(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148869
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】生体信号測定システム、生体信号測定装置、および生体信号測定装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20170607BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
A61B5/14 322
A61B10/00 E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-17233(P2013-17233)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-147474(P2014-147474A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 英昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【審査官】
佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/078882(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0282182(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0130211(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0249252(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0092805(US,A1)
【文献】
特開2009−125402(JP,A)
【文献】
特開昭63−111837(JP,A)
【文献】
特開2004−202218(JP,A)
【文献】
特開平11−089808(JP,A)
【文献】
特開2012−115640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号の測定システムであって、
第1波長を有する第1の光、および第2波長を有する第2の光を出射する発光部と、
被検者の生体組織を通過または反射した前記第1の光および前記第2の光の強度に応じて、それぞれ第1信号および第2信号を出力する受光部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部と、
特定された前記血液充填時間を出力する出力部とを備え、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度の差分に基づいて、前記血液由来の減光度を取得する、測定システム。
【請求項2】
生体信号の測定システムであって、
第1波長を有する第1の光、および第2波長を有する第2の光を出射する発光部と、
被検者の生体組織を通過または反射した前記第1の光および前記第2の光の強度に応じて、それぞれ第1信号および第2信号を出力する受光部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部と、
特定された前記血液充填時間を出力する出力部とを備え、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度に回転マトリクス法を適用することにより、前記血液由来の減光度を取得する、測定システム。
【請求項3】
前記血液由来の減光度を示す信号から所定の周波数以下の成分を除去した信号を取得する第4演算部を備え、
前記第3演算部は、前記生体組織の圧迫が解除された後の前記第4演算部が取得した信号の経時変化に基づいて前記血液充填時間を特定する、請求項1または2に記載の測定システム。
【請求項4】
前記第4演算部が取得した信号の値の対数値を取得する第5演算部を備え、
前記第3演算部は、前記生体組織の圧迫が解除された後の前記対数値の経時変化より得られる回帰直線の勾配に基づいて前記血液充填時間を特定する、請求項3に記載の測定システム。
【請求項5】
前記血液由来の減光度の変化量が所定値を超えた場合に、前記第3演算部による前記血液充填時間の測定が自動的に開始される、請求項1から4のいずれか一項に記載の測定システム。
【請求項6】
前記生体組織を圧迫可能に前記被検者に装着されるカフと、
前記カフの内部の気圧を制御するカフ圧制御部とを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の測定システム。
【請求項7】
生体信号の測定装置であって、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部とを備え、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度の差分に基づいて、前記血液由来の減光度を取得する、測定装置。
【請求項8】
