(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148032
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】予備凍結装置
(51)【国際特許分類】
F25D 3/10 20060101AFI20170607BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20170607BHJP
A61J 3/00 20060101ALN20170607BHJP
【FI】
F25D3/10 C
G01N1/28 K
!A61J3/00 301
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-30751(P2013-30751)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2014-158596(P2014-158596A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 滋弘
(72)【発明者】
【氏名】武内 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】西尾 明夏
【審査官】
武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−189539(JP,A)
【文献】
特開平10−142123(JP,A)
【文献】
特開平09−110601(JP,A)
【文献】
特開2008−005846(JP,A)
【文献】
特開2005−143873(JP,A)
【文献】
特開平03−221770(JP,A)
【文献】
実開昭57−075552(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 3/10
G01N 1/28
A61J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガスを収容した低温液化ガス容器内の気相中で、シート状に形成された凍結保存用生体試料を予備凍結させるための予備凍結装置であって、前記シート状に形成された凍結保存用生体試料を載置する試料載置部材と、該試料載置部材を前記低温液化ガス容器内の気相中に保持する保持部材と、前記低温液化ガス容器内の前記低温液化ガス中に挿入される熱伝導部材とを備え、
前記試料載置部材は、2枚の板状部材と、該2枚の板状部材の間に挟持される通気性を有する部材とで形成され、前記2枚の板状部材に形成された開口部の内周に位置する前記通気性を有する部材の上面を試料載置部とし、
前記熱伝導部材は前記板状部材の下面から下方に突出している予備凍結装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記試料載置部材の外周部で、前記開口部を避けた位置から上方に突出した4本の棒状の連結部材と、該連結部材の上端部がそれぞれ固着された保持板と、該保持板の中央部から上方に突出した筒状吊持部材とで形成され、
前記熱伝導部材は、前記連結部材の下端部と連結されている請求項1記載の予備凍結装置。
【請求項3】
前記試料載置部材の温度あるいは前記試料載置部材の周辺温度を測定する温度センサを備えている請求項1又は2記載の予備凍結装置。
【請求項4】
前記低温液化ガス容器内に前記試料載置部材を昇降させる電動昇降手段を備えるとともに、前記試料載置部材を前記低温液化ガス容器内に下降させたときに、前記温度センサの測定温度があらかじめ設定された冷却温度範囲より高いときには前記試料載置部材を下降させる方向に前記電動昇降手段を作動させ、測定温度が前記冷却温度範囲より低いときには前記試料載置部材を上昇させる方向に前記電動昇降手段を作動させる制御部を備えている請求項3記載の予備凍結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予備凍結装置に関し、詳しくは、シート状に形成された試料を低温液化ガスによって常温から凍結保存温度付近まで冷却するための予備凍結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、生体試料を凍結保存する際の前処理として緩慢凍結法が知られている。この緩慢凍結法では、常温でアンプルなどの容器に凍結保存用生体試料を封入した後、常温と凍結保存温度との間の適当な温度までゆっくりと冷却して予備凍結させ、予備凍結後の容器を極低温の液体窒素を貯留した凍結保存容器内に収容して凍結保存するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−19564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の緩慢凍結法に用いる装置では、アンプルなどの容器に凍結保存用生体試料を封入したものに対しては有効であるが、シート状に形成された凍結保存用生体試料を予備凍結することができなかった。
【0005】
そこで本発明は、シート状に形成された試料を確実に予備凍結させることができる予備凍結装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の予備凍結装置は、低温液化ガスを収容した低温液化ガス容器内の気相中で、シート状に形成された凍結保存用生体試料を予備凍結させるための予備凍結装置であって、前記シート状に形成された凍結保存用生体試料を載置す
