(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148684
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用ばね
(51)【国際特許分類】
G04B 3/04 20060101AFI20170607BHJP
G04B 19/247 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
G04B3/04 Z
G04B19/247 D
【請求項の数】22
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-549457(P2014-549457)
(86)(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公表番号】特表2015-503739(P2015-503739A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】EP2012076914
(87)【国際公開番号】WO2013102600
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2015年12月1日
(31)【優先権主張番号】11405378.8
(32)【優先日】2011年12月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フルーリー, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フラシェボウ, ブレーズ
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭54−118857(JP,U)
【文献】
西独国特許出願公告第01274513(DE,B)
【文献】
特開2007−024900(JP,A)
【文献】
西独国実用新案公開第06912966(DE,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 3/04
G04B 19/247
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計機構用ばね(10、20)であって、ばねの第1の端部(12、22)とばねの第2の端部(13、23)の間に延びる本体(11、21)を備え、前記第1の端部および前記第2の端部それぞれにおいて台枠と機械的に連結されるようになっており、前記第1の端部と前記第2の端部の間に、接触によって時計機構の要素(42、52)に作用するようにされた少なくとも1つの部片(17、27)を備えるばねにおいて、前記本体が曲線(18、28)に沿って延びる変形可能なゾーン(14、24)を備えること、および前記曲線が前記第1の端部の周りに延びる凹形の第1の部分(18a、28a)を備えることを特徴とするばね。
【請求項2】
前記曲線が、前記第1の端部の周りに延びる凹形の第1の部分(18a、28a)と、直線またはほぼ直線の第2の部分(18b、28b)とを備えることを特徴とする、請求項1に記載のばね。
【請求項3】
前記部片が、前記第1の端部に位置する回動軸(19、29)の周り、とりわけ前記ばねを前記台枠に連結する機械的連結の軸の周りを回動するレバー(17、27)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のばね。
【請求項4】
前記レバーが、前記回動軸(19、29)から離して、とりわけ前記レバーの長さ(L)の3分の1以上、または前記レバーの長さ(L)の半分以上離して、または前記レバーの前記端部または実質的に前記端部で、前記変形可能なゾーンに接続されることを特徴とする、請求項3に記載のばね。
【請求項5】
半平面内に、前記ばねの端部から前記曲線(18、28)の前記凹形部分(18a、28a)に沿って前記変形可能なゾーンの一部分が延び、該半平面と相補的関係にある半平面に含まれた半直線(191、291)に沿って前記レバーが延び、前記半平面の双方が、前記ばねを前記台枠につなぐ前記機械的連結部の前記軸を通る直線(D1)によって分けられていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のばね。
【請求項6】
前記第1の端部に前記台枠に対する第1の機械的連結要素(15、25)を備え、前記第2の端部に前記台枠に対する第2の機械的連結要素(16、26)を備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のばね。
【請求項7】
