特許第6148794号(P6148794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148794
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】ゲル基剤及びゲル製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20170607BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 8/72 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20170607BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170607BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   A61K9/06
   A61K8/19
   A61K8/34
   A61K8/72
   A61K31/196
   A61K47/02
   A61K47/10
   A61K47/32
   A61K47/38
   A61P29/00
   A61Q19/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-521144(P2016-521144)
(86)(22)【出願日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】JP2015064572
(87)【国際公開番号】WO2015178445
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2016年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-107547(P2014-107547)
(32)【優先日】2014年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中西 利博
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 靖久
(72)【発明者】
【氏名】義永 隆明
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−173823(JP,A)
【文献】 特開2012−214411(JP,A)
【文献】 特開2011−153137(JP,A)
【文献】 特開2005−015368(JP,A)
【文献】 国際公開第94/26309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/06
A61K 8/19
A61K 8/34
A61K 8/72
A61K 31/196
A61K 47/02
A61K 47/10
A61K 47/32
A61K 47/38
A61P 29/00
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択される少なくとも1種のモノテルペン誘導体;水溶性高分子;タルク;アルコール及び水を含有するゲル基剤であり、
前記モノテルペン誘導体の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜10質量%であり、
前記タルクの含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して1.0〜6.0質量%である、
ゲル基剤。
【請求項2】
前記モノテルペン誘導体の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.75〜5.0質量%である請求項1に記載のゲル基剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子が水溶性セルロース誘導体及びカルボキシビニルポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のゲル基剤。
【請求項4】
前記アルコールが炭素数1〜3のアルコールである請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のゲル基剤。
【請求項5】
前記水溶性高分子の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜5.0質量%である請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のゲル基剤。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のゲル基剤と、薬物とを含有するゲル製剤。
【請求項7】
