(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリビニルエーテルは、可とう性に優れるため、各種接着剤、インク組成物、コーティング組成物、潤滑油、電気部品材料、光学材料および医療用材料に用いられている。
【0003】
ポリビニルエーテルは、一般にビニルエーテルモノマーと触媒であるプロトン酸や金属ハロゲン化物などのルイス酸とを用いて、カチオン重合することにより得られる。ポリビニルエーテルは、たとえばビニルエーテルモノマーと無水マレイン酸とのラジカル共重合によりコポリマーとして得られることも知られているが、ビニルエーテルモノマーの構成単位の割合が多く含まれ、かつ分子量が高いコポリマーを得ることが困難であった。
【0004】
ポリビニルエーテルは、ビニルエーテルモノマーの側鎖の置換基を適切に選ぶことで様々な物性を得ることができる。たとえば、特許文献1には、ビニルエーテルモノマーと、特定の構造をもち抗菌性を示すモノマーとを含む抗菌用途のポリビニルエーテルが記載されている。
【0005】
ビニルエーテルモノマーは、側鎖の置換基の構造の違いによりカチオン重合時の重合反応性が著しく変化するため、重合に適した触媒を選択する必要がある。特に、ビニルエーテルモノマーの側鎖に脂環式のエーテル構造、具体的にはテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オキセパン等の骨格を側鎖に有するビニルエーテルモノマーは、側鎖の置換基の塩基性が高いため、重合反応性が低下し、得られるポリビニルエーテルの重量平均分子量が数千程度と小さくなるという問題がある。このような重量平均分子量が小さいポリビニルエーテルは、機械的強度の問題、具体的にはキャスティング法により成膜しても基材から剥離できるほどの強度が得られないため、実用性が劣る。
【0006】
特許文献2には、ビニルエーテルモノマーの側鎖にオキセタン骨格のように脂環式のエーテル構造を有するビニルエーテルモノマーが開示されている。このビニルエーテルモノマーは、カチオン重合反応を行うと、ビニル基の付加重合反応と脂環式のエーテル骨格の開環反応とがともに進行し、強固な架橋性硬化膜を形成することが知られている。このように、ビニルエーテルモノマーの側鎖の脂環式のエーテル構造が開環すると、柔軟性が低下するという問題がある。しかしながら、脂環式のエーテル構造を有するビニルエーテルモノマーのカチオン重合反応において、ビニルエーテルモノマーの側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、構造を保持したまま、重合反応を進行させることは極めて困難であった。
【0007】
側鎖に脂環式のエーテル構造を有するビニルモノマーを重合して得られるポリマーは、ポリ(メタ)アクリレート、具体的にはポリテトラヒドロフルフリルアクリレートが知られている。特許文献3には、このポリマーは、血液適合性が高く、医療用器具の表面コーティング剤に使用できることが開示されている。ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートは、ラジカル重合、またはアニオン重合により得ることができる。そのため、テトラヒドロフルフリルアクリレートモノマーの重合は、ビニルエーテルモノマーと比べて、反応時に開環反応が起きにくい。しかしながら、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレートのようなポリ(メタ)アクリレートは硬いため、柔軟性が求められる用途、たとえばコーティング膜として扱いにくいという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ビニルエーテルモノマーのカチオン重合において、ハロゲン化水素と触媒である金属のハロゲン化物とを用いて反応させることは広く知られている。本発明者らは、通常のカチオン重合の条件で、ハロゲン化水素と触媒とを用いて側鎖が脂環式のエーテル構造であるビニルエーテルモノマーのカチオン重合を行ったが、得られた反応生成物の重量平均分子量は高くならなかった。本発明者らは、その理由としてビニルエーテルモノマーが脂環式のエーテル構造を有する場合、カチオン重合時に重合反応性が低下するため、反応生成物は高い分子量にならないと考えた。そこで、高い分子量の反応生成物を得るため、重合時に用いるハロゲン化水素と触媒とのモル比について検討したところ、前記ハロゲン化水素と前記触媒とのモル比が、ハロゲン化水素:触媒=50:1〜5:1の範囲にすることで高い分子量のポリビニルエーテルを得ることを見出し、本発明を完成することができた。
【0010】
本発明は、側鎖が脂環式のエーテル構造のビニルエーテルモノマーの製造方法において、側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、かつ分子量が高いポリビニルエーテルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意研究した結果、以下のポリビニルエーテルの製造方法によれば、側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、かつ得られたポリマーの分子量が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の態様を包含する。
