが好ましい。
【0030】
別の有利な実施形態において、本発明の緩衝層は、酸素のモル分率が最大で10原子%である。例えば、硫化インジウムが吸湿性であるため、酸素が不純物として生じることがある。酸素は、コーティング装置の外側の残留水蒸気によって導入されることもある。緩衝層中の酸素のモル分率を10原子%以下にすることによって、特に高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0031】
本発明の層システムの別の有利な実施形態において、緩衝層は、ナトリウム、インジウムおよび硫黄、ClおよびO以外の実質的な分率の元素を含まない。このことは、緩衝層が、他の元素、例えば、炭素を用いて提供されず、最大で、製造技術という観点から避けられない他の元素のモル分率が1原子%以下であることを意味する。これにより、高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0032】
本発明の特に有利な実施形態において、緩衝層中、すべての不純物のモル分率の合計(即ち、分子式NaIny−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物とは異なるすべての物質のモル分率の合計)は、最大で25%、好ましくは、最大で20%、さらに好ましくは、最大で15%、さらになお好ましくは、最大で10%、さらになお好ましくは、最大で5%、最も好ましくは、最大で1%である。
【0033】
典型的な実施形態において、緩衝層は、吸収層に接続する第1の層領域と、第1の層領域に接続する第2の層領域とからなり、第1の層領域の層の厚みは、第2の層領域の層の厚みより小さく、または、第2の層領域の層の厚みと等しく、ナトリウムのモル分率は、第1の層領域で最大を有し、吸収層および第2の層領域の両方に向かって減少していく。
【0034】
本発明の緩衝層の有利な実施形態は、層の厚みが10nmから100nm、好ましくは、20nmから60nmである。
【0035】
本発明は、さらに、本発明の層システムを備える薄膜太陽電池、およびこれらの太陽電池を備える太陽電池モジュールに拡大する。
【0036】
本発明の薄膜太陽電池は、基材と、基材の上に配置される裏側電極と、裏側電極の上に配置される本発明の層システムと、第2の緩衝層の上に配置される前側電極とを備える。
【0037】
基材は、好ましくは、金属、ガラス、プラスチックまたはセラミック基材であり、ガラスが好ましい。しかし、他の透明担体材料、特にプラスチックも使用することができる。裏側電極は、有利には、モリブデン(Mo)または他の金属を含む。裏側電極の有利な実施形態において、吸収層に接続するモリブデン副次層と、モリブデン副次層に接続する窒化ケイ素副次層(SiN)とを有する。このような裏側電極系は、例えば、EP 1356528 A1から知られている。前側電極は、好ましくは、透明導電性酸化物(TCO)、特に、好ましくは、アルミニウム、ガリウムまたはホウ素がドープされた酸化亜鉛および/またはインジウムスズ酸化物(ITO)を含む。
【0038】
本発明は、さらに、本発明の層システムを製造するための方法であって、
(a)吸収層、特に、黄銅鉱半導体を含む吸収層が製造され、
(b)緩衝層が吸収層の上に配置され、緩衝層が、NaIny−x/3Sを含有し、ここで、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50である、方法を含む。
【0039】
本発明の方法で製造される本発明の層システムは、本発明の層システムと組み合わせて記載されるように作られる。
【0040】
便宜上、吸収層は、RTP(「迅速な熱処理」)方法で、裏側電極の上にある基材に適用される。Cu(In,Ga)(S,Se)吸収層の場合、まず、前駆体層は、裏側電極を有する基材の上に堆積する。前駆体層は、銅、インジウムおよびガリウムの元素を含み、スパッタリングによって適用される。例えば、EP 715 358 B1に知られているように、前駆体層によってコーティングされるときに、目標とするナトリウム量が前駆体層に導入される。さらに、前駆体層は、セレン元素を含み、熱蒸着によって適用される。これらの方法中に、基材の温度は、元素が金属アロイおよびセレン元素として実質的に未反応なままであるように、100℃未満である。その後、この前駆体層を、硫黄を含有する雰囲気中、迅速な熱処理方法(RTP)で反応させ、Cu(In,Ga)(S,Se)カルコゲニド半導体を作製する。
