(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148730
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】5−フルオロ−1H−ピラゾール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 231/16 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
C07D231/16
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-522085(P2015-522085)
(86)(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公表番号】特表2015-522599(P2015-522599A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】EP2013065094
(87)【国際公開番号】WO2014012975
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年7月13日
(31)【優先権主張番号】12177058.0
(32)【優先日】2012年7月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507203353
【氏名又は名称】バイエル・クロップサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】パツエノク,セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ルイ,ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】テイモシエンコ,バデイム・ミハイロビツチ
(72)【発明者】
【氏名】カミンスカヤ,エレナ,イバーノブナ
(72)【発明者】
【氏名】シエルモロビツチ,ユーリイ・グリゴリエビツチ
【審査官】
新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】
ソ連国特許発明第1456419(SU,A)
【文献】
国際公開第2015/078847(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/078846(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/090778(WO,A1)
【文献】
特開平5−230029(JP,A)
【文献】
CHI, Ki-Whan et al.,Synthesis of fluorinated N-arylpyrazoles from perfluoro-2-methyl-2-pentene and arylhydrazines,Journal of Fluorine Chemistry,1999年,Vol. 98, No. 1,pp. 29-36,ISSN: 0022-1139, DOI: 10.1016/S0022-1139(99)00079-2
【文献】
BARGAMOVA, M. D. et al.,5-Fluoro-substituted pyrazoles,Bulletin of the Academy of Sciences of the USSR, Division of chemical science,1990年,Vol. 39, No. 11,pp. 2338-2344,ISSN: 0568-5230
【文献】
ICHIKAWA, Junji et al.,Regiocontrolled Syntheses of 3- or 5-Fluorinated Pyrazoles from 2,2-Difluorovinyl Ketones,Journal of Organic Chemistry,1996年,Vol. 61, No. 8,pp. 2763-2769,ISSN: 0022-3263, DOI: 10.1021/jo951814e
【文献】
IKEDA, Isao et al.,Synthesis of Novel Pyrazoles Containing Perfluoroalkyl Groups by Reactions of Perfluoro-2-methylpent-2-ene and Hydrazones,Journal of Organic Chemistry,1985年,Vol. 50, No. 19 ,pp. 3640-3642, ISSN: 0022-3263, DOI: 10.1021/jo00219a046
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 231/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)の5−フルオロ−1H−ピラゾール類:
【化1】
の合成方法であって、
水および塩基の存在下、下記一般式(II)のオレフィン:
【化2】
を、下記式(III)のヒドラジン:
R
1−NH−NH
2(III)
(式中、
R
1は、C
1−C
6アルキル、C
5−C
10アリールから選択され;
R
2は、少なくとも1個のフッ素原子を有するトリハロメチル部分であり;
R
3はC
1−C
5ハロアルキルから選択される。)と反応させる方法。
【請求項2】
R1がメチルであり、
R2がCF3であり、
