(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関のシリンダブロック内のオイル通路に開口するオイル供給ポートと、一方の端部が前記オイル供給ポートに連通し他方の端部は閉塞されたシリンダと、前記シリンダの側面に開口するオイル噴射ポートとを有するボディーと、
前記シリンダに収容されて前記シリンダ内に閉区画を形成し、且つ、前記閉区画を前記オイル供給ポートの側に連通させるオリフィスを備えるピストン弁と、
前記オイル噴射ポートを塞ぐ位置に前記ピストン弁を付勢するバネと、
前記オイル噴射ポートに接続され、オイルの噴射の向きを調整する第1オイル噴射ノズルと、
を備えるオイルジェットであって、
前記シリンダの側面には、前記閉区画から前記シリンダの外へオイルを漏出させるリーク孔が開口しており、
前記リーク孔は、ハーゲン・ポアズイユの法則によって流量が決まるように構成されており、
前記オイルジェットは、
前記ピストン弁によって前記リーク孔が塞がれないように当該ピストン弁の移動範囲を制限するストッパと、
前記リーク孔に接続され、オイルの噴射の向きを調整する第2オイル噴射ノズルと、
をさらに備えることを特徴とするオイルジェット。
閉塞された前記シリンダの前記他方の端部は、前記リーク孔の前記シリンダへの開口位置よりも前記シリンダにおける重力方向下側に位置していることを特徴とする請求項1に記載のオイルジェット。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダブロックには、加圧されたオイルが流れるオイル通路が形成されている。オイルジェットはこのオイル通路から供給されるオイルをピストンやピストンとシリンダボアとの間に噴射し、それにより高温状態のピストンを冷却する装置である。従来一般的に用いられているオイルジェットは、油圧に応じて弁を開閉させる仕組みを有している。具体的には、弁体はバネによって油圧に抗する方向に付勢されており、弁体が油圧により受ける力がバネの力を上回ったときに、弁体が弁座から離れて弁が開くようになっている。油圧は内燃機関の回転数の上昇に応じて増大する一方、回転数が高まるほどピストンの温度も高くなることから、上記仕組みによればピストンが高温になる状況でオイルを噴射してピストンを冷却し、ピストンの温度が高くない状況ではオイルの噴射を停止することで過冷却を防止することができる。
【0003】
以下の特許文献1に記載されたオイルジェットも、油圧に応じて弁を開閉させる仕組みを備えている。このオイルジェットは、さらに、油温に応じてオイルの噴射量を変化させる仕組みも有している。その仕組みとは、弁の上流に配置された絞り部材である。絞り部材には複数の絞り孔が形成されている。これらの絞り孔を通過する際にはオイルは流動抵抗を受け、その大きさはオイルの粘度が高いほど大きくなる。このため、オイルの温度が低くオイルの粘度が高いときには絞り孔を通過するオイルの流量は少なくなり、オイルの温度が高くオイルの粘度が低いときには絞り孔を通過するオイルの流量は多くなる。このような仕組みにより、油圧の上昇によって弁が開いたとき、それが機関始動直後の冷間時であれば油温が低いことからオイルの噴射量は抑制され、暖機完了後であれば油温の上昇によってオイルの噴射量は増大されることになる。
【0004】
また、油圧に応じて弁を開閉させる仕組みに加えて油温に応じて弁を開閉させる仕組みを備えたオイルジェットも提案されている。以下の特許文献2に記載されたオイルジェットは、通常のバネで弁を開閉させる第1の機構と形状記憶合金でできたバネで弁を開閉させる第2の機構とを有している。通常のバネを有する第1の機構では、弁体が油圧から受ける力がバネの力を上回ったときに開弁する。一方、形状記憶合金でできたバネを有する第2の機構では、冷間時にはバネが縮まることで閉弁状態になり、温間時にはバネが復元して伸長することで開弁状態になる。このような仕組みによれば、油圧が高くかつオイルの温度が高温の場合にのみ両方の弁が開いてオイルの噴射が行われる。
【0005】
