特許第6148581号(P6148581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148581
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20170607BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20170607BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20170607BHJP
   H02K 7/106 20060101ALI20170607BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20170607BHJP
【FI】
   B60T13/74 Z
   B60T8/00 Z
   F16D65/18
   H02K7/106
   F16D121:24
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-183049(P2013-183049)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48036(P2015-48036A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/087813(WO,A1)
【文献】 特開2002−67906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 8/00
F16D 65/18
H02K 7/106
F16D 121/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキロータと、ブレーキパッドと、電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブレーキパッドに伝える直動機構と、前記電動モータを制御する制御装置とを備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記電動モータの角速度を制御するモータ角速度制御機能部と、
前記ブレーキパッドと前記ブレーキロータとの間にクリアランスがある非制動状態から、前記クリアランスがゼロになる制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部により制御される無負荷状態における前記電動モータの角速度ωと、前記制動状態から前記非制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部により制御される無負荷状態における前記電動モータの角速度ωについて、|ω|>|ω|となるように、前記モータ角速度制御機能部により制限するモータ角速度制限手段とを備えることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動ブレーキ装置において、前記モータ角速度制御機能部は、前記電動モータをPWM制御するPWM制御部を有し、前記モータ角速度制限手段は、PWMデューティ比を制限するように前記PWM制御部に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータの角速度を制限する電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1記載の電動ブレーキ装置において、前記モータ角速度制御機能部は、前記電動モータをPAM制御するPAM制御部を有し、前記モータ角速度制限手段は、出力電圧の振幅の上限値を制限するように前記PAM制御部に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータの角速度を制限する電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1記載の電動ブレーキ装置において、前記モータ角速度制御機能部は、前記電動モータに印加する三相電流の周波数を制御する周波数制御部を有し、前記モータ角速度制限手段は、前記三相電流の周波数を制限するように前記周波数制御部に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータの角速度を制限する電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧する電動ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動ブレーキ、摩擦ブレーキとして、以下のものが提案されている。
1.ブレーキペダルを踏み込むことで、モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押圧接触させて制動力を負荷する(特許文献1)。
2.遊星ローラねじ機構を使用した直動アクチュエータが提案されている(特許文献2)。
3.パッドクリアランスを一定に保つ油圧ブレーキ機構が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2006−194356号公報
【特許文献3】特開平9−72361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記1,2のような電動ブレーキ装置を車両に搭載する場合、電動ブレーキ装置の作動音により、車両の快適性を損なう可能性がある。
