特許第6148600号(P6148600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148600
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ガスエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/02 20060101AFI20170607BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20170607BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20170607BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20170607BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   F02D19/02 F
   F02D41/02 301K
   F02D41/04 310E
   F02D9/02 321Z
   F02M21/02 311E
   F02M21/02 301R
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-223754(P2013-223754)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-86733(P2015-86733A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595055162
【氏名又は名称】一般社団法人日本舶用工業会
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】萩原 良一
(72)【発明者】
【氏名】山岸 修
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−057870(JP,A)
【文献】 特開2009−057872(JP,A)
【文献】 登録実用新案第372626(JP,Z2)
【文献】 実公昭42−021055(JP,Y1)
【文献】 特開2003−161176(JP,A)
【文献】 特開2009−057873(JP,A)
【文献】 特開2008−215130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/00 〜 19/10
F02D 41/00 〜 45/00
F02D 9/00 〜 9/02
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル弁で給気流入量を調整し、前記スロットル弁のスロットル開度を制御する制御手段を備えるガスエンジンであって、
前記制御手段は、
負荷投入指令を受信し、かつ、所定負荷以下で運転しており、かつ、投入された負荷が所定負荷投入率以上である場合には、燃料ガスを噴射する前にスロットル開度を増加させる
ガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンは、空気と燃料ガスの混合気を燃料として駆動するエンジンとして公知である。ガスエンジンでは、ガスインジェクタによって供給される燃料ガスと、スロットル弁を制御して給気流入量が調整される空気との混合気が、燃焼室に供給される(例えば、特許文献1)。
【0003】
ガスエンジンでは、低負荷から高負荷に負荷投入された直後では、ガスインジェクタによって燃料ガスが増加されるタイミングと、スロットル弁のスロットル開度が増加して給気流入量が増加するタイミングとにおいてタイムラグが発生する。
【0004】
具体的には、負荷投入された直後では、ガスインジェクタによる燃料ガスの増加に対して、スロットル弁による給気流入量の増加が追い付かず、混合気が理論空燃比よりも濃い状態(リッチ)となり、失火のおそれがある。そのため、ガスエンジンでは、負荷投入限界(エンジン定格負荷に対する投入できる負荷の割合)が低く設定されている。
【0005】
一方、負荷投入限界を高く設定するために、低負荷時から給気流入量を多くするように制御した場合には、混合気が理論空燃比よりも薄い状態(リーン)となって、炭化水素の排出量が多くなる。そこで、ガスエンジンでは、低負荷時の炭化水素の排出を低減させつつも、負荷投入限界を増加することができることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−76357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、低負荷時の炭化水素の排出を低減させ、かつ、負荷投入限界を増加することができるガスエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
請求項1においては、スロットル弁で給気流入量を調整し、前記スロットル弁のスロットル開度を制御する制御手段を備えるガスエンジンであって、前記制御手段は、負荷投入指令を受信し、かつ、所定負荷以下で運転しており、かつ、投入された負荷が所定負荷投入率以上である場合には、燃料ガスを噴射する前にスロットル開度を増加させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガスエンジンによれば、低負荷時の炭化水素の排出を低減させ、かつ、負荷投入限界を増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガスエンジンの構成を示した模式図。
図2】第一スロットル開度制御の流れを示すフロー図。
図3】同じくタイムチャート図。
図4】第二スロットル開度制御の流れを示すフロー図。
図5】同じくタイムチャート図。
図6】同じくコンプレッサ性能曲線図。
