【実施例1】
【0014】
図1に、本発明の第1の実施例としてガスタービン発電システムを示す。ガスタービンは主に圧縮機1、燃焼器2、タービン3等で構成されており、本実施例ではガスタービンの出力により駆動される負荷機器として発電機4が接続されてガスタービン発電システムが構成されている。
【0015】
本実施例のガスタービン発電システムでは、まず、圧縮機1が大気より吸込んだ空気101を圧縮し、燃焼空気102として燃焼器2へと供給する。次に燃焼器2は、圧縮機1からの燃焼空気102と天然ガス201(着火から定格負荷運転時に供給)または高炉ガス202(部分負荷から定格負荷運転時に供給)とを混合して燃焼させ、燃焼ガス50を発生させてタービン3に供給する。タービン3は燃焼ガス50の供給により回転動力が与えられ、タービン3の回転動力が圧縮機1及び発電機4に伝達される。圧縮機1に伝えられた回転動力は圧縮動力に用いられ、発電機4伝えられた回転動力は電気エネルギーに変換される。
【0016】
天然ガス燃料系統301は遮断弁31、流量調節弁32を備え、着火から定格負荷条件において天然ガス201を燃焼器2に供給する。高炉ガス燃料系統302は、遮断弁33、流量調節弁34を備え、流量調節弁の下流において高炉ガス燃料系統302aおよび302bに分岐する。高炉ガス燃料系統302aと302bは、それぞれ遮断弁33a、33bと流量調節弁34a、34bを供え、部分負荷条件から定格負荷条件において高炉ガス202を燃焼器2に供給する。噴霧水系統303は、遮断弁35、流量調節弁36を備え、ガスタービンの部分負荷条件から定格負荷条件において噴霧水203を燃焼器2に供給する。
【0017】
燃焼器2は、圧力容器である外筒10と、内部に燃焼室12を形成する円筒状のライナ13と、外筒10とライナ13の間にあって燃焼室12を冷却するためのフロースリーブ11を備える。燃焼室12の上流には、燃焼室12に燃料と空気を噴出し火炎を形成するためのバーナ401が配置されている。
【0018】
図2にバーナ401の拡大断面図および正面図を示す。バーナ401は、内周スワラ403、外周スワラ404、パイロットバーナ405を備えた2重旋回構造としている。燃焼器2に供給された燃焼空気102はフロースリーブ11の外側に導かれ、フロースリーブ11に設けた空気孔14を通じてフロースリーブ11とライナ13との空間内に流入し、ライナ13を冷却しながらライナ13の側壁に設けた空気孔15およびバーナ401に設けた空気噴孔402から燃焼室12内に供給される。
【0019】
パイロットバーナ405はパイロットガス噴孔406を備え、着火から定格負荷運転時において天然ガス201を供給する。内周スワラ403には内周スワラガス噴孔407と空気噴孔402が周方向に交互に配置され、その外側に設けられた外周スワラ404には、外周スワラガス噴孔408が配置され、部分負荷から定格負荷運転時において高炉ガス202を供給する。内周スワラガス噴孔407および外周スワラガス噴孔408は旋回角を設けることで循環ガス領域をバーナの半径方向中心部近傍に形成し、燃焼安定性を強化するように構成している。
【0020】
このようなパイロットバーナ405では、まず内周スワラ403において、内周スワラガス噴孔407と空気噴孔402を交互に配置することで、燃料と空気を別々の流路から供給する拡散燃焼により安定な燃焼を実現することができる。一方、外周スワラ404においては、外周スワラガス噴孔408から供給される高炉ガス202は空気噴孔402やライナ13から供給される燃焼空気102と混合し、内周スワラ403の下流に形成される内周火炎501を基点として、外周スワラ404下流に外周火炎502が形成される。外周火炎502の形成によって、内周火炎501周囲の温度が高くなるため、保炎を強化できる。
【0021】
また、外周スワラ404には噴霧水203を供給するための水噴射流路409が形成されている。水噴射流路409から流入した噴霧水203は、パイロットバーナ405の内周側に向かって設けられた水噴射噴孔410から外周スワラ燃料流路411に噴射され、外周スワラガス噴孔408を通じて燃焼室12に供給する。水噴射流路409は外周スワラ燃料流路411の外周に配置し、水噴射噴孔410を高炉ガス202の流れ方向に向かって概略30度から60度の角度で傾斜するように形成している。このように構成することで、噴霧水203が外周スワラガス噴孔408を介して燃焼室12の軸中心部に供給される。
【0022】
以上で述べてきた燃焼器2の運転方法について、
図1および
