【実施例】
【0050】
以下の実施例を本発明の具体的な実施形態の例として示すが、この例示によって本発明の範囲を限定することはない。
【0051】
(実施例1)
【0052】
(方法の概要)
【0053】
図1に本発明の方法のフローチャートの概略図を示す。凝固防止剤として3.8%(w/v)クエン酸三ナトリウム溶液を含む封入無菌容器/バッグにウシ全血を採取した。続いて、血液凝固を抑制するように、血液をすぐにクエン酸三ナトリウム溶液とよく混ぜた。アフェレーシスメカニズムを用いて、血漿やそのほかのより小さい血液細胞から赤血球(RBC)を分離し、採取した。この手順にはγ線滅菌使い捨て遠心分離ボウル「細胞洗浄機」を用いた。RBCを、同量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)生理食塩水で洗浄した。
【0054】
洗浄後RBCを溶解し、RBC細胞膜に低張性ショックを発生させることでヘモグロビンを放出させた。
図2に図示する、RBC溶解装置に特化した即時細胞溶解装置を、この目的のために用いた。RBC溶解の後、100kDa膜を用いた接線流限外濾過によってヘモグロビン分子を他のタンパク質から分離した。ろ液に含まれるヘモグロビンをフロースルーカラムクロマトグラフィー用に採取し、30kDa膜を用いて12−14g/dLまで濃縮した。カラムクロマトグラフィーは、タンパク質不純物を除去するために行った。
【0055】
濃縮されたヘモグロビン溶液は最初にDBSFと反応させて熱安定性架橋四量体型ヘモグロビン分子を形成した。続いて、最終処方及びパッケージングの前に90℃で30秒間、脱酸素化状態下で熱処理工程を行った。
【0056】
(実施例2)
【0057】
(時間及び制御低張溶解並びにろ過)
【0058】
ウシ全血を新しく採取し、冷温条件下(2〜10℃)で運搬された。細胞洗浄機を用いて、さらに0.65μmろ過を行って赤血球を血漿と分離した。0.9%生理食塩水で赤血球(RBC)ろ液を洗浄した後、ろ液を低張溶解で破壊した。低張溶解は、
図2に示す即時細胞溶解装置を用いて行った。即時細胞溶解装置は、細胞分解を補助するスタティックミキサを備えている。制御されたヘモグロビン濃度(12−14g/dL)を有するRBC懸濁液を、4つ分量の精製水と混合し、RBC細胞膜に低張性ショックを与えるようにした。低張性ショックの期間は不必要な白血球および血小板の溶解を避けるように制御した。低張液が即時細胞溶解装置のスタティックミキサ部分を2〜30秒間、又は赤血球を溶解するのに十分な時間だけ、好ましくは30秒間で通過する。ショックは、溶解物に高張バッファの1/10の量を、溶解物がスタティックミキサから排出される時に混合することで、30秒後に終了させた。用いられた高張液は、0.1Mリン酸塩緩衝液、7.4%NaCl、pH7.4であった。
図2の即時細胞溶解装置は、溶解物を毎時50〜1000リットル生成することができ、好ましくは、継続的に少なくとも毎時300リットル生成する。
【0059】
RBC溶解に続いて、赤血球の溶解物を0.22μmフィルタを用いてろ過してヘモグロビン溶液を得た。ポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)法及びHPLC(検出限界=1μg/ml)法を行ったが、ヘモグロビン溶液からそれぞれ白血球からの核酸及びリン脂質不純物は検出されなかった。一回目の100kDa限外濾過を行い、ヘモグロビンより高い分子量を有する不純物を除去した。続いてフロースルーカラムクロマトグラフィーを行い、さらにヘモグロビン溶液を精製した。続いて2回目の30kDa限外濾過を行い、ヘモグロビンより分子量の低い不純物の除去し、濃縮させた。
【0060】
(実施例3)
【0061】
(ストローマフリーヘモグロビン溶液のウイルス排除調査)
【0062】
本発明の製品の安全性を立証するために、(1)0.65μm透析濾過工程及び(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去性能を立証した。異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢症ウイルス及びウシパルボウイルス)を意図的にスパイクし、これらの2つの工程のダウンスケール版を行うことで証明した。この調査では、4種類のウイルス(表3を参照)を用いた。これらのウイルスは生物物理学上、及び構造上で異なり、物理及び化学の薬剤又は処置に対して異なる抵抗を示すものである。
【0063】
【表3】
【0064】
