特許第6148483号(P6148483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6148483架橋物、フィルム、および接着性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148483
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】架橋物、フィルム、および接着性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20170607BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20170607BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20170607BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170607BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170607BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C08J3/24 Z
   C08J3/28CES
   C08J5/18
   C08L23/26
   C09J7/02 Z
   B32B27/32 101
   B32B27/16 101
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-19720(P2013-19720)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-148652(P2014-148652A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・デュポンポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140877
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100140545
【弁理士】
【氏名又は名称】早瀬 貴介
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】中野 重則
(72)【発明者】
【氏名】牧 伸行
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−179675(JP,A)
【文献】 特開2004−131558(JP,A)
【文献】 特開平11−140251(JP,A)
【文献】 特開平07−173339(JP,A)
【文献】 特表2001−505616(JP,A)
【文献】 特開2004−131512(JP,A)
【文献】 特開2000−085062(JP,A)
【文献】 特開昭62−290536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08J 5/00−5/02;5/12−5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C09J 7/00− 7/04
B29C 35/00−35/18
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)とを含む樹脂組成物を電子線照射してなる架橋物であって、前記樹脂組成物中の、前記アイオノマー(A)と、前記エポキシ化合物(B)と、前記ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、前記アイオノマー(A)の含有比率が50質量%〜94.5質量%であり、前記エポキシ化合物(B)の含有比率が0.5質量%〜10質量%であり、前記ポリオレフィン(C)の含有比率が5質量%〜40質量%である架橋物
【請求項2】
前記α,β−不飽和カルボン酸が、(メタ)アクリル酸である請求項1に記載の架橋物。
【請求項3】
前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体は、さらにα,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位を有する三元共重合体である請求項1又は請求項2の架橋物。
【請求項4】
前記アイオノマー(A)の金属種は、亜鉛またはナトリウムである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の架橋物。
【請求項5】
前記エポキシ化合物(B)が、α−オレフィン由来の構成単位(i)、及び、グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルに由来の構成単位(ii)を少なくとも有する多元共重合体である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の架橋物。
【請求項6】
前記エポキシ化合物(B)が、さらに、ビニルエステル又は不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位(iii)を有する三元共重合体である請求項5に記載の架橋物。
【請求項7】
前記ポリオレフィン(C)が、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、低密度ポリエチレン、及び線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の架橋物。
【請求項8】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の架橋物を含むフィルム。
【請求項9】
請求項に記載のフィルムと、接着層とを含む接着性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋物、フィルム、および接着性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
建材、日用品、家庭用品、玩具、文具など多方面で用いられる樹脂フィルムは、製品を使用する者の需要に合わせて、様々な特性が要求されている。
【0003】
たとえば、耐熱性、耐スクラッチ性等に優れた成形品表面層を形成することが可能な表皮用積層フィルムを得るために、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマー(A)層と熱接着性樹脂(B)層とからなる積層フィルムにおいて、アイオノマー(A)層を電子線架橋することが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
また、表面の耐傷付き性(耐摩耗性)、防汚性、意匠性、エンボス加工性等に優れた熱接着性基材表皮用の積層フィルムを得るために、エチレン不飽和カルボン酸共重合体又はエチレンと不飽和カルボン酸を主構成単位成分とする多元共重合体をベース樹脂とするアイオノマー、或いは、そのアイオノマーを主配合成分として含有する組成物からなる表皮層の一面に基材との熱接着性が良好な接着樹脂層を積層することが知られている(たとえば、特許文献2〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−085062号公報
【特許文献2】特開2001−261906号公報
【特許文献3】特開2004−131512号公報
【特許文献4】特開2007−039533号公報
【特許文献5】特開2006−205527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、自動車内外装表皮材、建装材表皮、包装材、文具、玩具、日用品、家庭用品、電化製品表皮のごとき、荷重が加わりながら繰り返し擦過される材料には、より耐摩耗性に優れ、かつ耐熱性に優れるフィルムが求められている。
