(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)シリカ粒子、(b)酸、(c)酸化剤、(d)下記一般式(I)で表されるオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物、(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子、及び(f)水を含有し、25℃におけるpHが3.0未満である、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板を研磨するための磁気ディスク基板用研磨液組成物。
R−O−(EO)n−SO3M (I)
[式(I)中、Rは炭素数14以上16以下の直鎖又は分岐の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、アンモニウムイオン、又はアルキルアンモニウムイオンを表す。EOはエチレンオキサイド基を表し、nは2以上4以下の自然数を表す。]
前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物の含有量が、使用時に0.005質量%以上0.5質量%以下である、請求項1記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量比[(d)(質量%)/(e)(質量%)]が、0.05以上12.00以下である、請求項1又は2に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(g)脂肪族アミン化合物及び脂環式アミン化合物の含有量比[(d)(質量%)/(g)(質量%)]が、0.04以上20.00以下である、請求項4に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
前記成分(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子が、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体及び/又はその塩である、請求項1から6のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、一態様において、磁気ディスク用の被研磨基板の表面を研磨する研磨液組成物として、特定構造のオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子との組合せを含む研磨液組成物を使用すると、記録容量の大容量化の要請に応え得る低スクラッチ数の磁気ディスク基板を製造でき、さらに研磨速度を維持できるという知見に基づく。
【0014】
なお、本開示において「スクラッチ」とは、一又は複数の実施形態において、深さが1nm以上、幅が50nm以上、長さが500nm以上の基板表面の微細な傷で、光学式欠陥検出装置であるKLA Tencor社製のCandela7100シリーズや日立ハイテクノロジ−社製のNS1500シリーズで検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。さらに、検出したスクラッチは原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)で大きさや形状を解析することができる。
【0015】
本開示にかかる研磨液組成物が生産性を維持したままスクラッチを低減できるメカニズムの詳細は明らかでないが、以下のように考えられる。
【0016】
オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物は、アルキル部分がパッド表面に配列・強く吸着し、研磨パッドと被研磨基板の摩擦を抑制し、研磨速度を下げながらスクラッチ数を低減すると考えられる。そして、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子も同様に、疎水ユニットが研磨パッドに吸着し、研磨パッドと被研磨基板の摩擦を抑制することでスクラッチ数を低減していると考えられるが、パッド表面を厚く覆うため、研磨速度は低下する。
【0017】
しかし、オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物とスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子とを組み合わせた本開示にかかる研磨液組成物を使用すると、pHが3.0未満である時に、まずオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物のアルキル部分がパッド表面に吸着・配列するが、同様にスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の疎水ユニットがパッドに吸着することで、隙間無く研磨パッド全面に吸着し、スクラッチ数を著しく低減すると考えられる。それと同時に、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子がオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物の吸着配列を乱すことで、研磨速度低下の原因であるパッドへの強い吸着を弱め、スクラッチ数を著しく低減しつつも生産性を維持できると考えられる。但し、本開示はこのメカニズムに限定されない。
【0018】
[成分(a):シリカ粒子]
本開示にかかる研磨液組成物は、シリカ粒子を含有する。シリカ粒子は、限定されない一又複数の実施形態において、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一又は複数の実施形態において、研磨後の基板のスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、1種類からなるものであっても、2種類以上のコロイダルシリカを混合したものであってもよい。
【0019】
シリカの一次粒子の平均粒径は、研磨速度向上の観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、さらにより好ましくは10nm以上、さらにより好ましくは20nm以上であり、また、表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra、Peak to Valley値:Rmax)を低減する観点から、好ましくは40nm以下、より好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合は、研磨速度を向上させる観点から、その二次粒子の平均粒径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、さらにより好ましくは20nm以上、さらにより好ましくは25nm以上であり、基板の表面粗さを低減させる観点から、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは50nm以下、さらにより好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは35nm以下である。
【0020】
また、前記シリカの一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡で観察した画像を使い、一次粒子の小粒径側からの累積体積頻度が50%となる粒径(D50)を求め、この値を一次粒子の平均粒径とする。また、二次粒子の平均粒径はレーザー光散乱法を用いて体積平均粒径として測定することができる。
【0021】
シリカの粒径分布としては、研磨速度を向上させる観点から、D90/D50が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、スクラッチ数低減、表面粗さ低減の観点から、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.00以下である。尚、D90とは、透過型電子顕微鏡で観察した画像を使い、一次粒子の小粒径側からの累積体積頻度が90%となる粒径をいう。
【0022】
本開示にかかる研磨液組成物中におけるシリカの含有量は、研磨速度を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらにより好ましくは3質量%以上であり、スクラッチを低減させる観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは8質量%以下である。
【0023】
[成分(b):酸]
本開示にかかる研磨液組成物は、酸を含有する。本開示において、酸の使用は、酸及び又はその塩の使用を含む。本開示にかかる研磨液組成物に使用される酸としては、研磨速度向上の観点から、その酸のpK1が2以下の化合物が好ましく、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくはpK1が1.5以下、より好ましくは1以下、さらに好ましくはpK1で表せない程の強い酸性を示す化合物である。好ましい酸は、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。中でも、スクラッチ低減の観点から、無機酸、カルボン酸、有機ホスホン酸が好ましく、酸化剤の安定性向上及び廃液処理性向上の観点から、無機酸、有機ホスホン酸がより好ましく、無機酸がさらに好ましい。また、無機酸の中では、同様の観点から、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸がより好ましく、リン酸、硫酸がさらに好ましく、硫酸がさらにより好ましい。カルボン酸の中では、クエン酸、酒石酸、マレイン酸がより好ましく、クエン酸がさらに好ましい。有機ホスホン酸の中では、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩がより好ましく、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)がさらに好ましい。これらの酸及びその塩は単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。ここで、pK1とは有機化合物又は無機化合物の第一酸解離定数(25℃)の逆数の対数値である。各化合物のpK1は例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp316−325(日本化学会編)等に記載されている。