図3を用いて説明する。ガスタービンの起動時には起動用モータなどの外部動力によってガスタービンを駆動し、燃焼器2の着火に必要な燃焼空気102および天然ガス201を供給し、点火栓により着火して燃焼器2内にパイロット火炎503を形成する。燃焼器2の着火後、燃焼ガス50がタービン3に供給され、天然ガス201の流量増加とともにタービン3が昇速し、起動用モータの離脱によりガスタービンが自立運転に入り、無負荷定格回転数に到達する。ガスタービンが無負荷定格回転数に到達後は、発電機4の併入、さらには天然ガス201の流量増加によりタービン3の入口ガス温度が上昇し、負荷が上昇する。負荷が上昇し、燃焼器出口の燃焼ガス温度が上昇し燃焼安定性が高くなることで、高炉ガス202への燃料切替が可能となる。
【0023】
図3に燃料切替前の天然ガス専焼時におけるバーナ401の拡大断面図を示す。天然ガス201専焼時には、バーナ401下流にはパイロット火炎503が形成される。天然ガス201の発熱量は高炉ガス202よりも高いため、パイロット火炎503には局所的な高温領域が形成される。このため、燃焼ガス温度の高い燃料切替前においては、水噴射流路409、水噴射噴孔410を通じて噴霧水203を供給する。天然ガス201専焼時においては、外周スワラ燃料流路411には高炉ガス202が供給されていないため、バーナ内周側への傾斜角を持つ水噴射噴孔410から噴出した噴霧水203は外周スワラガス噴孔408を通じて燃焼室12の軸中心部に供給され、高温のパイロット火炎503の温度を低減する。
【0024】
図4に
図3のA-A断面における燃焼室12の半径方向温度分布を示す。天然ガス専焼時にはパイロットガス噴孔406のみから燃料が供給されており、燃焼室12は軸中心部の温度が高く、半径方向外側では温度が低い分布となる。一般的に、空気中の窒素が高温で酸化されて発生する窒素酸化物は、燃焼温度が1800K以上の領域で発生する。このため、噴霧水203を燃焼室12の軸中心部に供給することで、燃焼温度が1800K以上の高温領域の温度を低減することができる。これにより、より少ない噴霧水203の供給量で効率的に窒素酸化物を低減することができる。
【0025】
図5に高炉ガス燃焼時のバーナ401の拡大断面図を示す。天然ガス専焼で負荷が上昇し、高炉ガスへの燃料切替が可能となったら、天然ガス201の流量を低減しながら高炉ガス202の流量を増加し、燃料切替を実施して内周火炎501および外周火炎502を形成する。高炉ガス202は発熱量が低いため、燃焼室12に局所的な高温領域が形成されず、窒素酸化物の排出量は低くなる。しかし、供給する高炉ガス202の発熱量によっては、高炉ガス202の燃焼安定性を増加するためにコークス炉ガスや天然ガスを混合し、高炉ガス202を増熱してから供給する場合がある。このような場合、天然ガス専焼と同様に、燃焼室12に高温領域が形成され、窒素酸化物の排出量が増加する恐れがあるため、燃焼室12に噴霧水203を供給する。
【0026】
噴霧水203は、天然ガス専焼時と同様に、水噴射流路409、水噴射噴孔410を通じて外周スワラ燃料流路411に噴射される。一方、高炉ガス202を燃焼させる際には、外周スワラ燃料流路411には高炉ガス202が供給されており、水噴射噴孔410から噴出した噴霧水203は高炉ガス202のせん断力によって微粒化される。微粒化された噴霧水203は、外周スワラ燃料流路411を流れる高炉ガス202に搬送されて燃焼室12の半径方向外側に流入し、燃焼室12に形成される循環流に流入しながら外周火炎502および内周火炎501の温度を低減する。
【0027】
図6に、
図5のB-B断面における燃焼室12の半径方向温度分布を示す。高炉ガス202を燃焼する時には、内周火炎501と外周火炎502が形成されること、発熱量が低く局所的な最高温度が天然ガス201専焼と比べて低下することから、半径方向の温度差が小さい温度分布となる。このため、本実施例のように噴霧水203を高炉ガス202とともに燃焼室12の半径方向外側に供給し、外周火炎502および内周火炎501の温度を低減することで、少ない噴霧水203の供給量で効率的に窒素酸化物を低減することができる。また、噴霧水203が燃焼室12の軸中心部に供給される場合と比べ、保炎の基点となる内周火炎501の火炎温度を高く保つことができる。これにより、天然ガス201よりも発熱量が低く燃焼安定性が低い高炉ガス202燃焼時においても、窒素酸化物の排出量を低減しながら燃焼安定性を保つことができる。
【0028】