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、耐摩耗性および耐熱性に優れる架橋物、フィルム、及び、接着性フィルムを提供することを目的とし該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)とを含む樹脂組成物を電子線照射してなる架橋物である。
【0008】
<2> 前記α,β−不飽和カルボン酸が、(メタ)アクリル酸である前記<1>の架橋物である。
【0009】
<3> 前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体は、さらにα,β−不飽和カルボン酸エステル由来の構成単位を有する三元共重合体である前記<1>又は前記<2>に記載の架橋物である。
【0010】
<4> 前記アイオノマー(A)の金属種は、亜鉛またはナトリウムである前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の架橋物である。
【0011】
<5> 前記エポキシ化合物(B)が、α−オレフィン由来の構成単位(i)、及び、グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルに由来の構成単位(ii)を少なくとも有する多元共重合体である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の架橋物である。
【0012】
<6> 前記エポキシ化合物(B)が、さらに、ビニルエステル又は不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位(iii)を有する三元共重合体である前記<5>に記載の架橋物である。
【0013】
<7> 前記ポリオレフィン(C)が、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、低密度ポリエチレン、及び線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1つである前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の架橋物である。
【0014】
<8> 前記樹脂組成物中の、前記アイオノマー(A)と、前記エポキシ化合物(B)と、前記ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、前記アイオノマー(A)の含有比率が50質量%〜94.5質量%であり、前記エポキシ化合物(B)の含有比率が0.5質量%〜10質量%であり、前記ポリオレフィン(C)の含有比率が5質量%〜40質量%である前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の架橋物である。
【0015】
<9> 前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の架橋物を含むフィルムである。
【0016】
<10> 前記<9>に記載のフィルムと接着層とを含む接着性フィルムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐摩耗性および耐熱性に優れる架橋物、フィルム、及び、接着性フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の架橋物について詳細に説明すると共に、架橋物の製造方法および架橋物の成形体(フィルム等)についても詳述する。
【0019】
<架橋物>
本発明の架橋物は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)とを含む樹脂組成物を電子線照射してなる。
以下、「エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)」を単に、「アイオノマー(A)」とも称する。また、上記の(A)〜(C)を含む樹脂組成物を、「特定樹脂組成物」ともいう。
架橋物が上記構成であることで、耐摩耗性および耐熱性に優れる。
これは、次の理由によるものと推察される。
本発明の架橋物の製造方法の詳細は後述するが、本発明の架橋物は、特定樹脂組成物を用いる。特定樹脂組成物には、(A)〜(C)の各成分を含有しており、(A)〜(C)を組み合わせることで、アイオノマー(A)を構成するα,β−不飽和カルボン酸系由来のカルボニル基が、エポキシ化合物(B)と反応し、第1の架橋をすると考えられる。特定樹脂組成物に、ポリオレフィン(C)を含有することで、(A)および(B)による第1の架橋が過度に進行することを抑制し、ゲル化の進行を抑制して特定樹脂組成物が得られ易いと考えられる。
このように、アイオノマー(A)とエポキシ化合物(B)とが架橋した状態で、特定樹脂組成物に、さらに、電子線を照射することで、アイオノマー(A)が有するエチレン鎖同士のラジカル反応を引き起こし、第2の架橋をすると考えられる。
すなわち、本発明の架橋物は、分子構造として、第1の架橋に由来する架橋構造と、第2の架橋に由来する架橋構造とを併せ持つために、従来にない強度を有し、耐摩耗性および耐熱性に優れると考えられる。
【0020】
〔エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)〕
アイオノマー(A)は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基を、金属化合物により中和した化合物である。
まず、アイオノマー(A)を構成するエチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体について説明する。
【0021】
アイオノマー(A)を構成するエチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンと、α,β−不飽和カルボン酸とが共重合した少なくとも二元の共重合体であり、さらに、α,β−不飽和カルボン酸エステル等の第3の共重合成分が共重合した三元以上の多元共重合体であってもよい。
【0022】
エチレン・不飽和カルボン酸系二元共重合体を構成するα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4〜8の不飽和カルボン酸などが挙げられる。特に、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0023】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体は、後述する第3の共重合成分の例示群より選択される少なくとも1種の共重合成分で共重合された三元以上の多元共重合体であってもよい。
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体(A)が三元以上の多元共重合体であるとき、エチレン及び前記α,β−不飽和カルボン酸系と共に多元共重合体を形成するモノマー(第3の共重合成分)としては、α,β−不飽和カルボン酸エステル、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3−ブタジエン、ペンテン、1,3−ペンタジエン、1−ヘキセン等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられる。
【0024】
例えば、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体の三元共重合体としては、具体的には、エチレンと、α,β−不飽和カルボン酸と、α,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体、エチレンと、α,β−不飽和カルボン酸と、不飽和炭化水素との三元共重合体等が挙げられる。
