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特許6148264切削条件を自動で変更する機能を有した工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148264
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】切削条件を自動で変更する機能を有した工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/00 20060101AFI20170607BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20170607BHJP
   G05B 19/4068 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   B23Q15/00 301H
   G05B19/4093 F
   G05B19/4068
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-15024(P2015-15024)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-137557(P2016-137557A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】黒済 泰彦
【審査官】 臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−084794(JP,A)
【文献】 特開2012−096301(JP,A)
【文献】 特開2002−116807(JP,A)
【文献】 特開平09−038843(JP,A)
【文献】 特開平11−277371(JP,A)
【文献】 特開昭62−208856(JP,A)
【文献】 特開平07−295619(JP,A)
【文献】 特開2004−284002(JP,A)
【文献】 特開2007−094458(JP,A)
【文献】 特開2014−221510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00
G05B 19/4068−19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムに従ってワークに加工を行う工作機械において、
加工に使用される工具の切り込み幅、切り込み深さ、切削負荷を含む切削条件の上限値および下限値を設定する工具切削条件設定手段と、
工具の切り込み幅または切り込み深さの少なくとも1つを変更する前記加工プログラムの範囲および変更条件を設定する変更条件設定手段と、
前記変更条件に基づいて、前記加工プログラムの送り動作を指令するブロックの移動量を変更する第1移動量変更手段と、
加工プログラムの変更前の切削条件と、前記変更された移動量の変化量とから切削時の負荷を算出する負荷算出手段と、
前記変更された移動量、および前記算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であるか判定する判定手段と、
を有することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記判定手段による判定結果を表示する表示手段を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の工作機械。
【請求項3】
前記判定手段により前記変更された切り込み幅または切り込み深さ、および前記算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であると判定した場合、前記加工プログラムを実行する、
ことを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の工作機械。
【請求項4】
前記判定手段に基づき、前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内になる様に前記加工プログラムの送り動作を指令するブロックの移動量を変更する第2移動量変更手段を更に備え、
