特許第6148429号(P6148429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148429
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20170607BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12N9/99
【請求項の数】3
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-115150(P2011-115150)
(22)【出願日】2011年5月23日
(65)【公開番号】特開2012-175962(P2012-175962A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2014年5月21日
【審判番号】不服2016-2102(P2016-2102/J1)
【審判請求日】2016年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-19109(P2011-19109)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】古江 美保
(72)【発明者】
【氏名】木根原 匡希
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 瀬下 浩一
【審判官】 山本 匡子
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)ステップを、(a)ステップの後、(b)及び(c)ステップを順次繰り返すことを特徴とする未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法。
(a)アニマルプロダクトフリーな基礎培地に、アクチビン、及び、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸からなる多能性幹細胞を培養するために必要なサプリメントを添加した多能性幹細胞用培地である第一の培地でヒト多能性幹細胞を培養するステップ;
(b)前記第一の培地を、アニマルプロダクトフリーな基礎培地に、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸からなる多能性幹細胞を培養するために必要なサプリメントを添加した多能性幹細胞用培地であって、かつアクチビンを含まない多能性幹細胞用培地である第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養するステップ;
(c)前記第一の培地でヒト多能性幹細胞を継代培養するステップ;
【請求項2】
第一の培地に含まれるサプリメント及び第二の培地に含まれるサプリメントが、少なくとも一つの成分としてプロテインキナーゼC阻害剤を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法に用いられるキットであって、アクチビン、及びフィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸からなる多能性幹細胞を培養するために必要なサプリメント、並びにアニマルプロダクトフリーな多能性幹細胞用基礎培地を備えることを特徴とする培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法やそのためのキット、詳しくは、アクチビンを含む多能性幹細胞用培地である第一の培地でヒト多能性幹細胞を培養するステップの後に、前記第一の培地をアクチビンを含まない多能性幹細胞用培地である第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養するステップと、前記第一の培地でヒト多能性幹細胞を継代培養するステップとを繰り返すことで、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法やそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ES細胞は様々な組織に分化することが可能であるため、組織分化過程の解明モデルや再生医療などへの応用が考えられている。分化誘導因子の機能・影響を正確に解析するためには、細胞の分化を制御することが重要である。
【0003】
幹細胞の未分化性の維持方法に関しては、多能性幹細胞をn軸回転(nは2以上の整数)して前記多能性幹細胞の分化を抑制しながら前記多能性幹細胞を培養するステップを備えた多能性幹細胞の培養方法(例えば特許文献1参照)や、TGF−βを含有することを特徴とする間葉系幹細胞の多分化能維持用培地(例えば特許文献2参照)や、幹細胞の初代培養及び継代培養を無血清で行うことを可能にする基礎培地に、5〜10%濃度のパネキシンと、1〜100ng/mLのbFGFと、1〜100ng/mLのPDGFと、1〜100ng/mLのEGFと、1〜1000μg/mLのビタミンCとを混合してなる無血清培地(例えば特許文献3参照)や、フィーダー細胞の非存在下、ポリビニルアルコール(PVA)を含有し、且つ動物由来アルブミンを含有しない無血清培地中で胚性幹細胞を浮遊培養することを特徴とする、胚性幹細胞の維持方法(例えば特許文献4参照)や、低分子化合物又はその塩化物を有効成分として含有する組織幹細胞増殖剤(例えば特許文献5参照)や、インドール誘導体等の低分子化合物を有効成分とする幹細胞分化抑制剤(例えば特許文献6参照)や、(a)標準培地、(b)血清アルブミン、(c)トランスフェリン、(d)脂質及び脂肪酸源、(e)コレステロール、(f)還元剤、(g)ピルビン酸塩、(h)DNA及びRNA合成用ヌクレオシド、(i)基質細胞、組織細胞又は器官細胞の増殖及び発生を刺激する少なくとも1種の成長因子、及び(j)少なくとも1種の細胞外マトリックス材料を細胞の培養に効果的な量を含んでおり、無血清又は低血清である胚性幹細胞系を含む細胞の長期増殖及び発生用培地(例えば特許文献7参照)が提案されている。また、脱落膜由来細胞又は該細胞由来の細胞外マトリクスの存在下で多能性幹細胞を培養することを特徴とする、多能性幹細胞の培養方法(例えば特許文献8参照)も提案されているが、フィブロネクチン上では細胞増殖は僅かに認められたものの脱落膜由来間葉系細胞の細胞外マトリクス上での細胞増殖に比べるとその程度は著しく低かったことが報告されている。
【0004】
本発明者らは、フィーダー細胞なしで、ES細胞をタイプIコラーゲン被覆フラスコで、無血清条件下で未分化性を維持したままES細胞を長期に培養しうる無血清培地用の培地、及びこのような培地を製造するための基礎培地(例えば特許文献9参照)や、i)タンパク質より成る基礎的な培養支持体にてコートした培養容器を用い、該培養容器の中でウシインスリン、ヒトトランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、2−メルカプトエタノール、脂肪酸除去したウシアルブミンと複合させたオレイン酸より構成され、更に線維芽細胞増殖因子、ヘパリンやアスコルビン酸又はリン酸化アスコルビン酸、又はこれらの誘導体を添加した細胞培養培地により霊長類胚性幹細胞を調製する工程、及びii)該霊長類胚性幹細胞を未分化状態で維持する工程、より構成される、フィーダー細胞や血清のない細胞培養条件で、霊長類の胚性幹細胞を維持するための方法(例えば特許文献10参照)を開発してきた。また、無血清培地の開発に当たって各種マトリックス成分については、ラミニンやフィブロネクチンがマウスES細胞の未分化維持状態に対して抑制的に働き、分化を促進する方向へと働くことが確認されていた(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
さらに、本発明者らは、Shef系のヒトES細胞とHUES−1株を用いてヒトES細胞において、I型コラーゲンをコートした場合に維持培養できることを確認し、また、HEPESを無血清培地に添加すると非常にヒトES細胞の維持に悪影響を与えることを確認し(例えば非特許文献2参照)、また、ES細胞の増殖作用を促進するFGF−2の作用を補佐することが知られているヘパリンを、FGF−2の非存在下で添加してもES細胞の増殖作用を促進することを報告し(例えば非特許文献3参照)、アクチビンを入れると、ERK(extracellular signal-regulated kinases)が活性化され、神経又は中内胚葉への分化誘導が促進されるが、ERKの抑制剤を入れると未分化な状態を維持することができることを確認し(例えば非特許文献4参照)、さらにヒトES細胞についての基本的な培養方法についてまとめている(例えば非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−193910号公報
【特許文献2】特開2010−094062号公報
【特許文献3】特開2008−148643号公報
【特許文献4】特開2007−228815号公報
【特許文献5】特開2006−180763号公報
【特許文献6】特開2005−013152号公報
【特許文献7】特表平8−508891号公報
【特許文献8】特開2010−166901号公報
【特許文献9】国際公開WO2005/063968号パンフレット
