【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、79GHz帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
千葉建治郎 外2名,“既知波源を用いたアンテナアレイ校正の実験的検証”,電気情報通信学会技術研究報告,2002年 7月17日,Volume 102, Number 230,Pages 7-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示に係るレーダ装置の各実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
〔各実施形態の内容に至る経緯〕
先ず、本開示に係るレーダ装置の各実施形態を説明する前に、各実施形態の内容に至る経緯について、図面を参照して説明する。
【0021】
従来のレーダ装置を例えば地上5mの高さの高所に設置し、近距離(例えば5m)から遠距離(例えば40m)にわたる範囲を測定させる(
図13参照)。
図13は、従来のレーダ装置を地上5mの高所に配置した場合の測定エリアの一例を示した図である。
【0022】
ターゲットの到来角θと複数のアンテナ間隔とにより決定されるアンテナ間の受信位相差情報に対応する方向ベクトルは、受信アンテナの垂直面の指向性パターンのアンテナ間偏差の影響を受ける(
図14参照)。即ち、方向ベクトルには、アンテナ素子の方位角方向に依存したアンテナ間偏差成分以外にも、仰角方向に依存したアンテナ間偏差成分が含まれる。
図14は、アンテナの仰角方向の指向性の特性例を示す図である。
【0023】
具体的には、垂直方向の指向性ビーム幅が25度程度に狭いビーム幅を用いる場合、従来のレーダ装置のアンテナを7度鉛直下方に傾けた場合、近距離(例えば5m)から遠距離(例えば40m)の検知範囲に対する垂直方向は38度の範囲を有する。
図13に示す5m〜10mの範囲では
図14の指向性(1)、
図13に示す10m〜20mの範囲では
図14の指向性(2)、
図13に示す20m〜40mの範囲では
図14の指向性(3)が用いられる。
【0024】
従って、従来のレーダ装置では、ターゲットの存在する距離レンジに応じて、アンテナの指向性が主ビームではない部分が用いられることがあるため、受信アンテナ素子の垂直面の指向性パターン(例えば
図14参照)のアンテナ間偏差の影響を受け、方向ベクトルには、アンテナ素子の方位角方向以外にも仰角方向に依存したアンテナ間の偏差成分が含まれる。
【0025】
このため、方向推定精度は、ターゲットの存在する距離によって異なり、レーダ装置の方向推定精度にばらつきが生じる要因となる。
【0026】
上記の課題に対し、方位角方向θ及び仰角方向φに依存し且つ受信アンテナ素子間において生じる振幅及び位相の偏差情報を方向ベクトルに含めることにより、アンテナ間偏差成分を補正できるため、ターゲットからの反射波信号の到来方向を、仰角方向φに対する方向推定精度依存性を低減した後に推定できる。
【0027】
しかし、従来のレーダ装置を高所に設置した場合では、方位角方向θ及び仰角方向φの2つの変数を用いるため、到来方向を推定するための評価関数値の演算量が増大する。例えば、方位角方向θの可変範囲をN分割し、仰角方向φの可変範囲をM分割した場合には、評価関数値の演算量は(N×M)回となり、評価関数値の演算量が増大する。
【0028】
そこで、以下の各実施形態では、ターゲットの到来方向推定の演算量を低減し、到来方向の推定精度を向上するレーダ装置の例について説明する。
【0029】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態のレーダ装置1を、
図1〜
図5を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態におけるレーダ装置1のレーダアンテナの傾角(φ
0)方向の直線と、ターゲットに対する仰角φ(k
Rx)との説明図である。以下の説明では、本実施形態のレーダ装置1の送信アンテナTx−ant及び複数の受信アンテナRx−ant1〜Rx−ant4を総括してレーダアンテナRAといい、複数の受信アンテナRx−ant1〜Rx−ant4はアレーアンテナを形成している。説明を簡単にするために、
図1ではレーダ装置1のうちレーダアンテナRAを図示している。
【0030】
図2は、第1の実施形態のレーダ装置1の内部構成を簡略に示すブロック図である。
図3は、第1の実施形態のレーダ装置1の内部構成を詳細に示すブロック図である。
図4は、レーダ送信信号の送信区間Twと送信周期Trとの関係を示す図である。
図5は、送信信号生成部2の変形例に係る送信信号生成部2rの内部構成を示すブロック図である。
【0031】
レーダ装置1は、地面GNDから所定の高さH
antの位置に設置されている。以下の説明では所定の高さH
antを設置高H
antという。レーダ装置1のレーダアンテナRAは、設置高H
antの位置から地面GNDに向かって傾角(φ
0)の方向に傾けられている。レーダ装置1は、レーダ送信部Txにより生成されたレーダ送信信号を送信アンテナTx−antから送信し、送信されたレーダ送信信号がターゲットTARにより反射された反射波の信号をアレーアンテナにおいて受信する。レーダ装置1は、アレーアンテナにおいて受信された信号を信号処理することにより、レーダ装置1とターゲットTARとの距離及びターゲットの到来方向を推定する。
【0032】
なお、ターゲットTARはレーダ装置1が検出する対象の物体であり、例えば自動車又は人を含み、以下の各実施形態においても同様である。
【0033】
先ず、レーダ装置1の各部の構成について簡略に説明する。
【0034】
図2に示すレーダ装置1は、基準信号発振器Lo、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxを含む構成である。レーダ送信部Txは、送信信号生成部2、及び、送信アンテナTx−antが接続された送信RF部3を有する構成である。基準信号発振器Loは、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxに接続され、基準信号発振器Loからの信号をレーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxに共通に供給することにより、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxの処理を同期させる。
【0035】
レーダ受信部Rxは、4個のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10c、相関行列生成部20、距離推定部21、方向ベクトル記憶部22及び到来方向推定部23を有する構成である。
図2に示すレーダ受信部Rxは4個のアンテナ系統処理部を有しているが、アンテナ系統処理部の個数は4個に限定されず2個以上であればよい。各アンテナ系統処理部は同様の構成を有するので、以下、アンテナ系統処理部10を例示して説明する。
【0036】
