(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炎症性疾患が、アトピー、乾癬、皮膚炎、アレルギー、関節炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、膀胱炎、腎炎、骨盤内炎症性疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、アテローム性動脈硬化症、喘息、動脈硬化、浮腫、関節リウマチ、遅延型アレルギー(IV型アレルギー)、移植片拒絶、移植片対宿主病、自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、嚢胞性線維症、糖尿病網膜症、虚血再灌流傷害、再狭窄、糸球体腎炎及び消化管アレルギーからなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【背景技術】
【0002】
炎症は、細胞又は組織がある原因によって損傷を受けた時に、体内反応を最小化し、損傷を受けた部位を元の状態に戻すための防御作用として起きる反応である。炎症は、神経、血管、リンパ管、体液及び細胞の体内反応を引き起こし、結果として痛み、腫れ、発赤及び発熱を起こし、それによって、体の機能障害を誘発する。炎症を誘発する原因は、外傷、凍傷、やけど及び放射線などの物理的要因、酸のような化学物質などの化学的要因及び抗体反応などの免疫学的要因を含む。炎症は、血管及びホルモンの不均衡によっても起こり得る。外部刺激によって損傷を受けた細胞は、炎症誘発性サイトカイン、ケモカイン、インターロイキン及びインターフェロンなどの様々な生物学的メディエーターを分泌し、それによって血管拡張が起こり、次いで透過性が増加し、その結果、抗体、補体、血漿及び食細胞が炎症部位に集まる。この現象が、紅斑の原因になる。
【0003】
炎症の原因を除去する作用や、炎症を除去するために体内反応及び症状を緩和する作用をする薬物を、抗炎症剤という。現在まで、抗炎症の目的で使用される物質は、イブプロフェン及びインドメタシンなどの非ステロイド系、ならびにデキサメタゾンなどのステロイド系がある。しかし、これらの物質の使用は、安定性の問題のために制限されてきた。このようなことから、最大限の効果及び最小限の副作用を有する安全な抗炎症剤の開発が高く求められている。
【0004】
炎症と関連した炎症性疾患は、アトピー、乾癬、皮膚炎、アレルギー、関節炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、膀胱炎、腎炎、骨盤内炎症性疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、アテローム性動脈硬化症、喘息、動脈硬化症、浮腫、関節リウマチ、遅延型アレルギー(IV型アレルギー)、移植片拒絶、移植片対宿主病、自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、関節炎、嚢胞性線維症、糖尿病網膜症、鼻炎、虚血再灌流傷害、再狭窄、糸球体腎炎及び消化管アレルギーなどを含む。
【0005】
前記炎症性疾患は、様々な炎症性サイトカインによって引き起こることが知られている。
【0006】
具体的には、インターロイキン-6(IL-6)は全身性紅斑性狼瘡と密接に関係しており(非特許文献1、2)、インターロイキン-4(IL-4)又はインターロイキン-12(IL-12)はアテローム性動脈硬化と関係しており(非特許文献3)、インターロイキン-10(IL-10)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-1β(IL-1β)、IL-6又は腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は骨盤内炎症性疾患と関係しており(非特許文献4、5)、IF-4又はインターロイキン-5(IL-5)は喘息と関係しており(非特許文献6、7、8)、IL-4、IL-5又はIL-12はアトピー又は皮膚炎と関係しており(非特許文献9、10)、IL-2又はインターロイキン-8(IL-8)は乾癬と関係しており(非特許文献11、12)、IL-6、IL-12又はインターロイキン-17(IL-17)は炎症性腸疾患と関係しており(非特許文献13、14)、IL-1βは 強直性脊椎炎と関係しており(非特許文献15)、IL-12は多発性硬化症と関係しており(非特許文献16)、そしてIL-2及びIL-10は移植片対宿主病と関係している(非特許文献17、18)。これらの知見により、炎症性サイトカインは、炎症性疾患の治療において重要な治療標的分子であることが明らかであり、そして、炎症性サイトカインの分泌を減少させることができれば、炎症性疾患を治療することができる。
【0007】
ところで、関節リウマチは、炎症性疾患の代表的な疾患である。関節リウマチは、複数の関節に起こる全身性炎症性自己免疫疾患である。摩擦による単なる関節損傷により引き起こされる変形性関節炎とは違って、関節リウマチは、疾患発病の過程で起こる炎症反応を含む様々な免疫反応を伴う。関節リウマチの最初の症状は、関節内の滑膜の組織細胞の活性化及び炎症性細胞の浸潤及び活性化であり、その結果、関節内の滑膜の組織、軟骨及び骨に複合的な炎症反応を引き起こす。これらの炎症反応は 重度の浮腫、紅斑、熱感といった症状を引き起こし、そして、このような合併症が続く場合、滑膜組織、靱帯、軟骨、骨、及びその他の組織といった、関節を形成する組織が、深刻な損傷を受けることになる。これは、最終的に、関節の変形、破壊及び機能不全をもたらす。関節リウマチは、生産的な年齢である25〜55才で最も多く、そのため、莫大な社会的及び経済的損失が予想され、疾患により生じる痛み、疲労及び鬱のため、患者の生活の質もまた低下すると予想される。
【0008】