図7】電気推進船の構成を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を用いて、ガスエンジン100の構成について説明する。なお、図1では、ガスエンジン100の構成を模式的に表している。
【0013】
ガスエンジン100は、本発明のガスエンジンに係る実施形態である。ガスエンジン100は、空気と燃料ガスの混合気を燃料として駆動するエンジンである。
【0014】
ガスエンジン100は、エンジン本体10と、給気系統20と、排気系統30と、制御手段としてのECU(Engine Control Unit)50と、を具備している。
【0015】
エンジン本体10は、6つの気筒11・・・・11を具備している。気筒11・・・・11は、給気マニホールド21と給気ポート22・・・・22によって連通され、排気マニホールド31と排気ポート32・・・・32によって連通されている。給気ポート22・・・・22には、ガスインジェクタ42・・・・42が設けられている。
【0016】
給気系統20は、給気マニホールド21と、インタークーラ23と、スロットル弁24と、コンプレッサ25と、を具備している。給気系統20では、給気マニホールド21から空気の流れの上流側に向かって、インタークーラ23と、スロットル弁24と、コンプレッサ25と、が順に配置されている。また、インタークーラ23の下流側には、給気マニホールド圧力Piを検知する給気マニホールド圧力センサ54が設けられている。
【0017】
排気系統30は、排気マニホールド31と、タービン33と、を具備している。排気系統30では、排気マニホールド31から空気の流れの下流側に向かって、タービン33が配置されている。
【0018】
ECU50は、スロットル弁24と、ガスインジェクタ42・・・・42と、エンジン回転数Neを検知するエンジン回転数センサ51と、エンジン負荷Acを検知するエンジン負荷センサ52と、潤滑油温度Tjを検知する潤滑油温度センサ53と、給気マニホールド圧力Piを検知する給気マニホールド圧力センサ54と、負荷投入を指令するアクセルレバー55と、に接続されている。
【0019】
ECU50は、給気マニホールド圧力Piが目標給気マニホールド圧力Pimとなるように、スロットル弁24を制御し、スロットル開度Dを増加または減少させる機能を有している。
【0020】
図2を用いて、第一スロットル開度制御S100の流れについて説明する。なお、図2では、第一スロットル開度制御S100の流れをフローチャートによって表している。
【0021】
第一スロットル開度制御S100は、ガスエンジン100が低負荷で運転している状態から高負荷に運転する状態になった場合において、スロットル弁24のスロットル開度Dを増加させる制御である。
【0022】
ステップS110において、ECU50は、現在、ガスエンジン100が所定負荷Ac1以下で運転しており、かつ、アクセルレバー55より負荷投入指令を受信し、かつ、アクセルレバー55より指令された負荷投入が所定負荷投入率rAc1以上であるかを確認する。なお、負荷投入率rAcとは、エンジン定格付加に対する投入された負荷の割合である。また、所定負荷Ac1及び所定負荷投入率rAc1は、予めECU50に記憶されている。
【0023】
ステップS110において、ECU50は、上記条件が成立すれば、ステップS120に移行する。一方、上記条件が成立しなければ、第一スロットル開度制御S100を終了する。
【0024】
ステップS120において、ECU50は、スロットル弁24によってスロットル開度Dを所定開度ΔDだけ増加させる。なお、所定開度ΔDは、エンジン回転数Neと、負荷投入率rAcとによって決定されるものであって、予めECU50に記憶されている。
【0025】
ステップS130において、ECU50は、給気マニホールド圧力Piが目標給気マニホールド圧力Pim以上となったかどうか判断する。給気マニホールド圧力Piが目標給気マニホールド圧力Pim以上となった場合には、ステップS140に移行する。
【0026】
なお、ステップS130の制御の代わりに、スロットル弁24を所定開度ΔDだけ増加させて、ステップS140に移行するまで所定時間だけ待機させる制御であっても良い。
【0027】
ステップS140において、ECU50は、ガスインジェクタ42・・・・42によって気筒11・・・・11に燃料ガスの噴射量をさせる。実際には、負荷が投入されて、エンジン回転数Neが低下することにより燃料ガスの噴射量が増加する。
【0028】
図3を用いて、第一スロットル開度制御S100の作用について説明する。なお、図3では、第一スロットル開度制御S100の作用をタイムチャートによって表している。また、図3では、負荷投入指令をON又はOFFによって表し、スロットル開度Dを全開に対する割合(%)によって表し、燃料噴射量Qを噴射時間(deg)によって表している。
【0029】
第一スロットル開度制御S100を時系列に沿って説明すると、まず、アクセルレバー55より負荷投入指令があり、次に、スロットル弁24によってスロットル開度Dが所定開度ΔDだけ増加され、次に、給気マニホールド圧力Piが目標給気マニホールド圧力Pimに到達し、次に、ガスインジェクタ42・・・・42によって気筒11・・・・11に燃料ガスの噴射量が増加される。
【0030】
第一スロットル開度制御S100の効果について説明する。第一スロットル開度制御S100によれば、低負荷時の炭化水素の排出を低減させ、かつ、負荷投入限界を増加することができる。
【0031】
従来、ガスエンジンでは、低負荷から高負荷に負荷投入された場合には、ガスインジェクタによる燃料ガスの増加に対して、スロットル弁による給気流入量の増加が追い付かず、リッチ状態となり、失火のおそれがあった。そのため、負荷投入限界(エンジン定格付加に対する投入できる負荷の割合)を低く設定されていた。
【0032】
一方、負荷投入限界を高く設定するために、低負荷時から給気流入量を多くするように制御した場合には、リーン状態となって、炭化水素の排出量が多くなっていた。
【0033】