前記薬物がジクロフェナクナトリウムである請求項6に記載のゲル製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲル基剤及びそれを含有するゲル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、皮膚等に付与する外用剤としては、液剤、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、エアゾール剤、スプレー剤等が知られている。これらのうち、ゲル剤(ゲル製剤)は、高分子化合物等のゲル化剤を添加してゲル状としたゲル基剤と、薬物とを含有する外用剤であるが、患部へ直接塗布することが容易である等、他の剤型に比べて扱い易く、また、使用感において優れているといえる。このようなゲル製剤としては、例えば、国際公開第94/26309号(特許文献1)において、薬効成分、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール、エタノール等の低級アルコール、水、カルボキシビニル重合体等のゲル化剤、及び、トリエタノールアミン等の中和剤を配合してなるゲル製剤が記載されており、前記3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールが有効成分の溶解剤として機能することが記載されている。なお、前記3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールは、一般に、清涼感や冷感をもたらす作用を有し、皮膚安全性も高い化合物として知られている(特開昭58−88334号公報(特許文献2)、特開昭60−25908号公報(特許文献3))。
【0003】
また、前記ゲル製剤の使用感を改善することを目的として、タルク等の粉末材料をゲル基剤に含有せしめ、ゲル製剤の塗布部分に優れたさらさら感を付与することが知られている。しかしながら、ゲル製剤にタルクを含有させると、ゲル製剤を皮膚に塗布して乾燥させた後に塗布部分が白くなる「白残り」が発生するという問題を有していた。このような白残りの発生を抑制することを目的としたゲル製剤としては、例えば、特開2011−173823号公報(特許文献4)において、特定の水溶性高分子、タルク、水、脂肪族アルコール及び薬物を含有するゲル製剤が記載されている。また、タルクによる白残りの発生を抑制することを目的とした基剤としては、特開2012−87117号公報(特許文献5)において、シート状化粧料に含まれる液組成物として、タルク等の粉体及びシリカ粉体からなる親水性粉体と、特定の側鎖型ポリエステル変性シリコーンと、エタノールとを特定割合で組み合わせた液組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第94/26309号
【特許文献2】特開昭58−88334号公報
【特許文献3】特開昭60−25908号公報
【特許文献4】特開2011−173823号公報
【特許文献5】特開2012−87117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のタルクを含有するゲル製剤のゲル基剤においては、ゲル製剤の使用感を改善することを目的として、タルクをより高濃度で含有させると、白残りの発生を十分に抑制することが困難であることを本発明者らは認識した。また、従来のタルク及び水溶性高分子を含有するゲル製剤のゲル基剤においては、前記タルクによる白残りの他に、ゲル製剤を皮膚に塗布して乾燥させた後に乾燥した高分子が塗布部分に鱗状に析出する「鱗屑様物」が発生し易いという問題を有していることを本発明者らは認識した。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能なゲル基剤、及び、それを含有するゲル製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ゲル製剤のゲル基剤において、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択される少なくとも1種のモノテルペン誘導体;水溶性高分子;タルク;アルコール及び水を組み合わせて含有させ、さらに、前記モノテルペン誘導体と前記タルクとを特定含有量となるように組み合わせることにより、タルクの含有量が比較的高濃度であっても、タルクによる白残りの発生を十分に抑制できることを見出した。また、このようなゲル基剤によれば、水溶性高分子による鱗屑様物の発生も十分に抑制できることを見出した。
【0008】
さらに、本発明者らは、タルク及び水溶性高分子を含有するゲル基剤においては、含有せしめるアルコール濃度を高くすることで白残りの発生や鱗屑様物の発生を抑制できる傾向にあることを見出したが、アルコール濃度を高くすると、アルコールによる皮膚への刺激が強くなるといった問題が発生する。これに対して、上記のモノテルペン誘導体を含有するゲル基剤によれば、アルコール濃度が比較的低濃度であっても、白残りの発生や鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能であることを見出した。
【0009】
また、特許文献4〜5には、上記の3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールと同じくモノテルペン誘導体であるl−メントールを、薬物或いは任意成分として含有せしめることが記載されている。しかしながら、本発明者らは、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び/又は3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールに代えてl−メントールを用いても、十分な白残りの発生抑制効果及び鱗屑様物の発生抑制効果は奏されず、これらの効果が上記特定の組み合わせによって奏されるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のゲル基剤は、
