(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持剛性可変手段は、前記シートのサイド支持部の支持剛性を可変することにより、前記左右方向の支持剛性を可変する請求項1〜4の何れか1項記載の支持剛性制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
<車両用シートの原理>
本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート100による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0036】
一般に、車両横加速度の大きさに応じてロール方向に乗員の身体が傾く。その際、ドライバの運転操作による低周波振動成分が主体の車両横加速度が乗員に作用する場合には、体のロール方向の動きをシートバックのサイド支持部でしっかり支持させる必要がある。
【0037】
しかし、カント路面や横風等による高周波振動成分が多い急峻な車両横加速度に対しては、サイド支持部の支持剛性が高いままだと、頭に車両の横加速度が直接作用するので、頭が早く動かされ、視線が定まらず不快感が増す。また、太さが細い首の筋(胸鎖乳突筋)で頭の早い揺れを抑制しようとするため、首の筋負担が増大し、疲労が増す。
【0038】
この現象を防ぐためには、車両横加速度の低周波振動と高周波振動の質の違いを分別し、サイド支持部の支持剛性を変更すれば良い。第1の実施の形態に係る車両用シート100では、質の違いを分別する方法として、車両横加速度の変化、すなわち車両の横加速度を微分した値(以下、車両横ジャーク)が予め定められた閾値Jy0未満の場合には、低周波振動が主体の車両横加速度と判断し、閾値Jy0以上の場合には、高周波振動が主体の車両横加速度と判断する。
【0039】
車両横ジャークの値が閾値Jy0未満の場合には、サイド支持部の、乗員の脇から肩までの部分に配置された空気ばねのばね定数が、低周波の車両横加速度に対して十分なサイド支持剛性が得られる初期ばね定数に維持される。そのため、脇から肩までの部分のサイド支持により、胸の左右の動きが抑制される(ホールド性が高い)。これは、
図1(a)、(b)に示す簡略化したシートと乗員の支持剛性モデルで示すと、
図1(b)の様に胸がほぼ剛体支持されたことになる。ただし、シートバックのサイド支持部は、直接空気ばねで支持していると仮定する。
【0040】
ところで、人は、無意識に前方を見ようとして、
図2に示す脊柱の左右に配置されている脊柱起立筋を反射的に活動させ、姿勢維持コントロールを逐次行っている。例えば、体が右に傾くと、左の脊柱起立筋の筋を縮めて体が右に傾くのを止めようとする。この脊柱起立筋の筋活動は、体の揺れの大きさに対応しているので、シートバックのサイド支持部に内装された空気ばねで体の揺れが抑制されると、筋活動が小さくなり、筋疲労が低減される。
【0041】
一方、車両横ジャークの値が閾値Jy0以上である場合には、高周波振動成分が多い急峻な車両横加速度に対して、胸のサイド支持剛性を高剛性の初期ばね定数から低剛性のばね定数するために、空気ばね定数の目標設定値を、初期ばね定数よりも小さいばね定数とする。すなわち、乗員の胸を支持するサイド支持剛性を下げて、胸をロール方向に動きやすくする。
【0042】
これは、
図1(a)、(c)に示す簡略化したシートと乗員の支持剛性モデルで示すと、
図1(c)の様にシートと乗員との間に胸の質量Mtと、空気ばね定数Kaが初期ばね定数よりも低いばね定数と空気ばねの減衰係数Caによる2自由度のばねマス振動系(ローパスフィルター)を形成して、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させる。
【0043】
<第1の実施の形態に係る車両用シートの構成>
次に、本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート100の構成について説明する。
【0044】
本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート100は、
図3に示すように、シート1000と、シートバック1のサイド支持部8の脇から肩までの部分に内装された2つの支持剛性可変部2と、車両状態検出部30と、制御部40とを備えている。また、本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート100の機能をブロック図で表したものが
図4である。制御部40は、電子制御ユニット(ECU)で実現され、横ジャーク算出部34、目標支持剛性決定部42、及び支持剛性制御部44を備えている。なお、制御部40と、支持剛性可変部2との組み合わせが支持剛性制御装置の一例である。
【0045】
支持剛性可変部2は、
図5に示すように、シートバックフレーム3に取り付けられた固定プレート4に装着された空気ばね5と、クッションパッド6に取り付けられた押圧板7とを備えている。支持剛性可変部2は、支持剛性制御部44の制御により支持剛性を可変する。
【0046】
空気ばね5は、
図5に示すように、空気圧P0が封入されているゴムベローズ51と、空気ばねケース52と、空気ばね5に内装された電磁アクチュエータ53とを備えている。
【0047】
電磁アクチュエータ53は、電磁コイル53Aと、ピストン53Bと、コイルスプリング53Cとを備えている。電磁コイル53Aに通電(ON)すると、ピストン53Bがコイルスプリング53Cを縮めて
図5の矢印方向に動き、ピストン53Bの移動で生じるゴムベローズ51の空気室体積V0の増加ΔVにより、空気ばねKaが低下する。また、電磁コイルの通電を止めると(OFF)、コイルスプリング53Cによりピストン53Bが矢印と反対方向、すなわち
図5の状態に戻される。ここで、電磁コイルに通電しない(OFF)時の空気ばねのばね定数KaをKa0とし、通電時の空気ばねのばね定数KaをKa´とする(Ka0>Ka´)。
【0048】
車両状態検出部30は、横加速度センサを備えており、車両の横加速度を検出する。
【0049】
本実施の形態では、車両状態検出部30は、横加速度を横ジャーク算出部34に出力する。
【0050】
横ジャーク算出部34は、車両状態検出部30から入力された横加速度を微分して、右方向及び左方向の車両横ジャークの値をそれぞれ算出し、目標支持剛性決定部42に出力する。なお、右方向及び左方向は車両の進行方向に向かって右方向及び左方向とする。
【0051】
