(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148850
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】クリーニング用素材およびクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20170607BHJP
B08B 1/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
H01L21/304 648Z
B08B1/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-265903(P2012-265903)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-112577(P2014-112577A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 教夫
【審査官】
小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−259970(JP,A)
【文献】
特開2004−063669(JP,A)
【文献】
特開平05−082411(JP,A)
【文献】
特開平09−283418(JP,A)
【文献】
特開平08−321447(JP,A)
【文献】
特開平07−130638(JP,A)
【文献】
特開2006−032427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性セラミックスにより構成され、試料保持具の表面に接触するクリーニング面を有するクリーニング用素材であって、
前記クリーニング面の表面粗さX[μm]および平面度Y[μm]の組み合わせを表わすプロットが、X−Y平面において0.20≦X≦0.50および0.10≦Y≦0.40で表わされる第1指定範囲に含まれていることを特徴とするクリーニング用素材。
【請求項2】
請求項1記載のクリーニング用素材であって、
前記プロットが、X−Y平面において前記第1指定範囲の一部である、0.30≦X≦0.40および0.20≦Y≦0.30で表わされる第2指定範囲に含まれていることを特徴とするクリーニング用素材。
【請求項3】
請求項1または2記載のクリーニング用素材であって、
前記絶縁性セラミックスが、アルミナであることを特徴とするクリーニング用素材。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載のクリーニング用素材であって、
前記絶縁性セラミックスの相対密度が90%以上であり、かつ、前記絶縁性セラミックスの平均粒径が15μm以下であることを特徴とするクリーニング用素材。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載のクリーニング用素材の前記クリーニング面を前記試料保持具に対して0.10[N/cm2]以下の圧力で当接させて当該試料保持具の付着物を除去することを特徴とするクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハを保持するチャック等の試料保持具の表面のデポおよびパーティクルなどの付着物を除去するための素材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ基板は、製造工程のなかで製造装置や検査装置の上に複数回保持される。保持方法としては機械的な力、差圧力、静電気力またはクーロン力のような様々な方法がある。近年、半導体ウエハ基板が高面積化しており、それに伴って試料保持具も高面積化が進んでいる。加えて、半導体ウエハ加工の高精度化も進んでいる。よって、ウエハ加工の際、試料保持具の平面度が重要になるため、試料保持具の形状はピンを有したものが多くなっている。ウエハを吸着する試料保持具の表面上にパーティクルやデポなどの付着物があると、ウエハと試料保持具の表面との間に付着物が挟みこまれることにより、ウエハの一部に盛り上がりが発生する場合があり、当該盛り上がりの存在によりウエハの加工精度が低下するおそれがある。
【0003】
さらに、試料保持具の高面積化によって、パーティクルやデポなどといった付着物の発生箇所も広範囲となっている。試料保持具の表面上のパーティクルやデポといった付着物を除去するために、クリーニングが行われているが、試料保持具の高面積化によって、洗浄槽などでのクリーニングが困難となっているため、ワイピングクロス等といった従来品や溶剤を用いたクリーニングを行っている。
【0004】
