【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例の前提技術として、2つのパルス応答時の挙動に対する電圧の特徴量から、劣化した電池が5つの類型のどれに該当するかを識別し、類型から劣化原因を推定する方法がある。また、本実施例では、この前提技術を、同じ類型の初期電池を組み合わせて電池パックを製造する方法にも応用している。この方法によれば、セルバランスのずれが発生しにくいため、均等化回路による電力消費が少なく、(最も悪いセルによって制限される)使用可能回数が長くなるという利点がある。
【0047】
次に述べる実施例は、コバルト酸リチウム系の正極を持つ公称電流容量2500mAh,公称電圧3.7Vの18650円筒型リチウムイオン二次電池の充電時に適用したものである。
本実施例は、二次電池の放電中でも充電中でも利用可能であるが、放電中は装置が稼動していることを意味しており、装置の稼動に影響を与えないという点、また、同一の条件で測定できる可能性が高いという点から、充電中に適用することが望ましい。また、本実施例は、リチウムイオン二次電池に限らず、ニッケル水素系の電池など、他の二次電池にも適用可能である。
【0048】
本発明では、電池状態の診断に際して、劣化電池あるいは電池パック化前の単セル初期状態の電池の計測データから算出される特徴量を予め用意されている参照用データと比較して電池状態の類型を推定し、その推定結果に則って劣化度やセルバランスのずれが発生しにくい電池の組み合わせを推定する。このため、まず、参照用データを作成するためのデータ収集について説明する。そして、この説明以降は、参照用データを用いた電池状態モデルの作成、特徴量と劣化度の関係式及びSOC特性曲線作成に関して順次説明する。
【0049】
なお、本実施例では、電流容量にのみ着目して、特徴量と電流容量劣化度及び電流容量の関係式等を説明しているが、電力容量についても同様の手順で電力容量劣化度及び電力容量の推定を行うことができる。
図4は、本発明に係る二次電池の電池状態推定装置における中央処理装置(CPU)を説明するためのブロック構成図である。図中符号2は電圧検出器、3は電流検出器、4は中央処理装置(CPU)、8は診断装置インターフェイス(電池状態出力部)、11は参照用データ保持部、11aは電池状態の類型情報、11bは第1の特徴量、11cは第2の特徴量、12は特徴量取得部、12aは被検電池の第1の特徴量、12bは被検電池の第1の特徴量、13は類型識別部を示している。
【0050】
本発明の二次電池の電池状態推定装置は、充電又は放電の際に二次電池の電池状態を判定する二次電池の電池状態推定装置である。
図32において後述するように、本発明の二次電池の電池状態推定装置は、被検電池としての二次電池1の電圧を測定する電圧検出器2及び二次電池1の電流を測定する電流検出器3を有し、これら電圧検出器2及び電流検出器3は、それらによる測定値をCPU4に供給し、このCPU4は、その出力によって充放電コントローラ5の作動を制御し、充放電コントローラ5は、その各対応する出力によって負荷システム6及び充電システム7の作動を管理するように構成されている。
【0051】
参照用データ保持部11は、二次電池の電池状態の類型に関する類型情報11aと、二次電池の休止状態での電圧と充電又は放電開始から第1の所定時間経過後での電圧との電圧差である第1の電圧差ΔV1に基づく第1の特徴量11bと、二次電池の休止状態での電圧と充電又は放電開始から第2の所定時間経過後での電圧との電圧差である第2の電圧差ΔV2に基づく第2の特徴量11cとを含む参照用データを保持しておくものである。第1の所定時間は1ミリ秒〜2秒で、第2の所定時間は5秒〜60秒であることが好ましい。
【0052】
また、特徴量取得部12は、電池状態を推定する対象である被検二次電池における第1の特徴量12aと第2の特徴量12bとを取得するものである。
また、類型識別部13は、参照用データ保持部11で保持した参照用データを参照し、被検二次電池の第1の特徴量12a及び第2の特徴量12bと類似性の高い第1の特徴量及び第2の特徴量に相当する二次電池の電池状態の類型を識別するものである。また、電池状態出力部8は、類型識別部13で識別した電池状態の類型を被検二次電池の電池状態として出力するものである。
【0053】
また、第1の特徴量11bは、第1の電圧差ΔV1であることが好ましく、第2の特徴量11cは、第1の電圧差の値を第2の電圧差ΔV2で除した値ΔV1/ΔV2であることが好ましい。
