特許第6148631号(P6148631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148631
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】蓄電装置の放電開始時刻決定システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/35 20060101AFI20170607BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20170607BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   H02J7/35 K
   H02J3/38 130
   H02J3/32
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-27785(P2014-27785)
(22)【出願日】2014年2月17日
(62)【分割の表示】特願2013-185387(P2013-185387)の分割
【原出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-53846(P2015-53846A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕也
【審査官】 赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−233362(JP,A)
【文献】 特開2013−143816(JP,A)
【文献】 特開2009−050064(JP,A)
【文献】 特開2012−080748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/35
H02J 3/32
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電装置及び蓄電装置を備えた建物における蓄電装置の放電開始時刻決定システムであって、
前記太陽光発電装置の発電量及び前記建物の電力消費量を予測する予測手段と、
第1時刻以降第2時刻の前までの中価格帯と、第2時刻以降第3時刻の前までの高価格帯と、第3時刻以降翌日の第1時刻の前までの低価格帯と電力価格が異なっており、これらの切り替わり時刻が記憶された電力価格記憶手段と、
前記高価格帯の前記電力消費量から前記発電量を減算した高価格時必要量と前記蓄電装置の放電可能容量とを比較する第1比較手段と、
前記第1比較手段によって前記高価格時必要量が前記放電可能容量以上と算定された場合に前記第2時刻を放電開始時刻とし、前記高価格時必要量が前記放電可能容量未満と算定された場合に前記第1時刻以降前記第2時刻の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻とする放電開始時刻決定手段と
前記太陽光発電装置の発電量及び前記建物の電力消費量を計測する計測手段とを備え、
前記予測手段による予測は、前記計測手段による計測値に基づいて、比較対象とする期間の前記計測手段による計測値と同一又は類似する計測値が得られた別の建物における計測値に基づいて行われるものであって、前記同一又は類似の判断は、前記高価格時必要量に基づいて行われることを特徴とする蓄電装置の放電開始時刻決定システム。
【請求項2】
前記第1比較手段によって前記高価格時必要量が前記放電可能容量未満と算定された場合に、前記放電可能容量から前記高価格時必要量を減算した余裕放電量と前記中価格帯の前記電力消費量から前記発電量を減算した中価格時必要量とを比較する第2比較手段を備え、
前記放電開始時刻決定手段では、前記第2比較手段によって前記中価格時必要量が前記余裕放電量未満と算定された場合に前記第1時刻を放電開始時刻とし、前記中価格時必要量が前記余裕放電量以上と算定された場合に前記第1時刻より遅い前記第2時刻の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻とすることを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置の放電開始時刻決定システム。
【請求項3】
前記放電開始時刻決定手段による判定結果が、表示装置又は印刷装置に出力されることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電装置の放電開始時刻決定システム。
【請求項4】