3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択される少なくとも1種のモノテルペン誘導体;水溶性高分子;タルク;アルコール及び水を含有するゲル基剤であり、
前記モノテルペン誘導体の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜10質量%であり、
前記タルクの含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して1.0〜6.0質量%であるものである。
【0011】
本発明のゲル基剤においては、前記モノテルペン誘導体の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.75〜5.0質量%であることが好ましい。また、前記水溶性高分子が水溶性セルロース誘導体及びカルボキシビニルポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明のゲル基剤においては、前記アルコールが炭素数1〜3のアルコールであることが好ましい。また、前記水溶性高分子の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜5.0質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明のゲル製剤は、前記本発明のゲル基剤と薬物とを含有するものである。本発明のゲル製剤としては、前記薬物がジクロフェナクナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能なゲル基剤、及び、それを含有するゲル製剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】比較例1、3及び4で得られたゲル基剤について白残り評価試験を行った結果を示すグラフである。
図2】比較例1、3及び4で得られたゲル基剤について鱗屑様物評価試験を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明のゲル基剤は、
3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択される少なくとも1種のモノテルペン誘導体;水溶性高分子;タルク;アルコール及び水を含有するゲル基剤であり、
前記モノテルペン誘導体の含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜10質量%であり、
前記タルクの含有量が前記ゲル基剤の全質量に対して1.0〜6.0質量%であること、
を特徴とする。
【0017】
<モノテルペン誘導体>
本発明に係るモノテルペン誘導体は、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択される少なくとも1種である。3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールは、一般に、清涼感や冷感をもたらす作用を有する化合物として知られている。また、3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール(ゲラニオール)は、ローズオイルやゼラニウムオイルの香気成分として知られている。本発明においては、これら特定のモノテルペン誘導体をタルク及び水溶性高分子を含むゲル基剤に含有せしめることにより、驚くべきことに、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能となる。なお、本発明に係るモノテルペン誘導体に代えて、例えば、他のモノテルペン誘導体であるl−メントールを用いても、白残りの発生や鱗屑様物の発生を十分に抑制することは困難である。
【0018】
本発明に係るモノテルペン誘導体としては、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール及び3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールからなる群から選択されるいずれか1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生をより十分に抑制できるという観点から、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールを用いることがより好ましい。
【0019】
本発明のゲル基剤において、本発明に係るモノテルペン誘導体の含有量(3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールの含有量及び/又は3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オールの含有量の合計)としては、前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜10質量%であることが必要である。前記モノテルペン誘導体の含有量が前記下限未満である場合には、白残りの発生及び鱗屑様物の発生を十分に抑制することが困難となる。他方、前記上限を超える場合には、べたついたり、タルクの添加によるさらさら感が損なわれるようになる。
【0020】