【特許文献10】特表2009−542247号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第52回マトリックス研究会大会2005年大分O−07 マウスES細胞の分化制御におけるマトリックス成分の機能解析
【非特許文献2】PNAS, vol.105, no.36, 13409-13414
【非特許文献3】In Vitro Cell.Dev. Biol.- Animal (2010) 46:573-576
【非特許文献4】Stem Cell Res.2010
【非特許文献5】Tiss. Cult. Res Commun.27;139-147(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来方法より効率のよい、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法やそのためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の通り、ES細胞等の多能性幹細胞を長期に培養しうる無血清培地等の開発は、多方面において進められてきたが、多能性幹細胞をこれらの培地で増殖させることは、細胞死が高い頻度で起こったり、多能性が培養過程で失われたりすることがあり、実験者の勘やノウハウに頼ることも多く、不可能ではないものの高度の培養技術を要するものとなっていた。
【0010】
また、従来の培地には、動物由来の原料が通常含まれており、例えば、ウシ血清アルブミン、ブタ由来I型コラーゲン等を使用することは供給量が限られ高コストである点で問題があった。また上記動物由来の原料は通常非加熱製剤であることから、牛海綿状脳症(BSE)の原因とされるプリオンや、ウイルス等の病原体や異種成分混入の可能性があるので安全性や免疫原性に問題があり、また、作製された培地のロットごとにばらつきが生じるので、未分化状態を維持したまま培養できる確率を低くする原因の一つであると考えられてきた。
【0011】
これらの知見に基づき、本発明者らは、動物由来の成分を代替又は削除することにより、安全性が高く、ロットによるばらつきがない多能性幹細胞を、未分化状態を維持したまま培養できる培地の調製を試みてきた。例えば、動物由来の成分を遺伝子組換え技術により作製された組換え体(リコンビナント)に代替する場合には、リコンビナントの成分が従来の動物由来成分とは異なる構造を有する可能性があることや、免疫原性においても従来の動物由来の原料とは異なる挙動を示す可能性があることが知られていたため、一つひとつの成分について慎重に検討を行ってきた。上記の通り、アクチビンが添加された培地にERKの抑制剤を入れると未分化な状態を維持することができることが確認されていたため、アクチビンと他の成分との関係において詳細な検討を続けていたところ、驚くべきことに、(a)アクチビンを含む多能性幹細胞用培地である第一の培地でヒト多能性幹細胞を培養し、(b)前記第一の培地を、アクチビンを含まない多能性幹細胞用培地である第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養し、(c)前記第一の培地でヒト多能性幹細胞を継代培養し、その後順次上記(b)及び(c)を繰り返した場合には、実験者の培養技術の習熟度にかかわらず幹細胞の多能性が高率で維持されることを見いだした。これまで実験室で5〜6人中1人しか従来公知の方法で多能性幹細胞の維持培養ができるものがいなかったのに対し、かかる方法を用いた場合5〜6人中4〜5人以上の確率で、多能性幹細胞の未分化性を維持して長期継代することができるようになったことを確認した。本発明者らは、さらに多能性幹細胞の未分化性の維持率を高める成分について引き続き検討を進めたところ、培地にプロテインキナーゼC阻害剤を添加すると、細胞の未分化性がより高い確率で維持され、一部の分化した細胞を機械的に除去する作業をする必要がほとんどなくなった。以上の知見をもとに本発明のヒト多能性幹細胞を培養する方法を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、[1]以下の(a)〜(c)ステップを、(a)ステップの後、(b)及び(c)ステップを順次繰り返すことを特徴とする未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法;
(a)アクチビン、及び多能性幹細胞を培養するために必要なサプリメントを含む多能性幹細胞用培地(但し、ノックアウト血清リプレースメント及び/又はラミニン111を含むものを除く)である第一の培地でヒト多能性幹細胞を培養するステップ;(b)前記第一の培地を、多能性幹細胞を培養するために必要なサプリメントを含み、かつアクチビンを含まない多能性幹細胞用培地(但し、ノックアウト血清リプレースメント及び/又はラミニン111を含むものを除く)である第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養するステップ;(c)前記第一の培地でヒト多能性幹細胞を継代培養するステップ;や、[2]第一の培地に含まれるサプリメント及び第二の培地に含まれるサプリメント、少なくとも一つの成分としてフィブロネクチンを含むことを特徴とする上記[]記載の方法や、[]第一の培地に含まれるサプリメント及び第二の培地に含まれるサプリメント、少なくとも一つの成分としてプロテインキナーゼC阻害剤を含むことを特徴とする上記[]又は[]記載の方法や、[]上記[]〜[]のいずれかに記載の未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法に用いられるキットであって、サプリメント及び多能性幹細胞用基礎培地を備えることを特徴とする培養キットに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法を用いることにより、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養・増殖することができ、かかる未分化状態を維持した多能性幹細胞を適当な条件下で処理を行った場合には、目的の細胞に分化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】コラーゲンI、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチンに対する各細胞の接着能を測定した結果を示した図である。ヒトES細胞KhES−1株(a)、ヒトiPS細胞Tic株(JCRB1331)(b)、と胚性がん細胞PA−1株(JCRB9061)(c)の結果をそれぞれ示す。
図2】hESF9培地に、BSA若しくはrHSA、及び/又はオレイン酸を添加した培地でES細胞H9株(WA09)株を培養した細胞を蛍光免疫染色して、TRA−1−60、SSEA−1、SSEA−4、Nanog発現細胞の陽性率を解析したグラフである。培養条件(1)で培養した場合の値を「1」として、その値に対しての変化率を示した。
図3】オレイン酸抱合rHSAを添加した培地でES細胞H9株(WA09)を培養し、TRA−1−60、SSEA−1、SSEA−4、Nanogで免疫染色した場合の顕微鏡写真である。
図4】hESF-9からヘパリンを除いた培地で、培養を行ったH9株(WA09)の2継代目の細胞の様子を示す。
図5】ES細胞H9株(WA09)を、アクチビン含有培地で培養をした場合(a)とアクチビン不含培地に培地交換した場合(b)の顕微鏡写真である。
図6】本発明の方法により培養されたES細胞H9株(WA09)の1〜6継代目の細胞の顕微鏡写真を示す図である。
図7】本発明の方法により培養されたES細胞H9株(WA09)の5継代目における未分化・分化マーカーの発現を示す図である。SSEA−3、SSEA−4、TRA−2−54、TRA−1−60、TRA−1−80、CD90は未分化マーカーの発現を示し、SSEA−1、CD105、CD56、A2B5は分化マーカーの発現を示す。
図8】培地に0、20、40、80、160、320μg/ウェルのフィブロネクチンを添加して本発明の方法にて培養した場合の細胞の状況を示す。
図9】0、1、2.5、5、10μMのミリストイル化プロテインキナーゼCペプチドインヒビターを添加した培地で培養した細胞の状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養する方法としては、(a)アクチビンを含む多能性幹細胞用培地である第一の培地でヒト多能性幹細胞を培養するステップ;(b)前記第一の培地を、アクチビンを含まない多能性幹細胞用培地である第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養するステップ;(c)前記第一の培地にヒト多能性幹細胞を継代培養するステップ;を(a)ステップの後、(b)及び(c)ステップを順次繰り返す方法であれば特に制限されず、また、本発明の未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養するためのキットとしては、サプリメント及び多能性幹細胞用基礎培地成分を備えたキットであれば特に制限されず、ここで「培地」とは、細胞を培養できる「培地成分」に水を添加した状態のものをいう。また、ここで「未分化状態を維持したまま」とは、自己複製能を維持し、生体に存在する全ての種類の細胞へと分化できる能力を有するという多能性細胞の特徴を維持した状態をいう。
【0016】
