(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水平方向に沿って固定ルーフ板や可動ルーフ板を設けた場合には、建物の熱負荷削減の観点から問題が生じる可能性があった。例えば、建物の外壁の外側に通気層を介してブラインドやルーバーの如き可燃物を設置した構造においては、火災が発生していない通常時に、この通気層を介して空気が上昇することによって、建物の外壁の熱負荷が削減される。しかしながら、水平方向に沿って固定ルーフ板や可動ルーフ板を設けた場合には、火災が発生していない通常時において、固定ルーフ板や可動ルーフ板によって通気層が遮蔽されてしまうため、通気層を介した空気の上昇が妨げられてしまい、通気層を介した空気の換気風量が低下してしまうので、建物の外壁の熱負荷が削減されなくなってしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、建物の外壁の熱負荷削減効率を維持しつつ、延焼防止対象物に起因する延焼を防止することができる、延焼防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の延焼防止装置は、建物の外壁の外側に配置された延焼防止対象物の延焼を防止するための延焼防止装置であって、前記延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に位置する通常位置と、前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置である延焼防止位置とに、移動可能な延焼防止手段と、前記建物又は前記建物の周囲において火災が発生していない通常時には、前記延焼防止手段を前記通常位置に位置させ、前記火災が発生している火災時には、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させる、移動手段とを備え、前記延焼防止対象物は、前記外壁に対して通気層を隔てて配置されている
開口部に設けられており、前記延焼防止位置は、前記延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置を少なくとも含み、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させた状態において、当該延焼防止手段によって前記通気層を遮蔽可能であ
り、前記延焼防止手段は、少なくとも前記通常位置において前記開口部に設けられている。
【0009】
また、請求項2に記載の延焼防止装置は、請求項1に記載の延焼防止装置において、
前記延焼防止対象物は、前記通気層に設けられている通気性のメンテナンスデッキを介して前記外壁の外側に配置されており、前記延焼防止位置は、前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置と内側位置の両方を含み、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させた状態において、当該延焼防止手段を前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側と内側の両方に配置可能である。
【0010】
また、請求項3に記載の延焼防止装置は、請求項
1又は2に記載の延焼防止装置において、
前記建物は、上階部分と下階部分を有する複数階層の建物であり、前記通常位置は、前記上階部分と前記下階部分との相互間に対応する位置である。
【0011】
また、請求項4に記載の延焼防止装置は、請求項1から3のいずれか一項に記載の延焼防止装置において、
前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させた状態において、当該延焼防止手段によって水平面に沿って前記通気層の全域を遮蔽可能である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の延焼防止装置によれば、通常時には、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に延焼防止手段が配置され、延焼防止手段のみが延焼防止対象物の外部に大きく突出等することがなく、空気の上昇を妨げることがないため、建物の外壁の熱負荷削減効率を維持しつつ、延焼を防止することができる。また、延焼防止手段によって建物の意匠性が大きく低減することを防止できると共に、延焼防止対象物の設置範囲の自由度を高めることができる。