目標支持剛性決定部42は、横ジャーク算出部34から入力された右方向の車両横ジャークの値に基づいて、右側の支持剛性可変部2の目標ばね定数を決定する。具体的には、車両横ジャークの値に対して、絶対値と極性判定値を用いて右方向の車両横ジャークを求める。極性判定値は、車両横ジャークが正(車両進行方向に対して左方向)の場合には「1」を出力し、負(車両進行方向に対して右方向)の場合には「−1」を出力する。そして、
図6に示すように、車両横ジャークの絶対値について、予め定められた閾値Jy0以上か否かを判断し、閾値Jy0以上の場合には、極性判定値「−1」に基づき右側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数を、Ka´に決定する。また、右方向の車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、右側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に決定する。なお、目標ばね定数はサイド支持部の支持剛性と対応付けされている。
【0052】
目標支持剛性決定部42は、横ジャーク算出部34から入力された左方向の車両横ジャークの絶対値に基づいて、右側の支持剛性可変部2の目標ばね定数と同様に、予め定められた閾値Jy0以上か否かを判断し、左側の支持剛性可変部2の目標ばね定数を決定する。
【0053】
支持剛性制御部44は、目標支持剛性決定部42において決定された右側の目標ばね定数Kaに基づいて、右側の支持剛性可変部2の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止し、空気ばね5のばね定数が目標ばね定数になるように制御する。なお、目標支持剛性決定部42により目標ばね定数を決定し、支持剛性可変部2の空気ばね5のばね定数を制御する処理は、予め定められたサンプリング時間ごとに繰り返して行う。
【0054】
支持剛性制御部44は、目標支持剛性決定部42において決定された左側の目標ばね定数Kaに基づいて、左側の支持剛性可変部2の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止し、空気ばね5のばね定数が目標ばね定数になるように制御する。
【0055】
<第1の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第1の実施の形態に係る車両用シート100の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の左右方向の横加速度が逐次検出されているときに、車両用シート100のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図7に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。なお、右方向の横加速度の場合には、右側の支持剛性可変部2に対して処理が行われ、左方向の横加速度の場合には、左側の支持剛性可変部2に対して処理が行われる。以下では、左方向の横加速度を検出した時の支持剛性を制御する場合について説明する。
【0056】
まず、ステップS100では、車両状態検出部30の横加速度センサにより検出された車両の横加速度を取得する。
【0057】
次に、ステップS102では、ステップS100において検出した車両の横加速度を微分し、車両の車両横ジャークの値を算出する。
【0058】
次に、ステップS104では、ステップS102において算出された車両横ジャークに対して、絶対値と極性判定値を求める。車両横ジャークの絶対値について、閾値Jy0以上か否かを判定する。車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0以上の場合には、ステップS110に移行し、車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、ステップS108に移行する。ここでは、極性判定値が「1」で左方向の横ジャークの場合について以下に示す。
【0059】
次に、ステップS108では、左側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に設定する。
【0060】
ステップS110では、左側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数KaをKa´に設定する。
【0061】
次に、ステップS112では、左側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaを、ステップS108又はステップS110において設定された目標ばね定数に設定するために、左側の支持剛性可変部2の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止する。
【0062】
次に、ステップS100に移行し、ステップS100〜ステップS112の処理を繰り返す。
【0063】
また、右方向の場合には、上記の支持剛性制御処理ルーチンと同様の処理を行って、右側の支持剛性を制御する。
【0064】
以上、説明したように、第1の実施の形態に係る車両用シート100によれば、左右の横ジャークが大きいほど、シートの左右方向の支持剛性を低減させるように支持剛性を制御することにより、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させることができる。
【0065】
そのため、頭に伝達される車両の横加速度は、緩やかな成分(低周波振動成分)となり、頭が早く振られなくなり、不快感が低減される。その結果、乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0066】
また、運転操作による低周波成分の車両横加速度が乗員に作用する場合には、サイド支持部の空気ばねのばね定数を大きな値で維持させて、乗員のホールド性を高めることで、乗員のロール方向の動揺を低減させることにより、乗り心地を向上させる。また、乗員のロール方向の動揺低減に伴い、脊柱起立筋の活動量が抑制されるので、筋負担を低減させることが出来る。
【0067】
また、路面外乱や横風外乱等による高周波成分の車両横加速度に対しては、サイド支持部の空気ばねのばね定数を低くし(胸の横方向の支持剛性を低下)、胸を動揺させることで、頭部への急峻な車両横加速度(高周波成分)を遮断する。これにより、乗員の頭部がゆっくり動かされるので、太さが細い首の筋(
