【実施例】
【0049】
本発明は今や以下の非限定の実施例によって説明される。
【0050】
材料及び方法
(i)動物:実験に使用した動物は、別に示されなければ、イスラエルのISO公認のSPF実験動物繁殖施設であるHarlan Laboratories及びWeizmann科学研究所の動物繁殖センター(イスラエル、レホヴォト)から供給された。動物はすべてWeizmann研究所の動物実験委員会によって編成された規則に従って取り扱った。
【0051】
(ii)脊髄損傷:ラット(野生型スプラーグ・ドーリー系ラット)を麻酔し(ケタミン70mg/kg,Bedford Laboratories,OH,US,キシラジン10mg/kg,VMP,Bioulab,フランス)、T9にて椎弓切除し、10gの金属ロッドを50mmの高さから露出した脊髄に落とす(重度の損傷を起こすと思われる)NYU衝撃体(Gruner(1992)、ラットにおける脊髄損傷のモニターされた挫傷モデル.J.Neurotrauma.Summer;9(2):123−6;考察126−8.概説)を用いて挫傷を負わせた。マウスを麻酔し、T12での椎弓切除によってその脊髄を露出し、脊髄に上手く調整された打撲傷を負わせることが示された装置である無限水平脊髄衝撃体(ケンタッキー州、レキシントンのPrecision Systems and Instrumentation)を用いて椎弓切除した脊髄に200kdynの力を1秒間かけた。
【0052】
(iii)皮膚の調製及び単球との同時インキュベート:単球を調製するのに採血した同じドナーラットの背中から皮膚の小片(2×6mm)を調製した。上背部の被毛を剃り、切除前にエタノールで皮膚を殺菌した。5mLのDCCM−1 (イスラエル、Beit HaEmekのBiological Industries)に対応する単球分画の5×10
6個の細胞(上記を参照)と共に2片の皮膚組織を入れ、37℃5%CO
2にて16時間インキュベートした。インキュベートの終了時、皮膚片を取り出し、細胞を遠心によって回収した。
【0053】
(v)BBBスコア:オープンフィールド自発運動Basso−Beattie−Bresnahan(BBB)スコア[Basso,D.M.,Beattie,M.S.及びBresnahan,J.C.ラットにおけるオープンフィールド試験のための敏感で信頼できる運動採点スケール。J.Neurotrauma、12,1−21(1995).]を用いてラットにおける行動解析を行った。マウスにおける行動解析は、オープンフィールドにおける後肢運動機能の評価のためのバッソマウススケール(BMS)を用いて実施した[Basso,DM,Fisher,LC,Anderson,AJ,Jakeman,LB,McTigue,DM,Popovich,PG.運動用のバッソマウススケールは一般的なマウス5系統における脊髄損傷後の回復の差異を検出する。J.Neurotrauma.2006、May;23(5):635−59]。
【0054】
(vii)統計的解析:コントラストt検定及びHolm法による多重比較の補正(p=0.05)による各週の治療の経過観察比較と共にBBB及びBMSのスコア化に反復測定ANOVA用いた。
【0055】
実施例1:皮膚活性化したマクロファージの腰椎穿刺注入はラットにおける重度の脊髄損傷後の機能回復を促進する
初めに、我々は、最少限の侵襲性の方法を用いて損傷した脊髄にて所望の表現型を持つ血液由来の単球の数を増やす臨床的に実現可能な方法を探していた。我々は、ラットにおける脊髄損傷に続く機能的欠陥を軽減することにおいて、腰椎穿刺(LP)によって皮膚活性化した血液由来の単球を脳脊髄液(CSF)に注入することの有効性を調べた。
【0056】
【表1】
【0057】
野生型のスプラーグ・ドーリー系ラットを重度の脊髄挫傷の対象とした(材料及び方法を参照)。8日後、損傷した動物にてLPを介してCSFに0.5×10
6又は1×10
6個の皮膚活性化マクロファージ(MQ)又は媒体(PBS)を注入した。運動回復にて用量依存性の効果が示され、自発運動における有意な改善は最高用量のマクロファージを注入した動物の群で認められた(