【0041】
有利な実施形態において、緩衝層を製造するために、工程(b)において、硫化インジウム、好ましくは、Inを、吸収層の上に堆積し、硫化インジウムの堆積の前および/または最中および/または後に、硫化ナトリウム、好ましくは、NaS、特に、ポリ硫化ナトリウム、好ましくは、NaまたはNa、またはインジウム酸ナトリウム、好ましくは、NaInSまたはNaInを吸収層の上に堆積させる。
【0042】
例えば、例えば、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムから始めて、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムが、硫化インジウムとともに交互に堆積される。
【0043】
緩衝層を製造するために、原理的に、すべての化学物理堆積方法が適しており、硫黄に対するインジウムの比率、および硫化インジウム分率に対するナトリウムの分率を制御することができる。有利には、本発明の緩衝層は、湿式化学浴堆積、原子層堆積(ALD)、イオン層気体堆積(ILGAR)、噴霧熱分解、化学蒸着(CVD)または物理蒸着(PVD)によって、吸収層に適用される。本発明の緩衝層は、好ましくは、スパッタリング(カソードスパッタリング)、熱蒸着または電子ビーム蒸着によって、特に好ましくは、硫化インジウムおよび硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムのための別個の供給源からのスパッタリング(カソードスパッタリング)、熱蒸着または電子ビーム蒸着によって堆積される。硫化インジウムは、インジウムおよび硫黄のための別個の供給源から、またはIn化合物半導体材料からの供給源から蒸発させることができる。他の硫化インジウム(InまたはInS)は、硫黄源と組み合わせることも可能である。
【0044】
本発明の緩衝層は、有利には、真空法を用いて堆積される。真空方法は、真空において、酸素または水酸化物の組み込みが防がれるという点で、特に利点を有する。緩衝層中の水酸化物要素は、熱および光の影響下、効率の過渡変化の原因であると考えられる。さらに、真空法は、この方法が、湿式化学を用いず、標準的な真空コーティング装置を使用することができるという点で利点を有する。
【0045】
本発明の方法の有利な実施形態において、硫化ナトリウム(好ましくは、NaS)またはインジウム酸ナトリウムは、少なくとも1つの別個の第2の供給源から蒸発する。堆積源の配置は、堆積源の蒸気ビームが重なり合わないように設計することができる。または、堆積源の配置は、堆積源の蒸気ビームが完全に、または部分的に重なり合うように設計することができる。本発明の内容において、「蒸気ビーム」は、蒸発速度および均一性の観点で、基材の上に蒸発した材料を堆積するのに技術的に適した堆積源の出口の前側にある領域を意味する。堆積源は、例えば、流出セル、船型またはるつぼ型の加熱蒸発器、抵抗加熱器、電子線蒸発器または線形蒸発器である。
【0046】
本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層は、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの少なくとも1つの蒸気ビームおよび硫化インジウムの少なくとも1つの蒸気ビームを通るインライン方法または回転方法で運ばれる。例えば、吸収層は、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの蒸気ビームを通って運ばれ、その後、硫化インジウムの蒸気ビームを通って運ばれてもよい。例えば、吸収層が硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの蒸気ビームを通って運ばれることが可能なのと同様に、硫化インジウムの2つの蒸気ビームの間に配置される。
【0047】
本発明の別の態様は、薄膜太陽電池または太陽電池モジュールにおける本発明の層システムの使用を含む。
【0048】
添付の図面を参照しつつ、例示的な実施形態を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の層システムを有する本発明の薄膜太陽電池の模式的な断面図である。
図2A図1の薄膜太陽電池のナトリウムインジウム硫化物緩衝層の組成を表すための三成分図である。
図2B】本発明に従って請求される領域を含む図2Aの三成分図の拡大された詳細である。