前記第2移動量変更手段によるブロックの移動量の変更の結果に従って前記加工プログラムを実行する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関し、特に切削条件を自動で変更する機能を有した工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いて、ワークに切削加工を実施する際、状況に応じて切削条件を変更する為に、加工プログラム内の工具回転速度、切削送り速度を修正する場合がある。しかしながら、複雑な加工プログラムでは、工具回転速度および切削送り速度は、実に多数の箇所で個別に指定されている事が多く、その全てを手動で修正するのには非常に手間がかかる。また、変更した切削条件が適切なものかどうか、切削負荷も含めて適切な範囲に収まっているかどうかを判断するのは非常に手間がかかる。なお、自動で切削条件を変更する技術が特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−084794号公報
【特許文献2】特許第4661494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される技術においては、最適な切削条件への自動変更が前提で、適切な範囲内での切削条件の故意的な自動変更については規定されていない。例えば、「現在の切削条件で特に問題がある訳ではないが、工具の寿命を長くする為に切削条件をもう少し下げたい」といった要求には対応できない。
【0005】
特許文献2に開示される技術においては、上記の課題は解決できるものの、変更後の切削条件が適切か否かを判断する事は出来ない。また、特許文献2の技術は切削送り速度のみを考慮したものであり、主軸の回転速度、および実際の切削負荷に応じた切削条件の変更は不可能である。
【0006】
切削時の条件として、例えば工具回転数および切削送り速度については、加工プログラム内で具体的に指示されている事が殆どである為、手動変更、自動変更ともに比較的容易に実施可能である。一方、切削時の切り込み幅および切り込み深さについては、加工プログラム内では具体的に指示されていない場合がほとんどである。その為、これらを変更したい場合、加工物の形状と加工プログラムを比較しながら、手入力で加工プログラムを修正する必要があり、変更は簡単には実施できないという課題があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、切削条件を自動で変更する機能を有した工作機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1に係る発明は、加工プログラムに従ってワークに加工を行う工作機械において、加工に使用される工具の切り込み幅、切り込み深さ、切削負荷を含む切削条件の上限値および下限値を設定する工具切削条件設定手段と、工具の切り込み幅または切り込み深さの少なくとも1つを変更する前記加工プログラムの範囲および変更条件を設定する変更条件設定手段と、前記変更条件に基づいて、前記加工プログラムの送り動作を指令するブロックの移動量を変更する第1移動量変更手段と、加工プログラムの変更前の切削条件と、前記変更された移動量の変化量とから切削時の負荷を算出する負荷算出手段と、前記変更された移動量、および前記算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であるか判定する判定手段と、を有することを特徴とする工作機械である。
【0009】
本願の請求項2に係る発明は、前記判定手段による判定結果を表示する表示手段を有する、ことを特徴とする請求項1記載の工作機械である。
【0010】
本願の請求項3に係る発明は、前記判定手段により前記変更された切り込み幅または切り込み深さ、および前記算出した切削負荷が前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内であると判定した場合、前記加工プログラムを実行する、ことを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の工作機械である。
【0011】