【0024】
研磨液組成物中における前記酸及びその塩の含有量は、研磨速度向上の観点から、0.001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、さらにより好ましくは0.1質量%以上、さらにより好ましくは0.3質量%以上であり、スクラッチ数低減の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下、さらにより好ましくは2.0質量%以下、さらにより好ましくは1.0質量%以下である。なお、本開示で用いられる界面活性剤としてのスルホン酸に該当する酸は、本開示にかかる研磨液組成物で用いられる「酸」には含まれないものとする。
【0025】
[成分(c):酸化剤]
本開示にかかる研磨液組成物は、酸化剤を含む。本開示にかかる研磨液組成物に使用できる酸化剤としては、研磨速度向上、並びに研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。
【0026】
前記過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム等が挙げられ、過マンガン酸又はその塩としては、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、クロム酸又はその塩としては、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩等が挙げられ、ペルオキソ酸又はその塩としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等が挙げられ、酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、金属塩類としては、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。
【0027】
スクラッチ数低減の観点から好ましい酸化剤としては、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。より好ましい酸化剤としては、表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から過酸化水素が挙げられる。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
研磨液組成物中における前記酸化剤の含有量は、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、スクラッチ数低減の観点からから、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0029】
[成分(d):オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物]
本開示にかかる研磨液組成物に用いられるオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物は、下記の一般式(I)で表される。
R−O−(EO)n−SO
3M (I)
[式(I)中、Rは炭素数9以上17以下の直鎖又は分岐の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、アンモニウムイオン、又はアルキルアンモニウムイオンを表す。EOはエチレンオキサイド基を表し、nは2以上4以下の自然数を表す。]
【0030】
前記オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物におけるエチレンオキサイド基の付加モル数nはシリカ表面への吸着性の観点から2以上4以下であり、好ましくは2以上3以下であり、より好ましくは3である。
【0031】
本開示にかかる研磨液組成物において用いられるオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物の対イオンとしては、たとえば、アルカリ金属イオン、アニモニウムイオン等の無機カチオンの他に、四級アンモニウムイオンなどの有機カチオンが挙げられる。スルホン酸塩の水への溶解性の観点から、アルカリ金属イオンが好ましく、ナトリウムイオンがより好ましい。
【0032】
前記オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物におけるRは、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基である。Rの炭素数は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは10以上16以下、より好ましくは12以上16以下、さらに好ましくは14以上16以下、さらにより好ましくは16である。
【0033】
本開示にかかる研磨液組成物に用いられるオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物は、種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
研磨液組成物中のオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物の含有量は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.010質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上、さらにより好ましくは0.08質量%以上であり、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点及び耐泡立ち性などの操作性の観点から、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下、さらにより好ましくは0.2質量%以下である。また、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点及び耐泡立ち性などの操作性の観点から、好ましくは0.005〜2.0質量%、より好ましくは0.005〜1.0質量%、さらに好ましくは0.010〜0.5質量%、さらにより好ましくは0.010〜0.3質量%、さらにより好ましくは0.03〜0.3質量%、さらにより好ましくは0.05〜0.2質量%、さらにより好ましくは0.08〜0.2質量%である。
【0035】
[成分(e):スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子]
本開示にかかる研磨液組成物には、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子を含有する。本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は水溶性であることが好ましい。ここで「水溶性」とは、20℃の水100gに対する溶解度が2g以上であることをいう。
【0036】
本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は、スルホン酸基を有する単量体およびカルボン酸基を有する単量体の1種以上の単量体を構成単位として含んでいるのが好ましい。スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は、例えば、スルホン酸基を有する単量体、カルボン酸基を有する単量体、さらに必要に応じてその他の単量体を重合することにより得られる。これら単量体の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよいが、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、ランダムが好ましい。
【0037】
アニオン性基が塩である場合の塩は、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等との塩が挙げられる。金属の具体例としては、周期律表(長周期型)1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、6A、7A又は8族に属する金属が挙げられる。アルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、アニオン性基が塩である場合の塩は、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、1A族に属する金属又はアンモニウムとの塩が好ましく、アンモニウム、ナトリウム又はカリウムとの塩がより好ましく、ナトリウムがさらに好ましい。
【0038】
本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の好適な例として、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、以下に示される、スルホン酸基を有する単量体及びカルボン酸基を有する単量体に由来の構成単位を含む重合体またはその塩が好ましい。
【0039】
