(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148148
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ばね成形装置および成形方法
(51)【国際特許分類】
B21F 35/00 20060101AFI20170607BHJP
B21F 11/00 20060101ALI20170607BHJP
B21F 23/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
B21F35/00 A
B21F11/00 F
B21F23/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-217889(P2013-217889)
(22)【出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2015-77631(P2015-77631A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓太
(72)【発明者】
【氏名】白石 透
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】長澤 肇
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−181235(JP,U)
【文献】
特公平07−115101(JP,B2)
【文献】
特開2004−330209(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0196242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F 35/00
B21F 11/00
B21F 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数対のフィードローラにより円相当直径が1.5〜9mmの鋼線材を供給する線材供給機構と、前記鋼線材を加熱する加熱機構と、加熱された前記鋼線材をコイル状に成形するコイリング機構と、所定巻数コイリングされた前記鋼線材を後方の前記鋼線材と切離する切断機構とを備え、
前記コイリング機構は、前記フィードローラにより供給された前記鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、前記ワイヤガイドを経由して供給された前記鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングツールと、前記コイル形状のピッチを付けるピッチツールとを備え、
前記切断機構は、所定巻数コイリングされたコイルを後方の前記鋼線材と切離する切断刃と、該切断刃と対向配置されて前記鋼線材を支持する受け刃とを備え、
前記加熱機構により鋼線材を加熱する領域が前記フィードローラと前記ワイヤガイドとの中間に設けられ、
前記切断刃は、前記鋼線材を切断する際に、前記受け刃の方向へ向かう速度Vaと、コイリングされた前記鋼線材の軸方向へ向かう速度Vcとを備える軌跡をなし、
前記鋼線材を切断する際の該鋼線材の送り速度をVwとしたときに、Vc/Vw≧1.1であることを特徴とするばね成形装置。
【請求項2】
前記フィードローラと前記受け刃との間の空間距離が200〜500mmであることを特徴とする請求項1に記載のばね成形装置。
【請求項3】
前記加熱機構が高周波加熱を用いており、前記鋼線材と同心となるように配置される加熱コイルのコイル長が100〜350mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のばね成形装置。
【請求項4】
前記切断刃が前記鋼線材を切断する際の鋼線材の送り速度は、それ以外のときの前記鋼線材の送り速度の50〜100%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項5】
前記切断刃が前記鋼線材を切断する際の鋼線材の送り速度は、それ以外のときの前記鋼線材の送り速度の90〜100%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項6】
前記鋼線材を切断する際の該鋼線材の送り速度をVwとしたときに、2.5≧Vc/Vwであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のばね成形装置。
【請求項7】
円相当直径が1.5〜9mmの鋼線材を送りながら加熱する加熱工程と、
加熱された前記鋼線材をコイル形状にコイリングするコイリング工程と、
所定巻数コイリングされたコイルを後方の前記鋼線材と切離する切断工程とを備え、