前記電動ブレーキ装置において、大きな作動音が発生する主な要因は、モータが高速回転する際の、歯車等の動力伝達機構の騒音である場合が多い。このとき、一般にモータ角速度が高くなる程、発生する作動音は大きくなる。
【0005】
ブレーキパッドをディスクロータに押圧する摩擦ブレーキにおいて、前記ブレーキパッドの押圧力がゼロになったとしても、キャリパの傾き等により、摩擦力が発生し、引摺りトルクとして車両の燃費あるいは電費を悪化させる。このため、例えば、前記3に記載のように、非制動時には、ブレーキパッドとディスクロータとの間にクリアランスを設けることが一般的である。
【0006】
前記電動ブレーキ装置の場合、前記クリアランスを有する状態においては、無負荷であるため、要求ブレーキ力の大小によらずモータ回転数は高くなる場合が多い。一方で、モータ回転数を低く制限すると、ブレーキの応答が遅れる問題が発生する。特に、前記電動ブレーキ装置の場合、小型のモータで必要なブレーキ力を発生させるために減速機構を有する場合が多く、応答遅れを防止するためには減速比に応じてモータ回転数を高くする必要があるため、大きな作動音が発生する可能性があるが、その作動音が車両停止後の静粛状態になってからブレーキパッドとディスクロータとの間にクリアランスを設けるときに、車両の快適性を損なう可能性がある。
【0007】
この発明の目的は、作動音の発生を抑える共に、ブレーキの応答遅れを防止することができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータ6と、ブレーキパッド7と、電動モータ2と、この電動モータ2の回転運動を直線運動に変換して前記ブレーキパッド7に伝える直動機構4と、前記電動モータ2を制御する制御装置9とを備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置9は、
前記電動モータ2の角速度を制御するモータ角速度制御機能部40と、
前記ブレーキパッド7と前記ブレーキロータ6との間にクリアランスがある非制動状態から、前記クリアランスがゼロになる制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部40により制御される無負荷状態における前記電動モータ2の角速度ωと、前記制動状態から前記非制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部40により制御される無負荷状態における前記電動モータ2の角速度ωについて、|ω|>|ω|となるように、前記モータ角速度制御機能部40により制限するモータ角速度制限手段41とを備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によると、制御装置9は、ブレーキ指令値が増加し、非制動状態から制動状態に移行すると、所定のクリアランスを設けた状態で待機していたブレーキパッド7をブレーキロータ6に押し付けるよう、電動モータ2を駆動制御する。制御装置9は、ブレーキ指令値が減少し、非制動状態に移行すると、ブレーキパッド7がブレーキロータ6から離れ、所定のクリアランスを設けるように電動モータ2を駆動制御する。
【0010】
前記非制動状態から制動状態に移行するとき、クリアランスをゼロにするまでの応答遅れにより制動距離が増加するため、速やかな応答が求められる。
一方で、制動状態から非制動状態に移行する際のクリアランスを設ける動作は、応答速度を落としても問題はない。例えば、クリアランスがゼロの状態から、所定のクリアランスを設けるまでの時間を、20msecから400msecとなるよう電動モータ2の角速度を1/20に制限したとしても、車両の全走行時間に対しては極めて短い時間と考えられる。また、作動音については、制動状態に移行する際の方が大きくなるが、一般に制動を開始するのは車両走行中であり、ロードノイズ等が暗騒音として存在するため、電動ブレーキ装置に求められる作動音の上限値を緩和しても良い。
【0011】
モータ角速度制限手段41は、制動状態への移行時と非制動状態への移行時とで、モータ角速度を次のように変える。非制動状態から制動状態に移行するとき、モータ角速度制御機能部40により制御される無負荷状態における電動モータ2の角速度ωと、制動状態から非制動状態に移行するとき、モータ角速度制御機能部40により制御される無負荷状態における電動モータ2の角速度ωについて、|ω|>|ω|となるように制限する。このように電動モータ2の角速度を制限することで作動音の発生を抑制し、車両の快適性を高めることができ、またブレーキの応答遅れを防止して制動距離の増加を抑えることができる。
【0012】
前記モータ角速度制御機能部40は、前記電動モータ2をPWM制御するPWM制御部34aを有し、前記モータ角速度制限手段41は、PWMデューティ比を制限するように前記PWM制御部34aに指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータ2の角速度を制限するものとしても良い。
前記PWMデューティ比は、スイッチング周期に対するパルスのオン時間を表す。PWM制御部34aは、モータ角速度制限手段41からの指令に応じて、例えば、制動状態から非制動状態に移行するときのPWMデューティ比を、非制動状態から制動状態に移行するときのPWMデューティ比よりも小さくして非制動状態に移行するときの電圧実効値を、制動状態に移行するときの電圧実効値よりも低くする。これにより電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。
【0013】
