【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の方法によって解決される。本発明の別の実施形態それぞれは、従属請求項の主題である。これらの別の実施形態は、技術的に有利な任意の方法において互いに組み合わせることができる。後からの説明において、特に、図面と合わせて、本発明のさらなる特徴を開示する。
【0009】
本発明の一態様は、隠れている被加工部をエネルギビームによって接合する方法に関し、本方法では、第1のステップにおいて、下側被加工部と上側被加工部とを互いに対して位置決めし、上側被加工部と下側被加工部とが位置決めされると、上側被加工部が、下側被加工部の接合線に沿った領域において、または接合線に沿って直線状に、下側被加工部に接触し、これによって接合線が隠れる。接合線の目標輪郭は、1つの座標系においてエネルギビームのコントローラに既知である。
【0010】
上側被加工部と下側被加工部とが共通の接合接触部を形成しており、上側被加工部を、材料係止された状態に下側被加工部の接合線に接合する目的で、下側被加工部とは反対側の上側被加工部の上面にエネルギビームを導き、コントローラによって接合線または接合接触部に沿ってエネルギビームを動かす。
【0011】
上側被加工部を下側被加工部に接合する実際の工程を開始する前に、接合線またはその正確な位置および配置状態を検出するため、エネルギビームを使用して、上側被加工部の上面に探索継ぎ目(exploratory seam)を形成する。
【0012】
下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域と、接合線に接触している上側被加工部の表面領域とが接している境界を、検出器によって検出する。コントローラは、境界の位置を登録し、その位置と、コントローラに格納されている境界の目標位置とを比較する。
【0013】
コントローラは、境界の実際の位置が、コントローラに格納されている目標位置から逸脱しているものと判定される場合、接合線に沿ってエネルギビームの目標輪郭を修正する。
【0014】
探索継ぎ目は、その開始位置から、第1の境界が検出された位置を超えて延びることができる。具体的には、探索継ぎ目は、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域から、接合線に接触している上側被加工部の表面領域を超えて、下側被加工部に接触していない上側被加工部の別の表面領域内
まで、延びることができる。すなわち、探索継ぎ目は、
下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域から、接合線に接触している上側被加工部の表面領域に探索継ぎ目が移行するときの第1の境界と、
接合線に接触している上側被加工部の表面領域から、
接合線に接触していない上側被加工部の別の表面領域に探索継ぎ目が移行するときの、
接合線に接触している上側被加工部の第1の境界に対向する第2の境界と、を備えていることができる。
【0015】
探索継ぎ目の特性であるパラメータ、特に、物理パラメータまたは化学パラメータを、検出器によって検出および監視することができる。このようなパラメータは、例えば、探索溶接継ぎ目の熱エネルギ場、定格電流、電圧、またはガス流量とすることができる。
【0016】
検出器は、例えば、エネルギビームから近い距離における、またはエネルギビームの側に配置されている、エネルギビームを追跡する光学検出器とすることができる。検出器は、例えば、エネルギビームによって探索継ぎ目を形成している間にも、探索継ぎ目における熱エネルギ分布を検出することができる。
【0017】
検出器によって検出される(1つまたは複数の)パラメータの値は、境界において急峻に変化しうる。この急峻な変化は、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域と、接合線に接触している上側被加工部の表面領域との間の境界または境界点が、この位置に存在していることを示している。検出器は、例えば、特に上側被加工部に線状に接触している接合線の縁部、または
接合線の別の領域を検出し、すなわち、探索継ぎ目は、エネルギビームの側の上側被加工部の上面において、下側被加工部によって形成されている(下側被加工部の上部の)
接合線を隠している上側被加工部の表面領域内まで延びる。
【0018】
