特許第6148292号(P6148292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6148292地絡方向継電装置と地絡方向継電装置システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148292
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】地絡方向継電装置と地絡方向継電装置システム
(51)【国際特許分類】
   H02H 3/38 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   H02H3/38 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-140118(P2015-140118)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2017-22917(P2017-22917A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167107
【氏名又は名称】光商工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一朗
【審査官】 早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−320828(JP,A)
【文献】 特開2002−118954(JP,A)
【文献】 特開2000−324680(JP,A)
【文献】 特開2008−118763(JP,A)
【文献】 特開2001−095146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H3/38
G01R31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接地配電線路に、零相電流を検出する零相変流器と零相電圧を検出する零相電圧基準入力装置を設け、非接地配電線路に地絡事故が生じたときに流れる零相電流を零相電流要素の設定レベル検出器に入力すると共に、零相電圧を零相電圧要素の設定レベル検出器に入力し、零相電流要素と零相電圧要素の各設定レベル検出器の出力による位相を判別して地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する位相判別回路を備え
非接地配電線路に地絡事故が生じたとき、設置された零相変流器を境にして、電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が、負荷側対地静電容量に流れる電流より大きく、かつ零相変流器より負荷側対地静電容量が所定値CL以下の非接地配電線路で使用される地絡方向継電装置において、
基準零相電流比較要素を設け、
基準零相電流比較要素は、前記零相電圧を入力して地絡事故発生時の零相電圧値に対応した前記負荷側対地静電容量に流れる基準零相電流値I0nを演算する基準零相電流演算手段と、
基準零相電流演算手段により算出された基準零相電流値I0nと前記零相電流要素からの零相電流I0とを比較してI0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、
前記零相電流要素に設けられてI0Lhが設定される高感度レベル検出値と、
配電線路に地絡事故が生じたとき、設置された零相変流器を境にして、比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段を備えたことを特徴とする地絡方向継電装置。
【請求項2】
前記基準零相電流演算手段は、基準零相電流値I0nを式(2−1)で求めることを特徴とする請求項1記載の地絡方向継電装置。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2−1)
ただし、V0は零相電圧値、fは電路周波数、所定値CLは電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流>負荷側対地静電容量に流れる電流、となる三相一括の負荷側対地静電容量値である。
【請求項3】
零相電圧を検出する零相電圧基準入力装置を備えた地絡方向継電装置DGRaと、零相電圧基準入力装置を備えてない地絡方向継電装置DGRbとでシステム構成され、
地絡方向継電装置DGRaは、非接地配電線路で地絡事故が生じたときに流れる零相電流を零相変流器で検出して零相電流要素の設定レベル検出器に入力すると共に、零相電圧を零相電圧要素の設定レベル検出器に入力し、零相電流要素と零相電圧要素の各設定レベル検出器の出力信号の位相を判別して地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する位相判別回路を備え、
前記地絡方向継電装置DGRbは、非接地配電線路の地絡事故が生じたときに零相変流器により零相電流を検出し、零相電流が零相電流要素で設定されたレベル以上時に位相判別手段に出力し、位相判別手段で前記地絡方向継電装置DGRaから送信された零相電圧V0の位相判別信号V0pとの位相を判別し、地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する地絡方向継電装置システムであって、