関節リウマチを含む多くの炎症性疾患を治療するために現在用いられる治療剤は、デキサメタゾンなどのステロイド系の抗炎症剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド系の抗炎症剤及びメトトレキサートなどの抗リウマチ剤がある。しかしながら、このような治療剤は、疾患の原因を治療するわけではない。また、ステロイドホルモンは、関節炎の治療剤として多く用いられてきたが、その副作用が明確になり、その使用が制限された。さらに、関節リウマチは、長期間にわたって患者に激痛をもたらすため、患者は、抗炎症剤を服用しなければならないが、抗炎症剤の多くが潜在的に重大な副作用を持つため、使用期間と服用量の観点から抗炎症剤の選択と処方に慎重でなければならない。同様に、既存の化学療法剤は、薬剤の長期の使用を制限する多様な副作用、抗炎症効果の不足、既に進行した関節炎の治療効果の不足などの欠点を有する。さらに、リウマチ性疾患の病因の背後にあるメカニズムが、近年、細胞又は分子レベルで明らかになっている。従って、その治療のために、経験的な抗リウマチ剤を用いる代わりに、炎症誘発性サイトカインを標的とした治療法として、組換えDNA技術により生産されたTNF-α、IL-1及びIL-6などの水溶性受容体を含む生物学的製剤の使用が増加している。近年、関節リウマチの治療のために、既存の抗リウマチ剤であるメトトレキサートに代表される化学療法剤と生物学的製剤を組み合わせた治療が注目され、それによって、関節炎治療剤の市場における生物学的薬剤の重要性が高まっている。
【0009】
しかしながら、関節炎の治療の代表的な生物学的製剤であるTNF-α製剤は、感染のリスク、特に、結核のリスクを増加させることが知られている。さらに、TNF-αの生物学的製剤は、高価な薬剤であり、これは患者に医療費の大きな負担を負わせる。また、患者の20〜30%がこの製剤に対して抵抗性があり、治療に対する反応を示さないと報告されている。
【0010】
従って、前記問題の解決策の発見、及び激しい炎症症状と痛みに対する治療効果を有する関節リウマチを含む炎症性疾患の薬剤の開発への要求が高い。現在使用されている炎症性疾患の薬剤の大部分は、様々な程度の深刻さを有する何らかの副作用を有する。特に、関節リウマチの治療のためには、薬剤の長期投与が必要である。従って、副作用が殆どない薬剤の開発が、非常に重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Lupus.2004;13(5):339-343,
【非特許文献2】J Rheumatol.2010 Jan;37(1):60-70,
【非特許文献3】Am J Pathol.2003 Sep;163(3):1117-1125
【非特許文献4】Clin Chem Lab Med.2008;46(11):1609-1616
【非特許文献5】Clin Chem Lab Med. 2008;46(11):1609-1616,
【非特許文献6】J Allergy Clin Immunol.2001 Jun;107(6):963-970
【非特許文献7】Respir Res.2001;2(2):66-70
【非特許文献8】Curr Opin Allergy Clin Immunol.2011 Dec;11(6):565-70
【非特許文献9】J Allergy Clin Immunol. 2001 Sep;108(3):417-23
【非特許文献10】J Investig Allergol Clin Immunol.2007;Vol. 17(1): 20-26,
【非特許文献11】Iranian J Publ Health. 2007;(Vol)36, No.2,PP.87-91
【非特許文献12】Clin Exp Immunol. 1995 Feb;99(2):148-54,
【非特許文献13】World J Gastroenterol.2008 Jul 21;14(27):4280-8,
【非特許文献14】Gut. 2003 Jan;52(1):65-70,
【非特許文献15】Formosan Journal of Rheumatology 2009;23:40-46,
【非特許文献16】Proc Natl Acad Sci U S A.1997 Jan 21;94(2):599-603,
【非特許文献17】Curr Pharm Des. 2004;10(11):1195-205,
【非特許文献18】Blood. 2002 Oct 1;100(7):2650-8,
【非特許文献19】Sciences,10 Mack Publishing Company, 1991
【非特許文献20】Curr. Opin, Biotechnol. (1998)2, 411-452
【非特許文献21】Curr. Opin, Biotechnol. (1997) 8, 435-441
【非特許文献22】Med. Res. Rev. (1999) 19179-197
【非特許文献23】Eur J Pharmacol. 2011: 15;672(1-3):175-179
【非特許文献24】Nature, 283, pp666-668, 1980
【非特許文献25】Arthritis Rheum, 46, pp793-801, 2002
【非特許文献26】Journal of EthnopharEthnopharmacology112 (2007) 408
【発明を実施するための形態】
【0024】
前記目的を達成するための一態様として、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列で表す単離したペプチド又はその断片を提供する。
【0025】
前記断片は、制限されることなく、炎症を予防又は治療する活性を有する配列番号1のアミノ酸配列の断片を含む。例えば、前記断片は、配列番号1のアミノ酸配列中、(i)4番目〜6番目のアミノ酸(プロリン-セリン-プロリン、PSP)を含む6〜13個のアミノ酸の連続的な配列;(ii)10番目〜13番目のアミノ酸(アルギニン-トレオニン-アスパラギン酸-グリシン、RTDG)を含む4〜10個のアミノ酸の連続的な配列;(iii)14番目〜16番目のアミノ酸(アルギニン-トレオニン-アスパラギン酸、RTD)を含む6〜10個のアミノ酸の連続的な配列;(iv)12番目〜13番目のアミノ酸(アスパラギン酸-グリシン、DG)を含む2〜6個のアミノ酸の連続的な配列;又は(v)7番目〜8番目のアミノ酸(アルギニン-アスパラギン酸、RD)を含む2〜6個のアミノ酸の連続的な配列であり得る。或いは、前記断片は、配列番号2〜18からなる群より選択されるいずれか一つのアミノ酸配列であり得る。