スルホン酸基を有する単量体の具体例としては、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられ、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びスチレンスルホン酸が好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。また、カルボン酸基を有する単量体としては、例えば、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が挙げられ、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、(メタ)アクリル酸及びマレイン酸が好ましい。
【0040】
また、本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子には、上記以外の単量体に由来の構成単位が含まれていてもよい。他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1−クロル−1,3−ブタジエン等の脂肪族共役ジエン、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物が挙げられ、スルホン酸基を有する単量体及びカルボン酸基を有する単量体との重合容易性の観点から、スチレン及びビスフェノールが好ましい。
【0041】
また、本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の好適な例として、スルホン酸基を有し、且つ、その主鎖及び側鎖のそれぞれに芳香族環を有している水溶性高分子が好ましい。スルホン酸基を有する化合物と水溶性高分子の主鎖及び側鎖の双方に芳香族環を導入しうる化合物とをホルムアルデヒド存在下で付加縮合法等の公知の手段で重合することにより製造できる。具体的には、特開2012−135863号公報に開示されている化合物が挙げられる。研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、ビスフェノールSとフェノールスルホン酸のホルムアルデヒド付加縮合物が好ましい。
【0042】
本開示におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、マレイン酸/スチレンスルホン酸共重合体、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸が挙げられる。また、他の好ましい具体例として、天然物起源の高分子のスルホン化物としてリグニンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、マレイン酸/スチレンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸が好ましく、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、ポリアクリル酸がより好ましく、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体がさらに好ましい。
【0043】
[スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の重量平均分子量]
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の重量平均分子量は、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは1500以上、さらにより好ましくは5000以上であり、研磨速度向上の観点から、好ましくは12万以下、より好ましくは10万以下、さらに好ましくは3万以下、さらにより好ましくは1.5万以下である。該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の方法により測定した値である。
【0044】
スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子が塩を少なくとも部分的に形成している場合、その対イオンとしては、特に限定はなく、上述の親水性構成単位の場合と同様に、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等との塩が挙げられ、ナトリウムイオンが好ましい。
【0045】
研磨液組成物におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.010質量%以上、さらにより好ましくは0.020質量%以上、さらにより好ましくは0.030質量%以上であり、研磨速度向上の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下、さらに好ましくは0.080質量%以下、さらにより好ましくは0.060質量%以下、さらにより好ましくは0.050質量%以下である。
【0046】
本開示にかかる研磨液組成物において、前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量比[(d)(質量%)/(e)(質量%)]は、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.30以上、さらにより好ましくは0.50以上、さらにより好ましくは1.0以上である。同様の観点から、含有量比[(d)(質量%)/(e)(質量%)]は、15以下が好ましく、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下である。また、前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量比[(d)(質量%)/(e)(質量%)]は、研磨速度維持及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは0.05以上15以下、より好ましくは0.10以上12以下、さらに好ましくは0.10以上10以下、さらにより好ましくは0.30以上10以下、さらにより好ましくは0.50以上5以下、さらにより好ましくは1.0以上5以下である。
【0047】
[成分(f):水]
本開示にかかる研磨液組成物中の水は、媒体として使用されるものであり、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。被研磨基板の表面清浄性の観点からイオン交換水及び超純水が好ましく、超純水がより好ましい。研磨液組成物中の水の含有量は、経済性の観点から好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、スクラッチ数低減及び研磨速度向上の観点から好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは98.9質量%以下である。また、本開示における効果を阻害しない範囲内でアルコール等の有機溶剤を配合してもよい。
【0048】
[成分(g):脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物]
本開示にかかる研磨液組成物は、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物を含有することが好ましい。本開示にかかる研磨液組成物に含有されうる脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ数低減の観点から、分子内の窒素原子数は2個以上である。また、該脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨速度の維持の観点から、分子内の窒素原子数は4個以下であり、3個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。したがって、該脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物は、研磨速度の維持及びスクラッチ数低減の観点から、分子内の窒素原子数は2〜4個であって、2〜3個が好ましく、2個がより好ましい。
【0049】
本開示にかかる研磨液組成物に用いられる脂肪族アミン化合物は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、N−アミノエチル−N−メチルエタノールアミン、ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミンからなる群から選択されることが好ましく、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN−アミノエチル−N−メチルエタノールアミンからなる群から選択されることがより好ましく、N−アミノエチルエタノールアミンがさらに好ましい。
【0050】
本開示にかかる研磨液組成物に用いられる脂環式アミン化合物は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2、5−ジメチルピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N−メチルピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択されることが好ましく、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2、5−ジメチルピペラジン、N−メチルピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジンからなる群から選択されることがより好ましく、ヒドロキシエチルピペラジンがさらに好ましい。
【0051】