る試料載置部材と、該試料載置部材を前記低温液化ガス容器内の気相中に保持する保持部材と
、前記低温液化ガス容器内の前記低温液化ガス中に挿入される熱伝導部材とを備え
、前記試料載置部材は、2枚の板状部材と、該2枚の板状部材の間に挟持される通気性を有する部材とで形成され、前記2枚の板状部材に形成された開口部の内周に位置する前記通気性を有する部材の上面を試料載置部とし、前記熱伝導部材は前記板状部材の下面から下方に突出していることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の予備凍結装置は、
前記保持部材が、前記試料載置部材の外周部で、前記開口部を避けた位置から上方に突出した4本の棒状の連結部材と、該連結部材の上端部がそれぞれ固着された保持板と、該保持板の中央部から上方に突出した筒状吊持部材とで形成され、前記熱伝導部材は、前記連結部材の下端部と連結されていること、また、前記試料載置部材の温度あるいは前記試料載置部材の周辺温度を測定する温度センサを備えていること、加えて、前記低温液化ガス容器内に前記試料載置部材を昇降させる電動昇降手段を備えるとともに、前記試料載置部材を前記低温液化ガス容器内に下降させたときに、前記温度センサの測定温度があらかじめ設定された冷却温度範囲より高いときには前記試料載置部材を下降させる方向に前記電動昇降手段を作動させ、測定温度が前記冷却温度範囲より低いときには前記試料載置部材を上昇させる方向に前記電動昇降手段を作動させる制御部を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の予備凍結装置によれば、シート状に形成された凍結保存用生体試料を試料載置部材の試料載置部に載置した状態で、保持部材によって試料載置部材を低温液化ガスを収容した低温液化ガス容器内に挿入し、試料載置部材を気相中に保持するとともに、熱伝導部材を液相中に挿入することにより、生体試料を低温液化ガスに直接接触させることなく、かつ、低温液化ガスの冷熱を熱伝導部材から試料載置部材を介して凍結保存用生体試料に伝達することができるので、シート状に形成された凍結保存用生体試料を、シート状に保ったまま確実に予備凍結することができる。また、熱伝導部材の液相中への挿入量を適切に設定することにより、低温液化ガスが過剰に沸騰してシート状の凍結保存用生体試料に損傷を与えることもなく、低温液化ガスの損失を抑えられるとともに、周辺環境への悪影響も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明の予備凍結装置の一形態例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本形態例に示す予備凍結装置は、シート状に形成された2枚の凍結保存用生体試料(以下、シート状試料と記載するときがある。)を載置する試料載置部11を2箇所備えた試料載置部材12と、シート状試料を試料載置部11に載置した試料載置部材12を低温液化ガス容器13の内部の気相中に保持するための保持部材14と、試料載置部材12の下方に突出して低温液化ガス容器13の内部の低温液化ガス中に挿入される熱伝導部材15とを備えるとともに、試料載置部材12の温度を測定する温度センサ16を備えている。
【0011】
試料載置部材12は、熱伝導性が良好で耐食性にも優れたアルミニウム、銅、ステンレス鋼などの金属製薄板からなる2枚の円盤状部材17と、2枚の円盤状部材17の間に挟持される通気性を有する部材、例えば、網状部材18とで形成されている。2枚の円盤状部材17には、中心を挟んで対向する位置に、バッグやトレイに収容したシート状試料の外径より大きな内径を有する円形の開口部17aがそれぞれ形成され、該開口部17aの内周に位置する網状部材18の上面部分が前記試料載置部11となっている。
【0012】
保持部材14は、前記試料載置部材12の外周部で、前記開口部17aを避けた位置から上方に突出した4本の棒状の連結部材19と、該連結部材19の上端部がそれぞれ固着された保持板20と、該保持板20の中央部から上方に突出した筒状吊持部材21とで形成されている。前記保持板20は、前記試料載置部11の上方に位置する部分に、シート状試料の取り扱いを容易に行えるようにするための切欠部20aが設けられており、筒状吊持部材21の内部には、前記温度センサ16が挿通されている。この温度センサ16は、試料載置部材12の上面に当接する位置あるいは近接した位置で、試料載置部11に載置されたシート状試料の周囲の温度を測定できるように配置されている。この温度センサ16には、応答性が良好なシース熱電対を使用することが好ましい。
【0013】
熱伝導部材15は、前記円盤状部材17と同様に、熱伝導性が良好で耐食性にも優れたアルミニウム、銅、ステンレス鋼などの金属製棒状部材で形成されている。本形態例では、前記連結部材19の下端に設けた小径軸部に雄ネジ19aを形成するとともに、熱伝導部材15の上端に雌ネジ15aを形成し、円盤状部材17に形成した小通孔17bに挿通した小径軸部の雄ネジ19aと雌ネジ15aとを螺着することにより、熱伝導部材15を試料載置部材12の下面に固着するとともに、試料載置部材12の外周部分の4箇所を連結部材19と熱伝導部材15とによって挟み込むことにより、試料載置部材12を安定した状態で保持できるようにしている。この熱伝導部材15の長さは任意であるが、熱伝導部材15の先端部を低温液化ガス中に挿入したときに、沸騰した低温液化ガスから発生するガスの噴出によって試料載置部11に載置したシート状試料が物理的な悪影響を受けない長さに設定すべきである。