アンテナ系統処理部10は、受信アンテナRx−ant1が接続された受信RF部11、及び信号処理部12を有する構成である。信号処理部12は、相関値演算部18及びコヒーレント積分部19を少なくとも有する構成である。
【0037】
次に、レーダ送信部Txの各部の構成を、
図3を参照して詳細に説明する。
【0038】
図3に示すレーダ送信部Txは、送信信号生成部2、及び、送信アンテナTx−antが接続された送信RF部3を含む構成である。
【0039】
図3に示す送信信号生成部2は、符号生成部4、変調部5、LPF(Low Pass Filter)6及びD/A変換部7を含む構成である。
図3では、LPF6は、送信信号生成部2に含まれる様に構成されているが、送信信号生成部2の外部であって且つD/A変換部7からの出力が入力される様にレーダ送信部Txの内部に構成されてもよい。
【0040】
図3に示す送信RF部3は、周波数変換部8及び増幅器9を含む構成である。
【0041】
次に、レーダ送信部Txの各部の動作を詳細に説明する。
【0042】
送信信号生成部2は、基準信号発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍した送信基準クロック信号を生成する。送信信号生成部2の各部は、生成された送信基準クロック信号に基づいて動作する。
【0043】
送信信号生成部2により生成される送信信号は、
図4に示す様に、例えば送信周期Trの送信区間Tw[秒]では、符号長Lの符号系列C
nの1つの符号あたり送信基準クロック信号のNo[個]のサンプルを用いて変調されている。即ち、送信信号生成部2におけるサンプリングレートは(No×L)/Twとなる。従って、送信区間Tw[秒]では、Nr(=No×L)[個]のサンプルを用いて変調されている。各送信周期Trの無信号区間(Tr−Tw)[秒]では、Nu[個]のサンプルを用いて変調されている。
【0044】
送信信号生成部2は、符号長Lの符号系列C
nの変調によって、数式(1)に示すベースバンドの送信信号r(k
Tx、M)を周期的に生成する。nは1〜Lであり、Lは符号系列C
nの符号長を表す。jは、j
2=−1を満たす虚数単位である。k
Txはレーダ送信部Txにおける離散時刻を表し、k
Tx=1〜(Nr+Nu)であり、送信信号の生成のための変調タイミングを表す離散時刻である。
【0045】
Mはレーダ送信信号の送信周期Trの序数を表す。送信信号r(k
Tx、M)は、第M番目の送信周期Trの離散時刻k
Txにおける送信信号を表し、同相信号成分I(k
Tx、M)と、虚数単位jが乗算された直交信号成分Q(k
Tx、M)との加算結果となる(数式(1)参照)。
【0047】
符号生成部4は、送信周期Tr毎に、符号長Lの符号系列C
nの送信符号を生成する。符号系列C
nの要素は、例えば、[−1,1]の2値、若しくは[1,−1,j,−j]の4値を用いて構成される。送信符号は、レーダ装置1が低レンジサイドローブ特性を有するために、例えば、相補符号のペアを構成する符号系列、Barker符号系列、Golay符号系列、M系列符号、及び、スパノ符号を構成する符号系列のうち少なくとも1つを含む符号であることが好ましい。符号生成部4は、生成された符号系列C
nの送信符号を変調部5に出力する。以下、符号系列C
nの送信符号を、便宜的に送信符号C
nと記載する。
【0048】
符号生成部4は、送信符号C
nとして相補符号のペアを生成するには、2個の送信周期(2Tr)を用いて、送信周期毎に交互にペアとなる送信符号P
n,Q
nをそれぞれ生成する。即ち、符号生成部4は、第M番目の送信周期では相補符号のペアを構成する一方の送信符号P
nを生成して変調部5に出力し、続く第(M+1)番目の送信周期では相補符号のペアを構成する他方の送信符号Q
nを生成して変調部5に出力する。同様に、符号生成部4は、第(M+2)番目以降の送信周期では、第M番目及び第(M+1)番目の2個の送信周期を一つの単位として、送信符号P
n,Q
nを繰り返し生成して変調部5に出力する。
【0049】
変調部5は、符号生成部4から出力された送信符号C
nを入力する。変調部5は、入力された送信符号C
nをパルス変調し、数式(2)のベースバンドの送信信号r(k
Tx,M)を生成する。パルス変調は、振幅変調、ASK(Amplitude Shift Keying))又は位相変調(PSK(Phase Shift Keying)であり、以下の各実施形態においても同様である。
【0050】
例えば位相変調(PSK)は、符号系列C
nが例えば[−1,1]の2値の位相変調ではBPSK(Binary Phase Shift Keying)となり、符号系列C
nが例えば[1,−1,j,−j]の4値の位相変調ではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)若しくは4相PSKとなる。即ち、位相変調(PSK)では、IQ平面上のコンスタレーションにおける所定の変調シンボルが割り当てられる。
【0051】
変調部5は、生成された送信信号r(k
Tx,M)のうち予め設定された制限帯域以下の送信信号r(k
Tx,M)を、LPF6を介してD/A変換部7に出力する。なお、LPF6は送信信号生成部2において省略されてもよく、以下の各実施形態でも同様である。
【0052】
D/A変換部7は、変調部5から出力されたデジタルの送信信号r(k
Tx,M)をアナログの送信信号に変換する。D/A変換部7は、アナログの送信信号を送信RF部3に出力する。
【0053】
送信RF部3は、基準信号発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍数に逓倍したキャリア周波数帯域の送信基準信号を生成する。送信RF部3の各部は、生成された送信基準信号に基づいて動作する。
【0054】
周波数変換部8は、D/A変換部7から出力されたアナログの送信信号を入力し、入力された送信信号と送信基準信号とを用いて、ベースバンドの送信信号をアップコンバートする。周波数変換部8は、高周波のレーダ送信信号を生成し、生成されたレーダ送信信号を増幅器9に出力する。
【0055】
増幅器9は、周波数変換部8から出力されたレーダ送信信号を入力し、入力されたレーダ送信信号の信号レベルを所定の信号レベルに増幅し、送信アンテナTx−antに出力する。増幅されたレーダ送信信号は、送信アンテナTx−antを介して送信される。
【0056】
送信アンテナTx−antは、送信RF部3から出力されたレーダ送信信号を送信する。
図4に示すレーダ送信信号は、送信周期Trのうち送信区間Twの間に送信され、無信号区間(Tr−Tw)の間には送信されない。
【0057】
なお、送信RF部3と、各アンテナ系統処理部10,10a,10b、10cの各受信RF部とには、基準信号発振器Loにより生成されたリファレンス信号が所定倍に逓倍された信号が共通に供給されている。これにより、送信RF部3及び複数の受信RF部の間の処理が同期できる。
【0058】
なお、送信信号生成部2には、符号生成部4を設けず、送信信号生成部2により生成された送信符号C
nを予め記憶する送信符号記憶部CMを設けてもよい(
