特許第6148766号(P6148766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6148766
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】アクチュエータ付き長下肢装具
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20170607BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   A61H3/00 B
   B25J11/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-109755(P2016-109755)
(22)【出願日】2016年6月1日
【審査請求日】2016年6月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『活力ある生涯のためのLast 5X イノベーション』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175722
【氏名又は名称】サンコール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】高橋 玲
(72)【発明者】
【氏名】澤田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】東 善之
(72)【発明者】
【氏名】坪山 直生
(72)【発明者】
【氏名】市橋 則明
(72)【発明者】
【氏名】大畑 光司
(72)【発明者】
【氏名】川口 敏和
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−214504(JP,A)
【文献】 特開2005−211328(JP,A)
【文献】 特開2014−184047(JP,A)
【文献】 特開2010−17464(JP,A)
【文献】 特開2011−120786(JP,A)
【文献】 特開2012−239486(JP,A)
【文献】 特表2015−527167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーの大腿に装着される大腿側装具と、ユーザーの下腿に装着され且つ前記大腿側装具に対してユーザーの膝関節回り回動可能に連結された下腿側装具と、前記大腿側装具に装着され、前記下腿側装具に対して膝関節回りの補助力を付与可能なアクチュエータと、ユーザーの大腿の前後揺動角度である股関節角度に関連する角度関連信号を検出可能な大腿姿勢検出手段と、前記アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、
前記制御装置は、一のサンプリングポイントでの前記角度関連信号に基づいて前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を算出し、当該制御装置に予め記憶されている、大腿位相角と前記下腿側装具に付与すべき補助力との関係を示す補助力制御データに前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を適用して、前記一のサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具に付与すべき補助力を算出し、前記補助力が出力されるように前記アクチュエータの作動制御を実行し、
前記補助力制御データは、ユーザーの体軸より前方側で踵を接地させるヒールコンタクト時点を含むヒールコンタクト期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第1トルクパターンと、ヒールコンタクト後に当該ヒールコンタクトした脚が接地状態で後方側へ相対移動する立脚期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第2トルクパターンと、立脚期の終了時点から立脚していた脚を引き上げて前方側へ相対移動させる遊脚期の初期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝屈曲方向へ回動させて脚の引き上げを補助する為の第3トルクパターンと、前記遊脚期の後期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させる第4トルクパターンとを含むことを特徴とするアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項2】
大腿をユーザーの体軸を基準として前方側及び後方側へ揺動させている際の股関節角速度をそれぞれ正及び負とした場合に、前記制御装置は、算出される股関節角速度が正値からゼロへ移行したタイミングから所定位相角だけ進行した時点をヒールコンタクト時点として認識することを特徴とする請求項に記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項3】
ヒールコンタクトを検出するヒールコンタクト検出手段を備え、
前記制御装置は、前記ヒールコンタクト検出手段によって検出されたタイミングをヒールコンタクト時点として認識することを特徴とする請求項に記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項4】
前記大腿姿勢検出手段は、大腿の角速度を検出する3軸角速度センサを有し、
前記制御装置は、前記角速度センサからの角速度情報に基づき股関節角度を算出し、前記股関節角度とこれを微分して得られる股関節角速度とに基づいて大腿位相角を算出することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項5】
前記大腿姿勢検出手段は、大腿の角速度を検出する3軸角速度センサ及び大腿の加速度を検出する3軸加速度センサを有し、
前記制御装置は、前記3軸角速度センサからの角速度データに基づき算出される第1オイラー角の高周波成分と前記3軸加速度センサからの加速度データに基づき算出される第2オイラー角の低周波成分とを合算して合算オイラー角を算出し、前記合算オイラー角から算出される股関節角度と前記股関節角度から算出される股関節角速度とに基づいて大腿位相角を算出することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項6】
前記制御装置は、大腿位相角を算出する際に用いた股関節角度及び股関節角速度をプロットして歩行周期毎の大腿の周期的動作を表すトラジェクトリ線図を作成することを特徴とする請求項又はに記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項7】
前記制御装置は、大腿位相角を算出する際に用いた股関節角度及び股関節角速度によって画されるベクトル長が所定閾値より小さい場合には、前記アクチュエータの作動を禁止することを特徴とする請求項からの何れかに記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【請求項8】
前記股関節角度の高周波成分を抽出するハイパスフィルターを備え、
前記制御装置は、前記ハイパスフィルターによって抽出された前記股関節角度の高周波成分を微分して前記股関節角速度を得ることを特徴とする請求項からの何れかに記載のアクチュエータ付き長下肢装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ付き長下肢装具に関する。
【背景技術】
【0002】
脚の不自由な人や脳卒中等の為に麻痺を有する人の歩行補助用又はリハビリテーション用の器具として、膝関節をサポートする長下肢装具が利用されており、脚の動きを補助する電動モータ等の駆動体を含むアクチュエータユニットが付設されたアクチュエータ付き長下肢装具も提案されている(下記特許文献1〜3参照)。
【0003】
詳しくは、従来のアクチュエータ付き長下肢装具は、ユーザーの大腿に装着される大腿側装具と、ユーザーの下腿に装着され且つ前記大腿側装具に対してユーザーの膝関節回り回動可能に連結された下腿側装具と、前記大腿側装具に装着され、前記下腿側装具に対して膝関節回りの補助力を付与可能なアクチュエータと、大腿に対する下腿の膝関節回りの回動角度を検出する下腿角度センサと、前記アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記制御装置が、前記下腿角度センサからの検出信号に基づいて前記アクチュエータの作動制御を実行するように構成されている。
【0004】
即ち、前記従来のアクチュエータ付き長下肢装具は、前記アクチュエータによって補助力が付与される制御対象部位である下腿の動き(大腿に対する下腿の膝関節回りの角度)を前記下腿角度センサによって検出し、下腿の動きに基づいて算出される大きさ及び方向の補助力が下腿に付与されるように前記アクチュエータの作動制御を行うものである。
【0005】
しかしながら、脳卒中等の為に麻痺を有する場合には、大腿の歩行動作(股関節回りの大腿の前後揺動動作)は比較的正常に行えるものの、下腿の歩行動作(膝関節回りの下腿の前後揺動動作)は正常に行えないことが多い。
【0006】
このような場合、前記従来のアクチュエータ付き長下肢装具では、正常な歩行動作を行えない下腿の動きに基づいて前記アクチュエータの作動制御を行うことになり、的確な歩行補助力を提供することができないおそれがあった。
【0007】