前記モータ角速度制御機能部40は、前記電動モータ2をPAM制御するPAM制御部42を有し、前記モータ角速度制限手段41は、出力電圧の振幅の上限値(下限値)を制限するように前記PAM制御部42に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータ2の角速度を制限するものとしても良い。この場合、PAM制御部42は、電源電圧を、例えば、昇圧回路(または降圧回路)42aを介してモータコイルに印加し、電圧の制御によって電動モータ2を制御する。このとき、モータ角速度制限手段41は、前記昇圧回路(または降圧回路)42aの出力電圧の振幅の上限値(下限値)を制限する。これにより電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。
【0014】
前記モータ角速度制御機能部40は、前記電動モータ2に印加する三相電流の周波数を制御する周波数制御部43を有し、前記モータ角速度制限手段41は、前記三相電流の周波数を制限するように前記周波数制御部43に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータ2の角速度を制限するものとしても良い。この場合、周波数制御部43により、例えば、U,V,W三相の通電切り替え周期を一定以上とすることで電動モータ2の角速度を制限する。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、ブレーキパッドと、電動モータと、この電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ブレーキパッドに伝える直動機構と、前記電動モータを制御する制御装置とを備えた電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動モータの角速度を制御するモータ角速度制御機能部と、前記ブレーキパッドと前記ブレーキロータとの間にクリアランスがある非制動状態から、前記クリアランスがゼロになる制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部により制御される無負荷状態における前記電動モータの角速度ωと、前記制動状態から前記非制動状態に移行するとき、前記モータ角速度制御機能部により制御される無負荷状態における前記電動モータの角速度ωについて、|ω|>|ω|となるように、前記モータ角速度制御機能部により制限するモータ角速度制限手段とを備える。このため、作動音の発生を抑える共に、ブレーキの応答遅れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置の断面図である。
図2】同電動ブレーキ装置の減速機構の拡大断面図である。
図3】同電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
図4】同電動ブレーキ装置の制御装置等を概略示すブロック図である。
図5】同電動ブレーキ装置におけるモータ角速度制限の動作を示す概念図である。
図6】この発明の他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御装置等を概略示すブロック図である。
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御装置等を概略示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置を図1ないし図5と共に説明する。
図1に示すように、この電動ブレーキ装置は、ハウジング1と、電動モータ2と、この電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、直動機構4と、ロック機構5と、ブレーキロータ6と、ブレーキパッド7と、制御装置9(図3)とを有する。ハウジング1の開口端に、径方向外方に延びるベースプレート8が設けられ、このベースプレート8に電動モータ2が支持されている。ハウジング1内には、電動モータ2の出力によりブレーキロータ6、この例ではディスクロータに対して制動力を負荷する直動機構4が組み込まれている。ハウジング1の開口端およびベースプレート8の外側面は、カバー10によって覆われている。
【0018】
直動機構4について説明する。
直動機構4は、減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換して、ブレーキロータ6に対してブレーキパッド7を当接離隔させる機構である。この直動機構4は、スライド部材11と、軸受部材12と、環状のスラスト板13と、スラスト軸受14と、転がり軸受15,15と、回転軸16と、キャリア17と、すべり軸受18,19とを有する。ハウジング1の内周面に、円筒状のスライド部材11が、回り止めされ且つ軸方向に移動自在に支持されている。スライド部材11の内周面には、径方向内方に所定距離突出し螺旋状に形成された螺旋突起11aが設けられている。この螺旋突起11aに、後述する複数の遊星ローラ20が噛合している。
【0019】
ハウジング1内におけるスライド部材11の軸方向一端側に、軸受部材12が設けられている。この軸受部材12は、径方向外方に延びるフランジ部と、ボス部とを有する。ボス部内に転がり軸受15,15が嵌合され、これら各軸受15,15の内輪内径面に回転軸16が嵌合されている。よって回転軸16は、軸受部材12に軸受15,15を介して回転自在に支持される。
【0020】