境界または境界点において検出された、(1つまたは複数の)パラメータの急峻な変化は、コントローラによって識別して登録することができる。この場合、「登録する」とは、上側被加工部および下側被加工部の寸法および方向が既知である例えばデカルト座標系において、境界をそのx方向、y方向、およびz方向に関して定義することを意味する。
【0019】
できる限り正確な位置を得る目的で、コントローラは、検出器によって取得されたデータにおける既知の歪みの少なくとも一部を排除するため、
検出器によって検出されたパラメータ値を処理するフィルタアルゴリズムを備えていることができる。
【0020】
特に、上側被加工部の下の複雑な接合線または角度のついた接合線の正確な位置を検出する目的で、上側被加工部の上面に少なくとも2本の探索継ぎ目をエネルギビームによって形成することが有利であり、これら探索継ぎ目のうちの少なくとも1本は、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域から、接合線に接触している上側被加工部の表面領域を超えて、下側被加工部に接触していない上側被加工部の別の表面領域内まで延び、他方の探索継ぎ目は、少なくとも、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域から、接合線に接触している上側被加工部の表面領域内
まで延びる。したがって、少なくとも2つの境界が検出器によって検出され、少なくとも2つの境界または境界点の実際の位置をコントローラによって登録する。次いで、境界の実際の位置を、コンピュータに格納されている境界の目標位置と比較することができ、したがって、被加工物の複雑または角度のついた隠れている接合線の実際の輪郭を求めることができる。
【0021】
2本の探索継ぎ目ではなく、3本以上の探索継ぎ目をエネルギビームによって配置し、検出器によって3つ以上の境界を検出してコントローラによって登録することも可能である。しかしながら、探索継ぎ目を追加するごとに、材料やエネルギ消費量が増大し、したがって時間およびコストがかかるため、本方法を適用する前に、各被加工物および各接合線について必要
数の探索継ぎ目の数を求めることができ、各接合継ぎ目の開始位置、方向、および長さを定義することができる。
【0022】
コントローラは、所定の境界のすべてを登録すると、上側被加工部によって隠れている接合線の実際の位置を求め、それを接合線の目標位置と比較し、接合線の実際の位置と目標位置とがずれている場合、コントローラに格納されているエネルギビームの接合軌跡を修正することができる。次いで、隠れている接合線において上側被加工部を下側被加工部に結合する目的で、コントローラは、上側被加工部の上面において、エネルギビームを接合線の実際の位置に沿ってガイドすることができる。
【0023】
これに代えて、最初の境界、または最初および2番目の境界が検出されて登録された後に、エネルギビームの動きを修正することができ、エネルギビームの動きを中断させることなく、探索継ぎ目を接合線に沿った接合継ぎ目に移行させることができる。すなわち、
コントローラは、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域が、接合線に接触している上側被加工部の表面領域に移行する第1の境界の実際の位置と目標位置とを比較するとき、検出されて登録された接合線の実際の位置と、所定の目標位置とを比較し、必要な場合、コントローラに格納されている目標位置における接合線に沿ったエネルギビームの接合軌跡に最初の修正を行う。
【0024】
上側被加工部を下側被加工部に接合している間に、エネルギビームが、接合線に接触している上側被加工部の表面領域から、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域に移行することが検出器によって検出された場合、目標位置における接合線に沿ったエネルギビームの接合軌跡(コントローラにおいてすでに一回修正されている)を、もう一度修正する。
接合線に接触している上側被加工部の表面領域のみに沿ってエネルギビームが動くようになるまで、このプロセスを繰り返すことができる。
【0025】
すなわち、コントローラは、蛇行状の動きによって、エネルギビームが
接合線の実際の輪郭を安定的にたどるようにする。
【0026】