なお、補助力を付与する付与部と、前記付与部の作動制御を行う制御部と、股関節角度及び股関節角速度の少なくとも一方を検出する検出部と、前記検出部の検出結果に基づいて大腿の位相角を算出する算出部とを備え、前記制御部が、前記位相角に基づいて前記付与部の作動制御を行うように構成された歩行補助装置が提案されている(下記特許文献4参照)。
【0008】
しかしながら、前記特許文献4に記載の歩行補助装置も、補助力を付与すべき制御対象部位の動きを検出し、その検出結果に基づき制御対象部位である大腿に対して補助力を付与する前記付与部の作動制御を行うものであり、前記特許文献1〜3に記載のアクチュエータ付き長下肢装具と共通の技術的思想に基づくものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5724312号公報
【特許文献2】特許第5799608号公報
【特許文献3】特許第5386253号公報
【特許文献4】特開2016−002408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みなされたものであり、下腿に対して膝関節回りの歩行補助力を付与可能なアクチュエータを備えた長下肢装具であって、下腿を正常に歩行動作させることが困難なユーザーに対しても、歩行周期中の歩行状態に応じた適切な下腿への歩行補助力を付与し得るアクチュエータ付き長下肢装具の提供を、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、ユーザーの大腿に装着される大腿側装具と、ユーザーの下腿に装着され且つ前記大腿側装具に対してユーザーの膝関節回り回動可能に連結された下腿側装具と、前記大腿側装具に装着され、前記下腿側装具に対して膝関節回りの補助力を付与可能なアクチュエータと、ユーザーの大腿の前後揺動角度である股関節角度に関連する角度関連信号を検出可能な大腿姿勢検出手段と、前記アクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記制御装置は、一のサンプリングポイントでの前記角度関連信号に基づいて前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を算出し、当該制御装置に予め記憶されている、大腿位相角と前記下腿側装具に付与すべき補助力との関係を示す補助力制御データに前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を適用して、前記一のサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具に付与すべき補助力を算出し、前記補助力が出力されるように前記アクチュエータの作動制御を実行し、前記補助力制御データは、ユーザーの体軸より前方側で踵を接地させるヒールコンタクト時点を含むヒールコンタクト期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第1トルクパターンと、ヒールコンタクト後に当該ヒールコンタクトした脚が接地状態で後方側へ相対移動する立脚期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第2トルクパターンと、立脚期の終了時点から立脚していた脚を引き上げて前方側へ相対移動させる遊脚期の初期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝屈曲方向へ回動させて脚の引き上げを補助する為の第3トルクパターンと、前記遊脚期の後期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させる第4トルクパターンとを含むように構成されているアクチュエータ付き長下肢装具を提供する。
【0012】
例えば、大腿をユーザーの体軸を基準として前方側及び後方側へ揺動させている際の股関節角速度をそれぞれ正及び負とした場合に、前記制御装置は、算出される股関節角速度が正値からゼロへ移行したタイミングから所定位相角だけ進行した時点をヒールコンタクト時点として認識するように構成される。
【0013】
これに代えて、本発明に係るアクチュエータ付き長下肢装具にヒールコンタクトを検出するヒールコンタクト検出手段が備えられる場合には、前記制御装置は、前記ヒールコンタクト検出手段によって検出されたタイミングをヒールコンタクト時点として認識するように構成される。
【0014】
一形態においては、前記大腿姿勢検出手段は、大腿の角速度を検出する3軸角速度センサを有するものとされる。
この場合、前記制御装置は、前記角速度センサからの角速度情報に基づき股関節角度を算出し、前記股関節角度とこれを微分して得られる股関節角速度とに基づいて大腿位相角を算出し得る。
【0015】
他形態においては、前記大腿姿勢検出手段は、大腿の角速度を検出する3軸角速度センサ及び大腿の加速度を検出する3軸加速度センサを有するものとされる。
この場合、前記制御装置は、前記3軸角速度センサからの角速度データに基づき算出される第1オイラー角の高周波成分と前記3軸加速度センサからの加速度データに基づき算出される第2オイラー角の低周波成分とを合算して合算オイラー角を算出し、前記合算オイラー角から算出される股関節角度と前記股関節角度から算出される股関節角速度とに基づいて大腿位相角を算出し得る。
【0016】
好ましくは、前記制御装置は、大腿位相角を算出する際に用いた股関節角度及び股関節角速度をプロットして歩行周期毎の大腿の周期的動作を表すトラジェクトリ線図を作成するように構成される。
【0017】
好ましくは、前記制御装置は、大腿位相角を算出する際に用いた股関節角度及び股関節角速度によって画されるベクトル長が所定閾値より小さい場合には、前記アクチュエータの作動を禁止するように構成される。
【0018】
好ましくは、本発明に係るアクチュエータ付き長下肢装具は、前記股関節角度の高周波成分を抽出するハイパスフィルターを備え得る。
この場合、前記制御装置は、前記ハイパスフィルターによって抽出された前記股関節角度の高周波成分を微分して前記股関節角速度を得るように構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るアクチュエータ付き長下肢装具によれば、制御装置が、状態姿勢検出手段によって検出される、ユーザーの大腿の前後揺動角度である股関節角度に関連する角度関連信号に基づいて大腿位相角を算出し、当該制御装置に予め記憶されている、大腿位相角と下腿側装具に付与すべき補助力との関係を示す補助力制御データに前記大腿位相角を適用して、このサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具に付与すべき補助力を算出し、前記補助力が出力されるようにアクチュエータの作動制御を実行し、前記補助力制御データは、ユーザーの体軸より前方側で踵を接地させるヒールコンタクト時点を含むヒールコンタクト期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第1トルクパターンと、ヒールコンタクト後に当該ヒールコンタクトした脚が接地状態で後方側へ相対移動する立脚期において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第2トルクパターンと、立脚期の終了時点から立脚していた脚を引き上げて前方側へ相対移動させる遊脚期の初期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝屈曲方向へ回動させて脚の引き上げを補助する為の第3トルクパターンと、前記遊脚期の後期段階において、前記下腿側装具を膝関節回り膝伸展方向へ回動させる第4トルクパターンとを含むように構成されているので、下腿を正常に歩行動作させることが困難なユーザーに対しても、歩行周期中の歩行状態に応じた適切な下腿への歩行補助力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るアクチュエータ付き長下肢装具の斜視図である。
図2図2は、前記長下肢装具の部分正面図である。
図3図3は、前記長下肢装具の部分分解斜視図であって、ユーザー幅方向外方から見た状態を示している。
図4図4は、前記長下肢装具の部分分解斜視図であって、ユーザー幅方向内方から見た状態を示している。
図5図5は、前記長下肢装具における大腿フレーム及び下腿フレームの分解斜視図である。
図6図6は、前記長下肢装具におけるアクチュエータユニットの部分縦断面図である。
図7図7は、図2におけるVII-VII線に沿った端面図である。
図8図8は、前記長下肢装具における股関節角度算出のブロック図である。
図9図9は、前記長下肢装具における制御装置によって算出される股関節角度θ及び股関節角速度ωを一歩行周期に亘ってプロットすることによって得られるトラジェクトリ線図である。
図10図10は、前記制御装置によって算出された大腿位相角φを歩行周期毎にプロットしたグラフである。
図11図11は、一歩行周期中における歩行状態の推移を示す模式図である。
図12図12は、前記制御装置に予め記憶される、一歩行周期中における歩行状態とアクチュエータユニットが出力すべき補助力との関係を示す補助力制御データの一例を示すグラフである。
図13図13は、前記制御装置によって実行されるアクチュエータ作動制御モードのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るアクチュエータ付き長下肢装具の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1及び図2に、それぞれ、本実施の形態に係る長下肢装具1の斜視図及び部分正面図を示す。