前記第1の端部のレベルで旋回連結を介して前記台枠に連結されるようになっており、さらに前記第2の端部のレベルで旋回連結を介して前記台枠に連結されるようになっていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のばね。
【請求項8】
前記ばねを前記台枠に取り付けた状態で、前記第1の端部と前記第2の端部の間の距離が5mm未満、または2mm未満、または1mm未満であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のばね。
【請求項9】
前記ばねを前記台枠に取り付けた状態で、前記第1の端部と前記第2の端部の間の前記距離が前記ばねの前記第1の端部および前記第2の端部(12、22および13、23)の厚さの8倍未満、さらに好ましくは前記ばねの前記第1の端部および前記第2の端部(12、22および13、23)の厚さの6倍未満であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のばね。
【請求項10】
前記第1の端部を原点とし、前記第2の端部と前記ばねの前記本体の重心とをそれぞれ通る半直線が、好ましくは120°未満、または90°未満、または60°未満の角度(γ)を形成することを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のばね。
【請求項11】
前記曲線が連続して連なる面(18a、28a)であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のばね。
【請求項12】
前記部片が、前記ばねの前記本体(11、21)上に突き出た指(17、27)を備えることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のばね。
【請求項13】
前記部片が、前記ばねの前記本体(211)に回転可能に取り付けられた転輪(27’)を備えることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のばね。
【請求項14】
ばね鋼、シリコン、ニッケル、ニッケル−リンまたはアモルファス合金で製造されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載のばね。
【請求項15】
前記本体全体が、開口部を有する環状をなすことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載のばね。
【請求項16】
前記部片が前記時計機構の前記要素(42、52)に対してエネルギーを、とりわけ力学的仕事の形で、放出するようになっていることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載のばね。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のばねを備える、とりわけカレンダー機構または修正機構である、時計機構(100)。
【請求項18】
台枠と、前記時計機構の前記要素であり前記台枠に対して可動である可動要素(42、52)とを備えること、前記ばねの表面が接触によって前記可動要素に作用すること、および前記部片が前記可動要素に対してエネルギーを、とりわけ力学的仕事の形で、放出するように前記ばねおよび前記可動要素が構成されていることを特徴とする、請求項17に記載の時計機構。
【請求項19】
前記要素がカムおよび/または小歯車および/または大歯車を含むことを特徴とする、請求項17または18に記載の時計機構。
【請求項20】
前記機構の通常動作において、前記ばね内の応力が最大となる構成から前記ばね内の応力が最小となる構成に移行するとき、前記可動要素が前記台枠に対して少なくとも10°、または少なくとも15°、または少なくとも20°、または少なくとも30°変位すること、および/または前記可動要素が前記台枠に対して少なくとも0.3mm、または少なくと0.5mm、または少なくとも0.7mm変位すること、および/または前記部片が連結要素の軸の周りを少なくとも5°、または少なくとも10°変位することを特徴とする請求項17から19のいずれか一項に記載の時計機構。
【請求項21】
請求項17から20のいずれか一項に記載の時計機構または請求項1から16のいずれか一項に記載のばねを備える時計ムーブメント(200)。
【請求項22】
請求項21に記載の時計ムーブメント、請求項17から20のいずれか一項に記載の時計機構、または請求項1から16のいずれか一項に記載のばねを備える、とりわけ携帯時計である、時計(300)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計機構用のばねまたは時計機構ばねに関する。本発明はまた、そのばねを備える時計機構、とりわけ修正機構またはカレンダー機構に関する。本発明はまた、そのばねまたはその機構を備える時計ムーブメントに関する。
