特許第6148777号(P6148777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6148777
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ヘッドレスト
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/48 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   B60N2/48
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-206443(P2016-206443)
(22)【出願日】2016年10月21日
【審査請求日】2016年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-170430(P2016-170430)
(32)【優先日】2016年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591283501
【氏名又は名称】備前発条株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山根 孟士
(72)【発明者】
【氏名】小林 徳三
(72)【発明者】
【氏名】谷口 靖
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 紀明
(72)【発明者】
【氏名】清水 現
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−081829(JP,U)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0105302(KR,A)
【文献】 国際公開第2016/034458(WO,A1)
【文献】 特開2004−155269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 − 2/72
A47C 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時の上側位置と不使用時の前方下側位置との間で略180°回動可能な構造を有する折畳式のヘッドレストであって、
後壁部Aと左右一対の側壁部A,Aとを有し、後壁部Aの下部に係止部Aが設けられた回動ブラケットと、
左右一対の縦フレーム部と、縦フレーム部の上部同士を連結する横フレーム部とを有するゲート状を為し、回動ブラケットに固定されたヘッドレストフレームと、
ヘッドレストステーの上部又はシートバックフレームの上部に対して直接的又は間接的に固定されて、回動ブラケットが回動可能に支持される主軸と、
後壁部Bと左右一対の側壁部B,Bとを有し、後壁部Bの上部に係止部Bが設けられ、主軸に対して固定された固定ブラケットと、
回動ブラケットを前方下側位置に向かって常時付勢するための回動ブラケット付勢バネと、
回動ブラケットの側壁部A,A又は固定ブラケットの側壁部B,Bに対して昇降回動可能に支持され、その外周面の一部に係止部Cを有するロックピンと、
ロックピンを、その係止部Cが、回動ブラケットと固定ブラケットのうちロックピンが支持されていない方の側壁部A,A又は側壁部B,Bに設けられた係止部Xに係止されるロック方向に常時付勢するためのロックピン付勢バネと、
ロックピンをその係止部Cが係止部Xから外れるロック解除方向に強制的に移動させるロック解除部材と、
で構成され、
係止部A又は係止部Bのうち少なくとも一方が、後壁部Aの下部又は後壁部Bの上部に設けられた折曲部とされ、
使用時の上側位置にあるときには、
係止部Xとロックピンの係止部Cとが係止することによって、後方から力が加えられた場合であっても前方回動が規制され、
固定ブラケットの係止部Bと回動ブラケットの係止部Aとが係止することによって、前方から力が加えられた場合であっても後方回動が規制され、
ロック解除部材を操作してロックピンをロック解除方向に移動させると、係止部Xとロックピンの係止部Cとが外れ、回動ブラケット付勢バネの付勢力によって前方回動して不使用時の前方下側位置となるようにした
ことを特徴とするヘッドレスト。
【請求項2】
回動ブラケットの側壁部A,Aが、固定ブラケットの側壁部B,Bよりも外側に位置するとともに、
ヘッドレストフレームの縦フレーム部における外周面に当接した状態で、側壁部A,Aが配置され、
ヘッドレストフレームの縦フレーム部の下端部が、主軸の近傍まで延在された
請求項1記載のヘッドレスト。
【請求項3】
ロックピンが、回動ブラケットの側壁部A,Aに支持されて、
係止部Xが、固定ブラケットの側壁部B,Bに設けられるとともに、
回動ブラケット及び固定ブラケットが、ヘッドレストフレームにおける左側の縦フレーム部の下端部と右側の縦フレーム部の下端部とにそれぞれ設けられて、
主軸が、左側の固定ブラケットと右側の固定ブラケットとに挿通されて溶接結合され、
左側の固定ブラケットと右側の固定ブラケットとが、左右一対のヘッドレストステーにおけるそれぞれのステーの上端部、又は、シートバックに収容されたシートバックフレームの上部に対して固定された
請求項1又は2記載のヘッドレスト。
【請求項4】
少なくとも一方が上端部を開放された中空パイプからなる左右一対のヘッドレストステーと、
シートバックの上部に固定され、ヘッドレストステーを昇降可能な状態で保持するステーホルダと、
左右一対のヘッドレストステーのうち、上端部を開放された中空パイプからなる側のヘッドレストステーの上端部に固定されたワイヤ固定部材及びワイヤ固定補助部材と、
をさらに備え、
ロックピンが、その一端側の外周面にカム部Cを有し、
ロック解除部材が、
上端部を開放された中空パイプからなるヘッドレストステーの内部に挿通されたロック解除ワイヤと、
カム部Dを有し、ロック解除ワイヤの上端部に固定されたロック解除プレートと、
で構成され、
使用時の上側位置にあるときに、ロック解除ワイヤを引張操作すると、ロック解除プレートのカム部Dがロックピンのカム部Cに作用して、ロックピンがロック解除方向に移動するようにした
請求項1〜3いずれか記載のヘッドレスト。
【請求項5】
ロック解除部材が、ロックピンをロック解除方向に移動させるためのロック解除レバーである請求項1〜3いずれか記載のヘッドレスト。
【請求項6】
シートフレームに固定するためのシートフレームブラケットをさらに備え、
シートフレームブラケットと、固定ブラケットのうち、
又は、
シートフレームブラケットと、別途設けられた主軸ブラケットのうち、
一方に、フック部が形成され、他方に、当該フック部に嵌合可能なフック嵌合部が形成され、
フック部に対してフック嵌合部を嵌合することによって、回動ブラケット、ヘッドレストフレーム、主軸、固定ブラケット、回動ブラケット付勢バネ、ロックピン、ロックピン付勢バネ及びロック解除部材で構成されるヘッドレストユニットをシートフレームブラケットに対して位置決めし、その状態で互いをボルトで固定できるようにした