本願の請求項4に係る発明は、前記判定手段に基づき、前記工具切削条件設定手段に設定された切り込み幅または切り込み深さ、および切削負荷の上限値および下限値の範囲内になる様に前記加工プログラムの送り動作を指令するブロックの移動量を変更する第2移動量変更手段を更に備え、前記第2移動量変更手段によるブロックの移動量の変更の結果に従って前記加工プログラムを実行する、ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の工作機械である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、作業者または生産ラインの管理者は、サイクルタイムに余裕がある場合には、適切な範囲内で切削条件を下げて切削工具への負荷を低減させて工具の長寿命化を図り、また、切削条件にまだ余裕がある場合には、適切な範囲内で切削条件を上げ、サイクルタイムの短縮を図る、など、柔軟な切削条件の変更をすることができるようになる。また、このような切削条件の変更において、簡易な手法により、加工プログラムの微調整をしながら、変更後の切削条件を適切な範囲内に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態における切削条件を自動で変更する機能を実現する手順を示す図である。
図2】本発明の一実施形態における工具毎の切削条件の上限値および下限値の例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態における自動変更機能の条件設定例1を示す図である。
図4】本発明の一実施形態における自動変更機能の条件設定例2を示す図である。
図5】簡易的なブロックを備えた加工プログラムの例である。
図6】本発明における加工プログラムに対して切削条件の自動変更を適用しない設定例である。
図7】本発明における加工プログラム全体に対して切削条件の自動変更を適用する設定例である。
図8】本発明における加工プログラムの指定箇所に対して切削条件の自動変更を適用する設定例1である。
図9】本発明における加工プログラムの指定箇所に対して切削条件の自動変更を適用する設定例2である。
図10】本発明における加工プログラムの指定箇所に対して切削条件の自動変更を適用する設定例3である。
図11】本発明の一実施形態における工作機械上で実行される切り込み深さの自動変更処理の手順1である。
図12】本発明の一実施形態における工作機械上で実行される切り込み深さの自動変更処理の手順2である。
図13】本発明をフライス加工に適用した場合の例である。
図14】本発明の工作機械上で実行される処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。はじめに、本発明における切削条件の変更手法について説明する。
本発明においては、図1に示す手順を取ることで、切削条件を自動で変更する機能を工作機械に持たせる。図中にしめす手順2において設定された、切削条件の範囲内であれば、手順3において作業者または生産ラインの管理者は自身の要求に従って切削条件を上下させ、手順5にて現状の加工プログラムの設定内容に対して、工作機械が自動で切削条件を変更し、切削を実施する。
図1に示す各手順について、以下に詳細例を示す。
【0015】
<手順1:切削条件変更の可否検討>
作業者または生産ライン管理者は、現状の加工プログラムに対し、切削条件の変更を実施するか否かの判断を行なう。
【0016】
<手順2:工具毎の切削条件の上限値および下限値の入力>
対象の切削加工で使用する工具に対し、作業者又は生産ライン管理者は、各工具の切削条件の上限値および下限値を入力する。工作機械は、これらの数値の入力手段と、入力された数値を記憶する手段とを備える必要がある。
入力手段については、例えば、図2(a)にしめすような内容を手動または自動で入力する手段を設ける事が考えられる。また、図2(a)の替わりに、図2(b)に示すような多角形で、切削条件範囲を図示的に表示および指定する手段であっても構わないものとする。
【0017】
なお、これらの条件の入力は、手動による入力でもよいし、あらかじめ工作機械内部にデータベースを設けておいて、工具のモデル番号もしくは管理番号を指定すると、自動的に切削条件範囲が入力される手段を設けておいても良いものとする。
【0018】
さらに、各工具の上限値および下限値は、切削を行なう材質、加工の種類 (荒加工又は仕上げ加工) により異なる事もある。その為、材質に応じて変更が出来るように、工具毎の上限値および下限値を複数設定できるようにしておいて、加工時に選択できるようにしても良い。
【0019】