【背景技術】
【0002】
時計機構は一般に、時計ムーブメントの様々な機能を果たすために協働するように設けられたばね、レバーおよびカムを具備する。そのため、動力源から取り出され、または腕時計装着者によって与えられるエネルギーは、各種機能が保証されるように、ばねによって蓄積および放出されるが、それらはすべて制限された体積の中で行われる。特定のケースでは、利用可能な容積が妨げとなって、内部の機械的応力が最小化されるように整形された伸長時の幾何学形状を持ち、場合によってレバーと一体をなす、板ばねの使用が許容されず、供給すべき力と比較して内部の機械的応力がきわめて大きい幾何学形状のばねとなることがある。また、そうしたばねを、それが供給し得る様々な力や、それが果たし得る様々な機能に合わせて調整することは容易ではない。
【0003】
特許文献1は、一体に製造された「V」形のばねレバーについて記している。これは、時刻合わせ機構専用である。そのばね部分は2つの衝止部によって完全にブロックされるため、レバー部分が変位したときに反り返り、それによって戻し力を生じるようになっている。ばねレバーのこうした構成は、巻真にかかる力を最適化し、それとともに時計装着者の快適性を最大化するために、この種の構成部品で求められる可能性のある角度剛性からすると、最適とは言えない。ばねの固定ポイントはオシドリの回動やツヅミ車の位置決めに影響する。
【0004】
特許文献2は瞬時ジャンプ日付表示装置に関するものである。この明細書には、ばね、カンヌキ、および日回し指と連動するカムからなる従来からのエネルギー蓄積装置が開示されている。ばねは、カムに対して押し付けられたカンヌキを介して、日付の瞬時ジャンプが可能となるために必要なエネルギーを1日を通して蓄える。そのため、ばねは、そのジャンプが可能となるように適合された力を生み出せるように整形される。より具体的には、ばねは、供給しなければならない力と比べてその内部の機械的応力が小さくなることを目的として特に嵩の張る細長い薄板の形状をなす。このばねは、薄板のほぼ中心に位置する単一の回動点に従って回動する。ばねの第1の端部は携帯時計の台枠に対して衝止され、第2の端部はカンヌキを押し付けており、そのためにカムが変位したときにばねは湾曲し、それによって戻し力を生じる。このようなばねの構成では、所与の最大内部応力に対して、ばねに蓄えられるエネルギーは小さいと思われる。
【0005】
特許文献3で開示されている解決法は「線状」ばねを使用するものである。この設計オプションは、場合によってはエネルギー蓄積装置の物理的寸法を減ずることができる。しかし、耐曲げ性を保証することはきわめて困難であり、そうしたばねを工業的に繰り返し生産することを難しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2043711号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2015146号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1746470号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の欠点に対処することができる時計機構のばねを提供することにある。とりわけ、本発明は、所与の空間のもとで、力を加えられたときにばねに生じる機械的応力を最小化することができるばねであって、同様にばねによってもたらされる力を容易に調整することができるばねを提案する。本発明はまた、工業生産にも特に適した幾何学形状を有するばねを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、時計メカニズム用ばねは、ばねの第1の端部とばねの第2の端部の間に延びる本体を備える。ばねは、第1の端部と第2の端部の間に、接触によって時計機構の要素に作用するようにした少なくとも1つの部片を備える。本体は、曲線に延びる変形可能なゾーンを備える。曲線は、第1の端部から見て凹形の第1の部分を備える。
【0009】
ばねは、第1の端部と第2の端部のそれぞれで台枠に機械的に連結されるようになっている。
【0010】
ばねの様々な実施形態は請求項2から16までによって定義される。
【0011】
時計機構は請求項17によって定義される。
【0012】
機構の様々な実施形態は請求項18から20によって定義される。
【0013】
時計機構は請求項21によって定義される。
【0014】
時計は請求項22によって定義される。
【0015】