請求項1、2、3又は5記載のヘッドレスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のシートバック上部に備えられるヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のシートバック上部に備えられるヘッドレストとしては、各種のものが提案されている。例えば、使用時の上側位置(シートバック上部から上方に突き出た位置)と、不使用時の前方下側位置(シートバック前面に沿う位置)との間で、略180°回転可能な構造を有するヘッドレスト(以下においては、当該構造を有するヘッドレストを「180度折畳式のヘッドレスト」と呼ぶことがある。)が提案されている(例えば、特許文献1の図1を参照。)。
【0003】
この180度折畳式のヘッドレストは、ハッチバック型の自動車における最後列のシートで採用されることが多い。というのも、ハッチバック型の自動車は、最後列のシートを前方に倒した状態に折り畳むことによって、後方の収納スペース(トランクルーム)を居住スペース(乗車スペース)まで拡大できる構造となっていることが一般的であるところ、最後列のシートに備え付けられたヘッドレストが180度折畳式のものであると、最後列のシートをコンパクトに折り畳むことができるようになるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−225246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように、前方に倒した状態に折り畳むことができるシートに備え付ける180度折畳式のヘッドレストは、その前後厚(使用時における前後方向の厚さ)をできるだけ薄くすることが要求される。というのも、180度折畳式のヘッドレストの前後厚が大きいと、不使用時において前方下側位置に格納したヘッドレストが、シートバックの前面から前方に突き出た状態となって、シートを略水平となる状態まで倒すことができなくなるからである。
【0006】
しかし、180度折畳式のヘッドレストでは、上側位置から前方下側位置まで回動させる機構(以下においては、当該機構を「回動機構」と呼ぶことがある。)の強度を確保する必要があり、その前後厚を抑えることは、非常に困難であった。特に、ヘッドレストフレームが上下に長く、背の高いヘッドレストは、回動機構の回動中心付近には大きなトルクがかかりやすいため、回動機構の前後厚を抑えることが難しい。例えば、上記の特許文献1のヘッドレストでは、同文献の図5に示されるように、ヘッドレストフレーム(フレーム6)が上下に長く、背の高い構造が採用されているところ、同文献の図3に示されるように、回動機構が複雑で大型なものとなっているため、ヘッドレストの前後厚は、ある程度厚くなると考えられる。このため、特許文献1のヘッドレストでは、前方前側位置となったヘッドレストを収容するための凹部をシートバックの前面に設け(同文献の段落0020を参照。)、シートの座り心地を犠牲にしていると考えられる。
【0007】
また、特許文献1のヘッドレストは、高さ調節可能な構造としにくいという欠点も有している。というのも、特許文献1のヘッドレストは、同文献の図5に示されるように、ヘッドレストを操作するためのワイヤ(ワイヤ手段68)が、ヘッドレストの下部中央部に連結される構造となっているからである。すなわち、当該構造において、ヘッドレストの高さを調節できるようにしようとすると、ヘッドレストの上下動に伴って張った状態となったり弛んだ状態となったりするワイヤを取り回すスペースを、シートバック内に設ける必要があるところ、そのようなスペースをシートバック内に設けることは、必ずしも容易ではない。
【0008】
さらに、特許文献1のヘッドレストは、必要な強度を得るためには、上記の回転機構を構成する各部材の厚みを大きくする必要があるものとなっている。このため、特許文献1のヘッドレストは、軽量化が困難であることに加えて、各部材の成形に、ファインブランキング加工等の特殊な加工を採用する必要があり、生産性を向上させることも困難であるという欠点を有している。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、背を高くした場合であっても前後厚を小さくすることができる180度折畳式のヘッドレストを提供するものである。また、高さ調節を行う態様にも好適に採用することのできる180度折畳式のヘッドレストを提供することも本発明の目的である。さらに、180度折畳式のヘッドレストの軽量化や生産性の向上を図ることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、
使用時の上側位置と不使用時の前方下側位置との間で略180°回動可能な構造を有する折畳式のヘッドレストであって、
後壁部Aと左右一対の側壁部A,Aとを有し、後壁部Aの下部に係止部Aが設けられた回動ブラケットと、
左右一対の縦フレーム部と、縦フレーム部の上部同士を連結する横フレーム部とを有するゲート状を為し、回動ブラケットに固定されたヘッドレストフレームと、
ヘッドレストステーの上部又はシートバックフレームの上部に対して直接的又は間接的に固定されて、回動ブラケットが回動可能に支持される主軸と、
後壁部Bと左右一対の側壁部B,Bとを有し、後壁部Bの上部に係止部Bが設けられ、主軸に対して固定された固定ブラケットと、
回動ブラケットを前方下側位置に向かって常時付勢するための回動ブラケット付勢バネと、
回動ブラケットの側壁部A,A又は固定ブラケットの側壁部B,Bに対して昇降回動可能に支持され、その外周面の一部に係止部Cを有するロックピンと、
ロックピンを、その係止部Cが、回動ブラケットと固定ブラケットのうちロックピンが支持されていない方の側壁部A,A又は側壁部B,Bに設けられた係止部Xに係止されるロック方向に常時付勢するためのロックピン付勢バネと、
ロックピンをその係止部Cが係止部Xから外れるロック解除方向に強制的に移動させるロック解除部材と、
で構成され、
係止部A又は係止部Bのうち少なくとも一方が、後壁部Aの下部又は後壁部Bの上部に設けられた折曲部とされ、
使用時の上側位置にあるときには、
係止部Xとロックピンの係止部Cとが係止することによって、後方から力が加えられた場合であっても前方回動が規制され、
固定ブラケットの係止部Bと回動ブラケットの係止部Aとが係止することによって、前方から力が加えられた場合であっても後方回動が規制され、
ロック解除部材を操作してロックピンをロック解除方向に移動させると、係止部Xとロックピンの係止部Cとが外れ、回動ブラケット付勢バネの付勢力によって前方回動して不使用時の前方下側位置となるようにした
ことを特徴とするヘッドレスト
を提供することによって解決される。
【0011】