また、切り込み幅および切り込み深さのほか、切削時の負荷についても、上限値または下限値を設定しておくものとする。上限値だけでも問題はないが、工具が完全に破損/脱落して加工物と接触しなくなった場合、切削時の負荷は著しく減少する事が予想される。その為、下限値を設けておくと、例えば工具の完全な破損/脱落をある程度推定する事ができる。
【0020】
切削時の負荷の計算には、例えば以下のような計算手法を用いる事が考えられる。
●負荷計算手法1:切り込み幅および切り込み深さの変化量を元にした自動計算
切削時の切り込み幅の増加、切り込み深さの増加は、共に切削負荷の増加に繋がる。一般的に切削負荷は切削断面積、すなわち「切り込み幅 × 切り込み深さ」に比例する。 従って、切り込み幅と切り込み深さの変化量より、切削負荷の変化量 / 変化率を計算により推定する事が出来る。
【0021】
●負荷計算手法2:切削時の主軸モータおよび送り軸用モータに流れる電流の変化
一般に切削条件が上がるまたは工具/刃具の欠けおよび磨耗が発生した場合、工具回転および軸送り共に、切削時に必要な動力は増加する傾向にある。切削に必要な力を出す為、工具回転用モータおよび送り軸用モータに流れる電流は増加する。
従って、例えば「モータの定格電流」または「工具の欠けがない状態で切削を実施した際のモータ電流」を基準値として記憶しておき、その基準値を元に、切削時の電流がどれだけ変化しているかを判断する事で、切削時の負荷を推定する。切削時の電流が基準値よりも大きくなれば、負荷が増大している事を示している。逆に切削時の電流が基準値よりも小さくなれば、負荷が減少していることを示している。
なお、モータの電流値の測定は、電流センサの追加により実施しても良いし、主軸モータの制御装置または送り軸モータの制御装置との通信により、電流値を読み出しても良い。 一般的な工作機械では、後者の方が追加装置なしで実施できる為、望ましいと考えられる。
【0022】
●負荷計算手法3:切削時の主軸モータおよび送り軸用モータの消費電力の変化
上記「負荷計算手法2」とほぼ同様だが、モータの電流の替わりに消費電力を用いる。すなわち、一例として「モータの定格消費電力」または「工具の欠けがない状態で切削を実施した際の消費電力」を基準値として記憶しておき、切削時の消費電力がどれだけ変化しているかを判断する事で、切削時の負荷を推定する。消費電力の測定手段も、「負荷計算2」に準ずるものとする。
【0023】
●負荷計算手法4:切削時に発生する音の音圧レベルおよび周波数特性の変化
一般に切削条件が上がるまたは工具/刃具の欠けおよび磨耗が発生した場合、負荷の増加に伴い加工時に発生する音の音圧レベルは増加する。また、其れに伴い、周波数特性も変化する事が多い。
一例として、「工具の欠け/磨耗がない状態で切削を実施した際の音の音量および周波数特性」を基準値として記憶しておき、切削時の音圧レベルまたは周波数特性と基準値のそれらとを比較し、切削時の負荷を推定する。音圧レベルの変化のみで切削時の負荷を推定しても良いが、周波数特性を合わせて変化を調べておくと、「音圧レベルは変化してないが、周波数特性が変化した」場合、切削に何らかの変化要因があった事が推定できる。
測定手段は、マイクなどの設置が考えられる。また、音の音圧レベルと周波数特性分析の演算処理、記憶と比較を実施する為の処理手段が、制御装置内部に必要となる。
【0024】
●負荷計算手法5:切削時に発生する機械振動のレベルおよび振動周波数特性の変化
上記「負荷計算手法4」で用いた音の替わりに、機械振動を用いる。すなわち、一例として「工具の欠け/磨耗がない状態で切削を実施した際の機械の振動のレベルおよび周波数特性」を基準値として記憶しておき、切削時の機械振動のレベルまたは周波数特性と基準値とを比較する。周波数特性は補助的な判断材料として用い、主な判断は、振動のレベル変化で実施するのが望ましい。測定手段は、振動計などの設置が考えられる。
【0025】
ここで、「負荷計算手法4」および「負荷計算手法5」は加工条件以外の要素でも、変化量が左右される事が考えられる。その為、実際に使用する場合は単独では使用せず、「負荷計算手法1」から「負荷計算手法3」のいずれかと組み合わせて使用する事が望ましい。
【0026】
なお、「負荷計算手法1」の場合は切削実施前に加工負荷が適切な範囲内になっているかどうかを判断することができ、すなわち、試し加工をする必要がないが、「負荷計算手法2」〜「負荷計算手法5」を取る場合には、実用上の問題として、どうしても試し加工(=テスト加工)が必要となる。
