【実施例】
【0016】
(実施例1)
上記回転電機用ロータの実施例につき、
図1〜
図5を用いて説明する。
本例の回転電機用ロータ1は、
図1に示すごとく、ロータシャフト10、ロータコア20、一対のコア保持部30、突出部40、エンドプレート50及び移動片60を備える。
【0017】
ロータシャフト10は、軸方向をXとして軸回転可能に構成されている。
ロータコア20は環状を成しており、ロータシャフト10の外周に設けられている。
一対のコア保持部30は、ロータシャフト10の外周において、ロータコア20の一端側20aと他端側20bとに配置されてロータコア20を軸方向に挟持して固定している。
突出部40は、一対のコア保持部30の少なくとも一方において、ロータシャフト10の径方向外側に突出形成されている。
エンドプレート50は環状を成しており、ロータシャフト10の外周において突出部40とロータコア20との間に配置されるとともに、内周側に向かって開口したキー溝(エンドプレートキー溝)51を有している。
移動片60は、キー溝51内において、径方向に移動可能に保持されている。
【0018】
径方向におけるエンドプレート50と移動片60との互いの対向面52、62の少なくとも一方(本例では両方)は、ロータシャフト10の軸方向Xに対して傾斜している。そして、突出部40は、エンドプレート50及び移動片60がロータコア20から離隔する方向への移動を規制する。
【0019】
以下、本例の回転電機用ロータ1について詳述する。
図1に示すごとく、ロータシャフト10は、インナシャフト11と、インナシャフト11の外周側に配設されたアウタシャフト12とを有する。アウタシャフト12は、インナシャフト11を挿嵌させるための筒状の筒状部121と、筒状部121の外周側においてロータコア20が取り付けられるように形成されたコア取付部122とを有する。筒状部121とコア取付部122とは連結部123によって連結されている。
【0020】
インナシャフト11は、筒状に形成されており、内側に冷却媒体を流通させる冷媒流路13を備えている。また、インナシャフト11には、径方向に開口した冷媒吐出口111が形成されており、冷媒流路13から冷媒吐出口111を介して冷却媒体が吐出できるよう構成されている。冷媒吐出口111は、径方向から見てコア取付部122と重なる位置に形成されている。
なお、冷却媒体としては、例えば、絶縁性油等の冷却油を用いることができる。
【0021】
また、アウタシャフト12において、コア取付部122は、その内周面側において、冷媒吐出口111と軸方向Xに重なる位置を含む領域に、冷却媒体を一旦保持する冷媒保持部124を有する。すなわち、冷媒保持部124は、冷媒吐出口111から吐出された冷却媒体を受けて、保持する。本例においては、冷媒保持部124は、回転方向の全域にわたって形成されている。そして、コア取付部122には、冷媒保持部124と連通して、冷媒保持部124に保持された冷却媒体をエンドプレート50側に導く貫通孔である冷媒供給口(図示せず)が形成されている。
【0022】
一対のコア保持部30は、
図1に示すように、フランジ部31とリング部32とを有する。フランジ部31は、ロータコア20の一端側の側面20aと対向する位置において、径方向外側に向けてコア取付部122の全周に亘って突出形成されている。リング部材32はロータコア20の他端側の側面20bと対向する位置に設けられる。リング部材32はリング状を成しており、組み付け前の状態において(いずれも常温下において)、コア取付部122の外径よりも若干小さい内径を有する。そして、ロータコア20がフランジ部31にロータコア20の軸方向Xの一端側の端面20aが当接するようにコア取付部122に軸方向Xに沿って挿通された後に、リング部材32がロータコア20の軸方向Xの他端側の端面20bを押圧するように、ロータシャフト10の外周に圧入されている。これにより、フランジ部31とリング状部材32とによってロータコア20が挟持され、ロータコア20が軸方向Xにおいてコア取付部122に対して固定されている。
なお、本例ではフランジ部31には、後述のエンドプレートキー溝51に対向する位置を切り欠いてシャフトキー溝33が形成されている。
【0023】
突出部40は、
図1に示すように、フランジ部31におけるロータコア20と反対側において、コア取付部122の全周に亘って径方向外側に突出形成されている。突出部40は、フランジ部31よりも径方向外側に突出している。
【0024】
ロータコア20は、複数の環状の電磁鋼板21を軸方向Xに積層してなる。そして、各電磁鋼板21には、
図2に示すように、少なくとも、中央の中央孔22aと、その外周に複数形成された第1孔23aと、小径孔の外側に形成された第2孔24aとを有する。複数の電磁鋼板21を積層したロータコア20の状態において、中央孔22a同士、第1孔23a同士、第2孔24a同士は、それぞれ積層方向(軸方向X)に重なり、シャフト挿通孔22、貫通孔23、磁石保持孔24を形成する。シャフト挿通孔22にはロータシャフト10が挿嵌され、磁石保持孔24には永久磁石70が挿嵌される。また、貫通孔23は、シャフト挿通孔22及び磁石保持孔24と独立して形成されている。