また、図3及び図4に、それぞれ、前記長下肢装具ユーザー1の幅方向外方側及び内方側から視た部分分解斜視図を示す。
【0022】
前記長下肢装具1は、脚の不自由な人や脳卒中等の為に片麻痺を有するユーザーが歩行補助の為、又は、リハビリテーションの為に装着する器具であり、付設されるアクチュエータユニット100によってユーザーの下腿に対して歩行補助力を付与し得るように構成されている。
【0023】
詳しくは、図1図4に示すように、前記長下肢装具1は、ユーザーの大腿に装着される大腿側装具10と、ユーザーの下腿に装着された下腿側装具30と、前記大腿側装具10に装着され、前記下腿側装具30に対して膝関節回りの補助力を付与可能なアクチュエータユニット100とを備えている。
【0024】
本実施の形態においては、前記大腿側装具10は、ユーザーの大腿に装着される大腿装着体15と、前記大腿装着体15に連結された大腿フレーム20とを有している。
【0025】
前記大腿装着体15は、ユーザーの大腿に装着可能とされる限り種々の形態を取り得る。
本実施の形態においては、図1に示すように、前記大腿装着体15は、ユーザーの大腿が挿入可能で且つ大腿にフィットするような大きさの装着孔を有する筒状とされている。
【0026】
図1図4に示すように、前記大腿フレーム20は、ユーザーの幅方向外方側においてユーザーの大腿に沿って上下に延びる第1大腿フレーム20(1)を有している。
【0027】
本実施の形態においては、図1図4に示すように、前記大腿フレーム20は、さらに、前記大腿装着体10に挿入されたユーザーの大腿を挟んで前記第1大腿フレーム20(1)と対向するようにユーザーの幅方向内方側においてユーザーの大腿に沿って上下に延びる第2大腿フレーム20(2)を有している。
【0028】
本実施の形態においては、前記下腿側装具30は、ユーザーの下腿に装着される下腿装着体35と、前記下腿装着体35に連結された下腿フレーム40とを有している。
【0029】
前記下腿装着体35は、ユーザーの下腿に装着可能とされる限り種々の形態を取り得る。
本実施の形態においては、図1に示すように、前記下腿装着体35は、ユーザーの下腿が挿入可能で且つ下腿にフィットするような大きさの装着孔を有する筒状とされている。
【0030】
図1図4に示すように、前記下腿フレーム40は、ユーザーの幅方向外方側においてユーザーの下腿に沿って上下に延びる第1下腿フレーム40(1)を有している。
【0031】
本実施の形態においては、図1図4に示すように、前記下腿フレーム40は、さらに、前記下腿装着体30に挿入されたユーザーの下腿を挟んで前記第1下腿フレーム40(1)と対向するようにユーザーの幅方向内方側においてユーザーの下腿に沿って上下に延びる第2下腿フレーム40(2)を有している。
【0032】
本実施の形態においては、前記下腿側装具30は、さらに、ユーザーが足を載置する足装着体65と、前記足装着体65を支持し且つ前記下腿フレーム40に連結される足フレーム60とを有している。
【0033】
前記下腿側装具30は、前記大腿側装具10に対してユーザーの膝関節回り回動可能に連結されている。
即ち、前記下腿フレーム40が前記大腿フレーム20に対してユーザーの膝関節の揺動軸線X回り回動可能に連結されている。
【0034】
前述の通り、本実施の形態においては、前記大腿フレーム20は前記第1及び第2大腿フレーム20(1)、20(2)を有し、前記下腿フレーム40は第1及び第2下腿フレーム40(1)、40(2)を有している。
【0035】
従って、前記第1下腿フレーム40(1)が前記第1大腿フレーム20(1)に揺動軸線X回り回動可能に連結され、前記第2下腿フレーム40(2)が前記第2大腿フレーム20(2)に揺動軸線X回り回動可能に連結されている。
【0036】
図5に、前記大腿フレーム20及び前記下腿フレーム40の分解斜視図を示す。
図5に示すように、前記大腿フレーム20は、上下方向に延びる大腿フレーム本体21と、前記大腿フレーム本体21の下端部を挟むように当該大腿フレーム本体21にピン連結又は溶接等によって固着された一対の連結片22a、22bとを有している。
【0037】
前記一対の連結片22a、22bは、前記大腿フレーム本体21よりユーザーの脚から離間する側に位置する外側連結片22aと、前記大腿フレーム本体21よりユーザーの脚に近接する側に位置する内側連結片22bとを有している。
【0038】
前記下腿フレーム40は、前記一対の連結片22a、22bの間に介挿された状態で前記揺動軸線X回り回動可能に前記一対の連結片22a、22bに連結されている。
【0039】
詳しくは、前記一対の連結片22a、22b及び前記下腿フレーム40の上部には前記揺動軸線Xと同軸上においてユーザー幅方向に沿った取付孔23、43が形成されている。
【0040】
前記アクチュエータユニット100が装着される側(ユーザーの対応する脚よりユーザー幅方向外方側)に位置する、前記第1大腿フレーム20(1)及び前記第1下腿フレーム40(1)は、第1回動連結具50(1)を介して前記揺動軸線X回り回動可能に連結されている。
【0041】
前記第1回動連結具50(1)は、前記取付孔23、43内において互いに対して分離可能に連結される第1雌ネジ部材51(1)及び第1雄ネジ部材55(1)を有している。
【0042】
前記第1雌ネジ部材51(1)は、前記内側連結片22bの側から前記取付孔23に挿入される筒部52と、前記取付孔23よりユーザーの脚に近接する位置において前記筒部52から径方向外方へ延在されるフランジ部53とを有しており、前記筒部52には自由端側に開くネジ穴が形成されている。
【0043】
前記第1雄ネジ部材55(1)は、前記外側連結片22aの側から前記取付孔23内に挿入される筒部56と、前記取付孔23よりユーザーの脚から離間する位置において前記筒部56から延在された係合凸部57とを有している。
【0044】
前記第1雄ネジ部材55(1)の筒部56には、前記取付孔23、43内において前記第1雌ネジ部材51(1)の前記ネジ穴に螺入される雄ネジが形成されている。
【0045】
前記第1雄ネジ部材55(1)に形成された雄ネジ及び前記第1雌ネジ部材51(1)の雌ネジを、前記取付孔23、43内で螺入させることによって、前記第1下腿フレーム40(1)が前記第1大腿フレーム20(1)に対して揺動可能に連結される。
【0046】
ユーザーの対応する脚よりユーザー幅方向内方側に位置する、前記第2大腿フレーム20(2)及び前記第2下腿フレーム40(2)は、第2回動連結具50(2)を介して前記揺動軸線X回り回動可能に連結されている。
【0047】
前記第2回動連結具50(2)は、前記取付孔内23、43において互いに対して分離可能に連結される第2雌ネジ部材51(2)及び第2雄ネジ部材55(2)を有している。
【0048】
前記第2雌ネジ部材51(2)は、前記第1雌ネジ部材51(1)と同一構成を有している。
【0049】
前記第2雄ネジ部材55(2)は、前記外側連結片22aの側から前記取付孔23内に挿入される筒部56と、前記取付孔23よりユーザー幅方向内方側において前記筒部56から径方向外方へ延在されたフランジ部58とを有している。
【0050】
前記第2雄ネジ部材55(2)の筒部56には、前記取付孔23、43内において前記第2雌ネジ部材51(2)の前記ネジ穴に螺入される雄ネジが形成されている。
【0051】
前記第2雄ネジ部材55(2)に形成された雄ネジ及び前記第2雌ネジ部材51(2)の雌ネジを、前記取付孔23、43内で螺入させることによって、前記第2下腿フレーム40(2)が前記第2大腿フレーム20(2)に対して揺動可能に連結される。
【0052】
なお、図5の符号53aは、前記フランジ部53に設けられた径方向外方突起であり、前記内側連結片22bに形成された凹部に係合することで、前記雌ねじ部材51が前記内側連結片22b(即ち、前記大腿フレーム20)に対して軸線回り相対回転不能に保持されるようになっている。
【0053】
本実施の形態においては、前記長下肢装具1は、図1図4に示すように、さらに、前記下腿フレーム40の前記大腿フレーム20に対する揺動軸線X回りの回動を禁止する為のロック部材70を有している。
【0054】
前記ロック部材70は、前記大腿フレーム20及び前記下腿フレーム40を囲繞して両フレーム20、40を連結し、前記下腿フレーム40が前記大腿フレーム20に対して前記揺動軸線X回りに相対回転することを防止するロック状態示す状態(図1図4に示す状態)と、前記大腿フレーム20及び前記下腿フレーム40の連結を解除し、前記下腿フレーム40が前記大腿フレーム20に対して前記揺動軸線X回りに相対回転することを許容する解除状態とを取り得るように構成されている。
【0055】
なお、本実施の形態においては、前記ロック部材70は、前記第1大腿フレーム20(1)及び前記第1下腿フレーム40(1)に作用するユーザー幅方向外側に位置する第1ロック部材70(1)と、前記第2大腿フレーム20(2)及び前記第2下腿フレーム40(2)に作用するユーザー幅方向内側に位置する第2ロック部材70(2)とを有している。
【0056】
また、本実施の形態においては、図5に示すように、前記下腿フレーム40の上端面45(前記大腿フレーム20に対向する端面)は前記揺動軸線X回り一方側から他方側へ行くに従って前記揺動軸線Xからの径方向距離が増大するような傾斜面とされており、前記大腿フレーム20の下端面25(前記下腿フレーム40に対向する端面)は前記下腿フレーム40の上端面45に対応した傾斜面とされている。
【0057】