図2の胸鎖乳突筋)でも頭部の動揺が抑制でき、首の筋疲労を減少させることが出来る。
【0068】
また、車両の横加速度の質に応じて乗員の横方向の支持剛性を制御することで、運転操作に伴う低周波成分の横加速度に対してホールド性を向上させると共に、路面外乱による高周波成分の横加速度に対して頭部の揺れを抑制することで、姿勢を安定させ、首の筋疲労を低減させる効果により、車両の乗り心地が大幅に向上する。
【0069】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0070】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び作用となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0071】
第2の実施の形態では、シートバックに作用する支持力の作用点に基づいて車両横ジャークの閾値Jy0を設定する点が第1の実施の形態と異なっている。
【0072】
<第2の実施の形態に係る車両用シートの原理>
本発明の第2の実施の形態に係る車両用シート200による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0073】
車両横加速度が乗員に作用する場合に、シートバックで受け持つ支持力の作用点(荷重センサの有効な領域に加わる荷重の作用点)が左右肩部の中心位置から腰に近づくほど、胸が揺れやすくなる。
【0074】
そこで、この作用点と左右肩部の中心位置との相対距離が大きくなる程、車両横ジャークの閾値を大きくし、空気ばねのばね定数を下げないようにする。例えば、腰をシートバックに押し付けて背上部の支持力が少ない姿勢で着座する人は、シートバックの支持力の作用点が腰椎部に位置し、急峻な車両横加速度が作用しても胸がロール方向に動きやすいので、頭部に伝達される車両横加速度は、緩やかな成分となる。
【0075】
したがって、このような乗員に対しては、それほど大きくない車両横ジャークに対しては、胸の支持剛性を低下させなくても良いと考える。そのため、
図9のように支持力の作用点が肩部から腰に近づくほど、車両横ジャークの閾値を大きく決定する。
【0076】
<第2の実施の形態に係る車両用シートの構成>
次に、第2の実施の形態に係る車両用シート200の構成について説明する。
【0077】
本発明の第2の実施の形態に係る車両用シート200は、
図10に示すように、シート1000と、2つの支持剛性可変部2と、車両状態検出部30と、制御部40と、荷重センサ60と、演算アンプ70とを備えている。また、本発明の第2の実施の形態に係る車両用シート200の機能をブロック図で表したものが
図11である。制御部40は、横ジャーク算出部34、閾値決定部41、目標支持剛性決定部42、及び支持剛性制御部44を備えている。
【0078】
荷重センサ60は、シートバック1のメッシュ上に配置されており、シートバック1に加えられる乗員の荷重の分布を、シートバック1による支持力の分布として検出する。
【0079】
演算アンプ70は、荷重センサ60から入力される支持力の分布の情報に基づいて、荷重センサ60の検出領域における作用点を検出する。
【0080】
閾値決定部41は、演算アンプ70により検出された作用点の位置と、予め定められている乗員の左右肩部の中心位置とに基づいて、車両横ジャークの閾値Jy0を設定する。具体的には、
図9に示すように、予め定めた乗員の左右肩部の中心位置から、検出された作用点の位置までの距離が大きくなるにつれて閾値Jy0を増加させるようにJy0を決定する。
【0081】
<第2の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る車両用シート200の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の左右方向の横加速度が逐次検出され、荷重センサ60により荷重の分布が逐次検出され、演算アンプ70により作用点が逐次検出されているときに、車両用シート200のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図12に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。なお、右方向の横加速度の場合には、右側の支持剛性可変部2に対して処理が行われ、左方向の横加速度の場合には、左側の支持剛性可変部2に対して処理が行われる。以下では、左方向の横加速度を検出した時の支持剛性を制御する場合について説明する。
【0082】
ステップS200では、演算アンプ70により検出された、作用点の位置を取得する。
【0083】
次に、ステップS202では、ステップS200において検出した作用点の位置と、予め定められた乗員の左右肩部の中心位置とに基づいて、車両横ジャークの閾値Jy0を決定する。
【0084】
次に、ステップS104では、ステップS102において算出された車両横ジャークに対して、絶対値と極性判定値を求める。車両横ジャークの絶対値について、ステップS202において決定した閾値Jy0以上か否かを判定する。車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0以上の場合には、ステップS110に移行し、車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、ステップS108に移行する。ここでは、極性判定値が「1」で左方向の横ジャークの場合について以下に示す。
【0085】
以上、説明したように、第2の実施の形態における車両用シート200によれば、左右の横ジャークが大きいほど、シートの左右方向の支持剛性を低減させるように支持剛性を制御することにより、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させることができる。そのため、頭部がゆっくり動かされるので乗員の乗り心地を向上させることができる。また、作用点と左右肩部の中心位置との相対距離に応じて、車両横ジャークの閾値を変更するので、乗員の体格や着座姿勢に応じた適切な支持剛性が得られる。そのため、乗員の体格や着座姿勢に関係なく乗り心地を大幅に向上させることができる。
【0086】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1及び第2の実施の形態と同様の構成及び作用となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0087】