本発明のヘッドレストは、180度折畳式のものであるところ、上記のように、使用時における前方回動や後方回動の規制を単純な構造で実現するとともに、前方回動を規制する部材として昇降回動可能なロックピンを採用したことによって、ヘッドレストフレームが上下に長い場合(ヘッドレストの背が高い場合。例えば、ヘッドレストの回動中心からヘッドレストの上端部までの高さが320mmでその箇所に980Nの負荷が加わる場合。)であっても、ヘッドレストの前後厚を40mm程度にすることが可能なものとなっている。ここで、「昇降回動」とは、ヘッドレストの側方からロックピンを見たときに、ロックピンが円弧状の軌跡を描いて上下動することを云う。
【0012】
また、本発明のヘッドレストは、後述するように、高さ調節を行う態様にも好適に採用することのできるものとなっている。さらに、本発明のヘッドレストでは、固定ブラケットを主軸に対して100mm程度の十分な長さの溶接で固定、一体化し、回動ブラケットを、後壁部Aと側壁部A,Aとを有する溝型部材として、固定ブラケットを、後壁部Bと側壁部B,Bとを有する溝型部材とし、側壁部A,Aのそれぞれ、又は、側壁部B,Bのそれぞれに係止部Xを設けたことにより、ロックピンから回動ブラケット又は固定ブラケットに加えられる力を、側壁部Aと側壁部Aとで、又は、側壁部Bと側壁部Bとで分散させることができる等、ヘッドレストの回動機構を構成する各部材の板厚を小さくしても、必要な強度を得ることができるようになっている。したがって、ヘッドレストの軽量化を図ることができるだけでなく、各部材の成形を一般的なプレス加工で行うことができる等、ヘッドレストの生産性の向上を図ることも可能となっている。
【0013】
本発明のヘッドレストにおいては、
回動ブラケットの側壁部A,Aを、固定ブラケットの側壁部B,Bよりも外側に位置させるとともに、
ヘッドレストフレームの縦フレーム部における外周面に当接した状態で、側壁部A,Aを配置し、
ヘッドレストフレームの縦フレーム部の下端部を、主軸の近傍まで延在させる
と好ましい。
【0014】
これにより、回動側部材における主軸付近(ヘッドレストの回動中心付近)の剛性をさらに高めることが可能になる。したがって、回動機構を、その前後厚を抑えながらも、さらに大きなトルクに耐え得るものとして、ヘッドレストの背が高い場合であっても、より好適に採用できるものとすることが可能になる。
【0015】
本発明のヘッドレストにおいては、ロックピンを、固定ブラケットの側壁部B,Bに支持し、係止部Xを、回動ブラケットの側壁部A,Aに設けてもよい。また、回動ブラケットと固定ブラケットは、1組のみ設けてもよい。さらに、固定ブラケットは、主軸を介して、ヘッドレストステーやシートバックフレームに間接的に固定する構造としてもよい。
しかし、
ロックピンを、回動ブラケットの側壁部A,Aに支持して、
係止部Xを、固定ブラケットの側壁部B,Bに設けるとともに、
回動ブラケット及び固定ブラケットを、ヘッドレストフレームにおける左側の縦フレーム部の下端部と右側の縦フレーム部の下端部とにそれぞれ設けて、
主軸を、左側の固定ブラケットと右側の固定ブラケットとに挿通して溶接結合し、
左側の固定ブラケットと右側の固定ブラケットとを、左右一対のヘッドレストステーにおけるそれぞれのステーの上端部、又は、シートバックに収容されたシートバックフレームの上部に対して固定する
と好ましい。
【0016】
というのも、固定ブラケットを、主軸を介して、ヘッドレストステーやシートバックフレームに間接的に固定する構造(後述する第一実施態様のヘッドレスト(図1)を参照)を採用すると、使用時のヘッドレストに対して前方から力が加わった場合に、その力の略全てが、最終的には、主軸と固定ブラケットとの結合部分に加わるようになるため、主軸と固定ブラケットとの結合部分が捩じれて破損等する虞があるところ、上記のように、固定ブラケットをヘッドレストステーやシートバックフレームに対して直接的に固定する構造(後述する第三実施態様のヘッドレスト(図7)を参照)を採用すると、使用時のヘッドレストに対して前方から力が加わった場合に、その力の略全てを、ヘッドレストステー又はシートバックフレームに対して固定された固定ブラケットで直接的に受けるようにし、主軸に捩じり力がかかることがなく、主軸と固定ブラケットとの結合部分に大きな負荷がかからないようにすることが可能になるからである。
【0017】
また、回動ブラケット及び固定ブラケットを1組のみ設ける構造(後述する第一実施態様のヘッドレスト(図1)を参照)を採用すると、使用時のヘッドレストに対して後方から力が加わった場合に、その力を、回動ブラケットの側壁部A,Aに設けられた計2箇所の係止部Xで受けるようになるところ、上記のように、回動ブラケット及び固定ブラケットを左右一対に設ける構造(後述する第三実施態様のヘッドレスト(図7)を参照)を採用すると、使用時のヘッドレストに対して後方から力が加わった場合に、その力を、左側の固定ブラケット及び右側の固定ブラケットにおけるそれぞれの側壁部B,Bに設けられた計4箇所の係止部Xで受け、より十分な強度を確保することも可能になるからである。
【0018】
さらに、回動ブラケット及び固定ブラケットを1組のみ設ける構造(後述する第一実施態様のヘッドレスト(図1)を参照)を採用すると、ヘッドレストの本体に片当たりしたとき(左右方向片側にのみ力が加えられたとき等)に、ヘッドレストの本体の左側と右側のうち一方が前方へ移動して他方が後方へ移動する向きの捩じれが生じ得るところ、上記のように、回動ブラケット及び固定ブラケットを左右一対に設けて、それぞれの固定ブラケットを左右それぞれのヘッドレストステーに直接的に固定し、それぞれの回動ブラケットをヘッドレストフレームの左右それぞれの縦フレーム部に直接的に固定する構造(後述する第三実施態様のヘッドレスト(図7)を参照)を採用すると、ヘッドレストの本体に片当たりしたときであっても、その捩じれを抑えることも可能になるからである。
【0019】
このように、固定ブラケットをヘッドレストステーやシートバックフレームに対して直接的に固定する構造や、回動ブラケット及び固定ブラケットを左右一対に設ける構造は、様々な利点を有しており、ヘッドレストを大型化しなくても、ヘッドレストの強度を高めることができるという効果を得ることができるものとなっている。この点、ロックピンを可動ブラケットの側壁部A,Aに支持し、係止部Xを、固定ブラケットの側壁部B,Bに設けることによって、そのような構造を簡素に実現することができる。
【0020】
本発明のヘッドレストにおいて、ロック解除部材の具体的な構成は、特に限定されない。本発明のヘッドレストに係る構成は、以下のように、ロック解除部材として、ワイヤ(ロック解除ワイヤ)を用いる態様と、レバー(ロック解除レバー)を用いる態様のいずれにも採用することができる。
【0021】
ロック解除部材としてワイヤ(ロック解除ワイヤ)を用いる態様としては、以下の構成が好適である。
すなわち、
少なくとも一方が上端部を開放された中空パイプからなる左右一対のヘッドレストステーと、
シートバックの上部に固定され、ヘッドレストステーを昇降可能な状態で保持するステーホルダと、
左右一対のヘッドレストステーのうち、上端部を開放された中空パイプからなる側のヘッドレストステーの上端部に固定されたワイヤ固定部材及びワイヤ固定補助部材と、
