(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148281
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】繊維強化成形品の成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/58 20060101AFI20170607BHJP
B29C 43/52 20060101ALI20170607BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20170607BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20170607BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/52
B29K101:12
B29K105:08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-91677(P2015-91677)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-203585(P2016-203585A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】二山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大野 秋夫
(72)【発明者】
【氏名】白銀屋 司
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−172104(JP,A)
【文献】
特開2014−205354(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/035705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/58
B29C 43/52
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を強化繊維に半含浸させた強化繊維基材を金型に載置し、加圧して成形加工する工程と、
前記金型を閉じた加圧状態で前記熱可塑性樹脂の転移温度以上に昇温し、前記成形加工された強化繊維基材に前記熱可塑性樹脂を含浸させてその見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの95%以上に完全含浸させる工程と、
前記完全含浸させた強化繊維基材を冷却し、離型する工程と、を有してなる繊維強化成形品の成形方法。
ここで、目標見かけ密度ρcは、強化繊維の繊維体積含有率Vf及び密度ρf、樹脂の樹脂体積含有率Vr及び密度ρrとするとき、ρc=Vr×ρr+Vf×ρfである。転移温度は、JIS K7121に規定する温度である。半含浸させた強化繊維基材とは、その見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの50%〜2%である。
【請求項2】
半含浸させた強化繊維基材は、その強化繊維基材が外面に開口した空隙を有するように熱可塑性樹脂が含浸してなる請求項1に記載の繊維強化成形品の成形方法。
【請求項3】
強化繊維基材は、繊条状若しくは織物状の強化繊維からなるもの、または、二次元若しくは三次元的にランダムに配向した不連続状の強化繊維からなるものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の繊維強化成形品の成形方法。
【請求項4】
強化繊維基材は、強化繊維を炭素繊維とする目付が20g/m2〜1000g/m2である請求項1〜4の何れか一項に記載の繊維強化成形品の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊条状若しくは織物状の強化繊維、または、二次元若しくは三次元的にランダムに配向した不連続状の強化繊維からなる強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化成形品であって、強化繊維の配向乱れのない繊維強化成形品を成形する成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量化や機械強度の向上を目的として、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維基材に樹脂を含浸させて複合化した繊維強化成形品が種々の分野・用途に広く利用されており、繊維強化成形品は高い比強度及び比弾性率を有することから航空機部品や自動車部品への適用が着目されている。しかしながら、繊維強化成形品の比強度及び比弾性率は強化繊維の配向角に強く依存する特性を有し、その成形加工時、特に剪断力が作用するような加工を行うときに強化繊維の配向がずれて乱れることが問題になっている。
