【課題を解決するための手段】
【0017】
薄膜太陽電池のための本発明の層システムは、光を吸収するための吸収層を備える。好ましくは、強制的ではないが、吸収層は、黄銅鉱化合物半導体、特に、Cu
2ZnSn(S,Se)
4、Cu(In,Ga,Al)(S,Se)
2、CuInSe
2、CuInS
2、Cu(In,Ga)Se
2またはCu(In,Ga)(S,Se)
2を含有する。吸収層の有利な実施形態において、吸収層は、このような黄銅鉱化合物半導体から作られる。
【0018】
本発明の層システムは、さらに、吸収層の上に配置される緩衝層を備え、緩衝層は、分子式Na
xIn
y−x/3Sのナトリウムインジウム硫化物を含有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50である。
【0019】
分子式Na
xIn
y−x/3Sは、ナトリウムインジウム硫化物を基準として緩衝層中のナトリウム、インジウムおよび硫黄のモル分率を記述し、指数xは、ナトリウムの物質量を示し、インジウムの物質量について、指数xおよび別の指数yが明確である場合、インジウムの物質量は、y−x/3の値から決定される。硫黄の物質量について、この指数は常に1である。物質のモル分率を原子%で得るために、物質の指数を、分子式のすべての指数の合計で割り算する。例えば、x=1であり、y=1.33である場合、分子式NaInSが得られ、ナトリウム、インジウムおよび硫黄は、ナトリウムインジウム硫化物を基準として、それぞれの、モル分率が約33原子%である。
【0020】
ここで使用され、以下に使用されるように、ナトリウムインジウム硫化物の物質(元素)のモル分率は、分子式のすべての物質(元素)の物質量の合計を基準として、ナトリウムインジウム硫化物中のこの物質(元素)の物質量の分率を原子%で記載する。ナトリウムインジウム硫化物を基準とした物質のモル分率は、ナトリウム、インジウムおよび硫黄とは異なる元素が緩衝層中に存在しない場合、またはこれらの元素が無視できる分率を有する場合には、緩衝層中の物質のモル分率に対応する。
【0021】
一般的に、緩衝層は、分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物と、ナトリウムインジウム硫化物とは異なる1種類または複数の別の成分(不純物)とで構成される(または、作られる。)。本発明の有利な実施形態において、緩衝層は、実質的に、分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物からなる。このことは、ナトリウムインジウム硫化物とは異なる緩衝層の別の成分(不純物)が、無視できる分率を有することを意味する。
【0022】
ナトリウムインジウム硫化物の分子式の元素をベースとしていない場合、原子%での物質(不純物)のモル分率は、緩衝層中のすべての物質の物質量の合計を基準として(即ち、ナトリウムインジウム硫化物および不純物を基準として)この物質の物質量の分率を記述する。
【0023】
別の有利な実施形態において、別の成分(不純物)は、緩衝層中で無視できない分率を有し、緩衝層中の分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物のすべての元素の分率(原子%)は、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、さらになお好ましくは、少なくとも85%、さらになお好ましくは、少なくとも90%、さらになお好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも99%である。
【0024】
緩衝層の元素が、それぞれの場合に、異なる酸化状態で存在し得るため、すべての酸化状態は、特に明確に示されていない限り、この元素の名称に従って、均一に呼ばれる。例えば、この結果、用語「ナトリウム」は、元素ナトリウムおよびナトリウムイオン、および化合物の状態でのナトリウムを意味する。
【0025】
ナトリウムとのアロイを形成するために、本発明の層システムのナトリウムインジウム硫化物緩衝層は、有利には、アモルファス性または微結晶性の構造を有する。平均粒径は、緩衝層の厚みによって制限され、有利には、8nmから100nmの範囲、さらに好ましくは、20nmから60nmの範囲、例えば、30nmである。
【0026】
調査結果が示されるように、吸収層から緩衝層への銅(Cu)の内部拡散が、アモルファス性または微結晶性の構造によって阻害されることがある。このことは、ナトリウムおよび銅が、硫化インジウム格子中の同じ部位をなしており、これらの部位がナトリウムによって占められているという事実によって説明することができる。しかし、大量の銅の内部拡散は、緩衝層のバンドギャップが銅によって小さくなっているため、不都合である。これにより緩衝層への光の吸収が増加し、これにより効率が低下する。緩衝層中の銅のモル分率を7原子%未満、特に5原子%未満にすることによって、特に、太陽電池の高い効率を確保することができる。
【0027】