図3A】緩衝層のナトリウムインジウム比の関数としての図1の薄膜太陽電池の効率の測定結果である。
図3B】緩衝層のナトリウム絶対量の関数としての図1の薄膜太陽電池の効率の測定結果である。
図4】緩衝層のナトリウム絶対量の関数としての図1の層システムの緩衝層のバンドギャップの測定結果である。
図5】異なる高ナトリウム分率を有する図1の層システムの緩衝層中のナトリウム分布の深さプロフィールの測定結果である。
図6】フローチャートを用いた本発明の処理工程の例示的な実施形態である。
図7】本発明の緩衝層を製造するためのインライン方法の模式図である。
図8】本発明の緩衝層を製造するための代替的なインライン方法の模式図である。
図9】本発明の緩衝層を製造するための回転方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、断面図において、本発明の層システム1を備える本発明の薄膜太陽電池100の好ましい例示的な実施形態を純粋に模式的に示す。薄膜太陽電池100は、基材2と、裏側電極3とを備える。作用にかかる層システム1は、裏側電極3の上に配置される。本発明の層システム1は、吸収層4と、緩衝層5とを備える。第2の緩衝層6および前側電極7は、層システム1の上に配置される。
【0051】
基材2は、ここでは、例えば、無機ガラスから作られ、同様に、薄膜太陽電池100の製造中に行われる処理工程に対して十分な安定性と、不活性な挙動を有する他の絶縁性材料、例えば、プラスチック、特に、ポリマーまたは金属、特に、金属アロイを使用することができる。層の厚みおよび特定の材料特性に依存して、基材2を、剛性の板または可撓性の膜として実施することができる。この例示的な実施形態において、基材2の層の厚みは、例えば、1mmから5mmである。
【0052】
裏側電極3は、基材2の光が入る側の表面の上に配置される。裏側電極3は、例えば、不透明な金属から作られる。例えば、蒸着またはマグネトロンによって改良されるカソードスパッタリングによって、基材2の上に堆積することができる。裏側電極3は、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)から作られるか、または、このような金属、例えば、モリブデン(Mo)の多層システムから作られる。裏側電極3の層の厚みは、この場合には、1μm未満、好ましくは、300nmから600nmの範囲であり、例えば、500nmである。裏側電極3は、薄膜太陽電池100の裏側の接触として役立つ。例えば、Si、SiONまたはSiCNから作られるアルカリ障壁が、基材2と裏側電極3との間に配置されていてもよい。これは、図1に詳細には示されていない。
【0053】
本発明の層システム1は、裏側電極3の上に配置される。層システム1は、例えば、Cu(In,Ga)(S,Se)から作られ、裏側電極3に直接適用される吸収層4を備える。Cu(In,Ga)(S,Se)から作られる吸収層4は、例えば、導入部に記載されるRTP方法を用いて堆積された。吸収層4は、例えば、厚みが1.5μmである。
【0054】
緩衝層5は、吸収層4の上に配置される。緩衝層5は、NaIny−x/3Sを含有し、0.063≦x≦0.625、0.681≦y≦1.50、好ましくは、0.063≦x≦0.469、0.681≦y≦1.01、さらに好ましくは、0.13≦x≦0.32、0.681≦y≦0.78である。緩衝層5の層の厚みは、20nmから60nmの範囲であり、例えば、30nmである。
【0055】
第2の緩衝層6は、場合により、緩衝層5の上側に配置されていてもよい。緩衝層6は、例えば、ドープされていない酸化亜鉛(i−ZnO)を含む。前側の接触として役立ち、可視スペクトル範囲での照射に透明な(「ウィンドウ層」)である前側電極7は、第2の緩衝層6の上側に配置される。通常、ドープされた金属酸化物(TCO=透明な導電性酸化物)、例えば、n導電性のアルミニウム(Al)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)、ホウ素(B)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)、またはガリウム(Ga)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)が、前側電極7のために使用される。前側電極7の層の厚みは、例えば、約300nmから1500nmである。環境への影響から保護するために、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)またはシリコーンで作られるプラスチック層(封入膜)が、前側電極7に適用されてもよい。これに加え、例えば、鉄含有量が低く、厚みが例えば1mmから4mmのエキストラホワイトガラス(フロントガラス)から作られる日光に透明なカバー板が提供されてもよい。