【0003】
この一方、繊維強化成形品の航空機部品や自動車部品への適用を促進するためには、繊維強化成形品の機械的強度など所定の特性が発揮されるように強化繊維基材への樹脂の含浸が所定の繊維体積含有率で行われ、ボイドやシワなどの欠陥の少ないものが求められている。さらに、複雑な形状であっても成形できるような賦形性が求められている。このような繊維強化樹脂成形品に対する要請や上記強化繊維の配向のずれの問題に対し、以下のような提案がされている。
【0004】
特許文献1に、繊維長5mm超100mm以下の強化繊維と、繊維状および/または粒子状の熱可塑性樹脂とから構成される熱可塑性樹脂が未含浸状態の前駆体を、ホットプレスすることにより熱可塑性樹脂の含浸工程と成形体の立体賦形工程を同時に行う、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む複合成形体の製造方法が提案されている。この製造方法において、前駆体とは、熱可塑性樹脂と強化繊維を二次元的に配置した複合体で、熱可塑性樹脂が強化繊維中に分散はしているが含浸はしていない状態のものである。その強化繊維は、不連続で実質的に二次元ランダム若しくは特定の向きに配向し、開繊程度が所定範囲のものが好ましいとされる。そして、この製造方法によれば、立体形状であっても強化繊維の配向の乱れが少なく、シワやボイドのない複合成形体を得ることができるとされる。
【0005】
特許文献2に、強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材であって、該プリプレグ基材の全面に強化繊維を横切る方向へ断続的な切り込みからなる列が複数列設けられており、前記Wsが30μm〜10mmであり、実質的に強化繊維のすべてが前記切り込みにより分断され、前記切り込みにより分断された強化繊維の繊維長さLが10〜100mmであり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内である切込プリプレグ基材が提案されている。そして、この切込プリプレグ基材は、1層だけでは、繊維直交方向にしか流動しない。すなわち、90°方向への樹脂の流動が繊維を動かす原動力であるため、2層以上異なる繊維方向に積層されていることではじめて、流動性が発現するとされる。また流動しなくてもよい部位には連続繊維基材を配し、さらにその部位の力学特性を向上させることもできるとされる。
【0006】
特許文献3に、成形型を構成する下型と上型を型閉めしてできる第1のキャビティ内に連続繊維補強材を収容し、型閉めによって該連続繊維補強材を上型および下型で仮に固定し、第1のキャビティ内に軟化溶融した第1のマトリックス樹脂をチャージし、第1のマトリックス樹脂が未硬化状態の中間成形品を製造する第1のステップ、前記第1のキャビティよりも大きな寸法の第2のキャビティ内に載置された前記中間成形品に対して、軟化若しくは溶融した第2のマトリックス樹脂をチャージして第1、第2のマトリックス樹脂が硬化することにより、連続繊維補強材を部分的に含む繊維強化樹脂材を製造する第2のステップからなる繊維強化樹脂材の製造方法が提案されている。この繊維強化樹脂材の製造方法によれば、連続繊維補強材が位置ずれすることなく、しかもその連続繊維の所期の配向が維持された高強度の繊維強化樹脂材を得ることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-172104号公報
【特許文献2】特開2008-207544号公報
【特許文献3】特開2012-240276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
繊維強化成形品の強度を考えると強化繊維は連続繊維であるのが好ましが、特許文献1に記載の複合成形体の製造方法は所定繊維長の前駆体を用いており、特許文献2に記載の切込プリプレグ基材は全面に強化繊維を横切る方向へ断続的な切り込みが設けられている。これに対し、特許文献3に記載の繊維強化樹脂材の製造方法は強化繊維が連続した連続繊維補強材を用いるので好ましい。しかしながら、特許文献3に記載の繊維強化樹脂材の製造方法によれば、周壁部やフランジ部など平板状の底部以外の部分は強化繊維が存在しない樹脂のみの部分を設けざるを得なく、強度上の問題やその製造方法の適用範囲が限定されるという問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の複合成形体の製造方法は、前駆体が繊維長5mm超100mm以下の強化繊維と、未含浸の熱可塑性樹脂の繊維状物および/または粒子状物からなる混合物
