特許第6148162号(P6148162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148162
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20170607BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20170607BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20170607BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20170607BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C33/10
   B29C35/02
   B29L30:00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-244904(P2013-244904)
(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2015-101052(P2015-101052A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 浩也
(72)【発明者】
【氏名】和田 真由子
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−88416(JP,A)
【文献】 特開2009−96092(JP,A)
【文献】 特開平11−165319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
B29C35/00−35/18
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部に接するトレッド成形面に、陸部を形成するための複数の凹部と、前記凹部の底面で開口するベントホールとが設けられたタイヤ加硫金型において、
側壁同士が直角または鈍角をなす第1の角部と、側壁同士が鋭角をなす第2の角部とを備える前記凹部に、前記第1の角部の底面で開口する第1のベントホールと、前記第2の角部の底面で開口する第2のベントホールとが設けられ、
前記第1のベントホールの径に比べて前記第2のベントホールの径が大に設定されていることを特徴とするタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記第2の角部の頂点を中心とした半径5mmの領域内に、前記第2のベントホールが配置されている請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記第2のベントホールの径が、前記第1のベントホールの径の二倍以下である、または2mm以下である請求項1または2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記第1のベントホールの径が0.6mm以上である請求項1〜3いずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載のタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのトレッド部に接するトレッド成形面にベントホールが設けられたタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤの加硫成形に用いられるタイヤ加硫金型では、例えば特許文献1〜3に記載されているように、タイヤのトレッド部に接するトレッド成形面に、ブロックやリブなどの陸部を形成するための複数の凹部と、その凹部の底面で開口するベントホールとが設けられている。かかる構成によれば、タイヤとトレッド成形面との間の余分なエアを金型の外部に排出し、ライトネスやベアと呼ばれるゴム欠損の原因となるエア溜まりの発生を防いで、良好なタイヤ外観の成形を図ることができる。
【0003】
ところが、凹部の側壁同士が交わる角部では、加硫成形時に所要量のゴムが充填されるまでに時間が掛かり、それに伴ってゴム流れが低下しがちであった。更に、本発明者らの知見によれば、側壁同士が直角または鈍角をなす角部と、側壁同士が鋭角をなす角部とを備える凹部において、前者よりも後者でゴム流れが顕著に低下する傾向にあり、それ故、側壁同士が鋭角をなす角部では、エア溜まりに起因したゴム欠損を生じやすく、タイヤの外観不良となる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−267457号公報
【特許文献2】特開平7−88846号公報
【特許文献3】特開昭63−78709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エア溜まりの発生を抑制できるタイヤ加硫金型と、それを用いたタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド部に接するトレッド成形面に、陸部を形成するための複数の凹部と、前記凹部の底面で開口するベントホールとが設けられたタイヤ加硫金型において、側壁同士が直角または鈍角をなす第1の角部と、側壁同士が鋭角をなす第2の角部とを備える前記凹部に、前記第1の角部の底面で開口する第1のベントホールと、前記第2の角部の底面で開口する第2のベントホールとが設けられ、前記第1のベントホールの径に比べて前記第2のベントホールの径が大に設定されているものである。
【0007】
かかる構成によれば、側壁同士が直角または鈍角をなす第1の角部と、側壁同士が鋭角をなす第2の角部とを備える凹部において、加硫成形時のゴムが第2のベントホールによって積極的に引き込まれるため、所要量のゴムが第2の角部に充填されるまでの時間が早められる。その結果、第2の角部では、ゴム流れが促進されることによりエアが分散され、延いてはエア溜まりの発生が抑えられる。第1の角部では、ベントホールの径が相対的に小さいためにゴムを無駄に引き込むことがなく、第2の角部でゴムの充填を早める効果を確保できる。