零相変流器の設置された非接地配電線路に地絡事故が生じたとき、零相変流器を境にして、電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が、負荷側対地静電容量に流れる電流より大きく、かつ零相変流器より負荷側対地静電容量が所定値CL以下の非接地配電線路で使用するものにおいて、
前記地絡方向継電装置DGRaに基準零相電流比較要素を設け、
基準零相電流比較要素は、零相電圧を入力し地絡事故発生時の零相電圧値に対応して前記負荷側対地静電容量に流れる基準零相電流値I0nを演算する基準零相電流演算手段と、
基準零相電流演算手段により算出された基準零相電流値I0nと前記零相電流要素からの零相電流I0とを比較し、I0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、 前記零相電流要素に設けられてI0Lhが設定される高感度レベル検出値と、
前記比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段と、
前記零相電圧V0を前記地絡方向継電装置DGRbに送信するV0電圧値送信手段を設け、
前記地絡方向継電装置DGRbは、
受信した零相電圧V0を基に基準零相電流値I0nを演算で求め、この基準零相電流値I0nと零相電流要素で検出した零相電流I0とを比較し、I0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、
前記比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段と、
を備えたことを特徴とする地絡方向継電装置システム。
【請求項4】
前記地絡方向継電装置DGRaの基準零相電流演算手段は、基準零相電流値I0nを式(2−2)で求めることを特徴とする請求項3記載の地絡方向継電装置システム。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2−2)
ただし、V0は零相電圧値、fは電路周波数、所定値CLは電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流>負荷側対地静電容量に流れる電流、となる三相一括の負荷側対地静電容量値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微地絡検出機能を有する地絡方向継電装置と地絡方向継電装置システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非接地配電線路に用いられる地絡方向継電装置は、地絡事故時の零相電圧を零相電圧基準入力装置で取り出し、この零相電圧と配電線路に挿入された零相変流器で得られる零相電流とを比較し、挿入された零相変流器からみて電源側か負荷側かの地絡事故の判定を行っている。
【0003】
近年、配電線路のケーブル化等で対地静電容量が増加し、軽微な地絡事故では零相電圧が上昇せず、地絡事故がある程度進んでから零相電圧が継電器の設定レベルを超えて動作する事例が多く、需要家側に設置された継電器と電力会社に設置された継電器が同時に動作するか、または電力会社の継電器が先に動作する。このような場合、需要家側での保護動作ができない状態が続き停電区間を拡大する。
【0004】
地絡事故を高感度で検出するには、零相電圧を取り出す零相電圧基準入力装置自体で発生する残留電圧を小さくする必要があり、そのためには零相電圧基準入力装置の各相電圧を検出する素子(例えばコンデンサ)のバラツキを極力小さくする必要があるが限度がある。このような理由で、地絡方向継電装置の零相電圧の設定レベルをあまり小さな値に設定しても零相電圧の位相を正確に検出できないため、発生した地絡事故が電源側か負荷側かの判別が正確にできなかった。
【0005】
そこで、特許文献1では、検出される零相電圧V0および零相電流I0の設定レベルをV0=5%、I0=0.2Aとしたとき、配電線路に挿入された零相変流器以降の負荷側対地静電容量を、電源側地絡事故で零相電圧V0が5%のとき、負荷側対地静電容量に流れる零相電流I0が0.2A以下となるように規定し、零相電圧V0が5%のとき、零相変流器に流れる零相電流I0が0.2A以下のときは電源側地絡事故と判定し、0.2A以上のときを負荷側地絡事故と判定し、動作するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−103417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1における地絡方向継電装置の具体例では、V0=5%、I0=0.2Aとなっているが、零相電流I0の設定レベルを0.2Aから0.1Aの高感度にしたとき、零相電圧V0の設定レベルを5%とすると地絡事故でI0=0.1A以上となっても電源側か負荷側地絡事故かの判別ができない。そのため、零相電圧V0の設定レベルに2.5%を新たに設ける必要がある。また、それ以上に零相電圧V0の設定レベルを高感度にするには、先に述べた素子のバラツキ等の理由により出来ないという課題があった。