スライド部材11の内周には、前記回転軸16を中心に回転可能なキャリア17が設けられている。キャリア17は、軸方向に互いに対向して配置されるディスク17a,17bを有する。軸受部材12に近いディスク17bをインナ側ディスク17bといい、ディスク17aをアウタ側ディスク17aという場合がある。一方のディスク17aのうち、他方のディスク17bに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向に突出する間隔調整部材17cが設けられる。この間隔調整部材17cは、複数の遊星ローラ20の間隔を調整するため、円周方向に間隔を空けて複数配設されている。これら間隔調整部材17cにより、両ディスク17a,17bが一体に設けられる。
【0021】
インナ側ディスク17bは、回転軸16との間に嵌合されたすべり軸受18により、回転自在に、且つ、軸方向に移動自在に支持されている。アウタ側ディスク17aには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受18が嵌合されている。アウタ側ディスク17aは、すべり軸受18により回転軸16に回転自在に支持される。回転軸16の端部には、スラスト荷重を受けるワッシャが嵌合され、このワッシャの抜け止め用の止め輪が設けられる。
【0022】
キャリア17には、複数のローラ軸21が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸21の両端部が、ディスク17a,17bにわたって支持されている。すなわちディスク17a,17bには、それぞれ長孔から成る軸挿入孔が複数形成され、各軸挿入孔に各ローラ軸21の両端部が挿入されてこれらローラ軸21が径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸21には、これらローラ軸21を径方向内方に付勢する弾性リング22が掛け渡されている。
【0023】
各ローラ軸21に、遊星ローラ20が回転自在に支持され、各遊星ローラ20は、回転軸16の外周面と、スライド部材11の内周面との間に介在される。複数のローラ軸21に渡って掛け渡された弾性リング22の付勢力により、各遊星ローラ20が回転軸16の外周面に押し付けられる。回転軸16が回転することで、この回転軸16の外周面に接触する各遊星ローラ20が接触摩擦により回転する。遊星ローラ20の外周面には、前記スライド部材11の螺旋突起11aに噛合する螺旋溝が形成されている。
キャリア17のインナ側ディスク17bと、遊星ローラ20の軸方向一端部との間には、ワッシャおよびスラスト軸受(いずれも図示せず)が介在されている。ハウジング1内において、インナ側ディスク17bと軸受部材12との間には、環状のスラスト板13およびスラスト軸受14が設けられている。
【0024】
減速機構3について説明する。
図2に示すように、減速機構3は、電動モータ2の回転を、回転軸16に固定された出力ギヤ23に減速して伝える機構であり、複数のギヤ列を含む。この例では、減速機構3は、電動モータ2のロータ軸2aに取付けられた入力ギヤ24の回転を、ギヤ列25,26,27により順次減速して、回転軸16の端部に固定された出力ギヤ23に伝達可能としている。
【0025】
ロック機構5について説明する。
ロック機構5は、直動機構4の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。前記減速機構3に、ロック機構5が設けられている。ロック機構5は、ケーシング(図示せず)と、ロックピン29と、このロックピン29をアンロック状態に付勢する付勢手段(図示せず)と、ロックピン29を切換え駆動するアクチュエータであるリニアソレノイド30とを有する。前記ケーシングは、ベースプレート8に支持され、このベースプレート8には、ロックピン29の進退を許すピン孔が形成されている。
【0026】
リニアソレノイド30によりロックピン29を進出させて、ギヤ列26における出力側の中間ギヤ28に形成された係止孔(図示せず)に係合し、中間ギヤ28の回転を禁止することで、ロック状態にする。リニアソレノイド30をオフにすると、前記付勢手段による付勢力により、ロックピン29を前記ケーシング内に退入させて前記係止孔から離脱させ、中間ギヤ28の回転を許すことで、ロック機構5をアンロック状態にする。
【0027】
図3は、この電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。同図3に示すように、この電動ブレーキ装置を搭載する車両には、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU31が設けられている。ECU31は、ブレーキペダル32の動作量に応じて変化するセンサ32aの出力に応じて減速指令を生成する。ECU31にインバータ装置33が接続され、インバータ装置33は、各電動モータ2に対して設けられたパワー回路部34と、このパワー回路部34を制御するモータコントロール部35とを有する。
【0028】
モータコントロール部35は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。モータコントロール部35は、ECU31から与えられる減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部34のPWM制御部34aに電流指令を与える。またモータコントロール部35は、電動モータ2に関する各検出値や制御値等の各情報をECU31に出力する機能を有する。
【0029】