本開示にかかる研磨液組成物における脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、研磨液組成物全体の質量に対して好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.010質量%以上、さらにより好ましくは0.030質量%以上であり、また、研磨速度向上の観点から、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下、さらにより好ましくは0.08質量%以下、さらにより好ましくは0.070質量%以下である。なお、研磨液組成物中の脂肪族アミン化合物は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0052】
また、研磨液組成物中における、前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(g)脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との含有量比[(d)(質量%)/(g)(質量%)]は、研磨速度維持及びスクラッチ低減の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上、さらにより好ましくは0.25以上、さらにより好ましくは0.50以上であり、同様の観点から好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下、さらにより好ましくは3.0以下である。また、研磨液組成物中における、前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(g)脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との含有量比[(d)(質量%)/(g)(質量%)]は、研磨速度維持及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、好ましくは0.01〜20、より好ましくは0.05〜20、さらに好ましくは0.10〜15、さらにより好ましくは0.10〜10、さらにより好ましくは0.25〜5、さらにより好ましくは0.25〜3、さらにより好ましくは0.50〜3である。
【0053】
[成分(h):複素芳香族化合物]
本開示にかかる研磨液組成物は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、複素環芳香族化合物を含有することが好ましい。本開示にかかる研磨液組成物に含有されうる複素環芳香族化合物は、研磨速度向上及び研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物であり、複素環内に窒素原子を3個以上有することが好ましく、3個以上、9個以下がより好ましく、3個以上、5個以下がさらに好ましく、3又は4個がさらにより好ましい。
【0054】
本開示にかかる研磨液組成物に含有される複素環芳香族化合物は、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、プロトン化された複素芳香環化合物のpKaが小さいもの、すなわち、求電子性が強いものが好ましく、具体的には、pKaが−3〜4が好ましく、より好ましくは−3〜3、さらに好ましくは−3〜2.5である。複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物としては、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,5−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、ピラゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノー1,2,3−トリアゾール、5−アミノー1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノー1,2,4−トリアゾール、5−アミノー1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−テトラゾール、5−アミノテトラゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾール、2−アミノベンゾトリアゾール、3−アミノベンゾトリアゾール、又はこられのアルキル置換体若しくはアミン置換体が好ましく、1H−テトラゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−トリルトリアゾールがより好ましく、1H−テトラゾール、1H−ベンゾトリアゾールがさらに好ましく、1H−ベンゾトリアゾールがさらにより好ましい。前記アルキル置換体のアルキル基としては例えば、炭素数1〜4の低級アルキル基が挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基が挙げられる。また、前記アミン置換体としては1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]トリルトリアゾールが挙げられる。なお、プロトン化された複素環芳香族化合物のpKaは、例えば、『芳香族へテロ環化合物の化学』(坂本尚夫著、講談社サイエンティフィク)等に記載される。
【0055】
本開示にかかる研磨液組成物における複素環芳香族化合物の含有量は、スクラッチ数低減の観点から、研磨液組成物全体の質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、研磨速度向上の観点から好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下、さらにより好ましくは0.5質量%以下である。なお、研磨液組成物中の複素環芳香族化合物は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0056】
[その他の成分]
本開示にかかる研磨液組成物には、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質等が挙げられる。研磨液組成物中のこれら他の任意成分の含有量は、本開示における効果を妨げない範囲であればよいが、スクラッチ低減及び研磨速度向上の観点から、好ましくは0質量%以上であり、同様の観点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。但し、本開示にかかる研磨液組成物は、他の成分を含むことなく、研磨後の基板表面のスクラッチの低減効果を発揮し得る。
【0057】
なお、本開示にかかる研磨液組成物は、アルミナ砥粒を含まないことが好ましい。本開示において「アルミナ砥粒を含まない」とは、一又は複数の実施形態において、アルミナ粒子を含まないこと、実質的にアルミナ粒子を含まないこと、砥粒として機能する量のアルミナ粒子を含まないこと、又は、研磨結果に影響を与える量のアルミナ粒子を含まないこと、を含みうる。具体的なアルミナ粒子の含有量は、特に限定されるわけではないが、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に0%であることが更により好ましい。
【0058】
[研磨液組成物のpH]
本開示にかかる研磨液組成物のpHは、スクラッチの低減及び研磨速度向上の観点から、3.0未満であり、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。また取り代を確保し、研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.2以上である。なお、上記のpHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、電極の浸漬後40分後の数値である。
【0059】
[研磨液組成物の調製方法]
本開示にかかる研磨液組成物は、例えば、シリカ粒子、酸、酸化剤、オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子、水、及び、必要に応じて脂肪族アミン化合物、複素環芳香族化合物等の成分を含めて、公知の方法で混合することにより調製できる。この際、シリカ粒子は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。本開示にかかる研磨液組成物中における各成分の含有量や濃度は、上述した範囲であるが、その他の態様として、本開示にかかる研磨液組成物を濃縮物として調製してもよい。濃縮倍率は、保存安定性、操作性及び輸送容易性の観点から、20倍以下が好ましく、10倍以下が好ましく、また、2倍以上が好ましい。
【0060】
[被研磨基板]
本開示にかかる研磨液組成物が研磨の対象とする被研磨基板は、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板である。本開示にかかる研磨液組成物をNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板の研磨に使用することで、研磨後の基板表面のスクラッチ数低減とともに、従来の予測を超えた効果である生産性維持の効果を奏する。なお、本開示において「Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、磁気ディスク基板用アルミニウム合金板材の表面を研削後、無電解Ni−Pメッキ処理したものをいう。Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板の表面を研磨し、さらに、スパッタ等でその基板表面に磁性膜を形成することにより磁気ディスク基板を製造することができる。上記被研磨基板の形状には特に制限はなく、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状であればよい。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2〜95mm程度であり、その厚みは例えば0.5〜2mm程度である。
【0061】
[磁気ディスク基板の製造方法]