【0026】
好ましくは、前記ペプチドは抗炎症効果を有し、制限されることなく、前記配列又はその断片からなるペプチドを含む。
【0027】
本発明の新規ペプチド又はその断片は、以下の配列番号1〜18から選択されるいずれか一つの配列を含んでもよい。
SIS-1: MSLPSPRDGRTDGRTDCTR (配列番号1)
SIS-1#1: MSLPSP (配列番号2)
SIS-1#2: RDGRTDG (配列番号3)
SIS-1#3: RTDCTR (配列番号4)
SIS-1#4: MSLPSPRDGRTDG (配列番号5)
SIS-1#5: PSPRDG (配列番号6)
SIS-1#6: PSPRDGRTDG (配列番号7)
SIS-1#7: RTDG (配列番号8)
SIS-1#8: RDGRTDGRTD (配列番号9)
SIS-1#9: DGRTDG (配列番号10)
SIS-1#10: GRTDG (配列番号11)
SIS-1#11: TDG (配列番号12)
SIS-1#12: DG (配列番号13)
SIS-1#13: RD (配列番号14)
SIS-1#14: RDG (配列番号15)
SIS-1#15: RDGR (配列番号16)
SIS-1#16: RDGRT (配列番号17)
SIS-1#17: RDGRTD (配列番号18)
【0028】
ここで言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従い次のように略して記載した。
アラニン A アルギニン R
アスパラギン N アスパラギン酸 D
システイン C グルタミン酸 E
グルタミン Q グリシン G
ヒスチジン H イソロイシン I
ロイシン L リシン K
メチオニン M フェニルアラニン F
プロリン P セリン S
トレオニン T トリプトファン W
チロシン Y バリン V
【0029】
ここで用いられる、用語「ペプチド又はその断片」とは、アミド結合(ペプチド結合)により連結された2つ以上のアミノ酸からなる重合体を意味する。本発明の目的上、この用語は抗炎症効果を示すペプチド又はその断片を意味する。
【0030】
本発明のペプチド又はその断片は、標的の配列、タグ、標識された残基及びペプチドの半減期及び安定性を増加させる特定の目的のために設計された追加のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0031】
本発明のペプチド又はその断片は、当業者に公知の様々な方法により得ることができる。特に、遺伝子組換え及びタンパク質発現システム、又はペプチド合成及び無細胞タンパク質合成などの化学的合成を通じた試験管内で(in vitro)の合成で調製され得る。
【0032】
より具体的には、ペプチド又はその断片は、例えば、自動ペプチド合成装置又は遺伝子操作技術といった当業者に公知の方法で合成され得るが、それらに制限されるものではない。例えば、所望のペプチドは、遺伝子操作を通じて、融合パートナーと本発明のペプチドとからなる融合タンパク質をコードする融合遺伝子を作製すること;それを宿主微生物に遺伝子導入すること;それを宿主微生物中で融合タンパク質の形態として発現すること;及びタンパク質分解酵素又は化合物を用いることによって、融合タンパク質から本発明のペプチドを切断及び単離することによって作製することができる。この方法のために、Xa因子又はエンテロキナーゼなどのタンパク質分解酵素、或いはCNBr又はヒドロキシルアミンなどの化合物によって切断できるアミノ酸残基をコードするDNA配列を、本発明のペプチドの遺伝子と融合パートナーとの間に挿入することができる。
【0033】
本発明の一実施例によると、本発明者らは、活性化されたB細胞において、18種のペプチドが、炎症性サイトカインであるIL-1A, IL-1B, IL-2, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL-10, IL-12A, IL-13, IL-17A, GM-CSF又はIL-34の分泌を効果的に減少させることを発見した(表2)。そして、配列番号1の代表的なペプチドであるSIS-1ペプチドが、耳浮腫マウスモデルで浮腫を緩和させ(
図2、3)、また、コラーゲン誘導性関節炎マウスモデルで関節炎を緩和させた(
図5〜10)ことを発見し、つまり、本ペプチドが、抗炎症効果を有するペプチドであることを確認した。また、このような抗炎症効果を有するペプチドは、本発明者らによって初めて単離、同定された。
【0034】
他の態様として、本発明は、前記ペプチド又はその断片をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0035】
ここで、ポリヌクレオチドを説明する目的で用いられる、用語「相同性」とは、野生型アミノ酸配列及び野生型ヌクレオチド配列との類似性の程度を示すものである。相同性配列は、当該ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列と75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上同じであり得る遺伝子配列を含む。相同性の比較は、肉眼又は容易に利用可能な比較プログラムで行った。商業的に利用可能なコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の間の相同性をパーセンテージ(%)として計算することができる。相同性(%)は、隣接する配列について計算され得る。前記ペプチドは、当該ペプチドをコードするポリヌクレオチドをベクターに挿入しそれを発現させることによって、大量生産することができる。
【0036】
他の態様として、本発明は、前記ペプチドもしくはその断片又は前記ポリヌクレオチドを含む、炎症性疾患を予防又は治療するための薬学的組成物を提供する。