添付の図面は、例として、本発明による時計ばねの2つの変形実施形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による時計ばねの第1の変形実施形態を示した時計の概略図である。
【
図3】
図1のばねと従来技術による周知の
図2のばねのそれぞれの場合について、ばねによって供給される力の変化とばねの変形の関係を示したグラフである。
【
図4】本発明による時計ばねの第2の変形形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による時計300について
図1を参照しながら以下に説明する。時計はたとえば携帯時計、とりわけ腕時計である。時計は時計ムーブメント200、とりわけ機械式の時計ムーブメントを備える。時計ムーブメントは機構100、とりわけ要素42およびばね10を含む機構を備える。
【0018】
本発明を例証するものとして具体的な2つの用途を挙げる。第1の用途は時計の修正機構のばねレバーに関するものであり、第2の用途はカレンダー機構のばねレバーに関するものである。それぞれの用途において、ばねレバーまたはばねは、機械エネルギーを蓄え、その後、協働する相手である時計機構の要素(カム、小歯車または大歯車)に対してそのエネルギーを放出するようになっている。このエネルギーは、少なくとも部分的に、またほぼ全面的に力学的仕事の形で放出される。一方、このいずれの用途においても、ばねは、時計と一体をなす台枠と連結される。
【0019】
第1の変形形態では、時計機構100は、時刻表示の修正、日付表示の修正またはその他のあらゆる表示の修正などを行うことができる修正機構である。機構はばね10を備える。機構はさらに、台枠と、台枠に対して可動である要素42とを備える。ばねの1つの表面は接触によって可動要素に作用する。ばねと要素は、部片が要素に対してエネルギーを、とりわけ力学的仕事の形で、放出するように構成される。要素には、カムおよび/または小歯車および/または大歯車が含まれる。
図1の例では、要素はツヅミ車である。
【0020】
ばねの第1の変形形態はたとえば、接触によって時計の修正および/または時刻合わせ機構のツヅミ車に作用して協働するように設けられる。このツヅミ車は、小鉄車43との噛合位置と、ツヅミ車と小鉄車の非噛合位置との間で軸方向に可動である。ばねは、ツヅミ車を非噛合位置(
図1に示す位置)に戻すことができる。
【0021】
このばね10は、ばねの第1の端部12とばねの第2の端部13の間に延びる本体11を備える。ばねは、第1の端部と第2の端部のそれぞれのレベルで台枠に機械的に連結されるようになっている。ばねは、第1の端部と第2の端部の間に、接触によって時計機構の要素42に作用するようにした少なくとも1つの部片17、とりわけレバーを備える。本体は、曲線18に沿って延びる少なくとも1つの変形可能なゾーン14を備える。曲線は、第1の端部から見て凹形の第1の部分18aを備える。ゾーン14は、所与の強さの作用を受けて大きく変形することができるほぼ矩形の断面を有する。このゾーンは両端部12および13のそれぞれのポイント12aおよび13aの間に位置しており、それらよりも先では、ばね10の本体11の断面は顕著に変化する。
【0022】
ばね10、とりわけレバー17は、第1の端部12のレベルに台枠に対する第1の旋回連結要素15を備える。ばね10の第2の端部13であって、とりわけばね10の変形可能なゾーン14と連続するか、または変形可能なゾーン14に隣接する第2の端部13は、台枠に対する第2の旋回連結要素16を備える。好ましくは、第1の連結要素は、台枠に取り付けられた軸を受けるようにした穴15または穴部を備える。同様に、第2の連結要素は、好ましくは、台枠に取り付けられた軸を受けるようにした穴または穴部16を備える。連結要素が穴部を備える場合は、ばねは台枠に固定された軸に滑りばめすることができる。レバー17は、第1の端部に位置する旋回軸19の周り、とりわけばねを台枠に連結する機械的連結の軸の周りを旋回する。
【0023】
ポイント12aおよび13aの間に延びるばね10の本体11のゾーン14が沿う曲線18は、全体が凹形の部分18aと、直線またはほぼ直線の部分18bとを有する。この曲線18は、第1の端部12から、とりわけ第1の連結手段15の軸19から見て全体が凹形である。
【0024】
レバー17は、回動軸19から離して、とりわけレバーの長さLの3分の1以上、さらにはレバーの長さLの半分以上離して、さらにはレバーの端部またはほぼ端部で、変形可能なゾーン14に接続される。要素42に対するレバーの接触ゾーンは、レバーが物理的にはそれより先まで延びるにしても、レバーの端部を構成するものと考える。長さLは回動軸19と接触ゾーンの間で測定する。
【0025】