前記切断工程は、受け刃と、この受け刃に対して接近離間する切断刃によって行い、前記切断刃は、前記コイルを切断する際に、前記受け刃の方向へ向かう速度Vaと、コイリングされた前記鋼線材の軸方向へ向かう速度Vcとを備える軌跡をなし、
前記鋼線材を切断する際の該鋼線材の送り速度をVwとしたときに、Vc/Vw≧1.1であることを特徴とするばね成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば鋼線材を送りながらコイルばねなどのばねを連続的に熱間成形するばね成形装置に係り、特に、鋼線材の切断時に鋼線材の送りを停止することなく連続的に切断することで鋼線材の加熱むらを軽減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を背景に輸送機器、特に自動車への低燃費化要求が年々厳しくなっており、自動車部品に対する小型・軽量化がこれまで以上に強く求められている。この小型・軽量化要求に対し、例えばエンジン内で使用されるバルブスプリングや、クラッチ内で使用されるクラッチダンパースプリングをはじめとする圧縮コイルばね部品においては、これまで材料の高強度化や表面処理による表面強化によって、コイルばねの特性として重要な耐疲労性の向上や、耐へたり性の向上を図ってきている。
【0003】
バルブスプリングやクラッチダンパースプリングといった比較的小さいコイルばねは、一般にはコイル材を用い、冷間成形によって製造される。一方、懸架ばねのような比較的大きいばねは、バー材を用い、熱間成形によって製造されるのが一般的である。これは、用いる線材が太いため、冷間成形では加工性が悪く成形が困難であるためである。
【0004】
コイルばねの冷間成形と熱間成形には一長一短があり、いずれが優れているとは一概に言うことはできない。たとえば、比較的線径が細い、あるいはばね指数が大きいなどの要因から冷間成形が可能な形状のコイルばねについては、加工技術の容易さや、加工速度や設備費等に拠る量産性(タクト、寸法精度、コスト)の観点から、一般的に冷間成形が採用されている。また、冷間成形では、無芯金での成形技術が確立されており、コイルばねの形状自由度が高いことも冷間成形が用いられる大きな一因となっている。一般には、バルブスプリングクラスのばねは冷間成形により製造されている。
【0005】
一方、熱間成形は加工時のコイリング歪みが発生しないといった点で冷間成形に対し有利であり、線径dが大きい場合や、コイル平均径Dと線径dとの比であるばね指数D/dが小さい場合など、その加工性の悪さから冷間成形が困難であるコイルばねの成形に用いられる。しかしながら、熱間成形では、材料が軟らかいため芯金に巻き付けてコイルばね形状にコイリングする必要があるため、形状の自由度が低く、しかも、製品ごとに芯金を揃える必要がある。
【0006】
熱間成形では、成形時の鋼線材の加熱温度が製品の形状や性能に大きく影響を及ぼす。そのため、製品の品質(形状精度、結晶粒度)を維持するためには、全体に亘って均一に加熱された状態で成形されることが望まれる。すなわち、加熱温度に影響を与える鋼線材の送り速度をできるだけ均一にすることが望まれている。
【0007】
特許文献1には、切断工具駆動用モータがコイルばねの切断位置を中間点として往復回転運動し、切断工具駆動用モータの往動時だけでなく復動時にもコイルばねの切断がなされるようにして、より高速な切断が可能となる機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−080386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冷間成形用コイリングマシンでは、ばね切断時は鋼線材の供給を停止させることが一般的であり、特許文献1に記載の技術においても切断時には鋼線材の供給を停止させている。
【0010】
しかしながら、熱間成形の場合には、切断時に鋼線材の送りを停止してしまうと、送りを行っているときと送りを停止しているときで線材の加熱時間が異なるため、均一に加熱されず、要求された品質を確保することができないという問題があった。また、上述のように、熱間成形はバー材に対して行われ、コイル材に対しては冷間成形が行われるのが普通であり、コイル材を材料とするバルブスプリングクラスのばね成形において無理に熱間成形を行うと、上記のような問題があることから熱間成形はこれまで採用されていないのが実情である。
【0011】
したがって、本発明は、鋼線材の切断時に鋼線材の送りを停止することなく連続的に切断することができ、鋼線材を均一に加熱することができるばね成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数対のフィードローラにより