その他としては、例えば以下の特許文献3に記載されたオイルジェットのように、ソレノイドによって弁体を駆動することによりオイルの噴射と停止を電気的に制御できるものも提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載の各オイルジェットは、油圧だけでなく油温によっても作動状態が変化するように構成されている。油温は油圧とともにピストンの温度状態に密接に関連することから、油温にも応じてオイルジェットの作動状態が切り替わる構成によれば、単に油圧に応じて弁が開閉するだけの一般的なオイルジェットに比べて、オイルの噴射によるピストンの冷却をより適切に行うことができると考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載の各オイルジェットには、次に述べるような問題がある。
【0009】
特許文献1に記載のオイルジェットは、オイルの流路に絞り部材が配置されているため、オイルが絞り部材を通過する際に圧力損失が発生する。油温が高くなってオイルの粘度が低くなれば発生する圧力損失は小さくなるものの、絞り部材が配置されていないオイルジェットに比較すれば圧力損失は大きい。よって、その圧力損失の分だけ、高温時にピストンに噴射されるオイルの噴射量は少なくなってしまう。さらに、油圧が上昇しても油温が十分に高くなるまではオイルの噴射量は抑制されるため、冷間状態の内燃機関が高回転で運転されたような場合には、ピストンが高温になっているにもかかわらず十分な量のオイルが噴射されないおそれがある。
【0010】
特許文献2に記載のオイルジェットは、通常のバネで弁を開閉させる第1の機構と形状記憶合金でできたバネで弁を開閉させる第2の機構の両方において弁が開くまではオイルは噴射されない。このため、油温は低いが油圧は高い場合、例えば、冷間状態の内燃機関が高回転で運転されたような場合には、ピストン温度が上昇して熱的に厳しい状況になっているにもかかわらずオイルを噴射することができない。
【0011】
以上述べた問題は、弁が開くときの開弁圧を油温に応じて変化させることで解決することができる。つまり、油温が低いときには開弁圧を高くし、油温が高くなるにつれて開弁圧を低くできれば、特許文献1,2に記載の各オイルジェットで生じているような問題は発生しない。ただし、特許文献3に記載のオイルジェットのように弁の開閉を電気的に操作するのではなく、開弁圧が機械的に自動調整されることが好ましい。そのほうが信頼性とコストの面において有利だからである。また、開弁圧の機械的な自動調整を油温に応じて円滑にできるようにしたり、オイル噴射ノズルによるオイルの噴射を安定的に行えるようにしたりするためには、オイルジェットの内部に供給されるオイルを有効利用できるようになっていることが好ましい。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、供給されるオイルの有効利用を図りつつ、油温に応じて開弁圧が機械的に自動調整されるオイルジェットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るオイルジェットは少なくともボディー、ピストン弁、バネ、第1オイル噴射ノズル、
ストッパ、及び第2オイル噴射ノズルを備えている。ボディーは内燃機関のシリンダブロックに取り付けられるオイルジェットの本体部であって、オイル供給ポート、シリンダ、及びオイル噴射ポートを有している。オイル供給ポートはボディーがシリンダブロックに取り付けられたときにシリンダブロック内のオイル通路に開口するように形成されている。シリンダはその一方の端部がオイル供給ポートに連通し他方の端部は閉塞されている。オイル噴射ポートはシリンダの側面に開口している。ピストン弁はシリンダに収容されてシリンダ内に閉区画を形成する。ピストン弁には閉区画をオイル供給ポートの側に連通させるオリフィスが形成されている。バネはオイル噴射ポートを塞ぐ位置にピストン弁を付勢している。第1オイル噴射ノズルは、オイル噴射ポートに接続され、オイルの噴射の向きを調整する。さらに、本発明に係るオイルジェットにおいて、シリンダの側面には、閉区画からシリンダの外へオイルを漏出させるリーク孔が開口している。