本発明の層システムの有利な実施形態において、分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.469および0.681≦y≦1.01であるナトリウムインジウム硫化物が、緩衝層に含まれる。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。今日までの最良の効率は、分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.13≦x≦0.32および0.681≦y≦0.78であるナトリウムインジウム硫化物が含まれる緩衝層について測定された。
【0028】
本発明の層システムの別の有利な実施形態において、緩衝層は、ナトリウムのモル分率が5原子%より大きく、特に、7原子%より大きく、特に、7.2原子%より大きい。このような高ナトリウム分率について、特に高い効率を測定することができた。ナトリウムおよびインジウムのモル分率の比率が0.2より大きな緩衝層について、同じことがあてはまる。
【0029】
有利な実施形態において、緩衝層は、ハロゲン、例えば、塩素のモル分率が7原子%未満、特に、5原子%未満であり、緩衝層が、まったくハロゲンを含まないことが好ましい。従って、特に高い効率の太陽電池を得ることができる。すでに述べられているように、緩衝層が、銅のモル分率が7原子%未満、特に、5原子%未満であることが有利であり、緩衝層が、まったく銅を含まないことが好ましい。
【0030】
別の有利な実施形態において、本発明の緩衝層は、酸素のモル分率が最大で10原子%である。例えば、硫化インジウムが吸湿性であるため、酸素が不純物として生じることがある。酸素は、コーティング装置の外側の残留水蒸気によって導入されることもある。緩衝層中の酸素のモル分率を10原子%以下にすることによって、特に高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0031】
本発明の層システムの別の有利な実施形態において、緩衝層は、ナトリウム、インジウムおよび硫黄、ClおよびO以外の実質的な分率の元素を含まない。このことは、緩衝層が、他の元素、例えば、炭素を用いて提供されず、最大で、製造技術という観点から避けられない他の元素のモル分率が1原子%以下であることを意味する。これにより、高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0032】
本発明の特に有利な実施形態において、緩衝層中、すべての不純物のモル分率の合計(即ち、分子式Na
xIn
y−x/3Sを有し、式中、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50であるナトリウムインジウム硫化物とは異なるすべての物質のモル分率の合計)は、最大で25%、好ましくは、最大で20%、さらに好ましくは、最大で15%、さらになお好ましくは、最大で10%、さらになお好ましくは、最大で5%、最も好ましくは、最大で1%である。
【0033】
典型的な実施形態において、緩衝層は、吸収層に接続する第1の層領域と、第1の層領域に接続する第2の層領域とからなり、第1の層領域の層の厚みは、第2の層領域の層の厚みより小さく、または、第2の層領域の層の厚みと等しく、ナトリウムのモル分率は、第1の層領域で最大を有し、吸収層および第2の層領域の両方に向かって減少していく。
【0034】
本発明の緩衝層の有利な実施形態は、層の厚みが10nmから100nm、好ましくは、20nmから60nmである。
【0035】
本発明は、さらに、本発明の層システムを備える薄膜太陽電池、およびこれらの太陽電池を備える太陽電池モジュールに拡大する。
【0036】
本発明の薄膜太陽電池は、基材と、基材の上に配置される裏側電極と、裏側電極の上に配置される本発明の層システムと、第2の緩衝層の上に配置される前側電極とを備える。
【0037】
基材は、好ましくは、金属、ガラス、プラスチックまたはセラミック基材であり、ガラスが好ましい。しかし、他の透明担体材料、特にプラスチックも使用することができる。裏側電極は、有利には、モリブデン(Mo)または他の金属を含む。裏側電極の有利な実施形態において、吸収層に接続するモリブデン副次層と、モリブデン副次層に接続する窒化ケイ素副次層(SiN)とを有する。このような裏側電極系は、例えば、EP 1356528 A1から知られている。前側電極は、好ましくは、透明導電性酸化物(TCO)、特に、好ましくは、アルミニウム、ガリウムまたはホウ素がドープされた酸化亜鉛および/またはインジウムスズ酸化物(ITO)を含む。
【0038】
本発明は、さらに、本発明の層システムを製造するための方法であって、
(a)吸収層、特に、黄銅鉱半導体を含む吸収層が製造され、
(b)緩衝層が吸収層の上に配置され、緩衝層が、Na
xIn
y−x/3Sを含有し、ここで、0.063≦x≦0.625および0.681≦y≦1.50である、方法を含む。
【0039】
本発明の方法で製造される本発明の層システムは、本発明の層システムと組み合わせて記載されるように作られる。