また、前記モノテルペン誘導体の含有量としては、前記ゲル基剤の全質量に対して0.75〜5.0質量%であることが特に好ましい。前記モノテルペン誘導体の含有量が前記下限以上であると、白残りの発生及び鱗屑様物の発生をより十分に抑制することが可能となる傾向にある。他方、前記モノテルペン誘導体の含有量が前記上限を超えると、べたついてさらさら感が低減したり、乾きが遅くなったりする傾向にある。
【0021】
<水溶性高分子>
水溶性高分子は、ゲル基剤において、ゲルを形成するためのゲル化剤として機能するものである。本発明において、前記水溶性高分子としては、ゲル基剤に薬学的に許容可能な塩である薬物を組み合わせてゲル製剤とする場合であってもより好適にゲル基剤をゲル化せしめることができ、また、前記薬物の総量が多い場合であっても、より良好な流動特性(特に展延性、垂れ落ちの防止)のゲル製剤を得ることが容易になる傾向にあるという観点から、2質量%水溶液の20℃における粘度が1,000〜280,000mPa・sであることが好ましく、1,000〜30,000mPa・sであることがより好ましい。なお、本発明において、前記粘度は、日本薬局方の規定に従ってブルックフィールド型粘度計を用いて測定される値である。
【0022】
本発明に係る水溶性高分子としては、前記ゲル化剤として従来用いられているものを適宜用いることができ、特に限定されないが、上記の好適な粘度及び良好なチキソ性を達成することができ、「つっぱり感」を十分に軽減することができるという観点から、水溶性セルロース誘導体及びカルボキシビニルポリマーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、水溶性セルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0023】
一般に、皮膚上において水溶性高分子を含有するゲル基剤が乾燥して皮膜を形成する際には、乾く過程でこの皮膜が収縮するため、皮膚に対して不快な「つっぱり感」を生じさせる。このとき、分子量が大きく、結晶化し易い水溶性高分子を用いると、皮膜を構成する水溶性高分子の物理的な強度がより大きくなるため、より強いつっぱり感を生じさせる。なお、前記結晶化し易い水溶性高分子は、一般に、直鎖状で分子の対称性が高く、極性官能基を有する高分子であり、結晶化性の高い高分子である。これに対して、上述した水溶性セルロース誘導体及びカルボキシビニルポリマーは、比較的結晶化性が低い高分子であるため、つっぱり感をより軽減することができる傾向にある。
【0024】
前記水溶性セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、前記水溶性セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースのいずれかを用いることが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることがより好ましい。
【0025】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)は、セルロースの単位糖構造(グルコース)の3つの水酸基に対して部分的に置換基としてヒドロキシプロポキシ基及びメトキシ基が導入されたものである。これらの置換基は前記セルロースの単位糖構造の水酸基に対して不規則に導入される。このように部分的・不規則に2種の置換基が導入されていることによって、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースは分子構造の規則性が低下して高分子の結晶化性が低いものとなるため、ゲル基剤が乾燥して形成される皮膜の強度が小さくなり、上述のつっぱり感がより軽減される傾向にある。
【0026】
このようなヒドロキシプロピルメチルセルロースとしては、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0〜32.0%であり、且つ、メトキシ基の置換度が16.5〜30.0%の範囲であることが好ましく、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0〜12.0%であり、且つ、メトキシ基の置換度が22.0〜30.0%であることがより好ましい。前記置換度がこの範囲内にあるとゲルの流動特性がより好適となる傾向にあり、さらに、ゲル基剤が薬物を含む際には好適な薬物の治療効果が奏される傾向にある。
【0027】
また、前記ヒドロキシプロピルセルロースは、セルロースの単位糖構造(グルコース)の3つの水酸基に対して部分的に置換基としてヒドロキシプロポキシ基が導入されたものである。この置換基は前記セルロースの単位糖構造の水酸基に対して不規則に導入される。このように部分的・不規則に置換基が導入されていることによって、前記ヒドロキシプロピルセルロースの分子構造の規則性が低下して高分子の結晶化性が低いものとなるため、ゲル基剤が乾燥して形成される皮膜の強度が小さくなり、上述のつっぱり感が軽減される傾向にある。前記ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシ基の置換度としては、50〜80%であることが好ましい。また、本発明において、前記ヒドロキシプロピルセルロースの2質量%水溶液の20℃における粘度としては、1,000〜4,000mPa・sであることが好ましい。
【0028】
