特許第6148152号(P6148152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

特許6148152ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148152
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20170607BHJP
   C08G 63/82 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   G03G9/08 331
   C08G63/82
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-223157(P2013-223157)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-87414(P2015-87414A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】平井 規晋
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴史
(72)【発明者】
【氏名】垣内 宏樹
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214680(JP,A)
【文献】 特開2011−209712(JP,A)
【文献】 特開2008−070455(JP,A)
【文献】 特開2010−191197(JP,A)
【文献】 特開平02−028666(JP,A)
【文献】 特開平03−007728(JP,A)
【文献】 特開2010−209321(JP,A)
【文献】 特開平10−017656(JP,A)
【文献】 特開2004−124085(JP,A)
【文献】 特開2010−083957(JP,A)
【文献】 特開2014−071425(JP,A)
【文献】 特開昭60−108422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
C08G 63/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有するアルコール成分とカルボン酸成分を、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で、反応率が70〜99%に達するまで重縮合する工程1、及び反応系にさらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重縮合する工程2を有する、ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法であって、前記スルホ基を有する有機化合物が、ベンゼン環に炭素数1〜14のアルキル基が置換したアルキルベンゼンスルホン酸である、ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法
【請求項2】
スルホ基を有する有機化合物の使用量が、工程1に供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜0.5質量部である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程1で使用するスズ触媒又はチタン触媒と、工程2で使用するスルホ基を有する有機化合物の質量比(スズ触媒又はチタン触媒/スルホ基を有する有機化合物)が1/2〜50/1である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの炭素数が3〜5である、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
アルコール成分が、さらに炭素数4〜25のα,ω−脂肪族ジオールを含有する、請求項1〜いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
カルボン酸成分が、3価以上の多価カルボン酸化合物を含有する、請求項1〜いずれか記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法において形成される潜像の現像に用いられるポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法、該方法により得られた結着樹脂、該結着樹脂を含有した静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した電子写真用のトナーの開発が要求されている。
高画質化及び高速化に対応して、特に熱特性を改善するために、トナー用結着樹脂として、組成の調整が容易であるポリエステル樹脂が汎用されており、さらにその製造方法を調整して、樹脂物性等を最適化する試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、帯電の立ち上がり性と帯電量レベルの向上を目的として、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物とスルホン酸基含有化合物との存在下、原料モノマーを縮重合させて得られる縮重合系樹脂を含む電子写真トナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーが開示されている。
【0004】
特許文献2には、低温度加熱定着を可能にし、高画質の画像を得ることを目的として、結晶性ポリエステルブロック及び非結晶性ポリエステルブロックを有するブロック共重合体を含む樹脂粒子並びに離型剤粒子を含む分散液中で、該樹脂粒子及び該離型剤粒子を凝集して凝集粒子を得る工程、及び、前記凝集粒子を加熱して融合合一する工程を含む静電荷像現像法トナーの製造方法であって、前記ブロック共重合体が、硫黄原子を含むブレンステッド酸を触媒とし、150℃以下にて重合されたことを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−70455号公報
【特許文献2】特開2007−114635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子写真法において、特に高速で印刷するためには、低温で定着する必要があり、トナーの性質として低温定着性が求められている。低温定着性を付与するためには、トナーに用いられる結着樹脂の軟化点や融点を下げて、融解する温度を下げる方法が用いられる。しかし、低温で融解しやすくなったトナーは、帯電ブレードとの摩擦時に発生する熱によっても一部融解が起こるためか、ブレードへのフィルミング(トナー固着)が生じやすく、耐久性に劣る。さらに、高温で保存された際に、ブロッキングが生じ、いわゆる保存性にも劣る。従って、低温定着性と耐久性、保存性を両立するトナー用の結着樹脂が求められている。
【0007】
本発明は、得られるトナーの低温定着性と耐久性及び保存性とを両立できるポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法、該方法で得られた結着樹脂、及び該結着樹脂を含有する静電荷像現像用トナーに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、得られるトナーの低温定着性と耐久性、保存性に影響する要因は、結着樹脂のポリエステルの構造によるものと考えて検討を行った。その結果、特定の脂肪族ジオールを含有するアルコール成分とカルボン酸成分を、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で重縮合し、さらにスルホ基を有する有機化合物を添加して重縮合することにより、トナーの低温定着性と耐久性及び保存性を両立し得る結着樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、
〔1〕 第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有するアルコール成分とカルボン酸成分を、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で、反応率が70〜99%に達するまで重縮合する工程1、及び反応系にさらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重縮合する工程2を有する、ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法、