R3がC2F5である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基がトリエチルアミンである請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
5−フルオロ−1H−ピラゾール類、特には5−フルオロ−1−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−1H−ピラゾールは、WO2010051926に記載されるもののように、作物保護化学剤の製造のための重要な構成要素である。
【背景技術】
【0002】
5−フルオロ−1−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−1H−ピラゾールが、ヘキサフルオロプロペンの二量体をジエチルエーテル中−50℃で脱水N,N−ジメチルヒドラジンによって処理し、次に得られた中間体を120℃で加熱することで製造できることが知られている(I. L. Knunyants et al. Izv. Akad. Nauk SSSR, (1990)2583−2589)。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】I. L. Knunyants et al. Izv. Akad. Nauk SSSR, (1990)2583−2589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この2段階変換では、第1段階に低温が要求され、第2段階での熱的脱離時にCH
3Fが生成することから、この方法は経費が高く、環境に優しいものではなく、工業化には特に困難なものとなっている。
【0005】
パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテンおよびフェニルヒドラジンから出発して、トリエチルアミンの存在下、−50℃で、1−フェニルピラゾールが収率90%で製造された(SU1456419)。Furin et al. J. Fluor. Chem. 98(1999)29には、CH
3CN中、パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテンフェニルヒドラジンと反応させることで、異性体のピラゾール3および4の4:1比での混合物が得られると報告されている。
【化2】
【0006】
前記ピラゾール類の位置選択的合成に市販の安価なモノアルキルヒドラジン類(特にそれの水溶液の形態で)を使用することは、当業者には知られていない。
【0007】
本発明によって解決すべき問題は、入手可能なフルオロアルケン類およびモノ置換されたヒドラジン類から5−フルオロ−1H−ピラゾールを簡単かつ選択的に製造する方法であって、特に工業的規模のプロセスに受け入れることが可能であるべき方法を確認することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、下記一般式(I)の5−フルオロ−1H−ピラゾール類:
【化3】
【0009】
は、下記一般式(II)のオレフィン類:
【化4】
【0010】
を下記式(III):
R
1−NH−NH
2(III)
のモノアルキル/アリールヒドラジンと、水および塩基の存在下、反応させることで、高純度で、そして短時間かつ簡単なプロセスで製造することが可能である。
【0011】
式中、
R
1は、C
1−C
6アルキル、シクロアルキル、C
5−C
10アリールから選択され;
R
2は、少なくとも1個のフッ素原子を有するトリハロメチル部分であり;
R
3は、CF
3、CF
2Cl、C
2F
5、C
3F
7、CF
2CF
2Cl、CFClCF
3としてのC
1−C
5ハロアルキルから選択される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、下記式(Ia)のピラゾール類:
【化5】
【0013】
(R
1はC
1−C
6アルキルから選択される。)の製造方法であって、パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテン:
【化6】
【0014】
と、一般式(III):
R
1−NH−NH
2(III)
のモノアルキルヒドラジンとの反応を含む方法に関するものである。
【0015】
本発明の最も好ましい実施形態は、下記式(Ib)のピラゾール類の製造方法に関するものである。
【化7】
【発明を実施するための形態】
【0016】
パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテンは、市販されているか(Fa. Daikin)およびP&M Invest(ロシア))、ヘキサフルオロプロペンの二量化を介して製造することができる(US5,254,774;R. Haszeldiner et al, Journal of the Chemical Society[Section]D: Chemical Communications (1970), (21), 1444−5を参照)。
【0017】
モノアルキルヒドラジン類およびモノアリールヒドラジン類は市販の化学薬剤である。
【0018】
好ましくはR
1は、アルキルから選択され、非常に好ましくはそれはメチルである。
【0019】
好ましくはR
2は、CF
3、CF
2Clから選択され、非常に好ましくはそれはCF
3である。
【0020】
好ましくはR
3は、CF
3、C
2F
5、C
3F
7、CF
2CF
2Cl、CFClCF
3であり、非常に好ましくはそれはC
2F
5である。
【0021】
最も好ましくは、R
1=Me、R
2=CF
3、R
3=C
2F
5である。
【0022】