図5参照)。送信符号記憶部CMは、送信信号生成部4が相補符号のペアとなる送信符号を生成する場合に対応して、相補符号のペア、例えば、送信符号A
n及びB
nを記憶してもよい。送信符号記憶部CMは、第1の実施形態に限らず、後述の各実施形態にも同様に適用できる。
図5に示す送信信号生成部2rは、送信符号記憶部CM、送信符号制御部CT3、変調部5r、LPF6r及びD/A変換部7を含む構成である。
【0059】
送信符号制御部CT3は、基準信号発振器Loから出力されたリファレンス信号を所定倍に逓倍した基準クロック信号に基づいて、送信周期Tr毎に、送信符号C
n(又は相補符号のペアを構成する送信符号A
n,送信符号B
n)を、送信符号記憶部CMから巡回的に読み出して変調部5rに出力する。変調部5rに出力された以降の動作は上述した変調部5及びLPF6と同様のため、動作の説明は省略する。
【0060】
(レーダ受信部)
次に、レーダ受信部Rxの各部の構成を、
図3を参照して説明する。
【0061】
図3に示すレーダ受信部Rxは、アレーアンテナを構成する受信アンテナの本数に対応して設けられた例えば4個のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10c、相関行列生成部20、距離推定部21、方向ベクトル記憶部22及び到来方向推定部23を含む構成である。
【0062】
アンテナ系統処理部10は、受信アンテナRx−ant1が接続された受信RF部11、及び信号処理部12を有する構成である。受信RF部11は、増幅器13、周波数変換部14及び直交検波部15を有する構成である。信号処理部12は、2個のA/D変換部16,17、相関値演算部18及びコヒーレント積分部19を有する構成である。レーダ受信部3は、各送信周期Trを、各アンテナ系統処理部の信号処理部における信号処理区間として周期的に演算する。
【0063】
次に、レーダ受信部Rxの各部の動作を詳細に説明する。
【0064】
受信アンテナRx−ant1は、レーダ送信部Txから送信されたレーダ送信信号がターゲットTARにより反射された反射波信号を受信する。受信アンテナRx−ant1にて受信された受信信号は、受信RF部11に入力される。
【0065】
受信RF部11は、送信RF部3と同様に、基準信号発振器Loにより生成されたリファレンス信号に基づいて、リファレンス信号を所定倍に逓倍したキャリア周波数帯域の受信基準信号を生成する。受信RF部11の各部は、生成された受信基準信号に基づいて動作する。
【0066】
増幅器13は、受信アンテナRx−ant1にて受信された高周波の受信信号を入力し、入力された受信信号の信号レベルを増幅して周波数変換部14に出力する。
【0067】
周波数変換部14は、増幅器13から出力された受信信号を入力し、入力された高周波の受信信号と受信基準信号とを用いて、高周波の受信信号をダウンコンバートする。周波数変換部14は、ベースバンドの受信信号を生成し、生成された受信信号を直交検波部15に出力する。
【0068】
直交検波部15は、周波数変換部14から出力された受信信号を直交検波することにより、同相信号(In-phase signal)及び直交信号(Quadrate signal)を用いて構成される受信信号を生成する。直交検波部15は、生成された受信信号のうち、同相信号をA/D変換部16に出力し、直交信号をA/D変換部17に出力する。
【0069】
A/D変換部16は、直交検波部15から出力されたベースバンドの同相信号を離散時刻k
Rx毎にサンプリングし、アナログデータの同相信号をデジタルデータに変換する。A/D変換部16は、変換されたデジタルデータの同相信号成分を、相関値演算部18に出力する。
【0070】
A/D変換部16は、レーダ送信部Txにより生成される送信信号r(k
Tx、M)の1つのパルス幅(パルス時間)Tp(=Tw/L)あたりNs[個]をサンプリングする。即ち、A/D変換部16のサンプリングレートは(Ns×L)/Tw=Ns/Tpとなる。
【0071】
同様に、A/D変換部17は、直交検波部15から出力されたベースバンドの直交信号を離散時刻k
Rx毎にサンプリングし、アナログデータの直交信号をデジタルデータに変換する。A/D変換部17は、変換されたデジタルデータの直交信号成分を、相関値演算部18に出力する。
【0072】
A/D変換部17は、レーダ送信部Txにより生成される送信信号r(k
Tx、M)の1つのパルス幅(パルス時間)Tp(=Tw/L)あたりNs[個]をサンプリングする。即ち、A/D変換部17のサンプリングレートはNs/Tpとなる。
【0073】
以下、A/D変換部16,17により変換された第M番目の送信周期Trの離散時刻k
Rxにおける受信信号を、受信信号の同相信号成分Ir(k
Rx、M)及び受信信号の直交信号成分Qr(k
Rx、M)を用いて、数式(2)の複素信号x(k
Rx、M)として表す。
【0075】
なお、以下では離散時刻k
Rxは、各レーダ送信周期Trが開始するタイミングを基準(k
Rx=1)とし、信号処理部12は、レーダ送信周期Trが終了する前までのサンプル点であるk=(Nr+Nu)×(Ns/No)までの動作を周期的におこなう。すなわち、信号処理部12は、離散時刻k
Rx=1〜(Nr+Nu)×(Ns/No)において周期的に動作する。離散時刻k
Rx=Nr×(Ns/No)は、各送信周期Trにおける送信区間Twの終了直前時点を示す。以下、A/D変換部16,17から出力されたデジタルの受信信号x(k
Rx、M)を離散サンプル値x(k
Rx、M)という。
【0076】
相関値演算部18は、A/D変換部16,17から出力された各離散サンプル値Ir(k
Rx、M),Qr(k
Rx、M)、即ち受信信号としての離散サンプル値x(k
Rx、M)を入力する。相関値演算部18は、リファレンス信号を所定倍に逓倍された受信基準クロック信号に基づいて、離散時刻k
Rx毎に、
図6の第1段に示す各送信周期Trにおいて送信される符号長Lの送信符号C
nを周期的に生成する。nは1〜Lであり、Lは符号系列C
nの符号長を表す。
図6の第1段は、レーダ送信信号の送信タイミングを表す。
【0077】
相関値演算部18は、入力された離散サンプル値x(k
Rx、M)と、送信符号C
nとのスライディング相関値AC(k
Rx,M)を演算する。AC(k
Rx,M)は、離散時刻k
Rxにおけるスライディング相関値を表す。
【0078】
具体的には、相関値演算部18は、
図6の第2段に示す各送信周期Tr、即ち各離散時刻k
Rx=1〜(Nr+Nu)×(Ns/No)に対して、数式(3)に従ってスライディング相関値AC(k
Rx,M)を演算する。相関値演算部18は、数式(3)に従って演算された離散時刻k
Rx毎のスライディング相関値AC(k
Rx,M)をコヒーレント積分部19に出力する。
【0079】
図6の第2段及び第3段は、レーダ送信信号に対する受信タイミングを表す。
図6の第2段では、レーダ送信信号の送信開始時から遅延時間τ
1の経過後にアレーアンテナにおいて受信信号が受信された場合の測定期間の範囲が示されている。
図6の第3段では、レーダ送信信号の送信開始時から遅延時間τ
2の経過後にアレーアンテナにおいて受信信号が受信される場合の測定期間の範囲が示されている。遅延時間τ1及びτ2は、それぞれ数式(4)及び(5)により示される。