前記放電開始時刻決定手段による判定結果が、前記蓄電装置の制御をおこなう制御装置に出力されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の蓄電装置の放電開始時刻決定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電装置と蓄電装置とを備えた建物において、蓄電装置を有効に活用するための蓄電装置の放電開始時刻決定システム、及び蓄電装置の放電開始時刻の決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光発電装置及び蓄電装置を備えた住宅を対象とした、電力料金の削減や電力負荷を平準化させることを目的とした蓄電装置の充放電制御が知られている(特許文献1−4など参照)。
【0003】
例えば、特許文献1の蓄電池充放電装置は、制約条件に基づいて蓄電地の最適な充放電スケジュールを演算する演算部と、過去の充放電パターンの中から類似した充放電スケジュールを抽出する抽出部とを備えている。そして、演算部と抽出部とで算定された複数の充放電スケジュールを表示部に表示させることによって、住人に選択肢が提供できる構成となっている。
【0004】
また、特許文献2には、小さな蓄電池を用いてピーク電力需要を削減することができるシステムが開示されている。この特許文献2では、ピーク電力需要が発生する昼間の時間帯に、太陽光発電装置による発電と蓄電池の放電とを併せて使用することで、ピーク電力需要を削減する構成としている。
【0005】
さらに、特許文献3,4には、過去の計測データを使用して蓄電装置の放電開始時刻を変化させた複数のシミュレーションを行い、比較的に長い期間で評価した場合に最適となる制御パターンを演算結果から選択する電力制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−268602号公報
【特許文献2】特開2003−79054号公報
【特許文献3】特許第4967052号公報
【特許文献4】特許第5232266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の蓄電池充放電装置では、最適な充放電スケジュールをシミュレーションするうえに、過去の充放電スケジュールから類似するパターンを抽出する処理も行うため、演算負荷が高い。また、複数の充放電スケジュールの選択肢が提供されることにはなるが、いずれを選択するかを利用者が判断しなければならない。
【0008】
また、特許文献2に開示されたシステムは、小さな容量の蓄電池でピーク電力需要を削減することはできるが、大きな容量の蓄電池が設置された場合に、有効に活用できるようなシステムにはなっていない。
【0009】
そこで、本発明は、少ない演算負荷で蓄電装置の有効活用に導くことが可能となるような蓄電装置の放電開始時刻決定システム、及び蓄電装置の放電開始時刻の決定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の蓄電装置の放電開始時刻決定システムは、太陽光発電装置及び蓄電装置を備えた建物における蓄電装置の放電開始時刻決定システムであって、前記太陽光発電装置の発電量及び前記建物の電力消費量を予測する予測手段と、第1時刻以降第2時刻の前までの中価格帯と、第2時刻以降第3時刻の前までの高価格帯と、第3時刻以降翌日の第1時刻の前までの低価格帯と電力価格が異なっており、これらの切り替わり時刻が記憶された電力価格記憶手段と、前記高価格帯の前記電力消費量から前記発電量を減算した高価格時必要量と前記蓄電装置の放電可能容量とを比較する第1比較手段と、前記第1比較手段によって前記高価格時必要量が前記放電可能容量以上と算定された場合に前記第2時刻を放電開始時刻とし、前記高価格時必要量が前記放電可能容量未満と算定された場合に前記第1時刻以降前記第2時刻の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻とする放電開始時刻決定手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記第1比較手段によって前記高価格時必要量が前記放電可能容量未満と算定された場合に、前記放電可能容量から前記高価格時必要量を減算した余裕放電量と前記中価格帯の前記電力消費量から前記発電量を減算した中価格時必要量とを比較する第2比較手段を備え、前記放電開始時刻決定手段では、前記第2比較手段によって前記中価格時必要量が前記余裕放電量未満と算定された場合に前記第1時刻を放電開始時刻とし、前記中価格時必要量が前記余裕放電量以上と算定された場合に前記第1時刻より遅い前記第2時刻の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻とする構成にすることができる。
【0012】
また、前記太陽光発電装置の発電量及び前記建物の電力消費量を計測する計測手段を備え、前記予測手段による予測は、前記計測手段による計測値に基づいて行われる構成とすることができる。
【0013】
さらに、前記予測手段による予測は、比較対象とする期間の前記計測手段による計測値と同一又は類似する計測値が得られた別の建物における計測値に基づいて行われる構成とすることができる。