【0037】
本発明の組成物は、炎症性疾患の治療標的として知られる炎症性サイトカインであるIL-1A, IL-1B, IL-2, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL-10, IL-12A, IL-13, IL-17A, GM-CSF又はIL-34の分泌を阻害することによって、炎症性疾患を予防及び治療する効果を示す。本発明の一実施例において、浮腫動物モデルで、本発明の18種のペプチドが、IL-1A, IL-1B, IL-2, IL-4, IL-5,IL-6, IL-8, IL-10, IL-12A, IL-13, IL-17A, GM-CSF又はIL-34の分泌を効果的に減少させ(表2)、また、代表的な炎症性疾患である浮腫を緩和させる(
図2、3)ことを確認した。つまり、本ペプチドが、実際の動物モデルにおいて炎症を緩和させることによって、炎症性疾患を治療できることを確認した。さらに、コラーゲン誘導性関節炎モデルにおいて、本発明のペプチドでの処置によって、関節炎の症状が緩和したことを確認した(
図5〜8)。組織学的分析において、試験モデルマウスの状態が正常マウスと同程度に維持され(
図9)、自己抗体の力価が血清学的に減少したことから(
図10)、前記ペプチドが炎症性疾患のうち自己免疫疾患を効果的に治療できることが示唆された。従って、本発明のペプチドは、炎症性疾患を予防又は治療するための薬学的組成物として使用できることが確認された。
【0038】
ここで用いられる、用語「炎症性疾患」とは、炎症を主病変とする疾病を総称する意味であり、好ましくは、アトピー、乾癬、皮膚炎、アレルギー、関節炎、鼻炎、中耳炎、咽喉炎、扁桃炎、膀胱炎、腎炎、骨盤内炎症性疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、アテローム性動脈硬化症、喘息、動脈硬化症、浮腫、関節リウマチ、遅延型アレルギー(IV型アレルギー)、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、自己免疫性脳脊髄炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、嚢胞性線維症、糖尿病網膜症、虚血再灌流傷害、冠動脈再狭窄、糸球体腎炎、又は消化管アレルギーなどであり得、より好ましくは、浮腫、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、アテローム性動脈硬化、骨盤内炎症性疾患、喘息、アトピー、皮膚炎、乾癬、消化管アレルギー、強直性脊椎炎、多発性硬化症、又は移植片対宿主疾患であり得るが、これらに制限されない。
【0039】
ここで用いられる、用語「予防」とは、前記組成物の投与により炎症性疾患の発病を抑制又は遅延させる全ての行為を意味し、用語「治療」とは、前記組成物の投与により炎症性疾患の症状が緩和又は改善される全ての行為を意味する。
【0040】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤を含んでもよい。ここで用いられる、用語「薬学的に許容可能な」とは、治療効果を示す十分な量及び副作用を引き起こさない特性を意味し、疾患の種類、 患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合又は同時に使用される薬物の種類など医学分野における公知の要素を基に、当分野の当業者によって容易に決定することができる。
【0041】
本発明で使用可能な担体のタイプは、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合体のアミノ酸(polymeric amino acids)及びアミノ酸共重合体などゆっくり代謝される巨大分子を含む。例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩そして硫酸塩などの無機酸塩、及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩そして安息香酸塩などの有機酸塩などの薬学的に許容可能な塩;水、食塩水、グリセロール及びエタノールなどの液体;及び水和剤、乳化剤又はpH緩衝剤などの補助的物質を使用することができる。薬学的に許容可能な担体の情報は、文献(非特許文献19)に記載されている。薬学的に許容可能な担体を含む組成物は、経口又は非経口製剤などの様々な製剤であり得る。組成物が製剤される場合には、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤などの従来使われてきた希釈剤又は賦形剤を使用して調製することができる。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤及びカプセル剤などが含まれ得る。このような固形製剤は、一つ以上の化合物及び少なくとも一つの賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース及びゼラチンを混ぜて調剤され得る。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム及び滑石などの潤滑剤を使用してもよい。経口投与のための液状製剤は、懸濁剤、液剤、乳剤及びシロップ剤が含まれ、水及び流動パラフィンなどの通常用いられる単純な希釈剤以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、香料及び保存剤を含んでもよい。非経口投与のための製剤は、滅菌水溶液、非水溶媒(non-aqueous solvent)、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤及び坐剤を含んでもよい。非水溶媒及び懸濁溶媒は、プロピレン
グリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール及びオリーブ油などの植物性油;及びオレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどであってもよい。坐剤の基剤は、ウィテップゾール、マクロゴール、トゥイーン61、カカオ脂、ラリナム(laurinum)及びグリセロゼラチンを使用してもよい。