前記カルボキシビニルポリマーは、ポリアクリル酸を主鎖として部分的に架橋された架橋構造を有する高分子である。前記カルボキシビニルポリマーは、このように架橋され、且つ、分子量が極めて大きいため、少量の添加でゲル基剤を増粘させることが可能であり、展延性の向上、垂れ落ちの防止、及び、ゲル基剤を皮膚に塗布する際にゲル基剤中の固形分により垢状の塊、すなわち「ヨレ」が発生することを防止する観点から好ましい。また、前記架橋構造が部分的であるため、ゲル基剤が乾燥して形成される皮膜の強度が小さくなり、上述のつっぱり感が軽減される傾向にある。
【0029】
前記カルボキシビニルポリマーを用いる場合には、カルボキシル基を中和することによってより高い増粘性が発揮されるという観点から、前記ゲル基剤の製造時に、前記カルボキシビニルポリマーと共に前記中和のための中和剤を配合せしめることが好ましい。前記中和剤としては、特に限定されないが、アンモニア水;水酸化ナトリウム;ジイソプロパノールアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、トリエタノールアミン及びトリエチルアミン等の有機アミンを用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、前記カルボキシビニルポリマーの0.2質量%水溶液(pH7〜7.5)の20℃における粘度としては、5,000mPa・s〜29,000mPa・sであることが好ましく、5,000mPa・s〜28,000mPa・sであることがより好ましく、6,000mPa・s〜14,000mPa・sであることが更に好ましい。
【0031】
本発明のゲル基剤において、本発明に係る水溶性高分子の含有量(2種以上の場合には各水溶性高分子の含有量の合計)としては、前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜5.0質量%であることが好ましく、2.0〜4.0質量%であることがより好ましい。また、本発明に係る水溶性高分子として前記水溶性セルロース誘導体を用いる場合、その含有量としては、前記ゲル基剤の全質量に対して0.5〜5.0質量%であることが好ましく、2.0〜4.0質量%であることがより好ましい。前記水溶性高分子の含有量がこの範囲内にあると、ゲル基剤の増粘性及び流動性がより好適になり垂れ落ちやヨレの発生を十分に抑制することが可能となる傾向にある。
【0032】
本発明に係る水溶性高分子の含有量としては、前記粘度特性を有する水溶性高分子を用いる場合、比較的粘度の高い前記水溶性高分子を比較的少なく配合することによって、乾きがより早くなったり、ヨレの発生を十分に抑制することが可能となる傾向にある。
【0033】
また、前記水溶性高分子として前記水溶性セルロース誘導体を用いると、特に鱗屑様物が発生し易い傾向にあるが、本発明においては、このような水溶性セルロース誘導体を比較的高濃度(例えば、前記ゲル基剤の全質量に対して3.0質量%以上(より具体的には、例えば3.0〜5.0質量%))で用いても鱗屑様物の発生を十分に抑制することができる。
【0034】
<タルク>
本発明に係るタルクは、ゲル基剤の流動特性を調節する機能を有し、且つ、ゲル基剤を皮膚等へ塗布した後に当該塗布部位にさらさら感を付与することのできる粉末成分である。なお、このようなさらさら感は、皮膚上において前記水溶性高分子を含有するゲル基剤が乾燥して形成される皮膜が前記タルクによって擦過され、その結果、皮膜に脆弱部が多数形成されて皮膜の強度が小さくなり、上述のつっぱり感が低減するために奏されるものと推察される。
【0035】
本発明に係るタルクとしては、滑石(MgSi10(OH))を粉砕して得られる天然の含水ケイ酸マグネシウムが挙げられる。このようなタルクは層状ケイ酸塩鉱物に分類され、その結晶構造は、SiO四面体を繰り返し単位とする2枚の層の間にMg(OH)八面体を繰り返し単位とする層が挟まれてサンドイッチ状に重なった構造を基本構造として、この基本構造が更に層状に積層した構造となっている。このサンドイッチ状の各層の間の相互の結合はファンデルワールス力のみであるため、タルクは、へき開を生じ易く、崩れ易いという特性を有しており、そのため、モース硬度が他の鉱物に比べて小さい。したがって、他の鉱物に比べて、上述の優れたさらさら感を付与することができると推察される。
【0036】
このようなタルク粉末の粒子径としては、より滑らかな触感を付与することができ、皮膚に付着し易いという観点から、体積基準平均粒径で1〜30μmの範囲内にあることが好ましい。なお、本発明において、前記体積基準平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて得られる体積基準の粒子径分布から求められる。
【0037】
本発明のゲル基剤において、本発明に係るタルクの含有量としては、前記ゲル基剤の全質量に対して1.0〜6.0質量%であることが必要である。前記タルクの含有量が前記下限未満である場合には、さらさら感が付与される、べたつきが軽減される、ゲル基剤が塗り広げ易くなるといったタルクによる効果が十分に奏されない。他方、前記上限を超える場合には、ゲル基剤を塗り広げることが困難となったり、ざらつきが発生する。また、前記タルクの含有量としては、より十分にべたつきの影響を抑制し、塗り広げが容易となり、ざらつきの発生を防止することができる傾向にあるという観点から、前記ゲル基剤の全質量に対して3.0〜5.0質量%であることが特に好ましい。なお、前記タルクを用いると、特に白残りが発生し易い傾向にあるが、本発明においては、このようなタルクを高濃度(例えば、前記ゲル基剤の全質量に対して4.0質量%以上(より具体的には、例えば4.0〜6.0質量%))で用いても白残りの発生を十分に抑制することができる。