円相当直径が1.5〜9mmの鋼線材を供給する線材供給機構と、鋼線材を加熱する加熱機構と、加熱された鋼線材をコイル状に成形するコイリング機構と、所定巻数コイリングされた鋼線材を後方の鋼線材と切離する切断機構とを備え、コイリング機構は、フィードローラにより供給された鋼線材を加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドと、ワイヤガイドを経由して供給された鋼線材をコイル形状に加工するためのコイリングツールと、コイル形状のピッチを付けるピッチツールとを備え、切断機構は、所定巻数コイリングされたコイルを後方の鋼線材と切離する切断刃と、切断刃と対向配置されて鋼線材を支える受け刃とを備え、加熱機構により鋼線材を加熱する領域がフィードローラとワイヤガイドとの中間に設けられ、切断刃は、鋼線材を切断する際に、受け刃の方向へ向かう速度Vaと、コイリングされた鋼線材の軸方向へ向かう速度Vcとを備える軌跡をなし、鋼線材を切断する際の該鋼線材の送り速度をVwとしたときに、Vc/Vw≧1.1であることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、鋼線材を切断する際に、切断刃は受け刃の方向へ向かう速度Vaとコイリングされた鋼線材の軸方向へ向かう速度Vcとを備える軌跡をなすから、鋼線材は、切断するときも例えば速度Vcに近い速度で送り続けることができる。したがって、加熱機構による鋼線材の加熱時間のばらつきが抑制され、鋼線材の加熱温度がより均一となる。
【0014】
ここで、鋼線材を切断するときに鋼線材の送り速度を遅くすることもできる。しかしながら、鋼線材を切断する際の鋼線材の送り速度が極端に遅いと、切断時の加熱温度とそれ以外のときの加熱温度に大きな差が生じる。このため、熱間成形されるコイルばねの部位によって温度差が生じ、コイルばね個体内での品質(形状、組織など)が不均一となる。あるいは、温度差がより大きい場合には、過剰加熱により線材が座屈する。したがって、切断する際の鋼線材の送り速度は、それ以外のときの送り速度の50%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上がよい。
【0015】
本発明においては、鋼線材を切断する際の鋼線材の送り速度をVwとすると、Vc>Vw
とする。すなわち、鋼線材の送り速度Vwよりも切断刃の同方向へ向かう速度Vcが小さいと、鋼線材の切断面が切断刃の逃げ面によって押圧されるため、鋼線材が座屈してコイリングが不可能となる。1.1>Vc/Vw>1では、鋼線材の切断面が切断刃の逃げ面によって押圧される度合いが低減されるため、コイリングは可能であるが、端末のコイル径の真円度が悪化する。したがって、このような不都合を確実に回避するために、
本発明においては、Vc/Vw≧1.1
とする。また、2.5≧Vc/Vwであることが望ましい。Vc/Vwが2.5を超えても更なる改善は期待できない一方、切断刃を高速で移動させるための設備費用が割高となる。
【0016】
切断刃の鋼線材の軸方向へ向かう速度Vcは、鋼線材を切断するまで一定であってもよい。切断刃が受け刃の方向へ向かう速度Vaが一定の場合には、切断刃は鋼線材に対して斜めに直線的に移動する。あるいは、切断刃は、楕円や円を描くように移動させることもできる。
【0017】
まず、加熱機構は高周波加熱機構であることが望ましく、鋼線材と同心となるように配置される加熱コイルのコイル長は100〜350mmであることが望ましい。加熱コイルのコイル長が100mm未満であると、鋼線材を内部まで均一に加熱するための十分な加熱能力を確保できず、鋼線材の供給速度が速い場合や、鋼線材径が太い場合には鋼線材をオーステナイト域まで昇温することが困難となる。そして、加熱コイルのコイル長を100mm以上としてオーステナイト域まで2.5秒以内で昇温させることにより、オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制されるとともに、急速加熱による微細化効果が得られる。これにより、耐久性に優れたばねの製造が可能となる。なお、コイルばねは、オーステナイト域まで加熱しコイリングした後に焼入れされ、その後焼戻しされる。
【0018】
一方、加熱コイルのコイル長が350mmを超えると、鋼線材を支持しているフィードローラとワイヤガイドとの間の距離も長くなるため、その間、すなわち加熱コイルの中において鋼線材がうねって座屈が生じるおそれがある。
【0019】