【0083】
相関値演算部18は、本実施形態を含む各実施形態において、離散時刻k
Rx=1〜(Nr+Nu)×(Ns/No)において演算する。なお、相関値演算部18は、レーダ装置1の測定対象となるターゲットTARの存在範囲に応じて、測定レンジ、即ち離散時刻k
Rxの範囲を限定してもよい。これにより、レーダ装置1は、相関値演算部18の演算量を更に低減できる。
【0084】
即ち、レーダ装置1は、信号処理部12における演算量の削減に基づく消費電力量を更に低減できる。
【0085】
また、レーダ装置1は、相関値演算部18が離散時刻k
Rx=Ns(L+1)〜(Nr+Nu)×(Ns/No)−NsLの範囲におけるスライディング相関値AC
s(k
s,m
s)を演算する場合には、レーダ送信信号の送信区間Twにおける反射波信号の測定を省略できる。
【0086】
レーダ装置1は、レーダ送信信号がレーダ受信部Rxに直接的に回り込んだとしても、回り込みによる影響を排除して測定できる。また、測定レンジ(離散時刻k
Rxの範囲)を限定する場合、コヒーレント積分部19、相関行列生成部20、距離推定部21及び到来方向推定部23も、同様の限定された測定レンジにおいて動作するため、各部の処理量を削減でき、レーダ装置1における消費電力を低減できる。
【0087】
コヒーレント積分部19は、相関値演算部18から出力された離散時刻k
Rx毎のスライディング相関値AC(k
Rx,M)を入力する。コヒーレント積分部19は、第M番目の送信周期Trにおいて離散時刻k
Rx毎に演算されたスライディング相関値AC(k
Rx,M)を基に、所定回数(Np回)の送信周期Trの期間(Np×Tr)にわたってスライディング相関値AC(k
Rx,M)を加算する。
【0088】
具体的には、コヒーレント積分部19は、所定回数(Np回)の送信周期Trの期間(Np×Tr)にわたるスライディング相関値AC(k
Rx,M)の離散時刻k
Rx毎の加算により、第m番目のコヒーレント積分値CI(k
Rx,m)を、離散時刻k
Rx毎に数式(6)に従って演算する。Npは、コヒーレント積分部19におけるコヒーレント積分回数を表す。mは、各アンテナ系統処理部のコヒーレント積分部のコヒーレント積分回数Npを1個の単位とした場合におけるコヒーレント積分回数の序数を表す。コヒーレント積分部19は、演算されたコヒーレント積分値CI(k
Rx,m)を相関行列生成部20に出力する。
【0090】
コヒーレント積分部19は、スライディング相関値AC(k
Rx,M)のNp回の加算によりターゲットTARからの反射波信号が高い相関を有する範囲において、反射波信号に含まれる雑音成分を抑圧し、反射波信号の受信品質(SNR:Signal to Noise Ratio)を改善できる。更に、コヒーレント積分部19は、反射波信号の受信品質を改善できるので、ターゲットTARの到来方向の推定精度を向上できる。
【0091】
相関行列生成部20は、各アンテナ系統処理部10,10a,10b,10cのコヒーレント積分部から出力された各コヒーレント積分値CI
1(k
Rx,m),…,CI
4(k
Rx,m)を入力する。相関行列生成部20は、入力された各コヒーレント積分値を基に、ターゲットTARからの反射波信号の受信アンテナ間の位相差を検出するために、離散時刻k
Rx毎に相関行列H(k
Rx,m)を生成する。相関行列H(k
Rx,m)は数式(7)に従って生成される。数式(7)において、上付き添え字Hは、複素共役転置を表す演算子である。
【0093】
更に、相関行列生成部20は、Nf回の送信周期Trの期間(Nf×Tr)にわたって、Dp個の相関行列を、数式(8)に従って加算平均した相関行列B(k
Rx)を演算する。
【0095】
Dpは、Nf回の送信周期Trの期間(Nf×Tr)にわたって相関行列生成部20により加算平均される相関行列の個数を表し、数式(9)を満たす。相関行列生成部20は、加算平均された相関行列B(k
Rx)を到来方向推定部23に出力する。
【0097】
なお、相関行列生成部20は、数式(7)の代わりに数式(10)を用いて、複数のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10cのうちいずれかのアンテナ系統処理部の受信アンテナにて受信された信号の位相を基準位相として、相関ベクトルを演算してもよい。数式(10)において、上付き添え字のアスタリスク(*)は、複素共役演算子を表す。これにより、レーダ装置1は、相関行列生成部20の演算量を低減し、ターゲットTARからの反射波信号の受信アンテナ間の位相差を簡易に演算できる。
【0099】
距離推定部21は、各アンテナ系統処理部10,10a,10b,10cのコヒーレント積分部から出力された各コヒーレント積分値CI
1(k
Rx,m),…,CI
4(k
Rx,m)を入力する。距離推定部21は、入力された各コヒーレント積分値を基に、複数のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10cからの各コヒーレント積分値の自乗加算値RP(k
Rx)を、数式(11)に従って演算する。
【0101】
数式(11)において、自乗加算値RP(k
Rx)は、離散時刻k
Rx毎のターゲットTARからの反射波信号の信号レベルに相当する。距離推定部21は、自乗加算値RP(k
Rx)がレーダ装置1の周囲雑音レベルから所定値以上となる場合の離散時刻k
Rxを選択し、選択された離散時刻k
Rxを基に、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)を、数式(12)に従って演算する。数式(12)において、Coは光速度、f
RxBBは受信基準クロック周波数を表す。距離推定部21は、演算されたターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)を到来方向推定部23に出力する。
【0103】
方向ベクトル記憶部22は、設置高H
antの位置に設置されたレーダ装置1がターゲットTARの到来方向を推定する方位角及び仰角の範囲内を、それぞれ所定のNU個及びNV個の領域にて2次元的に分割した場合のアレーアンテナの複素応答を記憶する。本実施形態では、アレーアンテナの複素応答は、到来方向を推定する方位角及び仰角の範囲内を2次元的に分割した場合の方位角成分θ
uと仰角成分φ
vとを含む方向ベクトルD(θ
u,φ
v)である。uは1以上NU以下の整数であり、vは1以上NV以下の整数である。NU,NVは、レーダ装置1の測定エリアに応じて決定された所定数である。
【0104】
アレーアンテナの複素応答は、例えば電波暗室において予め測定され、アレーアンテナ間のアンテナ素子間隔にて幾何学的に演算される位相差情報に加え、アレーアンテナ間のアンテナ素子間の結合、並びに振幅及び位相の各誤差を含む偏差情報を含む。
【0105】
到来方向推定部23は、相関行列生成部20から出力された相関行列B(k
Rx)、距離推定部21から出力されたターゲットまでの距離Range(k
Rx)を入力する。到来方向推定部23は、入力された相関行列B(k
Rx)及びターゲットまでの距離Range(k