【0025】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、アルキルエステルであっても、アリールエステルであってもよいが、アルキルエステルであることが好ましい。
アルキルエステルのアルキル部位としては、炭素数1〜12のものを挙げることができ、より具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、セカンダリーブチル、2−エチルヘキシル、イソオクチル等のアルキル基を例示することができる。
本発明では、アルキルエステルのアルキル部位の炭素数は、1〜8が好ましい。
【0026】
例えば、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)等が挙げられる。
α,β−不飽和カルボン酸エステルは、中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル部位の好ましい炭素数は1〜4)がより好ましい。
【0027】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよいが、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)との反応性の点、工業的に入手可能な点で、二元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体、二元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは三元ランダム共重合体のグラフト共重合体を使用するのが好ましく、より好ましくは二元ランダム共重合体または三元ランダム共重合体である。
【0028】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体などが挙げられる。エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体(A)における三元共重合体としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体のごとき三元共重合体等が挙げられる。
【0029】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体がα,β−不飽和カルボン酸に由来の構成単位を含有するとき、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸に由来の構成単位の含有比率(質量比)は、4質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは7質量%〜18質量%である。α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有比率が4質量%以上であると、第一の架橋を促進する点で有利である。また、α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有比率が、20質量%以下であると、成形性の点で有利である。
【0030】
エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体がα,β−不飽和カルボンエステルに由来の構成単位を含有するとき、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来の構成単位の含有比率(質量比)は、ブロッキング防止の観点から、5質量%〜25質量%が好ましく、より好ましくは8質量%〜15質量%である。
【0031】
アイオノマー(A)の金属イオン種としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)等を挙げることができる。以上の中でも、亜鉛およびナトリウムが好ましい。
【0032】
アイオノマー(A)において、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、15%〜85%が好ましい。中和度が15%以上であることで、本発明の架橋物の耐摩耗性および耐熱性をより向上することができ、85%以下であることで、本発明の架橋物の硬度を抑制し、加工性や成形性に優れる。中和度は、さらに、17%〜82%がより好ましい。
ここでの中和度は、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体が有する酸基、特にカルボキシ基のモル数に対する、金属または金属化合物の配合比率(モル%)である。
【0033】
アイオノマー(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分〜20.0g/10分の範囲が好ましく、特に0.5g/10分〜20g/10分、更には0.7g/10分〜18g/10分が好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、本発明の架橋物の成形性の点で有利である。
なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0034】
アイオノマー(A)の特定樹脂組成物中の含有比率は、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、50質量%〜94.5質量%が好ましい。アイオノマー(A)の含有比率が50質量%以上であると、特定樹脂組成物を電子線架橋して得られる本発明の架橋物の耐摩耗性および耐熱性を向上することができ、94.5質量%以下であると、特定樹脂組成物の成形性に優れる。
アイオノマー(A)の特定樹脂組成物中の前記含有比率は、75質量%〜85質量%であることがより好ましい。
【0035】
〔エポキシ化合物(B)〕
特定樹脂組成物は、エポキシ化合物(B)を含有する。
エポキシ化合物(B)は、特定樹脂組成物中に含まれるアイオノマー(A)が有するカルボニル基と反応し、第1の架橋を構成し得る。
エポキシ化合物(B)は、分子内にエポキシ環を有する化合物であれば特に制限されないが、本発明の架橋物の耐摩耗性や耐熱性を向上する観点からは、エポキシ環を有する重合体のごとき、多官能エポキシ化合物であることが好ましい。
【0036】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ化合物由来の構成単位を含む重合体が挙げられる。
エポキシ化合物由来の構成単位を構成し得るエポキシ化合物としては、例えば、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エポキシクレゾールノボラック樹脂のエマルジョン、変性ビスフェノールA型エポキシエマルジョン、アジピン酸ジグリシジルエステル、o−フタール酸ジクリシジルエステル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールSグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエーテル、グリシジルフタルイミド、プロピレンポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(EO)グリシジルエーテル、p−ターシャリブチルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコール(EO)15グリシジルエーテル、炭素数12〜13のアルコール混合物のグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレンポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジル−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