【0038】
<アルコール、水>
アルコール及び水は、ゲル基剤において、水溶性高分子とゲルを形成する液性媒体として機能するものである。本発明において、前記アルコールとしては、特に限定されないが、炭素数が多くなると乾きが遅くなる傾向にあるという観点から、炭素数1〜3のアルコールであることが好ましい。前記炭素数1〜3のアルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記アルコールの含有量としては、特に限定されないが、前記ゲル基剤の全質量に対して30〜95質量%であることが好ましく、40〜90質量%であることがより好ましく、60〜85質量%であることが更に好ましい。前記アルコールの含有量が前記下限未満であると、乾きが遅くなったり、ヨレ易くなったりする傾向にあり、他方、前記上限を超えると、アルコールによる皮膚への刺激が強くなる傾向にある。なお、本発明者らは、タルク及び水溶性高分子を含有するゲル基剤においては、含有せしめるアルコール濃度を高くすることによって白残りの発生や鱗屑様物の発生を抑制できる傾向にあることを見出したが、本発明においては、アルコール濃度が比較的低濃度(例えば、前記ゲル基剤の全質量に対して40質量%以下(より具体的には、例えば30〜40質量%))でも白残りの発生や鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能であるため、皮膚刺激の少ないゲル基剤を提供することが可能である。
【0040】
前記水としては、イオン交換、蒸留、濾過等の精製を施された水であることが好ましく、例えば、日本薬局方(第十五改正日本薬局方)に記載の「精製水」を好適に用いることができる。このような水の含有量としては、特に限定されないが、前記ゲル基剤の全質量に対して1.0〜59.5質量%であることが好ましく、1.0〜40.0質量%であることがより好ましい。
【0041】
本発明のゲル基剤としては、前記モノテルペン誘導体、前記水溶性高分子、前記タルク、前記アルコール、及び前記水の他にも、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、前記タルク以外の粉末成分、油分、香料、顔料、安定化剤、吸収促進剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0042】
<薬物>
本発明のゲル製剤は、前記本発明のゲル基剤と、薬物とを含有することを特徴とする。本発明のゲル製剤に用いることのできる薬物としては、特に限定されないが、抗真菌薬、例えば、ブテナフィン塩酸塩、テルビナフィン塩酸塩、ナフチフィン、アモロルフィン塩酸塩、ネチコナゾール塩酸塩、ルリコナゾール、ラノコナゾール、オキシコナゾール硝酸塩、ケトコナゾール、ミコナゾール硝酸塩、チオコナゾール、ビフォナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール硝酸塩、イトラコナゾール、フルコナゾール等;消炎鎮痛薬(抗炎症薬)、例えば、インドメタシン、ケトプロフェン、フェルビナク、フルルビプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、グアイアズレン、アラントイン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、サリチル酸、サリチル酸メチル、モノサリチル酸エチレングリコール等;抗ヒスタミン薬、例えば、メディエーター遊離抑制剤(トラニラスト、クロモグリク酸ナトリウム)、ヒスタミンH1受容体アンタゴニスト(オキサトミド、メキタジン、エメダスチン、エバスチン、ロラタジン、セチリジン、デスロラチジン、フェゾフェナジン、アステミゾール、アゼラスチン、クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ケトチフェン)、ヒスタミンH2受容体アンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン)、ヒスタミンH3受容体アンタゴニスト(チオペラミド、インプロミジン、ミフェチジン、イムペンタミン、クロザピン)、ヒスタミンH4受容体アンタゴニスト等;精油成分、例えば、l−メントール、カンファー、ボルネオール、オイゲノール、ユーカリ油、薄荷油、チョウジ油、ケイヒ油、ティーツリー油等;殺菌薬、例えば、イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、アクリノール、ベンザルコニウム塩酸塩等;局所麻酔薬、例えば、ジブカイン塩酸塩、リドカイン塩酸塩、プロカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩、ブピバカイン塩酸塩、プロピトカイン塩酸塩、オキシブプロカイン塩酸塩、メピバカイン塩酸塩、オキセサゼイン等;鎮痒剤、例えば、クロタミトン、イクタモール、モクタモール、チモール酸等;血行促進剤、例えば、トウガラシ抽出成分、カプサイシン、ノニル酸ワニリルアミド等;ステロイドホルモン、例えば、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸酢酸デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、酢酸プレドニゾロン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、プレドニゾロン