Rx)並びに方向ベクトル記憶部22に記憶されている方向ベクトルD(θ
u,φ
v)を基に、ターゲットTARの到来方向を推定する。
【0106】
到来方向推定部23の動作を、
図1及び
図7を参照して説明する。
図7は、第1の実施形態の到来方向推定部23の動作を説明するフローチャートである。
【0107】
図7において、到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxを、レーダ装置1における測定期間の開始時とする(S11)。到来方向推定部23は、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)と、レーダアンテナRAの設置高H
antと、レーダアンテナRAの仰角方向の傾角φ
0とを基に、ターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)を演算する(S12)。ターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)は、数式(13)により演算される。
【0109】
φ(k
Rx)は、レーダアンテナRAの傾角(φ
0)の方向を基準とした場合のレーダアンテナRAからターゲットTARの底部への仰角を表す。φ
bは、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)と設置高H
antとにより幾何学的に定まるターゲットTARの底部とレーダアンテナRAとの角度を表し、数式(14)により演算される。ここで、φ
b>0、φ
0≧0とする。
【0111】
到来方向推定部23は、方向ベクトル記憶部22に記憶されている方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうち仰角成分を、ステップS12において演算されたターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)に固定する。到来方向推定部23は、方位角成分を可変とする方向ベクトルD(θ
u,φ(k
Rx))を用いて、ターゲットTARの到来方向の評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]を、数式(15)に従って演算する(S13)。
【0113】
なお、評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]は、到来方向推定アルゴリズムによって種々知られており、本実施形態を含む各実施形態では、例えば下記参考非特許文献1において開示されているアレーアンテナを用いたビームフォーマ法の評価関数値を用いる。数式(15)において、上付き添え字Hは、エルミート転置演算子である。他に、Capon法又はMUSIC法を用いてもよい。
【0114】
(参考非特許文献1)JAMES A. Cadzow、「Direction of Arrival Estimation Using Signal Subspace Modeling」、Aerospace and Electronic Systems,IEEE Transactions on Vol.28, Issue:1、pp.64−79(1992)
【0115】
到来方向推定部23は、ステップS13において演算された評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]が最大値となる場合の方位角成分θ
uを、数式(16)に従って演算する。到来方向推定部23は、評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]が最大値となる場合の方位角成分θ
uを、ターゲットTARの到来方向DOA(k
Rx)と判定する(S14)。数式(16)において、arg max P(x)は、関数値P(x)が最大となる定義域の値を出力値とする演算子である。
【0117】
到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxがレーダ装置1の測定期間の終了時である場合に動作を終了する(S15、YES)。一方、到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxがレーダ装置1の測定期間の終了時でない場合には(S15、NO)、離散時刻k
Rxをインクリメントし(S16)、次の離散時刻k
RxにおいてステップS12〜S14を繰り返す。
【0118】
以上により、本実施形態のレーダ装置1は、方位角成分の演算に比べ、比較的に正確に測定できるターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)を先ず演算し、方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうちの仰角成分を決定(固定)する。更に、レーダ装置1は、同仰角成分を固定とし、方位角成分を可変とする方向ベクトルD(θ
u,φ(k
Rx))を用いて到来方向推定のための評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]を演算し、最大値となる評価関数値を与える場合の方位角成分を、ターゲットTARの到来方向と判定する。
【0119】
これにより、レーダ装置1は、ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定するための演算量を低減し、方位角方向θ及び仰角方向φに依存し且つ受信アンテナ素子間において生じる振幅及び位相の偏差情報を用いて到来方向を推定するため、到来方向の推定精度を向上できる。
【0120】
なお、本実施形態ではレーダ送信部Txが1個の送信アンテナTx−antを有するとしたが、レーダ送信部Txがレーダ受信部Rxと同様に複数の送信アンテナを含む構成であるアレーアンテナを有してもよい。レーダ送信部Txは、アレーアンテナを用いてレーダ送信信号の指向性を可変できる。
【0121】
到来方向推定部23は、方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうち、レーダ送信信号の指向性に応じて決定された所定の方位角成分又は仰角成分の範囲を基に、評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]の最大値を演算し、最大値となる評価関数値における方向ベクトルの方位角成分を、到来方向として判定する。これにより、レーダ装置1のレーダ受信部3における演算量を更に低減できる。なお、レーダ送信部Txがレーダ受信部Rxと同様に複数の送信アンテナを含む構成であるアレーアンテナを有してもよいことは、以下の各実施形態においても同様に適用できる。
【0122】
(第1の実施形態の変形例)
なお、第1の実施形態ではレーダ送信部Txが1個の送信アンテナTx−antを有するとしたが、レーダ送信部Txが複数の送信アンテナを有し、いずれかのアンテナに切り換えても良い。
図15は、第1の実施形態の変形例のレーダ装置1mの内部構成を詳細に示すブロック図である。
【0123】