本開示は、その他の態様として、磁気ディスク基板の製造方法(以下、本開示にかかる製造方法ともいう。)に関する。本開示にかかる製造方法は、上述した本開示にかかる研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、本開示にかかる研磨液組成物を用いた研磨工程ともいう。)を含む磁気ディスク基板の製造方法である。これにより、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された磁気ディスク基板を、生産性を損なうことなく提供できうる。本開示にかかる製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。よって、本開示にかかる製造方法は、その他の態様として、本開示にかかる研磨液組成物を用いた研磨工程を含む垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法である。
【0062】
本開示にかかる研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する方法の具体例としては、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示にかかる研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤及び/又は被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する方法が挙げられる。
【0063】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示にかかる研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の研磨剤や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。なお、研磨機としては、特に限定されず、磁気ディスク基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0064】
[研磨パッド]
本開示にかかる製造方法で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができるが、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0065】
研磨パッドの表面部材の平均開孔径は、スクラッチ低減及びパッド寿命の観点から、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは35μm以下である。一方パッドの研磨液保持性の観点から、気孔で研磨液を保持し液切れを起こさないようにするために、平均開孔径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、さらにより好ましくは10μm以上である。また、研磨パッドの開孔径の最大値は、研磨速度維持の観点から、100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。
【0066】
[研磨荷重]
本開示にかかる研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、研磨速度向上の観点から、好ましくは3.0kPa以上、より好ましくは5.0kPa以上、さらに好ましくは6.0kPa以上であり、また、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは15kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下、さらにより好ましくは8kPa以下である。なお、本開示にかかる製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0067】
[研磨液組成物の供給]
本開示にかかる研磨液組成物を用いた研磨工程における本開示にかかる研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ数低減の観点から、被研磨基板1cm
2当たり、好ましくは0.025mL/分以上、より好ましくは0.04mL/分以上、さらに好ましくは0.06mL/分以上であり、経済性の観点から、好ましくは15mL/分以下、より好ましくは10mL/分以下であり、さらに好ましくは1mL/分以下、さらにより好ましくは0.5mL/分以下、さらにより好ましくは0.2mL/分以下、さらにより好ましくは0.1mL/分以下である。
【0068】
本開示にかかる研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示にかかる研磨液組成物となる。
【0069】
[研磨方法]
本開示は、その他の態様として、上述した本開示にかかる研磨液組成物を研磨パッドに接触させながら被研磨基板を研磨することを含む被研磨基板の研磨方法に関する。本態様の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された磁気ディスク基板、特に垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板が、生産性を損なうことなく提供されうる。本態様の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板や磁気記録用媒体の基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。なお、具体的な研磨の方法及び条件は、上述の本開示にかかる製造方法のとおりとすることができる。
【0070】
上述した実施形態に関し、本開示はさらに以下の組成物、製造方法、或いは用途を開示する。
【0071】
<1> (a)シリカ粒子、(b)酸、(c)酸化剤、(d)下記一般式(I)で表されるオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物、(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子、及び(f)水を含有し、25℃におけるpHが3.0未満である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
R−O−(EO)n−SO
3M (I)
[式(I)中、Rは炭素数9以上17以下の直鎖又は分岐の炭化水素基を表し、Mは水素、アルカリ金属、アンモニウムイオン、又はアルキルアンモニウムイオンを表す。EOはエチレンオキサイド基を表し、nは2以上4以下の自然数を表す。]
【0072】
<2> シリカ粒子の一次粒子の平均粒径が、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、さらにより好ましくは10nm以上、さらにより好ましくは20nm以上であり、及び/又は、好ましくは40nm以下、より好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下である、<1>記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<3> シリカ粒子の二次粒子の平均粒径が、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、さらにより好ましくは20nm以上、さらにより好ましくは25nm以上であり、及び/又は、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは50nm以下、さらにより好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは35nm以下である、<1>又は<2>に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<4> シリカ粒子の粒径分布のD90/D50が、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上であり、及び/又は、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.00以下である、<1>から<3>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<5> 研磨液組成物中におけるシリカの含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらにより好ましくは3質量%以上であり、及び/又は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは8質量%以下である、<1>から<4>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<6> 研磨液組成物中における前記酸及びその塩の含有量が、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上、さらにより好ましくは0.1質量%以上、さらにより好ましくは0.3質量%以上であり、及び/又は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下、さらにより好ましくは2.0質量%以下、さらにより好ましくは1.0質量%以下である、<1>から<5>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<7> 研磨液組成物中における前記酸化剤の含有量が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、及び/又は、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である、<1>から<6>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<8> 