このように、本実施例は、内周スワラ403と外周スワラ404とで構成されるバーナ401と、バーナ401の軸中心に配置されたパイロットバーナ405とを備えたガスタービン燃焼器において、外周スワラ404に設けた外周スワラ燃料流路411中にバーナ401の軸中心側に向けて水を噴射するための水噴射噴孔410を設けたことを特徴とする。これにより、パイロットバーナ405から天然ガス201を供給して燃焼させる時には、燃焼室12の軸中心部に形成される高温領域に向けて水を噴射することで効率的に窒素酸化物を低減できる。また、高炉ガス202を燃焼させる時においては、噴霧水203を外周スワラ燃料流路411を流れる高炉ガス202とともに燃焼室12に供給することで、外周火炎502および内周火炎501の温度を低減し、少ない噴霧水203の供給量で効率的に窒素酸化物を低減することができる。また、保炎の基点となる内周火炎501の温度を高く保つことができ、燃焼安定性を確保できる。
【0029】
図7に本実施例における水噴射構造の別の実施形態を備えたバーナ401の拡大断面図を示す。先に説明した構成と比較して、本実施形態は、水噴射流路409に水噴射ノズル412を備え、水噴射ノズル412の先端部が外周スワラ燃料流路411に突出していることを特徴としている。ここで、水噴射ノズル412の先端部は、燃焼特性に影響を与えない範囲で外周スワラ燃料流路411の中央側に配置することが望ましい。高炉ガス202専焼時において、水噴射ノズル412から供給する噴霧水203は、高炉ガス202のせん断力によって可能な限り微粒化することが求められる。噴霧水203の微粒化が不十分な場合、高炉ガス専焼時においても噴霧の貫通力が増大し燃焼室12の軸中心部に噴霧水203が供給される可能性がある。
【0030】
噴霧水203の微粒化を促進するためには、噴霧水203と高炉ガス202との速度差を拡大し、噴霧水203を微粒化するためのせん断力を強めることが有効である。外周スワラ燃料流路411を流れる高炉ガス202の流速は、主流となる流路中央部で最大となる。そこで、本実施形態においては、噴霧水ノズル412の先端部を外周スワラ燃料流路411内に突出させ、この水噴射ノズルに水噴射噴孔を設置している。このように構成することで、噴霧水203と高炉ガス202の速度差を拡大し、噴霧水203の微粒化を促進することができる。
【0031】
なお、本実施形態のように、噴霧水ノズル412の先端部を外周スワラ燃料流路411を外周スワラ燃料流路411の中央部まで突出させることにより、噴霧水203と高炉ガス202の速度差を最大限確保し、噴霧水203の微粒化をより効果的に促進することができる。
【0032】
図8に本実施例における水噴射構造の更に別の実施形態を備えたバーナ401の拡大断面図を示す。先に説明した構成と異なり、本実施形態では、複数の水供給配管413が外周スワラ404の外側に別体として配置されている。そして、水供給配管413の先端部には外周スワラ404方向に開口する水噴射噴孔410が形成されている。また、外周スワラ404には、外周スワラ404外壁面と外周スワラ燃料流路411を接続する外周スワラ水噴射流路414が形成され、水噴射噴孔410から供給された噴霧水203が外周スワラ燃料流路411内に噴射されるように構成している。
【0033】
図2や
図7に示す構成においては、外周スワラ404自体に外周スワラ燃料流路411および水噴射流路409の双方が形成されている。このため、供給される高炉ガス202の温度が高い場合には、外周スワラ燃料流路411と水噴射流路409の間で大きな温度勾配が生じて熱応力が増加し、外周スワラ411の信頼性が低下する可能性がある。また、外周スワラ404内部に高炉ガス202および噴霧水203の流路を設けるため、構造が複雑化しコストが増加する可能性がある。
【0034】
これに対し本実施形態では、外周スワラ404に設けられていた水噴射流路の代わりに、複数の水供給配管413を配置し、外周スワラ404と水供給配管413を分離している。このように水噴射噴孔に水を供給する水配管を外周スワラの外部に別体として配置することにより、外周スワラ404内部の温度勾配を低減し、熱応力の増加を抑制できる。また、外周スワラ404の構造を簡略化することで、製造コストの低減も図ることができる。
【0035】
本実施例では起動用燃料として天然ガスを例に説明したが、高炉ガスにコークス炉ガスを混合した増熱ガスや液体燃料などを用いた場合も同様の効果が得られる。また、低カロリー燃料として高炉ガスを例に説明したが、バイオマスガス化ガスなど水分や不活性成分の比率が高く、発熱量の低い燃料においても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0036】