をさらに備え、
ロックピンが、その一端側の外周面にカム部Cを有し、
ロック解除部材が、
上端部を開放された中空パイプからなるヘッドレストステーの内部に挿通されたロック解除ワイヤと、
カム部Dを有し、ロック解除ワイヤの上端部に固定されたロック解除プレートと、
で構成され、
使用時の上側位置にあるときに、ロック解除ワイヤを引張操作すると、ロック解除プレートのカム部Dがロックピンのカム部Cに作用して、ロックピンがロック解除方向に移動するようにする
構成である。
【0022】
この構成は、左右一対のヘッドレストステーを、シートバックの上部(より正確には、シートバックの上部に固定されたステーホルダ)に対して昇降可能に保持させる場合に、特に好適に採用することができる。というのも、上記の構成は、ロック解除ワイヤに固定されたロック解除プレートが、ロックピンの端部に設けられたカム部Cに作用するようになっており、ヘッドレストを高さ調節可能な構造とした場合であっても、ロック解除ワイヤを複雑に取り回す必要がないからである。
【0023】
また、ロック解除部材としてレバー(ロック解除レバー)を用いる態様としては、以下の構成が好適である。すなわち、ロック解除部材を、ロックピンをロック解除方向に移動させるためのロック解除レバーとする構成である。ロック解除レバーは、ロックピンに対して一体的に形成されたものであってもよいし、歯車やワイヤ等の動力伝達機構を介してロックピンに間接的に連結されたものであってもよい。この構成では、ロック解除部材を非常に単純な構造とすることができる。この構成は、ヘッドレストの固定ブラケットを、シートバックの上部に対して昇降可能に保持されたヘッドレストステーの上部に固定する場合にも採用することができるが、その固定ブラケットを、シートバックフレームの上部に固定する場合にも採用することができる。
【0024】
ロック解除部材としては、上述した、ロック解除ワイヤを用いるものや、ロック解除レバーを用いるものに限定されず、押ボタンを用いるものとしたり、ストラップを用いるものとしたりすることもできる。
【0025】
ところで、本発明のヘッドレストにおいて、シートバックの上部に対してヘッドレストステーを昇降可能な構造としない場合には、
シートフレームに固定するためのシートフレームブラケットをさらに備え、
シートフレームブラケットと、固定ブラケットのうち、
又は、
シートフレームブラケットと、別途設けられた主軸ブラケットのうち、
一方に、フック部が形成され、他方に、当該フック部に嵌合可能なフック嵌合部を形成され、
フック部に対してフック嵌合部を嵌合させることによって、回動ブラケット、ヘッドレストフレーム、主軸、固定ブラケット、回動ブラケット付勢バネ、ロックピン、ロックピン付勢バネ及びロック解除部材で構成されるヘッドレストユニットをシートフレームブラケットに対して位置決めし、その状態で互いをボルトで固定できるようにする
ことも好ましい。
【0026】
これにより、ヘッドレストメーカーでユニット化して製造したヘッドレストを、アセンブリメーカーがシートバックに対して容易に組み付けることが可能になる。加えて、ヘッドレストの詳細な仕様に変更があった場合であっても、アセンブリメーカーでは、変更前のものと同様の手法で、ヘッドレストをシートバックに対して組み付けることも可能になる。また、使用時のヘッドレストをぐらつきにくくすることも可能になる。特に、使用時のヘッドレストに外力が加わった場合(特に、前方からの外力が加わった場合)に、その外力をフック部とフック嵌合部とで受けることも可能になる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によって、背を高くした場合であっても前後厚を小さくすることができる180度折畳式のヘッドレストを提供することが可能になる。また、高さ調節を行う態様にも好適に採用することのできる180度折畳式のヘッドレストを提供することも可能になる。さらに、180度折畳式のヘッドレストの軽量化や生産性の向上を図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第一実施態様のヘッドレストを分解した状態を示した斜視図である。
図2】第一実施態様のヘッドレストを前方及び側方から見た状態を示した図である。
図3】第一実施態様のヘッドレストが使用時の上側位置にある状態及び不使用時の前方下側位置にある状態を、側方から見た状態を示した側面図である。
図4】ロック解除プレートの他の実施態様を示した図である。
図5】第二実施態様のヘッドレストを前方及び側方から見た状態を示した図である。
図6】第二実施態様のヘッドレストの変形例を示した図である。
図7】第三実施態様のヘッドレストを、(a)前方から見た状態を示した図、及び、(b)同図におけるα−α面で切断した断面を示した図である。
図8】第三実施態様のヘッドレストにおける回動ブラケット及び固定ブラケットの周辺を、(a)使用時の上側位置で解除操作を行っていない状態、(b)使用時の上側位置で解除操作を行っている状態、及び、(c)不使用時の前方下側位置にある状態のそれぞれについて、側方から見た状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のヘッドレストの好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、3つの実施態様(第一実施態様、第二実施態様及び第三実施態様)を例に挙げて、本発明のヘッドレストを説明する。ただし、本発明のヘッドレストの技術的範囲は、これらの実施態様のものに限定されない。本発明のヘッドレストは、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。後述する図1〜8においては、x軸、y軸及びz軸を表しているが、以下においては、x軸方向負側を「左」側、x軸方向正側を「右」側、y軸方向負側を「後」側、y軸方向正側を「前」側、z軸方向負側を「下」側、z軸方向正側を「上」側として説明する。
【0030】
1.第一実施態様のヘッドレスト
まず、第一実施態様のヘッドレストについて説明する。図1は、第一実施態様のヘッドレストを分解した状態を示した斜視図である。図2は、第一実施態様のヘッドレストを前方及び側方から見た状態を示した図である。図3は、第一実施態様のヘッドレストが使用時の上側位置にある状態及び不使用時の前方下側位置にある状態を、側方から見た状態を示した側面図である。図3においては、ヘッドレストの一部(丸囲み部分)を、主軸21に垂直な平面で切断した断面を拡大して示している。
【0031】
第一実施態様のヘッドレストは、図1に示すように、回動ブラケット11と、ヘッドレストフレーム12と、主軸21と、固定ブラケット22と、回動ブラケット付勢バネ23と、ロックピン24と、ロックピン付勢バネ25と、ロック解除部材26と、ロックピン支持軸27と、左右一対のヘッドレストステー31,32とで構成されたものとなっており、図3に示すように、回動ブラケット11及びヘッドレストフレーム12が、使用時の上側位置(図3(a))と不使用時の前方下側位置(図3(b))との間で、固定ブラケット22等に対して略180°回動可能な構造を有する折畳式のものとなっている。