図15に示すレーダ装置1mは、
図3に示すレーダ送信部Txの構成において、2つの送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2、アンテナ切換部Ancg、及びアンテナ切換制御部Anctを更に付加した構成を有する。アンテナ切換制御部Anctは、複数の送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2のどちらかを択一的に選択するための切換制御信号を出力する。
【0124】
アンテナ切換部Ancgは、アンテナ切換制御部Anctからの切換制御信号を基に、レーダ送信信号を送信するアンテナを切り換える。ここで、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2は、
図16に示すレーダ送信信号のメインビーム方向の垂直面の俯角が異なり、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2において異なる距離範囲を検知範囲とする。ここで、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2は、異なる垂直面のビーム幅を持たせても良い。
【0125】
到来方向推定部23は、方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうち、アンテナ切換制御部Anctからの切換制御信号を基に、レーダ送信信号を送信する送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2に応じた異なる距離範囲の仰角成分の範囲を基に、評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]の最大値を演算し、最大値となる評価関数値における方向ベクトルの方位角成分を、到来方向として判定する。これにより、レーダ装置1mのレーダ受信部Rxmにおける演算量を更に低減できる。
【0126】
なお、レーダ送信部Txがレーダ受信部Rxmと同様に複数の送信アンテナを含む構成であるアレーアンテナを有しても良いことは、以下の各実施形態においても同様に適用できる。
【0127】
(第2の実施形態)
図8は、近距離に存在するターゲットTARの高さに応じて、方向ベクトルの仰角成分が異なり到来方向の推定精度が劣化する可能性を説明するための図である。レーダ装置から比較的近距離に存在するターゲットTARの高さ(地上高)が高いと、ターゲットTARの頂部からの反射波信号とターゲットTARの底部からの反射波信号とによりそれぞれ演算されたターゲットTARまでの距離の差異を考慮する必要がある。
【0128】
従って、レーダ装置の距離推定誤差が発生し易くなり、仰角方向φに依存し且つ受信アンテナ素子間において生じる振幅及び位相の偏差情報を正しく用いることなく到来方向を推定するため、ターゲットTARの到来方向の推定精度も劣化する。
【0129】
本実施形態では、到来方向推定部は、距離推定部により演算されたターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)を用いて、ターゲットTARの地上高H
targetを考慮してターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を演算する(
図9参照)。
図9は、第2の実施形態におけるレーダ装置のレーダアンテナの傾角(φ
0)方向の直線と、ターゲットに対する仰角φ(k
Rx)との説明図である。
【0130】
本実施形態のレーダ装置の構成は第1の実施形態のレーダ装置1と同様であるため、本実施形態のレーダ装置の構成の説明は省略し、第1の実施形態のレーダ装置1と異なる動作に関して説明する。なお、以下の説明では、第1の実施形態のレーダ装置1の各部の参照符号を便宜的に用いる。
【0131】
本実施形態の到来方向推定部23の動作を、
図9及び
図10を参照して説明する。
図10は、第2の実施形態の到来方向推定部23の動作を説明するフローチャートである。
【0132】
図10において、到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxを、レーダ装置1における測定期間の開始時とする(S21)。到来方向推定部23は、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)と、レーダアンテナRAの設置高H
antと、想定されるターゲットTARの地上高H
targetと、レーダアンテナRAの仰角方向の傾角φ
0とを基に、ターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)を演算する(S22)。ターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)は、数式(17)に示す範囲となる。
【0134】
φ(k
Rx)は、レーダアンテナRAの傾角(φ
0)の方向を基準とした場合のレーダアンテナRAからターゲットTARの底部への仰角から、レーダアンテナRAの傾角(φ
0)の方向を基準とした場合のレーダアンテナRAからターゲットTARの頂部への仰角までの範囲を表す。φ
bは、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)と設置高H
antとにより幾何学的に定まり、ターゲットTARの底部とレーダアンテナRAとの仰角を表し、数式(14)により演算される。
【0135】
φ
btは、ターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)と設置高H
antとターゲットTARの地上高H
targetとにより幾何学的に定まり、ターゲットTARの底部とレーダアンテナRAとの仰角を表し、数式(14)により演算される。
【0137】
到来方向推定部23は、方向ベクトル記憶部22に記憶されている方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうち仰角成分を、ステップS22において演算されたターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)の範囲において可変する。到来方向推定部23は、設定された仰角成分範囲と、方位角成分範囲を可変とする方向ベクトルD(θ
u,φ(k
Rx))を用いて、ターゲットTARの到来方向の評価関数値P(D(θ
u,φ(k
Rx),k
Rx)を、数式(15)に従って演算する(S23)。評価関数値P(D(θ
u,φ(k
Rx),k
Rx)は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0138】
到来方向推定部23は、ステップS23において演算された評価関数値P(D(θ
u,φ(k
Rx),k
Rx)が最大値となる場合の方位角成分θ
uを、数式(16)に従って演算する。到来方向推定部23は、評価関数値P(D(θ
u,φ(k
Rx),k
Rx)が最大値となる場合の方位角成分θ
uを、ターゲットTARの到来方向DOA(k