第3の実施の形態では、荷重センサにより取得される支持力に基づいて、支持剛性を可変するか否かを判断する点が第2の実施の形態と異なっている。
【0088】
<第3の実施の形態に係る車両用シートの原理>
本発明の第3の実施の形態に係る車両用シート300による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0089】
一般に、車両横加速度の大きさに応じてロール方向に乗員の体が傾く。その際、前腕がアームレストに置いてある場合には、
図13(a)に示すように、人の反応として上腕と前腕及び胸の筋肉を働かせて肘関節の剛性Keと肩の関節剛性Ksを極力大きくし、肩とひじで体を支えてロール運動を抑制しようとする。そのため、
図13(b)に示すように前腕と上腕、および胸が剛体結合されるので車体に作用する急峻な横加速度(高周波振動成分)が、直接、頭に作用する。その結果、頭が早く動かされ、不快感が増す。また、太さが細い首の筋(胸鎖乳突筋)で頭の早い揺れを抑制することができず首の筋負担が増大し、疲労が増す。
【0090】
この現象を防ぐためには、車体に急峻な横加速度(高周波振動成分)が作用した場合に、アームレストの剛性、すなわちアームレストに作用するばね定数Kaを初期ばね定数Ka0からKa´に小さくする。これにより、前腕がアームレストに沈み込み、肩関節の位置が下がるので、胸はロールしやすくなる。言い換えれば、胸を支持する肘関節の剛性KeがKe´に、肩関節の剛性KsがKs´に低下するとともに、アームレストのばね定数Kaが直列結合になるため、アームレストから胸までの等価ばね定数は、Ka´=Ke´Ks´Ka/(Ke´Ks´+Ks´Ka+Ke´Ka)となる。ここで、Ke´≒Ks´>>Kaとすれば、Ka´≒Kaとなる。すなわち、胸の支持剛性は、アームレストのばね定数Kaでほぼ決まることになる。また、肘関節と肩関節の等価減衰係数をほぼゼロと仮定すると、アームレストの減衰係数Caとなる。
【0091】
このことは、
図13(c)に示すように胸の質量Mtと、空気ばね定数Ka´と、空気ばねの減衰係数Caによる2自由度のばねマス振動系(ローパスフィルター)により、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)が吸収されるので、頭に伝達される車両の横加速度は、緩やかな成分(低周波振動成分)となる。その結果、頭が早く振られなくなり、不快感が低減される。また、細い首の筋(胸鎖乳突筋)で抑制可能なレベルとなるため、筋疲労が低減される。
【0092】
また、アームレストで前腕を支持する場合にその作用点が肩関節から距離が長いほど体を支える有効な支持力が減少するので、体がロール方向に動きやすくなる。すなわち、アームレストの空気ばねのばね定数を下げる車両横ジャークの閾値を大きくしても良いことになる。このような考えで、
図9に示すように既定の肩関節位置から作用点までの距離Lに対して、車両横ジャークの閾値を大きくする。
【0093】
<第3の実施の形態に係る車両用シートの構成>
次に、第3の実施の形態における車両用シート300の構成について説明する。
【0094】
本発明の第3の実施の形態に係る車両用シート300は、
図14に示すように、後席中央のアームレスト101と、後席右のドア内側にあるアームレスト102と、アームレストに内装された2つの支持剛性可変部2と、アームレスト101、102に設置された2つの荷重センサ60と、車両状態検出部30と、制御部40と、演算アンプ70とを備えている。また、本発明の第3の実施の形態に係る車両用シート300の機能をブロック図で表したものが
図15である。
【0095】
制御部40は、横ジャーク算出部34、閾値決定部41、目標支持剛性決定部42、支持力判定部43、支持剛性制御部44を備えている。
【0096】
一方の荷重センサ60は、アームレスト101のメッシュ上に配置されており、アームレスト101に加えられる乗員の荷重の分布を、アームレスト101による支持力の分布として検出する。
【0097】
他方の荷重センサ60は、アームレスト102のメッシュ上に配置されており、アームレスト102に加えられる乗員の荷重の分布を、アームレスト102による支持力の分布として検出する。
【0098】
演算アンプ70は、アームレスト101のメッシュ上に配置された荷重センサ60から入力される支持力の分布の情報に基づいて、アームレスト101のメッシュ上に配置された荷重センサ60の検出領域における作用点及び当該作用点の支持力を検出する。また、演算アンプ70は、アームレスト102のメッシュ上に配置された荷重センサ60から入力される支持力の分布の情報に基づいて、アームレスト102のメッシュ上に配置された荷重センサ60の検出領域における作用点及び当該作用点の支持力を検出する。
【0099】
支持力判定部43は、演算アンプ70から入力されたアームレスト101による作用点の支持力が予め定められた支持力(肘を置いた場合の支持力)の閾値F0以上か否かを判定する。また、支持力判定部43は、演算アンプ70から入力されたアームレスト102による作用点(アームレストの荷重中心位置)の支持力が予め定められた支持力の閾値F0以上か否かを判定する。
【0100】
閾値決定部41は、支持力判定部43において、アームレスト101による作用点の支持力が予め定められた支持力の閾値F0以上、すなわち、アームレストに肘が置かれていると判定された場合に、演算アンプ70により検出されたアームレスト101のメッシュ上に配置された荷重センサ60の検出領域における作用点の位置と、予め定められている乗員の肩部の位置とに基づいて、アームレスト101に内装されている支持剛性可変部2における車両横ジャークの閾値Jy0を設定する。また、閾値決定部41は、支持力判定部43において、アームレスト102による作用点の支持力が予め定められた支持力の閾値F0以上と判定された場合に、演算アンプ70により検出されたアームレスト102のメッシュ上に配置された荷重センサ60の検出領域における作用点の位置と、予め定められている乗員の左右肩部の中心位置とに基づいて、アームレスト102に内装されている支持剛性可変部2における車両横ジャークの閾値Jy0を設定する。
【0101】
目標支持剛性決定部42は、アームレスト101による作用点の支持力が予め定められた支持力の閾値F0以上と判定された場合に、横ジャーク算出部34から入力された左方向の車両横ジャークの値に基づいて、アームレスト101に内装されている左側の支持剛性可変部2の目標ばね定数を決定する。具体的には、左方向の車両横ジャークの値に対して、絶対値を求める。そして、