図9に本発明の第2実施例におけるガスタービン発電システムの系統図を示す。本実施例では起動用燃料として油燃料205を用いており、油燃料系統305からパイロットバーナ405へ油燃料205を供給する。また、本実施例では第1実施例の構成に加え、燃焼空気102の一部を抽気し、抽気空気103として高炉ガス燃料系統302bに供給するための抽気空気系統304を設けたことを特徴とする。抽気空気系統304にも流量調節弁が設置されており、抽気する燃焼空気102の流量を調節することができる。また、高炉ガス燃料系統302bおよび抽気空気系統304には流量調節弁の下流側に逆止弁が設置され、高炉ガス202と抽気空気103が混合しないように構成されている。
【0037】
図10に本発明の第2実施例におけるバーナ401の拡大断面図を示す。
図10は起動用燃料として油燃料205aを用いた場合を示す。
図10では、油燃料205aをパイロットバーナ405に供給し、パイロット油噴孔415から燃焼室12へ油燃料205aを噴射している。また、実施例1と同様に、水噴射流路409に噴霧水203を供給している。これにより、実施例1と同様に燃焼室12の軸中心部に形成されるパイロット火炎503の高温領域に水を噴射し、窒素酸化物を低減できる。
【0038】
図11に、起動用燃料として
図10で用いた油燃料205aよりも沸点が高い油燃料205bを用いる場合を示す。なお、
図11に示すバーナの構造は、
図10に示すバーナ構造と同じである。油燃料の沸点が高くなると、
図10よりも油燃料205の蒸発や燃焼空気102との混合が遅れるため、パイロット火炎503が燃焼室12の下流側に形成される。このため、噴霧水203の噴射位置が油燃料205aを用いる場合と同一の場合、油燃料205bの燃焼反応が十分進む前に噴霧水203が供給されることで、パイロット火炎503の燃焼が不安定になる可能性があった。
【0039】
このような課題を解決するため、本実施例においては、沸点の高い油燃料205bを用いる場合に、抽気空気103を高炉ガス燃料系統302bに供給している。水噴射噴孔410から噴出する噴霧水203は抽気空気103のせん断力によって微粒化され、抽気空気103とともに燃焼室12に流入する。抽気空気103を供給することで噴霧水203の噴射方向が変更され、噴霧水203は、燃焼室12のより下流側でパイロット火炎503と混合される。これにより、沸点が高い油燃料を用いた場合においても、パイロット火炎503の高温領域に噴霧水203を供給することができ、パイロット火炎503の燃焼安定性を高く保つことができる。
【0040】
このように、高炉ガス燃料系統302bに抽気空気103を供給する抽気空気系統304を備えた本実施例の構成によれば、例えば燃料の発熱量に応じて水の供給位置を連続的に変化させる事が可能となるため、より少量の水噴射量で、窒素酸化物の低減を図ることができる。なお、本実施例では燃料の発熱量に応じて水の供給位置を変化される例を示したが、水の供給位置はこの他にも様々な要素に基づいて変化させる事が可能であり、例えば、火炎の安定性を優先した運転を行ないたい場合に、水の供給位置をあえて下流側にシフトさせ、バーナ中央部に形成される火炎の温度を確保しても良い。
【0041】
以上で説明した各実施例は、燃料と空気を燃焼させる燃焼室と、前記燃焼室にガス燃料と空気を噴射する内周スワラと、前記内周スワラの外周に配置され、前記燃焼室にガス燃料を噴射する外周スワラとを有する旋回バーナと、前記内周スワラの内周に配置され、前記燃焼室にパイロット燃料を噴射するパイロットバーナとを備え、前記外周スワラに設けられた燃料流路内に、前記旋回バーナの軸中心側に向けて水を噴射する水噴射噴孔を有することを特徴とする。
【0042】
これにより、高カロリーガスや液体燃料を燃焼する時には、外周スワラに設けた燃料流路を通じて高温の循環ガス領域中心部に向けて、水を噴射することができる。また、低カロリーガスを燃焼する時には、外周スワラに低カロリーガスが供給されるため、外周スワラ燃料流路に噴射された水は低カロリーガスのせん断力で微粒化されて水の噴射方向が変化し、水を循環ガス領域の外周部に向けて噴射することができる。
【0043】
そして、高カロリーガスや液体燃料を燃焼する時には高温の循環ガス領域中心部に向けて水を噴射することで効率的に窒素酸化物を低減できる。また、低カロリーガスを燃焼する時においては、水を循環ガス領域の外周部に向けて噴射し、火炎基部の温度を高く保つことで燃焼安定性を確保できる。