特許第6148570号(P6148570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6148570医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物およびそれからなる医療用器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148570
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物およびそれからなる医療用器具
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20170607BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20170607BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20170607BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20170607BHJP
   A61L 29/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08K5/103
   C08K5/5415
   A61L31/00
   A61L29/00
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-164654(P2013-164654)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-34204(P2015-34204A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】坂井昂次
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−032647(JP,A)
【文献】 特開平08−176383(JP,A)
【文献】 特開2008−195898(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/020105(WO,A1)
【文献】 特開平09−151287(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093487(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/154179(WO,A1)
【文献】 特表2012−502160(JP,A)
【文献】 特表2012−533615(JP,A)
【文献】 特開2001−342316(JP,A)
【文献】 特開昭63−172756(JP,A)
【文献】 特開2003−221462(JP,A)
【文献】 特開昭58−167638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部;
成分(b)グリセリンエステル系可塑剤1質量部以上20質量部未満;及び、
成分(c)シラン化合物0.1〜15質量部;
を含有し、ここで上記成分(b)が、グリセリンジアセトモノラウレートを50質量%以上含むことを特徴とする医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器であって、請求項1に記載の医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、γ線や電子線などの放射線を照射して滅菌する方法(以下、放射線滅菌と略すことがある。)に対し優れた耐亀裂性を有し、射出成形性にも優れ、そのため医療用輸液セット、医療用血液回路のジョイント部材や医療用容器に好適に用いることのできる医療用放射線滅菌対応塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用部品は、(1)重金属等の溶出などによって人体に害を及ぼすことがないこと、(2)医療現場において使い勝手が良いこと、(3)使用時まで無菌性が保たれていること、(4)内部液の状況が確認できることなどが必要とされる。
【0003】
近年、医療用部品の滅菌には、高度の滅菌ができること、及び梱包後の滅菌が可能であり、滅菌作業の迅速化やコスト低減を図ることができることから、コバルト60などを線源とするγ線を用いる滅菌方法(以下、γ線滅菌と略すことがある。)や電子線を用いる滅菌方法などのいわゆる放射線滅菌が普及している。特にγ線滅菌は、γ線の透過力が大きいため、滅菌を均一に、ロット振れなく行うことができるので、広く普及している。ところがγ線滅菌には、照射された医療用部品に色調変化や亀裂を生じ易いという問題があった。
【0004】
γ線滅菌により亀裂が生じるようなものに、γ線滅菌を適用できないのはもちろんであるが、医療用部品の場合は色調変化であっても、部品間違いなどの医療事故を誘発する原因になる可能性があるため、そのようなものにγ線滅菌を適用することは好ましくない。
【0005】
現在、透析回路チューブ、カテーテル、血液バッグ、輸液バッグなどの軟質医療用部品には、軟質塩化ビニル系樹脂組成物が、多用されており、透析回路チューブ等の医療部品と接続して用いられる各種の医療用部品、例えば、注射器、チューブ連結部材、分岐バルブ、速度調節部品などの硬質医療用部品につても、材料学的に同系の材料、即ち硬質塩化ビニル系樹脂組成物を用いたい。
【0006】