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、酪酸クロベタゾン、トリアムシノロンアセトニド、吉草酸ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、酢酸ジフロラゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、アムシノニド、ハルシノニド、ブデソニド、プロピオン酸アルクロメタゾン等;並びに、これらの薬学的に許容可能な塩(上記薬物が塩である場合は、他の塩)及び上記薬物が塩である場合はその遊離物が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のゲル製剤において、前記薬物の含有量としては、前記薬物の種類及び/又はゲル製剤の投与目的に応じて好適な治療効果が得られる量となるように適宜調整することができ、通常の投与を目的とする量であれば前記ゲル基剤の白残りの発生抑制効果や鱗屑様物の発生抑制効果は阻害されない。このような好適な治療効果が得られる薬物の含有量としては、通常、例えば、前記ゲル基剤100質量部に対して0.5〜3.1質量部となる量が挙げられる。また、本発明のゲル製剤は、薬物の種類や組み合わせ、量に応じて、適用量や適用回数を適宜設定することができる。
【0044】
本発明のゲル基剤及びゲル製剤の製造方法としては、特に制限されず、公知のゲル基剤及びゲル製剤の製造方法をそれぞれ適宜採用することによって製造することができる。例えば、前記モノテルペン誘導体、前記水溶性高分子、前記タルク、前記アルコール、前記水、及び必要に応じて前記添加剤を混合して均一なゲル状とすることによって、目的のゲル基剤を得ることができる。また、前記ゲル基剤と前記薬物とを混合するか、或いは、前記モノテルペン誘導体、前記水溶性高分子、前記タルク、前記アルコール、前記水、前記薬物、及び必要に応じて前記添加剤を混合して均一なゲル状とすることによって、目的のゲル製剤を得ることができる。製造された本発明のゲル基剤及びゲル製剤は、チューブやプラスチック製容器、ガラス製容器等に充填して包装される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、白残り評価試験及び鱗屑様物評価試験はそれぞれ以下に示す方法により行った。
【0046】
(白残り評価試験)
各実施例及び比較例で得られたゲル基剤について、先ず、各ゲル基剤500mgを健康成人男性(5人)の下腕に50cmとなるようにそれぞれ塗布して乾燥させた。次いで、乾燥後の各塗布部分について、塗布部分全体が白くなっているのが視認できる状態を「1」、塗布部分が白くなっているのが視認できない状態を「5」として、1〜5の5段階評価で官能評価試験を実施し、その平均値を5段階の評価結果とした。
【0047】
また、各ゲル基剤500mgを健康成人男性の下腕に50cmとなるようにそれぞれ塗布し、乾燥させた後の塗布部分について、下記の評価基準:
A:塗布部分が白くなっているのが視認できない
B:塗布部分の面積の30%以下の範囲が白くなっているのが視認できる
C:塗布部分の面積の30%を超える範囲が白くなっているのが視認できる
に基づいても評価し、3段階の評価結果とした。
【0048】
さらに、健康成人男性(30人)の左右の下腕の一方に各ゲル基剤500mgを、他方に評価基準となる基準製剤(一定量のタルク、水溶性高分子及びアルコールを含有するゲル基剤)500mgを、それぞれ50cmとなるように塗布し、乾燥させた。乾燥後の塗布部分について、塗布部分全体が白くなっているのが視認できる状態を「20」、塗布部分が白くなっているのが視認できない状態を「100」として、20、40、60、80及び100の5段階評価で官能評価試験を実施した。基準製剤の評価値に対する各ゲル基剤の評価値の割合(スコア比)を求め、その平均値をスコア評価の結果とした。
【0049】
(鱗屑様物評価試験)
各実施例及び比較例で得られたゲル基剤について、先ず、各ゲル基剤500mgを健康成人男性(5人)の下腕に50cmとなるようにそれぞれ塗布して乾燥させた。次いで、乾燥後の各塗布部分について、塗布部分全体に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できる状態を「1」、塗布部分に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できない状態を「5」として、1〜5の5段階評価で官能評価試験を実施し、その平均値を5段階の評価結果とした。
【0050】
また、各ゲル基剤500mgを健康成人男性の下腕に50cmとなるようにそれぞれ塗布し、乾燥させた後の塗布部分について、下記の評価基準:
A:塗布部分に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できない
B:塗布部分の面積の30%以下の範囲に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できる
C:塗布部分の面積の30%を超える範囲に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できる
に基づいても評価し、3段階の評価結果とした。
【0051】
