特許第6148056号(P6148056)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6148056-水耕栽培用培養器および培養システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148056
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】水耕栽培用培養器および培養システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   A01G31/00 612
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-74698(P2013-74698)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198004(P2014-198004A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】505098579
【氏名又は名称】ジャパンドームハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】北川 勝幸
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−122363(JP,U)
【文献】 特開昭51−013648(JP,A)
【文献】 実開平01−101341(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の部材と、前記板状の部材を貫通して形成され、農作物を保持するための保持部と、前記板状の部材の一方の主表面から他方の主表面に光が透過するように形成され、前記農作物が保持された場合に、当該農作物が成長しても少なくとも前記保持部の下側から当該農作物に光が照射されるように、前記保持部に隣接して設けられた光透過領域と、を有する水耕栽培用培養器と、
培養液を収容する凹部を有する複数の培養槽が垂直方向に並べられた培養棚と、
垂直方向に隣接する1対の培養槽の間に設けられた照射部と、を備え、
前記1対の培養槽において、少なくとも上段の培養槽の底面は透明であって、培養される農作物が保持された前記水耕栽培用培養器および培養液が前記上段の培養槽に収容された場合に、当該水耕栽培用培養器に保持された農作物に対して、前記上段の培養槽および前記光透過領域を透過して前記照射部から光が照射されることを特徴とする培養システム。
【請求項2】
前記光透過領域は、前記板状の部材の両方の主表面において、表面積の30%以上を占めることを特徴とする請求項1に記載の培養システム
【請求項3】
前記照射部の近傍には、当該照射部から放出された光の進行方向を前記農作物の方向に変えるための反射板がさらに設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培用培養器および培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
限りある農地を用いて、植物などの農作物(農産物ともいう)の単位面積あたりの収穫量を向上させる技術が切望されてきた。このような技術の1つとして、多段式の栽培棚が知られている。たとえば引用文献1の技術では、空気環境の不均一性を解消可能な多段式の栽培棚が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−217392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術を含む従来の多段式の栽培棚では、各段の上側に設けられた照明のみから光を照射していた。そのため、栽培される農作物に対する光の照射が不十分であるという問題があった。これを解決するためには、複数の方向から光を照射すればよいが、多段式の栽培棚において複数の方向から光を照射することは困難であると考えられてきた。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、多段式の培養システムにおいて、光を効率的に照射可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水耕栽培用培養器は、板状の部材と、板状の部材を貫通して形成され、農作物を保持するための保持部と、板状の部材の一方の主表面から他方の主表面に光が透過するように形成され、農作物が保持された場合に、当該農作物が成長しても少なくとも保持部の下側から当該農作物に光が照射されるように、保持部に隣接して設けられた光透過領域と、を備える。
【0007】
この態様によると、水耕栽培用培養器を用いて多段式の培養を行うことにより、培養される農作物に対して複数の方向から効率的に光を照射することができる。その結果、農作物の生育性を高めて、生産性を向上させることができる。
【0008】
また、光透過領域は、板状の部材の両方の主表面において、表面積の30%以上を占めてもよい。この態様によると、光の照射効率をさらに高めることができる。
【0009】
また、本発明の別の態様は、培養システムである。この培養システムは、上述した水耕栽培用培養器と、培養液を収容する凹部を有する複数の培養槽が垂直方向に並べられた培養棚と、垂直方向に隣接する1対の培養槽の間に設けられた照射部と、を備える。1対の培養槽において、少なくとも上段の培養槽の底面は透明であって、培養される農作物が保持された水耕栽培用培養器および培養液が上段の培養槽に収容された場合に、当該水耕栽培用培養器に保持された農作物に対して、上段の培養槽および光透過領域を透過して照射部から光が照射されてもよい。本態様の水耕栽培用培養器を用いて多段式の培養を行うことにより、培養される農作物に対して複数の方向から効率的に光を照射することができる。その結果、農作物の生育性を高めて、生産性を向上させることができる。