【0032】
この第一実施態様のヘッドレストは、図2に示すように、左右一対のヘッドレストステー31,32の上端部に強固な一体結合で取り付けられるものとなっている。ヘッドレストステー31,32は、シートバック(図示省略)の上部に固定されたステーホルダ41,42に対して昇降可能な状態で保持される。第一実施態様のヘッドレストにおいて、ヘッドレストステー31,32はいずれも、その上端部を開放された中空パイプとなっているが、このように中空パイプによって形成するのは、後述するロック解除ワイヤ26aが挿通される方のヘッドレストステー31のみでよく、他方のヘッドレストステー32は、中空パイプによって形成する必要は特にない。
【0033】
1.1 ヘッドレストフレーム
ヘッドレストフレーム12は、ヘッドレストの本体(着席者の頭部を支持する部分)に強度を付与するための部材となっている。ヘッドレストフレーム12は、図1に示すように、左右一対の縦フレーム部12a,12bと、縦フレーム部12a,12bの上部同士を連結する横フレーム部12cとからなるゲート状を為している。縦フレーム部12a,12bは、後述する回動ブラケット11における側壁部A,Aの外面側に対して、溶接等により固定される。ヘッドレストフレーム12の周囲は、図示省略のクッション材及び表皮によって覆われる。
【0034】
1.2 回動ブラケット
回動ブラケット11は、図1に示すように、後壁部Aと、後壁部Aの両側縁部から前方に起立する左右一対の側壁部A,Aとを有する溝型の部材となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいて、側壁部A,Aは、後述する固定ブラケット22の側壁部B,Bよりも外側に配置されるようになっている。また、側壁部A,Aの前縁部は、それぞれ外向きにフランジ状に折り曲げられている。このため、回動ブラケット11は、図2の丸囲み部(回動ブラケット11及びヘッドレストフレームの縦フレーム部12a,12bをz軸に垂直な平面で切断した断面図)に示すように、断面ハット状を為しており、強度に優れ、薄型化が可能なものとなっている。加えて、フランジ状に折り曲げられた側壁部A,Aによって、ヘッドレストフレーム12の縦フレーム部12a,12bにおける下部の外周部が覆われるようになっている。縦フレーム部12a,12bの下端部は、後述する主軸21の近傍(ヘッドレストの回動機構の回動中心付近)まで延在した状態となっている。したがって、ヘッドレストの回動側部材における主軸21の付近(ヘッドレストの回動機構における回動中心付近)の剛性が高められた状態となっている。よって、後述する主軸21に強固に一体化された固定ブラケット22と組み合わされて、ヘッドレストの回動機構を、その前後厚を抑えながらも、大きなトルクに耐え得るものとして、ヘッドレストの背が高い場合であっても、好適に採用できるようになっている。
【0035】
回動ブラケット11の後壁部Aの下縁部は、係止部Aとなっている。この係止部Aは、図3(a)に示すように、使用時のヘッドレスト(上側位置にあるヘッドレスト)の後方回動を規制するために、後述する固定ブラケット22の係止部Bに係止される部分となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいては、後壁部Aの下縁部に、前方に折り曲げた折曲部を形成しており、この折曲部の下面が、係止部Aとなるようにしている。このため、着席者の頭部等によりヘッドレストの本体に前方から加えられる力を受けるためのストッパー部材等を別途設ける必要がないだけでなく、その力を面(折曲部の下面)で分散して受けることもでき、回動ブラケット11のさらなる薄型化及び軽量化も可能となっている。この折曲部は、固定ブラケット22の後壁部Bの上部に設けることもできる。
【0036】
また、第一実施態様のヘッドレストにおいては、回動ブラケット11の側壁部A,Aの下端部付近に、係止部Xをそれぞれ設けている。この係止部Xは、図3(a)に示すように、使用時のヘッドレスト(上側位置にあるヘッドレスト)の前方回動を規制するために、後述するロックピン24の係止部Cに係止される部分となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいて、係止部Xは、ロックピン24の外周形状に沿う略半円状の切欠部となっている。このように、ロックピン24の係止部Cを係止する係止部Xを、側壁部A,Aの双方に設けたことによって、ロックピン24から回動ブラケット11に加えられる力を側壁部A,Aで分散させることができるようになっている。したがって、回動ブラケット11の板厚を小さくしても、必要な強度を得ることができ、ヘッドレストのさらなる軽量化を図ることができるだけでなく、その成形を一般的なプレス加工で行うことも可能となっている。
【0037】
1.3 主軸
主軸21は、回動ブラケット11を回動可能な状態で支持するための軸状の部材となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいて、主軸21は、図1に示すように、ヘッドレストステー31,32の上端部に固定された、後述するワイヤ固定補助部材26dから前方に起立して設けられた突片部の貫通穴に挿通されて、負荷トルクに対応した十分な長さの溶接(主軸径12mmの場合で全長100mm)によって固定、一体化されるようになっている。
【0038】
1.4 固定ブラケット
固定ブラケット22は、図1に示すように、後壁部Bと、後壁部Bの両側縁部から前方に起立する左右一対の側壁部B,Bとを有する溝型の部材となっており、回動ブラケット11と同様、強度に優れているにもかかわらず、薄型化が可能で、一般的なプレス加工で成形を行うことが可能なものとなっている。固定ブラケット22の後壁部Bの上縁部は、回動ブラケット11の係止部Aに係止するための係止部Bとなっている。固定ブラケット22の側壁部B,Bの中央部には、大径の貫通孔がそれぞれ設けられており、当該貫通孔には、主軸21が挿通され、負荷トルクに対応した十分な長さの溶接(主軸径12mmの場合で全長100mm)により固定、一体化される。また、第一実施態様のヘッドレストにおいては、側壁部B,Bの前側下部に、小径の貫通孔をそれぞれ設けており、当該貫通孔には、ロックピン支持軸27を挿通して固定している。
【0039】
1.5 回動ブラケット付勢バネ
回動ブラケット付勢バネ23は、回動ブラケット11を前方下側位置に向かって常時付勢する(ヘッドレストの本体を前方回動する向きに常時付勢する)ための部材となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいて、回動ブラケット付勢バネ23は、主軸21に外嵌したコイルバネとしている。
【0040】
1.6 ロックピン