前記リーク孔は、ハーゲン・ポアズイユの法則によって流量が決まるように構成されている。本発明に係るオイルジェットは、さらに、
前記ピストン弁によって前記リーク孔が塞がれないように当該ピストン弁の移動範囲を制限するストッパと、リーク孔に接続されオイルの噴射の向きを調整する第2オイル噴射ノズル
とを備えている。
【0014】
本発明に係るオイルジェットが有する上記の構成によれば、ピストン弁によってオイル噴射ポートが開閉される。ピストン弁には、シリンダブロック内のオイル通路を流れるオイルの圧力が作用すると同時に、それとは逆の方向に、閉区画内のオイルの圧力とバネによる付勢力とが作用する。そして、ピストン弁が閉区画内の油圧から受ける力とバネによる付勢力との合力よりもピストン弁がオイル通路内の油圧から受ける力のほうが大きくなったとき、ピストン弁はオイル通路から供給されるオイルに押されてオイル噴射ポートを塞ぐ位置から移動する。これにより、ピストン弁は開弁状態になってオイル噴射ポートとオイル供給ポートとが連通し、オイル噴射ポートへオイルが供給されて第1オイル噴射ノズルからのオイルの噴射が達成される。
【0015】
閉区画内の油圧は、オリフィスを通って閉区画に流入するオイルの流量と、リーク孔を通って閉区画から漏出するオイルの流量との関係によって変化する。本発明に係るオイルジェットにおいて、オリフィスとリーク孔とは流量を決定する因子において違いがある。流量と圧力との関係がベルヌーイの定理にしたがうオリフィスでは、オイル密度が流量を左右する。より詳しくは、オリフィスを通過してオイル噴射ポート側から閉区画内に流入するオイルの流量はオイル密度の1/2乗に反比例する。一方、ハーゲン・ポアズイユの法則によって流量が決まるリーク孔では、オイル粘度が流量を左右する。より詳しくは、リーク孔を通過してシリンダの閉区画からボディーの外部へ漏出するオイルの流量はオイル粘度に反比例する。ここで重要なことは、オイル密度とオイル粘度とでは油温に対する感度が大きく異なることである。油温の変化に対するオイル密度の変化はほとんどなく、内燃機関におけるオイルの通常温度域においては、オイル密度はほぼ一定とみなすことができる。これに対して、油温の変化に対するオイル粘度の変化は極めて大きい。オイルの油種にもよるが、冷間時のオイル粘度は暖機後のオイル粘度よりも10倍以上高い。このため、同一の閉区画内の圧力で比較した場合、オリフィスから閉区画内に流入するオイルの流量は油温によって大きく変化しないものの、リーク孔から漏出するオイルの流量は油温が高くなるほど増大する。リーク孔から漏出するオイルの流量が大きいほど閉区画内の油圧の低下も大きい。
【0016】
バネの付勢力は一定であることから、ピストン弁を移動させるのに必要なオイル通路内の油圧、すなわち開弁圧は閉区画内の油圧によって決まる。暖機の完了後のように油温が高い場合には、オイル粘度が低いために閉区画内からオイルが漏れやすくなり、結果、閉区画内の圧力が低くなることから開弁圧は低くなる。一方、冷間時のように油温が低い場合には、オイル粘度が高いために閉区画内からオイルが漏れにくく、結果、閉区画内の圧力が高くなることから開弁圧も高くなる。つまり、本発明に係るオイルジェットが有する上記の構成によれば、油温が高いほど開弁圧は低く油温が低いほど開弁圧は高くなるように開弁圧は機械的に自動調整される。
【0017】
また、上述したように、ピストン弁の開閉に関係なく、閉区画からリーク孔を通って漏出するオイルの流れが存在する。このため、本発明に係るオイルジェットによれば、ピストン弁の開閉状態に依らずに、リーク孔を通って漏出するオイルを利用して第2オイル噴射ノズルからのオイル噴射が達成される。
【0018】
なお、閉塞されたシリンダの他方の端部は、シリンダにおける重力方向下側に位置していてもよい。また、第1オイル噴射ノズルの先端は、内燃機関の筒内を往復移動するピストンの裏面に向けられていてもよく、第2オイル噴射ノズルの先端は、内燃機関のシリンダボアに向けられていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