斯かる構成により、前記下腿フレーム40は、前記大腿フレーム20に対して前記揺動軸線X回り一方側(ユーザーの下腿が大腿に対して屈曲する方向)へのみ回動が許容され、他方側へは、下腿が大腿に対して伸展することを許容しつつそれ以上は回動しないようになっている。
【0058】
図6に、前記アクチュエータユニット100の部分縦断面図を示す。
図1図4及び図6に示すように、前記アクチュエータユニット100は、上部フレーム120と、前記上部フレーム120に枢支軸線Y回り回動可能に連結された下部フレーム340と、前記下部フレーム340を枢支軸線Y回りに回動させる為の駆動力を発生する電動モータ等の駆動体110と、前記上部フレーム340を前記大腿フレーム20に連結させる上部連結体360と、前記枢支軸線Yを前記揺動軸線Xと同軸上に位置させる回動中心連結体180と、下部連結体370とを備えている。
【0059】
前記上部フレーム120及び前記下部フレーム340には、それぞれ、前記枢支軸線Yと同軸上に配置された上部フレーム取付孔120a及び下部フレーム取付孔140aが設けられている。
【0060】
前記下部フレーム取付孔140aには回動連結軸151が固着されており、前記回動連結軸151が軸受部材155を介して前記上部フレーム取付孔120aに軸線回り回動可能に支持されており、これにより、前記下部フレーム340が前記上部フレーム120に前記枢支軸線Y回り回動可能に連結されている。
【0061】
前記駆動体110は、電動モータ等の駆動源111と、前記駆動源111によって発生された駆動力を前記下部フレーム340に伝達する伝動機構115とを有している。
【0062】
前記駆動源111は前記上部フレーム120の外側面に固着されている。
本実施の形態においては、図6に示すように、前記駆動源111は、出力軸111aが下方へ延在された状態で前記上部フレーム120の外側面に固着されている。
【0063】
本実施の形態においては、図6に示すように、前記伝動機構115は、前記出力軸111aに相対回転不能に支持された駆動側ベベルギヤ116と、前記枢支軸線Y回りに前記下部フレーム340と一体的に回転するように前記下部フレーム340に連結された状態で前記駆動側ベベルギヤ116に噛合された従動側ベベルギヤ117とを備えている。
【0064】
なお、前記アクチュエータユニット100は、前記回動連結軸151の軸線回りの回転角度を検出するセンサ(図示せず)を有することができ、前記センサによって前記回動連結軸151の軸線回りの回転角度を検出して、前記下部フレーム340の前記枢支軸線Y回りの揺動角度を認識することができる。
【0065】
図3及び図4に示すように、前記上部連結体360は、枢支軸線Yに平行で且つユーザー幅方向外方(前記上部フレーム120の方向)に開くように前記第1大腿フレーム20(1)に設けられた係合孔361と、前記係合孔361に係合可能なように前記上部フレーム120に設けられた係合ピン362とを有している。
【0066】
本実施の形態においては、前記上部連結体360には、ロック機構が備えられている。
前記ロック機構は、図4に示すように、前記係合ピン362の外表面から径方向に沿って進退自在とされ、前記係合ピンの外表面から径方向外方へ突出された係合位置及び前記係合ピン内に退避された解除位置を取り得る凸部366と、前記凸部366を係合位置へ向けて付勢する付勢部材(図示せず)と、前記係合ピン362が前記係合孔361に係入された状態において前記凸部366と係合するように前記係合孔に設けられた凹部(図示せず)と、外部からの人為操作に応じて前記付勢部材の付勢力に抗して前記凸部366を解除位置へ押動する解除操作部367とを有している。
【0067】
図4及び図6に示すように、前記回動中心連結体180は、前記揺動軸線Xと同軸上に位置するように前記第1大腿フレーム20(1)又は前記第1下腿フレーム40(1)に設けられた装具側回動中心連結部材と、前記枢支軸線Yと同軸上に位置するように前記上部フレーム120又は前記下部フレーム340に設けられたアクチュエータ側回動中心連結部材185とを有している。
【0068】
本実施の形態においては、前記第1回動連結具50(1)における前記係合凸部27が前記装具側回動中心連結部材として作用する。
【0069】
前記アクチュエータ側回動中心連結部材185は、前記装具側回動中心連結部材(本実施の形態においては前記係合凸部57)に着脱可能に凹凸係合するアクチュエータ側凹凸係合部185aを有している。
【0070】
本実施の形態においては、図6に示すように、前記上部フレーム120に、前記装具側回動中心連結部材(本実施の形態においては前記係合凸部57)が着脱可能且つ軸線回り回動可能に係入される係合凹部が形成されており、前記係合凹部が前記アクチュエータ側凹凸係合部185aとして作用する。
【0071】
図3図4及び図6に示すように、前記下部連結体370は、前記下部フレーム340が前記上部フレーム120に対して枢支軸線Y回りに回動する動きに応じて前記第1下腿フレーム40(1)が前記第1大腿フレーム20(1)に対して揺動軸線X回りに回動するように、前記下部フレーム340を前記第1下腿フレーム40(1)に連結させる。
【0072】
詳しくは、図6に示すように、前記下部フレーム340は、前記回動連結軸151を介して前記上部フレーム120に枢支軸線Y回り回動可能に連結される基端部341と、前記基端部341から前記第1下腿フレーム40(1)に近接する側へ延びる先端部345とを有している。
【0073】
図6等に示すように、本実施の形態においては、前記基端部341は、前記従動側ベベルギヤ117を枢支軸線Y回りに一体回転するように支持しており、これにより、前記駆動体110からの回転動力によって前記従動側ベベルギヤ117及び前記基端部341が枢支軸線Y回りに一体回動する。
本実施の形態においては、前記基端部341は略垂直に沿った平板状とされている。
【0074】
図4及び図6に示すように、前記先端部345は、先端面346が前記第1下腿フレーム40(1)におけるユーザー幅方向外方を向く外側面と対向する対向面を形成している。
前記先端面346は、前記第1下腿フレーム40(1)の幅方向(即ち、ユーザー前後方向)に対応した幅方向Dに関し所定長さを有している。
本実施の形態においては、前記先端部345は略水平に沿った平板状とされており、先端面346は略矩形とされている。
【0075】
図4及び図6に示すように、前記下部連結体370は、前記先端部345に形成された支持孔371と、前記支持孔371に進退自在に収容された係合ピン372と、前記係合ピン372を付勢する付勢ばね373と、前記先端部345に設けられた係合アーム375とを有している。
【0076】
前記支持孔371は、前記対向面の幅方向中間領域において前記対向面に開き且つ前記第1下腿フレーム40(1)の外側面に対して略直交する方向に延びている。
【0077】
前記係合ピン372は、先端が前記対向面から突出された突出位置及び前記突出位置より前記第1下腿フレーム40(1)から離間するように前記支持孔371に入り込んだ退避位置を取り得るように、前記支持孔371に軸線方向移動可能に収容されている。
【0078】
前記付勢ばね373は、前記係合ピン371を突出位置へ向けて付勢する。
本実施の形態においては、前記付勢ばね373は、前記係合ピン371の基端部と前記支持孔371の底面との間に介挿されている。
【0079】
詳しくは、本実施の形態においては、前記支持孔371は、一端側が前記対向面に開き且つ他端側が前記対向面とは反対側の裏面に開くように前記先端部345に形成されており、前記支持孔371の他端側は前記先端部345の裏面に固着される閉塞プレート348によって閉じられている。この場合、前記閉塞プレート348が前記支持孔371の底面を形成する。
【0080】
前記係合アーム375は、前記対向面から前記第1下腿フレーム40(1)に近接する側へ枢支軸線Yに沿って延びる軸方向延在部376を有している。
前記軸方向延在部376は、前記第1下腿フレーム40(1)が前記下部フレーム340の幅方向に関し前記軸方向延在部376及び前記係合ピン372の間に配置可能なように、前記係合ピン372との間の幅方向離間距離が設定されている。
【0081】
即ち、前記第1下腿フレーム40(1)がユーザー前後方向に関し前記係合ピン372及び前記軸方向延在部376の間に位置し得るように、前記係合ピン372及び前記軸方向延在部376の間の幅方向離間距離が前記第1下腿フレーム40(1)の幅よりも大とされている。
【0082】
ここで、前記下部連結体370による前記下部フレーム340の前記第1下腿フレーム40(1)への装着動作について説明する。
図7に、図2におけるVII-VII線に沿った端面図を示す。
【0083】
前記下部フレーム340を前記第1下腿フレーム40(1)に前記下部連結体370によって連結させる際には、まず、前記係合ピン372を前記付勢ばね373の付勢力に抗して退避位置に位置させつつ、前記第1下腿フレーム40(1)が枢支軸線Yに沿った方向に関し前記軸方向延在部376と重合する位置まで前記アクチュエータユニット100を長下肢装具本体に対して枢支軸線Y方向に相対移動させる。
【0084】
この際、好ましくは、前記係合ピン372の退避位置への移動を前記第1下腿フレーム40(1)の外側面を介して行うことができる。
即ち、前記第1下腿フレーム40(1)の外側面を前記係合ピン372に当接させた状態で前記係合ピン372が突出位置から退避位置へ移動するように、前記アクチュエータユニット100を前記第1下腿フレーム40(1)に対して近接方向へ相対移動させることができる。
この状態を図7に破線で示す。
【0085】