そこで、真空中で絶縁物であるウエハが電極を載置した上でプラズマにより帯電させ、静電力により試料保持具上に付着しているパーティクルを除去する手法が提案されている(特許文献1参照)。これにより、真空チャンバ内を大気に開放することなく、試料保持具のクリーニングが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-173041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、試料保持具が複数のピンを有する場合、当該複数のピン間のパーティクルはウエハに付着しやすいが、ピントップに付着したパーティクルはウエハに付着しにくく、試料保持具上に残存する。これは、ウエハが試料保持具に載置され、ピントップに付着しているパーティクルがウエハによってピントップ面に物理的に押さえつけられることによって、静電力によって除去されないためである。また、ウエハが試料保持具のピンまたはエッジにぶつかることによって、ピントップおよびエッジの欠損のリスクが高く、破損したことにより、新たなパーティクルの原因になっていた。
【0007】
そこで、本発明は、パーティクル等の付着物を新たに発生させることなく、試料保持具の付着物を場所に寄らずに均等に除去し、当該試料保持具の平面度の維持を図りうるクリーニング用素材および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のクリーニング用素材は、絶縁性セラミックスにより構成され、試料保持具の表面に接触するクリーニング面を有するクリーニング用素材であって、前記クリーニング面の表面粗さX[μm]および平面度Y[μm]の組み合わせを表わすプロットが、X−Y平面において0.20≦X≦0.50および0.10≦Y≦0.40で表わされる第1指定範囲に含まれていることを特徴とする。前記プロットが、X−Y平面において前記第1指定範囲の一部である、0.30≦X≦0.40および0.20≦Y≦0.30で表わされる第2指定範囲に含まれていることが好ましい。
前記セラミックスの体積抵抗率の前記試料保持具の体積抵抗率に対する比率が、前記セラミックスの種類に応じて定まる、クリーニング後に前記試料保持具の表面が本来の平面度をもたせることができる所定範囲に含まれていることが好ましい。前記セラミックスがアルミナである場合、前記所定範囲は10以上の範囲であり、前記セラミックスがジルコニアである場合、前記所定範囲は0.1以上の範囲であることが好ましい。
【0009】
本発明のクリーニング方法は、前記クリーニング用素材の前記クリーニング面を試料保持具に対して0.10[N/cm
2]以下の圧力で当接させて当該試料保持具上の付着物を除去することを特徴とする。
【0010】
本発明のクリーニング用素材およびクリーニング方法によれば、試料保持具が有するピンのトップおよびピン同士の間隙等の場所の相違にかかわらず、パーティクルおよびデポ等の付着物が均一かつ確実に除去され、試料保持具の平面度の向上が図られうる。また、ピンの欠損の確率が著しく低減されうる。試料保持具がチャンバの構成部品等に装着されている状態のままクリーニングされうるので、クリーニングの効率化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態としてのクリーニング用素材の斜視図。
【
図2】クリーニング面の表面粗さおよび平面度の相関関係に関する説明図。
【
図3】試料保持具の表面における平面度の測定結果に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(クリーニング用素材の構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としてのクリーニング用素材1は、略円盤状の絶縁性セラミックスにより構成され、試料保持具の表面に接触するクリーニング面10を有している。セラミックスとしては、アルミナ、イットリアまたはジルコニアなどの酸化物を主原料とするセラミックスが好ましいが、絶縁体であれば、非酸化物を主原料とするセラミックスであってもよい。クリーニング用素材1を構成するセラミックスの体積抵抗率の、試料保持具の体積抵抗率に対する比率が、当該セラミックスの種類に応じて定まる、クリーニング後に試料保持具の表面が本来の平面度をもたせることができる所定範囲に含まれていることが好ましい。具体的には、セラミックスがアルミナである場合、所定範囲は10以上の範囲である。セラミックスがジルコニアである場合、所定範囲は0.1以上の範囲である。
【0013】
クリーニング用素材1を構成するセラミックスの相対密度は、結晶粒子の結合力の低下および空隙の過多を回避する観点から90%以上が好ましい。セラミックスの結晶粒子の結合力が弱いと、当該結晶粒子の一部が脱落して試料保持具の表面に付着し、試料保持具面の平面度の向上が図れない、または、低下させる可能性がある。セラミックスに存在する空隙が多いと、空隙部分に付着物が溜まって、帯電しにくいほどに粗大化したまま付着物として試料保持具面上に残留してしまう。
【0014】
セラミックスの組織は均一な粒子であることが好ましい。材質によって、粒径は異なるが、いずれも平均粒径15[μm]以下が好ましく、より好ましくは10[μm]以下である。平均粒径が15[μm]よりも粗大であると、クリーニングストーンからの脱粒が起きやすく、新たな付着物の原因になる。セラミックスの純度は90%以上が好ましい。特に好ましい純度は95%以上である。純度が90%未満であると、不純物による発塵が発生し、新たな付着物の原因になる。