であるから、所定の熱可塑性樹脂を有する混合物を調整するのが容易でなく、取扱性に問題がある。特許文献2に記載の切込プリプレグ基材は、プリプレグに設ける切り込みの形状や分布を繊維強化樹脂成形品の形状や加工程度に応じて試行錯誤で求める必要があるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点及び要請に鑑み、ボイドやシワなどの欠陥が少なく、剪断力が作用するような加工を行う場合においても強化繊維の配向の乱れがなく賦形性に優れた繊維強化成形品を成形することができる成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る繊維強化成形品の成形方法は、熱可塑性樹脂を強化繊維に半含浸させた強化繊維基材を金型に載置し、加圧して成形加工する工程と、前記金型を
閉じた加圧状態で前記熱可塑性樹脂の転移温度以上に昇温し、前記成形
加工された強化繊維基材に前記熱可塑性樹脂を含浸させてその見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの95%以上に完全含浸させる工程と、前記完全含浸させた強化繊維基材を冷却し、離型する工程と、を有してなる。ここで、目標見かけ密度ρcは、
強化繊維の繊維体積含有率Vf及び密度ρf、樹脂の樹脂体積含有率Vr及び密度ρrとするとき、ρc=Vr×ρr+Vf×ρfである。転移温度は、JIS K7121に規定する温度である。
半含浸させた強化繊維基材とは、その見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの50%〜2%である。
【0012】
上記発明において、半含浸させた強化繊維基材は、その見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの50%〜2%であるのがよい。
【0013】
また、半含浸させた強化繊維基材は、その強化繊維基材が外面に開口した空隙を有する程度に熱可塑性樹脂が含浸してなるものがよい。
【0014】
強化繊維基材は、繊条状若しくは織物状の強化繊維からなるもの、または、二次元若しくは三次元的にランダムに配向した不連続状の強化繊維からなるものを使用することができ、強化繊維を炭素繊維とする場合に目付が20g/m
2〜1000g/m
2であるものを使用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る繊維強化成形品の成形方法によれば、ボイドやシワなどの欠陥が少なく、剪断力が作用するような加工を行う場合においても強化繊維の配向の乱れがなく賦形性に優れた繊維強化成形品を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】強化繊維基材が半含浸状態にあるものを示すSEM写真と断面模式図である。
【
図2】強化繊維基材を転移温度以上の金型温度で成形加工したときの強化繊維の配向ずれを説明する模式図である。
【
図3】実施例の成形試験の工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明に係る繊維強化成形品の成形方法は、熱可塑性樹脂を強化繊維に半含浸させた強化繊維基材を金型に載置し、加圧して成形加工する工程と、前記金型を加圧状態で前記熱可塑性樹脂の転移温度以上に昇温し、前記成形された強化繊維基材に前記熱可塑性樹脂を含浸させてその見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの95%以上に完全含浸させる工程と、前記完全含浸させた強化繊維基材を冷却し、離型する工程と、を有してなる。すなわち、熱可塑性樹脂を強化繊維に半含浸させた強化繊維基材を使用すること、これを金型により所定の形状に成形することに特徴を有する。そして、その成形された強化繊維基材を金型内に保持して加圧状態で昇温し、熱可塑性樹脂を完全含浸させることに特徴を有する。
【0018】
本繊維強化成形品の成形方法において、強化繊維は炭素繊維が好ましく、ガラス繊維、天然繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、強化ポリプロピレン繊維を使用することができる。
【0019】
強化繊維基材は、上記強化繊維を用いた繊条状若しくは織物状の強化繊維からなるもの、または、二次元若しくは三次元的にランダムに配向した不連続状の強化繊維からなるものを使用することができる。例えば、繊条状の強化繊維基材としてUDシートを使用することができ、織物状の強化繊維基材として平織又は綾織の織物を使用することができる。そして、強化繊維が炭素繊維である場合に、目付が20g/m
2〜1000g/m
2であるものを使用することができる。なお、本発明において配向とは、いわゆる繊維の配向を意味するものから所定の形態に揃えられた配列までも含む広い意味で使用している。
【0020】
熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド系樹脂(PA6、PA11、PA66)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等を使用することができる。