【0042】
さらに、本発明の薬学的組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液、非水溶媒、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤及び坐剤からなる群より選択されるいずれか一つの製剤であってもよい。
【0043】
さらに、本発明の薬学的組成物は、薬学的分野における従来の方法に従い、患者の体に投与するのに適した単位投与型製剤、好ましくは、ペプチド医薬品の投与に有用な製剤として、経口又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄(膜)腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内又は直腸経路などの非経口投与経路を通じて当該技術の従来の方法を利用して投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
また、前記ペプチドは、生理食塩水又は有機溶媒などの薬学的に許容可能な様々な担体と混合して使用され得る。グルコース、スクロース又はデキストランなどの糖質;アスコルビン酸又はグルタチオンなどの抗酸化剤;キレート剤;低分子量タンパク質;又は他の安定化剤を、ペプチドの安定性及び吸収を増加させるための薬剤として使用してもよい。
【0045】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与で、又は分割治療方法による複数投与で長期間にわたって、患者に投与してもよい。本発明の薬学的組成物は、疾患の重症度に応じて有効成分の含量を変えてもよい。本発明のペプチドの望ましい総量は、患者の体重1kg当たり、1日に、好ましくは約0.0001μg〜500mg、最も好ましくは、0.01μg〜100mgであり得る。しかし、患者に対するペプチドの有効量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態及び性別、病気の重症度、食餌及び排泄率などの様々な要因を考慮して決定される。従って、このような点を考慮して、当業者は、本発明の組成物の特定の用途のための適切な有効投与量を決定することができる。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を示す限り、製剤のタイプ、投与経路及び投与方法に特に制限されない。
【0046】
他の態様として、本発明は、前記ペプチドもしくはその断片又は前記ポリヌクレオチドを含む抗炎症剤を提供する。
【0047】
他の態様として、本発明は、前記ペプチド又はその断片を含む、炎症を予防又は改善するための一般用(OTC)医薬組成物を提供する。
【0048】
具体的には、本発明の組成物は、炎症性疾患の予防又は治療の目的でOTC医薬組成物に添加することができる。
【0049】
ここで用いられる、用語「一般用(OTC)医薬」とは、ヒト又は動物の疾病を治療、緩和、処置又は予防の目的で使用される、繊維製品、ゴム製品又はそれと類似したもの;人体に対して弱く又は間接的に作用する、装置又は機械ではない製品或いはそれに類似したもの;感染を予防するために、殺菌、殺虫及びそれに類似したもののために使用される製剤のうちの一つを意味する。すなわち、OTC医薬は、ヒト又は動物の疾病を診断、治療、緩和、処置又は予防の目的で使用される、装置、機械及び器具以外の製品;及びヒト又は動物の構造又は機能に薬理学的影響を与える目的で使用される、装置、機械及び器具以外の製品を意味する。
【0050】
本発明のペプチドがOTC医薬に添加物として使用される場合、そのまま、又は他のOTC医薬と共に、或いはOTC医薬の成分と共に、OTC医薬に添加することができる。本ペプチドは、従来の方法に応じて適宜使用することができる。有効成分の添加量は、使用目的に応じて適宜決定することができる。
【0051】
本発明のOTC医薬組成物は、それらに制限されないが、清浄剤、ボディソープ、うがい薬、ウェットティッシュ、洗浄剤、手洗い用液体せっけん、加湿機充填剤、マスク、軟膏又はフィルター充填剤であることが好ましい。
【0052】
他の態様として、本発明は、前記ペプチド又はその断片を含む、炎症を緩和又は改善するための健康食品組成物を提供する。
【0053】
より具体的には、本発明のペプチド及びその断片は、炎症性疾患を予防又は改善するために健康食品組成物に添加することができる。
【0054】
本発明のペプチド又はその断片を健康食品の添加物として使用する場合、そのまま、又は他の健康食品と共に、或いは健康食品の成分と共に、添加することができる。本ペプチド又はその断片は、従来の方法に従って適宜使用することができる。添加される有効成分の添加量は、使用目的に応じて適宜決定することができる。
【0055】
本発明の健康食品の種類に特に制限はない。前記ペプチドを添加できる健康食品の例としては、通常的な意味での健康食品の全ての種類を含む、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む乳製品、各種スープ、飲料、茶、酒、アルコール飲料及び複合ビタミン剤を含む。前記健康食品は、動物用飼料も含むこともできる。
【0056】
前記以外に、本発明の健康食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、電解物、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、保存剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含んでもよい。その他に、健康食品組成物は、天然果汁、果汁飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含んでもよい。
【0057】