上述の通り、本発明に係るオイルジェットによれば、供給されるオイルの有効利用を図りつつ、開弁圧を油温に応じて機械的に自動調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図を参照して説明する。
【0022】
本発明の実施の形態1に係るオイルジェットの構成は
図1を用いて説明することができる。
図1の縦断面図に示すように、本実施の形態に係るオイルジェット100は内燃機関のシリンダブロック40に取り付けられるボディー2を備えている。ボディー2のシリンダブロック40への取り付けは、例えば、プレート(図示省略)を介して行うことができる。シリンダブロック40には、オイルポンプ(図示省略)によって加圧されたオイルが流れるオイル通路42が形成されている。オイルポンプは内燃機関のクランクシャフトから受ける動力によって駆動されるため、内燃機関の回転数が低いときにはオイル通路42内の油圧は低く、回転数が高くなるにつれてオイル通路42内の油圧も高くなっていく。ボディー2には、このオイル通路42に開口するオイル供給ポート6が形成されている。
【0023】
ボディー2には、オイル供給ポート6を入口とするシリンダ4が形成されている。シリンダ4はボディー2を貫通して形成されるが、その出口はプラグ8によって蓋をされている。すなわち、プラグ8がシリンダ4の底部を構成する。これにより、シリンダ4の中には、一方の端部は開放され他方の端部は閉塞された空間(後述する閉区画24)が形成されている。シリンダ4の側面であってその入口の近くには、シリンダ4よりも小径のオイル噴射ポート10が開口している。ボディー2には、第1オイル噴射ノズル12がロウ付けなどによって取り付けられており、第1オイル噴射ノズル12に形成された第1オイル噴射通路14がオイル噴射ポート10に連通されている。第1オイル噴射通路14の先端部は、第1オイル噴射通路14内を流れるオイルの流速を高めるために、通路出口に向かうにつれ直径が小さくなるように絞られている。第1オイル噴射ノズル12の先端は、内燃機関のピストンの裏面に向けられている。なお、
図1には、第1オイル噴射ノズル12は一本のみ示されているが、オイル噴射ポート10をシリンダ4の周方向に複数形成することによって複数本の第1オイル噴射ノズル12をボディー2に取り付けることもできる。
【0024】
シリンダ4には、ピストン弁16がシリンダ4の壁面に沿って往復移動自在となるように収容されている。また、シリンダ4には、バネ18が収容されている。バネ18は、コイル状の圧縮バネであってピストン弁16とシリンダ4の底面(プラグ8の基準面8a)との間に配置されている。また、プラグ8には、ストッパ20が一体的に形成されている。ストッパ20は円柱形状を有し、バネ18の内側においてシリンダ4の底部から(プラグ8の基準面8aに対して)シリンダ4内に突き出ている。
【0025】
ピストン弁16の移動範囲は、このストッパ20によって下方側への移動が制限され、オイル供給ポート6とシリンダ4との間の段付き部22によって上方向への移動が制限されることによって特定される。バネ18の長さは、ピストン弁16に油圧が作用していない状態において、ピストン弁16が段付き部22に突き当たり、かつオイル噴射ポート10を塞ぐ位置にくるように調整されている。ストッパ20の高さは、ピストン弁16が下方に移動することによって後述のリーク孔28を塞がないように設定されている。
【0026】
シリンダ4内には、ピストン弁16とシリンダ4の側面及び底部とによって囲まれた閉区画24が形成されている。ピストン弁16には、この閉区画24をオイル供給ポート6の側に連通させるオリフィス26が形成されている。このため、オイルジェット100をシリンダブロック40に取り付けたときには、閉区画24内にはオリフィス26を介してオイルが満たされる。ただし、閉区画24の油圧には、次に述べる構成によりオイル通路42の油圧に対する差圧が発生させられる。以下、この閉区画24を差圧室と称する。
【0027】