【0015】
クリーニング面の表面粗さX[μm]および平面度Y[μm]の組み合わせを表わすプロットが、
図2に示されているX−Y平面において一点鎖線により画定されている矩形状の第1指定範囲C1に含まれていることが好ましい。第1指定範囲C1は、0.20≦X≦0.50および0.10≦Y≦0.40で表わされる。当該プロットが、
図2に示されているX−Y平面において二点鎖線により画定されている矩形状の第2指定範囲C2に含まれていることがより好ましい。第2指定範囲C2は、第1指定範囲C1の一部であり、0.30≦X≦0.40および0.20≦Y≦0.30で表わされる。クリーニング面10の表面粗さが0.2よりも小さい場合、クリーニング面10と試料保持具がリンキングしてしまい、クリーニング効果がみられず、加えて、試料保持具からクリーニングストーンを脱着する際に過剰に力を加えなければならず、試料保持具を破損させる可能性がある。また、クリーニング面10の表面粗さが0.5よりも大きい場合、試料保持具を磨耗させ、新たな付着物の原因となる。クリーニング面10が中凸のような形状であれば、クリーニング可能面積が減り、クリーニングにかかる時間が長くなるため、このような平面度範囲が好ましい。
【0016】
試料保持具が複数のピンを有する場合、当該ピンの破損を回避する観点から、クリーニング面10の周縁部分11がR0.5〜1.0[mm]に加工されていることが好ましい。
【0017】
試料保持具の形状に応じてクリーニング用素材1を構成するセラミックスの大きさ及び形状は適当に変更されうる。クリーニング用素材1の試料保持具の表面に対する圧力は0.10[N/cm
2]以下であることが好ましい。当該圧力は0.05[N/cm
2]以下であることがより好ましい。これにより、クリーニング用素材1の当接によって試料保持具を磨耗または破損させ、新たな付着物を発生させる確率が著しく低減されうる。
【0018】
(実施例)
アルミナに適量の分散剤、バインダーおよびイオン交換水を加え、18[hr]混合した後に顆粒を作製した。この顆粒を用いて、120[MPa]にてCIP 成形し、Φ100[mm]形状の成形体を作製した。この成形体を大気雰囲気において、昇温15[℃/hr]、1600[℃]、3[hr]にて焼成した。このように作製した素材を用いて、表1に示されているように表面粗さおよび平面度が調節されたクリーニング面10を有する実施例1〜9のセラミックス(アルミナ)がクリーニング用素材1として準備され、当該セラミックス1を用いて試料保持具の表面に対して0.10[N/cm
2]の圧力で当接した状態で当該表面がクリーニングされた。なお、クリーニングは、試料保持具が装置に装着された状態で行った。
【0019】
図2のX−Y平面には、各実施例のセラミックス1のクリーニング面10の表面粗さXおよび平面度Yの組み合わせが丸付き数字(数字は該当数番の実施例を示す。)によりプロットされている。実施例1〜9のプロットは、一点鎖線で画定されている第1指定範囲C1に含まれている。実施例6〜9のプロットは、二点鎖線で画定されている第2指定範囲C2(第1指定範囲C1の一部)に含まれている。
【0020】
(比較例)
実施例と同様の方法にて、素材を作製し、表1に示されているように表面粗さおよび平面度が調節されたクリーニング面10を有する比較例1〜8のクリーニング用素材1が準備され、当該クリーニング用素材1が試料保持具の表面に対して0.10[N/cm
2]の圧力で当接した状態で当該表面がクリーニングされた。
図2のX−Y平面には、各比較例のセラミックス1のクリーニング面10の表面粗さXおよび平面度Yの組み合わせが四角付き数字(数字は該当数番の実施例を示す。)によりプロットされている。比較例1〜8のプロットは、第1指定範囲C1から外れている。
【0021】
クリーニング効果の有無を判定するため、レーザー干渉計によりクリーニング前後における試料保持具の表面形状が測定された。
図3(a)には、試料保持具の表面がクリーニングされる前において、当該表面およびエッジ部分に付着物の存在が確認できる場合の測定結果が示されている。
図3(b)には、試料保持具の表面がクリーニングされた後において、当該表面等の付着物が除去され、試料保持具の平面度が回復していることが確認できる場合の測定結果が示されている。表1には、当該測定結果に基づくクリーニング効果の有無の判定結果が示されている。
【0023】
表1から、次の事実がわかる。すなわち、表面粗さおよび平面度の組み合わせを表わすプロットが第1指定範囲C1に含まれている実施例1〜9のセラミックスが用いられた場合、試料保持具の表面における付着物が除去されており、クリーニング効果が十分である。特に、当該プロットが第1指定範囲C1の一部である第2指定範囲C2に含まれている場合、クリーニング効果が特に十分である。これに対して、当該プロットが第1指定範囲C1から外れている比較例1〜8のセラミックスが用いられた場合、クリーニング効果が不十分である。
【符号の説明】
【0024】
1‥セラミックス(クリーニング用素材)、10‥クリーニング面、11‥R加工。