【0014】
そして、前記放電開始時刻決定手段による判定結果が、表示装置又は印刷装置に出力される構成とすることができる。また、前記放電開始時刻決定手段による判定結果が、前記蓄電装置の制御をおこなう制御装置に出力される構成とすることもできる。
【0015】
また、蓄電装置の放電開始時刻の決定方法は、第1時刻以降第2時刻の前までの中価格帯と、第2時刻以降第3時刻の前までの高価格帯と、第3時刻以降翌日の第1時刻の前までの低価格帯と電力価格が異なっている場合に、太陽光発電装置及び蓄電装置を備えた建物における蓄電装置の放電開始時刻の決定方法であって、前記太陽光発電装置の発電量及び前記建物の電力消費量を予測する予測ステップと、前記高価格帯の前記電力消費量から前記発電量を減算した高価格時必要量と前記蓄電装置の放電可能容量とを比較する第1比較ステップと、前記第1比較ステップにおいて前記高価格時必要量が前記放電可能容量以上と算定された場合に前記第2時刻を放電開始時刻とし、前記高価格時必要量が前記放電可能容量未満と算定された場合に前記第1時刻以降前記第2時刻の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻とする放電開始時刻決定ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の蓄電装置の放電開始時刻決定システム及び蓄電装置の放電開始時刻の決定方法は、減算処理によって算出された電力価格が高い時間帯の高価格時必要量と蓄電装置の放電可能容量とを比較して、放電可能容量に余りが出る場合に放電開始時刻を早める。
【0017】
このため、減算という少ない演算負荷で、蓄電装置の放電可能容量を最大限に利用するという有効活用に導くことができる。
【0018】
また、上記比較に加えて、減算処理によって算出された電力価格が中間にある時間帯の中価格時必要量との比較を行うことで、より経済的な放電開始時刻を提案することができるようになる。
【0019】
さらに、計測手段によって実際にその建物で蓄積された計測値に基づいて予測を行うことで、建物の設備や断熱性能、住人の生活スタイル、季節、家族構成などが考慮された予測を行うことができるようになる。また、計測値が充分に蓄積されていない段階でも、同一又は類似する別の建物の計測値に基づいて予測を行うことで、予測精度を高めることができる。
【0020】
そして、放電開始時刻の判定結果を、端末モニタやパソコンの画面などの表示装置に出力させたり、プリンタやファクシミリなどの印刷装置に出力させたりすることで、利用者を容易に適切な放電に導くことができる。
【0021】
また、放電開始時刻の判定結果を蓄電装置の制御装置に出力させることで、自動的に適切な放電制御を行わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態の蓄電池の放電開始時刻決定システムの処理の流れを説明する説明図である。
図2】3つ以上の異なる電力価格が設定された料金体系を例示する説明図である。
図3】全体システムの構成を模式的に説明する説明図である。
図4】本発明の実施の形態の蓄電池の放電開始時刻決定システムの構成を説明するブロック図である。
図5】放電開始時刻決定システムが組み込まれた全体システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
図6】予測手段による予測結果を例示する一覧表である。
図7】放電開始時刻決定手段による判定結果の表示例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の蓄電装置としての蓄電池2の放電開始時刻決定システムの処理の流れを説明する説明図である。
【0024】
また、図2は、本放電開始時刻決定システムが適用される前提条件となる、3つ以上の異なる電力価格が設定された料金体系を例示する説明図である。さらに、図3は、本放電開始時刻決定システムが繋がる全体システムの構成を模式的に説明する説明図である。
【0025】
まず、図3を参照しながらシステムの全体構成について説明する。このシステムによって制御される建物としての住宅H1,・・・,HXは、電力会社の発電所や地域毎に設置されたコジェネレーション設備などの系統電力から電力の供給を受けるための電力網としての系統電力網に接続されている。
【0026】
また、これらの住宅H1,・・・は、太陽光発電装置としての太陽電池パネル1と、電力を一時的に蓄えておく蓄電装置としての蓄電地2とを備えている。さらに、これらの住宅H1,・・・は、インターネットなどの外部の通信網Nに繋がっている。そして、同じく通信網Nに接続された外部の管理サーバ5との間で、計測値や演算処理結果などのデータの送受信や制御信号の送受信などが行われる。
【0027】
図4は、図3に模式的に示した全体システムの詳細について、ブロック図で示した図である。この全体システムは、住宅側としての住宅H1に配置される構成と、サーバ側としての管理サーバ5に配置される構成とを有している。