また、火災時には、延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置を含む延焼防止位置に延焼防止手段が動かされ、延焼防止手段によって通気層を遮蔽可能であるため、建物の外壁と延焼防止対象物との相互間の通気層を介して火災が延焼することを防止できる。
【0013】
また、請求項2に記載の延焼防止装置によれば、
火災時には、延焼防止手段が延焼防止対象物の設置領域に対する外側と内側の両方に動かされるので、延焼防止対象物の内側からの延焼と外側からの延焼の両方を防止でき、延焼効果を一層高めることができる。
【0014】
また、請求項3に記載の延焼防止装置によれば、
通常時には、延焼防止手段が建物の上階部分と下階部分との相互間に対応する位置に配置されるので、延焼防止手段によって建物の日照や眺望が遮られること等を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る延焼防止装置の実施の形態を詳細に説明する。まず、〔I〕実施の形態の基本的概念を説明した後、〔II〕実施の形態の具体的内容について説明し、〔III〕最後に、実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0018】
〔I〕実施の形態の基本的概念
まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態に係る延焼防止装置は、建物の外壁の外側に配置された延焼防止対象物の延焼を防止するための延焼防止装置である。ここで、「建物」の種類や構造は任意であり、木造の一般家屋や、鉄筋コンクリート製のマンションやオフィスビルを含む。「建物の外壁」は、建物の外周を構成する壁であり、屋外に面した壁の他、中庭等の屋内に面した壁を含む。「建物の外壁の外側」とは、建物の外壁に対して、建物の内部から外部に至る側を意味する。「延焼防止対象物」とは、建物の外壁の外側に配置された物(外壁二次部材)であって、延焼防止装置による延焼を防止する対象となる物であり、その種類や構造は任意であるが、例えば、ブラインド、ルーバー、ロールスクリーン、シート材、膜材、太陽電池パネル、断熱材、オブジェ、及び広告等を含む。この延焼防止対象物は、代表的には可燃物である。例えば、難燃物や不燃物であっても条件によっては延焼を起こす可能性があるため、延焼防止対象物は、これら難燃物や不燃物を含む。この延焼防止対象物は、建物の外壁に対して、間隔を隔てて離隔状に配置される場合と、間隔を隔てることなく密接状に配置される場合とがある。以下では、延焼防止対象物が外壁に対して間隔を隔てて離隔状に配置される場合について説明するものとし、この間隔部分を「通気層」と称する。
【0019】
実施の形態に係る延焼防止装置の特徴の一つは、概略的に、延焼防止手段と移動手段を備え、建物又は建物の周囲において火災が発生していない通常時には、延焼防止手段を通常位置に位置させ、火災が発生している火災時には、延焼防止手段を延焼防止位置に位置させる点にある。この延焼防止装置によれば、通常時には、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に延焼防止手段が配置され、延焼防止手段のみが延焼防止対象物の外部に大きく突出等することがないため、延焼防止手段によって建物の意匠性が大きく低減することを防止できる。また、火災時には、延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置である延焼防止位置に延焼防止手段が動かされるので、延焼防止手段によって延焼防止対象物を介した延焼を防止でき、空気の上昇を妨げることがないため、建物の外壁の熱負荷削減効率を維持しつつ、延焼を防止することができる。
【0020】
〔II〕実施の形態の具体的内容
次に、実施の形態の具体的内容について説明する。ただし、実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(構成)
最初に、本実施の形態に係る延焼防止装置の構成について説明する。
図1は延焼防止装置を備えた建屋の要部斜視図、
図2は建屋の要部正面図、
図3は建屋の要部側面図、
図4は、延焼防止部及び移動部の側面図である。以下、
図1に示した各方向の中で、X方向を内外方向、Y方向を幅方向、Z方向を高さ方向と称する。本実施の形態に係る建物1は、