〔2〕 前記〔1〕記載の製造方法により得られたポリエステル系トナー用結着樹脂、並びに
〔3〕 前記〔2〕記載のポリエステル系トナー用結着樹脂を含有した静電荷像現像用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、得られるトナーの低温定着性と耐久性及び保存性とを両立することができるポリエステル系トナー用結着樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法は、
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有するアルコール成分とカルボン酸成分を、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で、反応率が70〜99%に達するまで重縮合する工程1、及び
反応系にさらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重縮合する工程2
を有する。
【0012】
本発明の方法によって得られるポリエステル系トナー用結着樹脂を用いたトナーが、得られるトナーの低温定着性と耐久性及び保存性とを両立できる理由は定かではないが、次のように考えられる。
【0013】
本発明の方法によって得られるポリエステル系トナー用結着樹脂は、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを由来とする構造を有する。すなわちエステル結合に接して、分岐構造を有するために、ポリエステル分子の運動性が束縛され、たとえ低温定着性に優れる低軟化点や低融点の樹脂としても、ガラス転移温度を比較的高く維持することができ、低温定着性と耐久性及び保存性とを両立することができるものと考えられる。しかし、第二級炭素原子に結合した水酸基は、たとえば一級水酸基に比べ、エステル化の反応性が低いため、十分な分子量のポリエステルを得ることが難しく、分子量の低い樹脂では耐久性に劣る。スルホン酸触媒等の強酸を用いると、エステル化は進行するが、モノマーが変性するなどの副反応も生じやすく、やはり分子量が十分に上がらなかったり、樹脂の組成が目的のものと異なってしまう。本発明の製造方法においては、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で、反応率が70%以上となるまで反応させた後に、さらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重合することにより、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを由来とする構造を有しつつ、分子量も高めたポリエステル系トナー用結着樹脂を得ることができ、これによって、低温定着性と耐久性、保存性のいずれをも向上させることができるものと考えられる。
【0014】
以下、本発明に用いられる各成分、工程等について説明する。
【0015】
アルコール成分は、少なくとも、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有する。
【0016】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの炭素数としては、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を向上させる観点から、3〜8が好ましく、3〜6がより好ましく、3〜5がさらに好ましい。具体的な好適例としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられ、なかでも得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、1,2-プロパンジオール及び2,3−ブタンジオールが好ましく、1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0017】
アルコール成分中の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、10〜100モル%が好ましく、50〜100モル%がより好ましく、60〜100モル%がさらに好ましく、80〜100モル%がさらに好ましい。
【0018】
アルコール成分は、得られるトナーの低温定着性と耐久性を向上させる観点から、さらに、α,ω-脂肪族ジオールを含有していることが好ましい。
【0019】
α,ω-脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
【0020】
α,ω-脂肪族ジオールの炭素数は、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から、4以上が好ましい。また、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を向上させる観点から、25以下が好ましく、14以下がより好ましく、10以下がより好ましい。
【0021】
他のアルコール成分は、芳香族ジオール、1価アルコール及び3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0022】
他の芳香族ジオールとしては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0023】
3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン等が挙げられる。
【0024】
カルボン酸成分は、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含有していることが好ましい。
【0025】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられ、これらの中では、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性を向上させる観点から、テレフタル酸が好ましい。
【0026】
なお、カルボン酸化合物には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び炭素数1〜3のアルキルエステルも含まれる。
【0027】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。また、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から、95モル%以下が好ましく、85モル%以下がより好ましい。
【0028】
その他のカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸化合物、3価以上の多価カルボン酸化合物、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0029】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、例えば1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられ、これらの中では、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、無水トリメリット酸が好ましい。
【0030】
3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から好ましく、カルボン酸成分中、0.5モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましい。また、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から、16モル%以下が好ましく、8モル%以下がより好ましい。
【0031】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0032】
エステル化触媒として用いるチタン触媒又はスズ触媒は、速やかに目的の反応率に到達させる観点及び着色を抑制する観点から、スズ触媒が好ましい。
【0033】
スズ触媒としては、酸化ジブチル錫、2-エチルヘキサン酸錫(II)等が挙げられるが、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0034】