そのため硬質塩化ビニル系樹脂組成物の、放射線滅菌により色調変化や亀裂を生じるという問題の解決のため、いろいろな取組みがなされている(例えば、特許文献1)が、十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−2138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、医療用塩化ビニル樹脂組成物であって、放射線滅菌、特にγ線滅菌に対する耐亀裂性、耐変色性に優れ、射出成形性が良好であり、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、そのため医療用輸液セット、医療用血液回路のジョイント部材や医療用硬質容器などの医療用器具に好適に用いることのできる医療用塩化ビニル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究した結果、塩化ビニル樹脂の可塑剤としてグリセリンエステル系可塑剤を用いると、上記目的が達成されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、第一の発明によれば、
成分(a)塩化ビニル樹脂100質量部、
成分(b)グリセリンエステル系可塑剤1質量部以上20質量部未満、
を含有することを特徴とする医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0011】
第二の発明によれば、上記成分(b)が、グリセリンジアセトモノラウレートを主成分とする第一の発明に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0012】
第三の発明によれば、さらに成分(c)シラン化合物を塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1〜15質量部含有することを特徴とする第一の発明または第二の発明に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0013】
第四の発明によれば、医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器であって、第一の発明から第三の発明のいずれか1に記載の医療用塩化ビニル樹脂組成物からなることを特徴とする医療用輸液セット若しくは血液回路のジョイント部材又は医療用容器が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、放射線滅菌、特にγ線滅菌に対する耐亀裂性、耐変色性に優れ、射出成形性が良好であり、医療用材料に要求される溶出性試験において問題がなく、そのため医療用輸液セット、医療用血液回路のジョイント部材や医療用硬質容器などの医療用器具に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の組成物を構成する各成分について、説明する。
【0016】
成分(a)「塩化ビニル樹脂」(必須成分)
本発明の成分(a)として用いる塩化ビニル樹脂は、−CH−CHCl−で表される基を有する全ての重合体を指し、塩化ビニルの単独重合体;塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体;後塩素化ビニル共重合体等の塩化ビニル単独重合体や塩化ビニル系共重合体を改質したもの;さらには塩素化ポリエチレン等の構造上塩化ビニル樹脂と類似の塩素化ポリオレフィンを包含する。
【0017】
塩化ビニル樹脂は、数平均重合度が300以上7000以下であるのが好ましく、更には400以上2000以下の重合度を有していることが望ましい。
【0018】
本発明の成分(a)としては、これらの塩化ビニル樹脂の1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0019】
成分(b)「グリセリンエステル系可塑剤」(必須成分)
本発明の成分(b)として用いるグリセリンエステル系可塑剤は、グリセリンと酢酸などの炭素数2のカルボン酸;及び/又はカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数8〜18の脂肪酸;とのエステル化合物であり、下記の一般式(I)で示される。
【0020】
【化1】
(式中、R1、R2、R3は、アシル基または水素原子を示し、該アシル基の炭素数は、2又は8〜18である。)
【0021】
上記炭素数2のカルボン酸としては、酢酸が好ましく、上記酢酸としては、例えば、工業用酢酸、食品用酢酸、無水酢酸を用いることができる。
【0022】
上記炭素数8〜18の脂肪酸としては、制限されず、石油等を原料とする脂肪酸、ヤシ油やパーム核油などの天然油脂を原料とする脂肪酸の何れも用いることができる。
【0023】
炭素数3〜7の脂肪酸や炭素数19以上の脂肪酸を用いたのでは、放射線滅菌に対する耐変色性、押出成形性、溶出性試験に劣る。
【0024】
グリセリンエステル系可塑剤としては、例えば、理研ビタミン株式会社の「BIOCIZER(商品名)(主成分グリセリンジアセトモノラウレート)」をあげることができる。該BIOCIZERはパーム核油由来の脂肪酸を用いている。また「主成分」とは、50質量%以上含むという意味である。
【0025】
上記成分(b)の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、γ線滅菌に対する耐亀裂性や耐変色性、射出成型性、耐溶出性の観点から、1質量部以上である。好ましくは3質量部以上である。また剛性の観点から20質量部未満である。好ましくは18質量部以下である。1質量部未満では、γ線滅菌に対する耐亀裂性や耐変色性、射出成型性が不十分である。20質量部以上では、医療用輸液セットのジョイント部材や医療用硬質容器として求められる剛性を保持できなくなり、例えば、輸液チューブがジョイント部材から抜けやすくなったり、容器の剛性が不足して開栓できなくなったりする。
【0026】
成分(c)「シラン化合物」(任意成分)
本発明で使用するシラン化合物は、アルコキシシラン化合物、クロロシラン化合物、アセトキシシラン化合物及びオルガノシラン化合物からなる群から選択される1種以上のシラン化合物である。