【0014】
網状部材18は、該網状部材18を通過する低温のガスと、前記熱伝導部材15から円盤状部材17を介して冷却された網状部材18の冷熱とによってシート状試料の冷却を促進するものであって、バッグやトレイに収容したシート状試料を低温雰囲気中で載置できる強度を有するとともに、熱伝導性が良好なアルミニウム、銅、ステンレス鋼などからなる金網を使用することが好ましい。また、シート状試料を収容したバッグやトレイが網状部材18に張り付くおそれがある場合は、フッ素樹脂やポリプロピレンなどの合成樹脂で網状部材18を形成することもできる。網状部材18の大きさは、開口部17aより大きく、円盤状部材17より小さければ、任意の大きさ及び形状とすることができる。また、網状部材18と円盤状部材17とを接着剤などで固着しておくこともできる。
【0015】
このように形成した予備凍結装置を使用して、シート状に形成された凍結保存用生体試料を予備凍結する際には、まず、常温でシート状試料を試料載置部11の網状部材18上に載置した後、保持部材14の筒状吊持部材21で試料載置部材12を吊持した状態で、低温液化ガスLを貯留した低温液化ガス容器13の内部に試料載置部材12をゆっくりと下降させ、熱伝導部材15の下端部を低温液化ガス中に挿入した状態とする。この予備凍結中の状態で、温度センサ16の測定温度を適宜確認し、測定温度があらかじめ設定された予備凍結用の冷却温度範囲内に収まるように試料載置部材12の上下方向位置を微調整する。これにより、低温液化ガス容器13内の気相中で、シート状試料を、所定の冷却速度、例えば毎分−1℃程度の速度で緩やかに冷却したり、比較的高い冷却速度で急速に冷却したりすることができる。
【0016】
予備凍結中は、シート状試料を気相中に保持しているので、低温液化ガスの沸騰などでシート状試料が物理的な損傷を受けることはなく、例えば、再生医療などに使用するために培養した細胞をシート状に形成した試料をシート状を保った状態で確実に予備凍結して凍結保存することが可能となる。また、低温液化ガス容器13内の低温液化ガス中に下端部を挿入する熱伝導部材15を備えているので、シート状試料を保持した試料載置部材12を効果的に冷却することができ、試料載置部材12における熱伝導部材15の位置や設置数を適切に設定することにより、試料載置部11に載置したシート状試料の全体を均一に冷却して所定の低温状態に保つことができる。これにより、シート状試料の一部が急速に冷却されて部分的な収縮が発生し、この部分的な収縮によってシート状試料が破損することもなくなる。
【0017】
前記冷却温度範囲での保持を、あらかじめ設定された時間行った後、試料載置部材12を上昇させて試料載置部11から予備凍結したシート状試料を取り出し、所定の凍結保存容器内に移すことにより、シート状試料の凍結保存を行うことができる。
【0018】
低温液化ガス容器13内への試料載置部材12の昇降は、適宜な電動昇降手段の昇降部に筒状吊持部材21を連結することによって行うことができる。手動で試料載置部材12を昇降させる場合、例えば、電動昇降手段の下降用スイッチをオンにして電動昇降手段のモータを下降方向に回転させ、試料載置部材12を下降させながら温度センサ16の測定温度を確認し、測定温度が前記冷却温度範囲内になった位置で下降用スイッチをオフとし、温度センサ16の測定温度の変動に応じて下降用又は上昇用スイッチを操作することにより、試料載置部材12の上下方向位置を微調整すればよい。
【0019】
一方、自動で試料載置部材12を昇降させる場合は、温度センサ16の温度信号を電動昇降手段に設けた制御部に取り込み、温度センサ16の測定温度が前記冷却温度範囲より高いと判断したときは、電動昇降手段のモータを下降方向に回転させ、測定温度が冷却温度範囲より低いと判断したときはモータを上昇方向に回転させるように設定すればよい。
【0020】
このような構造を有する予備凍結装置は、シート状試料の大きさや処理枚数に応じて試料載置部材12を適切に形成することにより、少数のシート状試料を扱う研究用の小型装置から、大量のシート状試料を扱う大型装置にまで適用することが可能である。
【0021】
なお、試料載置部材や試料載置部の形状は円形に限るものではなく、シート状試料の形状に合わせて角形に形成することも可能であり、一つの試料載置部材に設ける試料載置部の数も任意である。また、試料載置部には、パンチングプレート(多孔板)を使用することもでき、シート状試料の状態によっては、布を用いることも可能である。さらに、試料載置部を含む試料載置部材の全体をパンチングプレートで形成することもでき、熱伝導部材の形状も任意であり、保持部材の構造も任意である。
【0022】
また、低温液化ガス容器として透明ガラス製デュワー瓶を使用した場合は、温度センサを設けずに、低温液化ガス中への熱伝導部材の挿入量を外部から視認して試料載置部材を所定位置に保持し、この状態で予備凍結を行うことも可能である。さらに、温度センサを低温液化ガス容器内の適宜な位置に設け、温度センサの位置と試料載置部材の位置とを比較して試料載置部材の保持位置を調節することも可能である。
【符号の説明】
【0023】
11…試料載置部、12…試料載置部材、13…低温液化ガス容器、14…保持部材、15…熱伝導部材、15a…雌ネジ、16…温度センサ、17…円盤状部材、17a…開口部、17b…小通孔、18…網状部材、19…連結部材、19a…雄ネジ、20…保持板、20a…切欠部、21…筒状吊持部材