【0025】
なお、電磁鋼板21における第1孔23aは、電磁鋼板21の軽量化等のためにも形成されるものであり、貫通孔23は、ロータコア20の軽量化の機能を奏する。さらに、エンドプレート50に形成された図示しない冷媒流路を介して、冷媒保持部124に保持された冷却媒体が流通するように構成されている。なお、ロータコア20には、冷却媒体を積極的には流通させない貫通孔が設けてあってもよい(図示略)。
【0026】
エンドプレート50は、
図3に示すように、中央に貫通孔53が形成された環状を成している。エンドプレート50は非磁性体からなり、本例ではアルミニウム合金からなる。エンドプレート50の内径(すなわち貫通孔53の径)は、
図1に示すフランジ部31の外径よりも若干大きく、突出部40の外径よりも小さい。さらに、エンドプレート50には、エンドプレートキー溝51が形成されている。エンドプレートキー溝51は、当該エンドプレート50の内周側(すなわち貫通孔53側)に向かって開口しており、エンドプレート50の内周面53aを径方向外側に向かって切り欠いて形成されている。エンドプレートキー溝51の底面は後述の移動片60に対向するキー溝対向面52を形成しており、軸方向Xに対して傾斜している。本例では、キー溝対向面52は、
図1に示すように、軸方向Xにおいてロータコア20に近づくに従ってロータシャフト10から離れるように傾斜している。なお、エンドプレートキー溝51は、ロータシャフト10の軸心を中心として回転対称に複数(本例では2か所)備えられている。
【0027】
エンドプレート50は、貫通孔53(
図3参照)にロータシャフト10が挿通されて、
図1に示すように、フランジ部31の外周側であって、突出部40とロータコア20との間に配置されている。
図5に示すように、エンドプレート50の厚さT1は、フランジ部31の軸方向Xの幅Wよりも小さいため、エンドプレート50は、突出部40とロータコア20によって挟持された状態とはなっていない。
【0028】
移動片60は、
図1に示すように、エンドプレートキー溝51に保持されている。本例では、
図5、
図6に示すように、エンドプレートキー溝51とシャフトキー溝33とに亘って保持されている。
図4に示すように、移動片60は立方体形状を成している。移動片60の幅W2は、エンドプレートキー溝51の幅W1(
図3参照)よりも若干小さい。エンドプレートキー溝51のキー溝対向面52に対向する移動片対向面62は、
図1に示すように、軸方向Xに対して傾斜している。本例では、移動片対向面62は、ロータコア20に近づくにしたがって、ロータシャフト10から離れるように傾斜している。そして、移動片対向面62は、キー溝対向面52と平行に形成されている。なお、
図5に示すように、移動片60の厚さT2はフランジ部31の軸方向Xの幅Wよりも小さい。
【0029】
本例の回転電機用ロータ1の使用態様と作用効果について説明する。
まず、
図5に示すように、回転電機用ロータ1はロータシャフト10を中心に軸回転していない状態では、移動片60はエンドプレート50と離隔しており、両者とも軸方向Xにおいて、固定されていない状態となっている。
【0030】
次に、
図6に示すように、回転電機用ロータ1はロータシャフト10を中心に軸回転している状態では、移動片60は当該回転に基づく遠心力Pにより、径方向外側に移動して、移動片対向面62がキー溝対向面52に当接し、キー溝対向面52を径方向に押圧する。キー溝対向面52及び移動片対向面62はそれぞれ軸方向Xに対して傾斜していることから、エンドプレート50に対しては軸方向Xにおいてロータコア20と反対方向に向かう分力P1が生じ、移動片60に対しては軸方向Xにおいてロータコア20に向かう分力P2が生じる。
【0031】
これにより、エンドプレート50は軸方向Xにおいてロータコア20と反対方向に移動する。そして、エンドプレート50は突出部40に当接することにより当該移動が規制される。その結果、エンドプレート50は突出部40に押圧された状態で軸方向Xにおいて固定されることとなる。これにより、エンドプレート50において軸方向Xのガタの発生が防止される。
【0032】
さらに、軸方向Xに固定されたエンドプレート50は、遠心力Pによって移動片60を介して軸方向Xに押圧され続ける。そのため、共締め及び圧入による固定の場合とは異なり、温度変化やクリープ現象によってエンドプレート50に寸法変化が生じても、エンドプレート50に対する固定力が低下することを防止できる。そして、エンドプレート50やその固定にかかわる他の部品(ロータシャフト10や移動片60)に対する高い形状精度が不要であるため、製造コストの低減が図られ、コスト面で有利となる。