ロックピン24は、図3(a)に示すように、ヘッドレストが使用時の上側位置にあるときに、固定側部材20に対して回動側部材10が前方回動できない状態となるように、固定ブラケット22(固定側部材)に対して回動ブラケット11(回動側部材)をロックするための軸状の部材となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいては、ロックピン24を、固定ブラケット22の側壁部B,Bに対して昇降回動可能な状態となるように、上記のロックピン支持軸27に対して回動可能な状態で取り付けている。ロックピン24の外周面の一部は、回動ブラケット11の側壁部A,Aに設けられた係止部Xに係止するための係止部Cとなっている。また、ロックピン24における、その一端側の外周面は、後述するロック解除プレート26bのカム部Dが作用するためのカム部Cとなっている。
【0041】
1.7 ロックピン付勢バネ
ロックピン付勢バネ25は、ロックピン24をその係止部Cが係止部Xに係止されるロック方向(ロックピン24が上昇回動する向き)に常時付勢するための部材となっている。第一実施態様のヘッドレストにおいて、ロックピン付勢バネ25は、ロックピン支持軸27に外嵌したコイルバネとしている。
【0042】
1.8 ロック解除部材
ロック解除部材26は、ロックピン24をその係止部Cが係止部Xから外れるロック解除方向(ロックピン24が下降回動する向き)に強制的に移動させるための部材となっている。ロック解除部材26は、その具体的な構成を特に限定されないが、第一実施態様のヘッドレストにおいては、図1に示すように、ロック解除ワイヤ26aと、ロック解除プレート26bと、ワイヤ固定部材26cと、ワイヤ固定補助部材26dとで構成している。
【0043】
ロック解除ワイヤ26aは、いわゆるブレーキワイヤの構造を有しており、具体的には、外側チューブと、外側チューブに対して長手方向に移動可能な状態で外側チューブ内に挿入された内側ワイヤとで構成されている。ロック解除ワイヤ26aは、ヘッドレストステー31の内部に挿通される。ロック解除ワイヤ26aの下端側は、ヘッドレストステー31の下端部から引き出され、内側ワイヤの下端部は、図示省略の引張操作手段(ロック解除ワイヤ26aの内側ワイヤを引っ張り操作するための手段。レバーやボタンやストラップ等が例示される。)に連結される。
【0044】
一方、ロック解除ワイヤ26aの外側チューブの上端部は、ヘッドレストステー31の上端部に固定されたワイヤ固定部材26cに対して固定される。また、ロック解除ワイヤ26aの内側ワイヤの上端部には、ロック解除プレート26bが固定される。このロック解除プレート26bは、ヘッドレストステー31の上端部に固定されたワイヤ固定補助部材26dに対して昇降可能な状態で取り付けられており、ロック解除プレート26bの下面は、ロックピン24のカム部Cに作用するカム部Dとして機能するようになっている。
【0045】
また、ロック解除プレート26bは、上述したように、昇降動作を行うもののほか、他の動作を行うものとすることもできる。図4は、ロック解除プレート26bの他の実施態様を示した図である。図4のロック解除プレート26bは、ロック解除ワイヤ26aの上端部26aを取り付けるための第一片部26bと、主軸21に対して回動可能な状態で取り付けられる第二辺部26bとで構成されている。このロック解除プレート26bは、ロック解除ワイヤ26aの内側ワイヤが下側に引っ張られると、ロック解除ワイヤ26aの上端部26aによって第一片部26bの後端部が下向きに押し下げられ、主軸21の中心Pを回動中心として回動し、第二辺部26bの下端縁に設けられたカム部Dがロックピン24のカム部Cに作用してロックピン24が押し下げられるようになっている。このように、ロック解除プレート26bを回動式のものとすることで、ロック解除プレート26bの動作を安定させることができる。
【0046】
ところで、第一実施態様のヘッドレストにおいては、上述したように、主軸21の両端部をワイヤ固定補助部材26dに固定するようにした(ワイヤ固定補助部材26dを、ロック解除ワイヤ26aだけでなく、主軸21を固定する部材としても用いた)ため、ワイヤ固定補助部材26dを、ヘッドレストステー31,32の両方に設けている。しかし、ワイヤ固定補助部材26dを介さずに主軸21をヘッドレストステー31,32に固定する構成を採用する場合には、ワイヤ固定補助部材26dは、ロック解除ワイヤ26aを設ける側のヘッドレストステー31の方にのみ設ければよく、他方のヘッドレストステー32に設ける必要は特にない。
【0047】
1.9 第一実施態様のヘッドレストの動作
以上で述べた第一実施態様のヘッドレストの動作について説明する。
【0048】
第一実施態様のヘッドレストは、図3(a)に示すように、使用時の上側位置にあるときには、ロックピン付勢バネ25の付勢力によって、ロックピン24が上方に移動(ロックピン支持軸27を中心として上昇回動)し、ロックピン24の係止部Cが、回動ブラケット11の係止部Xに係止した状態となるようになっている。このため、ヘッドレストの本体に後方から力が加えられた場合であっても、その前方回動が規制されるようになっている。また、ヘッドレストが使用時の上側位置にあるときには、固定ブラケット22の係止部Bと回動ブラケット11の係止部Aも互いに係止するようになっており、固定ブラケット22は主軸21に強固に一体化されている。このため、ヘッドレストの本体に前方から力が加えられた場合であっても、その後方回動が規制されるようになっている。
【0049】
一方、第一実施態様のヘッドレストは、使用時の上側位置にあるときに、上記の引張操作手段(レバーやボタンやストラップ等)を操作して、ロック解除ワイヤ26a(図1)の内側ワイヤを下側へ引張操作すると、ロック解除プレート26b(図1)が固定補助部材26d(図1)に対して下降し、ロック解除プレート26bのカム部D図1)がロックピン24のカム部C図1)を押し下げることによって、ロックピン24が、ロックピン付勢バネ25(図1)の付勢力に抗って強制的にロック解除方向(下側)に移動するものとなっている。このため、係止部Xとロックピン24の係止部Cとの係合が外れた状態となり、回動ブラケット付勢バネ23の付勢力によって、回動ブラケット11が前方回動し、図3(b)に示すように、不使用時の前方下側位置に移動するようになっている。
【0050】
図3(b)に示す前方下側位置となった際には、ヘッドレストの本体(着席者の頭部を支持する部分)は、シートバックの前面に沿った状態となる。第一実施態様のヘッドレストでは、上記のように、その回動機構を単純な構造によって実現するとともに、ヘッドレストの前方回動を規制する部材として、昇降回動可能なロックピン24を採用したため、ヘッドレストフレーム12が上下に長い場合であっても、ヘッドレストの本体の前後厚を抑えることが可能となっている。このため、シートバックの前面から前方に大きく突き出ない状態でヘッドレストを折り畳むことができ、シートバックを前方に倒して折り畳むような場合には、そのシートバックをコンパクトに折り畳むことが可能となっている。ヘッドレストを、図3(b)に示す状態(格納状態)から、再度、図3(a)に示す状態(使用状態)としたい場合には、ヘッドレストの本体を手等で掴んで後方回動させるとよい。