【0027】
上記成分(c)を、上記成分(a)100重量部に対して、0.1〜15重量部用いることにより、γ線滅菌に対する耐亀裂性や射出成型性を向上させることができる。より好ましくは1〜10質量部である。
【0028】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシランなどのモノアルコキシシラン化合物;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルアミノエトキシプロピルジアルコキシシラン、N−(βアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどのジアルコキシシラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(フェニル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−(ポリエチレンアミノ)プロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物などがあげられる。
【0029】
アセトキシシラン化合物としては、例えば、ビニルトリアセトキシシランなどがあげられる。
【0030】
クロロシラン化合物としては、例えば、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジクロロシランなどがあげられる。
【0031】
オルガノシラン化合物とは、前記アルコキシシラン化合物、アセトキシシラン化合物、クロロシラン化合物以外の、ケイ素原子に、アルキル基、ビニル基、(メタ)アクリル基、アリル基、酢酸メチル基などの基が直接結合しているシラン化合物を示すものであり、例えば、トリイソプロピルシラン、トリイソプロピルシリルアクリレート、アリルトリメチルシラン、トリメチルシリル酢酸メチルなどがあげられる。
【0032】
これらのシラン化合物の中でも、γ線滅菌に対する耐変色性や耐亀裂性とその他の特性とのバランスから、モノアルコキシシラン化合物、ジアルコキシシラン化合物、トリアルコキシシラン化合物及びテトラアルコキシシラン化合物からなる群から選択される1種以上のアルコキシシラン化合物が好ましく、トリアルコキシシラン化合物およびテトラアルコキシシランがより好ましく、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランがさらに好ましい。
【0033】
また、本発明においては、これらのシラン化合物を2種以上併用することも可能であり、特に限定されるものではない。
【0034】
また、本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物には、任意成分として、医療用途向け硬質塩化ビニル樹脂に通常用いられる安定剤を配合してもよい。上記安定剤としては、例えば、有機スズ化合物、バリウム−亜鉛系およびカルシウム−亜鉛系の安定剤が挙げられる。発明の効果の観点から、好ましい安定剤は、有機スズ化合物である。安定剤の配合量は、成分(a)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0035】
本発明の医療用塩化ビニル樹脂組成物は、成分(a)塩化ビニル樹脂、成分(b)グリセリンエステル系可塑剤、及び、所望に応じて用いる任意成分を、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。好ましくは二軸押出機を用い、樹脂温度150〜180℃で溶融混練することにより得られる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0037】
実施例1〜13、比較例1〜6
表1〜3の何れか1に示す量(質量部)の成分を、二軸押出機を用いて150〜180℃で溶融混練して塩化ビニル樹脂組成物を製造した。以下の試験1〜5を行った。結果を表1〜3の何れか1に示す。
【0038】
使用した原材料
成分(a)塩化ビニル樹脂
成分(a−1):
製造会社:株式会社カネカ
種類: ポリ塩化ビニル
平均重合度:700
【0039】
成分(b):グリセリンエステル系可塑剤
成分(b−1):
製造会社:理研ビタミン株式会社
商品名:BIOCIZER
種類:グリセリン[モノ及びジ脂肪酸(C=8〜18)]酢酸混合エステル
(主成分グリセリンジアセトモノラウレート)
(CAS No:91052−13−0)
【0040】
成分(b’)グリセリンエステル系可塑剤以外の可塑剤(比較成分)
比較成分(b’−1):
製造会社:株式会社ジェイプラス
商品名:DOP
種類:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)
【0041】
比較成分(b’−2):
製造会社:花王株式会社
商品名:TOTM
種類:トリメリット酸2−エチルヘキシル(TOTM)
【0042】
比較成分(b’−3):
製造会社: 株式会社ジェイプラス
商品名:DOA
種類:ジ(2−エチルヘキシル)アジペート(DEHA)
【0043】
比較成分(b’−4):
製造会社: BASFジャパン株式会社
商品名:Hexamoll DINCH
種類:ジイソノニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボキシレート(DINCH)
【0044】
成分(c)シラン化合物
成分(c−1): トリアルコキシシラン化合物
製造会社:東レダウコーニングシリコン株式会社
商品名: Z−6036
種類:3 − メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0045】
成分(c−2): トリアルコキシシラン化合物