図7において破線で示された状態から、前記下部フレーム340を枢支軸線Y回り連結方向(図7においては時計回り方向)に回動させると、前記係合ピン372と前記第1下腿フレーム40(1)との当接が解除されて、前記係合ピン372が前記付勢ばね373の付勢力によって退避位置から突出位置に位置される。
【0086】
これにより、前記第1下腿フレーム40(1)は、前記下部フレーム340の幅方向(ユーザー前後方向)に関し前記係合ピン372及び前記軸方向延在部376によって挟まれることになり(図7の実線参照)、前記下部フレーム340が前記第1下腿フレーム40(1)に対してフレーム長手方向へは相対移動可能な状態で、前記下部フレーム340の前記上部フレーム120に対する前記枢支軸線Y回りの回動動作に連動して前記第1下腿フレーム40(1)を前記大腿フレーム20に対して前記揺動軸線X回りに回動させる連動状態が現出される。
【0087】
なお、装着時とは逆の操作を行うことによって、前記下部連結体370によって前記第1下腿フレーム40(1)に連結されている前記下部フレーム340を取り外すことができる。
即ち、前記下部連結体370によって前記下部フレーム340が前記第1下腿フレーム40(1)に連結されている際には、前記係合ピン372は前記付勢ばね373の付勢力によって突出位置に位置されている。
【0088】
この突出位置の前記係合ピン372を人為操作力によって前記付勢ばね373の付勢力に抗して退避位置まで押動しつつ、前記下部フレーム340を枢支軸線Y回り解除方向(図7においては反時計回り方向)に回動させて、前記係合ピン372の先端部が前記第1下腿フレーム40(1)の外側面に当接する状態(図7の破線の状態)を現出させる。
【0089】
その後に、前記第1下腿フレーム40(1)及び前記下部フレーム340を互いに対して離間する方向へ相対移動させることによって、前記下部フレーム340を前記第1下腿フレーム40(1)から取り外すことができる。
【0090】
好ましくは、前記係合アーム375は、前記軸方向延在部376から前記対向面の幅方向Wに関し前記係合ピン372に近接する方向へ延び、前記下部フレーム340が前記第1下腿フレーム40(1)に連結された状態において前記第1下腿フレーム40(1)の内側面(ユーザー幅方向に関し内側を向く側面)と対向する幅方向延在部377を含むものとされる。
【0091】
前記幅方向延在部377は、前記第1下腿フレーム40(1)が前記係合ピン372、前記対向面を形成する前記先端面346、前記軸方向延在部376及び前記幅方向延在部377によって囲まれる保持空間370S(図4参照)内に配置可能なように、前記先端面346との間の軸方向離間距離が前記第1下腿フレーム40(1)の厚みよりも大となるように構成される。
【0092】
前記係合アーム375に前記幅方向延在部377を備えることによって、前記下部フレーム340が前記下部連結体370によって前記第1下腿フレーム40(1)に連結されている状態において、前記下部フレーム340及び前記第1下腿フレーム40(1)が枢支軸線Y方向に沿って離間する方向へ相対移動することを有効に防止することができ、これにより、前記下部フレーム340が意に反して前記第1下腿フレーム40(1)から脱離することを有効に防止することができる。
【0093】
本実施の形態においては、前記係合アーム375は、前記対向面の幅方向一方側及び他方側にそれぞれ設けられた第1及び第2係合アーム375(1)、375(2)を有しており、図7の破線で示す状態から前記下部フレーム340を枢支軸線Y回りに何れの方向に回動させても、前記下部フレーム340を前記第1下腿フレーム40(1)に連結させ得るようになっている。
【0094】
また、本実施の形態においては、図7に示すように、揺動軸線Xが前記第1下腿フレーム40(1)の幅方向(ユーザー前後方向)の中心に対して、前記第1下腿フレーム40(1)の幅方向(ユーザー前後方向)一方側に偏位されている。図7においては、揺動軸線Xは前記第1下腿フレーム40(1)の幅方向中心に対して、ユーザー前後方向に関し後方へ偏位されている。
【0095】
このような場合には、前記係合ピン372を前記下部フレーム40の幅方向(ユーザー前後方向)の中央に配置させると共に、前記係合アーム375が、前記係合ピン372を挟んで前記下部フレーム40の幅方向一方側及び他方側(ユーザー前後方向に関し前方側及び後方側)に位置する前記第1及び第2係合アーム375(1)、375(2)を有するように構成することで、前記アクチュエータユニット100を長下肢装具1の左足側及び右足側の何れにも装着させることができる。
【0096】
即ち、前記長下肢装具1の左足側に前記アクチュエータユニット100を装着させる場合には、前記係合ピン372と前記第1係合アーム375(1)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟む一方、前記長下肢装具1の右足側に前記アクチュエータユニット100を装着させる場合には、前記係合ピン372と前記第2係合アーム375(2)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟むことができる。
【0097】
なお、本実施の形態においては、図7に示すように、前記アクチュエータユニット100は、前記係合ピン372とユーザー前後方向に関し前方に位置する前記第1係合アーム375(1)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟むように装着されているが、前記第1下腿フレーム40(1)を前記第1大腿フレーム20(1)に対して回動させる回動角度を広げたい場合には、前記アクチュエータユニット100を、前記係合ピン372とユーザー前後方向に関し後方に位置する前記第2係合アーム375(2)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟むように装着させることができる。
【0098】
即ち、前記係合ピン372とユーザー前後方向に関し前方に位置する前記第1係合アーム375(1)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟むと、前記下部フレーム340の初期姿勢(前記アクチュエータユニット100を装着した状態でユーザーが略直立姿勢と取る際の前記下部フレーム340の姿勢であり、図7の実線で示す姿勢)が、ユーザー幅方向内方から視た際に、水平姿勢(図7の破線で示す姿勢)から枢支軸線Y回りに時計回り方向へ所定角度αだけ回転された姿勢をとることになる。
【0099】
ここで、前記アクチュエータユニット100付きの長下肢装具1をユーザーが左脚に装着して歩行する際の左脚の動きを考えると、下腿が大腿に対して屈曲される動きを行う際には前記第1下腿フレーム40(1)はユーザー幅方向内方から視た状態において前記第1大腿フレーム20(1)に対して時計回り方向へ回動することになる。
【0100】
従って、前記アクチュエータユニット100を前記長下肢装具1に装着させた状態の初期姿勢において、ユーザー幅方向内方から視た際に、前記下部フレーム340が水平姿勢(図7の破線で示す姿勢)から枢支軸線Y回りに時計回り方向へ所定角度αだけ回転されているとすると、ユーザーが膝を曲げる動作をアシストすべく下腿を大腿に対して屈曲方向へ押動できる範囲、つまり、前記下部フレーム340を、ユーザー幅方向内方から視た際に枢支軸線Y回り時計回り方向へ回動できる回動範囲が、水平姿勢を基準にして前記所定角度α分だけ狭まることになる。
【0101】
これに対し、前記係合ピン372とユーザー前後方向に関し後方に位置する前記第2係合アーム375(2)とによって前記第1下腿フレーム40(1)を挟むように、前記アクチュエータユニット100を装着させれば、前記下部フレーム340は、初期姿勢(ユーザーが略直立状態となる姿勢)において、ユーザー幅方向内方から視た際に、水平姿勢(図7の破線で示す姿勢)から枢支軸線Y回りに反時計回り方向へ所定角度αだけ回転された姿勢をとることになる。
【0102】
従って、ユーザーの歩行動作をアシストすべく膝を曲げる方向へ押動力を付加できる範囲、つまり、前記下部フレーム340をユーザー幅方向内方から視た際に枢支軸線Y回り時計回り方向へ回動できる回動範囲を、水平姿勢を基準にして前記所定角度α分だけ広げることができる。
【0103】
ここで、本実施の形態に係る長下肢装具1の制御構造について説明する。
本実施の形態に係る長下肢装具1は、ユーザーの大腿姿勢に基づいて、下腿に対して歩行補助力を付与する前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うように構成されている。
即ち、前記長下肢装具1は、制御対象部位である下腿とは異なる大腿の動きを検出し、大腿の動きに基づいて制御対象部位である下腿に対して歩行補助力を付与する前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うように構成されている。
【0104】
具体的には、図1及び図3に示すように、前記長下肢装具1は、ユーザーの大腿揺動角度に関連する角度関連信号を検出可能な大腿姿勢検出手段510と、前記アクチュエータユニット100の作動制御を司る制御装置500とを備えている。
【0105】
前記大腿姿勢検出手段510は、一歩行周期中に、予め定められた所定タイミング毎の複数のサンプリングポイントにおいて、前記角度関連信号を検出し、前記制御装置500に送信するように構成されている。
【0106】
前記制御装置500は、前記大腿姿勢検出手段510や人為操作部材等から入力される信号に基づいて演算処理を実行する制御演算手段を含む演算部と、制御プログラムや制御データ等を記憶するROM,設定値等を電源を切っても失われない状態で保存し且つ前記設定値等が書き換え可能とされた不揮発性記憶手段及び前記演算部による演算中に生成されるデータを一時的に保持するRAM等を含む記憶部とを備えている。