本発明においてはヒトの多能性幹細胞を対象とし、多能性幹細胞としては、初期胚より単離される胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)や、胎児期の始原生殖細胞から単離される胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)(例えばProc Natl Acad Sci U S A. 1998, 95:13726-31参照)や、出生直後の精巣から単離される生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)(例えば、Nature. 2008, 456:344-9参照)や、腸骨骨髄、顎骨骨髄等の骨髄由来の幹細胞、脂肪組織由来の幹細胞などの間葉系幹細胞、及び皮膚細胞等の体細胞に複数の遺伝子を導入することで、被検体自身の体細胞の脱分化を誘導し、ES細胞同様の多能性を有する体細胞由来人工多能性幹細胞(若しくは、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell; iPS細胞))を挙げることができるが、具体的には、ヒトES細胞H9株(WA09)、ヒトES細胞H1(WA01)株(National Stem Cell bank、WISC Bank)や、KhES−1、KhES−2及びKhES−3(いずれも京大再生研付属幹細胞医学研究センター)や、HES3、HES4、及びHES6(National Stem Cell bank、モナッシュ大学)などのヒトES細胞や、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、C−Myc遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞(理研バイオリソースセンター、京都大学)や、Tic(JCRB1331株)、Dotcom(JCRB1327株)、Squeaky(JCRB13
29株)、及びToe(JCRB1338株)、 Lollipop(JCRB1336株)(以上成育医療センター、医薬基盤研究所難病・疾患資源研究部・JCRB細胞バンク)や、UTA−1株及びUTA−1−SF−2−2株(いずれも東京大学)や、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子及びSox2遺伝子を導入することによって得られるiPS細胞(Nat Biotechnol 2008; 26: 101-106)等のiPS細胞を例示することができる。
【0017】
本発明に用いられる多能性幹細胞用基礎培地としては、本発明のサプリメントを添加して、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養できる培地であれば特に制限されないが、調製が容易であり、ロットごとのばらつきを防ぐ点から化学合成培地が好ましく、1又は2種類以上の糖(類)と、1又は2種類以上の無機塩(類)、1又は2種類以上のアミノ酸(類)、1又は2種類以上のビタミン(類)、及び1又は2種類以上の微量成分(類)を含むことが好ましく、また、薬剤感受性試験に使用するためにカナマイシン等の抗生物質を適宜含むこともできる。
【0018】
上記糖類としては、具体的には、グルコース、ラクトース、マンノース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類や、スクロース、マルトース、ラクトース等の二糖類を挙げることができるが、中でもグルコースが特に好ましく、これら糖類は、1又は2以上組み合わせて添加することもできる。
【0019】
上記無機塩類としては、具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸銅五水和物、硝酸鉄(III)九水和物、硫酸鉄(II)七水和物、塩化マグネシウム六水和物、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム二水和物、硫酸亜鉛七水和物を含む組合せを挙げることができるが、多能性幹細胞の未分化状態の維持に有利に作用する成分であればいずれの無機塩類又はその組合せも用いることができる。
【0020】
上記アミノ酸類としては、具体的には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、シスチン、システイン、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、グルタミン酸、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等の好ましくはL−体のアミノ酸とそれらの誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物を含めることができ、例えば、上記アルギニンとしては、L−塩酸アルギニン、L−アルギニン一塩酸塩等のアルギニンの派生物を含めることができ、上記アスパラギン酸としては、L−アスパラギン酸ナトリウム塩一水和物、L−アスパラギン酸一水和物、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム等のアスパラギン酸の派生物を含めることができ、上記システインとしては、L−システイン二塩酸塩、L-システイン塩酸塩一水和物等のシステインの派生物や、L−リジン塩酸塩等のリジンの派生物を含めることができ、上記グルタミン酸としては、L−グルタミン酸一ナトリウム塩等のグルタミンの派生物を含めることができ、上記アスパラギンとしては、L−アスパラギン一水和物等のアスパラギンの派生物を含めることができ、上記チロシンとしては、L−チロシン二ナトリウム二水和物等のチロシンの派生物を含めることができ、上記ヒスチジンとしては、ヒスチジン塩酸塩、ヒスチジン塩酸塩一水和物等のヒスチジンの派生物を含めることができ、上記リジンとしては、L−リジン塩酸塩等のリジンの派生物を含めることができる。
【0021】
上記ビタミン類としては、具体的には、アスコルビン酸、ビオチン、コリン、葉酸、イノシトール、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、パラアミノ安息香酸(PABA)から選択される1以上のビタミン類と、これらの成分各々の誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物を含めることができ、例えば、上記アスコルビン酸としては、アスコルビン酸2−リン酸エステル(Ascorbic acid 2-phosphate)、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸硫酸ナトリウム、リン酸アスコルビルアミノプロピル、アスコルビン酸リン酸ナトリウム等のアスコルビン酸の派生物を含めることができ、コリンとしては、塩化コリン等のコリンの派生物を含めることができ、ナイアシンとしては、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチニックアルコール等のナイアシンの派生物を含めることができ、パントテン酸としては、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、パンテノール等のパントテン酸の派生物を含めることができ、ピリドキシンとしては、ピリドキシン塩酸塩、ピリドキサール塩酸塩、リン酸ピリドキサール、ピリドキサミン等のピリドキシンの派生物を含めることができ、チアミンとしては、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、ベンフォチアミン等のチアミンの派生物等を含めることができ、また、上記アスコルビン酸は添加されることが好ましい。
【0022】
上記微量成分としては、多能性幹細胞の未分化状態の維持に有利に作用する成分であることが好ましく、グルタチオン、ヒポキサンチン、リポ酸、リノレン酸、フェノールレッド、プトレシン、ピルビン酸、チミジン、NaHCO等通常培地成分として用いられている成分及びその誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物などの派生物を含めることができ、例えば、プトレシン二塩酸、ピルビン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0023】
上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地の具体例としては、市販のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI1640培地、F12培地等の公知の化学合成培地などの培地、及びDMEM/F12培地(DMEMとF12培地を1:1で混合した培地)等のこれらの培地のいずれか2以上を適当な割合で混合した培地や、これらの培地に上記アスコルビン酸、好ましくはアスコルビン酸2−リン酸エステルを添加した培地を例示することができ、特にアニマルプロダクトフリーの基礎培地として、以下の表1に示される組成の基礎培地(以下、「hESF−grow培地」ともいう)を好適に例示することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