検証方法は以下表4に概略的に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
4つのウイルスにおける(1)0.65μm透析濾過及び(2)100kDa限外濾過の対数減少結果の概略を以下表5に示す。BVDV、BPV、EMCV及びPRVの4の全てのウイルスを、0.65μm透析濾過及び100kDa限外濾過で効果的に除去できた。
【0067】
【表5】
注釈:
≧ 残基感染性が認められず
【0068】
(実施例4)
【0069】
(フロースルーカラムクロマトグラフィー)
【0070】
CMカラム(GEヘルスケアより市販)を用いて、さらに任意のタンパク質不純物を除去した。開始緩衝液は20mM酢酸ナトリウム(pH8.0)、溶出緩衝液は20mM酢酸ナトリウム、2M NaCl(pH8.0)であった。CMカラムを開始緩衝液で平衡化した後、タンパク質サンプルをカラムに充填した。結合されていないタンパク質不純物を、少なくとも5カラム分の量の開始緩衝液で洗浄した。溶出を8カラム量の25%溶出緩衝液(0−0.5M NaCl)を用いて行った。溶出プロファイルは
図4に示すとおりである。ヘモグロビン溶液はフロースルー分画に含まれる。フロースルー分画の純度はELISAで分析した。結果は表6に示すとおりである。
【0071】
【表6】
【0072】
ヘモグロビン溶液が(溶出液ではなく)フロースルーCMカラムクロマトグラフィーにpH8で含まれるため、継続的な工業規模での運転に良いアプローチである。工業規模での運転において、最初の限外濾過セットアップをフロースルーCMカラムクロマトグラフィーシステムに直接接続し、フロースルーチューブを2回目の限外濾過セットアップに接続していてもよい。
図5に工業プロセスでの構成の概略を示す。
【0073】
(実施例5)
【0074】
(熱安定性架橋四量体型ヘモグロビンの調製)
【0075】
(5a)脱酸素条件下におけるDBSFとの架橋反応
【0076】
架橋反応は、脱酸素条件下、すなわち、0.1ppm未満の溶解酸素レベルにて行われた。ヘモグロビン溶液にDBSFを加えることで、高分子ヘモグロビンを生成することなく架橋四量体型ヘモグロビンを生成した。DBSF安定化手順を行うことで、ヘモグロビンの四量体型(65kDa)を安定化させ、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)に分離することを防止することができる。この実施形態では、ヘモグロビン対DBSFの分子比が1:2.5であるものを用いており、pHは8.6であった。このプロセスを雰囲気温度(15−25℃)にて3〜16時間にわたって不活性窒素環境下で行うことで、ヘモグロビンが酸化して生理的に不活性(0.1ppm未満の溶解酸素レベルで維持される)である鉄メトヘモグロビンが生成されることを防いだ。DBSF反応の完了具合は、HPLCを用いて残基DBSFを計測することで観察される。DBSF反応の歩留まりは高く、>99%である。β‐β架橋の生成はおよそ40%である。
【0077】
(5b)HTST熱処理工程
【0078】
高温短時間(HTST)処理装置を
図6に示す。HTST処理装置を用いた熱処理工程は架橋四量体型ヘモグロビンに対して行われる。この実施例において熱処理の条件は90℃で30秒〜3分間、好ましくは45〜60秒間であるが、上述のとおり他の条件を選択してもよく、装置を適宜変更してもよい。架橋ヘモグロビンを含み、任意で0.2%N−アセチルシステインを添加した溶液を、HTST処理装置(HTST熱交換器の第一部分を予熱し、90℃に保たれる)に流量1.0リットル/分で供給した、装置の第一部分での滞留時間は45〜60秒間であり、続いて溶液を同一流量で25℃に保たれた熱交換器の別の部分を通過させた。冷却に要する時間は15〜30秒であった。25℃に冷却後、0.2%〜0.4%の濃度のN−アセチルシステインを直ちに加えた。熱処理装置のセットアップは工業運転用に容易に制御可能である。二量体量を含む温度プロファイルを
図7に示す。ヘモグロビンが架橋されていないと、熱安定性を有することはなく、熱処理工程の後に沈殿物が生成される。沈殿物はその後、遠心分離又はろ過することで除去し、透明な溶液を得た。
【0079】
以下の表7に、免疫グロブリンG、アルブミン、炭酸脱水酵素などのタンパク質不純物及び望ましくない非安定化四量体又は二量体が熱処理工程の後に除去されていることを示す。免疫グロブリンG、アルブミン及び炭酸脱水酵素の量はELISA法によって計測し、二量体の量はHPLC法によって判定した。熱安定性架橋四量体型ヘモグロビンの純度はHTST熱処理工程後に非常に高く、98.0〜100%の範囲内であった。
【0080】