図1、表1)。
【0058】
実施例2:非活性化の骨髄由来のマウス単球のCSFへの注入はマウスにおける脊髄損傷後の機能回復を促進する。
さらに我々は、脳室内(ICV)を介してCSFに注入された非活性化の骨髄由来の単球が損傷した脊髄実質にホーミングするかどうかを調べた。野生型マウスを脊髄挫傷の対象とした(材料及び方法を参照)。3日後、損傷した動物に単離した緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する未感作の骨髄由来の単球(0.5×10
6個のCx3cr1
GFP/+単球)をICV注入し、損傷の部位での注入した細胞の存在について解析した。注入の4日後の損傷部位の免疫組織化学的な解析は、病変部位の周辺に近接した損傷した実質にて注入したGFPを発現する細胞の存在を明らかにした(示さず、[図面の短い記載での説明を参照])。同様に治療した動物を運動スケール(BMS)によって評価される自発運動活動度について観察した:単球プールの増強は、マウスにおける自発運動での有意な改善から理解できるように、自然発生的な回復レベルを超える回復を生じた(
図2)。
【0059】
これらの結果は、非活性化の骨髄由来の単球がCSFから損傷した実質にホーミングすることができるので、血液/CSF関門が経路である可能性があり、それによって単球が損傷を受けたCNSに自然に入ることを示唆している。
【0060】
実施例3:高レベルのCX
3CR1及び低レベルのCCR2を発現しているヒト単核細胞のPBMCからの単離
ヒトでは、CD14及びCD16の発現、すなわち、CD14
+CD16
−、CD14
+CD16
+及びCD14
低CD16
+によって単球の3つの集団が定義される。CD14
+CD16
−の単球は血中単球の80%〜90%を表し、高レベルのケモカイン受容体CCR2及び低レベルのケモカイン受容体CX
3CR1(フラクタルカインの受容体)を発現する。この主要なサブセットとは対照的に、ヒトCD16
+単球は高レベルのCX
3CR1及び低レベルのCCR2を発現する(Cros et al., 2010)。Crosら、2010によれば、遺伝子発現の解析は、ヒトのCD14
低CD16
+とマウスのパトロールGr1
低の間で類似性を示した。CD14
低CD16
+細胞は組織の先天性局所監視及び自己免疫疾患の病態形成に関与する真正の単球である。
スキーム1
【化1】
【0061】
高レベルのCX
3CR1及び低レベルのCCR2を発現するCD14
低CD16
+細胞を末梢血単核細胞(PBMC)から単離するために、我々は、スキーム1で説明するようにPBMCからのCD14
+の単離を対照として使用した一方で、CCR2の負の選択(CCR2
+の除去)及びCD14
+の正の選択(CD14
+)の組合せ法を用いた。
【0062】
3.1:CD14
低CD16
+細胞の集団の濃縮
(i)ヒト末梢血からの単核細胞の単離:健常な供血者から採取した新鮮血(8ml)をPBS中2.5%のFCSで1:1に希釈し、Ficoll勾配(Ficoll−Paque plus,Amersham Biosciences)に負荷した。試験管を1000gにて20℃で20分間遠心した。単核細胞相を回収し、PBSで2回洗浄した。
【0063】
(ii)CCR2
+の除去:先ず、FcRブロッキング試薬(2.5μL/10
6個の細胞)(130−059−901,Miltenyi Biotec)による室温にて15分間の処理によって単核細胞のFc受容体をブロックした。次いで、洗浄することなく、モノクローナル抗ヒトCCR2/ビオチン試薬(FAB151B、R&D Systems)を加え(10μL/10
6個の細胞)、2℃〜8℃で35分間インキュベートした。次いで冷MACS(商標)緩衝液(PBS中1mMのEDTAと2%のFCS)にて細胞を洗浄し、ストレプトアビジンマイクロビーズ(130−048−101,Miltenyi Biotec)を2℃〜8℃で20分間加えた(20μL/10
7個の細胞)。細胞を0.5mLのMACS(商標)緩衝液で洗浄し、再懸濁させた。CCR2