好ましくは、ばねを台枠に取り付けた状態では、第1の端部と第2の端部の間、とりわけ第1の連結手段の軸と第2の連結手段の軸の間の距離Dは5mm未満、または2mm未満、または1mm未満、並びに/もしくはばねの両端部12および13の厚さEの8倍未満、好ましくはばねの両端部12および13の厚さEの6倍未満である。ばねの厚さEは
図1の平面に対して垂直に測定する。
【0026】
図1に示したばね10にあっては、距離Dはおよそ2mmであり、端部12および13で測定した厚さEはおよそ0.3mmである。
【0027】
好ましくは、機構の通常動作においては、ばね内の応力が最大となる構成からばね内の応力が最小となる構成に移行するとき、力の作用点レベルでは、要素42は台枠に対して少なくとも0.3mm、または少なくとも0.5mm、または少なくとも0.7mm変位する。この変位は、ばね内に、特に力学的仕事の形で蓄えられた機械エネルギーが放出される際の作用によって起こるものである。この変位の間、レバー17は連結要素15の軸の周りを少なくとも5°、または少なくとも10°変位することができる。
【0028】
端部12、とりわけ第1の連結手段15の軸を原点とし、端部13、とりわけ第2の連結手段16の軸と、ばねの本体11の重心11gとをそれぞれ通る2つの半直線によって形成される角度γは、好ましくは120°未満、または90°未満である。角度γは、
図1に示すばね10にあってはおよそ60°である。
【0029】
ばねと台枠とをつなぐ機械的連結部の軸を通る直線D1は、その直線のそれぞれの側に位置する第1の半平面と第2の半平面を定義することができる。レバー17は、第2の半平面と相補的関係にある第1の半平面に含まれた半直線191に沿って延び、この第2の半平面内に、第2の端部に始まる変形可能なゾーンの一部が延びる、すなわち、第2の端部から変形可能なゾーンの一部分が延びる、または第2の端部と直接接する。第2の半平面内にある変形可能な部分は好ましくは凹形である。第2の半平面内にある変形可能な部分は、曲線18の凹形部分18aを含むか、またはそのすべてもしくは一部分であることができる。
【0030】
図2は従来技術の周知のばねを示したものである。このばね110は軸113の周りを回動し、巻真が第1の位置に置かれているときには、指118によってツヅミ車42を所定位置に保持して小鉄車43から引き離すように設けられている。その場合、ばねの可撓部分114の断面は、適正な保持力が保証されるように規定される。非修正位置から修正位置に移るときは、携帯時計装着者は巻真を引いて、そのばねによって与えられる力に打ち勝つようにする。巻真のある種の軸方向移動では、その力があまりに顕著となる可能性があり、巻真操作時の感触が損なわれるおそれがある。
【0031】
そのため、特に有利な解決策は時計機構に
図1に示すようなばねを使用するというもので、このばねは、その角度剛性の低さから、装置の正しい動作に必要とされる最低限の力を保証しながら、機構内で作用する力が最小化されるように適合することができる。そのため、ばねには最適な形で予応力を与えておくことができる。ばねによって生じ得る力の範囲をツヅミ車42の変位に応じて調整できるように、ばねの2つの連結軸の間の距離を変更することもできる。そのため、ツヅミ車の変位が異なる複数の時計機構内で同じばねを使用することが可能である。
【0032】
先行技術の周知のばねと比較して、同一の断面を与えられた第1の変形形態のばねは、ばねにあらかじめ付勢しておくことにより、非修正位置で要求される保持力を保証しつつ、巻真の変位によってもたらされるばねの力を最小化することができ、しかも同じ利用可能な容積の中でそれを果たすことができる。このことは、ばねの第1の変形実施形態と
図2に例示する周知のばねの力Fと変位Dpとの間の特性であって、ツヅミ車42の第1の非修正位置P1と第2の修正位置P2の間で測定した特性によって表されるが、それを
図3に示す。本発明によるばね10では、同じ設置空間で、戻し力の一定性をより高めることができることがわかる。つまり、本発明によるばね10の所与の変位に対して、戻し力の変化をより少なくすることができる。
【0033】
第2の用途はカレンダー機構のばねレバーに関するものである。
【0034】
第2の変形形態では、時計機構は、日付表示などのカレンダー機構である。機構はばね20を備える。機構はさらに、台枠と、台枠に対して可動である要素52とを備える。ばねの1つの表面は接触によって可動要素に作用する。ばねと要素は、部片が要素に対して、とりわけ力学的仕事の形でエネルギーを放出するように構成される。要素には、カムおよび/または小歯車および/または大歯車が含まれる。
図4の例では、要素はカムである。
【0035】