差圧室24の底部はプラグ8によって形成されている。シリンダ4の側面には、差圧室24内のオイルをシリンダ4の外へ漏出させるためのリーク孔28が開口している。リーク孔28の流路断面積は、差圧室24の断面積に比較すれば格段に小さく形成されている。また、リーク孔28の流路断面積は、オリフィス26の流路断面積よりも小さく形成されている。このようなリーク孔28がボディー2に形成されることで、差圧室24からボディー2の外へオイルが漏れ出し、それにより差圧室24内の油圧が低下する。つまり、オイル通路42の油圧と差圧室24の油圧との間に差圧が発生する。
【0028】
さらに、ボディー2には、第2オイル噴射ノズル30がロウ付けなどによって取り付けられており、第
2オイル噴射ノズル30に形成された第
2オイル噴射通路32がリーク孔28(第2のオイル噴射ポートとしても機能)に連通されている。第2オイル噴射通路32の先端部は、第2オイル噴射通路32内を流れるオイルの流速を高めるために、通路出口に向かうにつれ直径が小さくなるように絞られている。第2オイル噴射ノズル30の先端は、内燃機関のシリンダボアに向けられている。なお、
図1には、第2オイル噴射ノズル30は一本のみ示されているが、リーク孔28をシリンダ4の周方向に複数形成することによって複数本の第2オイル噴射ノズル30をボディー2に取り付けることもできる。
【0029】
さらに付け加えると、閉塞されたシリンダ4の底部(プラグ8)は、リーク孔28のシリンダ4への開口位置よりもシリンダ4における重力方向下側に位置している。より具体的には、リーク孔28は、差圧室24の上下方向(重力方向)の最低位置(プラグ8の基準面8a)よりも上側において差圧室24と連通している。より詳しくは、リーク孔28は、プラグ8の基準面8aよりは上側であってストッパ20の先端よりは下側となる部位においてシリンダ4の側面に形成されている。なお、シリンダ4の底部(ストッパ20)が重力方向下側に位置するようになっていれば、シリンダ4の中心軸線方向と重力方向とは、完全に一致していることまでは必要ではない。
【0030】
次に、本実施の形態に係るオイルジェット100の動作について
図2及び
図3を用いて説明する。なお、
図2及び
図3には、オイルジェット100内のオイルの流れを矢印線で示している。
【0031】
本実施の形態に係るオイルジェット100の構成によれば、ピストン弁16にはオイル通路42を流れるオイルの油圧がオイル供給ポート6側から作用する。そして、それと同時に、差圧室24内の油圧とバネ18による付勢力とが逆方向からピストン弁16に作用する。前者はピストン弁16に対して開弁方向の力として作用し、後者は閉弁方向の力として作用する。よって、差圧室24内の油圧による力とバネ18の付勢力との合力がオイル通路42内の油圧による力以上になっていれば、
図2の模式図に示すように、ピストン弁16はオイル噴射ポート10を塞ぐ位置に保持される。つまり、ピストン弁16は閉弁状態に維持される。ただし、オイルジェット100の内部では、差圧室24からリーク孔28を通って漏出するオイルの流れが存在する。このようにリーク孔28へオイルが供給されることで、第2オイル噴射ノズル30からのオイル噴射が達成される。
【0032】
一方、オイル通路42内の油圧による力が差圧室24内の油圧による力とバネ18の付勢力との合力よりも大きくなった場合には、
図3の模式図に示すように、ピストン弁16はオイル通路42から供給されるオイルに押されてオイル噴射ポート10を塞ぐ位置から移動する。これによりピストン弁16は開弁状態となってオイル噴射ポート10とオイル供給ポート6とが連通し、オイル噴射ポート10へオイルが供給されて第1オイル噴射ノズル12からのオイル噴射が達成される。この場合においても、オイルジェット100の内部では、ピストン弁16の閉弁時よりは弱い流れではあるが、差圧室24からリーク孔28を通って漏出するオイルの流れが存在する。このため、ピストン弁16の開弁後においても、リーク孔28へオイルが供給されて第2オイル噴射ノズル30からのオイル噴射が達成される。
【0033】
ピストン弁16の位置が一定の場合にはバネ18の付勢力は一定であることから、ピストン弁16を開弁させるのに必要なオイル通路42内の油圧は差圧室24内の油圧によって決まる。差圧室24内の油圧は差圧室24に入るオイルの流量と差圧室24から出るオイルの流量との関係によって変化する。差圧室24にはオリフィス26を通ってオイルが流入するため、その流量Q1は次の式1で表されるようにベルヌーイの定理にしたがう。つまり、オリフィス26を通過するオイルの流量Q1はオイル通路42内の油圧P