図2、3に示すように、上階2と下階3を有する複数階層の建物として構成されている。これら複数階層は相互に同一構造にて構成することができるため、以下では、上階2と下階3のいずれか一方で発生した火災が他方に延焼することを防止するための構造について説明するものとし、他の階層の構造については説明を省略する。特に、以下では、下階3で最初に火災が発生し、この火災が上階2に延焼することを防止する事例を中心として説明するが、上階2で最初に火災が発生し、この火災が下階3に延焼することについても同様の構造で防止することができる。
【0022】
図1に示すように、建物1の上階2の外壁4には、窓(例えば、滑り出し窓)5が設けられており、この窓5の外側には、ルーバー10、メンテナンスデッキ20、及び延焼防止装置30が設置されている。
【0023】
(構成−ルーバー)
図1〜
図4に示すように、ルーバー10は、外壁4に対して通気層6を隔てて鉛直方向に沿って配置されている。このルーバー10は、メンテナンスデッキ20に設けられた図示しない支柱によって鉛直方向に沿って固定された枠体11の内部に、複数の羽板12を上下方向に沿って並設して構成されている。そして、これらの羽板12を公知の可動構造によって全閉位置と全開位置との間で可動させることで、建物1の採光量や採風量を調整することができる。各羽板12は、アルミ板に対して、その表面に樹脂を塗装すると共にPVシートを裏打ちして構成されており、これら樹脂やPVシートが火災による熱で延焼する可能性があるため、本実施の形態では、このルーバー10を延焼防止対象物としている。
【0024】
(構成−メンテナンスデッキ)
メンテナンスデッキ20は、建物1の外壁4からルーバー10に至るように配置されたもので、グレーチングパネルを水平方向に沿って敷設することにより構成されている。このメンテナンスデッキ20の建物側の端部は、建物1の外壁4にボルト等の図示しない固定手段によって固定されており、メンテナンスデッキ20のルーバー10側の端部には、ルーバー10を支持するための図示しない支柱が固定されている。このようにメンテナンスデッキ20を設けることで、ユーザがメンテナンスデッキ20を介してルーバー10にアクセスすることができ、ルーバー10のメンテナンスを行うことが可能となっている。
【0025】
(構成−延焼防止装置)
延焼防止装置30は、建物1の外壁4の外側に配置された延焼防止対象物としてのルーバー10の延焼を防止するためのものであり、延焼防止部40と移動部50とを備えて構成されている。
【0026】
(構成−延焼防止装置−延焼防止部)
延焼防止部40は、延焼防止対象物の延焼を防止するための延焼防止手段であり、
図4に示すように、通常位置(
図4において実線で示す位置。以下同じ)と延焼防止位置(
図4において2点鎖線で示す位置。以下同じ)に移動可能なように構成されている。
【0027】
「通常位置」とは、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上の位置である。「延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上の位置」とは、延焼防止対象物が設置されている領域を、当該延焼防止対象物を構成する主要部に沿った方向に延長した領域内の位置を意味する。例えば、延焼防止対象物が上述したルーバー10である場合、ルーバー10が設置されている領域は、外壁4に対して通気層6を隔てて鉛直方向に沿った領域であり、ルーバー10を構成する主要部は、複数の羽板12であるため、外壁4に対して通気層6を隔てて鉛直方向に沿った領域を、複数の羽板12に沿った方向(この場合には、複数の羽板12の並設方向である鉛直方向)に延長した領域内の位置が、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上の位置に該当する。より具体的には、延焼防止部40の通常位置は、
図1から
図3に示すように、ルーバー10の上方又は下方のいずれか一方(本実施の形態では下方)において鉛直方向に沿った位置とされている。このように延焼防止部40を通常位置に配置することで、延焼防止対象物から外部に大きく突出しないように延焼防止部40を配置することができ、延焼防止部40により意匠性が低減することを防止できる。
【0028】