以上、5つの負荷計算手法を示したが、負荷計算手法はここで挙げた例のみには限定しないものであり、他の手法を取るようにしてもよい。
【0027】
<手順3:切削条件の自動変更条件設定>
現状の加工プログラムで設定されている切削条件に対し、作業者または生産ライン管理者は、切削条件の自動変更をどのように行なうかを考慮し、自動変更機能の条件設定を実施する。工作機械は、これらの設定の入力手段と記憶手段を備える。設定内容の例を図3および図4に示す。
【0028】
図3,4に示すように、本発明の切削条件自動変更機能の条件は「適用範囲の設定」、「切り込み幅」、「切り込み深さ」の3つの設定項目を有する。
設定項目「適用範囲の設定」には、当該条件が適用される加工プログラムの範囲を指定する。本実施形態における設定項目「適用範囲の設定」に設定する値として、「加工プログラム全体に適用」「加工プログラムの指定範囲のみに適用」「適用しない」を例として説明する。
【0029】
例えば、図5に示す簡易的なブロックを備えた加工プログラムに基づいて説明すると、設定項目「適用範囲の設定」に「3)適用しない」を設定した場合、設定項目「切り込み幅」、設定項目「切り込み深さ」の変更条件が設定されていたとしても、図6に示すように、変更は適用されない。
【0030】
一方、設定項目「適用範囲の設定」において、「1)加工プログラム全体に適用」を選択した場合、図7に示すように、加工プログラム全体に対し、切り込み幅、切り込み深さの変更条件が適用される。
【0031】
さらに、設定項目「適用範囲の設定」において、「2)加工プログラムの指定範囲のみに適用」を選択した場合、図8に示すように、加工プログラムに範囲を指定するプログラムコードなどを追加するか、または、別途適用する範囲を指定する手段を設け、該手段により工具回転数、切削送り速度などの変更条件が指定範囲のみに適用されるようにする。
【0032】
また、複数条件を設定し、それぞれの適用範囲を設定することで、図9,10に示すように、切削条件の複雑な変更ができるようにすることもできる。ただし、各条件間で重複又は矛盾した条件が指定されている場合、その旨を作業者などに通知する手段、またはどちらか一方を優先させて適用する機能を工作機械側に設けておくことが望ましい。場合によっては、どちらの処理を実施するか、設定できる手段を設けても良いものとする。
【0033】
図8図10では、工具毎に異なる切削条件の変更を実施した例になっているが、プログラムコードを入れる位置を変更すれば、同じ工具による加工であっても、切削条件の変更の適用の有無、および変更する条件の内容を変化させることが可能である。これにより、一例として以下のような事が可能になる。
ア)2つの異なる方向または位置に対して、同一の工具でする場合において、2つ目の加工のみに切削条件の変更を適用する。
イ)荒加工と仕上げ加工を同一の工具で実施する場合、荒加工では当初の加工プログラムの切削条件を変更して切削を実施し、仕上げ加工は当初の加工プログラムの切削条件のままで切削を実施する。
【0034】
また、図6図10で示した適用例、およびその他全ての場合において、変更後の切削条件が適切な切削条件の範囲から外れる場合は、以下のいずれかの機能を有している事が望ましい。
a)加工プログラムを一時停止させて、その旨を伝達する
b)加工条件の変更を中止して、元の加工プログラムで指定された条件で切削する
c)切削条件を適切な範囲内に自動修正して、切削する
【0035】
場合によっては、上記a)〜c)のどの処理を実施するか、設定できる手段を設けても良いものとする。
なお、c)を実施する場合は、例えば以下のような手順で自動修正を行なう。
ケース1)切り込み幅、切り込み深さの少なくとも1つが適切な範囲よりも大きかった場合=>適切な範囲内の最大値に自動修正。ただし、実際の切削前に切削負荷が適切な範囲内に収まっているかは再度自動で確認を行なう。
ケース2)切り込み幅、切り込み深さの少なくとも1つが適切な範囲よりも小さかった場合=>適切な範囲内の最小値に自動修正。ただし、実際の切削前に切削負荷が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
【0036】
ケース3)切削負荷が適切な範囲よりも大きかった場合=>切り込み幅の削減、切り込み深さの削減のいずれか又は両方を自動で実施する。修正後の値が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