図6に示すように、左方向の車両横ジャークの絶対値について、閾値決定部41により決定された閾値Jy0以上か否かを判断し、閾値Jy0以上の場合には、アームレスト101に内装されている左側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数を、Ka´に決定する。また、左方向の車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、アームレスト101に内装されている左側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に決定する。また、目標支持剛性決定部42は、アームレスト101による作用点の支持力が支持力の閾値F0未満と判定された場合に、アームレスト101に内装されている支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に決定する。
【0102】
目標支持剛性決定部42は、アームレスト102による作用点の支持力が予め定められた支持力の閾値F0以上と判定された場合に、横ジャーク算出部34から入力された右方向の車両横ジャークの値に基づいて、アームレスト102に内装されている右側の支持剛性可変部2の目標ばね定数を決定する。具体的には、右方向の車両横ジャークの値に対して、絶対値を求める。そして、
図6に示すように、右方向の車両横ジャークの絶対値について、閾値決定部41により決定された閾値Jy0以上か否かを判断し、閾値Jy0以上の場合には、アームレスト102に内装されている右側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数を、Ka´に決定する。また、右方向の車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、アームレスト102に内装されている右側の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に決定する。また、目標支持剛性決定部42は、アームレスト102による作用点の支持力が支持力の閾値F0未満と判定された場合に、アームレスト102に内装されている支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に決定する。
【0103】
<第3の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第3の実施の形態に係る車両用シート300の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の左右方向の横加速度が逐次検出され、2つの荷重センサ60により荷重の分布が逐次検出され、演算アンプ70によりそれぞれの荷重の分布に基づいて作用点及び支持力が逐次検出されているときに、車両用シート300のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図16に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。なお、右方向の横加速度の場合には、後席右側のアームレスト102の荷重センサ60の検出値を用いて右側の支持剛性可変部2に対して処理が行われ、左方向の横加速度の場合には、後席左側のアームレスト101の荷重センサ60の検出値を用いて左側の支持剛性可変部2に対して処理が行われる。以下では、左方向の横加速度を検出し、後席左側のアームレスト101の荷重センサ60の検出値を用いた時の支持剛性を制御する場合について説明する。
【0104】
まず、ステップS300では、演算アンプ70により検出された、作用点の位置を取得すると共に、当該作用点の位置の支持力を取得する。
【0105】
次に、ステップS302では、ステップS300において取得した作用点の支持力が予め定められた閾値F0以上か否かを判定する。作用点の支持力が閾値F0以上の場合には、ステップS100に移行し、作用点の支持力が閾値F0未満の場合には、ステップS108に移行する。
【0106】
以上、説明したように、第3の実施の形態における車両用シート300によれば、横ジャークが大きいほど、アームレストの支持剛性を低減させるように制御することにより、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させることができ、頭部がゆっくり動かされるため乗員の乗り心地を向上させることができる。また、アームレストの支持剛性を制御することにより、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させることができ、頭部がゆっくり動かされるため、後部座席の乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0107】
なお、第3の実施の形態においては、乗用車のアームレストに空気ばねを用いたが、これに限定されるものではなく、鉄道車両のアームレストにおいてコイルスプリングを用いてもよい。この場合、
図17に示すようにアームレスト取り付け点にコイルスプリングを配し、車両横ジャークの閾値Jy0を超えた場合に回転又は肘の位置をスライドさせてもよい。
【0108】
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同様の構成及び作用となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0109】
第4の実施の形態では、車両横ジャークの絶対値に基づいて、左右のバックレストの支持剛性を同時に可変することにより、乗員に作用する支持力の作用点の位置を変更する点が第1の実施の形態と異なっている。
【0110】
<第4の実施の形態に係る車両用シートの原理>
本発明の第4の実施の形態に係る車両用シート400による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0111】
シートバックのバックレストで受け持つ支持力の作用点が左右肩部の中心位置から腰に近づくほど、胸が揺れやすくなる。この作用点と胸の揺れの関係を利用して、車両に急峻な横加速度(高周波振動成分)が作用する場合には、バックレストの、乗員の肩甲骨に対応する部分の支持剛性を低減する。これにより、バックレスト支持力の作用点が肩部から腰の方に移動し、胸がロール方向に揺れやすくなる。
【0112】
<第4の実施の形態に係る車両用シートの構成>
次に、第4の実施の形態に係る車両用シート400の構成について説明する。