【表7】
【0081】
(5c)0.025〜0.2%NAC添加によるメトヘモグロビン生成の防止
【0082】
熱処理及び冷却の直後、約0.025〜0.2%の濃度のN−アセチルシステイン(NAC)を架橋四量体型ヘモグロビンに添加し、メトヘモグロビンの形成を防いだ。異なる時間間隔で、メトヘモグロビンの割合を共同酸素測定法(Co−oximetry法)で計測した。表8は、5カ月にわたるNAC添加後の架橋四量体型ヘモグロビンのメトヘモグロビンの割合を示している。表8に示す通り、熱処理後の架橋四量体型ヘモグロビンのメトヘモグロビンレベルは一定でありNAC添加後に非常に低く、1.8〜5.1%の範囲内であった。
【0083】
【表8】
【0084】
(実施例6)
【0085】
(パッケージング)
【0086】
本発明の製品が脱酸素化状態下では安定しているため、製品のパッケージングがガス透過率を最小限に抑えられることが重要である。静脈内投与用にカスタムデザインされた100mlの注入バッグは、0.4mmの厚さを有し、24時間毎及び室内温度環境下における酸素透過度が0.006〜0.132cm
3/100インチ
2である5層EVA/EVOHラミネート材料からなる。この特定の材料はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されるとおり)であり、生体内生物学的反応性試験及び物理化学試験を満たし、静脈内注射用途の容器を作成するのに適している(望まれる用途によって、この材料を用いて他の形態のパッケージングを形成してもよい)。一次パッケージングである注入バッグに加えて二次パッケージングであるアルミニウム包装パウチを適用することで、付加的バリアを提供し、光暴露及び酸素核酸を最小限に抑えることができる。パウチの層は、0.012mmのポリエチレンテレフタラート(PET)、0.007mmのアルミニウム(Al)、0.015mmのナイロン(NY)、及び0.1mmのポリエチレン(PE)からなる。オーバーラップフィルムは厚さ0.14mmを有し、酸素透過率は24時間毎及び室温環境下において0.006cm
3/100インチ
2であった。
図8に注入バッグの概略図を示す。本発明に係る各注入バッグの酸素透過度は、24時間毎及び室温環境下において0.0025cm
3である。
【0087】
(実施例7)
【0088】
(架橋ウシHb(脱酸素化架橋条件)の特徴)
【0089】
(7a)逆位相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるグロビン鎖の分離
【0090】
自然ウシヘモグロビンのグロビン鎖及びDBSF架橋ウシヘモグロビンの架橋グロビン鎖を、Sheltonら(1984)によって明らかにされた勾配に少々改良を加えて用いてVYDAC C4カラムで分解した。
(7b)DBSF架橋ウシヘモグロビンのドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析
【0091】
自然ウシヘモグロビン及びDBSF架橋ウシヘモグロビン溶液を還元サンプルバッファー(62mM Tris−HCl(pH6.8)、10%(v/v)グリセリン、5%(v/v)メルカプトエタノール及び2.3%(w/v)SDS)と混合して調製し、10分間、95℃で加熱した。15%アクリルアミドスラブゲルを用いてサンプル混合物を4%濃縮ゲルで分解した。電気泳動は、60mAの一定電流で行われた。電気泳動後、SDS−PAGEゲルを0.1%(w/v)クマシーブルーR350、20%(v/v)メタノール及び10%(v/v)酢酸で染色した。DBSF架橋ウシヘモグロビンにおける架橋の様々な種類の割合を予測するために、Lumi−Analyst3.1ソフトウェアを用いてBlack Light Unit(BLU)で表される分解タンパク質バンドの強度を質量化した。
【0092】
(7c)還元グロビン鎖のトリプシン消化
【0093】
主要架橋グロビン鎖に対応するタンパク質バンドをSDS−PAGEゲルから切除し、立方体(1×1mm)に切り、10%メタノール/10%酢酸で脱染した。脱染ゲル立方体を25mMN H
4CO
3内にて10mM DTTを用いて還元し、25mM NH
4CO
3内にて55mMヨードアセトアミドを用いて暗所で45分間アルキル化し、続いて25mM NH
4CO
3内で37℃にて一晩、20ng/μl修飾トリプシンでゲル内消化した。トリプシン消化後、50%(v/v)アセトニトリル(ACN)及び1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)に拡散してトリプシン消化ペプチドを抽出した。