ケース4)切削負荷が適切な範囲よりも小さかった場合=>切り込み幅の増加、切り込み深さの増加のいずれか又は両方を自動で実施する。修正後の値が適切な範囲内に収まっているかは、再度自動で確認を行なう。
【0037】
なお、本手順の切削条件の自動変更条件設定においては、上記手順2と同様、設定項目に対する設定値の入力形態、入力内容、入力手段は特に限定されるものではなく、キーボードによる入力や、マウス、タッチパネルによるGUIを介した入力など、様々な手法を用いることが可能である。
【0038】
<手順4:加工プログラムの起動>
作業者または生産ライン管理者の実行処理、または工作機械外部からの入力信号により、工作機械は加工プログラムを起動する。ただし、前述の手順3において提示した、「各条件間で重複又は矛盾した条件が指定されている場合、その旨を伝達」、又は「変更後の切削条件が適切な切削条件の範囲から外れる場合は、加工プログラムを一時停止させて、その旨を伝達」する機能が搭載されていた場合、加工プログラムを起動する前に伝達しても良いものとする。
【0039】
<手順5:設定された内容に従い実行中の加工プログラムに対し切削条件の変更を適用>
工作機械は、定められた条件により、元の加工プログラムに対し、切削条件の変更を適用して、切削を実施する。ただし、主軸回転数および切削送り速度などの切削条件と異なり、本提案で変更を実施する切り込み幅および切り込み深さは、直接加工プログラム内で指定されているわけではない。また、切り込み幅または切り込み深さを変更する場合、元の加工プログラムから工具の経路が変更される。
【0040】
例えば切り込み深さの自動変更については、工作機械側で図11および図12に示す手順で自動処理を実施する。
【0041】
なお、図11および図12においては、繰り替えし加工を実施した場合の最後の1回にしわ寄せが行く形になっている。一方で、切削条件の変更は加工面にも影響を及ぼす。その為、しわ寄せは繰り返し加工の最後の1回以外の加工に行く形を取る様にしてもよい。
また、切削条件の上限値と下限値の設定で、しわ寄せが行く加工において、計算上上限値と下限値の間に収まらないケースも考えられる。その際は、切削条件の適用を中止する他に、例えば以下のような処理により加工を実施する事も考えられる。
【0042】
以下では、本実施形態の工作機械の動作を、より具体的な例に基づいて説明する。
本実施形態の工作機械において、ワークを加工するに際して、工具の切り込み深さの下限値が1.5に設定されている状態で、深さ9mmの加工を3回(=1回あたりの切り込み深さ3mm)で実施している加工プログラムに対して切り込み深さを2mmに変更した場合を例として考える。
【0043】
そのまま計算処理を行なうと、1回目から4回目の切り込み深さは2mm、5回目の切り込み深さは1mmとなり、5回目の切り込み深さは工具の切り込み深さの下限値:1.5mmを下回ってしまう。
そのような場合は、例えば以下のように切り込み深さを変更し、下限値よりも上の条件で、かつ設定した切り込み深さをなるべく順守させる。
1回目〜3回目の切り込み深さ:2mm
4回目〜5回目の切り込み深さ:1.5mm
合計の切り込み深さ:2×3+1.5×2=9[mm]
【0044】
図11,12に示す自動処理により、例えばフライス加工においては、図13のような適用例が可能となる。
【0045】
一方、切り込み幅については、図11,12における「工具の回転軸と同じ方向かつ工作物に近づく方向の早送りの指令箇所」の替わりに「工具の回転軸と垂直方向かつ工作物に近づく方向の早送りの指令箇所」を検索/抽出し、変更を実施すれば、同じ効果が得られる。
【0046】
なお、図11または12の実施例として以下の3事例が考えられる。本提案では特に制限は設けないものとする。更に、場合によっては複数の手段がとれるようにしておき、作業者/生産ラインの管理者の要望に応じた方法が実行できるようにしても良いものとする。
【0047】
事例1)切削条件の変更内容に応じて、元々の加工プログラムを変更
工作機械の制御装置内で、例えば以下の手順で処理を実施する。
1.加工プログラムの内容/移動経路を、制御装置の内部処理で読み取る
2.制御装置の内部処理により、切削条件の自動変更設定に準拠した移動経路(当然、元々の加工プログラムの移動経路とは異なる) を算出
3.上記2.で算出した経路になる様、元々の加工プログラムを修正
4.上記3.で修正した加工プログラムに従い、実際の動作を実行
