【実施例1】
【0015】
以下、本発明を適用したサスペンション装置の実施例1について説明する。
実施例のサスペンション装置は、例えば4輪の乗用車等の自動車の後輪用として設けられるダブルウィッシュボーン式のサスペンションである。
図1は、実施例1のサスペンション装置を前方側から見た斜視図である。
図2は、実施例1のサスペンション装置を後方側から見た斜視図である。
図3は、実施例1のサスペンション装置を正面から見た図である。
図4は、実施例1のサスペンション装置を後方から見た図である。
図5は、実施例1のサスペンション装置を上方から見た図である。
図6は、実施例1のサスペンション装置を下方から見た図である。
図7は、実施例1のサスペンション装置を側方から見た図である。
【0016】
サスペンション装置1は、サブフレーム10、ハウジング20、フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40、アッパリンク50、トレーリングリンク60、ダンパユニット70、スタビライザ装置80等を有して構成されている。
【0017】
サブフレーム10は、サスペンション装置1の各リンクが取り付けられる基部となる構造部材であって、図示しない車体の後部床下に、防振ゴムを有するサブフレームブッシュを介して取り付けられている。
サブフレーム10は、フロントメンバ11、リアメンバ12、サイドメンバ13等を有して構成されている。
フロントメンバ11は、サブフレーム10の前端部に設けられ、車幅方向にほぼ沿って配置された梁状の部材である。
フロントメンバ11の両端部は、サブフレームブッシュを介して車体に取り付けられている。
リアメンバ12は、サブフレーム10の後端部に設けられ、車幅方向にほぼ沿って配置された梁状の部材である。
リアメンバ12の両端部は、サブフレームブッシュを介して車体に取り付けられている。
サイドメンバ13は、フロントメンバ11の側端部近傍の部分と、リアメンバ12の側端部近傍の部分とを車両前後方向にほぼ沿って連結する梁状の部材である。
サイドメンバ13は、車幅方向に離間して左右一対設けられている。
【0018】
ハウジング20は、車輪が取り付けられるハブを回転可能に支持するハブベアリングを収容する部材である。
サスペンション装置1は、ハウジング20をサブフレーム10に対して、所定の軌跡に沿って上下方向にストローク可能に支持するものである。
【0019】
フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40は、サイドメンバ13の下部とハウジング20の下部との間にわたして設けられている。
フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40は、車幅方向にほぼ沿いかつ車両の前後方向に離間して配置されている。
フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40の両端部は、それぞれ防振用のゴムブッシュを介して、サイドメンバ13及びハウジング20に対して揺動可能に接続されている。
【0020】
アッパリンク50は、サイドメンバ13の上部とハウジング20の上部との間にわたして設けられている。
アッパリンク50は、車幅方向にほぼ沿って配置されている。
アッパリンク50の両端部は、それぞれ防振用のゴムブッシュ及びボールジョイントを介して、サイドメンバ13及びハウジング20に対して揺動可能に接続されている。
【0021】
トレーリングリンク60は、フロントメンバ11の側端部近傍と、ハウジング20の下部との間にわたして設けられている。
トレーリングリンク60は、車両前後方向にほぼ沿って配置されている。
トレーリングリンク60の両端部は、それぞれ防振用のゴムブッシュを介して、フロントメンバ11及びハウジング20に対して揺動可能に接続されている。
【0022】
ダンパユニット70は、伸縮速度に応じた減衰力を発生するダンパ、及び、伸縮量に応じたバネ反力を発生するコイルスプリングをユニット化したものである。
ダンパユニット70の上端部は、防振ゴムを有するトップマウントを介して図示しない車体に取り付けられている。
ダンパユニット70の下端部は、リアラテラルリンク40に取り付けられている。
なお、ダンパユニット70におけるダンパは、公知のアクティブサスペンション装置と同様に、後述するダンパストローク制御ユニット130からの指令に応じて伸縮方向のそれぞれに強制的にストロークさせるアクチュエータを備えている。
【0023】
スタビライザ装置80は、サスペンション装置1の左右で逆方向(逆位相)のストロークが生じた場合に、左右のストローク差を軽減する方向へのバネ反力を発生するアンチロール装置である。
スタビライザ装置80は、バネ鋼によって形成され中間部が車幅方向にほぼ沿って配置されたスタビライザバーの両端を、リンクを介して左右のリアラテラルリンク40に接続されている。
【0024】
上述したサスペンション装置1においては、旋回による横力に起因するフロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40のブッシュの弾性変形により、旋回外輪側でトーイン、旋回内輪側でトーアウト傾向となる横力コンプライアンスステア特性となるよう、各ブッシュの剛性を設定している。
具体的には、フロントラテラルリンク30のゴムブッシュの横方向の剛性を、リアラテラルリンク40のゴムブッシュの横方向の剛性に対して低くしている。
【0025】
また、サスペンション装置1には、各リンク類のジオメトリに起因して、後輪が車体に対して上昇する方向(バンプ側)にストロークした場合にはトーイン側にステアされ、後輪が車体に対して下降する方向(リバウンド側)にストロークした場合にはトーアウト側にステアするバンプステア特性を有する。