【0021】
本繊維強化成形品の成形方法は、上記の強化繊維基材に熱可塑性樹脂が半含浸されたものを使用する。半含浸とは、
熱可塑性樹脂を含浸させた強化繊維基材の見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの50%〜2%に熱可塑性樹脂を含浸させた状態を意味する。このような半含浸の強化繊維基材においては、溶融した樹脂が繊維束に入り込み、繊維に密着した状態で固化しており、単に強化繊維基材に樹脂が接触している状態ではない。このため、強化繊維基材は、その表面または内部に樹脂の一部が含浸して繊維束が部分的に一体化している状態になっている。かかる半含浸の強化繊維基材の状態を
図1に示す。
図1は、目付が63g/m
2の平織の炭素繊維からなる強化繊維基材にポリアミド樹脂を半含浸させたものの断面SEM写真(
図1(a))と、その模式図(
図1(b))である。
図1(a)に示すように、熱可塑性樹脂3(ポリアミド樹脂)は、経糸1と緯糸2が折り込まれた炭素繊維織物の表及び裏面に飴状に付着している。しかし、炭素繊維織物の内部にポリアミド樹脂の付着は観察されず、炭素繊維織物の内部はフィラメント状の炭素繊維そのものが観察される。上記の目標見かけ密度ρcとは、
強化繊維の繊維体積含有率Vf及び密度ρf、樹脂の樹脂体積含有率Vr及び密度ρrとすると、ρc=Vr×ρr+Vf×ρfである。
この目標見かけ密度ρcは、上記計算式が示すように、樹脂を含浸させてなる強化繊維基材がこれを構成する強化繊維と樹脂で完全に占められ、空隙(ボイド)などがないとした最も高い計算上の密度に相当している。このため、本発明においてはこの最も高い計算上の密度、すなわち目標見かけ密度ρcを目標値とし、どの程度含浸が進んでいるかの判断指標としている。なお、本発明において、完全含浸とは、強化繊維基材の見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの95%以上に強化繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸した状態を意味する。
【0022】
このような半含浸の強化繊維基材は、強化繊維基材に熱可塑性樹脂の粉末を静電付着させた後、これを加熱し熱可塑性樹脂を強化繊維基材に部分的に含浸させることによって成形することができる。その成形条件を調整することによって、
図1(b)に示すように、強化繊維基材が外面に開口した空隙を有する程度に、すなわち、含浸した熱可塑性樹脂が強化繊維基材の表裏面をフィルムで被ったように完全に塞ぐ状態でなく、強化繊維基材の内部から外部(大気中)に連通する空隙を有する状態に熱可塑性樹脂を含浸させることができる。また、強化繊維基材の表裏面から適度の深さに熱可塑性樹脂を含浸させることができる。
【0023】
上記強化繊維基材は、このように熱可塑性樹脂が半含浸の状態にあるから、熱可塑性樹脂の完全含浸を行う次工程において、強化繊維基材の内部に存在する空気が容易に排気され、ボイドのない繊維強化成形品を得ることができる。また、強化繊維基材は、目標の繊維強化樹脂成形品の所要の厚さ、強度等に応じて所要枚数が積層されたものが使用されるので、積層される各々の強化繊維基材が外面に開口した空隙を有するものが好ましい。
【0024】
本繊維強化成形品の成形方法は、上述の半含浸の強化繊維基材を金型に載置し、加圧して成形加工する。この成形加工は、熱可塑性樹脂の転移温度未満の温度で行う。すなわち、JIS K7121に規定する融解温度、結晶化温度又はガラス転移温度について、それらの温度未満の温度で行う。これにより、強化繊維基材に含浸した熱可塑性樹脂は、その取扱時に強化繊維基材から脱落することはない。また、成形加工時には、強化繊維基材に含浸した固体状態の熱可塑性樹脂が強化繊維の移動を拘束しずれを抑制する。このため、
図2(b)に示すような強化繊維の配向の乱れ(ずれ)を抑制することができる。また、強化繊維のずれは、成形前の強化繊維の間隔(炭素繊維織物の場合は、繊維束の幅に相当)の50%以内であるのがよく、好ましくは30%以内、より好ましくは10%以内である。
【0025】
図2は、ポリアミド樹脂(融点が225℃)を半含浸させた平織りの炭素繊維織物からなる強化繊維基材30を、ポリアミド樹脂の融点以上の金型温度(240℃)で成形加工した場合の例を示す模式図である。ポリアミド樹脂の融点以上の温度に加熱された下金型10と上金型20により強化繊維基材30を加圧しながら成形加工すると、強化繊維基材30は下金型10のキャビティ縁部(エッジ部)で剪断力を受ける((
図2(a))。このとき、溶融して粘度が下がったポリアミド樹脂はもはや強化繊維を拘束することができなくなり、強化繊維の配向が乱れる。すなわち、
図2(a)に示す整然と配向した強化繊維からなる強化繊維基材30のA部、B部及びC部が、