【0094】
(7d)マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量(MS)分析
【0095】
タンパク質バンドから抽出されたトリプシン消化ペプチドを、マトリックス溶液(50%ACN/0.1%TFAに飽和されたシアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸2mg/ml)1μlを事前に滴下されているアンカーチップ(Anchorchip)プレートに滴下し、空気乾燥させた。乾燥後、サンプルスポットを10mMモノリン酸塩緩衝液で洗浄し、エタノール:アセトン:0.1%TFA(6:3:1比)の溶液を用いて再結晶化させた。Bruker Auto flex III(ブルカー・ダルトニクス社、ブレーメン、ドイツ)をリフレクトロンモードにて800−3500Daのm/z範囲内で作動させてMALDI−TOF MS分析を行い、パラメータは以下のとおり設定された:ペプチドマスフィンガープリント(PMF)用にイオン源を25kV、及びPMF用にリフレクタを26.3kV。Brukerペプチド混合較正基準を用いて外部較正を行った。S/N比が4を超えるピークをFlex−Analysis(ブルカー・ダルトニクス社、ブレーメン、ドイツ)によって自動的にラベリングした。MSデータをさらにMASCOT2.2.04及びBiotools2.1ソフトウェア(ブルカー・ダルトニクス社、ブレーメン、ドイツ)で分析し、NCBI非重複(NCBInr)データベースにおいて哺乳類タンパク質に対してこれらのデータを検索した。以下のパラメータをデータベース検索で用いた。同位体質量精度:<250ppm、parent charge:+1、missed cleavage:1、fixed modification:システインのcarbamidomethylation、variable modification:メチオニンのoxidationとした。
【0096】
(7e)液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化(LC−ESI)タンデム質量(MS/MS)分析
【0097】
タンパク質バンドからのトリプシン消化ペプチドのナノ−LC MS/MS分析を、HCT Ultra ESI−イオントラップ型質量分析装置(ブルカー・ダルトニクス社、ブレーメン、ドイツ)に直接接続されたキャピラリーHPLCを用いて行った。ペプチド消化物をカラム注入前に0.1%ギ酸/2%ACNに溶解した。ペプチド分離には、C18カラム(15cm×75nm、LC PACKINGS社)を用いて4−90%(0.001%ギ酸及び80%ACN内に0.001%ギ酸)の勾配を用いた。流量は25℃で250ng/分であった。C18カラムからの溶出液を、オンライン分析を行うためのリニアモードで動作されるHCT Ultra ESI−イオントラップ型質量分析装置に投入した。イオントラップ型質量分析装置は、スプレー電圧が137V、加熱キャピラリー温度が160℃でナノソースを最適化された。イオントラップにおけるペプチドイオンの蓄積時間を200msに設定し、MS/MS分析用に選択された質量電荷比は電荷状態1〜3で100〜1800Daであった。
【0098】
波長220nmで観察されたVYDAC C4カラムの逆位相HPLCは、DBSF架橋ウシヘモグロビンにおけるα鎖及びβ鎖の間で発生する異なる種類の架橋を分離するために採用される。
図9に、DBSFを用いて架橋を行う前と後における、ウシヘモグロビンを用いて得られたクロマトパターンを示す。
図9では、自然ウシヘモグロビンのα鎖がβ鎖に比べてより可動性を有する(破線で示すとおり)。これらの認識はMALDI−TOF分析で確認された。DBSFとの反応の後、α鎖の大部分がそのままであるのに対してβ鎖は架橋される(実線で示すとおり)。DBSFを用いた架橋の結果として、自然β鎖に比べてより高い疎水性を有する6つの主要グロビンピークが生成された。DBSF架橋ウシヘモグロビンにおける架橋グロビン鎖はまた、
図10に示すように、15%SDS−PAGEを用いて分解された。主要架橋グロビン鎖(
図10におけるB6)はトリプシン消化され、続けてMALDI−TOF分析が行われ、
図11に示すように、ペプチドマスフィンガープリントに基づいてβグロビン鎖のみとして認識された。
【0099】
上記発明を様々な実施形態にて説明したが、これらの実施形態はなんら限定するものではない。当業者であれば、数々の変化や変更を理解できるであろう。これらの変化や変更は以下の請求項の範囲に含まれると考えられる。