【0028】
処理対象となる住宅H1は、太陽電池パネル1と、蓄電池2と、太陽電池パネル1の発電量及び住宅H1の電力消費量を計測する計測手段3と、表示装置としての表示モニタ4とを主に備えている。
【0029】
住宅H1に設置された太陽電池パネル1は、太陽エネルギーとしての太陽光を、太陽電池を利用することによって、直接、電力に変換して発電をおこなう装置である。
【0030】
この太陽電池パネル1は、太陽光を受けることができる時間帯にのみ電力を供給することが可能な装置である。また、太陽電池パネル1によって発電された直流電力は、通常、パワーコンディショナ(図示省略)によって交流電力に変換されて使用される。この住宅H1に設置された太陽電池パネル1の発電容量などの仕様は、管理サーバ5側の後述する邸情報データベース51に記憶される。
【0031】
一方蓄電池2も、太陽電池パネル1と同様にパワーコンディショナに接続されて、充電制御及び放電制御が行われる。例えば、蓄電池2には、系統電力網から供給される夜間電力などの電力価格が安い電力を充電する。この、蓄電地2の蓄電容量や定格出力などの仕様も、管理サーバ5側の邸情報データベース51に記憶される。
【0032】
なお住宅H1には、分電盤を通して電力が供給される様々な電力負荷装置が設置される。例えば、エアコンなどの空調装置、照明スタンドやシーリングライトなどの照明装置、冷蔵庫やテレビなどの家電装置などが電力によって稼働する電力負荷装置となる。
【0033】
また、電気自動車やプラグインハイブリッドカーは、走行させるために充電をおこなう場合は電力負荷装置となる。また、蓄電地2と同様に、住宅H1の電力負荷装置のために放電させる場合は、蓄電装置となる。
【0034】
計測手段3では、住宅H1に設置された太陽電池パネル1によって実際に発電された発電量が計測される。また、住宅H1に設置された電力負荷装置によって消費された電力消費量も計測される。この電力消費量は、分電盤でまとめて計測することもできるし、電力負荷装置毎に計測することもできる。
【0035】
計測手段3による計測は、秒単位、分単位、時間単位などの任意の間隔で行うことができる。また計測手段3によって計測された計測値は、計測毎又は時間単位や日単位など任意の期間で集計した毎に、管理サーバ5側の後述する計測値データベース52に記憶される。
【0036】
表示モニタ4には、計測手段3で計測された計測値や、管理サーバ5側の後述する放電開始時刻決定手段63による判定結果などを表示させる。この表示モニタ4は、専用の端末モニタであっても、パソコンなどの汎用機器の画面であってもいずれでもよい。
【0037】
そして、住宅H1と外部の通信網Nを介して接続される管理サーバ5側には、通信手段としての通信部71と、各種制御を行う制御部6と、記憶手段としての各種データベース(51,52,53)とが主に備えられている。
【0038】
通信部71は、住宅H1から送信されてくる各種設備の仕様、計測値、処理要求などを管理サーバ5の制御部6に流すとともに、各種データベース(51,52,53)に記憶されたデータ、制御部6で行われた演算処理結果、更新プログラムなどを住宅H1に向けて流す機能を有している。
【0039】
また、制御部6を通してデータの読み書きが行われる記憶手段には、邸情報データベース51、計測値データベース52、電力価格データベース53などの各種データベースが存在する。
【0040】
例えば邸情報データベース51には、各住宅H1,・・・,HXの邸コード(識別番号)、その邸コードに関連付けられた住所、建築年、断熱性能、間取り、電気配線、使用部材、太陽電池パネル1の仕様(発電容量(出力))、蓄電池2の仕様(蓄電容量、定格出力)などの情報が記憶される。
【0041】
また、計測値データベース52には、各住宅H1,・・・,HXで計測されて通信部71を介して管理サーバ5が受信した計測値のデータが記憶される。この計測値は、邸コードに関連付けて計測値データベース52に記憶させることで、いずれの住宅H1,・・・,HXで計測された結果であるかを識別させることができる。
【0042】
さらに、計測値データベース52に記憶されるデータは、住宅H1から送られてきたデータをそのまま記憶させることもできるが、制御部6で積算するなどの演算処理を行った結果を記憶させることもできる。
【0043】
一方、電力価格記憶手段としての電力価格データベース53には、系統電力を供給する電力会社等が設定する一日の時間によって変化する電力価格(住人側から見て買電価格)に関する情報が記憶される。
【0044】
本実施の形態の放電開始時刻決定システムが適用できる前提条件は、一日のうちで3つ以上の異なる電力価格が設定された料金体系の契約を行っていることである。
【0045】