「延焼防止位置」とは、延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置である。「延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置」とは、延焼防止対象物の設置領域を基準として外側の位置であり、上階2又は下階3の延焼防止対象物が火災により燃えた場合に、上階2からの延焼物落下や、下階からの炎の上階延焼により、上階2又は下階3の延焼防止対象物が延焼することがないように、これら延焼物落下や炎を遮断することができる位置である。「延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置」とは、延焼防止対象物の設置領域を基準として内側の位置であり、上階2からの延焼物落下や、下階3からの炎の上階延焼により、上階2又は下階3の延焼防止対象物が延焼することがないように、これら延焼物落下や炎を遮断することができる位置であると共に、建物1の外壁4と延焼防止対象物との相互間に通気層6が形成されている場合に、この通気層6を介して延焼物落下や炎が伝わって上階2又は下階3の延焼防止対象物が延焼することがないように、これら炎や熱を遮断することができる位置である。「外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置」とは、外側位置のみを延焼防止位置とする場合、内側位置のみを延焼防止位置とする場合、及び外側位置と内側位置の両方の位置を延焼防止位置とする場合を含む意味である。このように延焼防止部40を延焼防止位置に配置することで、延焼物落下や炎によって、上階2又は下階3の延焼防止対象物が延焼することを防止できる。
【0029】
具体的には、延焼防止部40は、一対の延焼防止板41、42を備えて構成されている。これら一対の延焼防止板41、42の各々は、延焼防止対象物であるルーバー10の延焼を防止するための延焼物落下や炎の遮蔽手段であり、延焼物落下や火災の熱により燃え抜けることがなく、かつ、上階2や下階3の延焼防止対象物が炎や熱によって燃えることを防止できる、材料(例えば鋼材)により形成されている。
【0030】
これら一対の延焼防止板41、42の各々は、メンテナンスデッキ20の上端位置からルーバー10の下端位置に至る程度の高さとなるように形成されているため、通常位置に配置された状態においては、これらメンテナンスデッキ20とルーバー10との間から光や風が屋内側に入り込むことを防止することができる。また、外側の延焼防止板41は、延焼防止位置のうちの外側位置に移動可能とされており、この延焼防止位置に配置された状態においては、ルーバー10よりも大きく外側に張り出して、ルーバー10の延焼を防止することができる。一方、内側の延焼防止板42は、延焼防止位置のうちの内側位置に移動可能とされており、この延焼防止位置に配置された状態においては、ルーバー10よりも大きく内側に張り出して、ルーバー10の延焼を防止することができる。特に、内側の延焼防止板42は、メンテナンスデッキ20の内外方向の長さとほぼ同じ高さで形成されているため、延焼防止位置に配置された状態においては、メンテナンスデッキ20をその全域において上面から略覆い、建物1の外壁4とルーバー10との間に形成された通気層6をほぼ完全に遮断可能であり、通気層6を介した延焼を防止することができる。
【0031】
(構成−延焼防止装置−移動部)
移動部50は、建物1又は建物1の周囲において火災が発生していない通常時には、延焼防止部40の延焼防止板41、42を通常位置に位置させ、火災が発生している火災時には、延焼防止部40の延焼防止板41、42を延焼防止位置に位置させる移動手段である。ここで、「建物1の周囲」とは、建物1に直接に火災が発生していない場合であっても、建物1に隣接する他の建物等で火災が発生することで、建物1の延焼防止対象物であるルーバー10への延焼の可能性が生じた場合には、火災時になったものとして、延焼防止部40の延焼防止板41、42を延焼防止位置に位置させることを意味する。この移動部50は、図示しない火災感知器、ヒンジ部51、通常時固定部52、第1移動促進部53、及び第2移動促進部54を備えている。
【0032】
(構成−延焼防止装置−移動部−火災感知器)
図示しない火災感知器は、下階3の火災を感知するための火災感知手段であり、煙感知器や熱感知器の如き公知の感知器として構成されて、下階3の室内の天井や壁等に配置されて、下階3の火災を感知した際に火災報知信号を出力する。
【0033】