研磨液組成物中の前記オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物の含有量が、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.010質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上、さらにより好ましくは0.08質量%以上であり、及び/又は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下、さらにより好ましくは0.2質量%以下であり、又は、好ましくは0.005質量%以上2.0質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上1.0質量%以下、さらに好ましくは0.010質量%以上0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.010質量%以上0.3質量%以下、さらにより好ましくは0.03質量%以上0.3質量%以下、さらにより好ましくは0.05質量%以上0.2質量%以下、さらにより好ましくは0.08質量%以上0.2質量%以下である、<1>から<7>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<9> スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子が、(メタ)アクリル酸/2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物、又はポリアクリル酸である、<1>から<8>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<10> 研磨液組成物におけるスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.010質量%以上、さらにより好ましくは0.020質量%以上、さらにより好ましくは0.030質量%以上であり、及び/又は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下、さらに好ましくは0.080質量%以下、さらにより好ましくは0.060質量%以下、さらにより好ましくは0.050質量%以下である、<1>から<9>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<11> 前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(e)スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子の含有量比[(d)(質量%)/(e)(質量%)]が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.30以上、さらにより好ましくは0.50以上、さらにより好ましくは1.0以上であり、及び/又は、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下であり、又は、好ましくは0.05以上15以下、より好ましくは0.10以上12以下、さらに好ましくは0.10以上10以下、さらにより好ましくは0.30以上10以下、さらにより好ましくは0.50以上5以下、さらにより好ましくは1.0以上5以下である、<1>から<10>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<12> Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板を研磨するための、<1>から<11>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<13> さらに成分(g)脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物を含有する、<1>から<12>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<14> 研磨液組成物における脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物の含有量が、研磨液組成物全体の質量に対して好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、さらに好ましくは0.010質量%以上、さらにより好ましくは0.030質量%以上であり、及び/又は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下、さらにより好ましくは0.08質量%以下、さらにより好ましくは0.070質量%以下である、<13>記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<15> 研磨液組成物中における、前記成分(d)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物と前記成分(g)脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物との含有量比[(d)(質量%)/(g)(質量%)]が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上、さらにより好ましくは0.25以上、さらにより好ましくは0.50以上であり、及び/又は、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下、さらにより好ましくは3.0以下であり、又は、好ましくは0.01以上20以下、より好ましくは0.05以上20以下、さらに好ましくは0.10以上15以下、さらにより好ましくは0.10以上10以下、さらにより好ましくは0.25以上5以下、さらにより好ましくは0.25以上3以下、さらにより好ましくは0.50以上3以下である、<13>又は<14>に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<16> さらに成分(h)複素芳香族化合物を含有する、<1>から<15>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<17> 研磨液組成物における複素環芳香族化合物の含有量が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、及び/又は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.8質量%以下、さらにより好ましくは0.5質量%以下である、<16>記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<18> 研磨液組成物のpHが、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下であり、及び/又は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.2以上である、<1>から<17>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<19> <1>から<18>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
<20> <1>から<18>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の研磨方法。
【実施例】
【0073】
[
参考例1〜6及び比較例1〜10]
参考例1〜6及び比較例1〜10の研磨液組成物を調製して被研磨基板の研磨を行い、研磨後の基板のスクラッチを評価した。評価結果を下記表1に示す。使用したオキシルアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子、研磨液組成物の調製方法、各パラメータの測定方法、研磨条件(研磨方法)及び評価方法は以下のとおりである。
【0074】
[成分(a):コロイダルシリカ]
コロイダルシリカとして、一次粒子の平均粒径24nm、二次粒子の平均粒径32nm、D90/D50が1.16のもの(日揮触媒化成社製)を使用した。
【0075】
[成分(d):オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物]
参考例1〜6では、アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のC
12-O(EO)
3SO
3Na(エマール20C、花王社製)を使用した。
【0076】
[成分(e):スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子]
研磨液組成物に使用したスルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子は下記AA/AMPS、BisS/PhS、PAA、MA/SS、Lig及びSt/SS、の5種類である。なお、St/SSについては下記の方法により製造した。また、これらの重合体の重量平均分子量は下記の条件で測定した。
<スルホン酸基及びカルボン酸基の少なくとも一方を有するアニオン性高分子>
AA/AMPS:アクリル酸/アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(モル比80/20、重量平均分子量10,000、東亞合成社製)
BisS/PhS:ビスフェノールS/フェノールスルホン酸ホルムアルデヒド付加縮合物ナトリウム塩(重量平均分子量5,000、小西化学工業社製)
PAA:ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量10,000、和光純薬工業社製)