Rx)と判定する(S24)。
【0139】
到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxがレーダ装置1の測定期間の終了時である場合に動作を終了する(S25、YES)。一方、到来方向推定部23は、離散時刻k
Rxがレーダ装置1の測定期間の終了時でない場合には(S25、NO)、離散時刻k
Rxをインクリメントし(S26)、次の離散時刻k
RxにおいてステップS22〜S24を繰り返す。
【0140】
以上により、本実施形態のレーダ装置1は、距離推定部により演算されたターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)を用いて、想定されるターゲットTARの地上高H
targetを考慮してターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を演算する。レーダ装置1は、ターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を用いて、第1の実施形態と同様にターゲットTARの到来方向を推定する。
【0141】
これにより、本実施形態のレーダ装置1は、第1の実施形態の効果に加え、ターゲットTARの地上高H
targetを考慮してターゲットTARの到来方向を推定できる。即ち、本実施形態のレーダ装置1は、第1の実施形態のレーダ装置1に比べて、近距離にターゲットTARが存在する場合でも、仰角方向φに依存し且つ受信アンテナ素子間において生じる振幅及び位相の偏差情報を正しく用いて到来方向を推定するため、ターゲットTARの到来方向の推定精度を向上できる。
【0142】
また、到来方向推定部23は、予め想定されるターゲットTARの地上高H
targetの最大値を基に、評価関数値の仰角成分、即ちターゲットTARに対する仰角φ(k
Rx)の範囲を可変させて評価関数値の最大値を演算してもよい。これにより、到来方向推定部23は、ターゲットTARの地上高H
targetを予め想定された範囲を用いることができ、評価関数値の演算量を更に低減できる。
【0143】
また、到来方向推定部23は、ターゲットTARの距離レンジ、即ちレーダアンテナRAからの距離に応じて、ターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)を可変させて評価関数値の最大値を演算してもよい(
図11参照)。
図11は、距離レンジに応じて決定される評価関数値の仰角成分の範囲の説明図であり、
図11(a)は近距離に存在するターゲットであり、
図11(b)は遠距離に存在するターゲットである。
【0144】
図11(a)に示す例では、到来方向推定部23は、ターゲットTARがレーダアンテナRAから近距離に存在するので、ターゲットTARがレーダアンテナRAから遠距離に存在する場合に比べて、ターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を比較的広めにとる。
図11(b)に示す例では、到来方向推定部23は、ターゲットTARがレーダアンテナRAから遠距離に存在するので、ターゲットTARがレーダアンテナRAから近距離に存在する場合に比べて、ターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を比較的狭めにとる。
【0145】
これにより、到来方向推定部23は、レーダアンテナRAからターゲットTARまでの距離Range(k
Rx)に応じて、ターゲットTARに対する仰角成分φ(k
Rx)の範囲を可変でき、評価関数値の演算量を更に低減できる。なお、到来方向推定部23は、レーダアンテナRAからターゲットTARまでの距離が所定の閾値を超えている場合には、ターゲットTARは遠距離に存在すると判定し、所定の閾値未満である場合にはターゲットTARは近距離に存在すると判定してもよい。
【0146】
(第3の実施形態)
第1又は第2の実施形態では、方向ベクトル記憶部22に記憶されている方向ベクトルD(θ
u,φ
v)は予め電波暗室において測定及び演算されており固定値であった。本実施形態では、第1又は第2の実施形態の距離及び到来方向を推定する動作状態を測定モードとし、方向ベクトルを測定して更新する動作状態をキャリブレーションモードとし、いずれかのモードに切り換える。
【0147】
図12は、第3の実施形態のレーダ装置1sの内部構成を詳細に示すブロック図である。本実施形態のレーダ装置1sの構成のうち第1の実施形態のレーダ装置1と同一の部分には同一の参照符号を付し、同一の部分の説明は省略し、第1の実施形態のレーダ装置1と異なる動作に関して説明する。
【0148】
レーダ装置1sは、第1又は第2の実施形態のレーダ装置1と同様に、地面GNDから所定の高さH
antの位置に設置されている。
図12に示すレーダ装置1sは、基準信号発振器Lo、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxsを含む構成である。レーダ送信部Txの構成は第1又は第2の実施形態のレーダ送信部Txと同一のため、説明を省略する。基準信号発振器Loは、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxsに接続され、基準信号発振器Loからの信号をレーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxsに共通に供給することにより、レーダ送信部Tx及びレーダ受信部Rxsの処理を同期させる。
【0149】
レーダ受信部Rxsは、4個のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10c、モード制御部24、切換部25、方向ベクトル演算部26、相関行列生成部20s、距離推定部21s、方向ベクトル記憶部22s及び到来方向推定部23sを有する構成である。
図12に示すレーダ受信部Rxsは4個のアンテナ系統処理部を有しているが、アンテナ系統処理部の個数は4個に限定されず2個以上であればよい。
【0150】
モード制御部24は、ターゲットTARの距離及び到来方向を推定する測定モードと、方向ベクトルを測定して更新するキャリブレーションモードとのうちいずれかのモードへの切換信号を切換部25に出力する。キャリブレーションモードでは、キャリブレーション用のターゲットTARが既知の位置の点Z(距離R
cal)に配置され、点Zの方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calにおける方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)が測定される。更に、キャリブレーションモードでは、既に方向ベクトル記憶部22に記憶されている点Zの方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calにおける方向ベクトルD(θ
u,φ
v)が、測定された方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)に更新される。