(構成−延焼防止装置−移動部−ヒンジ部)
ヒンジ部51は、延焼防止板41、42を通常位置と延焼防止位置とに可動させるための可動手段であり、かつ、火災時において延焼防止板41、42を延焼防止位置に固定するための火災時固定手段である。このヒンジ部51は、固定板51a、可動板51b、及び回転軸51cを備えている。固定板51aは、メンテナンスデッキ20の上面に固定されており、可動板51bは、外側の延焼防止板41の外側面又は内側の延焼防止板42の内側面に固定されている。そして、可動板51bは、回転軸51cを中心として、固定板51aに対して閉鎖状態又は開放状態のいずれかの状態となる位置に可動する。このような構造において、通常時には、可動板51bが固定板51aに対して閉鎖状態となる位置に位置することで、一対の延焼防止板41、42を通常位置に位置させて、一対の延焼防止板41、42を後述する通常時固定部52によって固定することが可能となる。一方、火災時には、可動板51bが固定板51aに対して閉鎖状態となる位置に位置することで、一対の延焼防止板41、42を延焼防止位置に位置させ、さらにこの状態においては可動板51bが固定板51aに対してそれ以上可動しないことから、一対の延焼防止板41、42を延焼防止位置において支持することが可能となる。
【0034】
(構成−延焼防止装置−移動部−通常時固定部)
通常時固定部52は、通常時において延焼防止板41、42を通常位置に固定するための通常時固定手段である。この通常時固定部52は、ルーバー10の下端部に固定されたモータ52aと、このモータ52aの回転軸52bに固定された係止突起52cとを備えて構成されている。これらモータ52a及び係止突起52cは、
図1に示すように延焼防止板41、42の幅方向に沿った複数箇所に所定間隔で配置されている。モータ52aは、火災感知器に対して、直接的に又は図示しない制御盤等を介して間接的に、図示しない信号線を介して接続されており、火災感知器から火災報知信号が出力されることで、回転軸52bを第1位置から第2位置に回転させ、これに伴って係止突起52cを第1位置から第2位置に移動させる。係止突起52cは、外内方向に沿って並設された2枚の板状体であり、第1位置においては各延焼防止板41、42の上端部に形成された凹部41a、42aに係止することで、各延焼防止板41、42を通常位置に固定し、第2位置においては各延焼防止板41、42の凹部41a、42aから外れることで、各延焼防止板41、42の通常位置への固定を解除する。
【0035】
(構成−延焼防止装置−移動部−第1移動促進部)
第1移動促進部53は、火災時において延焼防止板41、42を延焼防止位置に移動させることを促進するための移動促進手段である。この第1移動促進部53は、延焼防止板41、42の上端近傍に設けられた突状部として形成されている。具体的には、第1移動促進部53は、外側の延焼防止板41に対しては、当該延焼防止板41が通常位置に配置された状態において外側に突出するように形成されている。このことによって、外側の延焼防止板41及び第1移動促進部53の重心位置が、外側の延焼防止板41のみの場合の重心位置よりも外側寄りに位置し、ヒンジ部51の回転軸51cよりも外側寄りに位置することになって、外側の延焼防止板41が外側に向けて自重により倒れることが促進される。また、第1移動促進部53は、内側の延焼防止板42に対しては、当該延焼防止板42が通常位置に配置された状態において内側に突出するように形成されている。このことによって、内側の延焼防止板42及び第1移動促進部53の重心位置が、内側の延焼防止板42のみの場合の重心位置よりも内側寄りに位置し、ヒンジ部51の回転軸51cよりも内側寄りに位置することになって、内側の延焼防止板42が内側に向けて自重により倒れることが促進される。
【0036】
(構成−延焼防止装置−移動部−第2移動促進部)
第2移動促進部54は、火災時において延焼防止板41、42を延焼防止位置に移動させることを促進するための移動促進手段である。この第2移動促進部54は、一対の延焼防止板41、42に形成された中空部41b、42bに充填された加熱発泡材として構成されている。中空部41b、42bは、外側の延焼防止板41の内側位置と内側の延焼防止板42の外側位置とにそれぞれ形成されており、一対の延焼防止板41、42が通常位置に配置された状態において、これら一対の延焼防止板41、42の相互間に位置している。第2移動促進部54は、下階3の火災時の熱により加熱されて発泡して膨張する材料(より具体的には、下階3で生じた火災による温度であって、ルーバー10が延焼する手前の温度で発泡する材料であり、例えば、含水ケイ酸ナトリウムを主原料とした発泡材)である。このように第2移動促進部54が発泡することで、外側の延焼防止板41が第2移動促進部54により押圧されて外側に向けて倒れることが促進される共に、内側の延焼防止板42が第2移動促進部54により押圧されて内側に向けて倒れることが促進される。