製造会社:東レダウコーニングシリコン株式会社
商品名: Z−6519
種類:ビニルトリエトキシシラン
【0046】
成分(c−3): テトラアルコキシシラン化合物
製造会社:東レダウコーニングシリコン株式会社
商品名: Z−6697
種類:テトラエトキシシラン
【0047】
成分(d)その他の任意成分1(安定剤)
成分(d):ジオクチル錫ジメルカプト系安定剤
製造会社:株式会社ADEKA
商品名: アデカスタブ465
種類: ジオクチル錫ジメルカプト
【0048】
成分(e)その他の任意成分2(滑材)
成分(e−1): ポリエチレンワックス系滑材
製造会社:三井化学株式会社
商品名: ハイワックス4202E
種類:ポリエチレンワックス
【0049】
成分(e−2): モンタン酸系滑材
製造会社:クラリアントジャパン株式会社
商品名: リコワックスOP
種類:モンタン酸部分鹸化エステル
【0050】
評価方法
1.射出成形性
型締圧120トンの射出成形機を用い、幅10mm×長さ80mm×厚さ2mmの試験片を下記の成形条件で成形した。
成形温度 180℃
金型温度 40℃
射出速度 50mm/秒
射出圧力 1400Kg/cm
保圧圧力 400〜1400Kg/cm
射出時間 10秒
冷却時間 45秒
続いて、得られた試験片について、フローマークやウェルドマークの有無を、目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:フローマーク及びウェルドマークは認められない
○:フローマーク又はウェルドマークがわずかに認められる
△:フローマーク及びウェルドマークが認められる
×:甚だしいフローマーク及びウェルドマークが認められる
【0051】
2.耐放射線亀裂性
上記射出成形性と同様にして作成した幅10mm×長さ80mm×厚さ2mmの試験片についてコバルト60を線源とするγ線を40KGy照射した後の亀裂の有無を目視観察した。
【0052】
3.耐放射線変色(ΔYI)
(1)得られた塩化ビニル樹脂組成物からテストロールを用いてシートを作成し、これを更にプレス装置を用いて2mm厚プレスシートに成形してテストサンプルとした。テストサンプルは2片用意した。
(2)得られたテストサンプルについて、照射前の黄色度(YI値)をJIS
K7105に準拠し、コンピュータカラーマッチングシステム〔住化カラー(株)製〕を用いて測定した。
(3)次いで、上記テストサンプルの一つはコバルト60を線源とするγ線を20KGy照射した。もう一つは40KGy照射した。テストサンプルの着色黄変は、照射後も徐々に進行する為、色が安定化するまで照射後サンプルを恒温恒湿の条件下(23℃、50%相対湿度)で3日間静置した。
(4)その後、照射後サンプルのYI値を上記と同じ方法で測定して、各々の照射後YI値を求めた。変色度の評価指標として、下記式で定義した黄変度(ΔYI値)を各々計算した。
ΔYI値=(照射後YI値)−(照射前YI値)
【0053】
4.耐放射線溶出性
(1)テストサンプルは、上記の3.耐放射線変色(ΔYI値)の測定と同じ方法で作成したものを用いた。
(2)γ線を照射前のテストサンプルと、コバルト60を線源とするγ線を40KGy照射後のテストサンプルについて、日本医療器材協会が定めた医療用プラスチック試験規格の塩化ビニル樹脂コンパウンドI規格に準拠し、ΔpHと紫外吸収スペクトルを測定した。
(3)即ち、テストサンプルを3mm四方に裁断し、所定量精秤して硬質ガラス製容器に投入し、121℃で1時間加熱抽出した。前記抽出液を所定量精秤し、試験液を作成した。またテストサンプルを投入しなかったこと以外は上記と同様の操作を行い、ブランクを作成した。
(4)上記で得た試験液の水素イオン指数(pH)とブランクの水素イオン指数(pH)を測定し、その差(ΔpH)を計算した。
(5)また上記で得た試験液の波長220〜350nmにおける紫外線吸収スペクトルの吸光度の最大値と、ブランクの波長220〜350nmにおける紫外線吸収スペクトルの吸光度の最大値を測定し、その差(ΔUV)を計算した。
(6)上記のようにしてγ線を照射前のテストサンプルのΔpHとΔUV、及びγ線を40KGy照射後のテストサンプルのΔpHとΔUVを求めた
(7)ΔpHについては、照射前、照射後の何れも1.5以下を合格と判断した。
(8)ΔUVについては、照射前、照射後の何れも0.1以下を合格と判断した。
【0054】
5.落下試験
(1)上記で得た塩化ビニル樹脂組成物を用い、内径6mm、肉厚2mm(外径10mm)、長さ50mmの略円筒形のジョイント部材を、射出成型機を使用して作成した。
(2)次に、軟質塩化ビニル樹脂組成物製の外径6mm、肉厚1mm、長さ1mのチューブを2本用意し、上記で得たジョイント部材両端のジョイント部に、各1本、10mm差し込んで接続した。
(3)続いて、一方のチューブの非接続端を高さ240cmの天井に固定し、他方のチューブの非接続端を手で把持して、上記接続体を天井に沿って略緊張状態に伸ばした後、他方のチューブの非接続端を手から離して上記接続体を落下させた。
(4)上記試験を10回繰返し、下記の基準で評価した。
〇:チューブがジョイントから抜けることは、1回もない
×:10回中、1〜3回、チューブがジョイントから抜けた
××:10回中、4回以上、チューブがジョイントから抜けた
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1および表2に示すように、実施例の本発明の組成物は、γ線滅菌に対し優れた部材の耐亀裂性、耐変色性を示し、優れた射出成形性を有し、医療用材料に要求される溶出性試験において問題を生じない。これに対して比較例1、3〜6は、γ線滅菌に対する部材の耐亀裂性、耐変色性、射出成形性、医療用材料に要求される溶出性試験の少なくとも何れか一つが劣った。
【0059】
比較例2は、可塑剤の配合量が多いため、ジョイント部材として必要な剛性が不足し、落下試験に劣った。