【0107】
前記制御装置500は、一のサンプリングポイントでの前記角度関連信号に基づいて前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を算出し、当該制御装置500に予め記憶されている、大腿位相角と前記下腿側装具に付与すべき補助力の大きさとの関係を示す補助力制御データに前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を適用して前記一のサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具30に付与すべき補助力の大きさを算出し、前記大きさの補助力が出力されるように前記アクチュエータユニット100の作動制御を実行するように構成されている。
即ち、前記制御装置500は、一のサンプリングポイントでの前記角度関連信号に基づいて前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を算出する大腿位相角算出手段、大腿位相角及び前記下腿側装具に付与すべき補助力の大きさの関係を示す補助力制御データに前記大腿位相角算出手段によって算出された大腿位相角を適用して前記一のサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具30に付与すべき補助力の大きさを算出する補助力算出手段、並びに、前記補助力算出手段によって算出された大きさの補助力が出力されるように前記アクチュエータユニット100の作動制御を実行するアクチュエータ作動制御手段として作用するように構成されている。
【0108】
このように、大腿の位相角に基づいて、下腿に対して歩行補助力を付与する前記アクチュエータユニット100の作動制御を実行することにより、脳卒中等によって片麻痺を有するユーザーに対しても的確な歩行補助力を供給することができる。
【0109】
即ち、アクチュエータユニットによって歩行補助力を付与するように構成された従来の歩行補助装置は、前記アクチュエータユニットによって補助力が付与される制御対象部位の動きを検出し、その検出結果に基づき前記アクチュエータユニットの作動制御を行うように構成されている。
【0110】
例えば、大腿に対して歩行補助力を供給する従来の歩行補助装置においては、大腿の動きの検出結果に基づき、大腿に対して歩行補助力を付与するアクチュエータの作動制御を行うものとされている。
また、下腿に対して歩行補助力を供給する従来の歩行補助装置においては、下腿の動きの検出結果に基づき、下腿に対して歩行補助力を付与するアクチュエータの作動制御を行うものとされている。
【0111】
しかしながら、脳卒中等の為に片麻痺を有する患者の場合、大腿の歩行動作(股関節回りの前後揺動動作)は比較的正常に行えるものの、下腿の歩行動作(膝関節回りの前後揺動動作)は正常に行えないことが多い。
【0112】
このような患者に対して下腿への歩行補助力を付与しようとすると、前記従来の歩行補助装置においては、正常な歩行動作を行えない下腿の動きに基づいて、下腿に対して歩行補助力を提供するアクチュエータの作動制御を行うことになり、的確な歩行補助力を提供することができないおそれがある。
【0113】
これに対し、本実施の形態に係る前記長下肢装具1は、前述の通り、大腿位相角に基づいて、下腿に対して歩行補助力を付与する前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うように構成されている。
従って、ユーザーが脳卒中等によって片麻痺を有する場合であっても、下腿に対して的確な歩行補助力を供給することができる。
【0114】
前記大腿姿勢検出手段510は、大腿の揺動角度(股関節角度)を直接又は間接的に検出し得る限り、ジャイロセンサ、加速度センサ、ロータリーエンコーダ等の種々の形態を有し得る。
例えば、前記大腿姿勢検出手段510が加速度センサのみを有するように構成することも可能であり、この場合には、股関節角度を算出することなく、前記加速度センサの加速度(もしくは位置)と速度から歩行中の位相角を算出することができる。
なお、本実施の形態に係る前記長下肢装具1においては、前記大腿姿勢検出手段510は、大腿の角速度を検出可能な3軸角速度センサ(ジャイロセンサ)511(下記図8参照)を有するものとされており、前記制御装置500が、前記3軸角速度センサ511によって検出される大腿の角速度を積分することで股関節角度を算出するように構成されている。
【0115】
このように、前記3軸角速度センサ511によって検出される角速度に基づいて股関節角度を算出することにより、ロータリーエンコーダによって股関節角度を検出する構成に比して、前記長下肢装具1の設計自由度を向上させることができる。
【0116】
即ち、ロータリーエンコーダによって股関節角度を検出する場合には、胴体に固定された胴体側検出子と、大腿と一体的に揺動するように大腿に固定された大腿側検出子との相対移動角度を検出する必要があり、従って、前記固体側検出子及び前記大腿側検出子がそれぞれ胴体及び大腿に対して位置ズレしないように、前記両検出子を装着する必要がある。
【0117】
これに対し、前記3軸角速度センサ511によって検出される角速度に基づいて股関節角度を算出する方法によれば、前述のような制限を受けることが無く、前記長下肢装具1の設計自由度を向上させることができる。
【0118】
図8に、股関節角度の算出方法のブロック図を示す。
図8に示すように、本実施の形態に係る前記長下肢装具1においては、前記大腿姿勢検出手段510は、前記3軸角速度センサ511に加えて、3軸加速度センサ515を有している。
【0119】
この場合、前記制御装置500は、前記3軸角速度センサ511からの角速度データに基づき算出される第1オイラー角の高周波成分と前記3軸加速度センサ515からの加速度データに基づき算出される第2オイラー角の低周波成分とを合算して合算オイラー角を算出し、前記合算オイラー角から算出される股関節角度と前記股関節角度から算出される股関節角速度とに基づいて大腿位相角を算出するように構成される。
【0120】
詳しくは、図8に示すように、前記制御装置500は、所定サンプリングタイム毎に前記3軸角速度センサ511からセンサ座標軸を基準とした角速度データを入力し、前記角速度データを所定の変換式を用いてセンサ座標軸とグローバル座標軸(鉛直方向を基準とする空間座標軸)との相関を示す角速度データ(オイラー角速度)に変換する。
そして、前記制御装置500は、前記角速度データ(オイラー角速度)を積分することで前記第1オイラー角を算出する。
【0121】
好ましくは、前記制御装置500は、静止時に前記3軸角速度センサ511から入力される角速度データを用いて、所定サンプリングタイム毎に前記3軸角速度センサ511から入力されるセンサ座標軸を基準とした角速度データのドリフト除去を行うことができる。
【0122】
また、前記制御装置500は、所定サンプリング間隔毎に前記3軸加速度センサ515からセンサ軸を基準とした加速度データをローパスフィルタ520を介して入力し、静止時に入力される加速度データと重力加速度とに基づき、前記ローパスフィルタ520を介して入力された前記加速度データから、センサ座標軸とグローバル座標軸(鉛直方向を基準とする空間座標軸)との相関を示す前記第2オイラー角を算出する。
【0123】
そして、前記制御装置500は、ハイパスフィルタ530を介して得られる前記第1オイラー角の高周波成分とローパスフィルタ535を介して得られる前記第2オイラー角の低周波成分とを合算して得られる前記合算オイラー角及び大腿の向きを示す単位ベクトルから、股関節角度θを算出する。
【0124】
好ましくは、前記制御装置500は、前記加速度センサ515からの加速度データに基づきヒールコンタクトを検出し、ヒールコンタクト検出時には前記3軸角速度センサ511からの角速度データから算出される補正オイラー角を前記合算オイラー角に加えることで、ドリフト除去を図ることができる。
【0125】
大腿位相角φは下記方法によって算出される。
前記制御装置500は、所定間隔毎のサンプリングポイントのうち歩行周期基準タイミングから第n番目のサンプリングポイントSn(nは1以上の整数)での股関節角度θnを算出すると、これを微分して当該サンプリングポイントSnでの股関節角速度ωnを算出する。
【0126】
その後、前記制御装置500は、前記サンプリングポイントSnでの股関節角度θn及び股関節角速度ωnに基づき、前記サンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(=−Arctan(ωn/θn))を算出する。
【0127】
図9に、股関節角度θ及び股関節角速度ωによって画される歩行状態を一歩行周期に亘ってプロットすることによって得られるトラジェクトリ線図を示す。
図9に示すように、股関節角度θ及び股関節角速度ωによって定まる大腿位相角φは、一歩行周期において0〜2πの間で変化するように定義される。
【0128】
詳しくは、大腿がユーザーの体軸より前方及び後方に位置されている状態の股関節角度をそれぞれ「正」及び「負」とし、大腿が前方及び後方へ向けて揺動されている状態の股関節角速度をそれぞれ「正」及び「負」とする。
【0129】
この条件で、股関節角度が「正」の方向に最大で且つ股関節角速度が「ゼロ」の状態(図9の点P)の位相角を0とすると、図9の歩行領域A1(股関節角度θが「正」の方向に最大で且つ股関節角速度ωが「ゼロ」の状態から股関節角度θが「ゼロ」で且つ股関節角速度ωが「負」の方向に最大となる状態までの歩行領域)は位相角0〜π/2に相当する。