また、充電又は放電は、定電流放電又は定電流充電であることが好ましい。また、二次電池は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0054】
また、二次電池の電池状態の類型は、正常状態と、常温で充電と放電を繰り返す常温サイクル劣化後の電池状態と、高温で充電と放電を繰り返す高温サイクル劣化後の電池状態と、高温で満充電保存する高温保存劣化後の電池状態のうちの少なくとも一つを含んでいることが好ましい。また、二次電池の正常状態は、電池パック化前の単セル初期状態であることが好ましい。
また、本発明の二次電池の電池状態推定装置は
、複数の二次電池を測定できることが好ましい。
【0055】
<参照用データ収集>
図5は、二次電池を対象として行う劣化要因参照用データ収集の手順を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、未使用の二次電池について、標準環境(温度環境25℃)で、後述する容量測定用充放電プロファイルによる初期電流容量を測定する(ステップS301)。次に、所定の条件として、以下に例示する5つの劣化条件によりそれぞれ劣化を進行させる(ステップS302)。
【0056】
次に、ステップS302の実施に際して、サイクル劣化に関しては、およそ25サイクルごと、保存劣化に関しては、およそ1週間ごとに、標準環境で容量測定用充放電プロファイルによる電圧及び電流測定と、特徴量測定用充放電プロファイルよる電圧及び電流測定を実施した。次に、例示する劣化条件のうち(1)(2)(4)及び(5)に関しては、電流容量劣化度が約50パーセントになるまで、(3)に関しては、電流容量劣化度が約80パーセントになるまで、測定を実施した。
【0057】
(劣化条件)
(1)25℃サイクル劣化:温度環境25℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(2)45℃サイクル劣化:温度環境45℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(3)60℃サイクル劣化:温度環境60℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(4)45℃保存劣化:満充電状態にした電池を温度環境45℃で保存。
(5)60℃保存劣化:満充電状態にした電池を温度環境60℃で保存。
【0058】
次に、定期的に被検電池を標準環境に移し、所定のプロファイルにより電圧変化を測定する(ステップS303)。次に、測定値から容量及び劣化度(容量/初期容量)×100を算出する(ステップS304)。次に、容量,劣化度及び測定値を保存する(ステップS305)。次に、劣化度は所定の閾値以上かどうかを判断する(ステップS306)。次に、閾値以上ならばステップS2に戻り、閾値以下ならばデータ収集を完了する(ステップS307)。
【0059】
図6は、本実施例における容量測定用充放電プロファイルについて説明するための図である。容量測定用充放電プロファイルでは、電池を定電流−定電圧(CCCV:Constant Current Constant Voltage)充電制御にて完全放電状態(SOC=0パーセント)から満充電状態(SOC=100パーセント)まで充電し、10分の休止後、定電圧(CC:Constant Curent)放電制御にて放電終止電圧(3.0V)まで放電する。なお、放電時においては放電終止電圧(3.0V)に達した時点を完全放電状態としている。
【0060】
このときのCCCV充電におけるCC充電時の電流レートは1.0C(2500mAh)、CC放電時の電流レートは0.5C(1250mAh)である。また、満充電状態の判断は、CCCV充電におけるCV充電時の充電電流が50mA以下になった時点をもって満充電としている。
図6に示すような容量測定用充放電プロファイルによる測定から、モデル作成用電池の各測定時(各劣化状態)における電流容量、電流容量劣化度、測定電圧に対するSOC、CV充電開始からの経過時間に対するSOCなどを算出する(ステップS304)。
【0061】
なお、本実施例では、電流容量劣化度として下記式で算出される電流容量劣化度を採用した。
電流容量劣化度=(各測定時の電流容量/初期電流容量)×100
本実施例に適用する容量測定用充放電プロファイルにおけるCCCV充電及びCC放電の電流レートは、
図6に例示した態様に限られるものではないが、CCCV充電時の電流レートは、実際に使用されるシステムでCCCV充電を行う際の値を使用することが望ましい。
【0062】
次に、本実施例に適用するより具体的な特徴量測定用充放電プロファイルは、上述した