【0048】
本事例の手法を採用した場合、他の機械で同じ加工=変更後の切削条件での加工を実施したい場合は、元々の加工プログラムのみを移植すれば良い。
【0049】
事例2)元々の加工プログラムは変更せず、切削条件の変更内容を反映した修正版加工プログラムを作成し、その修正版加工プログラムを実行
工作機械の制御装置内で、例えば以下の手順で処理を実施する。
1.加工プログラムの内容/移動経路を、制御装置の内部処理で読み取る
2.制御装置の内部処理により、切削条件の自動変更設定に準拠した移動経路(当然、元々の加工プログラムの移動経路とは異なる)を算出し、記憶
3.上記2.で算出した経路になる様、元々の加工プログラムから経路を修正した加工プログラムを作成
4.上記3.で修正した加工プログラムに従い、実際の動作を実行
【0050】
本事例の手法を採用した場合、他の機械で同じ加工=変更後の切削条件での加工を実施したい場合は、修正版加工プログラムのみを移植すれば良い。
【0051】
事例3)元々の加工プログラムは変更せず、切削条件の変更内容を別途記憶/処理する手段を設置
工作機械の制御装置内で、例えば以下の手順で処理を実施する。
1.加工プログラムの内容/移動経路を、制御装置の内部処理で読み取る
2.制御装置の内部処理により、切削条件の自動変更設定に準拠した移動経路(当然、元々の加工プログラムの移動経路とは異なる)を算出し、記憶
3.上記2.で算出した移動経路に従って、実際の動作を実行
【0052】
本事例の手法を採用した場合、他の機械で同じ加工=変更後の切削条件での加工を実施したい場合は、元々の加工プログラムと、変更条件の内容の両方を移植する必要がある。
【0053】
なお、前述の加工条件の変更の適用範囲の設定手段についても、上記した各事例と同様の手法を採用可能である。図8図10では元々の加工プログラム内に、プログラムコードを追加した例=元々の加工プログラムに変更を加えた例を挙げたが、上記の事例2と同様に「元々の加工プログラムは変更せず、切削条件の変更内容を反映した修正版加工プログラムを作成し、その修正版加工プログラムを実行する手段」、または事例3と同様に「元々の加工プログラムには変更を加えず、条件の変更を適用する範囲の設定内容を別途記憶/処理する手段」を設けたりしても良いものとする。
【0054】
<手順6:加工プログラムの停止>
加工プログラム内の指令コードにより、工作機械は加工プログラムを終了し、停止させる。加工プログラムの指令コードによっては、自動的に次の部品の切削加工に移行しても良い。
【0055】
図14は、手順2〜手順6までの処理の概要を示すフローチャートである。本実施形態の処理は図14のフローチャートに限定しない。特に点線枠で囲んだ部分(ステップSA03〜ステップSA09)は、加工プログラムの起動前に実施しても構わない。
●[ステップSA01]作業者または生産ライン管理者からの、切削条件の上限値/下限値の入力、及び、切削条件自動変更機能の設定値の入力を受け付け、メモリなどの記憶手段上に設けられた格納領域に記憶する。
●[ステップSA02]作業者、生産ライン管理者または外部装置からの指令を受けて、加工プログラムを起動する。
【0056】
●[ステップSA03]切削条件自動変更機能の設定が有効であるか否かを判定する。有効である場合にはステップSA04へ進み、無効である場合にはステップSA12へ進む。
●[ステップSA04]加工プログラム内に、切削条件自動変更機能の適用可能範囲が存在するか否かを判定する。存在する場合にはステップSA05へ進み、存在しない場合にはステップSA07へ進む。
●[ステップSA05]切削条件自動変更機能の設定に従って切削条件の変更を実行し、変更した後の切削条件が適切な範囲内であるかを判定する。適切な範囲内である場合にはSA06へ進み、そうでない場合にはステップSA07へ進む。
【0057】
●[ステップSA06]加工プログラム内の切削条件自動変更の適用範囲を判定する。適用範囲が指定範囲のみである場合にはステップSA10へ進み、加工プログラム全体の場合にはステップSA11へ進む。
●[ステップSA07]切削条件自動変更機能が適用できない場合の動作設定を判定する。動作設定が切削条件を自動修正になっている場合にはステップSA08へ進み、加工プログラム実行中止になっている場合にはステップSA09へ進み、加工プログラムをそのまま実行となっている場合にはステップSA12へ進む。
【0058】