【0151】
キャリブレーションモードでは、モード制御部24は、既知の位置の点Z(距離R
cal)に配置されたキャリブレーション用のターゲットTARに対して、点Zの方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calにおける方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)を測定させる制御信号を方向ベクトル演算部26に出力する。方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)を測定させる制御信号には、離散時刻k
cal、方位角成分θ
cal及び仰角φ
calの各情報が含まれている。モード制御部24は、既知の位置の点Z(距離R
cal)において測定された方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)を方向ベクトル記憶部22sに更新させる制御信号を方向ベクトル演算部26に出力する。
【0152】
切換部25は、モード制御部24から出力された切換信号に応じて、複数のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10cからの各コヒーレント積分値の出力先を、相関行列生成部20s又は方向ベクトル演算部26sに切り換える。具体的には、切換部25は、測定モードでは複数のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10cからの各コヒーレント積分値を相関行列生成部20sに出力する。切換部25は、キャリブレーションモードでは複数のアンテナ系統処理部10,10a,10b,10cからの各コヒーレント積分値を方向ベクトル演算部26に出力する。
【0153】
方向ベクトル演算部26は、点Z(距離R
cal)に配置されたキャリブレーション用のターゲットTARにおいて、モード制御部24から出力された制御信号を基に、離散時刻k
cal、方位角成分θ
cal及び仰角φ
calにおける基準アンテナに対する位相差情報である方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)を、数式(19)に従って演算する。なお、方向ベクトル演算部26は、測定モードでは動作を停止する。
【0155】
数式(19)において、Raは、基準アンテナの番号を表し、複数の受信アンテナRx−ant1〜Rx−ant4のうちいずれかである。Ncalは、キャリブレーションモードが行われる送信周期(Ncal×Tr)の個数を表す。更に、数式(19)の上付き添え字のアスタリスク(*)は、複素共役演算子を表す。
【0156】
方向ベクトル演算部26は、モード制御部24から出力された制御信号を基に、方向ベクトル記憶部22sに記憶されている方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calにおける方向ベクトルD(θ
cal,φ
cal)を、離散時刻
kcalに演算された方向ベクトルD
cal(θ
cal,φ
cal)に更新する。モード制御部24は、既知の位置の点Z(距離R
cal)に配置されたキャリブレーション用のターゲットTARに対して、点Zの方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calを所定間隔毎に可変させて、レーダ装置1sの測定エリアにおいてキャリブレーション、即ち方向ベクトルの更新を切換部25及び方向ベクトル演算部26に行わせる。
【0157】
以上により、本実施形態のレーダ装置1sは、測定モードでは第1又は第2の実施形態のレーダ装置1と同様に動作する。レーダ装置1sは、キャリブレーションモードでは既知の位置の点Z(距離R
cal)に配置されたキャリブレーション用のターゲットTARに対して、点Zの方位角成分θ
cal及び仰角成分φ
calを所定間隔毎に可変させて、レーダ装置1sの測定エリアにおいてキャリブレーションする。
【0158】
これにより、レーダ装置1sは、第1又は第2の実施形態の効果に加え、レーダ装置1sが設置されている環境下において、測定モードとキャリブレーションモードとを簡単に切り換えることができる。更に、レーダ装置1sは、キャリブレーションモードでは方向ベクトル記憶部22sに記憶されている方位角成分及び仰角成分に対応した方向ベクトルを更新できる。従って、レーダ装置1sは、アレーアンテナ(複数の受信アンテナ)間の偏差(振幅、位相の偏差)が経時変化によって生じた場合でも方向ベクトルを補正でき、レーダ装置1sの到来方向の推定精度の経時劣化を防ぐことができる。
【0159】
(第3の実施形態の変形例)
なお、第3の実施形態ではレーダ送信部Txが1個の送信アンテナTx−antを有するとしたが、レーダ送信部Txが複数の送信アンテナを有し、いずれかのアンテナに切り換えても良い。
図17は、第3の実施形態の変形例のレーダ装置1nの内部構成を詳細に示すブロック図である。
【0160】
図17に示すレーダ装置1nは、
図12に示すレーダ送信部Txの構成において、2つの送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2、アンテナ切換部Ancg、及びアンテナ切換制御部Anctを更に付加した構成を有する。アンテナ切換制御部Anctは、複数の送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2のどちらかを択一的に選択するための切換制御信号を出力する。
【0161】
アンテナ切換部Ancgは、アンテナ切換制御部Anctからの切換制御信号を基に、レーダ送信信号を送信するアンテナを切り換える。ここで、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2は、
図16に示すレーダ送信信号のメインビーム方向の垂直面の俯角が異なり、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2において異なる距離範囲を検知範囲とする。ここで、送信アンテナTx−ant1及びTx−ant2は、異なる垂直面のビーム幅を持たせても良い。
【0162】
到来方向推定部23sは、方向ベクトルD(θ
u,φ
v)のうち、アンテナ切換制御部Anctからの切換制御信号を基に、レーダ送信信号を送信する送信アンテナTx−ant1,Tx−ant2に応じた異なる距離範囲の仰角成分の範囲を基に、評価関数値P[D(θ
u,φ(k
Rx)),k
Rx]の最大値を演算し、最大値となる評価関数値における方向ベクトルの方位角成分を、到来方向として判定する。これにより、レーダ装置1nのレーダ受信部Rxnにおける演算量を更に低減できる。
【0163】
以上、図面を参照して各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0164】
なお、本出願は、2011年12月2日出願の日本特許出願(特願2011−265020)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。