他の態様として、本発明は、前記ペプチド又はその断片を含む、炎症を予防又は改善するための化粧品組成物を提供する。
【0058】
具体的には、本発明のペプチド又はその断片は、炎症を予防又は改善する目的で化粧品組成物に添加することができる。
【0059】
本発明の化粧品組成物は、一般的に乳化又は可溶化製剤として調製することができる。前記乳化製剤の種類は、栄養化粧水、クリーム及びエッセンスを含み、前記可溶化製剤は、柔軟化粧水であってもよい。化粧品組成物の適切な製剤は、制限されないが、溶液、ゲル、固体又はペースト様無水生成物、水相に油相を分散させて得られた乳液、懸濁液、マイクロエマルション、マイクロカプセル、マイクロ顆粒球又はイオン型(リポソーム)、バイオニクス小嚢分散剤、クリーム、化粧水、ローション、パウダー、軟膏、スプレー又はコンシーラースティックであってもよい。さらに、化粧品組成物は、泡又は圧縮された推進剤をさらに含むエアロゾル組成物の形態であってもよい。
【0060】
前記化粧品組成物は、脂肪物質、有機溶媒、溶解剤、増粘剤及びゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤、香料、界面活性剤、水、イオン型又は非イオン型乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、精油、染料、顔料、親水性又は親油性活性剤、脂肪小胞又は通常使用される補助剤を含む化粧品組成物で通常的に使用される任意の他の成分をさらに含んでもよい。
【0061】
他の態様として、本発明は、炎症性疾患を有する疑いのある対象に、本発明のペプチドもしくはその断片又はポリヌクレオチドを含む薬学的組成物を投与する段階を含む、炎症性疾患の治療方法を提供する。
【0062】
本発明において、前記炎症性疾患を有する疑いのある対象は、炎症性疾患を発病したか又は発病する可能性がある、ヒト、マウス及び家畜などを含む哺乳動物を意味するが、本発明のペプチドで治療可能な対象の種類はいずれも制限なく含まれる。炎症性疾患を有する疑いのある対象に本発明のペプチドを含む薬学的組成物を投与することで、対象を効果的に治療することができる。前記炎症性疾患に対しては、前記説明したとおりである。
【0063】
ここで用いられる、用語「投与」とは、炎症性疾患を有する疑いのある対象に、任意の適切な方法によって本発明の薬学的組成物を導入することを意味し、前記組成物は、標的の組織に輸送できるものであれば、経口又は非経口の投与を含む様々な経路を通じて投与してもよい。
【0064】
本発明の治療方法は、本ペプチドを含む薬学的組成物を薬学的有効量で投与する段階を含んでもよい。1日当たりの適した総投与量は、適切な医学的判断で医者によって決定され得る。また、前記組成物は、一回又は複数回で投与してもよい。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度を含む様々な要因、様々な症例に対する具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般健康状態及び性別、食餌、投与時間、投与経路及び組成物の排泄率、治療期間、具体的な組成物と一緒に又は同時に使用される薬物治療の種類、及び医学分野に公知の他の同様な要因によって決定するのが好ましい。
【0065】
他の態様として、本発明は、前記ペプチドの模倣体の調製方法を提供する。
【0066】
具体的には、ペプチドの模倣体を調製する方法は、前記ペプチド又はその断片から抗炎症活性のあるペプチド模倣体を設計する段階;及び設計されたペプチド模倣体を合成する段階を含んでもよい。
【0067】
ここで用いられる、用語「ペプチドの模倣体(mimetic of peptide)」又は「ペプチド模倣体(peptidomimetic)」とは、アミノ酸をその模倣体で代替してもタンパク質の活性に大きな影響を及ぼさないという事実を基に、タンパク質の本来の親アミノ酸を模倣できる化合物を意味する。つまり、アミノ酸残基又はペプチド結合が置換又は修飾された化合物を意味する。ペプチド模倣体を含むタンパク質は、一般的に、天然のタンパク質に比べ、タンパク質分解酵素に対して劣等な基質であり、生体内(in vivo)において、天然のタンパク質より長い活性を有する。
【0068】
ペプチド模倣体は、例えば、コンピュータ化された分子モデリングを用いて設計することができる。具体的には、ペプチド模倣体は、当業者に公知の方法によるケースに応じて、-CH
2NH-、-CH
2S-、-CH
2-CH
2-、-CH = CH-(シス及びトランス)、-CH-CF-(トランス)、CoCH
2-、-CH (OH) CH
2-及び-CH
2SO-からなる群より選択される結合部位で置換された一つ以上のペプチド結合を持つ構造を含むように設計することができる。好ましくは、ペプチド模倣体は、改善された化学的安定性、強化された薬理特性(半減期、吸収性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範囲な生物学的活性スペクトラム)及び減少された抗原性を有する。また、模倣体は、低経費で調製され得る。好ましくは、ペプチド模倣体は、定量的な構造-活性データ及び/又は分子リモデリングを通じて予想される類似体上の非干渉位置に、直接的に又はスペーサー(例えば、アミド基)を介して一つ以上のマーカー又は接合体との共有結合を含むことができる。大部分の非干渉位置は、ペプチド模倣体が、特定の受容体との結合部位を直接的に形成しない位置であり、そのため、治療効果が生じる。さらに、同じ種類のD-アミノ酸で共通配列の一つ以上のアミノ酸を体系的に置換する(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)ことによって、目的の抗炎症効果を有するより安定したペプチドを作製することができる。
【0069】
当業者は、ペプチド模倣体を含むタンパク質の設計及び調製が、実験における過度な試行錯誤を必要としないことを理解できるだろう。例えば、非特許文献20、21、22の文献を参照することができる。
【0070】
他の態様として、本発明は、前記ペプチドの模倣体を設計する方法を提供する。