【0113】
本発明の第4の実施の形態に係る車両用シート400は、
図18に示すように、シート1000と、シートバック1の肩甲骨支持部に左右に内装された2つの支持剛性可変部2と、車両状態検出部30と、制御部40とを備えている。また、本発明の第4の実施の形態に係る車両用シート400の機能をブロック図で表したものが
図20である。なお、2つの支持剛性可変部2が作用点可変手段の一例である。
【0114】
車両状態検出部30は、横加速度センサを備えており、車両の横加速度を検出する。第4の実施の形態においては、車両の進行方向に向かって右方向をプラス、左方向をマイナスとして車両の横加速度を検出し、横ジャーク算出部34に出力する。
【0115】
横ジャーク算出部34は、車両状態検出部30から入力された横加速度を微分して、車両横ジャークの値を算出し、目標支持剛性決定部42に出力する。
【0116】
目標支持剛性決定部42は、横ジャーク算出部34から入力された車両横ジャークの絶対値に基づいて、2つの支持剛性可変部2に対して、共通の目標ばね定数を決定する。具体的には、
図6に示すように、車両横ジャークの絶対値について、予め定められた閾値Jy0以上か否かを判断し、閾値Jy0以上の場合には、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの共通の目標ばね定数を、Ka´に決定する。また、車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの共通の目標ばね定数をKa0に決定する。
【0117】
支持剛性制御部44は、目標支持剛性決定部42において決定された目標ばね定数Kaに基づいて、左右の支持剛性可変部2の各々の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止し、空気ばね5のばね定数が目標ばね定数になるように制御する。なお、目標支持剛性決定部42により目標ばね定数を決定し、支持剛性可変部2の空気ばね5のばね定数を制御する処理は、予め定められたサンプリング時間ごとに繰り返して行う。
【0118】
<第4の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第4の実施の形態に係る車両用シート400の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の横加速度が逐次検出されているときに、車両用シート400のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図21に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。なお、第4の実施の形態においては、横加速度を微分した車両横ジャークの絶対値に基づいて、左右の支持剛性可変部2が同時に制御される。
【0119】
まず、ステップS100では、車両状態検出部30の横加速度センサにより検出された車両の横加速度を取得する。
【0120】
次に、ステップS102では、ステップS100において取得した車両の横加速度を微分し、車両横ジャークを算出する。
【0121】
次に、ステップS400では、ステップS102において算出された車両横ジャークについて、車両横ジャークの絶対値が予め定められた閾値Jy0以上か否かを判定する。車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0以上の場合には、ステップS110に移行し、車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、ステップS108に移行する。
【0122】
次に、ステップS108では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に各々設定する。
【0123】
ステップS110では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数KaをKa´に各々設定する。
【0124】
次に、ステップS112では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaを、ステップS108又はステップS110において設定された目標ばね定数に設定するために、左右の支持剛性可変部2の各々の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止する。
【0125】
次に、ステップS100に移行し、ステップS100〜ステップS112の処理を繰り返す。
【0126】
以上、説明したように、第4の実施の形態に係る車両用シート400によれば、横ジャークが大きいほど、作用点の位置を下げるように作用点を可変することにより、急峻な車両横加速度(高周波振動成分)を胸の動きで吸収させることができ、頭部がゆっくりうごかされるため、乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0127】
また、路面外乱による高周波振動成分が多い車両横加速度に対して、車両の横方向について乗員の乗り心地を向上させるとともに、筋疲労を大幅に低減できる。
【0128】
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同様の構成及び作用となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0129】
第5の実施の形態では、車両の前後加速度を微分して求められる後方に作用する後方ジャークのみの値(車両後方ジャークの値)と、予め定められた車両後方ジャークの閾値Jx0とに基づいて、バックレストの支持剛性を可変することにより、乗員に作用する支持力の作用点の位置を変更する点が第4の実施の形態と異なっている。
【0130】
<第5の実施の形態における車両用シートの原理>
本発明の第5の実施の形態に係る車両用シート500による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0131】
車両前後加速度が後方に作用する際に、すなわち、加速時に車両に急峻な後方加速度(高周波振動成分)が作用する場合には、乗員の肩甲骨に対応する部分の支持剛性を低減する。これにより、バックレストの支持力の作用点が肩部から腰の方に移動し、腰を中心として胸を後方にピッチしやすくし、頭部への急峻な車両前後加速度(高周波成分)を遮断する。また、頭部がゆっくり動かされるので、太さが細い首の筋(胸鎖乳突筋)でも頭部の動揺が抑制でき、首の筋疲労を減少させることが出来る。一方、車両に通常の後方加速度(低周波振動成分)が作用する場合、乗員の肩甲骨に対応する部分の支持剛性を増加させる。