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0035】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでR2は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらにより好ましい。
【0036】
チタン触媒としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、総炭素数2〜28のアルケニルオキシ基又は総炭素数1〜28のアシルオキシ基を有する化合物がより好ましく、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネートがさらに好ましい。
【0037】
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上がさらに好ましい。また、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましく、1.0質量部以下がさらに好ましい。
【0038】
工程1において、エステル化触媒とともに、助触媒として、互いに隣接する3個の炭素原子に結合した水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物を用いられていてもよい。
【0039】
また、工程1において、重縮合以外の副反応を防止する観点から、ラジカル重合禁止剤を用いてもよい。ラジカル重合禁止剤としては、4-tert-ブチルカテコールが好ましい。
【0040】
工程1において、重縮合は、不活性ガス雰囲気中にて行うことが好ましく、反応性やモノマーの熱分解性の観点から、反応温度は、160〜250℃が好ましく、180〜240℃がより好ましい。
【0041】
工程1では、所定の反応率に達するため、重縮合を行う。反応率は、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、70%以上であり、好ましくは80%以上である。また、続く工程2での重合を促進するために、99%以下であり、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下である。なお、本発明における反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0042】
続く工程2では、反応系にスルホ基を有する有機化合物を添加して、重縮合を行う。
【0043】
本発明におけるスルホ基を有する有機化合物は、芳香族化合物であっても、脂肪族化合物であってもよいが、樹脂中への分散性、ポリエステルとの相溶性、及び帯電特性の観点から芳香族化合物であることが好ましい。
【0044】
スルホ基を有する芳香族化合物としては、パラトルエンスルホン酸、イソトルエンスルホン酸、メタトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−キシレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1-スルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、2-アミノトルエン-5-スルホン酸、8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸、4-ビフェニルスルホン酸、ベンゼン-1,3-スルホン酸、パラトルエンスルホン酸-2ブチニル、パラトルエンスルホン酸-3ブチニル、パラトルエンスルホン酸-2クロロエチル、パラトルエンスルホン酸シクロヘキシル、2,5-ジメチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸エチル、ビス-p-トルエンスルホン酸エチレングリコール、p-トルエンスルホン酸イソブチル、ベンゼンスルホン酸メチル、1,3,6-ナフタレントリスルホン酸、1-ナフトール-2-スルホン酸、及びこれら化合物の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、水和物、メチルエステル化合物等が挙げられる。これらの中では、ポリエステルモノマーの反応性を向上させ、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、ベンゼン環にアルキル基が置換した、アルキルベンゼンスルホン酸が好ましい。ベンゼン環に置換するアルキル基の炭素数は、ポリエステルモノマーの反応性を向上させ、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、1〜22が好ましく、1〜14がさらに好ましく、1〜6がさらに好ましい。
【0045】
スルホ基を有する脂肪族化合物としては、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、ヒドロキシアミン−O−スルホン酸、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1-デカンスルホン酸、1-ヘプタンスルホン酸、1-ヘキサンスルホン酸、3-ヒドロキシプロパンスルホン酸、1-ノナンスルホン酸、1-オクタンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1-ドデカンスルホン酸、1-ヘキサデカンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びその塩、水和物等が挙げられる。
【0046】
スルホ基を有する化合物の使用量は、得られるトナーの低温定着性と耐久性を向上させる観点から、工程1に供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましい。また、得られるトナーの耐熱保存性を向上させる観点から、工程1に供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.2質量部以下がより好ましい。
【0047】
工程1で使用するスズ触媒又はチタン触媒と、工程2で使用するスルホ基を有する有機化合物の質量比(スズ触媒又はチタン触媒/スルホ基を有する有機化合物)は、得られるトナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、1/2〜50/1が好ましく、1/1〜20/1がより好ましい。
【0048】
工程2においても、重縮合は、不活性ガス雰囲気中にて行うことが好ましく、反応性やモノマーの熱分解性の観点から、反応温度は、反応性の観点から、160℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。また、工程1で生成したポリエステルの熱分解性の観点から、240℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。
【0049】
本発明の方法により得られるポリエステル系トナー用結着樹脂は、非晶質であることが好ましい。
【0050】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度は、軟化点との差が20℃以内であれば融点とし、軟化点との差が20℃を超える場合はガラス転移に起因するピークとする。
【0051】
ポリエステル系トナー用結着樹脂を非晶質とするためには、アルコール成分中のα,ω-脂肪族ジオールの量を調整することが好ましい。ポリエステル系トナー用結着樹脂を非晶質とするためのアルコール成分中のα,ω-脂肪族ジオールの量としては、60モル%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0052】
ポリエステル系トナー用結着樹脂の軟化点は、得られるトナーの耐熱保存性を向上させる観点から、90℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、得られるトナーの低温定着性を向上させる観点から、160℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。
【0053】
ポリエステル系トナー用結着樹脂のガラス転移温度は、得られるトナーの耐熱保存性を向上させる観点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、得られるトナーの低温定着性を向上させる観点から、90℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