【0056】
薄膜太陽電池または薄膜ソーラーモジュールについて記載された構造は、例えば、市販の薄膜太陽電池または薄膜ソーラーモジュールから当業者によく知られており、特許文献の多くの印刷された文書、例えば、DE 19956735 B4にすでに詳細に記載されている。
【0057】
図1に示される基材の構造において、裏側電極3は、基材2に接続する。層システム1は、スーパーストレート構造を有していてもよく、基材2は、透明であり、前側電極7は、光が入る側に面する基材2の表面の上に配置されることが理解される。
【0058】
層システム1は、種々のパターン形成するラインによってそれ自身が知られている様式でパターン形成された、層システム1と、裏側電極3と、前側電極7とを備える、一体化した直列に接続した薄膜太陽電池100を製造するように働くことができる(裏側電極について「P1」、接触前側電極/裏側電極について「P2」、前側電極の分離について「P3」)。
【0059】
図2Aは、図1の薄膜太陽電池100の緩衝層5の組成NaIny−x/3Sを表す三成分図を示す。緩衝層5の構成要素である硫黄(S)、インジウム(In)およびナトリウム(Na)の相対的な分率は、この三成分図に示される。0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50によって定義された本発明によって請求される組成領域は、実線で囲まれた領域によって定義される。囲まれた組成領域の内側のデータ点は、緩衝層5の例示的な組成を示す。図2Bは、本発明によって請求される組成領域を含む三成分図の拡大された詳細を示す。
【0060】
「Ba」で特定される直線は、本発明によって請求される組成領域の一部ではないが、導入部で引用されたBarreauらの刊行物に示されるナトリウムインジウム硫化物緩衝層のための組成を示す。これは、分子式NaIn21.33−x/32によって記載することができ、ここで、1≦x≦4である。従って、この直線は、開始点Inから終点NaInまで記される。薄膜が、5原子%の最大ナトリウム分率を有し(Na/In=0.12)、単結晶は、7原子%のナトリウム分率を有する(Na/In=0.2)ことが特徴的である。これらの層について、高い結晶性が報告されている。
【0061】
導入部にすでに示されているように、これらの緩衝層は、ナトリウム含有量が6原子%より大きく、バンドギャップが2.95eVであり、吸収材または前側電極に対して不満足なバンドアダプテーションを生じ、従って、これらの緩衝層が薄膜太陽電池に使用するのに適していないような電気特性の悪化を生じる。本発明によって請求される組成範囲は、Barreauらによれば不可能である。
【0062】
この欠点は、ナトリウム分率が明確にNa/In=0.12または0.2より高い値に達する本発明によって避けられる。本願発明者らが驚くべきことに示すことができたように、緩衝層5中の硫黄分率を比較的低くすることのみによって、高いナトリウム分率が可能になり、太陽電池中のバンドアダプテーションにとって望ましい層の特性が保持される。例えば、国際特許出願WO 2011/104235に記載される緩衝層中の硫黄分率を小さくするための能力を用いると、インジウムを豊富に含む領域で組成を選択的に制御することができる。従って、緩衝層中に存在するナトリウムインジウム硫化物相が異なる結晶性構造を有するため、ナトリウムインジウム硫化物緩衝層をアモルファス性に、またはナノ結晶性構造(結晶性ではなく)に堆積させることができる。この様式で、吸収層から緩衝層への銅の内部拡散を抑制することができ、太陽電池、特に、黄銅鉱太陽電池の電気特性が向上する。ナトリウムとのアロイ生成に起因して、緩衝層5のバンドギャップおよび電荷キャリア濃度を調節することができ、これによって、緩衝層5を介した吸収層4から前側電極7への電子移動を最適化することができる。このことは、以下にさらに詳細に説明する。
【0063】
図3Aは、図1の薄膜太陽電池100の効率Eta(パーセント)を、緩衝層5中のナトリウムインジウム分率に対してプロットした図を示す。これは、図2Aからの対応する予測である。図3Bは、図1の薄膜太陽電池100の効率Eta(パーセント)を、緩衝層5中の絶対的なナトリウム分率(原子%)に対してプロットした図を示す。