エネルギビームのエネルギは、探索継ぎ目を形成するときよりも接合継ぎ目を形成するときに、より高くする、またはより低くすることができる。探索継ぎ目を形成するときには、下側被加工部に接触していない上側被加工部の表面領域から、接合線に接触している上側被加工部の表面領域にエネルギビームが移行するとき、またはこの逆方向にエネルギビームが移行するときに、探索継ぎ目の少なくとも1つの特性パラメータが高い信頼性で急峻に変化する大きさのエネルギを使用することができる
。検出器が最初の境界を検出したとき、または例えばコントローラにおける所定のタイミングより後に、探索継ぎ目が中断なしに接合継ぎ目に移行する場合、エネルギビームのエネルギを、例えば探索継ぎ目のエネルギ値から接合継ぎ目のエネルギ値に増大または減少させることができる。
【0027】
これに代えて、またはこれに加えて、エネルギビームの側の上側被加工部の上面をエネルギビームが動く速度は、探索継ぎ目を形成するときと接合継ぎ目を形成するときとで異なっていてよい。例えば、接合継ぎ目を形成するときよりも探索継ぎ目を形成するときに、より高い速度、またはより低い速度でエネルギビームを動かすことができる。
【0028】
本方法の全体をまとめると、一般的には、検出器によって境界を検出し、コントローラによって境界の位置を登録し、それをコントローラに格納されている境界の位置と比較し、境界のうちの少なくとも1つの位置が逸脱している場合、接合線に接触している上側被加工部の表面領域内にエネルギビームを導くまたは戻す目的で、接合線に沿ってエネルギビームの動きを修正する。
【0029】
探索継ぎ目は、コントローラに格納されている接合線に対して斜めに、または接合線を横切る方向に形成することができる。
【0030】
特に、
接合線を実質的に横切る方向に延びる探索継ぎ目を形成しているとき、エネルギビームによって、少なくとも点において材料係止された状態に、上側被加工部を下側被加工部の接合線に結合または固定することができる。したがって、上側被加工部が点において
接合線に結合され、次の接合工程のための接合位置が確定される。
【0031】
検出器は、接合継ぎ目の品質を監視するシステムの検出器とすることができる。品質監視システムは、特に、接合継ぎ目の品質をインラインで監視することのできる品質監視システムである。この場合に「インラインで」とは、接合継ぎ目または探索継ぎ目が形成されるのと実質的に並行して品質管理が実行されることを意味する。
【0032】
接合方法は、溶接法、はんだ付け法、または接着法とすることができる。接着法においては、接合線の上に塗布してエネルギビームの熱エネルギによって活性化させる接着剤を使用することができる。接着法およびはんだ付け法においては、接着剤を活性化させる、またははんだを溶かすのに、探索継ぎ目を形成するためのエネルギビームのエネルギで十分である。すなわち、エネルギビームが中断なしに探索継ぎ目から接合継ぎ目に移行し、かつ、エネルギビームが蛇行状に接合線の上を安定的に動いている、すなわち接合線に接触している上側被加工部の
上側表面領域を安定的に動いている場合、接着法やはんだ付け法においては、接合方法に関して上述したエネルギビームのエネルギを増大させるステップを省くことができる。
【0033】
溶接法は、例えば、溶解用電極(MIG,MAG)を使用する電気アーク溶接法、レーザ溶接法、高周波誘導溶接法、プラズマ溶接法、またはその他の適切な溶接法とすることができる。
【0034】
説明した本方法は、原理的には、任意の2つの
被加工部を、隠れている継ぎ目において接合する目的に有利に使用することができ、この場合、上側被加工部および
下側被加工部を同じ材料(例えば金属またはプラスチック)から形成することができる。金属は、特に、薄肉鋳鋼物または金属鋳造物とすることができる。しかしながら、
接合線を含む下側被加工部とは異なる材料から上側被加工部を形成することも可能である。
【0035】
上側被加工部および下側被加工部は、いずれも、例えば自動車の構造部または自動車の車体の一部とすることができ、すなわち、本方法は、自動車など大量生産される製品の生産ラインにおいて有利に使用することができる。
【0036】
下側被加工部を上側被加工部に接合する目的で、下側被加工部もしくは上側被加工部またはその両方を、接合ステーション内に配置することができ、好ましくは接合ステーション内で互いに対して位置決めする、または接合ステーション内に配置する前に互いに対して位置決めする。この場合、接合ステーションは、据置き型の接合ステーション、または、ロボットアームに結合されており、接合時にロボットアームによって空間的に移動する接合ステーションである。
【0037】