+の除去は製造元のプロトコールに従ってLDカラム(130−042−901,Miltenyi Biotec)で行った。
【0064】
(iii)CD14
+細胞の単離:細胞をMACS(商標)緩衝液に再懸濁させ(80μL/10
7個の細胞)、2℃〜8℃で15分間、CD14
+マイクロビーズ(130−050−201,Miltenyi Biotec)を加えた(20μL/10
7個の細胞)。次いで細胞を0.5mLのMACS緩衝液で洗浄し、再懸濁させた。CD14
+細胞の正の選択は、製造元のプロトコールに従ってLSカラム(130−042−401,Miltenyi Biotec)上での磁気分離を用いて行った。
【0065】
(iv)ヒト単核細胞の蛍光活性化細胞ソーティング(FACS(商標))染色:試料はすべて製造元のプロトコールに従って染色した。試料はすべて70μmのナイロンメッシュを介してフィルターにかけ、FcRブロッキング試薬(30μL/10
6個の細胞)(130−059−901,Miltenyi Biotec)によって室温にて15分間ブロックした。製造元のプロトコールに従って以下の蛍光色素を標識した抗ヒトモノクローナル抗体を使用した:PerCPを結合した抗CD45(345809、BD)、FITCを結合した抗CD115(FAB329F、R&D Systems)、パシフィックブルー(商標)を結合した抗CD14(BLG−325616)、アレクサフルオロ700(登録商標)を結合した抗CD16(BLG−302026)、PEを結合した抗CX
3CR1(MBL−D070−5)及びPerCPを結合した抗CCR2(BLG−335303)。
【0066】
3.2:結果
生細胞集団のうちで単球の集団を解析し(
図3A)、CD45
+細胞の側方散乱分布を用いて特定した(
図3B、細い黒線よって示す)。単球の亜集団の分布はそのCD14抗原及びCD16抗原の発現によって提示される(
図3C)。FACSによるCD14及びCD16の染色に従った健常供血者のPBMCからの単球の亜集団の解析は以下の亜集団の分布を明らかにする:CD14
+CD16
−(80.5%)、CD14
+CD16
+(4.8%)及びCD14
低CD16
+(3.5%)、
図3A〜C。興味深いことに、CD14
低CD16
+の亜集団は、CSF−1受容体に属し、骨髄由来の単球を特徴付けるマーカーCD115によっても染まった(
図3D)。
【0067】
FACSによるCCR2及びCX
3CR1の染色に従った健常供血者のPBMCからの単球の亜集団の解析は、CD16を発現しない単球(CD16
−亜集団)はCCR2を高発現するが、CD16を発現する単球(CD14
+CD16
+及びCD14
低CD16
+亜集団)はCCR2の低発現とCX
3CR1の高発現を示すことを明らかにした(
図4A〜E)。
【0068】
この結果は、CD16
+細胞の亜集団を濃縮するためにCCR2
+細胞の集団を排除するように我々を促した。
【0069】
図5から理解できるように、CCR2
+細胞の除去は、
CD14+CD16−の亜集団を約5倍(91%から17%に)減らす一方で、CD14
低CD16
+亜集団の約9倍(8%から73%)の濃縮及びCD14
+CD16
+亜集団の約10倍(1%から10%)の濃縮を示す。
【0070】
脊髄損傷後の回復の過程におけるCD16
+単球の役割を調べるために、CD16
+亜集団について濃縮した単球を損傷4日後のマウスにicv(CSFに)注入した。BMS採点システムを用いて損傷後4週間まで週2回、後肢の運動活性をモニターした。媒体(PBS)で処理した対照動物は、時間と共に穏やかで自然発生的な回復を示し、平均で約2.5のBMSスケールに達した。治療群(CD16
+を濃縮した単球)のスコアが、損傷後の各時点で対照群よりも低かったということは、その運動活性が対照群に比べて低下したことを示している。我々は、この亜集団がSCIの4日後、動物のCSFへの注入の際、自然発生的な回復を減衰させると結論付けた(
図76)。
【0071】
我々がCD16
+単球について見いだした回復に対する破壊的な効果に反して、単球亜集団すべてによる治療は、単離の方法に応じて脊髄損傷後の回復に有益だった(