M/Gと差圧室24内の油圧P
INとの差圧の1/2乗に比例し、オイル密度ρの1/2乗に反比例する。なお、式1においてCは流量係数、Aはオリフィス26の流路断面積である。さらに付け加えると、オリフィス26は、上記のベルヌーイの定理にしたがう流路として機能するように、その寸法(流路の径や幅など)が設定されている。
【数1】
【0034】
一方、差圧室24からはリーク孔28を通ってオイルが漏出するため、その流量Q2は次の式2で表されるようにハーゲン・ポアズイユの法則にしたがう。つまり、リーク孔28を通過するオイルの流量Q2は差圧室24内の油圧P
INと大気圧P
OUTとの差圧に比例し、オイル粘度ηに反比例する。なお、式2においてBは係数である。さらに付け加えると、リーク孔28およびこれに連通する第2オイル噴射通路32は、上記のハーゲン・ポアズイユの法則にしたがう流路として機能するように、それらの寸法(流路の径や長さなど)が設定されている。
【数2】
【0035】
上記の2つの式から分かるように、オリフィス26を通過するオイルの流量にはオイル密度が影響するが、リーク孔28を通過するオイルの流量にはオイル粘度が影響する。オイル密度とオイル粘度はともに油温の影響は受けるものの、その感度は大きく異なる。具体的には、油温の変化に対するオイル密度の変化はほとんどなく、冷間時から暖機の完了までの温度域においてオイル密度はほぼ一定である。一方、油温の変化に対するオイル粘度の変化は極めて大きく、冷間時のオイル粘度は暖機後のオイル粘度よりも20倍ほど高い。
【0036】
このような油温に対するオイル密度とオイル粘度の各特性により、オリフィス26から差圧室24内に流入するオイルの流量は油温によって大きく変化しないものの、リーク孔28から漏出するオイルの流量は油温が高くなるほど増大する。リーク孔28から漏出するオイルの流量が大きいほど差圧室24内の油圧は低下し、ピストン弁16を開弁させるのに必要なオイル通路42内の油圧、すなわち開弁圧は低下する。よって、暖機完了後のように油温が高い場合には、リーク孔28からオイルが漏れやすいために開弁圧は低く、冷間時のように油温が低い場合には、リーク孔28からオイルが漏れにくいために開弁圧は高くなる。
【0037】
図4では、本実施の形態に係るオイルジェット100の開弁圧−油温特性が縦軸に油圧をとり横軸に油温をとったグラフで表されている。このグラフに示すように、本実施の形態に係るオイルジェット100によれば、開弁圧は油温が高いほど低く油温が低いほど高くなるように機械的に自動調整される。なお、
図4のグラフでは、オイルジェット100の作動領域が油温と油圧とによって4つの領域に分けられている。以下、各作動領域におけるオイルジェット100の動作とそれによる効果について
図5の表を参照して説明する。
【0038】
作動領域(1)は低油温低油圧領域である。油圧は内燃機関の回転数に応じて変化することから、作動領域(1)は低油温低回転領域とも言える。低油温時はオイル粘度が高いため、オリフィス26を通過して差圧室24に流入したオイルはリーク孔28から漏れにくい。したがって、差圧室24の油圧が高くなってピストン弁16の開弁圧は高くなる。すると、オイル通路42内の油圧が低い低回転域ではピストン弁16が開弁せず、第1オイル噴射ノズル12によるオイル噴射は行われない。内燃機関が作動領域(1)にある場合、内燃機関のピストンの温度は低いためにオイルによる冷却は必要としない。むしろ、第1オイル噴射ノズル12からのオイル噴射の停止によってピストンの過冷却を防止することができる。
【0039】
作動領域(2)は低油温高油圧領域、すなわち、低油温高回転領域である。冷間状態の内燃機関が高回転で運転される状況がこの領域に該当し、ピストンの温度は冷却が必要な程度まで上昇する。本実施の形態に係るオイルジェット100によれば、この作動領域(2)では、オイル通路42内の油圧が開弁圧を上回ったときにピストン弁16が開弁し、第1オイル噴射ノズル12によるオイル噴射が行われる。これにより、高温になったピストンを効果的に冷却することができる。