エポキシ化合物由来の構成単位としては、グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルに由来の構成単位が好ましい。
【0037】
さらに、エポキシ化合物(B)は、α−オレフィン由来の構成単位(i)、及び、グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルに由来の構成単位(ii)を少なくとも有する多元共重合体(b)であることが好ましい。
エポキシ化合物(B)を、構成単位(i)および構成単位(ii)を少なくとも含む多元共重合体(b)とすることで、より優れた耐熱性が得られる。
なお、アイオノマー(A)において説明した三元共重合体と、多元共重合体(b)とは異なる化合物である。
【0038】
多元共重合体(b)は、(b1)α−オレフィン(好ましくはエチレン)と、(b2)グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルと、を少なくとも共重合させた共重合体であり、(b1)由来の構成単位(i)及び(b2)由来の構成単位(ii)のみを有する場合は、二元共重合体である。
【0039】
多元共重合体(b)は、必要に応じて、本発明の目的が阻害されない範囲で、(b1)と(b2)とのほかに、さらに他の1種または複数種の共重合体成分を共重合させて得られた三元または四元以上の共重合体であってもよい。
多元共重合体(b)が有し得る他の共重合成分は特に制限されず、例えば、(b3)ビニルエステル又は不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。
【0040】
多元共重合体(b)は、(b1)由来の構成単位(i)及び(b2)由来の構成単位(ii)の2元共重合体、または(b1)由来の構成単位(i)、(b2)由来の構成単位(ii)及び(b3)由来の構成単位(iii)を有する三元共重合体であることが好ましい。
【0041】
多元共重合体(b)の共重合成分である(b1)「α−オレフィン」としては、炭素数2〜10のα−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−オクテンなど)が挙げられ、中でもエチレン、プロピレンが好ましい。
【0042】
多元共重合体(b)の共重合成分である(b2)「グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテル」としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0043】
多元共重合体(b)の好ましい共重合成分である(b3)「ビニルエステル」としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0044】
多元共重合体(b)の好ましい共重合成分である(b3)「不飽和カルボン酸エステル」としては、前記エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体(A)におけるα,β−不飽和カルボン酸のエステルが挙げられ、好ましくは前記α,β−不飽和カルボン酸の炭素数2〜5の低級アルキルエステル、更に好ましくは前記α,β−不飽和カルボン酸のイソブチルやn−ブチルなどの炭素数4のアルキルエステルである。
不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル等のエステル化合物が挙げられる。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチルなどのアクリル酸又はメタクリル酸の低級アルキルエステル(炭素数2〜5)が好ましい。更には、アクリル酸又はメタクリル酸のn−ブチルエステルやイソブチルエステルが好ましい。
【0045】
多元共重合体(b)中における構成単位(i)の比率(質量比)は、多元共重合体(b)の全質量に対して、40質量%〜99質量%が好ましく、より好ましくは50質量%〜98質量%である。
【0046】
多元共重合体(b)中における構成単位(ii)の比率(質量比)は、多元共重合体(b)の全質量に対して、0.5質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜15質量%である。構成単位(ii)の比率が0.5質量%以上であると、耐熱性の改善効果が大きく、構成単位(ii)の比率が20質量%以下であると、不飽和カルボン酸との反応が強くなり過ぎず、樹脂粘度の急激な上昇を抑えて成形性を保持でき、また組成物中のゲル発生を防ぐことができる。
【0047】
多元共重合体(b)中における、構成単位(iii)の比率(質量比)は、多元共重合体(b)の全質量に対して、0質量%〜49.5質量%が好ましく、より好ましくは0質量%〜40質量%である。
【0048】
多元共重合体(b)が、構成単位(iii)を有する三元共重合体であるとき、多元共重合体(b)中における、構成単位(iii)の比率(質量比)は、多元共重合体(b)の全質量に対して、1質量%〜40質量%が好ましい。構成単位(iii)の比率が40質量%以下であると、適度な柔軟性が得られると共に、ベトツキを抑えて良好なブロッキング性、及び耐融着性が得られる。
【0049】
エポキシ化合物(B)が、多元共重合体(b)等の共重合体であるとき、エポキシ化合物(B)は、ランダム共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。一般には、アイオノマー(A)との反応の均一性からランダム共重合体が好ましい。このようなランダム共重合体は、例えば、高温、高圧下のラジカル共重合によって得られる。
【0050】
エポキシ化合物(B)が、多元共重合体(b)等の重合体であるとき、エポキシ化合物(B)のメルトフローレート(MFR)は、0.01g/10分〜1000g/10分の範囲が好ましく、特に0.1g/10分〜200g/10分の範囲が好ましい。メルトフローレートが前記範囲内であると、架橋度合が向上し、耐熱性の点で有利である。
なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0051】
エポキシ化合物(B)の特定樹脂組成物中の含有比率は、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、0.5質量%〜10質量%であることが好ましい。エポキシ化合物(B)の含有比率が、0.5質量%以上あると、耐摩耗性および耐熱性がより向上し、10質量%以下であることで、アイオノマー(A)との過度の架橋反応を抑制して、良好な粘度を維持し、組成物中におけるゲルの発生を抑制し易くなる。
特に、エポキシ化合物(B)が、多元共重合体(b)である場合、多元共重合体(b)の特定樹脂組成物中における含有量は、0.5質量%〜10質量%であることが好ましく、1質量%〜5質量%であることがより好ましい。
【0052】
〔ポリオレフィン(C)〕
特定樹脂組成物は、ポリオレフィンの少なくとも1種を含有する。
ポリオレフィンが含まれることで、他成分の分散性が向上し、耐熱性の良好な特定樹脂組成物が得られる。
【0053】
ポリオレフィンとしては、炭素数2〜10のα−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−オクテンなど)の単独重合体または共重合体などが挙げられ、各種触媒を使用して種々の方法で製造されたものを使用することができる。より具体的なポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。
【0054】