第一スロットル開度制御S100では、低負荷から高負荷に負荷投入された場合には、ガスインジェクタ42・・・・42による燃料ガスの増加の前に、スロットル弁24による給気流入量の増加を行い、負荷投入限界を増加することができる。また、低負荷時から給気流入量を多くするように制御する必要もなく、低負荷時の炭化水素の排出を低減させることができる。
【0034】
図4を用いて、第二スロットル開度制御S200の流れについて説明する。なお、図4では、第二スロットル開度制御S200の流れをフローチャートによって表している。
【0035】
第二スロットル開度制御S200は、ガスエンジン100が高負荷で運転している状態から低負荷に運転する状態になった場合において、スロットル弁24のスロットル開度Dを減少させる制御である。
【0036】
ステップS210において、ECU50は、例えば、アクセルレバー55によって負荷が軽減され、スロットル弁24のスロットル開度Dを減少させる指令を受信したものとする。
【0037】
ステップS220において、ECU50は、スロットル弁24によってスロットル開度Dを目標スロットル開度Dmに向けて段階的に減少させる。ここで、スロットル開度Dを段階的に減少させるとは、スロットル開度Dを10%/sの速度でスロットル開度Dを減少させるものとする。なお、10%/sの速度とは、1秒間に全開を100%としたとき10%の開度だけスロットル開度Dを減少させる速さとする。
【0038】
ステップS230において、ECU50は、給気マニホールド圧力Piが所定圧力値Pi1まで低下したかどうかを確認する。なお、所定圧力値Pi1は、予めECU50に記憶されている。ECU50は、上記条件が成立すれば、第二スロットル開度制御S200を終了する。一方、上記条件が成立しなければ、再度ステップS220に移行する。
【0039】
図5を用いて、第二スロットル開度制御S200の作用について説明する。なお、図5では、第二スロットル開度制御S200の作用をタイムチャートによって表している。また、図5では、エンジン負荷Acをエンジン定格負荷に対する割合(%)によって表し、スロットル開度Dを全開に対する割合(%)によって表し、給気マニホールド圧力Piを圧力値(MPa)によって表している。
【0040】
第二スロットル開度制御S200を時系列に沿って説明すると、まず、スロットル弁24のスロットル開度Dを減少させる指令があり、次に、給気マニホールド圧力Piが所定圧力値Pi1まで、スロットル弁24によってスロットル開度Dが段階的に減少される。
【0041】
図6を用いて、第二スロットル開度制御S200の作用について説明する。なお、図6では、第二スロットル開度制御S200の作用をコンプレッサ性能曲線によって表している。また、図6では、横軸をコンプレッサ25の通過流量(m3/s)によって表し、縦軸をコンプレッサ圧縮比(コンプレッサ25の入口圧力に対する出口圧力)によって表している。
【0042】
ステップS210では、ガスエンジン100が高負荷で運転しているため、コンプレッサ25の通過流量及びコンプレッサ圧縮比は比較的高く、サージングライン(グラフ領域の左端側)に近い位置にある。
【0043】
ステップS220では、スロットル弁24によってスロットル開度Dが目標スロットル開度Dmに向けて段階的に減少するため、コンプレッサ通過流量が段階的に減少する(図6中の実線矢印)。このとき、コンプレッサ通過流量が急激に減少し、サージングラインに到達し、サージングが発生することはない(図6中の破線矢印)。
【0044】
ステップS230及びステップ240では、給気マニホールド圧力Piが所定圧力値Pi1まで低下したので、スロットル弁24によってスロットル開度Dが目標スロットル開度Dmまで直ちに減少するため、コンプレッサ通過流量が急激に減少する(図6中の実線矢印)。しかし、サージングラインからは十分に離間しているため、サージングラインに到達し、サージングが発生することはない(図6中の実線矢印)。
【0045】
第二スロットル開度制御S200の効果について説明する。第二スロットル開度制御S200によれば、コンプレッサ25のサージングを防止することができる。
【0046】
サージングは、エンジン負荷が高負荷から急に低負荷になり、スロットル弁24のスロットル開度Dが急激に減少され、コンプレッサ25の通過流量が急激に減少したときに発生しやすい。そのため、第二スロットル開度制御S200では、スロットル弁24によってスロットル開度Dを目標スロットル開度Dmに向けて段階的に減少させることによって、コンプレッサ25のサージングを防止することができる。
【0047】
図7を用いて、電気推進船200の構成について説明する。なお、図7では、電気推進船200の構成を模式的に表している。
【0048】
電気推進船200は、本実施形態のガスエンジン100を搭載している。電気推進船200は、LNGタンク201と、気化器202と、ガスエンジン100と、発電機203と、電力コントロール盤204と、推進モータ205と、減速機206と、可変ピッチプロペラ207と、を備えている。
【0049】
電気推進船200では、LNGタンク201・201に貯溜された燃料ガスが気化器202・202によって空気と混合され、ガスエンジン100・100・100に供給される。そして、ガスエンジン100・100・100によって発電機203・203・203が駆動され、電力コントロール盤204によって、推進モータ205・205及び船内負荷に電力が供給される。推進モータ205・205の駆動は減速機206・206を介して可変ピッチプロペラ207・207に伝達される。
【符号の説明】
【0050】
10 エンジン本体
21 給気マニホールド
24 スロットル弁
25 コンプレッサ
50 ECU(制御手段)
51 エンジン回転数センサ
52 エンジン負荷センサ
53 潤滑油温度センサ
54 給気マニホールド圧力センサ
55 アクセルレバー
100 ガスエンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7