例えば、図2に示した料金体系には、7時(第1時刻)以降10時の前までの朝の中価格帯、10時(第2時刻)以降17時の前までの昼間の高価格帯、17時以降23時の前までの晩の中価格帯、23時(第3時刻)以降翌日の7時(第1時刻)の前までの夜間の低価格帯という3種類の電力価格が設定されている。
【0046】
すなわち電力価格データベース53には、電力価格が切り替わる時刻と、各時間帯の電力価格が記憶されている。また、電力価格データベース53には、太陽電池パネル1で発電した電力を電力会社等が買い取る買取価格(住人側から見て売電価格)も記憶されている。
【0047】
そして、制御部6には、予測手段61と、第1比較手段621及び第2比較手段622を有する比較手段62と、放電開始時刻決定手段63とが設けられる。この制御部6に設けられる構成が、本実施の形態の蓄電池2の放電開始時刻決定システムの主要な構成となる。
【0048】
予測手段61は、蓄電池2の最適な放電開始時刻を決めたい日の太陽電池パネル1の発電量と、住宅H1の電力消費量とを予測する手段である。例えば、前日に翌日の発電量と電力消費量を予測することができる。また、任意の期間(1週間、10日間、1ヶ月間など)に適用する放電開始時刻を前日までに決定する場合には、それら任意の期間に該当する平均値などを予測させることもできる。
【0049】
予測手段61による予測は、計測手段3によって計測されて計測値データベース52に蓄積された計測値に基づいて行われる。なお、詳細な予測方法については後述する。
【0050】
そして、予測手段61によって予測された発電量及び電力消費量と、蓄電池2の放電可能容量Xとの比較を、比較手段62において行う。図1は、比較手段62の詳細を説明するための図である。
【0051】
蓄電池2の放電可能容量Xは、邸情報データベース51に記憶された値に基づいて算定することができる。通常は、蓄電池2の寿命を延ばすために、蓄電容量のすべてを放電させることはない。よって、図1に示した放電可能容量Xは、100%放電させることができるものとして設定された容量となる。
【0052】
また、図1の左側のグラフに図示した太陽光発電量と電力消費量の曲線は、予測手段61によって予測された発電量及び電力消費量を示している。まず、A,B,Cの面積で示される、各時間帯の系統電力網又は蓄電池2からの供給が必要な電力量を算出する。
【0053】
すなわち電力消費量が発電量を上回る場合は、系統電力網又は蓄電池2から電力の供給を受ける必要があるので、その電力量が各時間帯の必要量(A,B,C)となる。この必要量(A,B,C)は、電力消費量から太陽光発電量を減算して時間帯中の積算をすることによって算出することができる。なお、時間帯中のすべての時刻で太陽光発電量が電力消費量以上であった場合は、必要量は0となる。
【0054】
ここで、朝必要量Aは、夜間よりも電力価格が上がる7時以降10時の前までの朝の時間帯(中価格帯)における供給が必要な電力量を示している。また、昼必要量Bは、一日の中で最も電力価格が高い10時以降17時の前までの昼間の時間帯(高価格帯)における供給が必要な電力量を示している。
【0055】
さらに、晩必要量Cは、昼間よりも電力価格が下がる17時以降23時の前までの晩の時間帯(中価格帯)における供給が必要な電力量を示している。ここまでの演算が、図1の右側に示したフローチャートのステップS1に該当する。
【0056】
続いて、第1比較手段621によって、放電可能容量Xと昼間及び晩の必要量(B,C)との比較を行う(ステップS2)。すなわち第1比較手段621では、電力価格が最も高い昼間の時間帯の昼必要量Bと、それに続く晩の時間帯の晩必要量Cとの合計を、高価格時必要量(B+C)として放電可能容量Xと比較する。
【0057】
この比較の結果、放電可能容量Xでは高価格時必要量(B+C)の供給しかできない(B+C≧X)と判定された場合は、高価格帯に切り替わる10時を放電開始時刻として決定する(ステップS5)。
【0058】
これに対して、放電可能容量Xが高価格時必要量(B+C)を上回っている(B+C<X)と判定された場合は、第2比較手段622によって放電可能容量Xから高価格時必要量(B+C)を減算した余裕放電量Yを算出する(ステップS3)。
【0059】
そしてステップS4では、朝の時間帯の朝必要量Aを中価格時必要量として余裕放電量Yと比較する。この比較の結果、余裕放電量Yでは中価格時必要量(A)の供給しかできない(A≧Y)と判定された場合は、中価格帯である7時以降10時の前までのいずれかの時刻を放電開始時刻として決定する(ステップS6)。このステップS6では、8〜9時を放電開始時刻として決定している。
【0060】
これに対して、余裕放電量Yが中価格時必要量(A)を上回っている(A<Y)と判定された場合は、中価格帯に切り替わる7時を放電開始時刻として決定する(ステップS7)。
【0061】
次に、本実施の形態の蓄電池2の放電開始時刻決定システムが組み込まれるシステム全体の処理の流れを、図5を参照しながら説明する。
【0062】