前記ポリエチレンについて、好ましいのは低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)であり、線状低密度ポリエチレンの中で特に好ましいのはメタロセン触媒のような均一系触媒で製造された線状低密度ポリエチレンである。また、前記ポリエチレンは、エチレンとα−オレフィンとの共重合によるエチレン・α−オレフィン共重合体であってもよい。
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレンとα−オレフィン(好ましくは炭素数4〜12、より好ましくは炭素数5〜10)とのランダム、ブロック、交互共重合体などが挙げられる。好ましくは、単独共重合体とランダム共重合体が好適である。
【0055】
前記ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、及びプロピレンと他のモノマーとの共重合によるプロピレン系共重合体から選ばれる重合体が挙げられる。
前記プロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレンとα−オレフィン(好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは炭素数4〜8)とのランダム、ブロック、交互共重合体などが挙げられる。好ましくは、単独共重合体とランダム共重合体が好適である。
【0056】
上記の中でも、ポリオレフィンとしては、他成分の分散性が向上する点、耐熱性の点で、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0057】
前記ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分〜100g/10分が好ましく、特に好ましくは1g/10分〜80g/10分である。
前記ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)は、0.5g/10分〜100g/10分が好ましく、特に好ましくは1g/10分〜50g/10分であり、更には1g/10分〜20g/10分が好ましい。
なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠した方法により230℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0058】
前記ポリエチレンの密度は、880kg/m〜960kg/mが好ましく、900kg/m〜940kg/mがより好ましい。
前記ポリプロピレンの密度は、870kg/m〜930kg/mが好ましく、880kg/m〜920kg/mがより好ましい。
【0059】
ポリオレフィン(C)の特定樹脂組成物中の含有比率は、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、5質量%〜40質量%であることが好ましい。ポリオレフィン(C)の含有比率が、5質量%以上であると特定樹脂組成物のゲル化を抑制し、架橋物の耐熱性を向上し易く、40質量%以下であることで耐傷付き性が維持される
ポリオレフィン(C)の前記含有比率は、10質量%〜20質量%であることがより好ましい。
【0060】
上記の中でも、特定樹脂組成物は、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対して、アイオノマー(A)の含有比率が50質量%〜94.5質量%であり、エポキシ化合物(B)の含有比率が0.5質量%〜10質量%であり、ポリオレフィン(C)の含有比率が5質量%〜40質量%である場合が好ましく、アイオノマー(A)の含有比率が75質量%〜85質量%であり、多元共重合体(b)の含有比率が1質量%〜5質量%であり、ポリオレフィン(C)の含有比率が10質量%〜20質量%である場合がより好ましい。
なお、上記アイオノマー(A)、エポキシ化合物(B)、ポリオレフィン(C)それぞれの含有比率は、アイオノマー(A)と、エポキシ化合物(B)と、ポリオレフィン(C)との合計100質量%に対する量である。
【0061】
特定樹脂組成物は、アイオノマー(A)、エポキシ化合物(B)、及びポリオレフィン(C)を溶融混合することによって得ることができる。(A)〜(C)の溶融混合に際しては、スクリュー押出機、ロールミキサー、バンバリミキサー等の通常使用される混合装置を用いることができる。また、溶融混合は、(A)〜(C)の3成分を同時に配合して行なってもよい。
また、(A)〜(C)の3成分を同時に溶融混合する場合には、単軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混合することが望ましい。
【0062】
特定樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内において、他の重合体や各種添加剤を配合することができる。
このような他の重合体は、前記(A)、(B)及び(C)の合計100質量部に対し、例えば20質量%以下の割合で配合することができる。
【0063】
前記添加剤の一例として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げることができる。
【0064】
帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤や高分子型帯電防止剤が挙げられるが、高分子型帯電防止剤が好ましく、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリエーテル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミド又はポリエーテルエステルアミドの無機プロトン酸の塩等を挙げることができる。無機プロトン酸の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属、亜鉛塩、又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0065】
ポリエーテルエステルアミドとしては、ポリアミドブロックとポリオキシアルキレングリコールブロックとから構成され、これらブロックがエステル結合されたブロック共重合体が挙げられる。
ポリエーテルエステルアミドにおけるポリアミドブロックは、例えば、ジカルボン酸(例:蓚酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等)と、ジアミン(例:エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メチレンビス(4−アミノシクロヘキサン)、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン等)との重縮合、ε−カプロラクタム、ω−ドデカラクタム等のラクタムの開環重合、6−アミノカプロン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合、あるいは前記ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合等により得られるものである。このようなポリアミドセグメントは、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610などであり、特にナイロン11、ナイロン12などが好ましい。ポリアミドブロックの分子量は、例えば400〜5000程度である。
また、ポリエーテルブロックとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコールあるいはこれらの混合物などが例示される。これらの分子量は、例えば400〜6000程度、更には600〜5000程度がよい。
【0066】