【0037】
(動作)
次に、このように構成された延焼防止装置30の動作について説明する。
図5は、建屋の側面の概略図であり、(a)は通常時の状態を示す図、(b)は火災時であって延焼防止装置30を設けていない状態を示す図、(c)は火災時であって延焼防止装置30を設けている状態を示す図である。
図4及び
図5(a)に示すように、通常時には、ヒンジ部51の可動板51bが固定板51aに対して閉鎖状態となる位置に位置することで、一対の延焼防止板41、42を通常位置に位置させる。この状態において、モータ52aの回転軸52bが第1位置に位置することで、係止突起52cが各延焼防止板41、42の凹部41a、42aに係止し、各延焼防止板41、42を通常位置に確実に固定する。このように一対の延焼防止板41、42が通常位置に固定された状態では、ルーバー10から外部に大きく突出しないように延焼防止部40を配置することができ、空気の上昇を妨げることを防止できると共に、延焼防止部40により意匠性が低減することを防止できる。
【0038】
その後、火災時において、従来のように延焼防止装置30が設置されていない場合には、
図5(b)に示すように、下階3のルーバー10が燃焼することによって生じた炎が、ルーバー10の外側から上階2に至り、あるいは、ルーバー10の内側における通気層6を介して上階2に至ることで、上階2のルーバー10を延焼させる。
【0039】
しかしながら、延焼防止装置30が設置されている場合には、図示しない火災感知器が火災を感知して火災報知信号を出力し、モータ52aが回転軸52bを第2位置に回転させることで、係止突起52cが各延焼防止板41、42の凹部41a、42aから外れ、各延焼防止板41、42の通常位置への固定を解除する。この状態において、各延焼防止板41、42は自重により倒れることが可能になる。特に、外側の延焼防止板41及び第1移動促進部53の重心位置が、ヒンジ部51の回転軸51cよりも外側寄りに位置するので、外側の延焼防止板41は外側に向けて自重により倒れる。また、内側の延焼防止板42及び第1移動促進部53の重心位置が、ヒンジ部51の回転軸51cよりも内側寄りに位置するので、内側の延焼防止板42は内側に向けて自重により倒れる。さらに、下階3の火災の熱により第2移動促進部54が発泡することで、外側の延焼防止板41が第2移動促進部54により押圧されて外側に向けて倒れることが促進される共に、内側の延焼防止板42が第2移動促進部54により押圧されて内側に向けて倒れることが促進される。
【0040】
このように倒れた延焼防止板41、42が延焼防止位置に至った時点で、ヒンジ部51の可動板51bが固定板51aに対して開放状態となる位置に位置することで、これら延焼防止板41、42が延焼防止位置に固定される。この状態において、
図4及び
図5(c)に示すように、外側の延焼防止板41は、ルーバー10よりも大きく外側に張り出して、ルーバー10の延焼を防止する。一方、内側の延焼防止板42は、ルーバー10よりも大きく内側に張り出して、ルーバー10の延焼を防止することができる。特に、内側の延焼防止板42は、メンテナンスデッキ20をその全域において上面から略覆い、建物1の外壁4とルーバー10との間に形成された通気層6をほぼ完全に遮断して、通気層6を介した延焼を防止する。
【0041】
その後、下階3の火災の消火が確認された場合等、延焼防止位置による延焼防止が不要になった場合には、延焼防止位置を再利用することが可能である。すなわち、一対の延焼防止板41、42を手動で通常位置に戻し、この際に第2移動促進部54を発泡前のものに入れ替える。次いで、モータ52aの回転軸52bを第1位置に回転させることで、係止突起52cを各延焼防止板41、42の凹部41a、42aに係止させ、各延焼防止板41、42を通常位置に固定する。
【0042】
(効果)