まず、ステップS11では、住宅H1の計測手段3によって、太陽電池パネル1の発電量と住宅H1に設置されたすべての電力負荷装置の電力消費量である住宅H1の電力消費量とを計測する。
【0063】
ここで、蓄電池2のN月(当月)の最適放電開始時刻を判定する予測を行うには、少なくとも類否の比較対象とする期間(例えば1ヶ月間)にわたって計測値を蓄積させる。すなわちステップS11では、N-1月(前月)に住宅H1で計測された計測値を計測値データベース52に記憶させる。
【0064】
そして、この住宅H1が建築後13ヶ月以上経過していれば、住宅H1で実際に計測された1年前の計測値を使って、N月(当月)の予測を行うことができる。そこで、ステップS12では、住宅H1の過去1年分の計測値があるか否かの判定を行う。
【0065】
1年前のN-1月の計測値が蓄積されていた場合は、計測値データベース52から読み出して、前月(N-1月)の計測値と1年前のN-1月の計測値との比較を行う(ステップS13)。
【0066】
この比較の結果、前月(N-1月)の計測値と1年前のN-1月の計測値とが同一又は類似といえる範囲内であれば、1年前のN月の計測値をそのまま今年の当月(N月)の発電量と電力消費量の予測値として利用する(ステップS14)。
【0067】
これに対して、住宅H1が新築である場合や計測手段3を取り付けて間もない場合は、過去1年分の計測値が蓄積されていない。そこで、ステップS15で他邸との比較を行う。
【0068】
すなわち、図3に示したように、管理サーバ5には、処理対象としている住宅H1以外にも多くの住宅H2,・・・,HXが接続されている。そして、これらの住宅H2,・・・,HXにもそれぞれ計測手段3,・・・が設置されているので、計測値データベース52にはそれらの計測値が蓄積されている。
【0069】
そこで、住宅H2,・・・,HXで前月(N-1月)に計測された計測値の中から、処理対象となっている住宅H1の前月(N-1月)の計測値と同一又は類似する計測値が計測された住宅を類似邸として抽出する(ステップS16)。
【0070】
類似邸の抽出に際しては、昼必要量B、晩必要量C、朝必要量Aの順に類似する住宅を探索し、最も近い住宅を類似邸として抽出する。例えば類似邸として住宅H2が抽出されたとすると、住宅H2の過去1年分の計測値が蓄積されていれば、住宅H2の1年前のN月の計測値を住宅H1の今年の当月(N月)の発電量と電力消費量の予測値として利用する(ステップS17)。
【0071】
上述したステップS15〜S17までの処理は、ステップS13で前月(N-1月)の計測値と1年前のN-1月の計測値との比較を行った場合に、同一又は類似とは言えないと判定された場合にも行われる。
【0072】
以上のステップにおける処理が予測手段61による予測となる。そして、予測された住宅H1の今年のN月の発電量と電力消費量を使って、最適放電開始時刻の判定を行う(ステップS18)。
【0073】
図6に、予測手段61によって予測された太陽電池パネル1の発電量と電力消費量の予測値を例示した。すなわち図6の表の左から2列目には、住宅H1の今年のN月(当月)の電力消費量の平均値が予測値として時間毎に示されている。また、その隣の列には、太陽電池パネル1のN月(当月)の発電量の平均値が予測値として時間毎に示されている。
【0074】
ここで、最適放電開始時刻の判定の処理の流れについては、図1を使って既に説明した。すなわち時間毎に電力消費量から発電量を減算して、供給が必要な電力量(必要量)を算出する。なお、この図6に示した表では、図1と違って発電量が電力消費量を上回る時間はなかった。
【0075】
そして、算出された時間毎の必要量を各時間帯で積算して、朝必要量A(=2.21kWh)、昼必要量B(=5.16kWh)及び晩必要量C(=7.03kWh)をそれぞれ求める(図1のステップS1)。
【0076】
続いて上述したように第1比較手段621、第2比較手段622による比較を行って、最も適切となる放電開始時刻を判定する(図1のステップS2〜S7)。この図6に示した表の値に基づくと、放電可能容量Xが5.05kWhのときには、昼必要量B+晩必要量C=5.16kWh + 7.03kWh ≧ 5.05kWhとなって、放電開始時刻の判定結果は10時(ステップS2,ステップS5参照)となる。
【0077】
このようにして算出された判定結果は、図5のステップS19に示すように最適放電開始時刻として出力される。すなわち放電開始時刻決定手段63による判定結果は、図4に示すように、制御部6から通信部71を介して住宅H1の表示モニタ4に送られて表示される。
【0078】
図7は、表示モニタ4の表示結果の一例を示した図である。ここには、現在の蓄電池2の放電開始時刻(午前8時)と、蓄電池2の状態(良好)が示されるとともに、最も電力料金が安くなる放電開始時刻が「午前10時」であることが表示されている。
【0079】
そして、この表示モニタ4の表示を見た住人は、電力料金をできるだけ安くしたいと思えば、蓄電池2の放電開始時刻を午前10時に変更する設定を行うことができる。