図6に例示したような容量測定用充放電プロファイルの途中に、トリガー電圧を定め、電池電圧がトリガー電圧に到達したら単位充放電プロファイルを印加する充放電方式である。
図7は、本実施例における特徴量測定用充放電プロファイル中の単位充放電プロファイルを例示する図で、CCCV充電時に4.0Vに到達した時点をトリガーとした例である。単位充放電プロファイルにおける一時放電は、電流レート0.5CのCC放電、一時充電は電流レート1.0CのCCCV充電である。
【0063】
なお、本発明に適用する単位充放電プロファイルは、
図7に例示した態様に限られるものではなく、一時充電休止のみの態様や一時放電のみの態様など、劣化要因の類型推定を行うために必要な特徴量が算出できるものであれば種々の態様のものを適用可能である。
また、単位充充放電プロファイルを構成する一時充電休止などの要素の時間幅や、一時的な放電及び一時的な充電の電流レートも
図7に例示した態様に限られるものではないが、二次電池の充電動作になるべく影響を与えないために、劣化要因の類型推定に適した特徴量が算出できる範囲で時間幅はなるべく短く、電流レートはなるべく小さいことが望ましい。
トリガー電圧は、上掲の単位充放電プロファイル適用時の測定電圧が二次電池の推奨使用電圧範囲から外れないように、推奨使用電圧範囲の上限及び下限に近くない値が望ましい。コバルト酸リチウム系リチウムイオン二次電池の場合は、3.9V〜4.1Vが好適である。
【0064】
図8は、本実施例における劣化要因参照用データ作成及び分類性能評価の手順を説明するためのフローチャートを示す図である。まず、
図5に例示した態様やその他の適切な態様の特徴量測定用充放電プロファイルによる測定値群から、劣化要因参照用データ作成に使用するための電池の各測定時(各劣化状態)における特徴量を算出する(ステップS601)。なお、上述した
図5に例示した態様の測定値群とは、
図5のフローチャートにおけるステップS305の処理で保存したデータのことである。
【0065】
次に、全特徴量セットをデータ数が略等しくなるように2分割し、その一方を劣化要因モデル作成のため学習用データとし、他方を劣化要因モデルの識別性評価のための評価用データとする(ステップS602)。次に、学習用データを使用して劣化要因モデルを作成(学習用データを入力として、SVMにより識別関数を作成)する(ステップS603)。次に、識別関数の作成を完了する(ステップS604)。
【0066】
次に、
図8におけるステップS601において算出する特徴量、つまり、本実施例における劣化要因参照用データ作成及び劣化要因の類型推定に使用する特徴量について図面を参照して説明する。
図9は、本実施例における劣化要因参照用データ作成及び劣化要因の類型推定に使用した特徴量を例示的に説明するための図である。ΔV1は、休止状態の電圧と、休止状態からCCCV充電を開始した直後(本実施例では1秒後)の電圧との電圧差、ΔV2は、休止状態の電圧と、CCCV充電開始から所定時間経過後(本実施例では10秒後)の電圧との電圧差を示している。
また、ΔV3は、CC充電から休止状態に状態変化させた際の状態変化直前の電圧と、直後(本実施例では1秒後)の電圧との電圧差を示している。また、ΔV4は、休止状態から一時放電した後、再び休止状態に状態変化させた際の状態変化直前の電圧と、休止開始から所定時間経過後(本実施例では1秒後)の電圧との電圧差を示している。
【0067】
本実施例では、ΔV1,ΔV2の比ΔV1/ΔV2及びΔV3,ΔV4の比ΔV3/ΔV4を算出し、劣化要因参照用データ作成に関しては、(ΔV1,ΔV1/ΔV2)及び(ΔV3,ΔV3/ΔV4)のセットを特徴量とし、特徴量と劣化度の関係式(劣化度算出関数)作成にあたっては、ΔV1を特徴量とした。なお、ΔV1及びΔV3は比較的短時間の電圧変化であることから電池部材の電気伝導性をつかさどる指標と解釈され、ΔV1とΔV3はほぼ比例関係にある。一方、ΔV2は比較的長時間の電圧変化であることからイオンの拡散性をつかさどる指標と解釈されるが、休止状態から充電又は放電状態とした時の電圧差と充電又は放電状態から休止状態とした時の電圧差は比例関係にはならず、物理量として異なる指標と考えられる。例えば、後述する25℃サイクル劣化電池を解体すると、集電箔の溶出に起因して負極表面に銅の析出が観測されるが、正・負極間に定電流を印加したΔV2を用いると、このような場合においても電極面に垂直方向の拡散性について議論することが可能となる。したがって、休止状態から充電又は放電状態とした時の電圧差を特徴量とした場合、電池の劣化に伴い増加する指標となるため好ましい。一方、充電又は放電状態から休止状態とした時の電圧差を特徴量とした場合、データ取得の方法によっては劣化の途中で減少する指標となることもある。