【0054】
ポリエステル系トナー用結着樹脂の酸価は、得られるトナーの耐熱保存性を向上させる観点から、0.5mgKOH/g以上が好ましく、2mgKOH/g以上がより好ましい。また、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から、10mgKOH/g以下が好ましく、5mgKOH/g以下がより好ましい。
【0055】
ポリエステル系トナー用結着樹脂の水酸基価は、得られるトナーの低温定着性を向上させる観点から、5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましい。また、得られるトナーの耐熱保存性と耐久性を向上させる観点から、40mgKOH/g以下が好ましく、20mgKOH/g以下がより好ましく、15mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0056】
ポリエステル系トナー用結着樹脂の数平均分子量は、トナーの低温定着性と耐熱保存性、耐久性を向上させる観点から、ポリスチレン換算で、4000以上が好ましく、5000以上がより好ましい。そして、10000以下が好ましく、7000以下がより好ましく、5500以下がさらに好ましい。
【0057】
本発明の静電荷像現像用トナーは、本発明の方法により得られたトナー用結着樹脂を含有するものであり、定着性と耐久性及び保存性とを両立するものである。
【0058】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、前記トナー用結着樹脂組成物以外の公知の樹脂が併用されていてもよいが、本発明のトナー用結着樹脂組成物の含有量は、トナー中の全結着樹脂組成物中、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%がよりさらに好ましい。
【0059】
また、本発明の静電荷像現像用トナーは、得られるトナーの耐熱保存性と低温定着性を向上させる観点から、軟化点の異なる2種の結着樹脂を含有することが好ましく、得られるトナーの耐久性を向上させる観点から、少なくとも軟化点の高い方の結着樹脂が、本発明のトナー用結着樹脂であることが好ましく、得られるトナーの耐熱保存性と耐久性、低温定着性を向上させる観点から、両方の樹脂が発明のトナー用結着樹脂であることがより好ましい。
【0060】
2種の結着樹脂の軟化点の差は、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。
【0061】
軟化点が低い方の樹脂の軟化点は、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、120℃未満が好ましく、110℃以下がより好ましい。軟化点が高い方の樹脂の軟化点は、120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0062】
軟化点が高い方の樹脂と軟化点が低い方の樹脂の質量比(軟化点が高い方の樹脂/軟化点が低い方の樹脂)は、50/50〜90/10が好ましく、60/40〜80/20がより好ましい。
【0063】
本発明のトナーには、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤、離型剤及び荷電制御剤が含有されることが好ましい。
【0064】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0065】
離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0067】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、7質量部以下がさらに好ましい。
【0068】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0069】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0070】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」(以上、オリエント化学工業社製)、「T-77」(保土谷化学工業社製)、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製);サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製);銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0071】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0072】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0073】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましく、外添剤としては、無機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛が挙げられ、シリカが好ましい。
【0074】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0075】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0076】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。
【0077】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0078】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0079】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0080】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法、該方法により得られた結着樹脂、該結着樹脂を含有した静電荷像現像用トナーを開示する。
【0081】
<1> 第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含有するアルコール成分とカルボン酸成分を、スズ触媒又はチタン触媒の存在下で、反応率が70〜99%に達するまで重縮合する工程1、及び反応系にさらにスルホ基を有する有機化合物を添加し、重縮合する工程2を有する、ポリエステル系トナー用結着樹脂の製造方法。
【0082】
<2> スルホ基を有する有機化合物の使用量が、工程1に供するアルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜0.5質量部である、前記<1>記載の製造方法。
<3> 工程2の反応温度が160〜240℃である、前記<1>又は<2>記載の製造方法。
<4> 工程1で使用するスズ触媒又はチタン触媒と、工程2で使用するスルホ基を有する有機化合物の質量比(スズ触媒又はチタン触媒/スルホ基を有する有機化合物)が1/2〜50/1である、前記<1>〜<3>いずれか記載の製造方法。
<5> スズ触媒又はチタン触媒がスズ触媒である、前記<1>〜<4>いずれか記載の製造方法。
<6> スズ触媒が、Sn−C結合を有していない錫(II)化合物である、前記<5>記載の製造方法。
<7> 第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの炭素数が3〜5である、前記<1>〜<6>いずれか記載の製造方法。
<8> スルホ基を有する有機化合物がアルキルベンゼンスルホン酸である、前記<1>〜<7>いずれか記載の製造方法。
<9> アルコール成分が、さらに炭素数4〜25のα,ω−脂肪族ジオールを含有する、前記<1>〜<8>いずれか記載の製造方法。
<10> カルボン酸成分が、3価以上の多価カルボン酸化合物を含有する、前記<1>〜<9>いずれか記載の製造方法。
<11> カルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸化合物を含有する、前記<1>〜<10>いずれか記載の製造方法。
<12> 前記<1>〜<11>いずれか記載の製造方法により得られたポリエステル系トナー用結着樹脂。