上記のような加熱コイルを配置するために、フィードローラと受け刃との間の空間距離は200〜500mmであることが望ましい。フィードローラと受け刃との間の空間距離が200mm未満であると、十分な加熱能力を有する長さの加熱コイルと、鋼線材をコイリング加工部の適切な位置へ誘導するためのワイヤガイドを備えるための領域を確保することができない。一方、フィードローラと受け刃との間の空間距離が500mmを超えると、ワイヤガイドの長さを必要以上に長くしなければならなくなるため非経済的である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鋼線材の切断時に鋼線材の送りを停止することなく連続的に切断することができ、鋼線材をより均一に加熱することができ、また、熱間成形によってバルブスプリングクラスのばねを成形することができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態におけるコイリングマシンの側面図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるコイリング機構の側面図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるコイリング機構の斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態における切断刃の軌跡を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を
図1〜
図4を参照して説明する。
図1において符号10は線材供給機構である。線材供給機構10は、水平方向に連設された複数のフィードローラ11を備えている。フィードローラ11の間には、鋼線材Wを案内するワイヤガイド12が配置されている。
【0023】
線材供給機構10の下流側には、加熱機構20が配置されている。加熱機構20は、鋼線材Wと同軸に配置された螺旋状の高周波加熱コイル21を備えている。高周波加熱コイル21は、鋼線材Wを2.5秒以内でオーステナイト域に昇温させる。なお、高周波加熱コイル21は
図1に示すような螺旋状のものに限らず、側方が開放された軸断面がコ字状のものなど、加熱性能と段取性を考慮して適宜相応な形状のものを用いればよい。
【0024】
加熱機構20の下流側には、コイリング機構30が配置されている。図において符号31はワイヤガイドであり、ワイヤガイド31は、フィードローラ11により供給された鋼線材Wをコイリング機構30の適切な位置に誘導する。ワイヤガイド31の下流側には、コイリングピン(もしくはコイリングローラ)からなる2つのコイリングツール32と、ピッチを付けるためのピッチツール33が配置されている。ワイヤガイド31を抜けた鋼線材Wは、最初のコイリングツール32に当接して所定の曲率で曲げられ、さらに下流のコイリングツール32に当接して所定の曲率で曲げられる。そして、鋼線材Wは、ピッチツール33に当接して、所望のコイル形状となるようにピッチが付与される。なお、コイリングツール32は、1つのコイリングピン(もしくはコイリングローラ)の形態のものも用いることができる。
【0025】
図において符号40は切断機構である。切断機構40は、図示しないクランク機構によって上下方向に移動可能とされた切断刃41を備えている。また、切断刃41は、図示しない移動機構により水平方向にも移動可能とされている。これにより、切断刃41は、
図4(A)に示すように、下降するときには下方へ向かう速度Vaと水平方向(図中左方向)へ向かう速度Vcをもった運動をし、切断刃41の刃先41aは、鋼線材Wに対して斜め下方へ向けて直線の軌跡をもって突入する。また、速度Vcは、鋼線材Wの切断時の送り速度Vwよりも速く設定されている。
【0026】
切断刃41の下方には受け刃42が配置されている。受け刃42は、下刃の機能をなすもので、
図3に示すように切断機構40内において片持ち状態で支持されている。そして、鋼線材Wがコイリングツール32によって曲げられて所定の巻数となったところで切断刃41が下降し、受け刃42の直線部分との間でせん断によって切断して、後方より供給される鋼線材Wとコイリングされた鋼線材Wとが切り離される。なお、切断刃41は、
図4(A)に示すように、鋼線材Wを切断するとそれまでの移動方向とほぼ直角方向に逃げて鋼線材Wとの干渉を回避する。
【0027】
上記構成のばね成形装置にあっては、鋼線材Wを切断する際に、切断刃41は下方へ向かう速度Vaと水平方向へ向かう速度Vcとを持った軌跡をなし、鋼線材Wは、その送りを停止させることなく速度Vwで送られる。したがって、加熱機構20による鋼線材Wの加熱時間のばらつきが抑制され、鋼線材Wの加熱温度がより均一となる。そして、鋼線材Wが送られて加熱およびコイリングされるときの送り速度に切断時の速度Vwが近ければ近い程、鋼線材Wの加熱時間のばらつきがより一層抑制される。
【0028】
特に、上記実施形態においては、切断刃41は、下方へ向かう速度Vaと水平方向へ向かう速度Vcをもった運動をするが、鋼線材Wの切断時の軸方向の送り速度VwはVcよりも小さい。これにより、切断刃41は鋼線材Wの切断面よりも速い速度で送り方向へ進み、このため切断刃41の逃げ面41bに鋼線材Wの切断面が押圧されることなく、切断面の変形が防止され、コイル径の真円度が向上する。
【0029】
なお、上記実施形態では切断刃41は斜め下方に向かう直線運動をするが、これに限定されるものではなく、切断刃41は任意の運動をするように構成することができる。たとえば、
図4(B)に示すように、切断刃41が楕円運動をするように構成してもよい。あるいは、