MA/SS:マレイン酸/スチレンスルホン酸 (重量平均分子量5,000, VERSA−TL YE−920, アクゾノーベル社製)
St/SS:スチレン/スチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩(モル比33/67、重量平均分子量10,000、下記の方法により製造)
Lig:高純度高分子量リグニンスルホン酸ナトリウム(パールレックスNP、日本製紙ケミカル社製)
<比較例に用いたアニオン性高分子>
PAM:ポリアクリルアミド(重量平均分子量10,000、和光純薬工業社製)
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量22,000、和光純薬工業社製)
【0077】
〔スチレン/スチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩の製造方法〕
1Lの四つ口フラスコに、イソプロピルアルコール180g(キシダ化学製)、イオン交換水270g、スチレン10g(キシダ化学製)、スチレンスルホン酸ナトリウム40g(和光純薬工業製)を仕込み、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩7.2g(V−50、和光純薬工業製)を反応開始剤として、83±2℃で2時間滴下重合し、更に2時間熟成を行い、その後、減圧下で溶剤を除去することで、白色粉の重合体であるスチレン/スチレンスルホン酸共重合体ナトリウム塩を得た。
【0078】
[重合体の重量平均分子量の測定方法]
上記の重合体の重量平均分子量は、下記測定条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した。
〔AA/AMPS,MA/SSのGPC条件〕
カラム :TSKgel G4000PWXL+TSKgel G2500PWXL
(東ソー製)
ガードカラム:TSKguardcolumn PWXL(東ソー製)
溶離液 :0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1(体積比)
温度 :40℃
流速 :1.0mL/min
試料サイズ:5mg/mL
検出器 :RI
換算標準 :ポリアクリル酸Na(分子量(Mp):11.5万、2.8万、4100、1250(創和科学及びAmerican Polymer Standards Corp.製))
〔St/SSのGPC条件〕
カラム :TSKgel α−M+TSKgel α−M(東ソー製)
ガードカラム:TSKguardcolumn α(東ソー製)
溶離液 :60mmol/L リン酸,50mmol/L LiBr/DMF
温度 :40℃
流速 :1.0mL/min
試料サイズ:5mg/mL
検出器 :RI
換算標準 :ポリスチレン(分子量(Mw):590、3600、3万、9.64万、92.9万、842万(東ソー、西尾工業、及びchemco社製))
〔BisS/PhSのGPC条件〕
カラム:TSKgel GMPWXL+TSKgel GMPWXL(東ソー社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH
3CN=7/3(体積比)
温度:40℃
流速:1.0ml/min
試料サイズ:2mg/ml
検出器:RI
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:1,100、3,610、14,900、152,000、POLMER STANDARDS SERVICE社製)
【0079】
[研磨液組成物の調製方法]
前記コロイダルシリカ、前記アニオン性ポリマー、前記オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩系化合物、酸(硫酸)及び酸化剤(過酸化水素)を用いて
参考例1〜6及び比較例1〜10の研磨液組成物を調製した。なお、コロイダルシリカ濃度は5質量%、硫酸濃度は0.5質量%、過酸化水素濃度は、0.5質量%で使用した。研磨液組成物のpHは硫酸を用いて1.3に調整した。なお、上記のpHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータ「HM−30G」(東亜電波工業株式会社製)を用い、電極の浸漬後40分後の数値である(以下同様)。
【0080】
[研磨]
上記のように調製した
参考例1〜6及び比較例1〜10の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。研磨終了後、基板をイオン交換水中に5分間浸漬した後、イオン交換水で20秒間すすぎを行った。次いで、研磨された基板のスクラッチを以下に示す条件に基づいて測定し、評価を行った。結果を下記表1に示す。下記表1に示すデータは、各実施例
、各参考例及び各比較例につき4枚の被研磨基板を研磨した後、各被研磨基板の両面について測定し、4枚(表裏合わせて計8面)のデータの平均とした。
【0081】
[被研磨基板]
被研磨基板としては、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ研磨剤を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。なお、この被研磨基板は、厚さが1.27mm、外径が95mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nm、長波長うねり(波長0.4〜2mm)の振幅は2nm、短波長うねり(波長50〜400μm)の振幅は2nmであった。
【0082】
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(厚さ0.9mm、平均開孔径30μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm
2あたりの供給速度:0.072mL/分)
下定盤回転数:32.5rpm
研磨荷重:6.6kPa
研磨時間:6分間
【0083】
[研磨速度の測定方法]
研磨前後の各基板の重さを質量計(Sartorius社製「BP−210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化を求め、10枚の平均値を質量減少量とし、それを研磨時間で割った値を質量減少速度とした。この質量減少速度を下記の式に導入し、研磨速度(μm/分)に変換した。その結果を、下記表1に比較例1を100とした相対値として示す。
研磨速度(μm/分)=質量減少速度(g/分)/基板片面面積(mm
2)/Ni−Pメッキ密度(g/cm
3)×10
6(基板片面面積:6597mm
2、Ni−Pメッキ密度:7.99g/cm
3として算出)
【0084】
[スクラッチの評価方法]
測定機器:KLA Tencor社製、OSA7100
評価:研磨試験機に投入した基板の中、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10000rpmにてレーザーを照射してスクラッチを測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチの数を算出した。その結果を、下記表1に比較例1を100とした相対値として示す。
【0085】
【表1】
【0086】
前記表1に示すとおり、
参考例1〜6と比較例3〜8を対応比較すると、成分(d)と成分(e)とが組み合わされることで、研磨速度を損なうことなくスクラッチが相加的又は相乗的に低減された。一方、カルボン酸及びスルホン酸を含まない水溶性ポリマーであるPAM(比較例9)では、研磨速度が大きく損なわれた。また、PVA(比較例10)では、凝集が生じ研磨できなかった。
【0087】
[
参考例7及び比較例11〜13]
参考例1の成分(d)に換えて下記表2に記載のものを使用したほかは
参考例1と同様に
参考例7及び比較例11〜13の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表2に示す。
<使用した成分(d)>
参考例7:アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数2、ナトリウム塩のC
12-O(EO)
2SO
3Na(エマールE−27C、花王社製)を使用した。
比較例11:アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数0、ナトリウム塩のC
12-OSO
3Na(エマール2F−30、花王社製)を使用した。
比較例12:アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数1、ナトリウム塩のC
12-O(EO)
1SO
3Na(エマール125HP、花王社製)を使用した。
比較例13:アルキル基の炭素数13、エチレンオキサイド基数5、ナトリウム塩のC
13-O(EO)
5SO
3Na(ニューコール1305SF、日本乳化剤社製)を使用した。
【0088】
【表2】
【0089】
前記表2に示すとおり、エチレンオキサイド基が3及び2個の
参考例1及び7では、エチレンオキサイド基が0、1、5個の比較例11〜13に比べて研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減していた。比較例13では、凝集が生じた。
【0090】
[
参考例8
、実施例9〜10及び比較例14〜17]
参考例1の成分(d)に換えて下記表3に記載のものを使用したほかは
参考例1と同様に
参考例8
、実施例9〜10及び比較例14〜17の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表3に示す。
<使用した成分(d)>
参考例8:アルキル基の炭素数10、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のC
10-O(EO)
3SO