このように実施の形態によれば、通常時には、ルーバー10の設置領域に対する延長線上に延焼防止板41、42が配置され、延焼防止板41、42のみがルーバー10の外部に大きく突出等することがなく、空気の上昇を妨げることがないため、建物1の外壁の熱負荷削減効率を維持しつつ、延焼を防止することができる。また、延焼防止板41、42のみがルーバー10の外部に大きく突出等することがないため、延焼防止板41、42によって建物1の意匠性が大きく低減することを防止できる。また、火災時には、ルーバー10の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置である延焼防止位置に延焼防止板41、42が動かされるので、延焼防止板41、42によってルーバー10を介した延焼を防止でき、ルーバー10の設置範囲を工夫することで延焼を防止する場合に比べて、ルーバー10の設置範囲の自由度を高めることができる。
【0043】
また、火災時には、ルーバー10の設置領域に対する内側位置を含む延焼防止位置に延焼防止板41、42が動かされ、延焼防止板41、42によって通気層6を遮蔽可能であるため、建物1の外壁4とルーバー10との相互間の通気層6を介して火災が延焼することを防止できる。
【0044】
また、火災時には、延焼防止板41、42がルーバー10の設置領域に対する外側と内側の両方に動かされるので、ルーバー10の内側からの延焼と外側からの延焼の両方を防止でき、延焼効果を一層高めることができる。
【0045】
〔III〕実施の形態に対する変形例
以上、実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0046】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。例えば、延焼防止装置30により、建物1の外壁4の熱負荷が従来と同様であっても、延焼防止効果を従来とは異なる構造にて得ることができている場合には、本発明の課題は達成されている。
【0047】
(延焼防止手段の構成)
延焼防止手段としては、上記実施の形態のような延焼防止板41、42に代えて、他の延焼防止手段を採用することもできる。例えば、板状体ではなく、箱状体や筒状体として形成された延焼防止部40を、通常位置と延焼防止位置に移動可能としてもよい。また、延焼防止板41、42に様々な機能を付加してもよく、例えば、延焼防止板41、42の表面に太陽電池パネル(例えばガラス製の不燃パネル)を貼ることで、発電機能を付加してもよい。
【0048】
(延焼防止手段の配置位置)
延焼防止手段の通常位置は、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に位置する位置であればよく、例えば、延焼防止対象物であるオブジェが球状に形成されている場合には、この球状のオブジェの外周面に沿った湾曲領域内の位置であってもよい。延焼防止位置は、延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置であればよく、例えば、延焼防止対象物の内側面のみに延焼の可能性がある場合には、延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置のみを延焼防止位置としてもよい。
【0049】
また、延焼防止手段の通常位置は、建物1の上階2と下階3との相互間に対応する位置とすることが好ましい。具体的には、下階3の天井部から上階2の床部に至る部分(以下、中間部分)に対応する外側の位置を、通常位置とすることが好ましい。このため、例えば、下階3の天井部から水平状に外側に至るように支持板を設け、この支持板の上面にヒンジ部51の固定板51aを固定して、延焼防止板41、42を支持するようにしてもよい。また、この場合には、上階2の床部から水平状に外側に至るようにメンテナンスデッキ20を設け、このメンテナンスデッキ20の下面にモータ52aを固定してもよい。このように通常位置を中間部分に対応する外側の位置とすることで、延焼防止板41、42によって建物1の日照や眺望が遮られること等を防止できる。
【0050】
(移動手段の構成)
移動手段としては、延焼防止手段を通常位置と延焼防止位置に位置させることができる限りにおいて、任意の構成の手段を採用することができる。例えば、延焼防止手段を構成する延焼防止板41、42を、通常時にはルーバー10より内側の通常位置に水平状に配置し、火災時にはルーバー10より外側の延焼防止位置に水平状のままスライドさせるように突出させてもよい。あるいは、延焼防止板41、42を、通常時にはルーバー10の下端から鉛直下方に垂下させて通常位置に位置させ、火災時には水平状に引き上げることによって延焼防止位置に位置させるようにしてもよい。