【0080】
次に、本実施の形態の蓄電池2の放電開始時刻決定システムの作用について説明する。
【0081】
このように構成された本実施の形態の蓄電池2の放電開始時刻決定システムは、減算処理によって算出された電力価格が高い時間帯の高価格時必要量(B+C)と蓄電池2の放電可能容量Xとを比較して、放電可能容量Xに余りが出る場合に放電開始時刻を早める。
【0082】
このため、減算という少ない演算負荷で、蓄電池2の放電可能容量Xを最大限に利用するという有効活用に導くことができる。また、上記比較に加えて、減算処理によって算出された電力価格が中間にある時間帯の中価格時必要量(A)と余裕放電量Yとの比較を行うことで、より経済的な放電開始時刻を提案することができるようになる。
【0083】
すなわち、電力価格が安い時間帯(低価格帯)に蓄電池2の充電を行い、充電された電力を電力価格が高い時間帯(高価格帯)や中間となる時間帯(中価格帯)に放電して利用することで、住宅H1の電力料金を削減することができる。
【0084】
例えば、住人の生活スタイルが変化して、平日の朝の電力消費量が増加したり、休日の昼間の電力消費量が増加したりした場合は、最適放電開始時刻が変化する可能性がある。この他にも、季節、家族構成、電力価格の料金体系などが変化すると、最適放電開始時刻も変化する可能性がある。このため、時々又は定期的に最適放電開始時刻の見直しを行うことで、住宅H1の電力料金を削減できるようになる。そして、本実施の形態の蓄電池2の放電開始時刻決定システムによる判定結果は、住人の好適な判断材料となる。
【0085】
また、計測手段3によって実際にその住宅H1で蓄積された計測値に基づいて予測を行うことで、住宅H1の設備や断熱性能、住人の生活スタイル、季節、家族構成などが考慮された予測を行うことができるようになる。
【0086】
さらに、処理対象となる住宅H1において計測値が充分に蓄積されていない段階でも、同一又は類似する別の住宅H2,・・・,HXの計測値に基づいて予測を行うことで、予測精度を高めることができる。
【0087】
そして、放電開始時刻の判定結果を、端末モニタやパソコンの画面などの表示モニタ4に出力させたり、プリンタやファクシミリなどの印刷装置に出力させたりすることで、利用者を容易により適切な放電又は最適放電に導くことができる。
【0088】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0089】
例えば、前記実施の形態では、一日の中で3つの異なる電力価格が存在する料金体系を例に説明したが、これに限定されるものではない。前記実施の形態で説明した電力価格及び切り替わり時刻は例示であって、電力価格が変化する時刻や価格が異なる時間帯の数は、電力会社などの系統電力を供給する会社の経営方針やその時の政策などによって変化する。
【0090】
また、前記実施の形態では、管理サーバ5の通信部71を介して送信された放電開始時刻の判定結果を表示モニタ4に表示させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電子メールを介して携帯電話やパソコンの画面などに表示させることもできる。また、住人が所定のWebページを閲覧することで判定結果を知ることもできる。
【0091】
さらに、前記実施の形態では、住宅H1の計測手段3によって計測された計測値に基づいて予測を行う予測手段61ついて説明したが、これに限定されるものではなく、既存の統計資料などから得られる平均値などを予測値とすることもできる。
【0092】
また、前記実施の形態では、放電開始時刻決定手段63による判定結果を表示モニタ4に表示させるだけで、蓄電池2の設定変更は住人が行う場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、放電開始時刻の判定結果を蓄電池2の制御装置に出力させることで、自動的に最適な放電制御を行わせることもできる。
【0093】
そして、前記実施の形態では、蓄電地2の放電開始時刻決定システムについて説明したが、これに限定されるものではなく、演算装置などを部分的に使用した又はまったく使用しない蓄電装置の放電開始時刻の決定方法であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 太陽電池パネル(太陽光発電装置)
2 蓄電池(蓄電装置)
3 計測手段
4 表示パネル(表示装置)
52 計測値データベース(計測値記憶手段)
53 電力価格データベース(電力価格記憶手段)
61 予測手段
62 比較手段
621 第1比較手段
622 第2比較手段
63 放電開始時刻決定手段
H1 住宅(建物)
X 放電可能容量
Y 余裕放電量
A 中価格時必要量
B+C 高価格時必要量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7