生体信号の測定装置であって、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部とを備え、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度に回転マトリクス法を適用することにより、前記血液由来の減光度を取得する、測定装置。
【請求項9】
生体信号の測定装置を制御するプログラムであって、
前記測定装置は、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記信号受付部と接続されたコンピュータと、
前記コンピュータと接続された出力部とを備えるものであり、
前記プログラムは、前記コンピュータを、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部、および
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部として動作させ、
さらに特定された前記血液充填時間を前記出力部より出力させ、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度の差分に基づいて、前記血液由来の減光度を取得する、プログラム。
【請求項10】
生体信号の測定装置を制御するプログラムであって、
前記測定装置は、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記信号受付部と接続されたコンピュータと、
前記コンピュータと接続された出力部とを備えるものであり、
前記プログラムは、前記コンピュータを、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部、および
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部として動作させ、
さらに特定された前記血液充填時間を前記出力部より出力させ、
前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度に回転マトリクス法を適用することにより、前記血液由来の減光度を取得する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号測定システムに関する。特に生体の一例としての被検者より取得した生体信号に基づいて、生体組織を圧迫した後の当該生体組織への血液充填時間を特定するシステムに関する。また本発明は、当該システムに用いられる生体信号測定装置、および当該装置を制御するプログラムに関する。
【0002】
血液充填時間の測定は、輸液の要否やトリアージ(識別救急)における優先度などを判断するために、救急医療の分野において用いられる手法である。具体的には、医療従事者が被検者の指先などの生体組織を圧迫し、当該圧迫を解除した後の皮膚の色の変化を目視で確認する。2秒以内に元の色に戻れば、正常な状態と判断される。しかしながら、手で生体組織の圧迫を行ない、目視で皮膚色の変化を確認する手法では定量性に欠け、測定者による誤差も生じやすい。
【0003】
そこでパルスオキシメータを血液充填時間の測定に用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。具体的には、血液に吸収される波長の光を指先などの生体組織に入射させ、当該生体組織を透過した光の強度を測定する。圧迫により当該箇所の生体組織から血液が排除されるため、透過光の強度は増大する。圧迫を解除すると当該箇所の生体組織に血液が充填されるため、透過光の強度は減少する。圧迫を解除してから透過光強度が元のレベルに戻るまでの時間に基づいて、血液充填時間が特定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−115640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体組織の圧迫の強さの違いが、血液充填時間の特定結果に影響を及ぼすことがある。
図6は、圧迫の強さを変化させながら血液充填時間の特定を複数回行なった結果である。(a)に示す結果は、圧迫を解除しても透過光強度が元のレベルに戻らない場合を示している。(b)に示す結果は、測定を繰り返すに連れて、透過光強度の基準値が徐々に低下していく場合を示している。
【0006】
(a)に示す現象は、強い圧迫あるいは圧迫の繰返しにより、変形された組織が元の状態に復帰しにくくなり、血液部分が元の厚みを取り戻すのに時間を要しているために生じているものと推測される。(b)に示す現象は、逆に圧迫によって血流が促進され、血液部分の厚みが増していくために生じているものと推測される。いずれの場合においても、透過光強度が圧迫前の状態に戻るまでの時間に基づいて血液充填時間を特定している限り、結果に誤差を伴うことが避けられない。しかしながら、生体組織の圧迫は医療従事者の手によって行なわれるため、圧迫の強さを常に一定とすることは難しい。
【0007】
よって本発明は、簡便な手法によって血液充填時間を正確に特定しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第1の態様は、生体信号の測定システムであって、