【0071】
以下、次に提供する実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。しかし、これら実施例は、単に本発明の例示を意味しており、請求項に係る発明を制限するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1:ペプチドの作製
自動ペプチド合成装置(Milligen 9050、Millipore、アメリカ)を用いて下記表1に示すアミノ酸配列を持つペプチドを合成し、C18逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Waters Associates, USA)を用いて、合成されたペプチドを単離及び精製した。カラムはACQUITY UPLC BEH300 C18(2.1 x 100 mm, 1.7 μm, Waters Co, アメリカ)を用いた。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例2:活性化されたB細胞における炎症性サイトカイン分泌の減少の分析
実施例1において合成された新規ペプチドの、炎症性サイトカインの分泌を減少させる活性を確認するために、活性化された病原性B細胞を、合成した18種の新規ペプチドでそれぞれ処置し、B細胞からの炎症性サイトカイン分泌の減少を調べた。
【0075】
具体的には、新規ペプチドが、病状の発生に関わる病原性B細胞を弱めることができるかどうかを確認するために、関節リウマチの関節浸潤B細胞と類似したin vitro B細胞モデルを用いた。エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染B細胞を抗CD150抗体で刺激することで活性化させた病原性B細胞を生成し、その細胞を18種の新規ペプチド100ng/mlでそれぞれ処置した。
【0076】
炎症性サイトカインの減少における18種の新規ペプチドの効果を確認するために、活性化されたB細胞から分泌される様々なサイトカイン(IL-1A, IL-1B, IL-2, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL -10, IL-12A, IL-13, IL-17A, GM-CSF, IL-34)の分泌量を測定した。B細胞の培養上清液を酵素結合免疫測定法(ELISA)より分析し、試験結果として発色試薬の吸光度(450nm〜570nm)の差を測定した。測定された発色試薬の吸光度(450nm〜570nm)の差を基に、抗CD150抗体による刺激で活性化されたB細胞から分泌されたサイトカインに該当する吸光度を100%とし、18種の新規ペプチドで処置した時の分泌されるサイトカインの吸光度をパーセンテージで換算した。減少されたサイトカインのパーセンテージを表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
その結果、抗CD150抗体で刺激された活性化されたB細胞(EBVt-B/抗CD150)において増加した様々な炎症性サイトカインの分泌が、18種の新規ペプチドで処置した試験群(EBVt-B/抗CD150/SIS-1及び18種のペプチド)において効果的に減少したことが観察された(表2)。
【0079】
このような結果は、本発明の新規ペプチドが、炎症性サイトカインの分泌を効果的に減少させることによって炎症性疾患を治療できるということを支持する。
【0080】
実施例3:TPA誘導性耳浮腫マウスモデルを用いた炎症緩和効果の分析
本発明者らは、本発明のペプチドが、実施例2で確認されたとおり炎症性サイトカイン分泌を減少させる共に、in vivoにおける炎症の緩和に効果的であることを確認した。具体的には、前記実施例1で調製した18種の新規ペプチドのうちの代表的なペプチドであるペプチドSIS-1の抗炎症効果を確認するために、本発明者らは、マウス耳浮腫を測定する方法を用い、ここで、文献(非特許文献23)に記載されたように、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)により急性炎症を誘導した。
【0081】
実施例3−1:TPA誘導性耳浮腫マウスモデルの作製及びそれへの新規ペプチドの投与
TPA誘導性耳浮腫マウスモデルは、急性炎症により発生する紅斑と浮腫を観察できる動物モデルで、下記のような方法により作製した。詳しい試験法と試験群は、
図1で示した。5週齢のICRマウス(C57BL/6、オス、中央実験動物、韓国)24匹を群毎に6匹ずつに分け、試料適用前にマウスの両耳の毛を除毛した。右耳にアセトンTPA2.5μgを塗布して浮腫を誘導し、左耳には、ビヒクルを塗布することによって、誘発された炎症の程度を確認するための対照群として用いた。薬物は、TPA塗布後、0.5時間〜3時間に2回投与した。新規ペプチドSIS-1と対照薬物であるメトトレキサート(MTX)及びデキサメタゾン(DEX)を腹腔内注入した。対照群は、リン酸緩衝食塩水(PBS)で処置した。
【0082】
実施例3−2:激化の程度の測定
ペプチドSIS-1の抗炎症効果は、ビヒクルを注入した対照群と比べた、浮腫の抑制程度を観察することによって決定した。TPA塗布6時間後、耳浮腫の程度を確認するために両耳の写真を撮影し、耳の特定部位当たりの厚さと重さを測定することによって、緩和された炎症の程度を確認した。
【0083】
その結果、TPA塗布によって増加した紅斑が、ペプチドSIS-1処置群で減少したことが観察され、対照薬物であるMTXとDEXと比べ、同程度のレベルの抗炎症効果を示した(
図2)。さらに、TPAによって発生する浮腫は、耳の厚さ及び重さを増加させるが、新規ペプチドSIS-1は、この炎症性反応を著しく抑制した(
図3)。
【0084】
このような結果は、本発明の新規ペプチドが、実際の動物モデルの炎症を緩和することによって、炎症性疾患を治療することができることを示唆するものである。
【0085】
実施例4:コラーゲン誘導性関節炎マウスモデルを用いた関節リウマチに対する新規ペプチドの治療的効果の分析