さらに、健康成人男性(30人)の左右の下腕の一方に各ゲル基剤500mgを、他方に評価基準となる基準製剤(一定量のタルク、水溶性高分子及びアルコールを含有するゲル基剤)500mgを、それぞれ50cmとなるように塗布し、乾燥させた。乾燥後の塗布部分について、塗布部分全体に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できる状態を「20」、塗布部分に乾燥したゲル基剤が鱗状に残っているのが視認できない状態を「100」として、20、40、60、80及び100の5段階評価で官能評価試験を実施した。基準製剤の評価値に対する各ゲル基剤の評価値の割合(スコア比)を求め、その平均値をスコア評価の結果とした。
【0052】
(実施例1)
先ず、ヒドロキシプロピルセルロース(水溶性高分子/商品名:HPC−H、日本曹達株式会社製):3質量部、タルク(体積基準平均粒径:10μm、松村産業株式会社製):4質量部、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール(商品名:l−メンチルグリセリルエーテル、高砂香料工業株式会社製):0.5質量部、イソプロピルアルコール(アルコール):70質量部、及び、精製水:22.5質量部を混合して、均一なゲル状のゲル基剤を得た。なお、20℃における上記ヒドロキシプロピルセルロースの2質量%水溶液の粘度は、2,660mPa・sであった。
【0053】
(実施例2〜7、実施例9〜12、比較例1〜2及び比較例5〜6)
ゲル基剤の組成をそれぞれ表1〜2に示す組成としたこと以外は、実施例1と同様にして各ゲル基剤を得た。なお、表1中、ゲラニオールとしては、2−トランス−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−オール(商品名:GERANIOL、高砂香料工業株式会社製)を用いた。
【0054】
(実施例8)
先ず、ヒドロキシプロピルセルロース(水溶性高分子/商品名:HPC−H、日本曹達株式会社製):3質量部、タルク(体積基準平均粒径:10μm、松村産業株式会社製):4質量部、3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール(商品名:l−メンチルグリセリルエーテル、高砂香料工業株式会社製):2.5質量部、イソプロピルアルコール(アルコール):75質量部、l−メントール:3質量部、及び、精製水:11.5質量部に、ジクロフェナクナトリウム:1.0質量部(ゲル基剤100質量部に対して1.01質量部)を混合して、均一なゲル状のゲル製剤を得た。
【0055】
(比較例3〜4)
イソプロピルアルコールをそれぞれ50質量部(比較例3)、89質量部(比較例4)とし、ゲル基剤の全量が100質量部となるように精製水の量を調整したこと以外は比較例1と同様にして各ゲル基剤を得た。
【0056】
実施例1〜7及び比較例1〜2で得られたゲル基剤について白残り評価試験(5段階評価)及び鱗屑様物評価試験(5段階評価)を行った結果を各ゲル基剤の組成と併せて表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のゲル基剤によれば、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制できることが確認された。また、実施例8で得られたゲル製剤について白残り評価試験(3段階評価)及び鱗屑様物評価試験(3段階評価)を行ったところ、いずれの結果もA評価であった。他方、本発明に係る3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオールやゲラニオールを含まないゲル基剤(比較例1)や、これらの化合物と同様にモノテルペン誘導体であるl−メントールを代わりに用いたゲル基剤(比較例2)では、白残り評価試験及び鱗屑様物評価試験の評価がいずれも低く、白残りの発生及び鱗屑様物の発生が十分に抑制されないことが確認された。
【0059】
比較例1、3及び4で得られたゲル基剤について白残り評価試験(スコア評価)を行った結果を図1に、鱗屑様物評価試験(スコア評価)を行った結果を図2に、それぞれ示す。また、実施例9〜12及び比較例5〜6で得られたゲル基剤について白残り評価試験(3段階評価)及び鱗屑様物評価試験(3段階評価)を行った結果を各ゲル基剤の組成と併せて表2に示す。なお、表2には、実施例4及び5で得られたゲル基剤について白残り評価試験(3段階評価)及び鱗屑様物評価試験(3段階評価)を行った結果も併せて示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図1〜2に示した結果から明らかなように、本発明に係る3−L−メントキシプロパン−1,2−ジオール又はゲラニオールを含有していないゲル基剤においては、基準製剤を基準としたスコア比どうしを比較すると、アルコール濃度が低い程、白残り評価試験及び鱗屑様物評価試験におけるスコア比が低くなり、アルコール濃度が低いと白残りや鱗屑様物が発生し易くなる傾向にあることが確認された。これに対して、表2に示した結果から明らかなように、本発明のゲル基剤によれば、アルコールの濃度が比較的低くても、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制でき、さらに、単にアルコールの濃度を高濃度にした場合(比較例5〜6)よりも高度に白残りの発生や鱗屑様物の発生を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、タルクによる白残りの発生や水溶性高分子による鱗屑様物の発生を十分に抑制することが可能なゲル基剤、及び、それを含有するゲル製剤を提供することが可能となる。
図1
図2