【0033】
一方、移動片60は、軸方向Xにおいてロータコア20に向かう分力P2により、エンドプレート50のキー溝対向面52に沿って、軸方向Xにおいてロータコア20に向かう方向に移動しつつ、ロータシャフト10から離れる方向に移動する。そして、移動片60はロータコア20の一端側のコア端面20aに当接して、コア端面20aに押圧された状態で軸方向Xにおいて固定されることとなる。
【0034】
なお、
図4に示すように、フランジ部31の幅W(軸方向Xにおけるロータ20と突出部40との距離)は、エンドプレート50の厚さT1と移動片60の厚さT2との合計の長さよりも小さい。これにより、
図6に示すように、回転電機用ロータ1の回転中において、エンドプレート50が突出部40に押圧され、かつ移動片60がロータコア20の一端側の端面20aに当接した状態で維持されることとなり、移動片60がエンドプレートキー溝51から脱落することが防止される。
【0035】
また、エンドプレート50は、遠心力によって径方向外側に移動する移動片60を介して軸方向Xに固定さていることから、ロータシャフト10の回転数が高いほど当該遠心力Pも大きくなり、より高い固定力が得られ、エンドプレート50の安定性に優れる。
【0036】
さらに、本例の回転電機用ロータ1では、移動片60は複数(2個)備えられているとともに、ロータシャフト10の周方向においてロータシャフト10の軸心を中心として回転対称に配置されている。これにより、当該複数の移動片60を介して、エンドプレート50がロータシャフト10の周方向において回転対称となる位置において押圧されることから、エンドプレート50の固定力が当該周方向において均等に生じる。その結果、エンドプレート50をバランスよく固定でき、ロータシャフト10の回転時におけるエンドプレート50の安定性に一層優れる。また、回転電機用ロータ1の円滑な回転を妨げることを防ぐことができる。なお、本例は移動片60及びエンドプレートキー溝51の数を2個ずつとしたが、これに限らず1個ずつでもよいし3個ずつ以上でもよい。
【0037】
本例では、移動片60は、エンドプレートキー溝51とシャフトキー溝33とに亘って保持されている。これにより、移動片60はエンドプレート50を軸方向Xに固定することに加え、エンドプレート50が周方向に回転することを防止する機能も奏する。
【0038】
さらに、本例の回転電機用ロータ1では、エンドプレート50及び移動片60との対向面(キー溝対向面52及び移動片対向面62)は互いに平行である。これにより、移動片60はキー溝対向面52に沿ってスライドしやすくなり、遠心力Pを軸方向の力に変換しやすくなる。
【0039】
なお、キー溝対向面52及び移動片対向面62の傾斜角度(軸方向Xとのなす角であって鋭角側の角度)は、エンドプレート50の軸方向Xの固定において必要とされる固定力が得られる範囲で適宜変更することができる。両者の傾斜角度が大きいほどエンドプレート50は突出部40に対して大きな力で押圧されることとなり、軸方向Xにおける固定力が大きくなる。また、本例では、キー溝対向面52及び移動片対向面62は平面であるが、湾曲面であってもよく、平面と湾曲面とを組み合わせた面であってもよい。
【0040】
なお、本例では、キー溝対向面52及び移動片対向面62を傾斜面としたが、いずれか一方のみを傾斜面としてもよい。この場合においても、両者を傾斜面としたことによる作用効果を除いて、本例と同等の作用効果を奏する。本例は、移動片60の形状を立方体形状としたが、径方向に移動可能にキー溝51に保持される形状であれば良く、例えば、立方体形状の他に、球形とすることもできる。
【0041】
また、本例では、突出部40をロータシャフト10の全周方向に設けたが、これに限らず、周方向において突出部40が形成されていない領域があってもよい。この場合は、突出部40が周方向において均等に配置されるようにすることが好ましい。エンドプレート50をバランスよく固定でき、ロータシャフト10の回転時におけるエンドプレート50の安定性が高まるからである。
【0042】
なお、本例では、エンドプレート50を、ロータコア20の一端側のみに設けたが、一端側と他端側の両端に設けることとしてもよい。この場合、他端側に設けられるリング部材32に対してエンドプレート50の軸方向Xへの移動を規制する突出部を径方向外側に突出形成することができる。
【0043】
以上のごとく、本発明によれば、エンドプレート50に対する固定力の低下が防止され、また、コスト面で有利となる回転電機用ロータ1を提供することができる。
【0044】
(実施例2)
本例の回転電機用ロータ1は、実施例1におけるキー溝対向面52及び移動片対向面62(
図4)に替えて、
図7〜
図9に示すキー溝対向面520及び移動片対向面620を備える。その他の構成要素は実施例1の場合と同様であり、本例においても実施例1の場合と同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0045】