【0068】
なお、本実施例における劣化要因参照用データ作成用の特徴量は一例であり、劣化要因の類型推定に適合すれば、これに限られるものではない。また、二次元である必要もなく、一次又は三次以上の高次の特徴量を使用してもよい。
本実施例では、上述のようにしてデータ収集を行い、収集の結果得られた特徴量を劣化試験ごとに均等に二分した。そして、この二分した一方を劣化要因参照用データ作成のための学習用データとし、他方は後述する劣化電池の診断における評価用データとした(
図8のステップS602)。
【0069】
本実施例では、劣化要因参照用データ作成及び劣化要因の類型推定にSVM(Support Vector Machine;サポートベクターマシン)を使用している。このSVM(サポートベクターマシン)は、教師あり学習を用いる識別手法の一つであり、パターン認識や回帰分析へ適用できる。また、このサポートベクターマシンは、現在知られている多くの手法の中で一番認識性能が優れた学習モデルの一つである。
【0070】
次に、本実施例におけるSVMの識別関数と識別の概念について説明する。
図10は、本実施例におけるSVMの識別関数と識別の概念について説明するための図である。SVMは、A,Bの2つのラベルのついた学習用データを使用して、A,B2つのグループを分割するのに適した線形又は非線形な識別関数を算出(学習)し、未知のデータが与えられた時に、この未知のデータがA,Bのうちの何れのグループに属するかを、識別関数を使用して識別(推定)する手法である。
【0071】
つまり、SVMを用いた「劣化要因モデル作成」とは、劣化要因参照用データを用いて劣化要因の類型推定するための識別関数を作成することである(
図8のステップS603)。なお、劣化要因モデルは、劣化要因参照用データの定義に含まれるものとする。なお、SVMの詳細は、上述した非特許文献1などに開示されている。
上述した実施例では、劣化要因モデルの作成及び劣化要因の類型推定に、SVMを利用したが、例えば、k近傍法など他の推定手法を利用してもよい。
【0072】
劣化要因としては、常温で充電と放電を繰り返す常温サイクル劣化、高温で充電と放電を繰り返す高温サイクル劣化、高温で満充電保存する高温保存劣化などが考えられるが、本実施例では、劣化要因の類型(劣化要因参照用データ)を、既述の劣化条件と同じ下記の5種類とした。なお、本実施例では、常温とは10℃〜30℃程度の温度を指し、高温とは常温よりも高い温度を指す。
【0073】
(劣化要因参照用データ)
(1)25℃サイクル劣化:温度環境25℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(2)45℃サイクル劣化:温度環境45℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(3)60℃サイクル劣化:温度環境60℃で容量測定用充放電プロファイルを繰り返し行う。
(4)45℃保存劣化:満充電状態にした電池を温度環境45℃で保存。
(5)60℃保存劣化:満充電状態にした電池を温度環境60℃で保存。
【0074】
なお、二次電池の種類、構成材料、動作条件及び劣化手法や劣化要因の分類の仕方により劣化状況は異なるため、類型定義及び識別手順は本実施例に限らない。
本実施例では、後述するように、
図25には、評価用データの類型の識別に適用する手法をステップに区分して系統的に表す概念図が示されている。また、後述する
図26に示す各識別ステップごとにラベルづけを行なった学習用データをSVMに与え、上述した5種類の類型に識別するための識別関数を作成した。各識別ステップにおける学習用データの特徴量の分布と、識別関数を以下の各図に示す。但し、SVMにより算出される識別関数の形状は複雑なため図では簡易化してある。
【0075】
図11は、本実施例での識別ステップ1における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図12は、本実施例での識別ステップ2−1における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図13は、本実施例での識別ステップ2−2における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図14は、本実施例での識別ステップ3における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図15は、本実施例での識別ステップ4における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