●[ステップSA08]切削条件を適切な範囲内になるように自動的に修正し、ステップSA05へ戻る。
●[ステップSA09]加工プログラムの実行を中止して、本処理を終了する。
【0059】
●[ステップSA10]加工プログラムの指定範囲内に切削条件の変更を適用して加工プログラムを実行する。加工プログラムを実行する際には、加工経路の再計算も行う。
●[ステップSA11]加工プログラム全体に対して切削条件の変更を適用して加工プログラムを実行する。加工プログラムを実行する際には、加工経路の再計算も行う。
●[ステップSA12]加工プログラムを変更せずにそのまま実行する。
●[ステップSA13]加工プログラムを最後まで実行したところで加工プログラムの実行を終了し、本処理を終了する。
【0060】
以下に、本発明における最小限必要な構成要素を示す。
構成要素a)表示器を伴う、加工プログラムによる自動運転が可能な制御装置を搭載した工作機械本体
構成要素b)工作機械に搭載した各工具における、適切な切り込み幅および切り込み深さ(以下、切削条件)の範囲を単数または複数入力する機能
構成要素c)構成要素bの切削条件の範囲設定入力の際、切削時の負荷の許容範囲を合わせて入力する機能
構成要素d)構成要素bおよび構成要素cの範囲を記憶する機能
【0061】
構成要素e)加工プログラムであらかじめ指定されている切削条件に対し、自動で変更する条件設定を単数または複数入力する機能
構成要素f)構成要素eの条件設定を記憶する機能
構成要素g)切削時の以下のいずれかまたは複数より切削時の負荷を算出する機能
−切り込み幅と切り込み深さの変化量を元にした自動計算
−工具回転用(=主軸用)モータ、送り軸用モータに流れる電流の変化
−工具回転用(=主軸用)モータ、送り軸用モータの消費電力の変化
−切削時に発生する音の音圧レベルおよび周波数特性の変化
−切削時に発生する機械振動のレベルおよび周波数特性の変化
【0062】
構成要素h)加工プログラムに対し、構成要素eの切削条件の変更設定を自動で適用する機能
構成要素i)構成要素hで適用された切削条件の変更内容および構成要素gで算出された負荷が、構成要素bおよび構成要素cの範囲内かどうかを判断する機能
構成要素j)構成要素iで判断した結果で問題なければ、構成要素hで適用された切削条件の変更内容に従って、加工プログラムを実行する機能
【0063】
また、上記の構成要素に追加して、以下の構成要素を備えていても良いものとする。
構成要素k)構成要素bおよび構成要素cにおいて、切削条件の範囲を図示的に入力および表示する機能
構成要素l)構成要素bおよび構成要素cにおいて、あらかじめ搭載されたデータベースを元に各工具の切削条件範囲を入力しておき、工具の型番又は管理番号の入力により、切削条件の範囲を自動で設定する機能
構成要素m)構成要素eの条件設定を、加工プログラム内の任意の範囲に適用する機能
【0064】
構成要素n)構成要素eの条件設定が、加工プログラムに同時に複数適用された場合、各条件間で矛盾が生じていないか判定する機能
構成要素o)構成要素nの判定の結果、矛盾が生じていた場合は、切削条件の適用と加工プログラムの実行を中止し、作業者または生産ライン管理者に伝達する機能
構成要素p)構成要素nの判定の結果、矛盾が生じていた場合は、複数ある条件のうちで優先順位の高い条件のみを適用する機能
【0065】
構成要素q)構成要素iの判断結果で問題があった場合、切削条件の適用と加工プログラムの実行を中止し、作業者または生産ライン管理者に伝達する機能
構成要素r)構成要素iの判断結果で問題があった場合、切削条件の適用を中止し、元々の加工プログラムで指定された切削条件で加工プログラムを実施する機能
構成要素s)構成要素iの判断結果で問題があった場合、適切な切削条件の範囲内に自動的に修正し、その条件で加工プログラムを実施する機能
【0066】
構成要素t)構成要素eの入力において、誤入力を防ぐ為に任意の入力項目を設定不可能にする機能
構成要素u)構成要素b、構成要素cおよび構成要素eの入力を工作機械に接続された外部機器にて実施可能とする機能
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例に限定されることなく、適宜の変更を加えることにより、その他の態様で実施することができる。
図1
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図14