【0012】
(1)式1に示されるビニルエーテルモノマーを、ハロゲン化水素と、Fe、Ga、Ta、MoおよびWのハロゲン化物から選ばれる少なくともひとつである触媒と、の存在下で重合するポリビニルエーテルの製造方法において、
前記ハロゲン化水素と前記触媒とのモル比が、ハロゲン化水素:触媒=50:1〜5:1の範囲であることを特徴とするポリビニルエーテルの製造方法である。
【0013】
式1:
【化1】
(上記式1中、kは0〜3の整数である。R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基を示す。mは3〜5の整数である。)
【0014】
このようなポリビニルエーテルの製造方法であれば、側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、得られたポリマーを用いてコーティング膜を製造する際に十分成膜できる分子量を有するポリビニルエーテルを製造することができる。
【0015】
(2)前記式1中、R
1およびR
2がともに水素原子である(1)に記載のポリビニルエーテルの製造方法である。
【0016】
(3)前記式1中、mが3である(1)または(2)のいずれかに記載のポリビニルエーテルの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、側鎖に脂環式のエーテル構造を有するポリビニルエーテルの製造方法において、側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、かつ分子量が高いポリビニルエーテルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明のポリビニルエーテルの製造方法を詳細に説明する。なお、本発明においてポリビニルエーテルとは、後述する方法で測定した際、重量平均分子量が10000以上であるビニルエーテルの重合体である。また、本発明において、重量平均分子量を単に分子量と称することがある。
【0019】
本発明の製造方法に使用されるビニルエーテルモノマーは、式1に示されるように、側鎖に脂環式のエーテル構造を有する。
【0020】
式1
【化2】
(上記式1中、kは0〜3の整数である。R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基を示す。mは3〜5の整数である。)
【0021】
前記ビニルエーテルモノマーは、側鎖に0〜3個のエチレングリコール基を有する。前記ビニルエーテルが1〜3個のエチレングリコール基を有する場合、本発明の製造方法により得られるポリビニルエーテルが、柔軟性、親水性を有するため好ましく、また、側鎖にエチレングリコール基を有さない場合、成膜性がより優れるため好ましい。
【0022】
前記ビニルエーテルモノマーにおいて、前記式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3の直鎖状または分岐鎖状炭化水素基を示す。前記式1中、前記R
1およびR
2がともに水素原子の場合、柔軟性、親水性を有するため好ましい。
【0023】
前記ビニルエーテルモノマーは、側鎖が脂環式のエーテル構造を有する。前記ビニルエーテルモノマーにおいて、前記式1中、mが3であれば側鎖は5員環を、mが4であれば側鎖は6員環を、mが5であれば側鎖は7員環を、それぞれ構成する。また、前記ビニルエーテルモノマーにおいて、前記式1中、R
1およびR
2がともに水素原子の場合、mが3であればテトラヒドロフルフリル基を、mが4であればテトラヒドロピラニル基を、mが5であればオキセパニル基をそれぞれ有する。
【0024】
前記ビニルエーテルモノマーにおいて、前記式1中、mが3であれば親水性がより向上するため好ましい。
【0025】
本発明の製造方法は、ハロゲン化水素とFe、Ga、Ta、MoおよびWのハロゲン化物から選ばれる少なくともにひとつである触媒との存在下で重合を行うことを特徴とする。
【0026】
前記ハロゲン化水素は、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素を例示できる。特に前記ハロゲン化水素が塩化水素の場合、反応性が高いため好ましい。
【0027】
前記Fe、Ga、Ta、MoおよびWのハロゲン化物は、たとえばFeCl
3、FeBr
3、GaCl
3、TaCl
5、MoCl
5およびWCl
6から選ばれる群のひとつであれば、カチオン重合時の反応性が高いため好ましい。
【0028】
さらに、本発明の製造方法は、前記ハロゲン化水素と前記触媒とのモル比が、ハロゲン化水素:触媒=50:1〜5:1の範囲であることを特徴とする。本発明の製造方法は、前記ハロゲン化水素と前記触媒とのモル比を前記範囲にすることで、側鎖に脂環式のエーテル構造を有するビニルエーテルモノマーの重合においても側鎖の脂環式のエーテル構造が開環せず、かつ分子量が高いポリビニルエーテルを得ることができる。言い換えると、本発明は、重合反応性を維持しつつ、副反応を抑制することで、側鎖に脂環式のエーテル構造を有する高分子量のポリビニルエーテルを製造する方法である。前記ハロゲン化水素と前記触媒とのモル比で、前記触媒を1として前記ハロゲン化水素が50を超える場合、反応速度が遅く、反応生成物の分子量が小さくなるという問題があり、また、前記触媒を1として前記ハロゲン化水素が5未満の場合、反応系中で触媒が不溶となり、得られた反応生成物をたとえばコーティング膜として利用しにくくなるという問題がある。