図7)。
【0072】
考察:単球の単離について、我々は磁気分離に基づくMiltenyi Biotecによって開発されたMACS技術を使用した。原則として様々な抗体に結合した磁気マイクロビーズによって血液試料を標識する。細胞は磁場に設置されたMACSカラムに負荷される。非標識の細胞は通り抜けるが、磁気的に標識された細胞はカラム内に保持される。カラムを磁場から取り出すことによって保持された細胞が溶出され、正の選択と名付けられる。負の選択と名付けられる非標識の分画も回収することができる。
【0073】
2つの方法:正の選択又は負の選択を用いて単球を単離した。正の選択については、我々はMiltenyiのCD14マイクロビーズを使用し、負の選択については、我々はMiltenyiの単球単離キットIIを使用した。明らかに、負の選択を用いて単離した単球は、正の選択を介して単離した細胞よりも脊髄損傷からの動物の回復に対してさらに良好でさらに一貫した有益な効果を示す。
【0074】
要約すれば、脊髄損傷後の治療に関して、有益な(CD16
−)及び破壊的な(CD16
+)の血中単球の間を区別するマーカーとしてCD16を使用することができる。CD16
−単球は標準的な単球として既知であり、CD16
+は単球全体のたった10%を占める炎症誘発性の単球として知られる。
【0075】
実施例4:CD3、CD19、CD56及びCD16を欠く単球亜集団のCSFへの注入はマウスにおける脊髄損傷後の機能回復を促進する
上記の所見の観点から、我々はMACSによる負の選択の手順を用いたCD16
−単球を単離する手順を開発した。CD3、CD19、及びCD56に結合したマイクロビーズでPBMCを標識し、T細胞、B細胞及びNK細胞を除去した。磁気カラムを通過した非標識の細胞を回収した。この分画をCD16マイクロビーズで標識し、再び磁気カラムに負荷した。カラムを通過した細胞を回収し、FACSによる解析のためにCD14及びCD16の蛍光抗体で染色した。左の図は単離前のPBMCを表し(
図8A)、右の図は上述のような負の選択の後の最終産物を表す(
図8B)。PBMCでは、生細胞全体の19%が単球である(CD14
+)。単球のうち、約10%がCD16
+である。最終産物では、生細胞の約90%が単球であり、そのうちでCD16
+は0.1%未満である。
【0076】
2つの亜集団は試験管内での刺激に続いて成熟の異なる段階に達することが示された(Carmen Sanchez−Torresら、CD16
+及びCD16−ヒト血中単球のサブセットはCD4
+T細胞を刺激する異なる能力を持つ樹状細胞に試験管内で分化する。Int.Immunol.(2001)13(12):1571−1581)ので、それは損傷した脊髄に対する異なる効果を説明し得る。
【0077】
次いで我々はCD−1ヌードマウスにおける脊髄損傷後の機能的欠陥を軽減することに対する上述の亜集団の効果を調べた。OSU ESCID挫傷装置(Ma,M,Basso,DM,Walters,P,Stokes,BT,Jakeman,LB.C57B1/6マウスにおける等級化された脊髄挫傷損傷後の行動上の及び組織学的な転帰。Exp.Neurol.2001、Jun;169(2):239−54)を用いた制御された重度の脊髄損傷にマウスを供した。損傷の4日後、ICV注入を介してCSFに細胞又はPBSを適用した。自発運動用のバッソマウススケール(BMS)を用いて損傷後4週間、週2回、SCI後の自発運動の回復を測定した。
【0078】
マウスは、損傷後最初の3週間でわずかな自然発生的な自発運動の回復を示した。BMSにおける3(足の足底踏み直り及び姿勢での体重支えは0〜9の尺度で4にスコア化される)を上回る回復は意味のある機能回復であると見なされた。精製した単球による治療は動物の自発運動の回復の比率を高めた(
図9)。PBSで処理した対照群の14%(14匹のうち2匹)に比べて単球で治療した動物の42%が回復した(12匹のうち5匹)。
【0079】
参考文献
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