上述した横力コンプライアンスステア特性、バンプステア特性により、車両が定常旋回中においては、外輪がトーイン、内輪がトーアウト側にステアされるようになっている。
【0026】
また、サスペンション装置1は、旋回時の車両の安定性を確保するため、後輪への制動力付与時に、後輪がトーイン方向へステアする、いわゆる後引きトーイン特性を有する。
【0027】
一方、フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40には、後輪の接地荷重に起因して、車両の直進状態においては引張荷重が負荷されている。
車両の旋回初期においては、車体をロールさせるモーメントが発生するが、ダンパのスティック等に起因してサスペンションのストロークが開始しない領域が存在する。
このような領域においては、横力コンプライアンスステア、バンプステアの影響は実質的に発生しないが、旋回外輪側で接地荷重が増大し、旋回内輪側で接地荷重が減少する。
このため、フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40に作用する引張荷重は、旋回外輪側で増大し、旋回内輪側で減少するようになる。
フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40のゴムブッシュの横剛性は、上述したようにフロントラテラルリンク30側のほうが低いため、このような引張荷重の変化によるハウジング20の変位量は、前側において後側よりも大きくなる。
このため、旋回外輪はトーアウト側にステアし、旋回内輪はトーイン側にステアする上下力コンプライアンスステア特性が発生する。
【0028】
上述したように、旋回初期においては上下力コンプライアンスステアの影響が強く表れる一方、横力コンプライアンスステア及びバンプステアの影響はほとんど表れないため、旋回外輪はトーアウト側、旋回内輪はトーイン側へステアされる。
その後、ダンパユニット70がストロークを開始し、フロントラテラルリンク30、リアラテラルリンク40に横力が作用し始めると、横力コンプライアンスステア、バンプステアの影響が強くなって旋回外輪はトーイン側、旋回内輪はトーアウト側に切戻される。
このように、旋回初期と定常旋回時とで後輪が逆方向にステアされると、車両の操縦安定性に悪影響が発生する場合がある。
そこで、実施例1においては、旋回初期の上下力コンプライアンスステアを軽減又は相殺する方向のトー変化を生成するトー補正制御を行っている。
この点について以下説明する。
【0029】
図8は、実施例1のサスペンション装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
サスペンション制御システム100は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット110、挙動制御ユニット120、駆動制御ユニット130、トー補正制御ユニット140等を有して構成されている。
これらは例えば車載LANの一種であるCAN通信システム150を介して相互に通信可能となっている。
【0030】
EPS制御ユニット110は、ドライバからの入力トルクに応じて操舵アシストトルクを発生する電動パワーステアリング装置を制御するものである。
EPS制御ユニット110には、舵角センサ111、トルクセンサ112が接続されている。
舵角センサ111は、ステアリング系の現在の操舵角(ハンドル角)を検出するものである。
トルクセンサ112は、ドライバからステアリング系に入力されている入力トルクを検出するものである。
【0031】
挙動制御ユニット120は、車両にオーバーステア、アンダーステア等の挙動が発生した場合に、左右輪の制動力差を発生させてこれらの挙動を抑制する方向のモーメントを発生させるものである。
挙動制御ユニット120は、LHブレーキ121、RHブレーキ122に供給されるブレーキ液圧を個別に制御可能なハイドロリックコントロールユニット(HCU)123を制御する。
また、挙動制御ユニット120には、車輪の回転速度に応じたパルス信号を出力する車速センサ124が接続され、車速を取得することが可能となっている。
【0032】
ダンパストローク制御ユニット130は、左右のダンパユニット70のダンパを伸縮させるアクチュエータを制御して、ストロークを制御するものである。
【0033】
トー補正制御ユニット140は、EPS制御ユニット110等からの情報によって旋回開始を検出した場合に、上述した上下力コンプライアンスステアを抑制又は相殺する方向へのトー変化を一時的に発生させるトー補正制御を行うものである。
トー補正制御ユニット140には、ストロークセンサ141、トップマウント荷重センサ142が接続されている。
ストロークセンサ141は、左右のダンパユニット70のダンパのストロークをそれぞれ検出するものである。
トップマウント荷重センサ142は、左右のダンパユニット70の上端部に設けられるトップマウントに作用する上下方向荷重をそれぞれ検出するものである。
【0034】
図9は、実施例1のサスペンション装置のトー角補正制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0035】
<ステップS01:ハンドル角θs取得>
トー補正制御ユニット140は、EPS制御ユニット110からハンドル角θsを取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0036】