帯電防止剤は、上市されている市販品を用いてもよく、具体例として、BASFジャパン社製のイルガスタットP−16、同P−18、同P−20、同P−22等、三洋化成工業社製のペレスタット230、ペレスタットHC250、ペレスタット300、ペレスタット2450、ペレクトロンPVH、三井・デュポン ポリケミカル社製のエンティラMK400、MK440、SD100等が挙げられる。
【0067】
前記帯電防止剤を含有する場合、前記帯電防止剤のフィルム基材中における含有量としては、前記(A)、(B)及び(C)の合計100質量部に対し、5質量%を越えて30質量%が好ましく、5質量%を越えて20質量%がより好ましい。
【0068】
〔電子線照射〕
本発明の架橋物は、(A)〜(C)を含む特定樹脂組成物を電子線照射してなる。
特定樹脂組成物に含まれるアイオノマー(A)は、α,β−不飽和カルボン酸系由来のカルボニル基を有しているため、特定樹脂組成物に含まれるエポキシ化合物(B)と反応して、第1の架橋を行うと考えられる。
かかる特定樹脂組成物が、さらに電子線照射されることで、アイオノマー(A)が有するエチレン鎖同士のラジカル反応を引き起こし、第2の架橋をすると考えられる。また、特定樹脂組成物が、第三成分として他にエチレン共重合体を含んだり、(A)〜(C)が第三の共重合成分としてエチレン単量体を含む場合は、これらのエチレン鎖も第2の架橋の対象となり得る。
【0069】
特定樹脂組成物への電子線照射の方法は特に制限されず、溶融混練によって得られた特定樹脂組成物のペレットに直接照射してもよいし、フィルム状に成形してから照射してもよい。
特定樹脂組成物中のアイオノマー(A)が有するエチレン鎖同士のラジカル反応を、偏りなく進める観点からは、特定樹脂組成物をフィルム状に成形してから、電子線照射を行うことが好ましい。フィルム状の特定樹脂組成物(特定樹脂組成物フィルム)の厚さは、40μm〜500μmとすることが好ましい。
【0070】
電子線照射条件は、特定樹脂組成物フィルムの厚さに応じて、加速電圧や照射量を調節すればよい。
【0071】
加速電圧は、100kV〜1000kV程度が一般的であり、架橋物の柔軟性、強度及び加工性を総合的に考慮すると、100kV〜600kV程度が好ましい。
【0072】
照射量は、10kGy(キログレイ)〜500kGyが一般的であり、架橋物の柔軟性、強度及び加工性を総合的に考慮すると、30kGy〜250kGyが好ましい。
かかる照射量であれば、架橋物の柔軟性を損なわずに、特定樹脂組成物が含有するアイオノマー(A)等に由来するエチレン鎖を十分に架橋することができ、得られる架橋物の耐摩耗性や耐熱性を向上することができる。
【0073】
<フィルム>
本発明のフィルムは、特定樹脂組成物を電子線照射してなる本発明の架橋物を含む。
既述のように、本発明の架橋物は、特定樹脂組成物をペレット塊のまま電子線照射して得てもよいし、特定樹脂組成物をフィルム状に成形してから電子線照射して得てもよい。
なお、本発明の架橋物を含んで構成されるフィルムを本発明の架橋物フィルムとも称する。
【0074】
本発明のフィルムは、一層でもよいし、多層でもよい。多層とするときは、本発明の架橋物フィルムを2枚以上重ねてもよいし、本発明の架橋物フィルムに他のフィルムを積層してもよい。
ここで、他のフィルムとは、本発明の架橋物を含まないフィルムであれば特に制限されず、例えば、アイオノマー(A)のみを含むフィルム、エチレン・α,β−不飽和カルボン酸系共重合体のみを含むフィルム等が挙げられる。他のフィルムは、電子線照射による架橋が行われていてもよいし、電子線未照射であってもよい。
【0075】
本発明のフィルムを積層フィルムとするときは、本発明の架橋物フィルム同士、または、本発明の架橋物フィルムと他のフィルムとを、接着剤等を用いて貼り合わせてもよいし、積層するフィルム同士を加圧又は加熱して、フィルム間を密着させてもよい。
【0076】
フィルム間の接着性を高める観点からは、特定樹脂組成物同士、または、特定樹脂組成物と積層する他のフィルムを構成する樹脂もしくは樹脂組成物とを、共押し出しした上で、押し出された積層体に電子線照射を行うことが好ましい。
特定樹脂組成物に電子線が照射されて本発明の架橋物となると共に、特定樹脂組成物に隣接する樹脂または樹脂組成物が、特定樹脂組成物の架橋物(本発明の架橋物)と接着するため、強固な接着力が得られる。特定樹脂組成物と一緒に共押し出しされる樹脂または樹脂組成物が、電子線照射により架橋し得る分子構造の化合物を含む場合は、特定樹脂組成物と一緒に共押し出しされる樹脂または樹脂組成物も電子線照射により架橋反応を起こすと考えられる。
【0077】
本発明のフィルムは、さらに、紫外線吸収剤を含む紫外線吸収層、白色粒子を含む光反射層、発泡樹脂を含むクッション層、接着剤を含む接着層等の種々の機能層を有していてもよい。
ただし、本発明のフィルムが積層フィルムであるときは、耐摩耗性および耐熱性に優れる本発明の架橋物フィルムが表皮層となるように、機能層を設けるとよい。なお、接着層を含むフィルム(接着性フィルム)の詳細は後述する。
【0078】
本発明のフィルムは、耐熱性の観点から、フィルム全体の厚さが、40μm〜500μmであることが好ましく、100μm〜500μmであることがより好ましい。
本発明のフィルムが、本発明の架橋物フィルムと他のフィルムとの積層フィルムであるときは、フィルム全体の厚さが、50μm〜700μmであり、本発明の架橋物フィルムの厚さが、40μm〜500μmであることが好ましい。
【0079】
<接着性フィルム>
本発明の接着性フィルムは、本発明のフィルムと、接着層とを含む。
本発明の接着性フィルムに含まれる本発明のフィルムは、一層であっても、多層であってもよい。また、さらに、接着層以外の機能層を有していてもよい。
【0080】
本発明のフィルムが多層の積層フィルムであるときは、例えば、「第1の本発明の架橋物フィルム/第2の本発明の架橋物フィルム/接着層」、「本発明の架橋物フィルム/第1の他のフィルム/第2の他のフィルム/接着層」、「第1の本発明の架橋物フィルム/他のフィルム/第2の本発明の架橋物フィルム/接着層」、「第1の他のフィルム/第1の本発明の架橋物フィルム/第2の本発明の架橋物フィルム/第2の他のフィルム/接着層」等の構成が挙げられる。
【0081】
本発明の接着性フィルムに含まれる本発明のフィルムが、他のフィルムを含んで構成される多層の積層フィルムであるときは、耐摩耗性および耐熱性に優れる本発明の架橋物フィルムが、接着性フィルムの表皮層となるように、本発明のフィルムと接着層と積層することが好ましい。
【0082】
〔接着層〕
接着層は、接着剤を含む。
接着剤は、接着性を有する成分であれば特に制限されず、尿素樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系等のエマルジョン型接着剤;クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系等の溶剤型接着剤;エポキシ樹脂系等の無溶剤型接着剤;ポリエステル樹脂系、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、感熱型接着剤等の反応性接着剤、熱接着性樹脂などが挙げられる。
【0083】
熱接着性樹脂は、容易に熱溶融して成形品に接着するものであり、例えばエチレンと極性モノマーとの共重合体、エチレンとα−オレフィンとの共重合体あるいはこれらを主成分とする重合体組成物などから選ぶことができる。とくに高周波ウェルダ特性良好な表皮材を目的とする場合は、エチレンと極性モノマーの共重合体またはそれらを主成分とする重合体組成物を使用することが望ましい。
【0084】
上記エチレン・極性モノマー共重合体における極性モノマーとしては、酢酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチルのような不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを挙げることができる。エチレン・極性モノマー共重合体における極性モノマーは、2種以上含むものであってもよい。