図2(b)に示すように乱れた配向状態になる。緯糸2は経糸1に沿ってずれた状態になり、例えば間隔(繊維束の幅)が3mm程度であったA部、B部、C部が12mmにずれて(400%のずれ)広がった状態になる。特に、半含浸の状態にある強化繊維基材は、これを形成する強化繊維の拘束力が弱く、内部に空気(空隙)を多く含んでいるので(
図1(a))、
図2(b)に示すような乱れた配向状態になりやすい。このため、強化繊維基材30が下金型10のキャビティ縁部(エッジ部)でせん断力を受けた際に、強化繊維の配向の乱れが生じやすい。
【0026】
熱可塑性樹脂を強化繊維に半含浸させた強化繊維基材の成形加工は、熱可塑性樹脂が強化繊維の配向を保持することができる金型の温度範囲で行えばよい。例えば、強化繊維基材の成形加工を室温で行ってもよい。しかしながら、熱可塑性樹脂の完全含浸を行う次工程を考えれば、できるだけ高温で強化繊維基材の成形加工を行うのが好ましい。すなわち、半含浸させた強化繊維基材の成形加工は、熱可塑性樹脂の特性、加工形状、加工の程度、経済性などを考慮して強化繊維基材の最適な温度範囲で行われる。
【0027】
この成形加工された強化繊維基材は、金型内に保持し、加圧状態で金型温度を昇温して熱可塑性樹脂を完全含浸させる。熱可塑性樹脂を完全含浸させる温度は、熱可塑性樹脂の転移温度以上であって、熱可塑性樹脂の種類、所要の目標見かけ密度ρcなどに応じて最適な温度が選択される。この完全含浸工程は、強化繊維基材が上金型と下金型に密着した状態で行われるので、強化繊維基材を迅速かつ均一に加熱することができ、均質な繊維強化成形品を成形することができる。
【0028】
強化繊維基材の完全含浸を行うには、見かけ密度ρが目標見かけ密度ρcの95%以上になるように行う。これにより、完全含浸させた繊維強化基材のボイド率を5%以下にすることができ、所定の曲げ強度または曲げ弾性率を有する繊維強化成形品を得ることができる。例えば、炭素繊維からなる強化繊維基材に熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂を含浸させたものについて、そのボイド率(空洞率)と曲げ強度および曲げ弾性率の関係を求めると、ボイド率が5%を超えると曲げ強度が大きく低下し、最大強度の約5割の強度まで低下する。そして、ボイド率が約1%以下のときに曲げ強度または曲げ弾性率が最大値を示す。すなわち、完全含浸させた繊維強化基材のボイド率は5%以下であることが必要であり、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。
【0029】
強化繊維基材の見かけ密度ρは、所定の密度の繊維強化成形品を得ることができ、また、成形加工の際に強化繊維の配向ずれを防止できるように、強化繊維基材の性状(材質、構成、形状、目付、積層枚数等)を考慮して目標見かけ密度ρcの50%〜2%の最適な密度が選択される。これにより、ボイドやシワなどの欠陥が少なく、剪断力が作用するような加工を行う場合においても強化繊維の配向乱れがなく賦形性に優れた繊維強化成形品を成形することができる。強化繊維基材の見かけ密度が小さいほど(未含浸部が多いほど)、強化繊維基材の成形加工が容易になる。そのため、熱可塑性樹脂の転移温度以下の温度でも強化繊維基材を成形加工することができ、室温で成形加工をすることも可能にすることができる。
【実施例1】
【0030】
皿状の繊維強化成形品の成形試験を行った。繊維強化成形品の形状は、肉厚0.5mm、底面のサイズ60×95mm、周壁の高さ15mm(フランジの幅10mm)であった。使用した強化繊維基材は、目付63g/m
2の平織の炭素繊維からなり、熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂(融点225℃)であった。
前記ポリアミド樹脂を半含浸させた強化繊維基材は、8枚を積層したものを使用した。
【0031】
成形試験は、
図3(a)に示す金型を使用して行った。先ず、下金型10及び上金型20を160℃に加熱し、
図3(b)及び(c)に示すように、強化繊維基材30を金型(下金型10及び上金型20)に載置し、加圧した。加圧力は、1MPaであった。そして、その加圧力を維持したままで金型を240℃まで昇温し、240℃に達した後に加圧力を5MPaに昇圧し、1分保持して強化繊維基材30にポリアミド樹脂を完全含浸させた(
図3(d))。最後に、金型を100℃以下まで冷却した後、成形された繊維強化成形品を金型から取り出した(
図3(e))。
【0032】
成形された繊維強化成形品の見かけ密度ρは99.5%以上であった。繊維強化成形品において、強化繊維のずれが生じ易い周壁からフランジにかけて(金型のエッジ部に対応する部分)、
図2(b)に示すような強化繊維のずれは、成形前に炭素繊維織物の繊維束の幅が3mmであったものが最大で3.9mm(30%のずれ)、平均で3.3mm(10%のずれ)であった。
【符号の説明】
【0033】
1 経糸
2 緯糸
3 熱可塑性樹脂
10 下金型
20 上金型
30 強化繊維基材