【0040】
作動領域(3)は高油温低油圧領域、すなわち、高油温低回転領域である。高油温時はオイル粘度が低いため、オリフィス26を通過して差圧室24に流入したオイルはリーク孔28から漏れやすい。したがって、差圧室24の油圧が低くなってピストン弁16の開弁圧は低くなる。しかし、低回転域ではオイル通路42内の油圧も低いためにピストン弁16は開弁せず、第1オイル噴射ノズル12によるオイル噴射は行われない。内燃機関が作動領域(3)にある場合、油温は高いものの、回転数が低いためにピストンの温度はあまり上昇しない。よって、オイルによるピストンの冷却は必要とせず、むしろ、第1オイル噴射ノズル12からのオイル噴射の停止によってピストンの過冷却を防止することができる。
【0041】
作動領域(4)は高油温高油圧領域、すなわち、高油温高回転領域である。この作動領域(4)では、オイル通路42内の油圧は高くなる一方、オイル粘度の低下によりリーク孔28からオイルが漏れやすくなってピストン弁16の開弁圧は低くなる。このため、ピストン弁16は容易に開弁して第1オイル噴射ノズル12によるオイル噴射が行われ、高温になったピストンは効果的に冷却される。
【0042】
以上のように、本実施の形態に係るオイルジェット100によれば、内燃機関のピストンの冷却が必要な作動領域では第1オイル噴射ノズル12からのオイル噴射を確実に実行し、ピストンの冷却が不要な作動領域では当該オイル噴射を確実に停止することができる。さらに、本実施の形態に係るオイルジェット100によれば、万が一故障が生じたときでも、具体的にはピストン弁16を動作させるバネ18が壊れた場合であっても、必要なオイル噴射は確実に行うことができる。すなわち、バネ18は開弁を防ぐ方向にピストン弁16を付勢しているので、バネ18が壊れた場合にはその付勢力がなくなり、ピストン弁16はより低い油圧によって開弁するようになる。これによればピストンに対するオイルの噴射は確実に行われるので、オイルジェット100の故障によってピストンの焼つきなどの不具合が発生することは防止される。
【0043】
また、本実施の形態に係るオイルジェット100によれば、作動領域(1)〜(4)の何れにおいても、ピストン弁16の開閉およびオイルの粘度の高低の影響による噴射の勢いの差はあるものの、第2オイル噴射ノズル30からシリンダボアに向けてオイル噴射が行われる。これにより、開弁圧を油温に応じて機械的に自動調整できるようにするために備えたリーク孔28から外部に漏出するオイルを、単に漏らすのではなく、シリンダボアの潤滑のために有効利用できるようになる。このように、本実施形態のオイルジェット100は、内燃機関のピストンの冷却が必要な作動領域においてピストンの裏面にオイルを噴射する第1オイル噴射ノズル12と、シリンダボアに対して常時オイルを噴射する第2オイル噴射ノズル30とを備えているといえる。
【0044】
また、既述したように、本オイルジェット100では、リーク孔28およびこれに接続される第2オイル噴射ノズル30は、シリンダ4の側面に設置されている。これにより、差圧室24内に異物が流入した場合であっても、異物は自重によってシリンダ4の底部に向かうため、リーク孔28が異物によって詰まりにくくすることができる。これにより、シリンダボア用の第2オイル噴射ノズル30からのオイル噴射を安定して行えるようになる。また、リーク孔28が異物によって詰まることによって、開弁圧の機械的な自動調整に不具合が生ずることも防止される。このように、本実施形態の構成によれば、オイルジェット100の内部にフィルタなどの異物除去部材を設置する必要なしに簡易な構造で耐異物性を向上できるようになる。
【0045】
ところで、上述した実施の形態1においては、第2オイル噴射ノズル30をシリンダボアに向けてオイルを噴射するものとして備えることとしている。しかしながら、シリンダボア以外にもオイルが不足しがちとなる等の理由によってオイルの供給を常時受けたい他の部位があれば、本発明における第2噴射ノズルの先端は、そのような他の部位に対して向けられたものであってもよい。