パワー回路部34は、電源36の直流電力を電動モータ2の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ34bと、このインバータ34bを制御するPWM制御部34aとを有する。電動モータ2は、3相の同期モータ等からなる。インバータ34bは、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWM制御部34aは、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0030】
モータコントロール部35は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部37を有している。モータ駆動制御部37は、上位制御手段であるECU31から与えられるトルク指令による減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部34のPWM制御部34aに電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部37は、インバータ34bから電動モータ2に流すモータ電流値を電流検出手段38から得て、電流フィードバック制御を行う。またモータ駆動制御部37は、電動モータ2のロータの回転角を回転角度センサ39から得て、ロータ回転角に応じた効率的なモータ駆動が行えるように、PWM制御部34aに電流指令を与える。なお、この電流指令は、この例では電圧値で与える。これらモータ駆動制御部37とPWM制御部34aとで、電動モータ2の角速度を制御するモータ角速度制御機能部40が構成される。
【0031】
この実施形態では、前記構成のモータコントロール部35に、次のモータ角速度制限手段41を設けている。このモータ角速度制限手段41は、電動モータ2における、ブレーキ解除状態からブレーキ押圧時のギャップ区間の角速度ωの絶対値より、ブレーキ押圧状態からブレーキ解除時のギャップ区間の角速度ωの絶対値が小となるように、モータ角速度制御機能部40により電動モータ2の角速度を制限する。各ギャップ区間の角速度につき絶対値を比較対象としたのは、電動モータ2の回転方向が互いに逆方向となるためである。
【0032】
前記角速度ωは、ブレーキパッド7(図1)とブレーキロータ6(図1)との間にクリアランスがある非制動状態から、前記クリアランスがゼロになる制動状態に移行するとき、モータ角度制御機能部40により制御される無負荷状態における電動モータ2の角速度である。前記角速度ωは、前記制動状態から前記非制動状態に移行するとき、モータ角度制御機能部40により制御される無負荷状態における電動モータ2の角速度である。ECU31は、例えば、ブレーキペダル32のセンサ出力の推移を定められた短時間演算することにより、非制動状態に移行するときか、制動状態に移行するときかを判定する。この判定結果は、例えば、フラグ等を用いて減速指令と共にモータコントロール部35に送られる。
モータ角度制限手段41は、PWMデューティ比を制限するように、PWM制御部34aに指令を与える(すなわち、モータ駆動制御部37からPWM制御部34aに与える電圧値に制限を加える)ことで、無負荷状態における電動モータ2の角速度を制限する。前記PWMデューティ比は、スイッチング周期に対するパルスのオン時間を表す。
【0033】
図4は、この電動ブレーキ装置の制御装置等を概略示すブロック図である。図3も参照しつつ説明する。モータ角度制限手段41は、例えば、前記非制動状態に移行するときか制動状態に移行するときかを判定する判定部41aと、リミッタ回路41bとでなる。このリミッタ回路41bは、外部からの信号により能動状態と不能動状態とに切換可能であり、常時は不能動状態とされる。前記判定部41aは、非制動状態に移行すると判定すると、リミッタ回路41bを能動状態とし、出力電圧を設定電圧以下に抑制させる。その後、ブレーキペダル32(図3)が初期位置に復帰すると、センサ32a(図3)からの出力により不能動状態に復帰する。能動状態の途中で、ブレーキペダル32(図3)を踏み込んだ場合、判定部41aが制動状態に移行するときと判定し、リミッタ回路41bを不能動状態に復帰させる。
PWM制御部34aは、モータ角度制限手段41からの指令に応じて、制動状態から非制動状態に移行するときのPWMデューティ比を、非制動状態から制動状態に移行するときのPWMデューティ比よりも小さくして非制動状態に移行するときの電圧実効値を、制動状態に移行するときの電圧実効値よりも低くする。これにより電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。
【0034】
図5は、この電動ブレーキ装置におけるモータ角速度制限の動作を示す概念図である。図5では、制動状態への移行時と非制動状態への移行時で、電動モータ2の角速度を変える例を示している。図3も参照しつつ説明する。制御装置9は、ブレーキ力の指令値(図5(a)点線にて表示)が増加し、非制動状態から制動状態に移行するとき、所定のクリアランス(パッドクリアランス)を設けた状態で待機していたブレーキパッドをディスクロータに押し付けるよう、電動モータ2を駆動制御する。パッドクリアランスがゼロ以上のときはブレーキ力が発生せず、指令値が入力されてから、クリアランスがゼロになるまでの時間分の遅れを生じて実ブレーキ力(図5(a)実線にて表示)が発揮される。
【0035】
制御装置9は、ブレーキ指令値が減少し、非制動状態に移行するとき、ブレーキ力がゼロになった後も、ブレーキパッドがディスクロータから離れ、所定のクリアランスを設けるように電動モータ2を駆動制御する。