このばねの第2の変形形態はたとえば、接触によって時計のカレンダー機構のカムに作用して協働するように設けられる。このカムは軸の周りに可動である。ばねは、レバーをカムに接触させた状態に戻すことができる。
【0036】
この第2の変形形態では、時計機構用ばねはたとえばカレンダー揺動装置のばねである。このばねについて、
図4を参照しながら以下に説明する。ばね20はたとえば、接触によってカム52に作用して協働するように設けられる。このカムは台枠に対して可動である。より具体的には、このカムは、カレンダー表示の駆動指51と一体をなす24時車に取り付けられる。ばねは、カレンダー表示の瞬時ジャンプを可能にするために必要とされるエネルギーをカムを介して1日を通して蓄える。第2の変形形態は、その用途以外に関しては、以下に説明する要素によってのみ第2の実施形態における第1の変形形態と異なる。
【0037】
ばね20は、ばねの第1の端部22とばねの第2の端部23の間に延びる本体21を備える。ばねは、接触によって時計機構のカム52に作用するようにした転輪27’であって、旋回自在に取り付けられた転輪27’を具備するレバー27を第1の端部と第2の端部の間に備える。
【0038】
ばねの本体21は、所与の強さの作用を受けて大きく変形することができるほぼ矩形の断面のゾーン24を少なくとも1つ有する。このゾーンは両端部22および23のそれぞれのポイント22aおよび23aの間に位置しており、それらよりも先では、ばね20の本体21の断面は顕著に変化し得る。
【0039】
ばね20、とりわけレバー27は、第1の端部22において台枠に連結する第1の旋回連結要素25を備える。ばね20の変形可能なゾーン24と連続するばね20の端部23は、第2の端部23において台枠に連結する第2の旋回連結要素26を備える。第1の連結要素は、好ましくは、台枠に取り付けられた軸を受けるようにした穴25または穴部を備える。同様に、第2の連結要素は、好ましくは、台枠に取り付けられた軸を受けるようにした穴26または穴部を備える。
【0040】
ポイント22aおよび23aの間に延びるばね20の本体21のゾーン24が沿う曲線28は、全体が凹形の部分28aとほぼ直線の部分28bとを有する。この曲線28は、第1の端部22から見て、とりわけ第1の連結手段25の軸から見て全体が凹形である。
【0041】
ばね20を台枠に取り付けた状態では、第1の端部と第2の端部の間、とりわけ第1の連結手段25の軸と第2の連結手段26の軸の間の距離Dはおよそ4mmである。端部22および23で
図4の面に対して垂直に測定した測定した厚さEはおよそ0.4mmである。端部22、とりわけ第1の連結手段25の軸を原点とし、端部23、とりわけ第2の連結手段26の軸とばねの本体21の重心21gとをそれぞれ通る2つの半直線によって形成される角度γは好ましくはおよそ50°である。
【0042】
好ましくは、機構の通常動作においては、ばね内の応力が最大となる構成からばね内の応力が最小となる構成に移行するとき、要素52は台枠に対して少なくとも10°、または少なくとも15°、または少なくとも20°、または少なくとも30°変位する。この変位は、ばね内に、特に力学的仕事の形で、蓄えられた機械エネルギーが放出される際の作用によって起こるものである。この変位の間、レバー27は連結要素25の軸の周りを少なくとも5°、または少なくとも10°変位することができる。
【0043】
このようなばねは、特に嵩高であったり、工業生産に困難を伴うものであったりする可能性のある板ばねまたは「線状」ばねに対して、有利な形でそれらに取って代わることができる。本発明によるばねの角度剛性は、その2つの回動点により、その内部の機械的応力を最小化することができる。そのため、このばねは、限られた体積の中で、内部の機械的応力を制限しつつ、その蓄勢時に蓄積されるエネルギーを最大化することができる。
【0044】
また、ばねの第1の端部と第2の端部の間の距離Dは、ばねが果たし得る様々な機能に応じてばねが供給し得る様々な力に応じて、容易に調整することができる。より具体的には、ばねの第1の端部と第2の端部の距離Dは、カレンダー表示の1回もしくは複数回のジャンプ、または1つもしくは複数のカレンダー表示のジャンプが可能となるように調整することができる。そのため、このようなばねは、協働相手の構成部品、とりわけカレンダーカムに変更を加えることなしに複数の機能を果たすことができる。そのため、機能および/またはディスプレイが異なる複数のカレンダーで同じばねを使用することができる。
【0045】
どの変形形態であるかにかかわらず、旋回連結要素の中心が近接していることによって、角度剛性を低減することができる。この角度剛性の低さは、とりわけ第1の用途で、ばねによって供給され得る力またはトルクの範囲の最適化を可能にする。この角度剛性の低さはまた、とりわけ第2の用途で、ばねがその内部の機械的応力を制限しつつ、蓄勢時に蓄積されるエネルギーを最大化することを可能にする。この角度剛性の低さはさらに、とりわけ第3の用途で、そのばねが工業的かつ繰返し可能な形で製造可能となるようにばねの断面を整形することを可能にする。