【0029】
本発明者らは、本発明の製造方法において、重合反応中、前記ビニルエーテルモノマーの側鎖における脂環式のエーテル構造の酸素原子と、重合反応の生長末端との距離が近いため、重合反応性が低下しやすいと考えている。このことを、前記ビニルエーテルモノマーにおいて、前記式1中、kが0であり、R
1およびR
2がともに水素原子であり、mが3であるテトラヒドロフルフリルビニルエーテルを例にして説明する。
【0030】
式2は、ポリテトラヒドロフルフリルビニルエーテルをあらわす。ここで、式2中の小文字のアルファベットa〜gは、ポリテトラヒドロフルフリルビニルエーテルの炭素原子または水素原子の位置を示す。本発明者らは、ハロゲン化水素と触媒とを用いてのテトラヒドロフルフリルビニルエーテルのカチオン重合時、側鎖の脂環式エーテル構造において、式2で示すaの位置の炭素原子とdの位置の炭素原子との間に挟まれた酸素原子が、重合反応の生長末端となるbの位置の炭素原子に近接しているため、重合反応性が低下しやすく、したがって高分子量の反応生成物が得にくいと考えている。さらに本発明者らは、テトラヒドロフルフリルビニルエーテルのように、側鎖の脂環式構造で最も主鎖に近い炭素原子(式2におけるaの位置の炭素原子)と酸素原子とが隣接する構造を有するビニルエーテルモノマーのカチオン重合は、側鎖の脂環式構造の塩基性が高いため、重合反応性が特に低下しやすく、したがって高分子量の反応生成物が得にくいと考えている。
【0032】
本発明の製造方法により得られるポリビニルエーテルは、重量平均分子量が10000以上であるため、たとえば得られたポリマーを用いてコーティング膜を製造する際に十分成膜できる強度を有する。
【0033】
本発明のポリビニルエーテルの製造方法は、たとえば溶媒を用いるいわゆる溶液重合であっても良く、また、溶媒を用いない方法であっても良い。溶媒としては非プロトン性の溶媒が好ましく、例えばトルエン、THF、アルカン類(ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等)、DMF、エーテル類、エステル類、ハロゲン化アルキル類が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法により得られるポリビニルエーテルは、重合反応後、前記有機溶媒、前記ハロゲン化水素および前記触媒を除去するため、反応生成物をシクロペンチルメチルエーテルなどの有機溶剤に希釈後、脱イオン水を用いて水洗し精製することができる。
【0035】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(重量平均分子量測定)
重量平均分子量(以下Mwと略す)測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。具体的には、GPC分析システム装置として、HLC−8220 GPC(東ソー社製)、カラムは、TSKgel SuperMultiporeHZ−H(東ソー社製)を直列に2本接続し、検出器には示差屈折率計(RI)(東ソー社製 HLC−8220装置組込)、移動相にテトラヒドロフラン(流速0.35mL/分)を用いて、カラム温度40℃の条件にて測定を行った。
【0037】
(実施例1)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル7.00g(54.6mmol)を仕込み、その後、トルエン9.48gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A1)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)16mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B1)。このとき(重合触媒溶液B1)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=50:1であった。(反応液A1)と(重合触媒溶液B1)とを共に0℃で20分間冷却後、(重合触媒溶液B1)70μLを(反応液A1)に添加して重合反応を開始した。30分後、アンモニアのメタノール溶液(2M)0.140mLを添加し重合停止反応を行った。重合停止反応終了後、反応液をシクロペンチルメチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行い、反応生成物を4.93g得た。
【0038】
得られた反応生成物は、GPC測定により、Mw=37,200であることが確認できた。さらに、この反応物生成物の
1H-NMRと
13C-NMR(測定溶媒CDCl
3)測定を行った結果、以下のように帰属されるシグナルを得た。この結果から、原料ビニルエーテルモノマーに由来するビニル基のピークが消失したことと、テトラヒドロフルフリル骨格由来のピークが開環せずに保持されていることとがわかり、式2に示されるポリテトラヒドロフルフリルビニルエーテルが得られたことを確認できた。