接合ステーションは、下側被加工部および上側被加工部が接合ステーション内に配置された(場合によってはさらに位置決めされた)後に、下側被加工部および上側被加工部が座標系(例えばデカルト座標系)において既知の位置に存在するように、構成することができる。この既知の位置を、
コントローラに入力し、コントローラに格納することができ、すなわちコントローラは、上側被加工部によっ
て隠れている、下側被加工部の上部の接合線の理論的位置および理論的輪郭を認識しており、接合線に沿ってエネルギビームをガイドすることができる。例えば上側被加工部および下側被加工部における許容公差が蓄積することに起因して、コントローラに格納されている目標位置に接合線が存在しないことがある。したがって、コントローラがエネルギビームを高い信頼性で接合線に沿ってガイドすることができず、こうして形成された接合継ぎ目が不良となることがある。隠れている接合線またはその実際の位置を特定する目的で、上述したようにエネルギビームによって上側被加工部の上面に探索継ぎ目を形成することができる。
【0038】
探索継ぎ目および接合継ぎ目を形成する目的で、高エネルギビームを発生させるシステムのビーム出射部、もしくは、品質管理装置の検出器、またはその両方を、ロボットアームに固定して、組合せ型の接合・制御装置(combined joining and control tool)を形成することができる。ロボットアームは、空間的に自由に動くことができるものとすることができる。
【0039】
接合する部材それぞれがロボットアームに結合されており、したがってこれらの部材を空間的に自由に動かすことができ、組合せ型の接合・制御装置が据置き型の装置である、または別のロボットアームに結合されており空間的に自由に動かすことができる場合、下側被加工部を上側被加工部に接合するステップを、連続的な接合工程として実行することができる。
【0040】
締め付け枠(clamping frame)を使用することなく要素を接合する方法および装置は、出願人の国際出願である特許文献2から公知であり、この文書は参照によって本明細書に明示的に組み込まれている。
【0041】
本発明の別の態様は、上述した本方法を実行するコンピュータプログラムに関する。
【0042】
コンピュータは、記憶システムおよびバスシステムとのデータ接続を有するデジタルマイクロプロセッサユニット(CPU)と、ワーキングメモリ(RAM)と、記憶手段と、を備えていることができる。CPUは、記憶システムに格納されているプログラムとして具体化されている命令を実行し、データバスからの入力信号を検出し、出力信号をデータバスに出力するように、設計されている。記憶システムは、本方法および有利な実施形態を実行する対応するコンピュータプログラムが格納されている、さまざまな記憶媒体(光媒体、磁気媒体、固体媒体、他の不揮発性媒体など)を備えていることができる。プログラムは、本明細書に記載されている本方法に相当する、もしくは本方法を実行することができる、またはその両方であるように設計することができ、したがって、CPUはそのような方法のステップを実行することができ、したがって接合装置のエネルギビームを制御することができる。
【0043】
本方法を実行するのに適するコンピュータプログラムは、プログラムがコンピュータ上で実行されるときに本方法のすべてのステップを実行するプログラムコード手段、を備えている。
【0044】
コンピュータプログラムは、すでに存在する
コントローラに、簡単な手段によって入力することができ、このコンピュータプログラムを使用することで、隠れている接合継ぎ目に沿って被加工物を接合する方法を制御することができる。
【0045】
本発明の別の態様は、プログラムコード手段がコンピュータ上で実行されるときに、上述した本方法を実行できるようにする目的で、コンピュータ可読データ記憶媒体に格納されているプログラムコード手段を備えたコンピュータプログラム製品、に関する。
【0046】
コンピュータプログラム製品は、改造オプションとして
コントローラに組み込むこともできる。
【0047】
本明細書の説明全体および請求項において、冠詞(「a(n)」)は、不定冠詞として使用されており、要素の数を単数に制限しない。「a(n)」が「ただ1つの」の意味を持つように意図される場合、そのことは、当業者には文脈から理解される、または、例えば「1つの」などの適切な表現を使用することによって明確に示してある。
【0048】
以下では、例示的な実施形態について、図面に基づいてさらに詳しく説明する。