【0008】
また、地絡方向継電装置を複数用いてシステムを構成する場合、零相電圧基準入力装置は高価なことから1台とし、この零相電圧基準入力装置を有する地絡方向継電装置DGRaと、零相電圧基準入力装置を有しない地絡方向継電装置DGRbでシステム構成し、地絡方向継電装置DGRbは地絡方向継電装置DGRaから位相判別信号を貰うことで零相電圧V0の設定レベルを超えたと判断すると共に、零相電流I0が設定レベルを超えると位相比較して電源側か負荷側地絡事故かを判断するシステムが大半である。
【0009】
このようなシステムで、特許文献1を用いた地絡方向継電装置では、地絡方向継電装置DGRaからの位相判別信号がない状態で零相電流I0が設定レベルを超えると負荷側地絡事故と判断して動作するため、地絡方向継電装置DGRaの零相電圧設定レベルを低感度に設定すると、地絡方向継電装置DGRbが貰い事故で動作するという課題がある。
【0010】
本発明が目的とするところは、零相電圧設定値に関係なく高感度の零相電流設定値の設定を可能とする等の地絡方向継電装置と地絡方向継電装置システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の地絡方向継電装置は、非接地配電線路に、零相電流を検出する零相変流器と零相電圧を検出する零相電圧基準入力装置を設け、非接地配電線路に地絡事故が生じたときに流れる零相電流を零相電流要素の設定レベル検出器に入力すると共に、零相電圧を零相電圧要素の設定レベル検出器に入力し、零相電流要素と零相電圧要素の各設定レベル検出器の出力による位相を判別して地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する位相判別回路を備え
非接地配電線路に地絡事故が生じたとき、設置された零相変流器を境にして、電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が、負荷側対地静電容量に流れる電流より大きく、かつ零相変流器より負荷側対地静電容量が所定値CL以下の非接地配電線路で使用される地絡方向継電装置において、
基準零相電流比較要素を設け、
基準零相電流比較要素は、前記零相電圧を入力し地絡事故発生時の零相電圧値に対応し前記負荷側対地静電容量に流れる基準零相電流値I0nを演算する基準零相電流演算手段と、
基準零相電流演算手段により算出された基準零相電流値I0nと前記零相電流要素からの零相電流I0とを比較してI0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、
前記零相電流要素に設けられてI0Lhが設定される高感度レベル検出値と、
配電線路に地絡事故が生じたとき、設置された零相変流器を境にして、比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の地絡方向継電装置の基準零相電流演算手段は、基準零相電流値I0nを式(2−1)で求めることを特徴とする。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2−1)
ただし、V0は零相電圧値、fは電路周波数、所定値CLは電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流>負荷側対地静電容量に流れる電流、となる三相一括の負荷側対地静電容量値である。
【0014】
本発明の地絡方向継電装置システムは、零相電圧を検出する零相電圧基準入力装置を備えた地絡方向継電装置DGRaと、零相電圧基準入力装置を備えてない地絡方向継電装置DGRbとでシステム構成され、
地絡方向継電装置DGRaは、非接地配電線路で地絡事故が生じたときに流れる零相電流を零相変流器で検出して零相電流要素の設定レベル検出器に入力すると共に、零相電圧を零相電圧要素の設定レベル検出器に入力し、零相電流要素と零相電圧要素の各設定レベル検出器の出力信号の位相を判別して地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する位相判別回路を備え、
前記地絡方向継電装置DGRbは、非接地配電線路の地絡事故が生じたときに零相変流器により零相電流を検出し、零相電流が零相電流要素で設定されたレベル以上時に位相判別手段に出力し、位相判別手段で前記地絡方向継電装置DGRaから送信された零相電圧V0の位相判別信号V0pとの位相を判別し、地絡事故が零相変流器の設置点に対して電源側か負荷側かを判別する地絡方向継電装置システムであって、
零相変流器の設置された非接地配電線路に地絡事故が生じたとき、零相変流器を境にして、電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が、負荷側対地静電容量に流れる電流より大きく、かつ零相変流器より負荷側対地静電容量が所定値CL以下の非接地配電線路で使用するものにおいて、
前記地絡方向継電装置DGRaに基準零相電流比較要素を設け、