<ステップS02:操舵速度θs´算出>
トー補正制御ユニット140は、ステップS01において取得したハンドル角θsを時間微分して操舵速度θs´を算出する。
その後、ステップS03に進む。
【0037】
<ステップS03:車速判断>
トー補正制御ユニット140は、挙動制御ユニット120から車速Vを取得する。
そして、現在の車速Vが予め設定された上限車速Vmax以下でありかつ下限速度Vmin以上である場合には、トー補正制御を実行すべき車速範囲内であると判断し、ステップS04に進む。
その他の場合には、トー補正制御を実行すべきでない車速範囲内であると判断し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0038】
<ステップS04:操舵開始判断フラグ判断>
トー補正制御ユニット140は、操舵開始判断フラグのフラグ値が0である場合には、操舵開始の有無を判別するためステップS05に進む。
操舵開始判断フラグの値が1である場合には、既に操舵が開始されているものとして、ステップS09に進む。
【0039】
<ステップS05:外乱判断>
トー補正制御ユニット140は、ステップS01において取得したハンドル角θsと、EPS制御ユニット110から取得したドライバ入力トルクTsとの積が所定の閾値以上である場合には、ドライバによる意図的な操舵操作があったものとしてステップS06に進む。
その他の場合には、ハンドル角θs等に変化があったとしても外乱によるものであると判断し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0040】
<ステップS06:操舵速度絶対値判断>
トー補正制御ユニット140は、ステップS02において算出した操舵速度θs´の絶対値を予め設定された閾値と比較する。
操舵速度θs´の絶対値が閾値以上である場合は、ステップS07に進み、その他の場合には一連の処理を終了(リターン)する。
【0041】
<ステップS07:切り増し・切り戻し判断>
トー補正制御ユニット140は、ステップS01において取得したハンドル角θsと、ステップS02において算出した操舵速度θs´との積が正(0より大きい)場合には、ドライバ操作によって舵角が増加している切り増し中であると判断してステップS08に進む。
一方、その他の場合には、舵角が減少している切り戻し中であると判断して一連の処理を終了する。
【0042】
<ステップS08:操舵開始判断フラグセット>
トー補正制御ユニット140は、操舵開始判断フラグのフラグ値を0から1にして、フラグをセットする。
その後、ステップS09に進む。
【0043】
<ステップS09:ストローク補正制御>
トー補正制御ユニット140は、ダンパストローク制御ユニット130に指令を出して、ストローク補正制御を行なわせる。
ストローク補正制御は、旋回外輪側のダンパを、予め設定された所定量だけ強制的に圧縮側にストロークさせて、外輪側の後輪にトーイン側へのバンプステアを発生させるものである。
また、ストローク補正制御において、旋回内輪側のダンパを、予め設定された所定量だけ強制的に伸側にストロークさせて、内輪側の後輪にトーアウト側へのバンプステアを発生させてもよい。
その後、ステップS10に進む。
【0044】
<ステップS10:トップマウント荷重検出>
トー補正制御ユニット140は、トップマウント荷重センサ142を用いて旋回外輪側のダンパのトップマウントに負荷されている荷重(ダンパに負荷されている圧縮荷重と実質的に等しい)を検出する。
その後、ステップS11に進む。
【0045】
<ステップS11:トップマウント荷重判断>
トー補正制御ユニット140は、旋回外輪側のダンパユニット70の直進時からのトップマウント荷重変化量が、予め設定された閾値以上である場合は、横力コンプライアンスステア特性、バンプステア特性によって外輪ではトーイン、内輪ではトーアウトへのトー変化が十分に発生しているものと判断して、ステップS12に進む。
その他の場合には、トー補正制御の継続が必要であると判断して一連の処理を終了(リターン)する。
【0046】
<ステップS12:操舵開始判断フラグクリア>
トー補正制御ユニット140は、操舵開始判断フラグのフラグ値を0としてクリアし、ステップS13に進む。
【0047】
<ステップS13:ストローク補正終了>
トー補正制御ユニット140は、ストローク補正を終了し、一連の処理を終了する。
【0048】
図10は、実施例1のサスペンション装置における後輪トー角の推移の一例を模式的に示すグラフである。
縦軸は旋回外輪のトー角を示し、上方がトーイン側を示している。
横軸は、操舵開始からの時間を示している。
また、ストローク補正制御を行なわない場合の履歴を破線で示し、ストローク補正制御を行なった場合の履歴を実線で示している。
なお、内輪側のダンパのストローク補正制御を行った場合には、旋回内輪側においても、トーイン、トーアウトが反転するが、実質的に同様の履歴を示す。
【0049】
ストローク補正制御を行なわない場合には、後輪のトー角は上下力コンプライアンスステア特性によってまずトーアウト方向へ変化し、その後サスペンションのストローク変化や横力が発生すると、バンプステア特性及び横力コンプライアンスステア特性によってトーイン側へ変化する。
これに対し、実施例1によれば、旋回初期に外輪側ダンパのストロークを強制的に短縮することによって、早期にバンプステアを発生させることができ、上下力コンプライアンスステアによって外輪がトーアウト側へステアされることを防止して操縦安定性を向上することができる。
また、旋回内輪側においても同様に、トーアウト側へステアされる前に一時的にトーイン側へステアされることを防止できる。