【0010】
また、培養システムにおいて、照射部の近傍には、当該照射部から放出された光の進行方向を農作物の方向に変えるための反射板がさらに設けられていてもよい。この態様によると、散乱された光を、上段の培養槽に収容された水耕栽培用培養器に保持された農作物または下段の培養槽に収容された水耕栽培用培養器に保持された農作物の少なくとも一方に照射することによって、光の照射効率をさらに高めることができる。
【0011】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、培養される農作物に対して効率的に光を照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係る水耕栽培用培養器を用いた培養システムを示す正面図である。
図2】実施の形態に係る水耕栽培用培養器を用いた培養システムを示す側面図である。
図3】実施の形態に係る水耕栽培用培養器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において重複する説明は適宜省略する。
【0015】
(実施の形態)
まず、図1図2を用いて、実施の形態に係る水耕栽培用培養器20を用いた培養システム100を説明する。図1は、実施の形態に係る水耕栽培用培養器20を用いた培養システム100を示す正面図である。図2は、実施の形態に係る水耕栽培用培養器20を用いた培養システム100を示す側面図である。なお、図1では、照射部17、反射板18,19の図示は省略する。
【0016】
培養システム100は、後述する水耕栽培用培養器20と、培養棚10と、照射部16と、を主に備える。
【0017】
培養棚10は、複数の培養槽40が所定の間隔にて垂直方向に並べられて形成されている。培養槽40は、培養液44を収容する溝状の凹部42を有する。培養棚10の筐体12には、対向する内壁面のそれぞれに、複数の凸部14が設けられている。同じ高さに設けられた凸部14に培養槽40の両端を載せることによって、複数の培養槽40のそれぞれが筐体12に固定されている。また、垂直方向に隣接する1対の培養槽40の間には、柱状の照射部16が設けられている。上下方向に光を照射可能とするために、本実施の形態では照射部16に筺体が設けられていない。照射部16に筺体を設ける場合には、筺体を透明に形成する。照射部16の両端は、凸部14の下部においてそれぞれ固定されている。これによって、培養槽40と照射部16とが並行している。ここでは、培養棚10の上側3段のみを示すが、培養棚10は4段以上の任意の段数であってもよい。
【0018】
ここで、本実施の形態の水耕栽培用培養器20を、図3を参照して説明する。図3は、実施の形態に係る水耕栽培用培養器20の概略図である。
【0019】
水耕栽培用培養器20は、板状の部材30と、保持部26と、光透過領域28と、を備える。
【0020】
板状の部材30は、水耕栽培用培養器20の本体である。本実施の形態では、板状の部材30は、水に浮く材料でフロート板として形成されている。このような板状の部材30の材料として、発泡スチロールを好適に使用することができる。板状の部材30の厚さは、材料や保持される農作物22の重さに応じて決定すればよい。
【0021】
保持部26は、板状の部材30の一方の主表面から他方の主表面に貫通して形成され、農作物22を保持する。板状の部材30には、複数の保持部26が形成されていることが好ましい。保持部26による農作物22の保持は、図2を用いて後述する。
【0022】
光透過領域28は、板状の部材30の一方の主表面から他方の主表面に光が透過するように形成され、農作物22が保持された場合に、農作物22が成長しても少なくとも保持部26の下側から農作物22に光が照射されるように、保持部26に隣接して設けられている。光透過領域28は、板状の部材30の両方の主表面において、表面積の約30%以上を占めることが好ましく、約50%以上を占めることがさらに好ましい。光透過領域28が約30%未満の場合には、農作物22に照射される光の量が十分でない場合がある。一方、光透過領域28を約50%以上とすることによって、光の照射効率を大幅に高めることができる。水耕栽培用培養器20の強度が損なわれないのであれば、光透過領域28の表面積はたとえば約80%を占めてもよい。本実施の形態では、光透過領域28は貫通穴である。ただし、光透過領域28をガラスや樹脂で作られた貫通していない透明の窓として形成することもできる。
【0023】
以下、複数の光透過領域28を、それぞれの形や位置に応じて光透過領域28a、光透過領域28b、光透過領域28cと呼ぶ場合がある。光透過領域28aは、板状の部材30の長手方向において、隣接する保持部26間に設けられている。光透過領域28bは、板状の部材30の短手方向において、板状の部材30の角の近傍に存在する2つの保持部26間に設けられている。光透過領域28cは、板状の部材30の短手方向において、板状の部材30において角周辺以外の領域に存在する2つの保持部26間に設けられている。
【0024】
再び図1および図2を用いて、培養システム100の培養槽40と水耕栽培用培養器20との関係を説明する。培養槽40の凹部42には、培養液44と水耕栽培用培養器20とが収容される。水耕栽培用培養器20には、農作物22がカップ32に収容された状態で保持される。カップ32は、生育段階にかかわらず、農作物22が保持部26を貫通した状態にて、安定して農作物22を保持する。農作物22の葉は、主に水耕栽培用培養器20の一方の主表面から上側に突出して固定される。一方、農作物22の根は、水耕栽培用培養器20の他方の主表面から下側に突出して培養液44と接触する。培養液44がカップ32の内部に侵入して農作物22の根と接触できるようにするため、および光を根に照射可能とするために、カップ32には穴が開けられている。農作物22の根は、カップ32に開けられた穴を貫通してカップ32の外へと伸びることも可能である。農作物22を保持できさえすれば、この穴は大きい方が望ましい。なお、カップ32を水耕栽培用培養器20と一体的に形成してもよい。また、カップ32の内部はスポンジなどの補助部材が設けられていてもよい。