基準零相電流比較要素は、零相電圧を入力し地絡事故発生時の零相電圧値に対応して前記負荷側対地静電容量に流れる基準零相電流値I0nを演算する基準零相電流演算手段と、
基準零相電流演算手段により算出された基準零相電流値I0nと前記零相電流要素からの零相電流I0とを比較し、I0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、
前記零相電流要素に設けられてI0Lhが設定される高感度レベル検出値と、
配電線路に地絡事故が生じたとき、設置された零相変流器を境にして、比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段と、
前記零相電圧V0を前記地絡方向継電装置DGRbに送信するV0電圧値送信手段を設け、
前記地絡方向継電装置DGRbは、
受信した零相電圧V0を基に基準零相電流値I0nを演算で求め、この基準零相電流値I0nと零相電流要素で検出した零相電流I0とを比較し、I0>I0n時に判断信号を出力する比較手段と、
前記零相電流要素に設けられてI0Lhが設定される高感度レベル検出値と、
前記比較手段の出力がI0>I0nで、且つ前記零相電流の高感度設定レベルI0Lh以上のときに負荷側地絡事故の判別信号を出力する手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の地絡方向継電システムを構成する零相電圧基準入力装置を備えた地絡方向継電装置DGRaの基準零相電流演算手段は、基準零相電流値I0nを式(2−2)で求めることを特徴とする。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2−2)
ただし、V0は零相電圧値、fは電路周波数、所定値CLは電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流>負荷側対地静電容量に流れる電流、となる三相一括の負荷側対地静電容量値である。
【発明の効果】
【0016】
以上のとおり、本発明によれば、次のような効果を有するものである。
(1)設置された零相変流器の負荷側対地静電容量が所定値以下で、且つ地絡事故が生じたとき負荷側対地静電容量に流れる電流よりも大きい電流が電源側に流れる非接地配電線路であれば、その時の零相電圧V0の値に応じた基準零相電流値I0nを演算し、求めた値を方向判断基準としているため、零相電圧設定値に関係なく高感度の零相電流設定値の設定が可能となる。
(2)零相電流設定値の高感度設定が可能となることで、一般的な地絡方向継電装置の地絡検出動作とは別に、高感度の電流設定値を設けて微地絡検出の警報装置として予防保全に役立てることも可能となる。
(3)零相電圧基準入力装置ZPDを有する地絡方向継電装置DGRaの零相電圧設定値に関係なく、零相電圧基準入力装置ZPDを有しない地絡方向継電装置DGRbの零相電流に高感度設定レベルを設定することができる。
(4)零相電圧基準入力装置ZPDを有しない地絡方向継電装置DGRbは、零相電圧基準入力装置ZPDを持たなくとも、零相電圧基準入力装置ZPDを有する地絡方向継電装置DGRaから位相判別信号V0pと零相電圧V0を貰うことで、高感度の地絡保護を経済的に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態を示す地絡方向継電装置の構成図。
図2】本発明の実施形態を示す地絡方向継電装置システムの構成図。
図3】零相電圧基準入力装置を備えてない地絡方向継電装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の地絡方向継電装置は、非接地配電線路に地絡事故が生じたとき配電線路に設置された零相変流器を境にして電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と、電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が、負荷側対地静電容量に流れる電流より大きい電路条件で、かつ零相変流器より負荷側の対地静電容量値CL以下の非接地配電線路で使用するものとする。
【0019】
零相電圧の設定レベルをV0L、零相電流の設定レベルをI0Lとしたとき、零相電圧V0が設定レベルV0L以上のときは、零相電圧と零相電流の位相を比較して地絡方向判別し、零相変流器より負荷側の対地静電容量を所定値CLとしたとき、零相電圧基準入力装置で検出した零相電圧V0によって流れるであろう零相電流値を演算により求めて基準零相電流値I0nとし、零相変流器で検出した零相電流I0が零相電流の設定レベルI0Lとは別に設けた高感度の設定レベルI0Lh以上であれば負荷側地絡事故と判別する。また、軽微な地絡事故で位相比較するに不十分な零相電圧および/又は零相電流でも電源側か負荷側地絡事故かの判別を可能としたものである。
【0020】
ただし、負荷側対地静電容量の所定値CLは三相一括の対地静電容量で、零相電圧値をV0、電路周波数f、零相電流の設定レベルをI0Lとしたとき、式(1)で求められる静電容量以下とする。
L=I0L/(2π×f×V0) …… (1)
基準零相電流値I0nは式(2)で求める。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2)