前記非制動状態から制動状態に移行するとき、クリアランスをゼロにするまでの応答遅れにより制動距離が増加するため、速やかな応答が求められる。
【0036】
一方で、制動状態から非制動状態に移行する際のクリアランスを設ける動作は、応答速度を落としても問題はない。例えば、荷重がゼロつまりクリアランスがゼロの状態から、所定のクリアランスを設けるまでの時間を、20msecから400msecとなるよう電動モータ2の角速度を1/20に制限したとしても、車両の全走行時間に対しては極めて短い時間と考えられる。また、作動音については、制動状態に移行する際の方が大きくなるが、一般に制動を開始するのは車両走行中であり、ロードノイズ等が暗騒音として存在するため、電動ブレーキ装置に求められる作動音の上限値を緩和しても良い。
【0037】
PWM制御部34aは、モータ駆動制御部37から電圧値で与えられた指令に応じて、モータコイルの導通時間のPWMデューティ比を制御する。このとき、PWMデューティ比の上限値または下限値を制限することで、モータ回転数が制限される。つまりモータ駆動制御部37からPWM制御部34aに与える電圧値に、モータ角度制限手段41が制限を加える。これにより、非制動状態に移行するときのPWMデューティ比を、制動状態に移行するときのPWMデューティ比よりも小さくして非制動状態に移行するときの電圧実効値を、制動状態に移行するときの電圧実効値よりも低くする。これにより、図5(c)に示すように、電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。したがって、従来技術よりも作動音の発生を抑制し、車両の快適性を高めることができ、またブレーキの応答遅れを防止して制動距離の増加を抑えることができる。
【0038】
他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0039】
図6は、他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御装置等を概略示すブロック図である。同図6は、パルス電圧振幅波形制御(Pulse Amplitude Modulation , 略称:PAM制御)により、電動モータ2の角速度を制限する例を示す。モータ角速度制御機能部40は、電動モータ2をPAM制御するPAM制御部42を有し、モータ角速度制限手段41は、出力電圧の振幅の上限値または下限値を制限するようにPAM制御部42に指令を与えることで、電動モータ2の角速度を制限する。
この場合、PAM制御部42は、電源電圧を、例えば、昇圧回路42aを介してモータコイルに印加し、電圧の制御によって電動モータ2を制御する。このとき、モータ角速度制限手段41のリミッタ回路41bは、昇圧回路42aの出力電圧の振幅の上限値を制限する。なおパワー回路部34内にPAM制御部42を設けて、電源電圧をモータ角速度制限手段41で制限しても良い。
前記昇圧回路42aに代えて降圧回路42bを適用する場合、モータ角速度制限手段41のリミッタ回路41bは、降圧回路42bの出力電圧の振幅の下限値を制限する。
【0040】
昇圧回路42aまたは降圧回路42bとしては、例えば、スイッチング素子、ダイオード、コイル、およびコンデンサを使用したスイッチングレギュレータを使用しても良い。前記スイッチング素子として例えばトランジスタが適用され、このトランジスタがオンのとき、前記コイルにエネルギーが蓄積され、前記トランジスタがオフのとき前記コイルに蓄積されたエネルギーが放出される。電源電圧を昇圧回路42aにより昇圧する場合、ECU31(図3)からの減速指令に基づき、前記トランジスタのオン・オフを繰り返すことで出力電圧が得られるが、リミッタ回路41bにより昇圧回路42aの出力電圧の振幅の上限値を制限する。これにより、電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。電源電圧を降圧回路42bにより降圧する場合、リミッタ回路41bにより降圧回路42bの出力電圧の振幅の下限値を制限する。これにより、電動モータ2の角速度が|ω|>|ω|となるように制限される。
【0041】
その他の実施形態として、例えば、図4または図6の形態において、電動モータ2には、ブラシレスDCモータを用いても良い。その場合、図7(a)または図7(b)に示すように、モータ角速度制御機能部40は、電動モータ2に印加する三相電流の周波数を制御する周波数制御部43を有し、モータ角速度制限手段41は、前記三相電流の周波数を制限するように周波数制御部43に指令を与えることで、前記無負荷状態における前記電動モータ2の角速度を制限する。この実施形態では、デューティ比や電圧を制御する代わりに、U,V,W三相の通電切り替え周期を一定以上とするよう、演算器を構成することで、モータ回転数を制御することができる。例えば、180度通電方式の場合は、三相交流の周波数を制限し、120度通電方式の場合は相切り替え間隔を一定時間以上に制限することができる。
【0042】
前記各実施形態では、電動ブレーキ装置をディスクブレーキに適用しているが、ディスクブレーキのみに限定されるものではない。電動ブレーキ装置をドラムブレーキに適用しても良い。
【符号の説明】
【0043】
2…電動モータ
4…直動機構
6…ブレーキロータ
7…ブレーキパッド
9…制御装置
34a…PWM制御部
40…モータ角速度制御手段
41…モータ角速度制限手段
42…PAM制御部
43…周波数制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7