また上記の個々の培地成分の濃度(含量)は、hESF−grow培地の個々の成分を例にとると、上記hESF−grow培地組成に記載されている濃度を100とした場合に、各成分について0〜200の範囲内の濃度、好ましくは40〜160の範囲内の濃度、より好ましくは80〜120の範囲内の濃度、さらにより好ましくは90〜110の範囲内の濃度を例示することができる。例えば、L−アルギニンの場合、0〜100mg/Lの濃度、好ましくは20〜80mg/Lの濃度、より好ましくは40〜60mg/Lの濃度、さらにより好ましくは45〜55mg/Lの濃度を好適に例示することができる。
【0026】
本発明の方法に用いられるサプリメントとしては、上記多能性幹細胞用基礎培地に添加するものであれば特に制限されず、具体的には、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン酸ナトリウム、FGF−2、オレイン酸抱合アルブミン、プロテインキナーゼC阻害剤等の成分を含むものを例示することができる。また、サプリメントの使用形態としては、1又は2以上の上記成分からなるサプリメントを複数個に分別しておいてもよいし、多数の上記成分を含む一つのサプリメントとしてまとめておくこともできる。
【0027】
本発明の方法に用いられる第一の培地としては、上記多能性幹細胞用基礎培地にサプリメントを添加することで調製されてなり、前記サプリメントの少なくとも一つの成分としてアクチビンを含み、ヒト多能性幹細胞を培養することができる培地であれば特に制限されず、本発明の方法に用いられる第二の培地としては、上記多能性幹細胞用基礎培地にアクチビンが含まれないサプリメントを添加することで調製されてなり、ヒト多能性幹細胞を培養することができる培地であれば特に制限されない。以下、上記第一の培地に添加する1又は2以上の成分を含むサプリメントを総称して、アクチビン含有サプリメントと呼び、上記第二の培地に添加する1又は2以上の成分を含むサプリメントを総称して、アクチビン不含サプリメントと呼ぶものとする。上記アクチビン含有サプリメントとしては、アクチビンを含むサプリメントであれば特に制限されないが、アクチビンと、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分を含むものを挙げることができる。上記アクチビン不含サプリメントとしては、アクチビンを含まないサプリメントであれば特に制限されないが、具体的には、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分を含むものを挙げることができる。
【0028】
上記第一の培地において、フィブロネクチンは、上記多能性幹細胞用基礎培地に添加するサプリメントを構成する一成分として、細胞と培養容器との接着性を高めるために培養容器の内側にコートして用いることができ、あるいは、他のサプリメントと共に添加して用いることもできる。具体的には、フィブロネクチンを培養容器にコート後に、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分と、アクチビンとを含む組合せを添加することにより第一の培地(以下、「第一の培地I」ともいう)を調製することもでき、フィブロネクチンをインスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分と、アクチビンとを共に添加することにより第一の培地(以下、「第一の培地II」ともいう)を調製することもできる。
【0029】
上記第一の培地Iを用いる場合には、上記多能性幹細胞用基礎培地にフィブロネクチンを培養容器にコート後に、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分を添加することにより第二の培地(以下、「第二の培地I」ともいう)を調製することが好ましいが、フィブロネクチン、インスリン、トランスフェリン、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン、FGF−2、アルブミン、オレイン酸、プロテインキナーゼC阻害剤などから選ばれる1又は2以上の成分を添加することにより第二の培地(以下、「第二の培地II」ともいう)を調製することもできる。上記第一の培地IIを用いる場合には、上記第二の培地IIを用いることが好ましい。
【0030】
上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントを構成する各成分は、アニマルプロダクトフリーグレードであることが好ましく、アニマルプロダクトフリーグレードの成分としては、動物由来の成分でないが動物由来の成分と同様の作用を有する、遺伝子組換え技術によって人工的に作製・精製された組換え(リコンビナント)タンパク質、化学合成品、植物由来の成分等を挙げることができ、上記リコンビナントタンパク質としては、タグが付加されたもの等、動物由来の成分とは構造が同一でないタンパク質も含めることができ、化学合成品はその誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物を含めることができる。
【0031】
上記フィブロネクチンとしては、細胞外マトリックス(extracellular matrix: ECM)の一種として知られている、ブタ由来フィブロネクチン、ウシ由来フィブロネクチン、ヒト由来フィブロネクチン等の天然由来のフィブロネクチンや、アニマルプロダクトフリーグレードのフィブロネクチンとして、ウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のフィブロネクチンなどを挙げることができる。
【0032】
上記フィブロネクチンをコートして用いる場合には、物理的に吸着させたり、培養容器の細胞接着領域に反応性の官能基を導入して化学結合により容器表面に細胞接着因子を固定化する等の周知の方法を用いることができるが、具体的には、培養容器にフィブロネクチンを含む溶液を、例えば、0.5〜5μg/cm、好ましくは1〜3μg/cm、より好ましくは1.5〜2.5μg/cmの濃度になるように添加し、1時間から12時間、好ましくは2時間から8時間、より好ましくは3時間から5時間、例えば37℃にて乾燥させないように静置し、多能性幹細胞を播種する直前に上記溶液を吸引除去する方法を例示することができ、コートされたフィブロネクチン上に、上記多能性幹細胞用基礎培地にアクチビン含有サプリメント又はアクチビン不含サプリメントのフィブロネクチン以外の成分を添加して調製することにより、本発明の第一の培地又は第二の培地を調製することができる。
【0033】
上記フィブロネクチンを培地成分として用いる場合には、例えば、1.0〜100μg/mL、好ましくは5〜75μg/mL、好ましくは10〜50μg/mL、より好ましくは25〜45μg/mLの濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0034】
上記インスリンとしては、ブタ由来インスリン、ウシ由来インスリン、ヒト由来インスリン等の天然由来のインスリンや、アニマルプロダクトフリーグレードのインスリンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のインスリンなどを挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体インスリン(リコンビナントヒトインスリン)を好適に例示することができ、1〜20μg/mL、好ましくは5〜15μg/mL、より好ましくは7.5〜12.5μg/mL、さらに好ましくは9〜11μg/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0035】
上記トランスフェリンとしては、ブタ由来トランスフェリン、ウシ由来トランスフェリン、ヒト由来トランスフェリン等の天然由来のトランスフェリンや、アニマルプロダクトフリーグレードのインスリンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のトランスフェリンなどを挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体トランスフェリン(リコンビナントヒトトランスフェリン)を好適に例示することができ、鉄低含有のapo型のトランスフェリンが鉄と結合しているholo型のトランスフェリンよりも好ましく、0.1〜50μg/mL、好ましくは1〜20μg/mL、より好ましくは2〜10μg/mL、さらに好ましくは3〜7μg/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0036】
上記2−メルカプトエタノールとしては、常法により合成された化学合成品をアニマルプロダクトフリーグレードとして好適に例示することができ、1〜20μM、好ましくは5〜15μM、より好ましくは7.5〜12.5μM、さらに好ましくは9〜11μMの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0037】
上記エタノールアミンとしては、2−アミノエタノール、又はモノエタノールアミンとも呼ばれる、常法により合成された化学合成品をアニマルプロダクトフリーグレードとして好適に例示することができ、1〜20μM、好ましくは5〜15μM、より好ましくは7.5〜12.5μM、さらに好ましくは9〜11μMの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0038】