【0064】
例えば、このために使用される薄膜太陽電池100は、ガラスで作られる基材2と、Si障壁層およびモリブデン層で作られる裏側電極3とを備える。Cu(In,Ga)(S,Se)で作られ、上述のRTP方法によって堆積した吸収層4は、裏側電極3の上に配置される。0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるNaIny−x/3S緩衝層5は、吸収層4の上に配置される。緩衝層5の層の厚みは50nmである。100nmの厚い第2の緩衝層6は、ドープされていない酸化亜鉛を含み、緩衝層5の上に配置される。1200nmの厚い前側電極7は、n導電性酸化亜鉛を含み、第2の緩衝層6の上に配置される。薄膜太陽電池100の面積は、例えば、1.4cmである。
【0065】
図3Aおよび図3Bにおいて、緩衝層5のナトリウムインジウム分率の増加(Na/In>0.2)によって、または絶対的なナトリウム含有量の増加(Na>7原子%)によって、薄膜太陽電池100の効率は、従来の薄膜太陽電池と比較して、顕著に増加させることができることを認識することができる。すでに述べられているように、相対的に低い硫黄分率のみによって、緩衝層5でこのような高ナトリウム分率を得ることができる。本発明の構造を用い、13.5%までの高い効率を得ることが可能であった。
【0066】
図4は、上述の層システム1について、緩衝層5のナトリウム分率に対する関数としての緩衝層5のバンドギャップの測定結果を示す。従って、7原子%を超えるナトリウム分率を用い、バンドギャップの1.8eVから2.5eVへの拡大を観察することができる。本発明の緩衝層5によって、電気層の特性を悪化させることなく、薄膜太陽電池100の効率の顕著な向上を得ることができる(過剰に大きなバンドギャップによらない、吸収材または前側電極に対する良好なバンドアダプテーション)。
【0067】
図5は、ToF−SIMS測定によって作られた図1の層システム1の緩衝層5におけるナトリウム分布の深さプロフィールを示す。正規化された深さが、横座標としてプロットされ、正規化されたシグナル強度が、縦座標としてプロットされる。横座標の0から1の領域は、緩衝層5を示し、1より大きな値を有する領域は、吸収層4を示す。カルコゲン硫黄(S)を含むナトリウム化合物、好ましくは、NaSを、硫化インジウム層のナトリウムアロイ形成のための出発材料として使用した。同様に、ナトリウムと硫黄およびインジウムとの化合物、例えば、NaInを使用することもできる。それぞれの場合に、CIGSSe吸収層4の上に適用される緩衝層5において、異なる高ナトリウム分率が含まれる(量1、量2)。ナトリウムとアロイ形成していない硫化インジウム緩衝層をリファレンスとして使用した。
【0068】
ナトリウム分率の増加は、ナトリウムアロイに起因して、層の積み重ねを目に見えて発達させ、吸収材−緩衝の界面に対する均一なアロイの堆積にもかかわらず、拡散機構によって、緩衝層5中のナトリウム分率のわずかな濃縮(「ドーピングピーク」)が進行する。緩衝層5は、少なくとも理論的には、2つの領域、つまり、吸収層に接続する第1の層領域と、第1の層領域に接続する第2の層領域に分けることができ、第1の層領域の層の厚みは、例えば、第2の層領域の層の厚みに等しい。従って、ナトリウムのモル分率は、第1の層領域で最大を有し、吸収層4および第2の層領域に向かって減少していく。緩衝層5の層の厚み全体にわたって、特定のナトリウム濃度が保持される。吸収材−緩衝の界面でのナトリウムの蓄積は、この位置での高い欠陥濃度の原因となると考えられる。
【0069】
ナトリウム以外に、酸素(O)または亜鉛(Zn)も、例えば、前側電極7のTCOから出る拡散によって緩衝層5に蓄積することがある。出発物質の吸湿特性に起因して、周囲の空気からの水の蓄積も認識することができる。特に有利なことに、本発明の緩衝層中のハロゲン分率は小さく、ハロゲン、例えば、塩素のモル分率は、5原子%未満、特に、1原子%未満である。特に有利なことに、緩衝層5は、ハロゲンを含まない。
【0070】