図4(C)に示すように、円運動をするように構成してもよい。このような切断刃41の運動は、上死点と下死点との間の往復運動において切断刃41をガイドすることで実現することができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の好ましい態様の数値限定を検証した実施例について説明する。実施例におけるばね成形装置および作製ばねの条件は以下のとおりである。
【0031】
・加熱コイル長:170mm
・フィードローラと受け刃の間の空間距離:400mm
・高周波加熱コイルの発振周波数:200kHz
・コイル成形時の鋼線材の送り速度:40〜50m/分
・コイル切離時の鋼線材の送り速度:8〜50m/分
・切断刃の水平方向の速度Vc:40〜120m/分
・鋼線材径:2〜5mm
・加熱温度:900℃
・コイル平均径/鋼線材径:6.0
・巻数:5.75巻
【0032】
[実施例1]
表1にコイル切離時の鋼線材の送り速度を8〜50m/分の範囲で変化させて作製したコイルばねの結晶粒度とコイル外径を示す。発明例のうち、鋼線材の送り速度が切離時(a)と成形時(b)で同じ場合と切離時(a)が成形時(b)の90%の場合では、試料の結晶粒度は両端部と有効部で差が無く、粒度番号は12.2となった。また、コイル外径はコイルの両端部と有効部で同じであった。また、切離時(a)の鋼線送り速度が成形時(b)の50%の場合では、粒度番号は10.5で充分であり、コイルの両端部と有効部でのコイル外径の差は許容範囲であった。したがって、鋼線材を切断する際の鋼線材の送り速度はコイリング時の送り速度の50〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%であることが確認された。
【0033】
【表1】
【0034】
一方、切離時(a)の鋼線送り速度が成形時(b)の50%未満である比較例では、コイルの両端部と有効部の加熱温度差が大きくなり、両端部で過剰に加熱されるため、結晶粒は粗大化し、粒度番号は10以下となった。また、コイル外径は、0.4mm以上の差が生じ、要求品質を満足するものが得られなかった。特に、切離時(a)の鋼線送り速度が成形時(b)の20%である比較例では、座屈が生じてコイリングは不可能であった。
【0035】
[実施例2]
表2にVc/Vwを1.00〜3.00の範囲で変化させて作製したコイルばねの巻始側端末のコイル径の真円度を示す。
【0036】
【表2】
【0037】
Vc/Vwが1.05〜2.50である発明例1〜9では、鋼線材径が2〜5mm(本発明においては、鋼線材の横断面の面積から算出した真円とした場合の直径であり、角形や楕円などの非円形断面も含めた円相当直径が2〜5mmの場合を含む)において、真円度が0.995〜1.000でコイリングが可能であった。特にVc/Vwが1.10〜2.50である発明例1〜8では、真円度が1.000であり、端末変形が全く無くコイリング可能であった。
【0038】
表2に示す例以外では、鋼線材径は、1.5〜9mmまで熱間コイリングが可能である。すなわち、鋼線材径が1.5mm未満の場合には、鋼線材としての強度が低いためコイリング中に変形したり座屈したりしてコイリングができないことがある。したがって、歩留まりを向上させる上で鋼線材径は1.5mm以上であることが望ましいが、コイリング中の変形や座屈をより確実に防止して歩留まりを一層向上させるためには、鋼線材径は2mm以上がより望ましい。
【0039】
一方、鋼線材径が9mmを超える場合は、負荷応力が高い鋼線材の表面近傍から鋼線材の内部にかけて、不完全焼入れ部が残存する。したがって、鋼線材径は9mm以下であることが望ましい。鋼線材径が5mmを超え9mm以下の場合には、鋼線材の中心部近傍に不完全焼入れ部が残存するが、鋼線材中心部近傍は負荷応力が低いため、コイルばねとして使用する上での問題は無い。ただし、鋼線材内部まで全域に亘り均質な組織を有するばねを成形するために鋼線材径は5mm以下がより望ましい。
【0040】
Vc/Vwが1.00である比較例10では、鋼線材の座屈が生じ、コイリングが不可能であった。Vc/Vwが3.00の発明例8では、真円度は発明例1〜7と同じであるが、Vcを高くするための設備がオーバースペックとなって非経済的である。すなわち、発明例8では、切断刃を駆動するモータを高性能なものとする必要があり、経済的ではない。よって、Vc/Vwは、発明例1〜7、9のように1.00を超え2.50以下であることが望ましく、精度(真円度)の高いコイルばねを成形するためには、発明例1〜7のように1.10〜2.50であることがより望ましい。
【符号の説明】
【0041】
10…線材供給機構、11…フィードローラ、20…加熱機構、21…高周波加熱コイル、30…コイリング機構、31…ワイヤガイド、32…コイリングツール、33…ピッチツール、40…切断機構、41…切断刃、42…受け刃、W…鋼線材