第1波長を有する第1の光、および第2波長を有する第2の光を出射する発光部と、
被検者の生体組織を通過または反射した前記第1の光および前記第2の光の強度に応じて、それぞれ第1信号および第2信号を出力する受光部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部と、
特定された前記血液充填時間を出力する出力部とを備える。
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第2の態様は、生体信号の測定装置であって、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部と、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部と、
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部とを備える。
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる第3の態様は、生体信号の測定装置を制御するプログラムであって、
前記測定装置は、
被検者の生体組織を通過または反射した第1波長を有する第1の光の強度に対応する第1信号、および当該生体組織を通過または反射した第2波長を有する第2の光の強度に対応する第2信号を受け付ける信号受付部と、
前記信号受付部と接続されたコンピュータと、
前記コンピュータと接続された出力部とを備えるものであり、
前記プログラムは、前記コンピュータを、
前記第1信号に基づいて前記第1の光の減光度を取得し、前記第2信号に基づいて前記第2の光の減光度を取得する第1演算部、
前記第1の光の減光度および前記第2の光の減光度に基づいて、血液由来の減光度を取得する第2演算部、および
前記生体組織の圧迫に伴う前記血液由来の減光度の経時変化に基づいて、前記生体組織への血液充填時間を特定する第3演算部として動作させ、
さらに特定された前記血液充填時間を前記出力部より出力させる。
【0011】
ここで前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度の差分に基づいて、前記血液由来の減光度を取得する。あるいは、前記第2演算部は、前記第1の光の減光度と前記第2の光の減光度に回転マトリクス法を適用することにより、前記血液由来の減光度を取得する。
【0012】
上記のような構成によれば、簡単な演算処理のみで、圧迫の程度の相違に起因して生ずる血液以外の組織の変形の影響を排除し、血液充填時間を正確に特定することができる。また血液充填時間の出力を得るために操作者が行なう実質的な作業は、例えばパルスオキシメトリに用いる既存のプローブを被検者の生体組織に装着して圧迫するのみである。すなわち特殊なプローブの用意や特殊な作業を要することなく、迅速かつ正確に血液充填時間を特定することができる。
【0013】
前記血液由来の減光度を示す信号から所定の周波数以下の成分を除去した信号を取得する第4演算部を備え、前記第3演算部は、前記生体組織の圧迫が解除された後の前記第4演算部が取得した信号の経時変化に基づいて前記血液充填時間を特定する構成としてもよい。
【0014】
このような構成によれば、圧迫解除後の減光度変化にのみ着目して血液充填時間が特定される。したがって、圧迫前の減光度基準値が変化してしまうような状況下においても、その影響を受けることなく正確に血液充填時間を特定することができる。
【0015】
前記第4演算部が取得した信号の値の対数値を取得する第5演算部を備え、前記第3演算部は、前記生体組織の圧迫が解除された後の前記対数値の経時変化より得られる回帰直線の勾配に基づいて前記血液充填時間を特定する構成としてもよい。
【0016】
このような構成によれば、第4演算部が取得した信号に重畳する脈拍等に起因するノイズを除去することができ、血液充填時間をより正確に特定することが可能である。
【0017】
前記血液由来の減光度の変化量が所定値を超えた場合に、前記第3演算部による前記血液充填時間の測定が自動的に開始される構成としてもよい。
【0018】
血液由来の減光度に大きな変化が生じた場合は、血液充填時間を特定するために生体組織の圧迫が行なわれた蓋然性が高いと判断できる。この判断に基づいて血液充填時間の特定を自動的に行なうこととすれば、操作者の負担をさらに軽減することができる。
【0019】
前記生体組織を圧迫可能に前記被検者に装着されるカフと、前記カフの内部の気圧を制御するカフ圧制御部とを備える構成としてもよい。
【0020】
この場合、操作者や繰返し回数によらず、常に一定の条件で圧迫を行なうことができる。したがって、より正確に血液充填時間を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る生体信号測定システムの構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】上記生体信号測定システムにおける第2演算部が行なう処理の一例を説明する図である。
【
図3】上記第2演算部が行なう処理の別例を説明する図である。
【