【0040】
便宜上、吸収層は、RTP(「迅速な熱処理」)方法で、裏側電極の上にある基材に適用される。Cu(In,Ga)(S,Se)
2吸収層の場合、まず、前駆体層は、裏側電極を有する基材の上に堆積する。前駆体層は、銅、インジウムおよびガリウムの元素を含み、スパッタリングによって適用される。例えば、EP 715 358 B1に知られているように、前駆体層によってコーティングされるときに、目標とするナトリウム量が前駆体層に導入される。さらに、前駆体層は、セレン元素を含み、熱蒸着によって適用される。これらの方法中に、基材の温度は、元素が金属アロイおよびセレン元素として実質的に未反応なままであるように、100℃未満である。その後、この前駆体層を、硫黄を含有する雰囲気中、迅速な熱処理方法(RTP)で反応させ、Cu(In,Ga)(S,Se)
2カルコゲニド半導体を作製する。
【0041】
有利な実施形態において、緩衝層を製造するために、工程(b)において、硫化インジウム、好ましくは、In
2S
3を、吸収層の上に堆積し、硫化インジウムの堆積の前および/または最中および/または後に、硫化ナトリウム、好ましくは、Na
2S、特に、ポリ硫化ナトリウム、好ましくは、Na
2S
3またはNa
2S
4、またはインジウム酸ナトリウム、好ましくは、NaInS
2またはNaIn
5S
8を吸収層の上に堆積させる。
【0042】
例えば、例えば、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムから始めて、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムが、硫化インジウムとともに交互に堆積される。
【0043】
緩衝層を製造するために、原理的に、すべての化学物理堆積方法が適しており、硫黄に対するインジウムの比率、および硫化インジウム分率に対するナトリウムの分率を制御することができる。有利には、本発明の緩衝層は、湿式化学浴堆積、原子層堆積(ALD)、イオン層気体堆積(ILGAR)、噴霧熱分解、化学蒸着(CVD)または物理蒸着(PVD)によって、吸収層に適用される。本発明の緩衝層は、好ましくは、スパッタリング(カソードスパッタリング)、熱蒸着または電子ビーム蒸着によって、特に好ましくは、硫化インジウムおよび硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムのための別個の供給源からのスパッタリング(カソードスパッタリング)、熱蒸着または電子ビーム蒸着によって堆積される。硫化インジウムは、インジウムおよび硫黄のための別個の供給源から、またはIn
2S
3化合物半導体材料からの供給源から蒸発させることができる。他の硫化インジウム(In
6S
7またはInS)は、硫黄源と組み合わせることも可能である。
【0044】
本発明の緩衝層は、有利には、真空法を用いて堆積される。真空方法は、真空において、酸素または水酸化物の組み込みが防がれるという点で、特に利点を有する。緩衝層中の水酸化物要素は、熱および光の影響下、効率の過渡変化の原因であると考えられる。さらに、真空法は、この方法が、湿式化学を用いず、標準的な真空コーティング装置を使用することができるという点で利点を有する。
【0045】
本発明の方法の有利な実施形態において、硫化ナトリウム(好ましくは、Na
2S)またはインジウム酸ナトリウムは、少なくとも1つの別個の第2の供給源から蒸発する。堆積源の配置は、堆積源の蒸気ビームが重なり合わないように設計することができる。または、堆積源の配置は、堆積源の蒸気ビームが完全に、または部分的に重なり合うように設計することができる。本発明の内容において、「蒸気ビーム」は、蒸発速度および均一性の観点で、基材の上に蒸発した材料を堆積するのに技術的に適した堆積源の出口の前側にある領域を意味する。堆積源は、例えば、流出セル、船型またはるつぼ型の加熱蒸発器、抵抗加熱器、電子線蒸発器または線形蒸発器である。
【0046】
本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層は、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの少なくとも1つの蒸気ビームおよび硫化インジウムの少なくとも1つの蒸気ビームを通るインライン方法または回転方法で運ばれる。例えば、吸収層は、硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの蒸気ビームを通って運ばれ、その後、硫化インジウムの蒸気ビームを通って運ばれてもよい。例えば、吸収層が硫化ナトリウムまたはインジウム酸ナトリウムの蒸気ビームを通って運ばれることが可能なのと同様に、硫化インジウムの2つの蒸気ビームの間に配置される。
【0047】
本発明の別の態様は、薄膜太陽電池または太陽電池モジュールにおける本発明の層システムの使用を含む。
【0048】
添付の図面を参照しつつ、例示的な実施形態を用いて本発明を詳細に説明する。