エチレン・極性モノマー共重合体における極性モノマー含量としては、機械的特性、高周波ウェルダー特性などを考慮すると、エチレン・極性モノマー共重合体全質量に対して、5質量%〜50質量%であることが好ましく、10質量%〜40質量%であることがより好ましい。エチレン・極性モノマー共重合体が、一酸化炭素を含有する共重合体である場合にあっては、さらに少量のモノマー含量で所望の性状のものを得ることができる。
【0085】
また、熱接着性樹脂として、これら共重合体を主成分とする重合体組成物を用いる場合、混合できる成分としては、低密度ポリエチレン、密度が860kg/m〜930kg/m程度のエチレンとα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンなどとの共重合体、粘着付与樹脂、例えば脂肪族、脂環族、または芳香族系の炭化水素樹脂、ロジン、テルペン樹脂など、ワックスなどを例示することができる。
【0086】
これら熱接着性樹脂としてはまた、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.1g/10分〜500g/10分であることが好ましく、1g/10分〜100g/10分のものを使用するのがより好ましい。
【0087】
反応性接着剤としては、変成シリコーン樹脂系接着剤、エポキシ変成シリコーン樹脂系接着剤、アクリル変成シリコーン樹脂系接着剤、シリル化ウレタン樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等をあげることができる。
反応性接着剤は、塗布可能な粘度を有し、その性質に応じて、乾燥、紫外線照射、重合剤の添加などによって硬化するものである。なお、接着剤成分は、接着剤を構成する樹脂成分をいう。
【0088】
接着剤の形態としては、1液型でも2液型でもよい。
2液型としては、たとえば、主剤と硬化剤とを用いる2液反応型ウレタン系接着剤が挙げられる。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例に用いた原料の組成と物性および得られたシート、フィルムの物性の測定方法は以下の通りである。
なお、<1.原材料>に示す「エチレン単位含有量」はエチレン由来の構成単位の含有比率を、「メタクリル酸単位含有量」はメタクリル酸由来の構成単位の含有比率を、「グリシジルメタクリレート単位含有量」はグリシジルメタクリレート由来の構成単位の含有比率を、「アクリル酸nブチル単位含有量」はアクリル酸nブチル由来の構成単位の含有比率を、それぞれ示す。
【0090】
下記原材料のうち、アイオノマー(A)、エポキシ化合物(B)、及び、エチレン・メタクリル酸共重合体(D)についてのメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して190℃、荷重2160gで測定し、ポリオレフィン(C)および基材(E)についてのメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210−1999に準拠して230℃、荷重2160gで測定した。
【0091】
<1.原材料>
〔アイオノマー(A)〕
(IO−1)
ベースポリマー:エチレン・メタクリル酸共重合体〔エチレン単位含有量:90質量%、メタクリル酸単位含有量:10質量%〕、金属カチオン源:亜鉛、中和度:65%、MFR(190℃、2160g荷重):5.5g/10分
(IO−2)
ベースポリマー:エチレン・メタクリル酸共重合体〔エチレン単位含有量:85質量%、メタクリル酸単位含有量:15質量%〕、金属カチオン源:亜鉛、中和度:59%、MFR(190℃、2160g荷重):0.9g/10分
【0092】
〔エポキシ化合物(B)〕
(EnBAGMA)エチレン・グリシジルメタクリレート・アクリル酸nブチル共重合体
(i)エチレン単位含有量:67質量%、
(ii)グリシジルメタクリレート単位含有量:5質量%、
(iii)アクリル酸nブチル単位含有量:28質量%、
MFR(190℃、2160g荷重):12g/10分
【0093】
〔ポリオレフィン(C)〕
(LLDPE)
線状低密度ポリエチレン〔プライムポリマー(株)製のエボリューSP1540、密度:913kg/m、MFR(230℃、2160g荷重):3.8g/10分〕
【0094】
〔エチレン・メタクリル酸共重合体(D)〕
(EMAA)エチレン・メタクリル酸共重合体
エチレン単位含有量:91質量%、メタクリル酸単位含有量:9質量%)、MFR(190℃、2160g荷重):3.0g/10分
【0095】
〔基材(E)〕
(LDPE)低密度ポリエチレン
密度:920kg/m、MFR:1.6g/10分
(PVC)ポリ塩化ビニル
大洋塩ビ株式会社製「TH−1000(硬質用)」
【0096】
〔接着剤〕
(接着剤U)
2液反応型ウレタン系接着剤
主剤:ウレタンポリオール(不揮発成分37質量%、粘度70〜100dPa・s/25℃、溶剤:トルエン、メチルエチルケトン)
硬化剤:ポリイソシアネート(不揮発成分75質量%、粘度10〜20dPa・s/25℃、溶剤:エチルアセテート)
主剤100質量部に対し、硬化剤10質量部を混合して用いた。
(接着剤S)変性シリコーン系接着剤
変性シリコーン樹脂100質量%、住友スリーエム社製「スコッチ(登録商標)」
(接着剤N)シアノアクリレート系接着剤
コニシ社製、「アロンアルファ(登録商標)」
【0097】
<2−1.フィルムの作製>
〔樹脂組成物の調製〕
直径が30mmの二軸押出機の樹脂投入口に、アイオノマー(IO−1)、ポリオレフィン(LLDPE)、及びエポキシ化合物(EnBAGMA)を、表1に示す割合で投入し、ドライブレンドした。その後、樹脂投入口に投入して、ダイス温度180℃で溶融混練することで、表皮用樹脂組成物Fを得た。なお、表1の「フィルム構成」欄中の「%」は、いずれも質量基準(質量%)である。
なお、表1中、「B)エポキシ」欄に示される数値は、EnBAGMAの樹脂組成物中の含有量である。
【0098】
〔実施例1、実施例2、および比較例1〕−単層構成のフィルム−
表皮用樹脂組成物Fを、40mmφキャストフィルム成形機を用いて加工温度230℃の条件で成形し、280μm厚のキャストフィルムを作製した。
得られたキャストフィルムについて、実施例1および実施例2は、表1に示す電子線照射量で、電子線照射による架橋を行ない、フィルムF1−1およびF1−2を得た。比較例1については、電子線照射による架橋を行わず、フィルムF101を得た。
【0099】
−電子線照射による架橋処理方法−
実施例1および実施例2において行った電子線照射、並びに、後述する実施例3〜8における電子線照射は、次のようにして行った。
すなわち、株式会社NHVコーポレーション製の電子線照射装置EBC300−60を使用し、加速電圧300kVおよび表中の線量にて、キャストフィルムの表皮用樹脂組成物F面に対して電子線照射を行った。
【0100】
〔実施例3、実施例4、および比較例2〕−二層構成のフィルム−
40mmφ3種3層キャストフィルム成形機において、1層目形成用樹脂および2層目形成用樹脂として表皮用樹脂組成物Fを用い、3層目形成用樹脂としてIO−2を用いて、ダイス温度230℃の条件で、表皮用樹脂組成物F/IO−2の重層構造を有する2種3層フィルム(層厚み330μm)を作製した。表皮用樹脂組成物F層の層厚、及び、IO−2層の層厚は、それぞれ280μm、及び、50μmとした。
得られた表皮用樹脂組成物F/IO−2の二層構成のフィルムについて、実施例3および実施例4は、表1に示す電子線照射量で、電子線照射による架橋処理を行ない、フィルムF2−1およびF2−2を得た。比較例2については、電子線照射による架橋処理を行わず、フィルムF201を得た。
【0101】
〔実施例5、実施例6、および比較例3〕−二層構成のフィルム2−