図7、
図8に示すように、キー溝対向面520及び移動片対向面620は、軸方向Xにおいて、ロータコア20に近づくに従ってロータシャフト10から近づくように傾斜している。すなわち、キー溝対向面520及び移動片対向面620は、実施例1におけるキー溝対向面52及び移動片対向面62(
図4)と軸方向Xにおいて、反対方向に傾斜している。
【0046】
エンドプレート50は、
図8に示すように、冷媒流路54を備える。冷媒流路54は、エンドプレート50のロータコア20の一端側の端面20aに対向する対向面50aにおいて、内周面53から外周側に向けて径方向の略中央まで凹状に形成されている。本例では、冷媒流路54は対向面50aにおいて放射状に形成されており、各冷媒流路54の先端部54aは、軸方向Xから見て、
図2に示すロータコア20の貫通孔23と重なっている。なお、冷媒流路54は8カ所に形成されているとともに、ロータコア20の貫通孔23も8カ所に設けられている。そして、
図8に示すように、8カ所の冷媒流路54が周方向Yにおいて等間隔で形成されている。また、2か所のエンドプレートキー溝52は互いに隣り合う冷媒流路54の間であって、径方向に対向するように形成されている。また、
図11に示すエンドプレート50の端面50aとロータコア20の端面20aとの間には図示しないシール部材が設けられている。
【0047】
また、
図11に示すように、コア取付部122には、冷媒保持部124からエンドプレート50側に導く貫通孔である冷媒供給口122aが形成されている。これにより、冷媒吐出口111から吐出された冷却媒体Qは、一旦、冷媒保持部124に保持された後、冷媒保持部124と連通する冷媒供給口122aを通じて、エンドプレート50側に導かれることとなる。そして、エンドプレート50に形成された冷媒流路54を流通して、貫通孔23に導かれる。
【0048】
図9に示すように、回転電機用ロータ1はロータシャフト10を中心に軸回転していない状態では、移動片60は、エンドプレート50と離隔しており、両者とも軸方向Xにおいて、固定されていない状態となっている。
図10に示すように、回転電機用ロータ1はロータシャフト10を中心に軸回転している状態では、移動片60は当該回転に基づく遠心力Pにより、エンドプレート50側に移動して、移動片対向面620がキー溝対向面520に当接して押圧される。キー溝対向面520及び移動片対向面620はそれぞれ軸方向Xに対して上記のごとく傾斜していることから、エンドプレート50に対しては軸方向Xにおいてロータコア20に向かう分力P3が生じ、移動片60に対しては軸方向Xにおいてロータコア20と反対方向に向かう分力P4が生じる。
【0049】
図10に示すように、軸方向Xにおいてロータコア20に向かう分力P3により、エンドプレート50は軸方向Xにおいてロータコア20に向かう方向に移動する。そして、エンドプレート50はロータコア20の一端側の端面20aに当接して押圧された状態で軸方向Xにおいて固定されることとなる。これにより、エンドプレート50において軸方向Xのガタの発生が防止される。
【0050】
一方、移動片60は、軸方向Xにおいてロータコア20に向かう分力P4により、エンドプレート50のキー溝対向面520に沿って、軸方向Xにおいてロータコア20と反対方向に移動しつつ、ロータシャフト10から離れる方向に移動する。そして、移動片60は突出部40に当接して軸方向Xの移動が規制され、突出部40に押圧された状態で軸方向Xにおいて固定されることとなる。
【0051】
本例の場合においても、軸方向Xに固定されたエンドプレート50は、遠心力Pによって移動片60を介して軸方向Xに押圧され続けるため、エンドプレート50に対する固定力の低下が抑制される。本例においても実施例1と同等の作用効果を奏する。
【0052】
さらに、本例では、
図11に示すように、エンドプレート50の端面50aには冷媒流路54が凹状に形成されている。そして、エンドプレート50の端面50aがロータコア20の一端側の端面20aに押圧されることにより、エンドプレート50の端面50aと当該端面20aとの密着性が維持される。その結果、冷媒流路54と当該端面20aとの間から冷却媒体Qが漏えいすることが防止される。さらに、回転電機用ロータ1が高速回転するほど遠心力Pが大きくなることにより、エンドプレート50のロータコア20への押圧力も大きくなることから、高速回転するほど上記密着性も向上する。その結果、高速回転時においても冷却媒体の漏えい防止作用が維持されることとなる。
【0053】
また、本例では、冷媒流路54とエンドプレートキー溝520とは等間隔に配置されていることにより、冷媒流路54とエンドプレートキー溝520とが干渉しないように構成されている。これにより、冷媒流路54を確保しつつ、エンドプレートキー溝520を設けることにより、エンドプレート50を軸方向Xに固定することができる。