上記セレンとしては、セレンとその誘導体及びそれらの塩並びにそれらの水和物を含むことができ、常法により化学合成されたセレン酸、セレン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸水素ナトリウム等をアニマルプロダクトフリーグレードとして例示することができ、セレン酸ナトリウム換算で1〜40μM、好ましくは10〜30μM、より好ましくは15〜25μM、さらに好ましくは18〜22μMの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0039】
上記FGF-2としては、bFGFとしても知られる塩基性の繊維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor-2)として、ブタ由来FGF-2、ウシ由来FGF-2、ヒト由来FGF-2等の天然由来のFGF-2や、アニマルプロダクトフリーグレードのFGF-2としてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のリコンビナントヒトFGF-2を挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体FGF-2(リコンビナントヒトFGF-2(rhFGF−2))を好適に例示することができ、0.1〜50ng/mL、好ましくは1〜20ng/mL、より好ましくは3〜7ng/mL、さらに好ましくは4〜6ng/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0040】
上記オレイン酸としては、植物由来のオレイン酸や常法により化学合成されたオレイン酸を挙げることができ、0.1〜50μg/mL、好ましくは5〜15μg/mL、より好ましくは7.5〜11.5μg/mL、さらに好ましくは9〜10μg/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができる。
【0041】
上記アルブミンとしては、卵白アルブミン、ブタ由来アルブミン、ウシ由来アルブミン、ヒト由来アルブミン等の天然由来のアルブミンや、アニマルプロダクトフリーグレードのアルブミンとしてウシ型、ブタ型、又はヒト型等の遺伝子組換え体のアルブミンなどを挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体アルブミン(リコンビナントヒトアルブミン(rHSA))を好適に例示することができ、0.1〜5mg/mL、好ましくは0.5〜2.5mg/mL、より好ましくは0.75〜1.5mg/mL、さらに好ましくは0.9〜1.1mg/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメント及び/又はアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地及び/又は第二の培地を調製することができ、上記オレイン酸の培地への溶解度を増加させ、本発明の作用効果を増大させるために、アルブミンが上記オレイン酸と複合体を形成した形態、すなわちオレイン酸抱合アルブミンとして添加されることが望ましい。
【0042】
上記プロテインキナーゼC阻害剤としては、プロテインキナーゼCを阻害することができるペプチドや化合物を挙げることができ、具体的には、ミリストイル化プロテインキナーゼCペプチドインヒビター(プロメガ社製)や、スタウロスポリン又はスタウロスポリン誘導体であるカルホスチン、4’−N−ベンゾイルスタウロスポリンや、ビスインドリルマレイミド類、例えば、ビスインドリルマレイミドI、イソキノリンスルホニル)−2−メチルピペラジン二塩酸塩 (H−7)、N−[2−(メチルアミノ)エチル]−5−イソキノリンスルホンアミド(H−8)、N−(2−アミノエチル)−5−イソキノリンスルホンアミド(H−9)などを例示することができ、上記ミリストイル化プロテインキナーゼCペプチドインヒビター(プロメガ社製)を用いる場合は、0.5〜5μM、好ましくは1〜2.5μMの濃度となるように、上記アクチビン含有サプリメントやアクチビン不含サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、ヒト多能性幹細胞の未分化性の維持率をさらに高めることができる。
【0043】
上記アクチビンとしては、ヒト、ラット、マウス、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ等の脊椎動物において高い相同性が保たれていることや、アクチビンA、アクチビンB、アクチビンAB、アクチビンC等ファミリーが存在することが知られているが、アニマルプロダクトフリーグレードのアクチビンとしてヒト型等の遺伝子組換え体のアクチビンなどを挙げることができ、特にヒト型の遺伝子組換え体のアクチビンのうちリコンビナントヒトアルブミンAを好適に例示することができ、1〜40ng/mL、好ましくは10〜30ng/mL、より好ましくは15〜25ng/mL、さらに好ましくは18〜22ng/mLの終濃度になるように、上記アクチビン含有サプリメントの一構成成分として、上記ヒト多能性幹細胞用基礎培地に添加することで、本発明に用いられる第一の培地を調製することができる。
【0044】
上記ステップ(a)は、上記多能性幹細胞用基礎培地に上記アクチビン含有サプリメントを添加した第一の培地に、ヒト多能性幹細胞を播種して培養するステップであり、供給先で凍結保存された多能性幹細胞は公知の方法により調製後に培養することが好ましい。前記調製方法としては、例えば、ダルベッコのCa2+及びMg2+不含リン酸緩衝生理食塩水に溶解したEDTA中で遊離され、あるいは、トリプシン、遺伝子組換体トリプシン、トリプシン/EDTA、コラゲナーゼ、コラゲナーゼ/トリプシン、ディスパーゼ、アキュターゼ、あるいは、機械的に剥離させ、該遊離された細胞を上記第一の培地(溶液)に回収して細胞懸濁液を調製し、かかる細胞懸濁液を300〜1000rpm程度にて細胞を沈降させて回収後、細胞懸濁液を再び調製することを1又は複数回繰り返す方法や、ゼラチン被覆プレート上に、ウシ胎仔血清、DMEM又はDM/F12に、KSR(KnockOut Serum Replacement、GIBCO社製)、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸(類)、及びbFGFを補充した培地、及び/又は支持細胞(フィーダー細胞)共存下で培養する方法を挙げることができる。本発明の方法を用いることにより、上記、ウシ胎仔血清、FGF、フィーダー細胞等の動物由来の成分に含まれうる不純物が、長期継代を続けるうちに除外されうるという効果を有する。
【0045】
上記ステップ(b)は、1継代目のヒト多能性幹細胞が培養されている第一の培地の一回目の培地交換の際に、アクチビン不含サプリメントを添加した第二の培地に交換してヒト多能性幹細胞を培養するステップであり、かかる第一の培地から第二の培地への培地交換の時期としては、第一の培地での培養開始後36〜84時間、好ましくは48〜72時間以内、より好ましくは54〜66時間、特に好ましくは57〜63時間経過後を例示することができる。本発明において、培地交換は常法により行うことができる。
【0046】
ステップ(b)において第二の培地で培養されている1継代目の細胞は、必要に応じて1又は2回以上第二の培地に培地交換を行いながら培養を続けることができるが、培養されている細胞の状態が継代するに適しているとされる時期に達した場合には、ステップ(c)において、上記第一の培地に植え継いで、継代培養が行われる。継代することにより培養されている細胞は2継代目の細胞となり、かかる継代の時期としては、第一の培地から第二の培地への培地交換後1〜20日、好ましくは3〜15日、より好ましくは4〜6日に行うことを例示することができるが、培養されている細胞の状況によっては、55〜95%コンフルエント、好ましくは65〜85%コンフルエント、さらに好ましくは67〜73%コンフルエントに達した場合等、コンフルエンシーによって判断することもできる。また、コロニーの中心部あるいは辺縁部が分化し始めた際には、コンフルエンシーいかんに関わらず、継代することが望ましく、細胞の分化状態においても判断することができる。第二の培地から第一の培地への培地交換の時期としては、6時間〜9日毎、好ましくは12時間〜5日毎、より好ましくは18時間〜2日毎、特に好ましくは24時間毎に行うことを例示することができる。
【0047】
以後、ステップ(b)とステップ(c)が繰り返し行われる。すなわち、上記第一の培地に継代して培養されている上記2継代目の細胞は、一回目の培地交換の際には、再び第二の培地に交換されることが必要となり、第二の培地で培養されているヒト多能性幹細胞は第二の培地に培地交換を行いながら、継代の際には、再び第一の培地に継代して培養する工程(ステップ)が必要となり、継代された細胞は、3継代目の細胞となる。本発明の方法において、多能性幹細胞は、かかる第一の培地から第二の培地への交換と第一の培地への継代という、2つのステップを順次繰り返して、継代時に継代数を一ずつ増加させながら、未分化状態を維持しつつ培養を続けることができる。
【0048】