図6は、本発明の方法のフローチャートを示す。第1の工程において、例えば、Cu(In,Ga)(S,Se)半導体材料で作られる吸収層4が調製される。第2の工程において、ナトリウムインジウム硫化物で作られる緩衝層5が堆積する。例えば、蒸発速度を制御することによって、例えば、バッフルまたは温度制御によって、緩衝層5中の個々の構成要素の比率が制御される。さらなる処理工程において、第2の緩衝層6および前側電極7を、緩衝層5の上に堆積させることができる。これに加え、薄膜太陽電池100またはソーラーモジュールを作製するための層構造1の配線および接触を行うことができる。
【0071】
図7は、ナトリウムインジウム硫化物で作られる本発明の緩衝層5を製造するためのインライン方法の模式図を示す。裏側電極3と吸収層4を有する基材2は、例えば、硫化インジウム源8、好ましくはIn、硫化ナトリウム源9、好ましくはNaSおよび第2の硫化インジウム源8、好ましくはInの蒸気ビーム11、12を通るインライン方法で運ばれる。輸送方向は、参照文字10を有する矢印によって示される。硫化ナトリウム源9は、輸送方向10に2つの硫化インジウム源8の間に配置され、蒸気ビーム11、12は重なり合っていない。この様式において、吸収層4は、第1に、硫化インジウムの薄層でコーティングされ、次いで、硫化ナトリウムの薄層でコーティングされ、合体する。硫化ナトリウム源9および硫化インジウム源8は、例えば、流出セルであり、この流出セルから、硫化ナトリウムまたは硫化インジウムが熱によって蒸発する。特に単純な方法制御は、重なり合わない供給源によって可能になる。輸送方向10に重なり合わない供給源を用い、好ましくは交互に、好ましくは、硫化ナトリウム源9から出発し、任意の数の硫化ナトリウム源9および任意の数の硫化インジウム源8を配置することを認識することができるだろう。
【0072】
または、ナトリウム、インジウムおよび硫黄のモル分率の比率を制御することができる限り、蒸気ビーム11、12を発生する任意の他の形態は、緩衝層5を堆積させるのに適している。代替となる供給源は、例えば、船型の線形蒸発器、またはるつぼ型の電子線蒸発器である。
【0073】
図8は、本発明の方法の性能のための代替的な装置を示し、図7の装置と比較した違いのみが説明され、その他は、上に述べたものを参照する。従って、基材2は、2つの硫化ナトリウム(NaS)源9および2つの硫化インジウム(In)源8の蒸気ビーム11、12を通るインライン方法で運ばれ、輸送方向10に交互に配列し(NaS−In−NaS−In)(硫化ナトリウム源から開始し)、ここでは、蒸気ビーム11、12は、例えば、部分的に重なり合っている。蒸気ビームが完全に重なり合うことも認識することができるだろう。従って、硫化ナトリウムは、硫化ナトリウムと硫化インジウムの特に良好な混じり合いを得ることができる結果として、硫化インジウムの適用の前および最中に適用される。輸送方向10に部分的に、または完全に重なり合う供給源を用い、好ましくは交互に、好ましくは、硫化ナトリウム源9から出発し、任意の数の硫化ナトリウム源9および任意の数の硫化インジウム源8を配置することを認識することができるだろう。
【0074】
図9は、回転方法の例を用いた本発明の方法の別の代替的な実施形態を示す。裏側電極3と吸収層4を有する基材2が、回転可能なサンプル担体13の上に、例えば、サンプルカルーセルの上に配置される。または、配置された硫化ナトリウム源9および硫化インジウム源8は、サンプル担体13の下側に配置される。本発明の緩衝層5の堆積中、サンプル担体13が回転する。従って、基材2が蒸気ビーム11、12の中に移動し、コーティングされる。
【0075】
示される硫化ナトリウムを蒸発させるための配置は、既存の熱による硫化インジウムコーティングシステムに簡単に組み込むことができる。
【0076】
上述の内容から、本発明によって、以前から使用されているCdS緩衝層の欠点を、薄膜太陽電池で克服することができ、ここで製造される薄膜太陽電池の効率および安定性も、非常に良好であるか、または良好であることが明確になるだろう。同時に、製造方法は、経済的であり、効果的であり、環境的に安全である。本発明の層システムを用いると、従来のCdS緩衝層を用いて存在するものと匹敵する良好な太陽電池の特徴を得ることができることが示されている。
【符号の説明】
【0077】
1 層システム
2 基材
3 裏側電極
4 吸収層
5 緩衝層
6 第2の緩衝層
7 前側電極
8 硫化インジウム源
9 硫化ナトリウム源
10 輸送方向
11 硫化インジウム蒸気ビーム
12 硫化ナトリウム蒸気ビーム
13 サンプル担体
100 薄膜太陽電池
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9