3Naを使用した。(合成品:合成は、国際公開第2009/069826号公報に開示の方法に準じて行った。)
実施例9:アルキル基の炭素数14、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のC
14-O(EO)
3SO
3Naを使用した。((合成品:合成は、国際公開第2009/069826号公報に開示の方法に準じて行った。)
実施例10:アルキル基の炭素数16、エチレンオキサイド基数3、アンモニウム塩のC
16-O(EO)
3SO
3NH
4を使用した。(合成品:合成は、国際公開第2009/069826号公報に開示の方法に準じて行った。)
比較例14:アルキル基の炭素数8、エチレンオキサイド基数3、アンモニウム塩のC
8-O(EO)
3SO
3NH
4(Witcolate1247H、アクゾノーベル社製)を使用した。
比較例15:アルキル基の炭素数18、エチレンオキサイド基数3、アンモニウム塩のC
18-O(EO)
3SO
3NH
4を使用した。(合成品:合成は、国際公開第2009/069826号公報に開示の方法に準じて行った。)
比較例16:アルキル基に換えて−SO
3Na基、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のNaSO
3-O(EO)
5SO
3Naを使用した。(合成品:合成は、国際公開第2009/069826号公報に開示の方法に準じて行った。)
比較例17:アルキル基に換えてベンジル基、エチレンオキサイド基数3、スルホン酸基ナトリウム塩に換えて水素原子のBz-O(EO)
2H(Bz−20、日本乳化剤社製)を使用した。
【0091】
【表3】
【0092】
前記表3に示すとおり、アルキル基の炭素数が10から16の
参考例1及び8
、実施例9〜10では、炭素数8及び18のアルキル基の比較例14及び15、並びにアルキル基がない比較例16及び17に比べて研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減していた。
【0093】
[
参考例11及び比較例18、19]
参考例1の成分(d)に換えて下記表4に記載のものを使用したほかは
参考例1と同様に
参考例11及び比較例18,19の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表4に示す。
<使用した成分(d)>
参考例11:アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数3、スルホン酸基ナトリウム塩に換えてスルホン酸基アンモニウム塩のC
12−O(EO)
3SO
3NH
4(タイノリン AESA−25、新日本理化社製)を使用した。
比較例18:アルキル基の炭素数13、エチレンオキサイド基数3、スルホン酸基ナトリウム塩に換えてリン酸基のC
13−O(EO)
3PO
3H(フォスファノールRS−410、東邦化学工業社製)を使用した。
比較例19:アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基数3、スルホン酸基ナトリウム塩に換えて水素原子のC
12−O(EO)
3H(ニューコール2303、日本乳化剤社製)を使用した。
【0094】
【表4】
【0095】
前記表4に示すとおり、
参考例1の成分(d)のナトリウム塩がアンモニウム塩(
参考例11)となっても同様に研磨速度維持及びスクラッチ低減という効果を示した。一方、
参考例1の成分(d)のスルホン酸基がリン酸基や水素原子となった比較例18及び19では、研磨速度が低下し、スクラッチ低減効果も低かった。
【0096】
[
参考例12−16]
参考例1の成分(d)の含有量を0.005質量%、0.010質量%、0.100質量%、0.300質量%、及び0.500質量%とした
参考例12〜16の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、比較例1及び3の結果とともに下記表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
前記表5に示すとおり、成分(d)を添加した
参考例12〜16では比較例1及び3と比べて研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減していた。
参考例16では、研磨中に泡が発生した。
【0099】
[
参考例17−20]
参考例1の成分(d)の含有量を0.005質量%、0.010質量%、0.050質量%、及び0.059質量%とし、成分(e)の含有量をそれぞれ0.059質量%、0.054質量%、0.014質量%、及び0.005質量%とした
参考例17〜20の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表6に示す。また、成分(d)と成分(e)の含有量比(質量%/質量%)を算出して併せて下記表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
前記表6に示すとおり、成分(d)と成分(e)の含有量比(質量%/質量%)が0.08〜11.80の範囲で研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減できることが示された。
【0102】
[
参考例21−24]
参考例19の研磨液組成物に成分(g)脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物、さらに成分(h)複素環芳香族化合物を加えた
参考例21―24の研磨液組成物を調製した(下記表7)。これらの研磨液組成物を用いて上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1並びに比較例1及び3の結果とともに下記表7に示す。また、成分(g)としてA‐EA(N−アミノエチルエタノールアミン)及びHEP(ヒドロキシエチルピペラジン)を使用し、成分(h)としてBTA(1H−ベンゾトリアゾール)を使用した。
【0103】
【表7】
【0104】
前記表7に示すとおり、(g)脂肪族アミン化合物及び脂環式アミン化合物、さらに成分(h)複素環芳香族化合物を含有する
参考例21−24は、
参考例1と比べても、研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数の低減が一層促進されたことが示された。
【0105】
[
参考例25−29]
参考例21の研磨液組成物の成分(d)のオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩と成分(g)脂肪族アミン化合物複素の含有量を下記表8のように変化を加えた
参考例25〜29の研磨液組成物を調製した(下記表8)。これらの研磨液組成物を用いて上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、下記表8に示す。また、成分(d)と成分(g)の含有量比(質量%/質量%)を算出して併せて下記表8に示す。なお、成分(g)としてA‐EA(N−アミノエチルエタノールアミン)を使用した。
【0106】
【表8】
【0107】
前記表8に示すとおり、成分(d)と成分(g)の含有量比(質量%/質量%)が0.05〜19.0の範囲で研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減できることが示された。
【0108】
[実施例30、31]
参考例22の成分(d)に換えて下記表9に記載のものを使用したほかは
参考例1と同様に実施例30及び31の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例22の結果とともに下記表9に示す。
<使用した成分(d)>
実施例30:実施例9で使用したアルキル基の炭素数14、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のC
14-O(EO)
3SO
3Naを使用した。
実施例31:実施例10で使用したアルキル基の炭素数16、エチレンオキサイド基数3、ナトリウム塩のC
16-O(EO)
3SO
3NH
4を使用した。
【0109】
【表9】
【0110】
前記表9に示すとおり、アルキル基の炭素数が12から16の
参考例22、
実施例30、及び31では、研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減していた。
【0111】
[比較例20〜22]
成分(a)のシリカ粒子に換えてアルミナ粒子(2次粒径:340nm)を使用した比較例20〜22の研磨液組成物を調製し(下記表10)、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。その結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表10に示す。
【0112】
【表10】
【0113】
前記表10に示すとおり、アルミナ粒子を含有する比較例20〜22の研磨液組成物では研磨速度の低下に対しスクラッチの改善は確認できなかった。
【0114】
[
参考例32、比較例23〜25]
参考例1の研磨液組成物のpH(1.3)を、pH2.0又は3.0としたほかは
参考例1と同様に
参考例32及び比較例23の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。また、比較例3の研磨液組成物のpH(1.3)を、pH2.0又は3.0としたほかは比較例3と同様に比較例24、25の研磨液組成物を調製し、上述と同様に被研磨基板の研磨を行い、スクラッチ及び研磨速度を算出した。これらの結果を、比較例1を100とした相対値として、
参考例1の結果とともに下記表11に示す。
【0115】
【表11】
【0116】
前記表11に示すとおり、pH3.0未満の
参考例1及び
参考例32において、研磨速度が維持されつつ、スクラッチ数が低減していた。