【0130】
また、図9中の歩行領域A2(股関節角度θが「ゼロ」で且つ股関節角速度が「負」の方向に最大の状態から股関節角度が「負」の方向に最大で且つ股関節角速度が「ゼロ」となる状態までの歩行領域)は位相角π/2〜πに相当する。
【0131】
さらに、図9中の歩行領域A3(股関節角度θが「負」の方向に最大で且つ股関節角速度ωが「ゼロ」の状態から股関節角度θが「ゼロ」で且つ股関節角速度ωが「正」の方向に最大となる状態までの歩行領域)は位相角π〜3π/2に相当する。
【0132】
また、図9中の歩行領域A4(股関節角度θが「ゼロ」で且つ股関節角速度が「正」の方向に最大の状態から股関節角度が「正」の方向に最大で且つ股関節角速度が「ゼロ」となる状態までの歩行領域)は位相角3π/2〜2πに相当する。
【0133】
一歩行周期当たりに複数のサンプリングポイントが含まれるように前記大腿姿勢検出手段510のサンプリング間隔が定められており、前記制御装置500は、各サンプリングポイント毎に大腿位相角φを算出する。
【0134】
図10に、前記制御装置500によって算出された大腿位相角φを歩行周期毎にプロットしたグラフを示す。
なお、図10においては、第1歩行周期C1から第4歩行周期C4の4つの歩行周期における大腿位相角φをプロットしている。
【0135】
ここで、前記制御装置500には、大腿位相角φと下腿に対して出力すべき前記アクチュエータユニット100による歩行補助力の大きさ(方向を含む)との関係を示す補助力制御データが、予め記憶されている。
なお、前記補助力制御データは、実験等によってユーザー毎及び各ユーザーのリハビリ程度毎に設定されるものである。
【0136】
即ち、前記制御装置500は、一のサンプリングポイントSnでの大腿位相角φnを算出すると、当該大腿位相角φnを前記補助力制御データに適用して、大腿位相角φnによって画される歩行状態の際に前記アクチュエータユニット100が出力すべき歩行補助力の大きさ(方向を含む)を取得し、その大きさ(方向を含む)の歩行補助力が出力されるように前記アクチュエータユニット100の作動制御を実行する。
【0137】
前述の通り、大腿位相角φに基づき一の歩行周期中における歩行状態を認識することができ、従って、大腿位相角に基づき前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うことによって、下腿の歩行動作を正常に行うことが困難なユーザーに対しても下腿に対して適切な歩行補助力を付与することができる。
【0138】
ここで、歩行動作に必要な歩行補助力について説明する。
図11に、一歩行周期中に変化する歩行状態の模式図を示す。
図11に示すように、一歩行周期は、ユーザーの体軸より前方側で踵を接地させるヒールコンタクト時点を含むヒールコンタクト期(踏み出した足が接床する前後の期間)X1と、ヒールコンタクト後に当該ヒールコンタクトした脚を接地させた状態で後方側へ相対移動させる立脚期(接床した下肢が身体に対して相対的に後方に移動する期間)X2と、立脚期X2の終了時点から立脚していた脚を引き上げて前方側へ相対移動させる遊脚期X3とを含んでいる。
【0139】
図12に、前記補助力制御データによって画される補助力の変化パターンの一例を示す。
図12に示す一例においては、前記補助力制御データは、前記ヒールコンタクト期X1において、前記下腿側装具30を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第1トルクパターンY1と、前記立脚期X2において、前記下腿側装具30を膝関節回り膝伸展方向へ回動させて膝折れを防止する為の第2トルクパターンY2と、立脚期X2の終了時点から立脚していた脚を引き上げて前方側へ相対移動させる遊脚期X2の初期段階X3aにおいて、前記下腿側装具30を膝関節回り膝屈曲方向へ回動させて脚の引き上げを補助する為の第3トルクパターンY3と、前記遊脚期X3の後期段階X3bにおいて、前記下腿側装具30を膝関節回り膝伸展方向へ回動させる第4トルクパターンY4とを含んでいる。
【0140】
このように、大腿位相角φと歩行補助力との関係を表す前記補助力制御データを用いて前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うことにより、ユーザーに合わせた適切な歩行補助を行うことができる。
【0141】
好ましくは、前記制御装置500は、現在の歩行周期中の一のサンプリングポイントSnにて算出した大腿位相角φnを、既に完了している過去の歩行周期における対応するサンプリングポイントSnでの大腿位相角を用いて補正した修正位相角φ(ave)を算出し、当該修正位相角φ(ave)を前記補助力制御データに適用して、前記アクチュエータユニット100の作動制御を行うように構成され得る。
【0142】
斯かる構成によれば、現在の歩行周期における一のサンプリングポイントSnにて算出された大腿位相角φn(current)が何らかの理由によって大きな誤差を含んでいたとしても、過去の歩行周期における同一サンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(past)を用いて補正される(均される)ので、円滑な補助力の供給を行うことが可能となる。
【0143】
具体的には、前記修正位相角φ(ave)は下記方法によって算出することができる。
前記制御装置500は、一歩行周期中に含まれる全サンプリングポイントのそれぞれにおいて大腿位相角φを算出し記憶する。
そして、前記制御装置500は、一歩行周期の完了を検出すると、全サンプリングポイントでの大腿位相角φに基づき、歩行周期に対する大腿位相角φの変化パターンを表す所定の位相パターン関数を最小二乗法を用いて算出する。
【0144】
前記位相パターン関数は、例えば、
φ(x)=a+bx+cx+dx+ex+fx
とすることができる。
そして、前記制御装置500は、一歩行周期が完了する毎に、全サンプリングポイントでの大腿位相角に基づいて最小二乗法を用いて、前記位相パターン関数の係数a〜fを算出するように構成される。
【0145】
一歩行周期の完了は、例えば、前記制御装置500が、股関節角度及び股関節角速度によって画される歩行状態が予め設定されている歩行周期基準タイミングに戻ったか否かによって判断することができる。
【0146】
図12に示す一例においては、ヒールコンタクトが歩行周期基準タイミングとして設定されている。
このように、ヒールコンタクトを歩行周期基準タイミングとすることによって、歩行周期中における歩行補助力が必要なタイミングを正確に把握することができる。
【0147】
ヒールコンタクトのタイミングは、種々の方法によって認識することができる。
例えば、ユーザーの体軸を基準として大腿が前方側及び後方側へ向けて揺動している際の股関節角速度をそれぞれ正及び負とした場合に、前記制御装置500が、算出される股関節角速度が正値からゼロへ移行したタイミング(図9中のP)から所定位相角Δαだけ進行した時点をヒールコンタクト時点として認識するように構成することができる。
【0148】
これに代えて、前記長下肢装具1にヒールコンタクトを検出するヒールコンタクト検出手段を備え、前記制御装置500は、前記ヒールコンタクト検出手段によって検出されたタイミングをヒールコンタクト時点として認識し、そのタイミングでの大腿位相角φをヒールコンタクト位相角として認識するように構成することも可能である。
【0149】
本実施の形態に係る長下肢装具1におけるように、前記加速度センサ515が備えられている場合には、前記加速度センサ515を前記ヒールコンタクト検出手段として兼用することができる。
これに代えて、踵の接地を検出可能な圧力センサを別途に備え、前記圧力センサを前記ヒールコンタクト検出手段として作用させることも可能である。
【0150】
このようにして一歩行周期の完了を検出すると、前記制御装置500は、直近に完了した歩行周期を含み、既に完了している歩行周期における位相角に基づいて前記位相パターン関数を算出する。
【0151】
具体的には、図10における歩行周期C1が完了すると、前記制御装置500は、歩行周期C1における全サンプリングポイントでの大腿位相角φに基づいて、
φ(x)(C1)=a(1)+b(1)x+c(1)x+d(1)x+e(1)x+f(1)x
を算出し、前記φ(x)(C1)を大腿位相角の位相パターン関数として保存する。
【0152】
歩行周期C2が完了すると、前記制御装置500は、歩行周期C2におけるサンプリングポイントでの大腿位相角と歩行周期C1におけるサンプリングポイントでの大腿位相角とに基づいて、
φ(x)(C2)=a(2)+b(2)x+c(2)x+d(2)x+e(2)x+f(2)x
を算出し、前記φ(x)(C2)を大腿位相角の位相パターン関数として上書き保存する。
【0153】
詳しくは、前記制御装置500は、第2回目以降の歩行周期においては、現在の歩行周期(例えば歩行周期C2)におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(current)と、その時点で記憶されている前記位相パターン関数φ(x)(C1)によって算出される過去歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(past)との平均値を、サンプリングポイントSnでの修正大腿位相角φn(ave)として算出する。
【0154】