【0132】
<第5の実施の形態における車両用シートの構成>
次に、第5の実施の形態における車両用シート500の構成について説明する。
【0133】
本発明の第5の実施の形態に係る車両用シート500は、
図18に示すように、シート1000と、シートバック1の肩甲骨支持部に左右に内装された2つの支持剛性可変部2と、車両状態検出部30と、制御部40とを備えている。また、本発明の第5の実施の形態に係る車両用シート500の機能をブロック図で表したものが
図22である。なお、2つの支持剛性可変部2が作用点可変手段の一例である。
【0134】
車両状態検出部30は、前後加速度センサを備えており、車両の前後加速度を検出する。第5の実施の形態では、車両状態検出部30は、車両の後方に作用する加速度を検出し、前後ジャーク算出部38に出力する。
【0135】
前後ジャーク算出部38は、車両状態検出部30から入力された車両の前後加速度を微分して、後方に作用する後方ジャークのみを目標支持剛性決定部42に出力する。
【0136】
目標支持剛性決定部42は、前後ジャーク算出部38から入力された車両後方ジャークの絶対値に基づいて、2つの支持剛性可変部2に対して、共通の目標ばね定数を決定する。具体的には、
図19に示すように、車両後方ジャークの絶対値について、予め定められた閾値Jx0以上か否かを判断し、閾値Jx0以上の場合には、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの共通の目標ばね定数を、Ka´に決定する。また、車両後方ジャークの絶対値が閾値Jx0未満の場合には、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの共通の目標ばね定数をKa0に決定する。
【0137】
支持剛性制御部44は、目標支持剛性決定部42において決定された目標ばね定数Kaに基づいて、左右の支持剛性可変部2の各々の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止し、空気ばね5のばね定数が目標ばね定数になるように制御する。なお、目標支持剛性決定部42により目標ばね定数を決定し、支持剛性可変部2の空気ばね5のばね定数を制御する処理は、予め定められたサンプリング時間ごとに繰り返して行う。
【0138】
<第5の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第5の実施の形態に係る車両用シート500の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の前後加速度が逐次検出されているとき、車両用シート500のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図23に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。なお、第5の実施の形態においては、車両前後加速度を微分し、後方に作用する後方ジャークの絶対値に基づいて、左右の支持剛性可変部2が同時に制御される。
【0139】
まず、ステップS500では、車両状態検出部30の前後加速度センサにより検出された車両の前後加速度を取得する。
【0140】
次に、ステップS502では、ステップS500において取得した車両の前後加速度を微分し、後方に作用する後方ジャークを算出する。
【0141】
次に、ステップS504では、ステップS502において算出された車両後方ジャークについて、車両後方ジャークの絶対値が予め定められた閾値Jx0以上か否かを判定する。車両後方ジャークの絶対値が閾値Jx0以上の場合には、ステップS110に移行し、車両後方ジャークの絶対値が閾値Jx0未満の場合には、ステップS108に移行する。
【0142】
次に、ステップS108では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数をKa0に設定する。
【0143】
ステップS110では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaの目標ばね定数KaをKa´に設定する。
【0144】
次に、ステップS112では、左右の支持剛性可変部2の空気ばね5の空気ばね定数Kaを、ステップS108又はステップS110において設定された目標ばね定数に設定するために、左右の支持剛性可変部2の各々の電磁コイル53Aに通電又は通電を停止する。
【0145】
次に、ステップS500に移行し、ステップS500〜ステップS112の処理を繰り返す。
【0146】
以上、説明したように、第5の実施の形態に係る車両用シート500によれば、車両前後加速度を微分し、後方に作用する後方ジャークが大きいほど、シートによる後方の支持剛性を低減させるように支持剛性を制御することにより、乗員の乗り心地を向上させることができる。また、後方ジャークが大きいほど、シートによる後方の支持剛性を低減させて、作用点の位置を下げるように作用点を変化させることにより、乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0147】
また、路面外乱による高周波振動成分が多い車両前後加速度に対して、車両の加速(後方加速度)について乗員の乗り心地を向上させるとともに、首に作用する筋疲労を大幅に低減できる。
【0148】
また、ハーシュネス路や段差路による高周波振動成分が多い場合においても、胸を前後(ピッチ)方向に動揺させることで頭部振動を抑制させることができる。
【0149】
次に、第6の実施の形態について説明する。なお、第1〜第5の実施の形態と同様の構成及び作用となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0150】
第6の実施の形態では、バックレストの乗員の肩甲骨に対応する部分の下部付近に配した、横方向に延びる回転軸を中心に、バックレスト上部の角度をピッチ方向に調整できるシート機能を用いることにより、乗員に作用する作用点を可変する点が第4及び第5の実施の形態と異なっている。
【0151】
<第6の実施の形態における車両用シートの原理>
本発明の第6の実施の形態に係る車両用シート600による支持剛性を制御する原理について説明する。
【0152】