以下図に基づき詳述する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明における零相電圧基準入力装置を有する地絡方向継電装置DGRaの実施例を示す構成図で、20は零相電流要素、30は零相電圧要素、10は基準零相電流比較要素である。零相電流要素20には、配電線路に挿入された零相変流器により検出した零相電流I0が入力され、フィルタ21を通すことで基本波成分を取り出す。零相電流I0の基本波成分は増幅器22で増幅され、設定レベルI0Lが設定された低感度レベル検出器23と、設定レベルI0Lhが設定された高感度レベル検出器26および基準零相電流比較要素10にそれぞれ出力される。低感度レベル検出器23による検出値はアンド回路25の一方の入力端に入力され、アンド回路25の他方の入力端には波形整形回路24で波形整形された零相電流I0の基本波成分の矩形波が入力されて、アンド条件成立時に位相判別回路40に出力される。高感度レベル検出器26では、設定レベルI0Lhの高感度レベルが設定され、検出された零相電流I0が高感度設定レベルI0Lh以上となったときにその信号を基準零相電流比較要素10に出力する。
【0022】
零相電圧要素30には、図示省略された零相電圧基準入力装置ZPDにより検出された零相電圧V0が入力される。零相電圧基準入力装置ZPDは、例えばコンデンサなどで構成され、検出された零相電圧V0はフィルタ31により基本波成分が抽出され、増幅器32を介してレベル検出器33と基準零相電流比較要素10にそれぞれ出力される。レベル検出器33の出力はアンド回路35の一方の入力端に入力され、アンド回路35の他方の入力端には波形整形回路34で波形整形された零相電圧の基本波成分の矩形波が入力され、アンド条件成立時に位相判別回路40に出力される。
【0023】
位相判別回路40は、零相電流分と零相電圧分の両信号の位相比較をして地絡事故が零相変流器に対して電源側か負荷側かを判別し、負荷側と判別したときに判別信号を時限回路50に出力し、所定時間経過後にリレーXを介して所定の保護動作を行う。
【0024】
本発明では、基準零相電流比較要素10を追加したものである。増幅器32からの零相電圧V0は基準零相電流演算手段11に入力され、式(2)に基づいて基準零相電流値I0nを求める。
0n=2π×f×CL×V0 …… (2)
基準零相電流演算手段11で算出された基準零相電流値I0nは比較手段12に入力されて零相電流I0と比較され、I0>I0n時に負荷側地絡事故と判定してアンド回路13の一方の入力端子に出力信号を印加する。アンド回路13の他方の入力端子には、高感度レベル検出器26で設定された高感度の零相電流の設定レベルI0Lhが印加されており、高感度設定レベルの信号有りを条件として判別信号を時限回路50,50´に出力し、所定時間経過後にそれぞれのリレーX,Yを介して所定の保護動作を行う。
【0025】
ここで、非接地配電線路の電路電圧を6600V、電路周波数を50Hz、零相電圧の設定レベルV0Lを5%、零相電流の設定レベルI0Lを0.2Aとすると、このとき地絡方向継電装置DGRaの負荷側対地静電容量の所定値、CLaは式(1)より3.3μF以下となる。負荷側対地静電容量CLaを3.3μF以下とし、電源側で零相電圧V0が完全地絡の2.5%(V0=95.3V)の地絡事故が発生したとすると、負荷側対地静電容量CLaに流れる零相電流I0aは式(2)で求められ、0.1A以下となり地絡方向継電装置DGRaは電源側地絡事故と判断する。
【0026】
負荷側で同様の地絡事故が発生すると、地絡事故が生じたとき電源側接地変圧器(図示省略)の制限抵抗に流れる電流と電源側対地静電容量Ckに流れる電流の合成電流が負荷側対地静電容量CLaに流れる電流より大きい条件であれば、零相電流I0aは0.1A以上流れることになり、地絡方向継電装置DGRaは負荷側地絡事故と判断する。
【0027】
なお、図1において、60はV0p位相判別信号送信手段、70はV0電圧値送信手段で、零相電圧基準入力装置を有する地絡方向継電装置DGRaと零相電圧基準入力装置を備えてない地絡方向継電装置DGRbで地絡方向継電装置システムを構成する場合、地絡方向継電装置DGRbに位相判別信号V0pと零相電圧V0を送信する場合に使用されるもので、1台の地絡方向継電装置の場合には不要となる。
【0028】
以上のように、本発明での地絡方向継電装置では、配電線路に設置される零相変流器を境にして負荷側対地静電容量値CL以下で、且つ地絡事故が生じたとき電源側接地変圧器の制限抵抗により流れる電流と、電源側対地静電容量に流れる電流より大きい電路条件とすることで、零相電圧が発生しにくい電路および/又は零相電流が小さい軽微な事故でも、零相電圧V0の値に応じて式(2)で求めた零相電流値を、発生した零相電圧値での方向判別のための基準零相電流値I0nとし、I0>I0n時に負荷側地絡事故と判断する。
【0029】
このため、零相電圧の設定レベルV0L以下でも高感度の設定値V0Lを設けることなく、高感度レベル検出器26における高感度の零相電流設定レベルI0Lhに、例えば50mA、30mAなどの設定レベルを設けることが可能となる。したがって、電源側地絡事故では、負荷側対地静電容量を所定値CL以下とすることで、零相電流I0を基準零相電流値I0n以下となるようにする。