【0040】
(式2の
1H-NMRスペクトルの帰属)
a=3.95〜4.05ppm
b、c、d=3.25〜3.88ppm
e、f、g=1.39〜2.05ppm
【0041】
(式2の
13C-NMRスペクトルの帰属)
a=78.0ppm
b=74.1、74.2ppm
c=71.2〜72.5ppm
d=68.1ppm
e=39.0〜41.8ppm
f=28.0、28.4、28.5ppm
g=25.7ppm
【0042】
(実施例2)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル7.00g(54.6mmol)を仕込み、その後、トルエン9.48gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A2)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)81mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B2)。このとき(重合触媒溶液B2)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=10:1であった。(反応液A2)と(重合触媒溶液B2)とを共に0℃で20分間冷却後、(重合触媒溶液B2)70μLを(反応液A2)に添加して重合を開始した。30分後、アンモニアのメタノール溶液(2M)0.140mLを添加し重合停止反応を行った。反応終了後、反応液をシクロペンチルメチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行ったところ反応生成物を5.11g得た。反応生成物は、GPC測定により、Mw=36,300であることを確認した。
【0043】
(実施例3)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル7.00g(54.6mmol)を仕込み、その後、トルエン9.48gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A3)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)162mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B3)。このとき(重合触媒溶液B3)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=5:1であった。(反応液A3)と(重合触媒溶液B3)とを共に0℃で20分間冷却後、(重合触媒溶液B3)70μLを(反応液A3)に添加して重合を開始した。30分後、アンモニアのメタノール溶液(2M)0.140mLを添加し重合停止反応を行った。反応終了後、反応液をシクロペンチルメチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行ったところ反応生成物を5.49g得た。反応生成物は、GPC測定により、Mw=34,100であることを確認した。
【0044】
(実施例4)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、2-(2-ビニロキシエトキシメチル)テトラヒドロフラン7.00g(40.6mmol)を仕込み、その後、トルエン5.33gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A4)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)16mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B4)。このとき(重合触媒溶液B4)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=50:1であった。(反応液A4)と(重合触媒溶液B4)とを共に0℃で20分間冷却後、(重合触媒溶液B4)70μLを(反応液A4)に添加して重合反応を開始した。30分後、アンモニアのメタノール溶液(2M)0.140mLを添加し重合停止反応を行った。重合停止反応終了後、反応液をシクロペンチルメチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行い、反応生成物を3.25g得た。
【0045】
得られた反応生成物は、GPC測定により、Mw=25,600であることが確認できた。さらに、この反応生成物の
1H-NMRと
13C-NMR(測定溶媒CDCl
3)測定を行った結果、以下のように帰属されるシグナルを得た。この結果から、原料ビニルエーテルモノマーに由来するビニル基のピークが消失したことと、テトラヒドロフルフリル骨格由来のピークは開環せずに保持されていることとがわかり、式3に示されるポリ(2-(2-ビニロキシエトキシメチル)テトラヒドロフラン)が得られたことを確認できた。
【0046】
式3:
【化5】
(式3中の小文字のアルファベットa〜iは、ポリ(2-(2-ビニロキシエトキシメチル)テトラヒドロフラン)の炭素原子または水素原子の位置を示す。)