【0008】
前記第2の角部の頂点を中心とした半径5mmの領域内に、前記第2のベントホールが配置されていることが好ましい。かかる構成によれば、第2の角部の頂点の近くに第2のベントホールが配置されることから、第2のベントホールによるゴムの引き込みによって第2の角部でのゴム流れが効果的に改善され、エア溜まりの発生を良好に抑制することができる。
【0009】
前記第2のベントホールの径が、前記第1のベントホールの径の二倍以下である、または2mm以下であることが好ましい。かかる構成によれば、第1のベントホールと第2のベントホールとの径差が大きくなり過ぎない。そのため、第2のベントホールによるゴムの引き込みが、第1の角部でのゴム流れに悪影響を及ぼさないようにできる。更に、かかる構成によれば、ベントホールに流れ込んだゴムによって形成されるゴム突起が太くなり過ぎないため、トリミング作業が簡単になって都合が良い。
【0010】
ベントホールによる排気性能を確保するうえでは、前記第1のベントホールの径が0.6mm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤの製造方法は、上述したタイヤ加硫金型のキャビティに未加硫タイヤをセットし、その未加硫タイヤに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含むものである。かかる方法によれば、上述のようにゴム流れを促進してエア溜まりの発生を防止できることから、良好なタイヤ外観を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を概略的に示す縦断面図
図2】トレッド成形面の正面図
図3図2の要部拡大図
図4】凹部の他の例を示す図
図5】凹部の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1に示すタイヤ加硫金型10には、破線で輪郭を示した未加硫タイヤTがタイヤ軸を上下にしてセットされる。即ち、図1では、上下方向がタイヤ幅方向、左右方向がタイヤ径方向となる。タイヤ加硫金型10は、キャビティ30にセットされたタイヤTのトレッド部に接するトレッド成形面1を備える。トレッド成形面1には、加硫成形時にタイヤTとトレッド成形面1との間の余分なエアを排出するために、金型10の内部(キャビティ30)と外部とを連通させる複数のベントホール11が設けられている。
【0015】
タイヤ加硫金型10は、タイヤTのサイドウォール部を成形するサイドプレート91,92と、タイヤTのトレッド部を成形する環状のトレッドリング93とを備え、そのトレッドリング93の内面にトレッド成形面1が形成されている。図1では記載を省略しているが、トレッド成形面1には、溝部を形成するための突起2(図2参照)と、ブロックなどの陸部を形成するための複数の凹部3(図2参照)とが設けられ、その凹部3の底面でベントホール11が開口している。
【0016】
この金型10は、所謂セグメンテッドモールドであり、タイヤ周方向に分割された複数のセクターによってトレッドリング93が構成されている。型開き時には、サイドプレート92とトレッドリング93が上昇するとともに、各セクターが放射状に広がるようにしてタイヤ径方向外側に変位し、タイヤの出し入れが可能になる。型締め時には、セクターが寄り集まることによりトレッドリング93が円環状に連続し、図1のようにトレッド成形面1がタイヤTのトレッド部の外面に密着しうる状態になる。
【0017】
図2では、上下方向がタイヤ周方向、左右方向がタイヤ幅方向となる。本実施形態のトレッド成形面1には、突起2と凹部3とからなる凹凸模様が設けられており、加硫成形後のタイヤのトレッド部には、これに対応したトレッドパターンが形成される。図3に拡大して示した凹部3は、側壁同士が直角または鈍角(図3の例では鈍角)をなす角部41(第1の角部)と、側壁同士が鋭角をなす角部42(第2の角部)とを備える。即ち、角部41にて側壁同士がなす角度θ1は90度以上であり、角部42にて側壁同士がなす角度θ2は90度未満である。
【0018】
角部41の底面ではベントホール11a(第1のベントホール)が開口するとともに、角部42の底面ではベントホール11b(第2のベントホール)が開口する。そして、ベントホール11aの径φ11aに比べて、ベントホール11bの径φ11bが大に設定されている(即ち、φ11a<φ11b)。このようなベントホール11が径差を有する構造は、一部の凹部3に適用されるものでも構わないが、トレッド成形面1の全域でエア溜まりの発生を抑えるうえで、全ての凹部3に適用されることが好ましい。
【0019】
加硫成形時には、未加硫タイヤTのトレッド部がトレッド成形面1に押し当たり、凹部3に充填されたゴムによって陸部が形成される。角部41,42は、所要量のゴムが充填されるまでに時間が掛かる部位であり、特に角部42ではゴム流れが低下する傾向が顕著であるが、この凹部3では、加硫成形時のゴムがベントホール11bによって積極的に引き込まれるため、角部42にゴムが充填されるまでの時間が早められる。その結果、角部42では、ゴム流れの促進によってエアが分散され、延いてはエア溜まりの発生が抑えられる。
【0020】
また、径φ11aが径φ11bよりも小さいため、角部41ではゴムを無駄に引き込むことがなく、角部42でゴムの充填を早める効果を確保できるとともに、角部41と角部42との間でゴムの充填速度を均一化できる。このように、径φ11bを相対的に大きくした構造は、余分なエアを逃がすという本来の作用よりも、寧ろゴムを引き込んでゴム流れを促すという作用に主眼を置いたものであり、角部42でゴムを積極的に動かしてエアの分散を図るものである。角部42のエアを適度に分散することでエア溜まりの発生は抑えられ、その結果、陸部のゴム欠損を防いで、良好なタイヤ外観を得ることができる。
【0021】