40mmφ3種3層キャストフィルム成形機において、1層目形成用樹脂および2層目形成用樹脂として表皮用樹脂組成物Fを用い、3層目形成用樹脂としてEMAAを用いて、ダイス温度230℃の条件で、表皮用樹脂組成物F/EMAAの重層構造を有する2種3層フィルム(層厚み330μm)を作製した。表皮用樹脂組成物F層の層厚、及び、EMAA層の層厚は、それぞれ280μm、及び、50μmとした。
得られた表皮用樹脂組成物F/EMAAの二層構成のフィルムについて、実施例5および実施例6は、表1に示す電子線照射量で、電子線照射による架橋処理を行ない、フィルムF3−1およびF3−2を得た。比較例3については、電子線照射による架橋処理を行わず、フィルムF301を得た。
【0102】
〔実施例7、実施例8、および比較例4〕−三層構成のフィルム−
40mmφ3種3層キャストフィルム成形機において、1層目形成用樹脂として表皮用樹脂組成物Fを用い、2層目形成用樹脂としてIO−2を用い、3層目形成用樹脂としてEMAAを用いて、ダイス温度230℃の条件で、表皮用樹脂組成物F/IO−2/EMAAの重層構造を有する3層フィルム(層厚み380μm)を作製した。表皮用樹脂組成物F層の層厚、IO−2層の層厚、及び、EMAA層の層厚は、それぞれ280μm、50μm、及び、50μmとした。
得られた表皮用樹脂組成物F/IO−2/EMAAの三層構成のフィルムについて、実施例7および実施例8は、表1に示す電子線照射量で、電子線照射による架橋処理を行ない、フィルムF4−1およびF4−2を得た。比較例4については、電子線照射による架橋処理を行わず、フィルムF401を得た。
【0103】
〔比較例5〕
直径が30mmの二軸押出機の樹脂投入口に、A)アイオノマー(IO−1)、及び、B)エポキシ化合物(EnBAGMA)を、表1に示す割合で投入し、溶融混練して樹脂組成物Gを作成した。樹脂組成物Gを用い、実施例1等と同様に、キャストフィルムG1の作製を試みたが、樹脂組成物Gがゲル化し、加工不能となった。
【0104】
<2−2.評価方法>
実施例および比較例のフィルムを使用して、耐摩耗性評価および耐熱性評価を行なった。
【0105】
(1)耐摩耗性評価(テーバー摩耗性)
実施例および比較例で作製したフィルムについて、JIS A1453(1973年)に基づき、テーバー摩耗性を評価した。
具体的には、1mm厚のポリオレフィンシート上に実施例および比較例で作成したフィルムを貼着し、実施例および比較例で作製したフィルムの表皮材(1層目)面に対して、摩耗輪S−42を、荷重530gで回転数500回転することにより測定した。なお、フィルムは、100回転毎にはたいた。
テーバー摩耗性評価前のフィルムの質量と、テーバー摩耗性評価後のフィルムの質量とを測定し、その差分を摩耗量として、表1に示した。表1に示される摩耗量が少ないほど、フィルムは、耐摩耗性に優れる。
【0106】
(2)耐熱性評価
耐熱性評価は、熱収縮性と熱融着(ヒートシール)性の観点から行った。
【0107】
(2−1)熱収縮性
実施例および比較例で作製したフィルムを、MD方向100mm×TD方向30mmに裁断し、フィルムの表面(表皮材面)には、予め、60mmの間隔で2本の標線を引いた。
次いで、フィルムに5g荷重をかけた状態で200℃に加熱したオーブン中につるし、2分間加熱した。
加熱後のフィルムをガラス板の上に置いてから3分経過後に、フィルム表面の標線間距離を測定した。フィルムの熱収縮性は、下記式に基づいて算出した。
熱収縮性=加熱後の標線間距離÷加熱前標線間距離(60mm)×100[%]
【0108】
(2−2)面々ヒートシール性
実施例および比較例で作製したフィルムを2枚用い、フィルムの表面(表皮材面)同士を重ねて、片面加熱し、ヒートシールを行なった。
なお、ヒートシールは、温度200℃、実圧0.2MPa、シール時間0.5秒の条件で、バーシールタイプのヒートシーラーを用いて行った。次いで、ヒートシール部を、引張試験機を用いて剥離し、剥離時の剥離強度を、シール強度(N/15mm)として測定した。ここで、引張試験機による剥離条件は、剥離速度300mm/分、剥離角度180°、試験片幅15mmとした。
ヒートシールされたフィルム間のシール強度が小さいほど、フィルムの耐熱性に優れる。なお、表1中の「材破」とは、フィルムの剥離時に、フィルムのシールエッジ部が切断されたこと、または、フィルムのシール部が凝集破壊されたことを表す。つまり、表1において「材破」と示されたものは、ヒートシールされた部分が強く接着するほどに融着したことを表し、表1においては、いずれにしても、フィルムの耐熱性が低かったことを意味する。
【0109】
<3−1.接着性フィルムの作製>
実施例1、実施例3、実施例5、および、実施例7で作成したフィルムF1−1、フィルムF2−1、フィルムF3−1、及び、フィルムF4−1の裏面にコロナ放電処理を施した。ここで、裏面とは、フィルムF1−1、フィルムF2−1、フィルムF3−1、及び、フィルムF4−1において、1層目表面の反対側の面をいう。
次いで、コロナ放電処理面に、表2に示す接着剤を、バーコーターを用いて、4g/mになるように塗布した。塗布面を乾燥処理して不完全硬化接着剤層(接着層)を有する接着性フィルムを得た。
【0110】
<3−2.積層体の作製>
〔実施例9〜実施例28〕
次に、この不完全硬化接着剤層を有する接着性フィルムの不完全硬化接着剤層上に、厚さ0.5mmの、表2に示す基材(LDPEまたはPVC)を重ねて、ヒートシールした積層体を得た。
なお、ヒートシールは、ヒートシーラー(テスター産業株式会社製、ヒートシールテスターTP−701S)を用いて、シール温度140℃、シール時間10秒、シール圧力(実圧)0.2MPaで行った。
【0111】
〔実施例29〜実施例36〕
フィルムF1−1、フィルムF2−1、フィルムF3−1、及び、フィルムF4−1の裏面にコロナ放電処理を施し、不完全硬化接着剤層を設けずに、コロナ放電処理面上に、表2に示す基材を重ねた積層体を得た。
【0112】
<3−3.積層体の基材接着性評価>
実施例9〜実施例36で作製した積層体を、23℃×50%RH環境下に静置し、24時間経過した後、幅15mm、長さ50mmに裁断し、接着サンプルを得た。得られた接着サンプルの表皮材面と、基板とを、引張試験機を使用して、23℃、50%相対湿度雰囲気下で剥離した。ここで、引張試験機は株式会社インテスコ製の引張試験機IM−20を使用し、剥離条件は、剥離速度300mm/分、剥離角度180°、試験片幅15mmとした。
剥離時の剥離強度をシール強度(N/15mm)として測定した。
【0113】
接着サンプルの表皮材面と基板との間のシール強度が大きいほど、接着性に優れる。
なお、表2中の「材破」とは、接着サンプルの表皮材面と、基板との剥離時に、接着サンプルのシールエッジ部が切断されたこと、または、接着サンプルのシール部が凝集破壊されたことを表す。つまり、表2において「材破」と示されたものは、接着サンプルの表皮材面と基板とが強く接着したことを表し、表2においては、シール強度の数値が示されているものよりも、接着性が高かったことを意味する。接着性フィルムを用いた接着サンプルについては、特に、接着層の接着性に優れたことを意味する。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1に示されるように、実施例のフィルムは、耐摩耗性および耐熱性に優れた。また、表2に示すように、接着層を設けることで、基材との接着性に優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の表皮用フィルムは、種々の成形品に容易に接着可能であり、耐摩耗性、耐熱性に優れた表皮材として好適である。本発明の表皮用フィルムは、単層あるいは複層のフィルム、シートなどの各種成形品が挙げられ、例えば、自動車外装表皮、電化製品表皮、建装材表皮、包装材、文具、日用品、土木シート等として好適に利用される。特に、圧力下での擦過が頻繁に付与されやすい自動車外装表皮、建装材表皮などの用途に適している。