【0051】
また、火災時に延焼防止手段を延焼防止位置に確実に移動させることができる場合には、第1移動促進部53や第2移動促進部54を省略してもよい。例えば、電磁バルブやモータ52aの如き各種のアクチュエータを介して延焼防止手段を通常位置から延焼防止位置に移動できる場合には、第1移動促進部53や第2移動促進部54は不要となる。
【0052】
また、火災感知器による火災感知ではなく、移動手段が自律的に動作するようにしてもよい。例えば、下階3の火災時の熱により溶融する材料(より具体的には、下階3で生じた火災による温度であって、ルーバー10が延焼する手前の温度で溶融する材料であり、例えば、樹脂や低融点合金)によって支柱や支持ワイヤーを形成し、通常時には、延焼防止板41、42を支柱や支持ワイヤーで通常位置に支持し、火災時には、下階3の火災時の熱により支柱や支持ワイヤーが溶融することで延焼防止板41、42を延焼防止位置に倒すようにしてもよい。
(付記)
付記1の延焼防止装置は、建物の外壁の外側に配置された延焼防止対象物の延焼を防止するための延焼防止装置であって、前記延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に位置する通常位置と、前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置又は内側位置の少なくとも一方の位置である延焼防止位置とに、移動可能な延焼防止手段と、前記建物又は前記建物の周囲において火災が発生していない通常時には、前記延焼防止手段を前記通常位置に位置させ、前記火災が発生している火災時には、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させる、移動手段とを備える。
また、付記2の延焼防止装置は、付記1に記載の延焼防止装置において、前記延焼防止対象物は、前記外壁に対して通気層を隔てて配置されており、前記延焼防止位置は、前記延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置を少なくとも含み、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させた状態において、当該延焼防止手段によって前記通気層を遮蔽可能である。
また、付記3の延焼防止装置は、付記2に記載の延焼防止装置において、前記延焼防止位置は、前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側位置と内側位置の両方を含み、前記延焼防止手段を前記延焼防止位置に位置させた状態において、当該延焼防止手段を前記延焼防止対象物の設置領域に対する外側と内側の両方に配置可能である。
また、付記4の延焼防止装置は、付記1から3のいずれか一項に記載の延焼防止装置において、前記建物は、上階部分と下階部分を有する複数階層の建物であり、前記通常位置は、前記上階部分と前記下階部分との相互間に対応する位置である。
(付記の効果)
付記1に記載の延焼防止装置によれば、通常時には、延焼防止対象物の設置領域に対する延長線上に延焼防止手段が配置され、延焼防止手段のみが延焼防止対象物の外部に大きく突出等することがなく、空気の上昇を妨げることがないため、建物の外壁の熱負荷削減効率を維持しつつ、延焼を防止することができる。また、延焼防止手段によって建物の意匠性が大きく低減することを防止できると共に、延焼防止対象物の設置範囲の自由度を高めることができる。
また、付記2に記載の延焼防止装置によれば、火災時には、延焼防止対象物の設置領域に対する内側位置を含む延焼防止位置に延焼防止手段が動かされ、延焼防止手段によって通気層を遮蔽可能であるため、建物の外壁と延焼防止対象物との相互間の通気層を介して火災が延焼することを防止できる。
また、付記3に記載の延焼防止装置によれば、火災時には、延焼防止手段が延焼防止対象物の設置領域に対する外側と内側の両方に動かされるので、延焼防止対象物の内側からの延焼と外側からの延焼の両方を防止でき、延焼効果を一層高めることができる。
また、付記4に記載の延焼防止装置によれば、通常時には、延焼防止手段が建物の上階部分と下階部分との相互間に対応する位置に配置されるので、延焼防止手段によって建物の日照や眺望が遮られること等を防止できる。