驚くべきことに、式(II)のフルオロアルケン類と水および塩基との相互作用と、それに続く式(III)のヒドラジンとの反応は位置選択的に進行し、式(I)の一方のみの異性体ピラゾールが高収率で生成することが認められた。
【化8】
【0023】
当該反応は水の存在下で行う。本発明の別の好ましい実施形態によれば、その反応で用いられる水の量は、式(II)の化合物1当量当たり1から15当量、好ましくは1.5から7当量、より好ましくは1から5当量である。
【0024】
その反応は、有機および無機塩基の存在下で行うことができる。好ましい有機塩基は、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、メチルジイソプロピルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、アルキルピリジン類である。
【0025】
当該反応を実施するのに好ましい無機塩基は、NaHCO
3、K
2CO
3、NaOH、NaHCO
3、KFである。
【0026】
塩基の量は、式(II)の化合物1当量当たり1から7当量、好ましくは1.5から5当量、より好ましくは1.5から3.5当量から選択される。
【0027】
その環化は、アルカン類、例えばヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ハロアルカン類、好ましくはジクロロメタン、ジクロロエタン、アルコール類、好ましくはメタノール、エタノールもしくはイソプロパノール、ニトリル類、好ましくはアセトニトリルもしくはブチロニトリル、アミド類、好ましくはジメチルホルムアミドもしくはジメチルアセトアミド、エーテル類、例えばジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、ベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、クロロベンゼンから選択される各種溶媒中で行う。
【0028】
環化に特に好ましい溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、アセトニトリルおよびブチロニトリルであり、この反応に最も好ましい溶媒はジクロロメタン、アセトニトリルおよびブチロニトリルである。
【0029】
本発明の別の実施形態によれば、当該環化は、−5℃から50℃の範囲の温度で、より好ましくは0℃から30℃の範囲の温度で、最も好ましくは0℃から室温で行う。
【0030】
概して、反応時間はあまり重要ではなく、反応体積によって決まり得るものであり、好ましくは3から20時間の範囲内、より好ましくは1から5時間の範囲内である。
【0031】
式(III)の化合物および式(II)の化合物の比率は広い範囲内で変わり得るものであり、好ましくは式(II)の化合物1当量当たり(III)0.9から1.5当量の範囲内、より好ましくは1から2.5当量、さらにより好ましくは1から1.5、最も好ましくは1当量である。
【0032】
実施例1
N−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1H−ピラゾール
冷却管、温度計および滴下漏斗を取り付けた三頸フラスコに、塩化メチレン130mLおよびパーフルオロ−2−メチル−2−ペンテン(19.6g、0.065mol)を入れ、水15mLを加えた。混合物を冷却して0℃とし、Et
3N(16.4g、0.16mol)を0℃から5℃の範囲の温度で加えた。混合物をこの温度で15分間撹拌し、40%メチルヒドラジン水溶液(7.4g)をこの混合物に0℃でゆっくり加えた。反応混合物を5℃で1時間、最後に20℃で1.5時間撹拌した。混合物を水で洗浄し(50mLで3回)、有機層をNa
2SO
4で脱水し、溶媒を大気圧下に留去した。粗生成物を減圧蒸留によって精製した。N−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1H−ピラゾールの収量は13.9gであった(75%)。沸点:17mbarで62から65℃。
【0033】
19F NMR δ:53.7(3F)、83.9(3F)、112.1(2F)、125.1(1F)ppm。
【0034】
実施例2
N−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1H−ピラゾール
冷却管、温度計および滴下漏斗を取り付けた2リットル三頸フラスコに、塩化メチレン1300mLおよびパーフルオロ−2−メチル−2−ペンテン(197g、0.65mol)を入れ、水117mLを加えた。混合物を冷却して−0℃とし、Et
3N(164g、1.62mol)を−5℃から5℃の範囲の温度で加えた。混合物をこの温度で15分間撹拌し、メチルヒドラジン水溶液(40重量%)75mLをこの混合物に5℃で2時間以内に加えた。反応混合物を20℃で15から20時間撹拌した。混合物を水で洗浄し、有機層をNa
2SO
4で脱水し、溶媒を大気圧下に留去した。粗生成物を減圧蒸留によって精製した。N−メチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1H−ピラゾールの収量は158gであった(収率85%)。沸点:15から20mbarで62から67℃。
【0035】
19F NMR δ:53.7(3F)、83.9(3F)、112.1(2F)、125.1(1F)ppm。
【0036】
実施例3
パーフルオロ−2−メチル−2−ペンテンおよびN−エチルヒドラジンから同様にN−エチル−3−ペンタフルオロエチル−4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1H−ピラゾールを製造した。
【0037】
収率83%、沸点:18から20mbarで70℃。