【0046】
どの変形形態であるかにかかわらず、ばねを台枠に取り付けた状態では、第1の端部と第2の端部の間、とりわけ第1の枢軸の中心軸と第2の枢軸の中心軸の間の距離は、好ましくは5mm未満、または2mm未満、または1mm未満、および/またはばねの両端部の厚さの8倍未満、好ましくはばねの両端部の厚さの6倍未満である。
【0047】
どの変形形態であるかにかかわらず、ばねは、第1の端部と第2の端部の間に、接触によって時計機構の要素に作用するようにした少なくとも1つの部片を備える。
【0048】
どの変形形態であるかにかかわらず、ばね全体は開口部を有する環状をなす。
【0049】
どの変形形態であるかにかかわらず、曲線18、28は好ましくは連続して連なる面である。したがって、ばねの本体またはばねは平面上に配置することができる。あるいは、ばねの第1の端部は第1の平面上に配置し、第2の端部は第2の平面上に配置するようにすることができる。第1の平面と第2の平面は必ずしも平行である必要はない。好ましくは、第1の枢軸の中心軸は第1の平面に対して垂直であり、第2の枢軸の中心軸は第2の平面に対して垂直である。
【0050】
ポイント12a、22aおよび13a、23aの間に延びる本体11、21のゾーン14、24が沿う曲線18、28は、全体が凹形の部分18a、28aとほぼ直線の部分18b、28bとを有する。この曲線18、28は、第1の端部12、22から見て、とりわけ第1の枢軸15、25の中心軸から見て全体が凹形である。
【0051】
どの変形形態であるかにかかわらず、ばねは様々な材料で製造することができる。ばねはとりわけ、ばね鋼、シリコン、ニッケル、ニッケル−リンまたはアモルファス合金で製造することができる。ばねはたとえば、スタンピングやワイヤ切断のような機械的方法によって製造することができる。ばねは、ステレオリソグラフィ、LIGA法、深掘りDRIE法、さらにはレーザーエッチング法によって製造することもできる。これらの製造方法はとりわけ、連結要素レベルでの素材の薄さを実現することができるものであり、それによって機械的連結要素の軸を互いに最大限接近させることが可能となる。
【0052】
構成上の理由から、とりわけ第3の用途で、接触によって時計機構の要素に作用するようにされた部片が、ばねの他の部分とは異なる厚さを有するようにすることは可能である。したがって、本発明によるばねは厚さの異なるゾーンを有することができる。
【0053】
どの変形形態であるかにかかわらず、一体構造のばねは、その角度剛性の低さにより、その内部における応力を制限しつつ、蓄勢時に蓄積されるエネルギーを最大化することができる。ばねは、所与の体積の中で様々な時計機能を果たすのに必要な力を供給することができる。そのために一体構造のばねは2つの近接した別々の枢軸を備える。
【0054】
したがって、このばねは以下のそれぞれを可能にする。
− ばねの有効長を最大化する。
− 動作時のばねの変形を最小化する。
− ばねの角度剛性を最小化する。
− 材料内の応力を最小化する。
− ばねに最適な形で予応力を与える。
【0055】
回動軸の間の距離は、製造方法によって実現可能な素材の最小厚さに直接依存する。
【0056】
本発明によるこのようなばねの利用が上述した用途に限られるものでないことは言うまでもない。このばねをクロノグラフ機構やカウントダウン機構などに組み込むことは考えられる。
【0057】
最後に、本発明は、上述したような時計機構または上述したようなばねを備える時計ムーブメントまたは時計、とりわけ携帯時計にも関する。
【0058】
この明細書全体において、「ばね」という用語は、所与の強さの作用を受けて大きく変形し得る第1の部分と、とりわけ部片において、その同じ作用のもとであまり変形しない、さらには全く変形しない第2の部分とを備える一体構造の要素のことを指すために使用した。これは、「ばね」という用語の他の用例になぞらえてのものであった。とりわけ、「ばね」という用語は、一般的には、引張り力を受ける螺旋ばねであって、端部それぞれのレベルで終端がフックになっているばねのことを指すためにも使用される。しかるに、そのような螺旋ばねは、所与の強さの作用を受けて大きく変形し得る第1の部分(螺旋状に整形されたもの)と、その同じ作用のもとであまり変形しない、さらには全く変形しない第2の部分(フック)とを備えることは明らかである。
【0059】
この明細書全体において、「本体」または「ばねの本体」という用語はばねそのもの、すなわちばねを形成する素材を指している。