【0051】
2.第二実施態様のヘッドレスト
続いて、第二実施態様のヘッドレストについて説明する。図5は、第二実施態様のヘッドレストを前方及び側方から見た状態を示した図である。図5においては、ヘッドレストの一部(丸囲み部分)を、主軸21に垂直な平面で切断した断面を拡大して示している。図6は、第二実施態様のヘッドレストの変形例を示した図である。以下においては、第二実施態様のヘッドレストにおける各構成のうち、主に、第一実施態様のヘッドレストと異なる構成に絞って説明する。第二実施態様のヘッドレストにおいて特に言及しない構成は、第一実施態様のヘッドレストで述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0052】
上述した第一実施態様のヘッドレストは、図1に示すように、ヘッドレストステー31,32の上部に取り付けられたものとなっていた。これに対し、第二実施態様のヘッドレストは、図5又は図6に示すように、シートフレームブラケット50を介して、シートフレーム60(シートバックのフレーム)に固定されるようになっている。図5のヘッドレストにおいて、シートフレームブラケット50に対して固定されるのは、固定ブラケット22となっており、図6のヘッドレストにおいて、シートフレームブラケット50に対して固定されるのは、主軸ブラケット80(主軸21の端部に取り付けられたブラケット)となっている。
【0053】
図5のヘッドレストにおいては、図5(b)に示すように、シートフレームブラケット50の上側前部が、断面フック状に折り曲げられたフック部Eとなっており、固定ブラケット22の下側前部が、上向きに起立するように折り曲げられたフック嵌合部Bとなっている。同様に、図6のヘッドレストにおいては、図6(b)に示すように、シートフレームブラケット50の上側前部が、断面フック状に折り曲げられたフック部Eとなっており、主軸ブラケット80の下側前部が、上向きに起立するように折り曲げられたフック嵌合部Fとなっている。このため、図5のヘッドレストと図6のヘッドレストはいずれも、回動ブラケット11、ヘッドレストフレーム12、主軸21、固定ブラケット22、回動ブラケット付勢バネ23、ロックピン24、ロックピン付勢バネ25及びロック解除部材26で構成されるヘッドレストユニットをシートフレームブラケット50に対して位置決めしてから、ボルト70(図5のみに図示し、図6では省略)で固定することができるだけでなく、使用時のヘッドレストをぐらつきにくくすることも可能になっている。
【0054】
また、第一実施態様のヘッドレストでは、図1に示すように、ロック解除部材26として、ワイヤ(ロック解除ワイヤ26a)を用いていた。これに対し、第二実施態様のヘッドレストでは、図5に示すように、ロック解除部材26として、ロック解除レバー26eを用いており、非常に簡素な構造となっている。ロック解除レバー26eは、歯車やワイヤ等の動力伝達機構を介してロックピン24に間接的に連結してもよいが、第二実施態様のヘッドレストにおいては、ロックピン24に対して一体的に形成している。
【0055】
さらに、第一実施態様のヘッドレストでは、図1に示すように、ロックピン24とロックピン支持軸27とを別体としていた。これに対し、第二実施態様のヘッドレストでは、図5(b)に示すように、ロックピン24とロックピン支持軸27とを一体としている。具体的には、1本の鋼線材をU字状に折り曲げ、その一方の折り曲げ端部をロックピン24として利用し、その他方の折り曲げ端部をロックピン支持軸27として利用するようにしている。このようにすることで、部品点数を削減して、ヘッドレストユニットの組み付けの手間や製造コストを削減することが可能になる。
【0056】
その他、固定ブラケット22と主軸21は固定、一体化されているが、その場合、図6のヘッドレストは、第一実施態様のヘッドレストと同様に強固な一体化が求められる。しかし、図5のヘッドレストは、構造の違いから大幅に弱い結合でよく、溶接長は短くしてよい。また、第二実施態様のヘッドレストは、回動ブラケット11やヘッドレストフレーム12等の各部材の具体的な形態を、第一実施態様のヘッドレストから変更しているが、これらの部材が発揮する機能は、第一実施態様のヘッドレストと同様である。
【0057】
3.第三実施態様のヘッドレスト
続いて、第三実施態様のヘッドレストについて説明する。以下においては、第三実施態様のヘッドレストにおける各構成のうち、主に、第一実施態様や第二実施態様のヘッドレストと異なる構成に絞って説明する。第三実施態様のヘッドレストにおいて特に言及しない構成は、第一実施態様や第二実施態様のヘッドレストで述べたものと同様の構成を採用することができる。
【0058】
図7は、第三実施態様のヘッドレストを、(a)前方から見た状態を示した図、及び、(b)同図におけるα−α面で切断した断面を示した図である。図8は、第三実施態様のヘッドレストにおける回動ブラケット11及び固定ブラケット22の周辺を、(a)使用時の上側位置で解除操作を行っていない状態、(b)使用時の上側位置で解除操作を行っている状態、及び、(c)不使用時の前方下側位置にある状態のそれぞれについて、側方から見た状態を示した図である。図8においては、図示の便宜上、ロック解除プレート26bを太線で示している。
【0059】
上述した第一実施態様のヘッドレストでは、図1に示すように、ロックピン24を、固定ブラケット22の側壁部B,Bに支持し、係止部Xを、回動ブラケット11の側壁部A,Aに設けていた。これに対し、第三実施態様のヘッドレストでは、図8に示すように、ロックピン24を、回動ブラケット11の側壁部A,Aに支持し、係止部Xを、固定ブラケット22の側壁部B,Bに設けている。具体的には、ロックピン支持軸27を、回動ブラケット11の側壁部A,A図8では側壁部A側のみ図示)に設けたロックピン支持軸挿通孔11aに挿通して支持させ、ロックピン24を、側壁部A,Aに円弧長孔状に設けたロックピン案内孔11bに挿通するとともに、固定ブラケット22の側壁部B,Bの上部に、係止部Xを設けている。第三実施態様のヘッドレストにおいて、ロックピン24及びロックピン支持軸27は、上述した第二実施態様のヘッドレストと同様の形態となっている。すなわち、1本の鋼線材をU字状に折り曲げ、その一方の折り曲げ端部をロックピン24として利用し、その他方の折り曲げ端部をロックピン支持軸27として利用するようにしている。
【0060】