上記ヒト多能性幹細胞を継代培養する際の継代の方法としては、トリプシンを用いる方法や、トリプシン・EDTAを用いる方法や、トリプシン・コラゲナーゼ・カルシウムの混合液を用いる方法や、ディスパーゼを用いる方法や、コラゲナーゼを用いる方法や、顕微鏡下で注射針又はプラスチックパスツールなど細い先端を用いて、培養細胞を100〜数百個の細胞小集団として切りだす方法等の公知の方法を挙げることができ、具体的には、培養容器内の培地を吸引等により除いたのち、1unit/mlのディスパーゼを37℃にて1分から10分作用させ、ディスパーゼをのぞき、本発明の第一の培地を加えて細胞集団(コロニー)を剥離させ、1回から数回遠心分離後、本発明の多能性幹細胞用基礎培地(溶液)で細胞を集めて遠心分離後、多能性幹細胞用基礎培地溶液で分散して再度遠心分離し、第一の培地に分散させる方法を例示することができる。
【0049】
本発明の方法で培養される多能性幹細胞は、上記いずれのステップにおいても、33〜40℃、好ましくは34〜39℃、特に好ましくは37℃にて、1〜20%、好ましくは3〜15%、特に好ましくは8〜10%の二酸化炭素の存在下で、75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは100%の高湿度下で培養されることが好ましい。
【0050】
本発明の方法により培養される細胞が未分化性を維持している細胞であるか否かを確認する方法としては、各種マーカー(タンパク質)に対する抗体を用いて、未分化マーカーの発現の検出及び/又は分化マーカーの発現の不検出により判定する方法や、各種マーカー(遺伝子)の発現の検出により判定する方法、細胞の形態学的特徴を観察する方法や、特定の分化誘導因子の刺激により特定の細胞に分化する能力を発揮できるか否かを判定する方法を例示することができる。
【0051】
上記マーカーを用いて判定する方法においては、SSEA−3、SSEA−4、TRA−2−54、TRA−1−60、TRA−1−80、CD90、Nanog、Oct−3、Oct−4、アルカリホスファターゼ等の未分化マーカーが発現している場合は、本発明の方法で培養した細胞が未分化性を維持していると判断することができ、SSEA−1、CD105、CD56、A2B5等の分化マーカーが発現していない場合にも、本発明の方法で培養した細胞が未分化性を維持していると判断することができる。
【0052】
上記未分化及び/又は分化マーカーの発現をタンパク質レベルで確認する場合には各マーカーの特異抗体を用いて、フローサイトメトリー法、免疫染色法、ELISA等により確認することができ、上記マーカーの発現を遺伝子レベルで確認する場合には、各マーカー遺伝子の、特異的プライマー対を用いたRT−PCR、特異的プローブを用いたノーザンブロッティング等によって確認することができる。
【0053】
上記フローサイトメトリー法によりマーカー発現の有無を確認する方法としては、本発明の方法で培養した細胞をトリプシン/EDTAを含むPBS溶液中でトリプシン処理した細胞を1mlの10%ヤギ血清中に30分間懸濁後遠心分離し、次に対象のマーカータンパク質の抗マウス抗体とともに30時間インキュベートし、その後上記培養細胞を、1%ヤギ血清を含有するPBSで3回洗浄し、AlexaFluor−コンジュゲート化ヤギ抗マウスIgG抗体と30分間反応させ、1%ヤギ血清を含有するPBSで3回洗浄し、再懸濁した細胞を適切なフローサイトメトリー用機器を用いて判定する方法を例示することができる。
【0054】
上記免疫染色法によりマーカー発現の有無を確認する方法としては、本発明の方法で培養した細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定後、複数回PBSにて洗浄後、トライトンXなどで培養細胞の透過性を増加させ、10%ヤギ血清でブロッキングを行った後、対象マーカータンパク質のマウス抗体を用いて免疫染色し、AlexaFluor標識ヤギ抗マウスIgGと反応させ、蛍光顕微鏡観察により判定する方法を例示することができる。
【0055】
上記アルカリホスファターゼの発現の有無を確認する方法としては、本発明の方法で培養した細胞を、4.5mMクエン酸、2.25mMクエン酸ナトリウム、3mM塩化ナトリウム、65%メタノール及び4%パラホルムアルデヒドで5分間固定し、洗浄し、次にFastRed基質キット(シグマ社製)等の適当なキットを用い、アルカリホスファターゼを可視化する、いわゆるアルカリホスファターゼ染色を行う方法を例示することができる。
【0056】
上記細胞の形態学的特徴を観察して確認する方法としては、細胞と細胞の境界が不明瞭で、細胞は核がほとんどをしめて細胞質がほとんどないこと、細胞集団(コロニー)の輪郭が丸くはっきりしており、細胞がやや盛り上がっているコロニーが多くなっていることや、また、コロニーの辺縁から線維芽細胞様細胞や神経様細胞が現れてないこと等を指標として未分化性が維持されているかを判断することができる。
【0057】
上記特定の分化誘導因子の刺激により特定の細胞に分化する能力を発揮できるか否かにより、本発明の方法により培養された細胞が未分化性を維持しているか否かを判定する方法としては、例えば、骨形成因子4(BMP4)を培地に添加した場合に、上記細胞が上皮様細胞へ分化したときに未分化性が維持されていると判断する方法を挙げることができる。
【0058】
本発明の維持培養方法において用いられる培養容器としては、本発明に用いられる多能性幹細胞を維持培養できる容器であれば特に制限されず、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック等を挙げることができる。
【0059】
本発明は、未分化状態を維持したままヒト多能性幹細胞を培養するためのキットを提供する。本発明のキットは、1又は2以上のサプリメント及びヒト多能性幹細胞用基礎培地成分を備え、上記各組成物を構成する成分は、一部の又は全部の成分を個別に包装されることも含み、2以上の組成物を混合して包装することも含む。上記ヒト多能性幹細胞培養用のキットのサプリメントは、アクチビン含有サプリメントとアクチビン不含サプリメントに分けてもよい。また、上記ヒト多能性幹細胞培養用のキットは、さらにヒト多能性幹細胞の未分化性を判定するための、未分化及び/又は分化マーカータンパク質に対する抗体や、未分化及び/又は分化マーカー遺伝子を検出するためのプライマー、プローブ等を含むこともできる。
【0060】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例において用いられる多能性幹細胞であるES細胞株・iPS細胞株については、政府指針に従い分与を受け実験に供した。他の細胞株についても(独)医薬基盤研究所に保管されており、一定条件下で分譲可能である。
【実施例1】
【0061】
[サプリメントの検討]
(基礎培地)
従来の動物由来の原料をアニマルフリープロダクトに代替することを検討した。従来培地として以下の表2に示すhESF9培地を用いた。
【0062】
【表2】
【0063】
[サプリメント成分;フィブロネクチンの検討]
発明者らは、フィーダー細胞に代わる細胞支持体として近年用いられている、コラーゲンI、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン等のECMについて、動物由来原料からアニマルプロダクトフリー成分への代替の検討を行うこととした。ヒトES細胞KhES−1株(京大再生研付属幹細胞医学研究センター)、ヒトiPS細胞Tic株(JCRB1331)(医薬基盤研・JSCB細胞バンク)、及び、比較例として胚性癌細胞PA−1株(JCRB9061)(医薬基盤研・JSCB細胞バンク)を用いて検討した。
【0064】
96ウェルマイクロプレート(コーニング社製)を用いて、コラーゲンI(新田ゼラチン社製)、ゼラチン(シグマ社製)、ラミニン(シグマ社製)、フィブロネクチン(シグマ社製)それぞれを37℃にて3時間乾燥させないように処理し、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、及び10μg/cmにてそれぞれコートした。上記hESF9培地を添加後、ヒトES細胞KhES−1株、及びヒトiPS細胞Tic株(JCRB1331)、胚性がん細胞PA−1株(JCRB9061)は、細胞数をカウント後、3×10細胞/cmで播種した。2日間の培養後(胚性がん細胞PA−1株(JCRB9061)は1時間の培養後)、メタノールに溶解した0.4%のクリスタルバイオレット(シグマ社製)で30分間染色し接着した細胞の核を固定染色した。上記マイクロプレートを洗浄後乾燥し、50%メタノールに溶解した0.1Mクエン酸ナトリウムを用いて可溶化してマイクロプレートリーダー(モデル550、バイオラッド社製)にて595nmの吸光度を測定した。結果を図1(a)〜(c)に示す。
【0065】
(結果)
ヒトES細胞KhES−1株は、ラミニンとフィブロネクチンについて接着能が一番強く、コラーゲンとセラチンの接着能は濃度にかかわらず弱かった(図1(a)参照)。ヒトiPS細胞Tic株(JCRB1331)は、ラミニンについては、10〜30μg/cm程度の濃度において、またフィブロネクチンについては3〜9μg/cm程度の濃度において接着能が一番強く、コラーゲンとセラチンの接着能は濃度にかかわらず弱かった(図1(b)参照)。
【0066】
(比較例)
胚性がん細胞PA−1株(JCRB9061)について、上記種々のECMに対する接着能を検討したところ、10μg/cm程度の濃度においては、コラーゲンやゼラチンが接着能は強かった(図1(c)参照)。
【0067】
(考察)