【0030】
また、負荷側地絡事故では、零相電流I0を基準零相電流値I0n以上流す必要があることから、地絡事故が生じたとき電源側接地変圧器の制限抵抗に流れる電流と、電源側対地静電容量に流れる電流の合成電流が負荷側対地静電容量に流れる電流より大きい電路条件で使用する必要がある。
【0031】
以上、第1の実施例によれば、設置された零相変流器の負荷側対地静電容量が所定値以下で、且つ地絡事故が生じたとき負荷側対地静電容量に流れる電流よりも大きい電流が電源側に流れる非接地配電線路であれば、その時の零相電圧V0の値に応じた基準零相電流値I0nを演算し、求めた値を方向判断基準としているため、零相電圧設定値に関係なく高感度の零相電流設定値の設定が可能となる。また、零相電流設定値の高感度設定が可能となることで、一般的な地絡方向継電装置の地絡検出動作とは別に、高感度の電流設定値を設けて微地絡検出の警報装置として予防保全に役立てることも可能となる。
【実施例2】
【0032】
図2は本発明による地絡方向継電装置システムの構成図を示したものである。零相電圧基準入力装置ZPDを有する地絡方向継電装置DGRaと、零相電圧基準入力装置ZPDを持たない地絡方向継電装置DGRbにより地絡方向継電装置システムを構成した場合、地絡方向継電装置DGRaは零相電圧基準入力装置ZPDから零相電圧V0の値が入力されるため、基準零相電流値I0nを求めて図1で示すように高感度の地絡方向判別を可能としているが、地絡方向継電装置DGRbは零相電圧基準入力装置ZPDを持たないため、基準零相電流値I0nを求めることができない。
【0033】
第2の実施例では、地絡方向継電装置DGRaにV0p位相判別信号送信手段60とV0電圧値送信手段70を設け、各送信手段を介して地絡方向継電装置DGRbに送り、地絡方向継電装置DGRbでは送信された零相電圧V0を受信手段15で受信し、この零相電圧V0の値を基に基準零相電流値I0nを演算で求め、高感度の地絡方向判別を可能としたものである。
【0034】
図2において、ZPDは零相電圧基準入力装置、ZCTa,ZCTbは零相変流器、Ckは電源側対地静電容量、CLa,CLbは負荷側対地静電容量である。地絡方向継電装置DGRaは図1と同様に構成され、この地絡方向継電装置DGRaには零相電圧基準入力装置ZPDで検出された零相電圧V0が零相電圧要素30に入力され、また、零相変流器ZCTaで検出された零相電流I0が零相電流要素20に入力されて位相比較が行われる。
【0035】
地絡方向継電装置DGRbは、図3で示すように地絡方向継電装置DGRb固有の零相電圧基準入力装置ZPDを備えてなく、したがって零相電圧要素30´の構成においても、地絡方向継電装置DGRaのV0p位相判別信号送信手段60からの位相判別信号V0pを受信するV0p位相判別信号受信手段36のみの構成となっている。
【0036】
また、地絡方向継電装置DGRbの基準零相電流比較要素10´にはV0電圧値受信手段15が設けられ、V0電圧値送信手段70から送られた零相電圧V0を受信して基準零相電流演算手段11に入力され、基準零相電流値をI0nが算出される。算出された基準零相電流値I0nは比較手段12に入力されて零相電流I0と比較され、I0>I0n時に負荷側地絡事故と判定してアンド回路13の一方の入力端子に出力信号を印加する。そのとき、零相電流要素20の高感度レベル検出器26の零相電流I0の設定レベルに応じた出力がアンド回路13の他方の入力端子に印加されていることを条件として判別信号を時限回路50,50´に出力し、所定時間経過後にそれぞれのリレーX,Yを介して所定の保護動作を行う。
【0037】
このように、地絡方向継電装置DGRbは、零相電圧V0の位相判別信号V0pと、零相電圧値を地絡方向継電装置DGRaから取得することで、地絡方向継電装置DGRbにおいても高感度の地絡保護が実現できる。
なお、V0p位相判別信号送信手段60およびV0電圧値送信手段70については、4〜20mA、0〜5Vなどのアナログ方式の他、EIA−485などのディジタル方式で数値化したものを用いてもよい。
【0038】
したがって、第2の実施例によれば、第1実施例の効果の他に次の効果が得られるものである。すなわち、零相電圧基準入力装置ZPDを有する地絡方向継電装置DGRaの零相電圧設定値に関係なく、零相電圧基準入力装置ZPDを有しない地絡方向継電装置DGRbの零相電流設定レベルを設定することができる。また、零相電圧基準入力装置ZPDを有しない地絡方向継電装置DGRbは、零相電圧基準入力装置ZPDを持たなくとも、零相電圧基準入力装置ZPDを有する地絡方向継電装置DGRaから位相判別信号V0pと零相電圧V0を貰うことで、高感度の地絡保護を経済的に構築することができる。
【符号の説明】
【0039】
10… 基準零相電流比較要素
11… 基準零相電流演算手段
12… 比較手段
20… 零相電流要素
22… 増幅器
23… 波形整形回路
24… 低感度レベル検出器
26… 高感度レベル検出器
30… 零相電圧要素
32… 増幅器
33… レベル検出器
34… 波形整形回路
図1
図2
図3