車体に急峻な横加速度(高周波振動成分)が作用する場合に、シートバックのバックレスト上部を後方に傾けるように調整することにより、作用点の位置を胸から腰の方に変更する。これにより、胸を左右(ロール)または前後(ピッチ)方向に動きやすくし、頭部への急峻な車両横加速度(高周波成分)を遮断することが出来る。
【0153】
<第6の実施の形態における車両用シートの構成>
次に、第6の実施の形態における車両用シート600の構成について説明する。
【0154】
本発明の第6の実施の形態に係る車両用シート600は、
図24に示すように、シート1000と、シートバック1の肩甲骨下部に内装されたバックレスト可変部9と、車両状態検出部30と、制御部540とを備えている。また、本発明の第6の実施の形態に係る車両用シート600の機能をブロック図で表したものが
図25である。なお、バックレスト可変部9が作用点可変手段の一例である。制御部540は、横ジャーク算出部34、及びバックレスト制御部46を備えている。
【0155】
バックレスト制御部46は、横ジャーク算出部34から入力された車両横ジャークの値の絶対値に基づいて、バックレストの上部を制御する。具体的には、車両横ジャークの絶対値が予め定められた閾値Jy0以上か否かを判断し、閾値Jy0以上の場合には、バックレスト上部のピッチ方向の角度が、後方に傾ける角度となるように制御する。また、横ジャークの絶対値が予め定められた閾値Jy0未満の場合には、バックレスト上部のピッチ方向の角度が、初期角度となるように制御する。
【0156】
バックレスト可変部9は、バックレスト制御部46から入力される制御に基づいて、回転軸B−Bを中心にバックレストの上部の角度をピッチ方向に可変させる。
【0157】
<第6の実施の形態に係る車両用シートの作用>
次に、本発明の第6の実施の形態に係る車両用シート600の作用について説明する。まず、車両状態検出部30により、車両の横加速度が逐次検出されているときに、車両用シート600のROMに記憶されたプログラムを、CPUが実行することにより、
図26に示す支持剛性制御処理ルーチンが実行される。
【0158】
ステップS400では、ステップS102において検出された車両横ジャークの絶対値が予め定められた閾値Jy0以上か判定する。車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0以上である場合には、ステップS600に移行し、車両横ジャークの絶対値が閾値Jy0未満の場合には、ステップS604に移行する。
【0159】
ステップS600では、バックレスト上部のピッチ方向の角度が、後方に傾けた角度となるようにバックレスト可変部9を制御し、ステップS100に移行し、ステップS100〜ステップS400までの処理を繰り返す。
【0160】
ステップS604では、バックレスト上部のピッチ方向の角度が、初期角度となるようにバックレスト可変部9を制御し、ステップS100に移行し、ステップS100〜ステップS400までの処理を繰り返す。
【0161】
以上、説明したように、第6の実施の形態に係る車両用シート600によれば、横ジャークが大きいほど、作用点の位置を下げるように作用点を可変することにより、乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0162】
なお、第6の実施の形態においては、車両横ジャークを用いる場合について説明したがこれに限定されるものではなく、車両後方ジャークを用いてもよい。この場合、予め定められている閾値はJx0を用いる。
【0163】
例えば、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態、第6の実施の形態においては、横加速度を横加速度センサで検出し、検出した横加速度を微分して車両横ジャークの値を算出する場合について説明したが、この限りではない。例えば、操舵角と車速の各々をセンサで検出し、検出した操舵角と車速から横加速度を推定し、推定された横加速度を微分して車両横ジャークの値を算出してもよい。
【0164】
また、第5の実施の形態、第6の実施の形態においては、前後加速度を前後加速度センサで検出し、検出した前後加速度を微分し、後方に作用する後方ジャークの値を算出する場合について説明したが、この限りではない。例えば、アクセルペダルストローク、ギヤ比、又は車速の各々をセンサで検出し、検出したアクセルペダルストロークとギヤ比、又は車速を微分して、車両前後加速度を推定し、推定された車両前後加速度を微分し、後方に作用する後方ジャークの値を算出してもよい。
【0165】
また、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態、第5の実施の形態においては、空気ばね定数KaをKa0とKa´の2段階に切り替える場合について説明したがこの限りではない。例えば、
図8に示すように、車両横ジャーク又は車両後方ジャークの値が大きいほど、空気ばね定数Kaを連続的に減少させるように、車両横ジャーク又は車両後方ジャークの値に応じた空気ばね定数Kaを算出してもよい。その場合には、目標設定された空気ばね定数Kaの減少特性と反対に電磁コイルに流す電流特性を増大特性にし、ピストン53Bの移動距離を連続的に制御するようにすればよい。
【0166】
また、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態、第4の実施の形態、第5の実施の形態、第6の実施の形態においては、車両横ジャーク又は車両後方ジャークの絶対値について閾値Jy0又は閾値Jx0以上か否かの判断を行っている場合について説明したがこの限りでない。例えば、横加速度又は後方に作用する加速度の時系列データを取得し、当該データに対してスペクトル分析を行った結果から得られる高周波成分の値が閾値Jy0又はJx0以上か否かを判断し、高周波成分の値が、閾値Jy0又はJx0以上である場合に、空気ばね定数KaをKa´に設定してもよい。又は、ハイパスフィルターにより高周波振動を直接抽出し、高周波成分の値が、閾値Jy0´又はJx0´以上かを判断してもよい。
【0167】
また、第4の実施の形態、第5の実施の形態、第6の実施の形態においては、予め定められた閾値Jy0又は閾値Jx0を用いる場合について説明したが、これに限定されるわけではない。例えば、上記第2の実施の形態と同様に、荷重センサと演算アンプを更に設け、シートバックに作用する支持力の作用点と左右肩部の中心位置との相対距離が大きくなるほど、車両横ジャークの閾値Jy0又は車両後方ジャークの閾値Jx0を大きくするようにしてもよい。