また、上述した第一実施態様のヘッドレストでは、図1に示すように、回動ブラケット11及び固定ブラケット22が、主軸21の中央部付近に1箇所のみ設けられていた。これに対し、第三実施態様のヘッドレストでは、図7に示すように、回動ブラケット11及び固定ブラケット22を、右側と左側とに1箇所ずつ計2箇所に設けている。右側の回動ブラケット11には、右側の縦フレーム部12aの下端部が溶接結合され、左側の回動ブラケット11には、左側の縦フレーム部12bの下端部が溶接結合されている。また、右側の固定ブラケット22は、右側のヘッドレストステー31の上端部に固定され、左側の固定ブラケット22は、左側のヘッドレストステー32の上端部に固定されている。このため、ヘッドレストを前方から見ると、右側の縦フレーム部12aと右側のヘッドレストステー31とが、右側の回動ブラケット11及び固定ブラケット22を介して、上下方向に一直線状に配され、左側の縦フレーム部12bと左側のヘッドレストステー32とが、左側の回動ブラケット11及び固定ブラケット22を介して、上下方向に一直線状に配された状態となっている。
【0061】
さらに、第一実施態様のヘッドレストでは、図1に示すように、右側のヘッドレストステー31の上端部に、ワイヤ固定補助部材26dを設けていた。これに対し、第三実施態様のヘッドレストでは、既に述べたように、固定ブラケット22を右側のヘッドレストステー31の上端部に対して直接的に固定するようにしたため、図8(a)に示すように、ワイヤ固定補助部材26dに相当する部分を、右側の固定ブラケット22に一体的に設けている(固定ブラケット22とは別体のワイヤ固定補助部材26dは設けていない)。
【0062】
この第三実施態様のヘッドレストは、図8(a)に示すように、使用時の上側位置にあるときには、ロックピン付勢バネ25(図7)の付勢力によって、ロックピン24が下方に移動(ロックピン支持軸27を中心として下降回動)し、ロックピン24の係止部Cが、固定ブラケット22の係止部Xに係止した状態となるようになっている。このため、ヘッドレストの本体に後方から力が加えられた場合であっても、その前方回動が規制されるようになっている。このときには、その力が、左側の固定ブラケット22及び右側の固定ブラケット22におけるそれぞれの側壁部B,Bに設けられた計4箇所の係止部Xで受けられる。したがって、ヘッドレストは、より十分な強度を発揮することが可能となっている。
【0063】
また、第三実施態様のヘッドレストは、図8(a)に示すように、使用時の上側位置にあるときには、固定ブラケット22の係止部Bと回動ブラケット11の係止部Aも互いに係止するようになっている。このため、ヘッドレストの本体に前方から力が加えられた場合であっても、その後方回動が規制されるようになっている。このときには、その力の略全てが、ヘッドレストステー31に固定された固定ブラケット22で直接的に受けられる。したがって、主軸21に捩じり力がかかることがなく、主軸21と固定ブラケット22との結合部分に大きな負荷がかからないようにすることが可能となっている。
【0064】
さらに、第三実施態様のヘッドレストは、図8(a)に示すように、使用時の上側位置にあるときに、ヘッドレストの本体(使用者の頭部を支持する部分)に片当たりしたとき(左右方向片側にのみ力が加えられたとき等)であっても、その力を、右側の回動ブラケット11、固定ブラケット22、縦フレーム部12a及びヘッドレストステー31と、左側の回動ブラケット11、固定ブラケット22、縦フレーム部12b及びヘッドレストステー32とで、しっかりと受けとめることができるため、ヘッドレストの本体の左側及び右側のうち一方が前方に移動して他方が後方に移動するような捩じれが生じないようにすることも可能となっている。
【0065】
このように、第三実施態様のヘッドレストは、第一実施態様のヘッドレストと比較して、強度的に有利なものとなっている。したがって、ヘッドレストを大型化しなくても、強度を高めることが可能になる。
【0066】
第三実施態様のヘッドレストでは、使用時の上側位置にあるときに、ロック解除ワイヤ26aの内側ワイヤを下側へ引張操作すると、図8(b)に示すように、ロック解除プレート26bの後端部が、固定ブラケット22(ワイヤ固定補助部材26d)に対して下降し、ロック解除プレート26bのカム部Dがロックピン24のカム部Cを押し上げることによって、ロックピン24が、ロックピン付勢バネ25(図7)の付勢力に抗って強制的にロック解除方向(上側)に移動する。このため、係止部Xとロックピン24の係止部Cとの係合が外れた状態となり、回動ブラケット付勢バネ23の付勢力によって、回動ブラケット11が前方回動し、図8(c)に示すように、不使用時の前方下側位置に移動する。
【0067】
4.用途
以上で述べた第一実施態様や第二実施態様のヘッドレスト等、本発明のヘッドレストは、各種の座席に設けることができ、その用途を特に限定されるものではないが、自動車等の車両の座席のシートバックに設けるものとして好適である。特に、ハッチバック型の自動車における最後列のシートで採用すると好適である。
【符号の説明】
【0068】
11 回動ブラケット
11a ロックピン支持軸挿通孔
11b ロックピン案内孔
12 ヘッドレストフレーム
12a 縦フレーム部
12b 縦フレーム部
12c 横フレーム部
21 主軸
22 固定ブラケット
23 回動ブラケット付勢バネ
24 ロックピン
25 ロックピン付勢バネ
26 ロック解除部材
26a ロック解除ワイヤ
26a ロック解除ワイヤの上端部
26b ロック解除プレート
26b 第一片部
26b 第二片部
26c ワイヤ固定部材
26d ワイヤ固定補助部材
26e ロック解除レバー
27 ロックピン支持軸
31 ヘッドレストステー(右側)
32 ヘッドレストステー(左側)
41 ステーホルダ(右側)
42 ステーホルダ(左側)
50 シートフレームブラケット
60 シートフレーム
70 ボルト
80 主軸ブラケット
回動ブラケットの後壁部
回動ブラケットの側壁部(右側)
回動ブラケットの側壁部(左側)
回動ブラケットの係止部(後方回動規制用)
固定ブラケットの後壁部
固定ブラケットの側壁部(右側)
固定ブラケットの側壁部(左側)
固定ブラケットの係止部(後方回動規制用)
固定ブラケットのフック嵌合部
ロックピンの係止部
ロックピンのカム部
ロック解除プレートのカム部
シートフレームブラケットのフック部
主軸ブラケットのフック嵌合部
回動ブラケット又は固定ブラケットの係止部(前方回動規制用)
【要約】      (修正有)
【課題】前後厚を小さくできる180度折畳式のヘッドレストを提供する。
【解決手段】ヘッドレストを、回動ブラケット11、ヘッドレストフレーム12、主軸21、固定ブラケット22、回動ブラケット付勢バネ、ロックピン24、ロックピン付勢バネ及びロック解除部材26で構成し、回動ブラケット11の係止部Aを後壁部Aの下部に設けた折曲部とし、使用時の上側位置にあるときには、回動ブラケット11又は固定ブラケット22の係止部Xとロックピン24の係止部Cとが係止することによって前方回動が規制され、固定ブラケット22の係止部Bと回動ブラケット11の係止部Aとが係止することによって後方回動が規制され、ロック解除部材26を操作してロックピン24を移動させると、係止部Xと係止部Cとが外れ、回動ブラケット付勢バネ付勢力によって前方回動して不使用時の前方下側位置となるようにした。
【選択図】図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8