前記制御装置500は、現在の歩行周期(例えば歩行周期C2)が完了すると、全サンプリングポイントでの修正大腿位相角に基づいて前記位相パターン関数(例えば前記φ(x)(C2))を算出し、保存する。
【0155】
なお、現在の歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(current)と過去歩行周期における対応するサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(past)との平均値として、現在歩行周期及び過去歩行周期を含む全ての歩行周期における大腿位相角を均等な条件で平均計算した算出値を用いることも可能であるし、若しくは、現在の歩行周期の大腿位相角φn(current)に重み付けをつけて平均計算した算出値を用いることも可能であるし、若しくは、過去歩行周期における大腿位相角φn(past)に重み付けをつけて平均計算した算出値を用いることも可能である。
さらには、過去歩行周期のうちの所定の歩行周期におけるサンプリングポイントでの大腿位相角だけを用いて、現在歩行周期の大腿位相角を補正することも可能である。
【0156】
本実施の形態においては、前記補助力制御データに適用する大腿位相角として、前記修正大腿位相角が用いられる。
例えば、現在の歩行周期が歩行周期C3であり、現在の歩行周期C3におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角がφn(C3)であったとすると、前記制御装置500は、その時点で記憶されている位相パターン関数(この例ではφ(x)(C2))を用いて、過去歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(C2)を算出し、大腿位相角φn(C3)及び大腿位相角φn(C2)に基づきサンプリングポイントSnでの修正大腿位相角を算出する。
【0157】
前記制御装置500は、このようにして算出した修正大腿位相角を前記補助力制御データに適用して、現在の歩行周期C3におけるサンプリングポイントSnにおいて前記アクチュエータユニット100が出力すべき補助力の大きさ(及び方向)を取得し、前記アクチュエータユニット100の作動制御を行う。
【0158】
斯かる構成によれば、現在歩行周期(前記例においては歩行周期C3)における一のサンプリングポイントで算出された大腿位相角が、何らかの理由によって大きな誤差を含んでいたとしても、過去歩行周期における同一サンプリングポイントでの大腿位相角を用いて補正される(均される)ので、前記アクチュエータユニット100による的確な補助力の供給を行うことができる。
【0159】
図13に、前記制御装置500によって実行されるアクチュエータ作動制御モードのフローを示す。
【0160】
前記制御装置500は、起動信号入力に応じて前記アクチュエータ作動制御モードを起動する。
起動信号は、例えば、スタートボタン等の人為操作部材へのユーザーによる人為操作に応じて入力される。
【0161】
前記アクチュエータ作動制御モードが起動されると、前記制御装置500は、前記大腿姿勢検出手段510からの一のサンプリングポイントSnでの角度関連信号に基づき、当該一のサンプリングポイントSnでの股関節角度θnを算出し(ステップS11)、股関節角度θnに基づき前記一のサンプリングポイントSnでの股関節角速度ωnを算出する(ステップS12)。
【0162】
前記制御装置500は、股関節角度θn及び股関節角速度ωnに基づき、前記一のサンプリングポイントSnでの大腿位相角φnを算出する(ステップS13)。
【0163】
ここで、好ましくは、前記制御装置500は、股関節角度θn及び股関節角速度ωnによって画されるベクトルVn(図9参照)のベクトル長が所定の閾値を越えているか否かを判断することができる(ステップS14)。
【0164】
前記ステップS14を備えることにより、歩行動作が開始されていないにも拘わらず、前記アクチュエータユニット100が作動することを有効に防止することができる。
即ち、片麻痺等を有するユーザーは、歩行動作開始前に意に反して微少な範囲で姿勢変動を起こし易い。
このような微少な姿勢変動は、ベクトル長の短いベクトルとして検出される。
【0165】
従って、股関節角度θn及び股関節角速度ωnによって画されるベクトルVn(図9参照)のベクトル長が所定の閾値を越えている場合にのみ、歩行動作が行われていると判断することにより、歩行動作が開始されていないにも拘わらず、意に反して前記アクチュエータユニット100が作動することを有効に防止することができる。
【0166】
前記ステップS14においてNOの場合には、前記制御装置500は、歩行動作が行われていないと判断し、前記アクチュエータユニット100を作動させること無く、前記ステップS11へ戻る。
【0167】
前記ステップS14がYESの場合には、前記制御装置500は、前記ステップS13において算出した、現在歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(curren)に、既に完了している過去歩行周期における対応するサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(past)を用いて修正を行い、修正位相角φn(ave)を算出する(ステップS15)。
例えば、前記制御装置500が、歩行周期終了毎に既に過去歩行周期での歩行データに基づき前記位相パターン関数を算出し上書き保存している場合には、現在歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角φn(curren)と前記位相パターン関数に基づき得られる過去歩行周期におけるサンプリングポイントSnでの大腿位相角とに基づき、サンプリングポイントSnでの修正位相角φn(ave)を算出することができる。
【0168】
前記ステップS15を備えることにより、現在歩行周期における一のサンプリングポイントにて算出された大腿位相角が、何らかの理由によって大きな誤差を含んでいたとしても、過去歩行周期における同一サンプリングポイントでの大腿位相角を用いて補正される(均される)ので、その歩行段階に応じた適切な歩行補助力の供給を行うことができる。
【0169】
前記制御装置500は、ヒールコンタクトが行われたか否かを検出し(ステップS16)、ステップS16がYESの場合(即ち、ヒールコンタクトが行われた場合)にはステップS15にて算出した修正位相角を、ヒールコンタクトに対応したヒールコンタクト位相角として記憶し(ステップS17)、ステップS18へ移行する。
【0170】
ステップS18においては、前記制御装置500は、ステップS15にて算出した修正位相角φ(ave)とステップS17にて記憶したヒールコンタクト位相角との位相角偏差を算出する。
即ち、ステップ18においては、前記制御装置500は、ステップS15にて算出した修正位相角を、ヒールコンタクトを制御基準タイミングとした位相角に変換する。
このように、ヒールコンタクトを制御基準タイミングとすることによって、歩行周期中の歩行段階(歩行状態)をより適切に把握することができる。
【0171】
なお、ステップ17を経由してステップ18へ移行する場合には、位相角偏差はゼロとなる。
一方、ステップ17をバイパスしてステップ18へ移行する場合、即ち、ステップ16がNOの場合には、ステップS18において、ステップ15において算出された修正位相角とその時点で記憶されているヒールコンタクト位相角との偏差が位相角偏差となる。
【0172】
前記制御装置500は、予め記憶されている「アシストトルク/位相角」データに位相角偏差を適用して、サンプリングポイントSnにて前記アクチュエータユニット100が出力すべき歩行補助力の大きさ及び方向を取得し(ステップS19)、その大きさ及び方向の歩行補助力が出力されるように前記アクチュエータユニットを作動させる(ステップS20)。
【0173】
前記制御装置500は、一歩行周期が終了したか否かを判断し(ステップS21)、一歩行周期が終了したと判断する場合には、前記修正位相角に対して最小二乗法を用いて位相パターン関数を算出し、記憶する(ステップS22)。
一歩行周期が終了してない場合には、ステップS22はバイパスされる。
【0174】
前記制御装置500は、前記アクチュエータ作動制御モードの終了信号が入力されているか否かを判断し(ステップS23)、終了信号の入力が無い場合にはステップS11へ戻り、終了信号が入力された場合には当該制御モードを終了する。
なお、終了信号は例えば、終了ボタン等の人為操作部材へのユーザーによる人為操作に応じて入力される。
【符号の説明】
【0175】
1 長下肢装具
10 大腿側装具
30 下腿側装具
100 アクチュエータユニット
500 制御装置
510 大腿姿勢検出手段
511 3軸角速度センサ
515 3軸加速度センサ
【要約】
【課題】下腿の正常な歩行動作が困難なユーザーに対しても、歩行状態に応じた適切な下腿への歩行補助力を付与し得るアクチュエータ付き長下肢装具を提供する。
【解決手段】本発明に係る長下肢装具においては、制御装置は、一のサンプリングポイントにて状態姿勢検出手段から入力される角度関連信号に基づいて大腿位相角を算出し、当該制御装置に予め記憶されている、大腿位相角と下腿側装具に付与すべき補助力との関係を示す補助力制御データに前記一のサンプリングポイントでの大腿位相角を適用して、前記一のサンプリングポイントにおいて前記下腿側装具に付与すべき補助力を算出し、前記補助力が出力されるように前記アクチュエータの作動制御を実行する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13