前記実施例1で作製した18種の新規ペプチドのうちの代表的なペプチドであるペプチドSIS-1の、代表的な自己免疫疾患である関節炎に対する治療効果を調べるために、文献(非特許文献24、25)に記載のコラーゲン誘導性関節炎マウスモデルを用いて実験を行った。
【0086】
実施例4−1:コラーゲン誘導性関節炎マウスモデルの作製及びそれへの新規ペプチドの投与
コラーゲン誘導性関節炎(CIA)マウスモデルは、ヒトの関節リウマチと類似した特徴を持つ自己免疫疾患型の関節炎モデルで、下記の方法により製作した。
【0087】
詳しい試験法と試験群は、
図4に示した。ウシII型コラーゲン(Chondrex four、アメリカ)100μgをフロイント完全アジュバント(Chondrex、アメリカ)に混合することで乳状化し、乳状化されたコラーゲン溶液を尾部に皮内注射することによって7週齢のDBA/1マウス(C57BL/6、オス、中央実験動物、韓国)を免疫した。初回免疫後14日目に、ウシII型コラーゲン(Chondrex four、アメリカ)50μgをフロイント完全アジュバント(Chondrex、アメリカ)に混合することで乳状化し、それを尾部に皮内注射することで2次免疫(ブースト)反応を誘導した。
【0088】
2次免疫反応を誘導した次の日から一週間に3回新規ペプチドSIS-1及び対照薬物であるデキサメタゾン(DEX)を腹腔投与し、対照群(CIA)はPBSで処置した。
【0089】
実施例4−2:関節炎の激化の程度の評価
関節炎の進行を調べるため、体重の変化及び発病のレベルを観察しながら、ループハンドル・シックネスゲージ(Mitutoyo)を用いて足部の厚さを測定した。さらに、実験の内容を知らない観察者二人により一週間に3回ずつ関節の炎症の重症度を評価した。関節炎の評価は、Rossoliniecらによる関節炎進行指数に基づき、以下の基準に従い1匹当たり4本の足のスコア(点数)を合計することで行い、そして、2名の観察者による測定値の平均を求めた。関節炎評価のスコアと基準は、以下のとおりである。
0点:浮腫又は腫れがない。
1点:足又は足首関節に局限された軽い浮腫と発赤
2点:中足骨(metatarsal)にわたる足首関節の軽い浮腫と発赤
3点:中足骨にわたる足首関節の中等度の浮腫と発赤
4点:足全体にわたって浮腫と発赤があり、関節硬直症が現れる。
足当たりの最高の関節炎指数は、4点であり、マウス当たりの最高の疾病指数は、16である。
【0090】
その結果、正常マウス(Normal)群に比べ、CIA誘導により発生する関節炎を有するCIA群で、体重のわずかな減少が観察された(
図5)。これは、疾患発生によって招かれた自然な体重の減少に思われる。しかし、新規ペプチドSIS-1処置群では、マウスの体重が正常群と同レベルに維持され、これは症状の緩和によるものである(
図5)。つまり、本発明のペプチドが、体重の減少を効果的に緩和することによって関節炎を治療できることを確認した。
【0091】
さらに、2度目の免疫の後の関節炎の発生率を測定するために(
図6)、マウスの足の一本でも症状が現れた場合、そのマウスは関節炎を有すると判断した。CIA群において、免疫化のおよそ44日後に、関節炎が100%誘導されたことを確認した。一方、新規ペプチドSIS-1を処置した試験群では、試験終了までに関節炎が87.5%しか誘導されず、症状が遅延されたことが分かった(
図6)。また、CIA群に比べ、新規ペプチドSIS-1処置群で、関節炎進行指数と足首関節の腫れ具合が著しく減少したことを確認した(
図7、9)。
【0092】
実施例4−3:組織学的分析
関節の軟骨の損傷を確認するために、試験終了後、組織学的検査を実施した。前記動物モデル試験の9週目に、試験動物を致死させた後、マウスの後ろ足を10%ホルマリン(formalin)で固定して骨からカルシウム化合物を除いた後、パラフィン包埋した。関節切片を用意し、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。
【0093】
その結果、CIA群の関節は、正常群に比べ、 多くの免疫細胞の浸潤が観察され、パンヌス形成、軟骨破壊及び骨侵食もまた観察された。一方、新規ペプチドSIS-1を処置したマウスの関節と軟骨の破壊は、正常マウスと同程度に維持された(
図9)。
【0094】
実施例4−4:血清学的分析(コラーゲンに特異的な抗体の測定)
関節炎に対する新規ペプチドSIS-1の治療効果を確認するために、血清学的な試験でウシII型コラーゲンに特異的な抗体を測定する酵素結合免疫測定法(ELISA)を行った。文献で言及されたように、リウマチ因子(RF)として知られるIgG抗体又はIgGのサブタイプ(IgG1及びIgG2a)及びIgM 自己抗体は、免疫複合体を形成して炎症を誘発し、関節リウマチの病変を発生させることが知られている(非特許文献26)。
【0095】
各試験群の血清を1:25000(IgG)又は1:10000(IgG1、IgG2a、IgM)の比率で希釈した後、2型コラーゲンに特異的な血清の自己抗体の力価を測定した。
【0096】
その結果、CIA誘導によって発生した関節炎を有するCIA群の血清内には、全ての自己抗体のレベルが大きく増加したことが観察された。一方、新規ペプチドSIS-1で処置したマウスでは、その生成が40〜50%まで著しく減少し、対照薬物であるDEXで処置した群と同程度又はそれより優れた効果があることが確認された(
図10)。
【0097】
このような結果は、本発明のペプチドが、自己免疫疾患を有する動物モデルにおける効果的な治療法を提供し、それによって、炎症性疾患、特に自己免疫疾患を効果的に治療又は予防できることを提供する。
【0098】
以上の説明から、当業者は、本発明が、その技術的原理又は必須の特徴を変更することなく、他の態様で実施できることを理解することができるだろう。これと関連して、以上で記述した実施例は、あらゆる面で例示的であり、限定的ではないことを理解すべきである。本発明の範囲は、前記の詳細な説明よりは、添付の特許請求の範囲における意味、範囲及び同等の概念から派生する任意の変更又は修正を含むものとして理解されるべきである。