上記結果では多能性幹細胞はラミニンとフィブロネクチンに対する接着能が強いことが示されたが、ラミニン上で培養した細胞では、サイトケラチン(cytokeratin)が強く発現するので、ウシあるいはヒト由来フィブロネクチンを本発明のサプリメントの一成分として用いることとした。
【0068】
[サプリメント成分;オレイン酸抱合ウシアルブミンの代替成分の検討]
上記hESF9培地等、多くの従来の培地では、ウシアルブミン(Bovine serum albumin:BSA)が用いられてきたが、動物由来原料であることから、アニマルプロダクトフリー成分への代替の検討を行った。発明者によるこれまでの検討により、アルブミン1mg/mL、オレイン酸9.4μg/mL(シグマ社製)の濃度で、細胞増殖や未分化性維持が高い傾向があることが確認されていたが、未分化マーカーSSEA−4、TRA−1−60、Nanog及び分化マーカーSSEA−1を用いて、ウシアルブミン若しくはリコンビナントヒトアルブミン(rHSA・ミリポア社製)及び/又はオレイン酸を添加した場合に、ES細胞の未分化性維持がどのような影響を受けるかについて検討することとした。なお、オレイン酸とアルブミンを添加する場合は、オレイン酸抱合アルブミンの態様で添加した。上記hESF9培地の成分のうち、BSAとオレイン酸について、オレイン酸抱合BSA(培地条件1)、rHSAのみ(培地条件2)、オレイン酸抱合rHSA(培地条件3)で代替し、また、上記hESF9培地にBSA、rHSA、オレイン酸のいずれも添加しない培地をネガティブコントロール(培地条件4)として、H9株(WA09)の培養を行った。培養されているH9株(WA09)をhESF9培地にて1継代培養し、蛍光免疫染色を行い、発現細胞の陽性率を解析した。細胞をPBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温にて15分固定し、ウシ血清でブロッキングを行った後、抗SSEA−4抗体(Abcam社製)とAlexaFluor標識抗マウスIgG(インビトロジェン社製)、抗TRA−1−60抗体(Abcam社製)とAlexaFluor標識抗マウスIgM(インビトロジェンより社製)、抗SSEA−1抗体(Abcam社製)とAlexaFluor標識抗マウスIgM(インビトロジェン社製)を用いて免疫染色を行い、また、トライトンXを含むウシ血清でブロッキングを行った後、抗Nanog抗体(セルシグナリング社製)及び抗OCT4抗体(サンタクルーズ社製)で免疫染色処理をし、AlexaFluor標識二次抗体と反応させ、蛍光顕微鏡下に観察を行った。上記各培地条件の詳細について以下の表3に、結果を図2に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
(結果)
培地条件(1)〜(4)の違いによる、1継代培養したH9株(WA09)における、未分化性マーカーSSEA−4、TRA−1−60、Nanog発現細胞の陽性率に有意差は見られなかった(図2参照)。一方、分化性マーカーであるSSEA−1発現細胞の陽性率は、rHSAのみを添加した培地条件(2)において有意に(*印)増加していることがわかった。以上の結果から、rHSAは未分化性マーカーの発現に影響を与えないものの、オレイン酸抱合rHSAを添加することで、分化マーカーの発現を減少させ、分化を抑制する効果があることが示された。
【0071】
(蛍光免疫染色)
培地条件(3)において3継代目のH9株(WA09)培養細胞を未分化マーカーSSEA−4、Tra1−60、Nanog、分化マーカーSSEA-1を用いて蛍光免疫染色により確認した。
【0072】
(結果)
未分化マーカーSSEA−4、Tra1−60、Nanogの各抗体を用いて免疫染色されたH9株(WA09)培養細胞は、各抗体が高発現していることを確認できるが、分化マーカーSSEA-1は低発現であることが確認された。以上の結果からオレイン酸抱合rHSAを含むサプリメントが多能性幹細胞の未分化性維持に有効であることが確認された。
【0073】
[サプリメント成分;ブタ由来ヘパリンの除去]
従前、本発明者らは、霊長類の胚性幹細胞を維持するために、ヘパリンを含んだ培地を開発してきたが(例えば、上記特表2009−542247参照)、ヘパリンは供給源の大部分がブタ等の動物であるため、hESF-9からヘパリンを削除した培地にアクチビンを添加した培地で、H9株(WA09)の培養を試みた。2継代目の培養細胞について抗Tra−1−60抗体で染色したH9株(WA09)を顕微鏡で観察したところ、細胞と細胞との境界が不明瞭で細胞質を核がほとんど占める細胞の形態や、コロニーの丸い輪郭や、細胞がやや盛り上がっている様子を読み取ることができ、多能性が維持されていることが確認された(図4参照)。かかる結果より、ブタ由来ヘパリンを培地成分から除くこととした。
【実施例2】
【0074】
[基礎培地;hESF−grow培地の調製]
発明者らは、従前の培地(例えば、上記国際公開WO2005/063968号パンフレット参照)に、HEPESを添加していたが、HEPESを無血清培地に添加すると非常にヒトES細胞の維持に悪影響を与える(例えば上記PNAS, vol.105, no.36, 13409-13414参照)との知見から、HEPESを除き、アスコルビン酸を添加すると未分化性が維持される(特表2009−542247号公報)という知見をもとに、アニマルプロダクトフリーの基礎培地として、以下の表4に示される組成の基礎培地(hESF−grow培地)を作製し、常法にしたがって滅菌した。
【0075】
【表4】
【0076】
発明者らの知見及び上記検討に基づき、ヒト多能性幹細胞の未分化性維持培養に用いられるサプリメントとして、ウシフィブロネクチン、リコンビナントヒトインスリン、リコンビナントヒトトランスフェリン(apo)、2−メルカプトエタノール、2−エタノールアミン、セレン酸ナトリウム、リコンビナントヒトFGF−2、オレイン酸抱合リコンビナントヒトアルブミン、及びリコンビナントヒトアクチビンを適宜組み合わせて、上記hESF−grow培地に添加して調製した培地を用いて、多能性幹細胞の培養を試みることとした。
【0077】
以下の検討において、凍結保存されているH9株(WA09)は、0.1%ゼラチン(Embryomax、ミリポア社製)被覆フラスコ(コーニング社製)で、10%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地を用いて、マイトマイシンCにて細胞増殖を停止させたマウス胎仔由来線維芽細胞(ミリポア社製)をフィーダー細胞として播種し、1mMのL−グルタミン(21-51-016、GIBCO社製)、0.1mMの2−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸(11140-035、GIBCO社製)、20%KSR(10828-028、GIBCO社製)及び4ng/mlのbFGF(13256-029、片山科学社製)を補充したDM/F12(GIBCO社製)を添加したKSR添加培地にて維持することで播種前の調製を行った。
【0078】
(培地の調製1)
25cmフラスコ(コーニング社製)に、(1)ヒト血漿フィブロネクチン(F0895、シグマ社製)を2μg/cmになるようにPBSに溶解して入れ、乾燥させないように3時間37℃にて処理し、細胞播種直前に溶液を吸引除去し、その上に、(2)10μg/mlのリコンビナントヒトインスリン(19278-5ML、シグマ社製)、(3)5μg/mlのリコンビナントヒトトランスフェリン(apo)(T 2252、シグマ社製)、(4)10μMの2−メルカプトエタノール(M 7522、シグマ社製)、(5)10μMの2−エタノールアミン(E 0135、シグマ社製)、(6)20nMの亜セレン酸ナトリウム(S 9133、シグマ社製)、(7)1mg/mLのリコンビナントヒトアルブミンに9.4μg/mlのオレイン酸(O-1383-5G、シグマ社製)を複合体化したrHSA抱合オレイン酸、(8)5ng/mlのbasicFGF (片山科学社製)の8因子からなるサプリメントと、アクチビン(N-338 AC/CF、R&D社製)とを、アクチビン含有サプリメントとして上記hESF−grow培地に添加した培地を、アクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地として調製した。
【0079】
(培地の調製2)
上記(1)〜(8)の8因子からなるサプリメントを、アクチビン不含サプリメントとして上記hESF−grow培地に添加した培地を、アクチビン不含サプリメント+hESF−grow培地として調製した。
【0080】
(アクチビン含有培地での培養)
上記アクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地でH9株(WA09)の培養を開始して60時間後に、上記アクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地への培地交換を行った。培養開始から7日後に細胞を観察した。細胞の顕微鏡写真を図5(a)に示す。コロニーの形状が扁平で形が崩れたものとなっており、未分化性が失われている可能性が高いことが確認された。
【0081】
(アクチビン不含培地への培地交換)
上記アクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地でH9株(WA09)の培養を開始して60時間後に、上記アクチビン不含サプリメント+hESF−grow培地への培地交換を行った。培養開始から5日後に細胞を観察した。細胞の顕微鏡写真を図5(b)に示す。コロニーの形状が丸く盛り上がっており、未分化性が失われていない可能性が高いことが確認された。