加硫成形時のゴムをベントホール11bにより引き込んで角部42のゴム流れを改善するうえで、ベントホール11bの位置は角部42の頂点P2に近い方が有利であり、頂点P2を中心とした半径5mmの領域内にベントホール11bが配置されていることが好ましい。図3では、頂点P2を中心とした半径5mm(R=5mm)の領域の輪郭を鎖線で示している。この領域内には、ベントホール11bの中心が配置されることが好ましく、ベントホール11bの全体が配置されることがより好ましい。
【0022】
角部42の頂点P2と接する位置にベントホール11bを形成しても構わないが、ベントホールを加工する際の作業性を考慮すると、ベントホール11bの中心を頂点P2から2mm以上離すことが好ましい。角部42と比べて角部41へのゴムの充填は比較的容易ではあるが、ベントホール11aの位置も角部41の頂点P1に適度に近付けた方がよく、頂点P1を中心とした半径5mmの領域内にベントホール11aが配置されることが好ましい。頂点P2からベントホール11bの中心までの距離は、頂点P1からベントホール11aの中心までの距離と同じか、それよりも短いことが好ましい。
【0023】
ベントホール11aの径φ11aは、排気性能を確保するうえで0.6mm以上であることが好ましい。それよりも大きいベントホール11bの径φ11bは、上述したゴム流れの改善効果を確保するうえで0.8mm以上であることが好ましい。ベントホール11aとベントホール11bとの径差を確保する観点から、径φ11bは径φ11aの1割増し以上(110%以上)であることが好ましい。
【0024】
径φ11bは、径φ11aの二倍以下であることが好ましく、または2mm以下であることが好ましい。これにより、ベントホール11bによるゴムの引き込みが角部41のゴム流れに悪影響を及ぼすことを防止でき、上述した頂点P2を中心とした半径5mmの領域内にベントホール11bを配置するうえでも都合がよい。また、かかる構成は、スピューと呼ばれるゴム突起のトリミング作業を簡単にするうえでも有効である。スピューは、ベントホール11に流れ込んだゴムによって加硫成形後のタイヤ表面に形成される。
【0025】
本実施形態では、図3のように凹部3が平行四辺形(多角形の一例)を呈する例を示したが、これに限られるものではなく、他の形状を呈するものでも構わない。したがって、例えば図4図5のような形状を採用することも可能であり、このような凹部5,6においても、既述の要領で角部41,42にベントホール11a,11bを設定することにより、企図する効果が得られる。
【0026】
図3,4では、一つの凹部において、角部41と角部42とが側壁を共通させてタイヤ周方向に隣接し、それぞれにベントホール11a,11bが設けられている。同じく、角部41と角部42とが側壁を共通させてタイヤ幅方向に隣接し、それぞれにベントホール11a,11bが設けられている。図5では、角部41と角部42とが側壁を共通させてタイヤ周方向に隣接し、それぞれにベントホール11a,11bが設けられている。
【0027】
本発明では、凹部が備える全ての角部にベントホールが設定されていなくても構わない。但し、第2の角部のゴム流れを改善してエア溜まりの発生を適切に抑制するうえでは、図3〜5のように、その凹部が備える第2の角部42の全てに対して、第2のベントホール11bを設定することが好ましい。前述の実施形態では、1つの凹部に対して、径の大きさが相異なる2種のベントホール11a、11bを設けた例を示したが、これに限られるものではなく、3種以上のベントホールを設けてもよい。
【0028】
前述の実施形態では、ベントホールが径一定の丸孔である例を示したが、これに限られず、例えば開口部にザグリを有する形状でもよい。その場合、ベントホールの径は、ザグリではなくベントホールの本体部(ザグリから奥の部分)で測定されるものとする。ザグリの径寸法は、加硫成形時にゴムを引き込んで凹部内でのゴム流れを促す作用には殆ど影響を及ぼさないと考えられる。
【0029】
この金型10を用いたタイヤの製造方法は、金型10のキャビティ30に未加硫タイヤTをセットし、その未加硫タイヤTに加熱加圧を施して加硫を行う工程を含む。この金型10によれば、上述のように凹部内でのエア溜まり、特に第2の角部42でのエア溜まりの発生を防止できるため、トレッド部の陸部にゴム欠損の無い良好なタイヤ外観を有する空気入りタイヤを製造できる。
【0030】
本発明に係るタイヤ加硫金型は、トレッド成形面に設けられるベントホールを上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などが何れも本発明に採用することができる。
【0031】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。したがって、例えば、前述の実施形態では、タイヤ加硫金型がセグメンテッドモールドであったが、これに限られず、トレッド部の中央部で上下に二分割された所謂2ピースモールドであってもよい。
【実施例】
【0032】
本発明の構成と効果を具体的に示すため、図2に示したトレッド成形面を備えるタイヤ加硫金型によりタイヤを加硫成形し、そのときのエア溜まりの発生状況を確認した。成形したタイヤにおいて、トレッド部にゴム欠損が生じた場合は、加硫成形時にエア溜まりが発生したとして「×」で評価し、ゴム欠損の無い許容レベルのタイヤ外観が得られた場合は、エア溜まりが発生しなかったとして「○」で評価し、特に良好なタイヤ外観が得られた場合は、エア溜まりの発生を効果的に防止できたとして「◎」で評価した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、比較例1〜3ではエア溜まりが発生したのに対し、実施例1,2ではエア溜まりの発生が抑制されており、上記の如きベントホールの構成によりゴム流れが改善されたものと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1 トレッド成形面
2 突起
3 凹部
10 タイヤ加硫金型
11 ベントホール
11a 第1のベントホール
11b 第2のベントホール
30 キャビティ
41 第1の角部
42 第2の角部
図1
図2
図3
図4
図5