【0047】
(式3の
1H-NMRスペクトルの帰属)
a=3.95〜4.05ppm
b、c、d、h、i=3.25〜3.88ppm
e、f、g=1.39〜2.05ppm
【0048】
(式3の
13C-NMRスペクトルの帰属)
a=78.0ppm
b=74.1、74.2ppm
c、h、i=71.2〜72.5ppm
d=68.1ppm
e=39.0〜41.8ppm
f=28.0、28.4、28.5ppm
g=25.7ppm
【0049】
(比較例1)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル7.00g(54.6mmol)を仕込み、その後、トルエン9.48gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A5)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)4mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B5)。このとき(重合触媒溶液B5)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=200:1であった。(反応液A5)と(重合触媒溶液B5)とを共に0℃で20分間冷却後、(重合触媒溶液B5)70μLを(反応液A5)に添加して重合を開始した。30分後、アンモニアのメタノール溶液(2M)0.140mLを添加し重合停止反応を行った。反応終了後、反応液をシクロペンチルメチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行ったところ反応生成物を1.85g得た。反応生成物は、GPC測定により、Mw=4,600であることが確認できた。
【0050】
(比較例2)
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル7.00g(54.6mmol)を仕込み、その後、トルエン9.48gを仕込み、0℃に冷却した(反応液A6)。また、別の重合管にFeCl
3(塩化鉄)406mg、塩化水素のシクロペンチルメチルエーテル溶液(4M)1.13g、シクロペンチルメチルエーテル3.23gを仕込み、0℃に冷却した(重合触媒溶液B6)。このとき(重合触媒溶液B6)中の塩化水素とFeCl
3とのモル比は、塩化水素:FeCl
3=2:1であった。しかしながら、(重合触媒溶液B6)のFeCl
3が完全に溶解せず、不溶物があった。
【0051】
実施例2〜3、および比較例1により得られた各反応生成物について、
1H‐NMRと
13C‐NMRの測定を行い、実施例1により得られた反応生成物と同様に、原料ビニルエーテルモノマーに由来するビニル基のピークが消失し、テトラヒドロフルフリル骨格由来のピークが開環せずに保持されていることが確認できた。
【0052】
実施例1〜4、および比較例1により得られた反応生成物について、以下の評価試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0053】
(防汚性試験)
上記それぞれの反応生成物30重量部をエタノール70重量部に150rpmの撹拌下で加え、40℃で2時間加熱攪拌を行った。いずれの反応生成物も均一に溶解した。この反応生成物のエタノール溶液を、ポリエチレン基板上に、乾燥後の膜厚が9.0μmになるように塗布し、室温で3分間乾燥させて、コーティング膜を作製した。
【0054】
次にこれらのコーティング膜の防汚性を評価した。
親水性汚れとしてJIS関東ローム粉塵を選択した。汚れをコーティング膜上にまんべんなく散布してから、エアーで20秒間吹き飛ばし、コーティング膜への汚れの付着量を評価した。評価方法は分光測色計(コニカミノルタ製 機器名CM−3600d)を用い、汚れ付着前のコーティング膜と汚れ付着後にエアーで粉塵を飛ばしたコーティング膜との色差ΔEを測定した。色差ΔEは、値が小さいほど、汚れが少なく防汚性が優れることを意味する。
さらに、疎水性汚れとしてカーボンブラックを選択し、親水性汚れの試験と同様に評価した。
【0055】
それぞれの実施例および比較例について、反応時の塩化水素と触媒とのモル比と、重量平均分子量と、防汚性試験の評価結果とを表1に示した。
評価基準は以下の通りとする。
【0056】
(評価基準)
A:ΔE 0〜0.3
B:ΔE 0.3〜1.0
C:ΔE 1.0〜3.0
D:ΔE 3.0〜6.0
E:ΔE 6.0以上
【0058】
表1に示したとおり、本発明により得られたポリビニルエーテルと有機溶剤とを含む組成物は、分子量が高く、かつ成膜性に優れることが確認できた。このポリビニルエーテルは、側鎖の脂環式のエーテル構造が開環していないため、柔軟性が優れることが確認できた。さらに各実施例のコーティング膜は、防汚性評価が十分できるほどの機械的強度を有しているとともに、防汚性に優れることが確認できた。
【0059】
比較例1により得られた反応生成物は、分子量が低かった。また、この反応生成物は、成膜しても機械的強度の問題があり、基材から剥離できるほどの強度が得られず、さらに、コーティング膜表面にタックがある為、防汚性が劣ることが確認できた。