【0025】
農作物22は、水耕栽培用培養器20上で生育する、水耕栽培に適した農産物であることが好ましい。農産物としては、光合成をする野菜、花、果物、穀物などが想定される。
【0026】
次に、水耕栽培用培養器20に保持された農作物22への光の照射について説明する。ここでは、図1および図2に示した3段構造のうち、上段および中段の水耕栽培用培養器20、農作物22、培養槽40、照射部16に対して、それぞれ「a」および「b」を付して説明する。
【0027】
1対の培養槽40a,40bにおいて、少なくとも上段の培養槽40aの底面は透明である。この場合、培養される農作物22aが保持された水耕栽培用培養器20aおよび培養液44が上段の培養槽40aに収容された場合に、上段の培養槽40aの上側に設けられた照射部16aから照射された光は、主に最も近い農作物22aに照射される(図1の破線P)。加えて、培養槽40aと培養槽40bとの間に設けられた照射部16bから照射された光が、農作物22bだけではなく、光透過領域28bを透過して農作物22aにも照射される(図1の破線Q)。下側からの光は、主に葉の裏側に照射される。加えて、下側からの光は、農作物22の根にも照射される。さらに、下段の水耕栽培用培養器20bに保持された農作物22bに対して、上段に設けられた照射部16aから照射された光が、光透過領域28cを透過して照射される(図1の破線R)。なお、様々な位置に設けられた照射部16から光を照射可能とするために、培養槽40は底面に加えて側面も透明であることが好ましく、培養棚10に含まれるすべての培養槽40が透明であることが好ましい。培養槽40を透明に形成する場合には、ガラスやポリカーボネートなどの材料を用いることが好ましい。また、カップ32も透明に形成することによって、農作物22aの根に対する光の照射効率を高めることが好ましい。
【0028】
また、図2に示すように、照射部16bの水平方向の近傍には、反射板18が設けられている。反射板18は、破線S、Tで示すように、照射部16から放出された光の進行方向を農作物22の方向に変える。これによって、上段の培養槽40aに収容された水耕栽培用培養器20aに保持された農作物22a、または下段の培養槽40bに収容された水耕栽培用培養器20bに保持された農作物22bの少なくとも一方に光を照射する。
【0029】
さらに、培養槽40の両端近傍には、照射部17が設けられている。照射部17は、農作物22に光を側面から照射する。照射部17には、断面を曲面とする反射板19が設けられている。反射板19は、培養棚10の外に分散される光を反射させて農作物22に照射する。
【0030】
以上、本実施の形態の水耕栽培用培養器20を用いて多段式の培養を行うことにより、培養される農作物22に対して複数の方向から効率的に光を照射することができる。その結果、農作物22の生育性を高めて、生産性を向上させることができる。
【0031】
また、板状の部材30の表面積に占める光透過領域28の割合を所定値以上とすることによって、光の照射効率をさらに高めることができる。また、板状の部材30を水に浮く材料で形成することによって、板状の部材30の加工性および板状の部材30の搬出入の効率を向上させることができる。
【0032】
また、本実施の形態の水耕栽培用培養器20を用いて培養システム100を構成することによっても、培養される農作物22に対して複数の方向から効率的に光を照射することができる。特に、農作物22の葉の表だけではなく、裏や根にも光を照射させることができる。その結果、農作物22の生育性を高めて、生産性を向上させることができる。実際に本発明者は、培養システム100を用いて農作物22の葉の表だけではなく裏や根にも光を照射することによって、農作物22の生育性が著しく高まることを確認している。加えて、反射板18を用いて照射部16から照射された光を反射させることによって、光の照射効率をさらに高めることができる。
【0033】
なお、本実施の形態では、板状の部材30が水に浮く材料で形成されているものとしたが、板状の部材30は水に浮かない材料で形成されていてもよい。この場合には、たとえば透明なガラスや樹脂、メッシュなどを用いて、板状の部材30自体を光が透過できることが好ましい。これにより、農作物22に対する光の照射効率を高めることができる。
【0034】
また、発泡スチロールなどの水に浮く材料を用いて水に浮かぶカップ32を形成することによって、農作物22を水に浮かべてもよい。この場合にも、カップ32には光透過領域28を設けることが好ましい。この場合、たとえば開口部の外周に光透過領域28の設けられたフランジ部を設けることによって、カップ32を全体として帽子の形状に形成してもよい。
【0035】
また、本実施の形態では、水耕栽培用培養器20が各段の培養槽40に1つずつ収容されている場合を示したが、水耕栽培用培養器20は複数ずつ収容されていてもよい。この場合には、光透過領域28や保持部26の配置が異なる複数の水耕栽培用培養器20を準備すること、照射部16の配置を変えること、または反射板18の配置や形状を変えることの少なくともいずれかによって、農作物22に効率的に光が照射されるようにしてもよい。
【0036】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや工程の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0037】
20 水耕栽培用培養器、22 農作物、26 保持部、28 光透過領域、30 板状の部材、40 培養槽、42 凹部、44 培養液、100 培養システム
図1
図2
図3