【実施例3】
【0082】
[ヒト多能性幹細胞の未分化性維持培養]
(フィブロネクチンコーティング)
これ以降、上記アクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地を第一の培地として用い、上記アクチビン不含サプリメント+hESF−grow培地を第二の培地として用いて検討を続けることとした。
【0083】
前記KSR添加培地にて維持されているH9株(WA09)を、培地をのぞいたのち、1unit/mlのディスパーゼを37℃にて2分作用させた後、ディスパーゼをのぞき、本発明の上記第一の培地溶液で、スクレーパーなどを用いて細胞集団を集めて、300rpmで1分遠心分離後、上記第一の培地の溶液で分散して再度遠心分離し、上記第一の培地に分散させて、1継代目の培養を開始した。
【0084】
上記第一の培地でH9株(WA09)の培養開始後60時間後に、上記第二の培地への培地交換を行った。さらに、24時間毎に、第二の培地への培地交換を3回行い、第一の培地から第二の培地への培地交換後3日目に、培養されていたH9株(WA09)の培地をのぞいたのち、1unit/mlのディスパーゼを37℃にて5分作用させた後、ディスパーゼをのぞき、本発明の上記第一の培地溶液で、スクレーパーなどを用いて細胞集団を集めて、300rpmで遠心分離後、上記第一の培地溶液で分散して再度遠心分離後、第一の培地へ分散することにより植継ぎ(継代)をして、2継代目の培養を行った。1継代目に使用した細胞の使用するタイミングが最適な場合、2継代目はおよそ3、4日目、それ以降は5日目で継代となる。
【0085】
上記第一の培地へ継代された2継代目のH9株(WA09)は、第一の培地での培養開始60時間後に、第二の培地への培地交換を行った。第二の培地で培地交換を5回行った後、第一の培地から第二の培地への培地交換後5日目に、再び第一の培地へ継代し3継代目の培養を行い、これ以降第一の培地への継代と第二の培地への培地交換の工程を繰り返し行い、培養を続けた。
【0086】
(形態学的観察)
図6は、上記方法で培養したH9株(WA09)培養細胞の1〜6継代目の細胞を位相差顕微鏡下に観察した写真である。いずれの時期においても未分化細胞の特徴である細胞と細胞の境界が不明瞭で、細胞は核がほとんどをしめて細胞質がほとんどないこと、細胞集団(コロニー)の輪郭が丸くはっきりしており、細胞がやや盛り上がっているコロニーが多くなっていることや、また、コロニーの辺縁から線維芽細胞様細胞や神経様細胞が現れてないこと等の様子を読み取ることができ、多能性が維持されていることを確認した。
【0087】
(フローサイトメトリー法による解析)
H9株(WA09)を上記方法で培養したH9株(WA09)培養細胞について、未分化マーカーとしてSSEA−3、SSEA−4、TRA−2−54、TRA−1−60、TRA−1−80、及びCD90(BD社製)を用い、分化マーカーとしてSSEA−1、CD105(BD社製)、CD56(BD社製)、及びA2B5(ミリポア社製)を用い、未分化性についてフローサイトメトリー法にて解析を行った。HLA−abc(BD社製)は、細胞がヒト由来であるかを確認するために用いた。5継代目の上記H9株(WA09)培養細胞について、直近の植継ぎから5日目の細胞をトリプシン/EDTAを含むPBS溶液にて細胞を分散させ、細胞を1mlの10%ウシ血清(ハイクローン社製)中に30分間懸濁後遠心分離し、次に各マーカーのマウス抗体(Abcam社製)とともに30分インキュベートした。上記培養細胞を、1%ウシ血清を含有するPBSで3回洗浄し、AlexaFluor−コンジュゲート化抗ラットIgM、ヤギ抗マウスIgG、IgM抗体(インビトロジェン社)と15分間反応させた。上記培養細胞を、1%ウシ血清を含有するPBSで3回洗浄した後、再懸濁した細胞をBD FACSCantoTM フローサイトメーター(BD社製, NJ USA)を用いて解析した。結果を図7に示す。
【0088】
(結果)
図7から明らかなとおり、未分化マーカーであるSSEA−3、SSEA−4、TRA−2−54、TRA−1−60、TRA−1−80、及びCD90については、高発現をしている細胞が66.3%〜99.5%であることが示された。分化マーカーであるSSEA−1、CD105、CD56、A2B5は、1.12%〜12.5%の発現にとどまった。HLA−abcは99%であることから、ヒト由来細胞であることが示されている。これらの結果から、フィブロネクチンをコーティングした場合において、上記H9株(WA09)培養細胞は、5継代を経た後においても未分化性を維持している多能性幹細胞
であることが示された。
【実施例4】
【0089】
[ヒト多能性幹細胞の未分化性維持培養]
(フィブロネクチン含有第一の培地の調製)
6穴プレート(BD社製)に、上記hESF−grow培地に10μg/mlのリコンビナントヒトインスリン、5μg/mlのリコンビナントヒトトランスフェリン(apo)、10μMの2−メルカプトエタノール、10μMの2−エタノールアミン、20nMの亜セレン酸ナトリウム、1mg/mLのリコンビナントヒトアルブミンと複合体化した9.4μg/mlのオレイン酸、及び2ng/mLのリコンビナントヒトアクチビンを添加し、さらに0、20、40、80、160、320μg/ウェルのウシフィブロネクチンをそれぞれのウェルに添加した培地をフィブロネクチン含有の第一の培地として調製した。
【0090】
(フィブロネクチン含有第二の培地の調製)
6穴プレート(BD社製)に、上記hESF−grow培地に5μg/mlのリコンビナントヒトトランスフェリン(apo)、10μMの2−メルカプトエタノール、10μMの2−エタノールアミン、20nMのセレン酸ナトリウム、及び1mg/mLのリコンビナントアルブミンと複合体化した9.4μg/mlのオレイン酸を添加し、さらに0、20、40、80、160、320μg/ウェルのウシフィブロネクチンをそれぞれのウェルに添加した培地をフィブロネクチン含有の第二の培地として調製した。
【0091】
上記H9株(WA09)について、前記フィブロネクチンコーティングの項記載の第一の培地と第二の培地を、上記フィブロネクチン含有第一の培地とフィブロネクチン含有第二の培地に代替し、フィブロネクチンの濃度を変えてそれぞれのウェルにおいて培養したこと以外は、前記フィブロネクチンコーティングと同様の方法で培養した。使用したプレートの1ウェルの面積は9.6cmであり、培地は3ml添加した。
【0092】
(結果)
上記H9株(WA09)培養細胞の無血清培地への継代後の顕微鏡写真を図8に示す。細胞の外観より、80μg/ウェルのフィブロネクチンを添加した場合に未分化性が最も維持されると判断した。フィブロネクチンは、培養容器にコートするのではなく、他のサプリメント成分と共に基礎培地に添加しても本発明の方法において有効であることが確認された。これらの結果により、本発明の培養方法を用いることにより、繰り返し継代した後においてもヒト多能性幹細胞は未分化性を維持していることが確認された。
【実施例5】
【0093】
[ヒトips細胞の未分化性維持培養]
(プロテインキナーゼCペプチドインヒビターを含有する培地による培養)
実施例3記載のフィブロネクチンコーティングのアクチビン含有サプリメント+hESF−grow培地及びアクチビン不含サプリメント+hESF−grow培地に、それぞれ0、1、2.5、5、10μMのミリストイル化プロテインキナーゼCペプチドインヒビター(Myr. RFARKGALRQKNV)(プロメガ社製)を添加した培地を調製して、プロテインキナーゼC阻害剤含有第一の培地、及び、プロテインキナーゼC阻害剤含有第二の培地として用いた。
【0094】
ヒトiPS細胞Tic株(JCRB1331)について、上記プロテインキナーゼC阻害剤含有第一の培地に分散させて培養を開始した。上記Tic株の培養開始後60時間後に、上記プロテインキナーゼC阻害剤含有第二の培地への培地交換を行った。さらに、24時間毎に培地交換を2回行い、培養開始後4日目に、4.5mMクエン酸、2.25mMクエン酸ナトリウム、3mM塩化ナトリウム、65%メタノール及び4%パラホルムアルデヒドで5分間固定後、FastRed基質キット(シグマ社製)を用いて、製造元の指針に従いアルカリホスファターゼ染色を行った。結果を図9に示す。
【0095】
(結果)
上記Tic株の培養開始後4日目の写真を図9に示す。ミリストイル化プロテインキナーゼC(PKC)ペプチドインヒビターを1〜5μM添加した培地で培養すると、添加濃度が0の場合と比較して、さらに分化が抑制されていることが観察され、また、1〜2.5μM添加した培地では、増殖性が高まっている様子が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
最近、複数の方向に分化する能力を有すると考えられる幹細胞を人為的に分化誘導して、組織・器官の作製を行い、欠損組織の補填を行う再生医療が、従来の臓器移植の欠点を補う治療法として注目されている。本発明の方法により、未分化性を維持している多能性幹細胞を供給できることになり、目的とする組織や臓器を体外又は体内で構築する再生医療へ応用できるようになることで、自家移植を含む移植治療が抱える様々な問題を解決できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9