図4】上記生体信号測定システムにおける第4演算部が行なう処理の一例を説明する図である。
【
図5】上記生体信号測定システムにおける第5演算部が行なう処理の一例を説明する図である。
【
図6】従来の手法で血液充填時間を特定した場合の問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態の例について、添付の図面を参照しつつ以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る生体信号測定システム1は、測定装置10およびプローブ20を備えている。測定装置10は、指示受付部11、制御部12、信号受付部13、および表示部14を備えている。プローブ20は、被検者の指30に装着される周知の構成を有するものであり、発光部21および受光部22を備えている。
【0024】
指示受付部11は、測定装置10の外面に設けられた周知のマンマシンインターフェースであり、測定装置10に所望の動作を行なわせるためにユーザより入力される指示を受け付け可能に構成されている。
【0025】
制御部12は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM等を備え、測定装置10における様々な制御を実行する。制御部12は、指示受付部11と通信可能に接続されている。指示受付部11は、受け付けた指示に応じた信号を制御部12に入力する。
【0026】
プローブ20の発光部21は、測定装置10の制御部12と通信可能に接続されている。発光部21は、第1波長λ1を有する第1の光と、第2波長λ2を有する第2の光を出射可能とされている。本実施形態において発光部21は、第1波長λ1の一例として660nmの赤色光を出射する発光ダイオードと、第2波長λ2の一例として940nmの赤外光を出射する発光ダイオードを備えている。各発光ダイオードは、制御部12からの制御信号に応じて、所定のタイミングで発光する。出射された第1の光と第2の光は、それぞれ生体組織の一例としての指30に入射する。
【0027】
プローブ20の受光部22は、指30を通過した第1の光と第2の光を受光可能な位置に配置される。受光部22は、受光した第1の光の強度I1に応じた第1信号S1、および受光した第2の光の強度I2に応じた第2信号S2を出力可能な構成とされている。本実施形態においては、このような構成を有する素子としてフォトダイオードを用いている。受光部22は、測定装置10の信号受付部13と通信可能に接続されている。受光部22より出力された信号S1、S2は、信号受付部13に入力される。
【0028】
信号受付部13は、制御部12と通信可能に接続されている。信号受付部13は、受け付けた信号S1、S2を制御部12に入力する。制御部12は、第1演算部41、第2演算部42、および第3演算部43を備えている。
【0029】
第1演算部41は、第1信号S1に基づいて第1の光の減光度A1を取得し、第2信号S2に基づいて第2の光の減光度A2を取得するように構成されている。減光度A1、A2は、それぞれ第1信号S1と第2信号S2の、ある時刻(例えば生体組織の圧迫前)における受光光量と別の時刻(例えば生体組織の圧迫中)における受光光量の比として計算され、次式で表わされる。
A1=log(I1/Io1) (1)
A2=log(I2/Io2) (2)
ここでIo1、Io2が基準時刻(例えば生体組織の圧迫前)における受光光量を示し、I1、I2が測定時における受光光量を示している。添え字1は第1の光を、添え字2は第2の光を表している。
【0030】
第2演算部42は、第1演算部41が取得した第1の光と第2の光の減光度A1、A2に基づいて、血液由来の減光度を取得するように構成されている。具体的には、減光度A1と減光度A2の差分に基づいて、血液由来の減光度Abを取得するように構成されている。この動作原理について、以下詳しく説明する。
【0031】
指30を圧迫して生体組織の厚みを変化させた際に生じる減光度の変化Aは、血液の厚み変化と血液以外の組織の厚み変化とに起因する。この事実は次式で表わされる。
A1=Ab1+At1=E1HbDb+Z1Dt (3)
A2=Ab2+At2=E2HbDb+Z2Dt (4)
ここで、Eは吸光係数(dl g
-1cm
-1)、Hbは血色素濃度(g dl
-1)、Zは血液以外の組織の減光率(cm
-1)、Dは変化した厚み(cm)を表している。添え字bは血液を、添え字tは血液以外の組織を、添え字1は第1の光を、添え字2は第2の光を表している。
【0032】
血液以外の組織の波長依存性は無視できるため、Z1=Z2とできる。ここで式(4)より式(3)を減ずると、次式を得る。
A2−A1=(E2−E1)HbDb (5)
右辺には血液の情報のみが含まれている。したがって、減光度A1と減光度A2の差分をとることにより、血液由来の減光度Abを得ることができる。
【0033】
図2は、プローブ20の上から指30を圧迫した場合における、減光度A1、減光度A2、および血液由来の減光度Ab(=A2−A1)の経時変化を示すグラフである。
【0034】