<13> ポリエステル系トナー用結着樹脂の数平均分子量が4000以上10000以下である、前記<12>記載のポリエステル系トナー用結着樹脂。
<14> ポリエステル系トナー用結着樹脂が非晶質である、前記<12>又は<13>記載のポリエステル系トナー用結着樹脂。
<15> ポリエステル系トナー用結着樹脂のガラス転移温度が40〜90℃である、前記<12>〜<14>いずれか記載のポリエステル系トナー用結着樹脂。
<16> ポリエステル系トナー用結着樹脂の軟化点が90〜160℃である、前記<12>〜<15>いずれか記載のポリエステル系トナー用結着樹脂。
<17> 前記<12>〜<16>いずれか記載のポリエステル系トナー用結着樹脂を含有した静電荷像現像用トナー。
【実施例】
【0083】
樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0084】
〔樹脂の軟化点(Tm)〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0085】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/分で測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0086】
〔樹脂のガラス転移温度(Tg)〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0087】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0088】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0089】
〔樹脂の数平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、数平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mlになるように、試料をテトラヒドロフランに、25℃で溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25JP)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0090】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0091】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0092】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0093】
〔樹脂の製造〕
樹脂製造例1〔樹脂1〜8〕
表1、2に示す原料モノマー及びエステル化触媒1を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が70%以上に到達したのを確認し、エステル化触媒2を加えた。その後、220℃まで昇温し、8.0kPaにて表1、2に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル(樹脂1〜8)を得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいい、各樹脂の製造におけるエステル化触媒2を加える時点での反応率を表1、2に示す。
【0094】
樹脂製造例3〔樹脂9、10〕
表2に示す原料モノマー及びエステル化触媒1を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後、220℃まで昇温し、8.0kPaにて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル(樹脂9、10)を得た。
【0095】
樹脂製造例4〔樹脂11〕
表2に示す原料モノマー及びエステル化触媒1を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が70%に達する前の段階で、エステル化触媒2を加えた。その後、220℃まで昇温し、8.0kPaにて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル(樹脂11)を得た。
【0096】
樹脂製造例5〔樹脂12〕
表2に示す原料モノマー、エステル化触媒1、及びエステル化触媒2を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後、220℃まで昇温し、8.0kPaにて表2に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル(樹脂12)を得た。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
〔静電荷像現像用トナーの製造〕
実施例1〜8及び比較例1〜4
表3に示す結着樹脂100重量部、着色剤「Regal 330R」(キャボット社製、カーボンブラック)5重量部、離型剤「三井ハイワックスNP055」(三井化学社製、ポリプロピレンワックス、融点:125℃)2重量部、及び負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)1重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
【0100】
得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:HMDS、平均粒子径:30nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0101】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、シャープ(株)製の紙[CopyBond SF-70NA(75g/m2)]上に、未定着の状態で画像を得た。総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)を用い、定着ローラーの温度を100℃から240℃へと10℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着画像の定着試験を行った。定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前×100)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、低温定着性を評価した。結果を表3に示す。
【0102】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を24時間毎に目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表3に示す。
【0103】
〔評価基準〕
A:72時間後も凝集は認められない。
B:72時間後で凝集が認められる。
C:48時間後で凝集が認められる。
D:24時間後で凝集が認められる
【0104】
試験例3〔耐久性〕
「ページプレスト N-4」(カシオ計算機社製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、温度32℃、湿度85%の環境下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンを連続して印刷した。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印字し、画像上のスジの有無を確認した。印刷は、画像上にスジが発生した時点で中止し、最高6000枚まで行った。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を、現像ロールにトナーが融着・固着したことによりスジが発生した枚数とし、耐久性を評価した。即ち、スジの発生しない枚数が多いほど、トナーの耐久性が高いものと判断できる。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】
【0106】
以上の結果より、実施例のトナーは、比較例のトナーに比べて、いずれも低温定着性、耐久性、保存性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の方法により得られるポリエステル系トナー用結着樹脂は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるトナーに好適に用いられるものである。