圧迫を解除しても減光度A1、A2の値が圧迫開始前の水準に戻らず、血液以外の組織の変形が影響を及ぼしていることが判る。一方、減光度の差分値(A2−A1)すなわち血液由来の減光度Abは、圧迫の解除後に圧迫開始前の水準に収束していくことが判る。すなわち、異なる波長の光を生体組織に照射することにより得られた減光度同士の差分をとるという単純な演算操作のみで、血液以外の組織の変形の影響を除去しうる。
【0035】
第3演算部43は、第2演算部42が取得した指30の圧迫に伴う血液由来の減光度Ab(=A2−A1)の経時変化に基づいて、生体組織への血液充填時間を特定するように構成されている。具体的には、血液由来の減光度Abが圧迫開始前の水準にある程度近づいたと判断できる適当な閾値を定める。そして圧迫を解除した時点から、血液由来の減光度Abが当該閾値に到達するまでの時間(
図2におけるT)を血液充填時間として特定する。これにより、圧迫の程度の相違に起因して生ずる血液以外の組織の変形の影響を受けずに、血液充填時間を正確に特定することができる。
【0036】
出力部の一例としての表示部14は、測定装置10の外面に設けられた周知のディスプレイ装置である。表示部14は、制御部12と通信可能に接続されている。制御部12は、第3演算部43により特定された血液充填時間Tを示す信号S3を表示部14へ入力する。表示部14は、信号S3に応じた適宜の態様で血液充填時間Tを表示する。
【0037】
したがって医療従事者は、パルスオキシメトリに用いる既存のプローブ20を被検者の指30に装着し、プローブ20の上から指30を圧迫するという作業のみで、正確に特定された血液充填時間Tを表示部14上に認めることができる。すなわち特殊なプローブの用意や特殊な作業を要することなく、迅速かつ正確に血液充填時間Tを特定することができる。
【0038】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは明らかである。
【0039】
受光部22は、必ずしも指30を通過した光を受光する位置に配置されることを要しない。指30を反射した光を受光する位置に配置され、各波長の反射光強度に基づいて上記の減光度が取得される構成としてもよい。
【0040】
第2演算部42が血液由来の減光度を取得するための処理は、必ずしも減光度A1と減光度A2の差分に基づくことを要しない。
図3は、第2演算部42が行なう処理の別例として回転マトリクス法を用いる場合を説明する図である。
【0041】
図3の(a)は、Y軸に第1の光の減光度A1を、X軸に第2の光の減光度A2をとり、ある時刻における減光度Aを成分(A2、A1)を有するベクトルで表現したものである。ベクトルAは、成分(Ab2、Ab1)を有する血液由来の減光度Abを示すベクトルと、成分(At2、At1)を有する血液以外の組織由来の減光度Atを示すベクトルの合成ベクトルとして与えられる。
【0042】
ここでベクトルAを座標空間内でθだけ回転させることにより、ベクトルArotが得られる。このときArotのX軸成分からは血液以外の組織に由来する成分が除かれ、血液由来の成分のみからなることが判る。この操作は次式で表現される。
Arot
T=KA
T (6)
ここでKおよびAは、次の行列で表わされる。
【0044】
血液以外の組織由来の減光度Atは波長依存性がないため、
図3の(a)においてAt1=At2である。よってθ=(π/2)=−tan
−1(At1/At2)となる。
【0045】
このようにして取得したArotのX座標の値の経時変化を、減光度A1および減光度A2の経時変化とともに示したのが、
図3の(b)である。圧迫を解除しても減光度A1、A2の値が圧迫開始前の水準に戻らず、血液以外の組織の変形が影響を及ぼしていることが判る。一方、ArotのX座標の値すなわち血液由来の減光度Abは、圧迫の解除後に圧迫開始前の水準に収束していくことが判る。すなわち、異なる波長の光を生体組織に照射することにより得られた減光度の値により得られる行列に対して簡易な回転演算を施すのみで、血液以外の組織の変形の影響を除去することができる。
【0046】
この場合、第3演算部43は、第2演算部42が取得した血液由来の減光度Ab(=X)の指30の圧迫に伴う経時変化に基づいて、生体組織への血液充填時間を特定するように構成されている。具体的には、血液由来の減光度Abが圧迫開始前の水準にある程度近づいたと判断できる適当な閾値を定める。そして圧迫を解除した時点から、血液由来の減光度Abが当該閾値に到達するまでの時間(
図3におけるT)を血液充填時間として特定する。これにより、圧迫の程度の相違に起因して生ずる血液以外の組織の変形の影響を受けずに、血液充填時間を正確に特定することができる。
【0047】
第3演算部43は、必ずしも第2演算部42が取得した血液由来の減光度Abより直接的に血液充填時間Tを特定することを要しない。例えば
図1に破線で示すように、制御部12は、第4演算部44を備えうる。
図4に示すように、第4演算部44は、第2演算部42が取得した血液由来の減光度Abの微分値Adを取得するように構成されている。
【0048】
図4の(a)は、第2演算部42が取得した血液由来の減光度Abの経時変化を、
図4の(b)は、第4演算部44が取得した微分値Adの経時変化を示している。生体組織の圧迫により減光度Abが急上昇すると、微分値Adが大きく変化する。圧迫された箇所から血液が排除されると、減光度Abは最大値付近においてほぼ一定値をとるため、微分値Adはゼロ付近を推移する。次いで圧迫が解除されると、血液の流入に伴って減光度Abが急降下するため、微分値Adが大きく変化する。血液が充填されるに伴って減光度Abの値は一定値に収束し、微分値Adもゼロに収束していく。
【0049】
この場合、第3演算部43は、第4演算部44が取得した微分値Adの経時変化に基づいて血液充填時間Tを特定するように構成されている。具体的には、圧迫解除に伴って微分値Adが所定の閾値Adtfに達した時点から、ゼロに戻るまでの時間を血液充填時間Tとする。ゼロの代わりに、これに準ずるような閾値を設定し、当該閾値に達した時点を以って血液充填時間Tを特定することとしてもよい。
【0050】
すなわち圧迫解除後の減光度変化にのみ着目して血液充填時間Tが特定される。このような構成によれば、
図6の(b)に示した例のように圧迫前の減光度基準値が変化してしまうような状況下においても、その影響を受けることなく正確に血液充填時間Tを特定することができる。
【0051】
なお第4演算部44は、血液由来の減光度Abの微分値を取得する構成に限られるものではない。例えば、第2演算部42が取得した血液由来の減光度Abを示す信号から所定の周波数以下の成分を除去した信号を取得する構成としてもよい。当該構成によっても上記と同様の効果が得られる。
【0052】
演算部12は、さらに第5演算部45を備える構成としてもよい。第5演算部45は、第4演算部44が取得した信号の値の対数値を取得するように構成されている。
図5は、
図4の(b)に示した微分値Adの自然対数をとった値AdLの経時変化を示している。
【0053】
この場合、第3演算部43は、圧迫が解除されて以降の対数値AdLの経時変化より、回帰直線RLを演算により求め、回帰直線の傾きの逆数すなわち時定数を、血液充填時間Tとして特定するように構成されている。
【0054】
図4の(b)に示すように、圧迫解除後に微分値Adは全体として一定値に収束していく傾向を有するものの、周期的に値が上下動していることが判る。これは脈拍の影響である。上記のように第5演算部45がさらに対数値AdLを取得し、回帰直線を求める演算を行なうことにより、脈拍に起因するノイズの影響を軽減した指数近似が可能である。したがってより正確に血液充填時間Tを特定することができる。
【0055】
第3演算部43による血液充填時間Tの特定処理は、指示受付部11が測定開始の指示を受け付けた場合に行なわれる構成としてもよいし、第2演算部42が取得する血液由来の減光度Abの変化量が所定値を超えた場合に、自動的に開始される構成としてもよい。血液由来の減光度Abの変化量が所定値を超えた事実は、第2演算部42が取得した減光度Abが所定の閾値を超えた事実を以って判定してもよいし、第4演算部が取得した微分値Adが
図4の(b)に示す所定の閾値Adtrを超えた事実を以って判定してもよい。
【0056】
パルスオキシメトリにおける通常の測定を行なっている限りにおいては、一般に上記のような減光度Abの大きな変化は生じない。したがって減光度Abに大きな変化が生じた場合は、血液充填時間を特定するために生体組織の圧迫が行なわれた蓋然性が高いと判断できる。この判断に基づいて血液充填時間の特定を自動的に行なうこととすれば、操作者の負担をさらに軽減することができる。
【0057】
本発明の効果として、血液充填時間Tを特定するにあたって特殊なプローブの用意が必要ない旨を先に述べたが、追加設備の使用を禁止する意図ではない。例えば
図1に破線で示すように、プローブ20を覆うカフ50を被検者の指30に装着し、カフ50の内部の気圧を制御するカフ圧制御部46を制御部12が備える構成としてもよい。
【0058】
カフ圧制御部46は、先ずカフ50がプローブ20を介して被検者の指30を所定の圧力で圧迫できるように、カフ50内部を加圧する。そして所定時間の経過後、カフ50の内部が減圧される。このような構成によれば、操作者や繰返し回数によらず、常に一定の条件で圧迫を行なうことができる。したがって、より正確に血液充填時間Tを特定することができる。
【0059】
特定された血液充填時間Tは、必ずしも数値として表示部14に表示されることを要しない。これに加えてあるいは代えて、血液充填時間Tを示す色やシンボルを表示部14に表示してもよいし、血液充填時間Tを示す音声を出力してもよい。
【0060】
上述した第1演算部41、第2演算部42、第3演算部43、第4演算部44、第5演算部45、およびカフ圧制御部46の機能は、回路素子等のハードウェアの動作、コンピュータの一例としての制御部12に格納されたプログラム等のソフトウェアの動作、あるいはこれらの組合せによって実現されうる。
【符号の説明】
【0061】
1:生体信号測定システム、10:測定装置、12:制御部、13:信号受付部、14:表示部、21:発光部、22:受光部、41:第1演算部、42:第2演算部、43:第3演算部、44:第4演算部、45:第5演算部、46:カフ圧制御部、50:カフ、A1:第1の光の減光度、A2:第2の光の減光度、Ab:血液由来の減光度、I1:第1の光の強度、I2:第2の光の強度、T:血液充填時間