【0076】
これらのうち、
図13では、劣化があまり進行していないΔV1<0.07の領域(
図13の斜線部)において、[25℃サイクル劣化]と[45℃サイクル劣化・45℃保存劣化]の識別性能がやや低い。このため、ΔV3とΔV3/ΔV4を特徴量とする識別関数を作成することにより分類性能の向上を図った(
図12の非斜線部)。
なお、電池パック化前の単セル初期状態の電池を診断した場合には、プロットのバラツキがセルバランスに相当するため、セルバランスの確認方法として用いることができる。
【0077】
図16は、特徴量1に対する特徴量2の関係を示す図である。ここで、グループ1(Gr1-1,Gr1-2)、グループ2(Gr2-1,Gr2-2,Gr2-3,Gr2-4)はそれぞれセルバランスがとれた集団であり、iniは初期状態のプロットである。
図16において特徴量1と特徴量2の推移がグループごとに若干異なることから、グループ1とグループ2の電池を混ぜて電池パック化すると、同じ類型の劣化であっても劣化の進行に伴いセルバランスがずれる可能性があると予測される。これに対して、同じグループの電池を選別して電池パック化すると、劣化の進行によるセルバランスのずれを少なくすることができると考えられる。
【0078】
<特徴量と劣化度の関係式算出>
次に、特徴量と劣化度の関係式(劣化度算出関数)の作成に関して説明する。
図17は、本実施例における特徴量と劣化度との関係式(劣化度算出関数)の作成手順を説明するためのフローチャートを示す図である。まず、
図5のフローチャートにおけるステップS305の処理で保存した測定値群から算出した特徴量と劣化度に対して、三次の回帰分析を行って関係式を算出する(ステップS1401)。
次に、ステップS1401での算出処理が完了すると、特徴量と劣化度との関係式を保存して処理を終了する(ステップS1402)。
【0079】
ステップS1401,S1402で使用する特徴量は、ΔV1,ΔV2,ΔV3,ΔV4及びこれらの組み合わせどれを用いてもよいが、本実施例ではΔV1を使用した例を示している。また、S1401,S1402における劣化度とは、電流容量劣化度でもよく電力容量劣化度でもよい。
本実施例では、ステップS1401,S1402で上述した劣化要因(1),劣化要因(2)と(4)、劣化要因(3)と(5)、それぞれの条件において特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を作成し、更に、比較のために劣化要因を考慮しない特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を作成した。
【0080】
なお、劣化要因(1)における特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を劣化度算出関数1、劣化要因(2)と(4)における特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を劣化度算出関数2、劣化要因(3)と(5)における特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を劣化度算出関数3、劣化要因を考慮しない特徴量ΔV1と電流容量劣化度との関係式を劣化度算出関数4とする。
【0081】
図18は、
図17の手順で算出した劣化度算出関数1を算出するのに使用したデータの分布と劣化度算出関数1による曲線を示す図である。
図19は、
図17の手順で算出した劣化度算出関数2を算出するのに使用したデータの分布と劣化度算出関数2による曲線を示す図である。
図20は、
図17の手順で算出した劣化度算出関数3を算出するのに使用したデータの分布と劣化度算出関数3による曲線を示す図である。
図21は、
図17の手順で算出した劣化度算出関数4を算出するのに使用したデータの分布と劣化度算出関数4による曲線を示す図である。
【0082】
関係式が算出できれば、特徴量の値から電流容量劣化度を推定し、電流容量劣化度の推定値から、
電流容量=電流容量劣化度×初期電流容量
の式により、劣化電池の電流容量を求めることができる。また、電力容量劣化度および電力容量に関しても同様の手法により推定することが可能である。
【0083】
<SOC特性の算出>
図22は、特徴量とSOCとの関係式を作成する手順を説明するためのフローチャートを示す図である。最初のステップでは、上述した
図5のフローチャートのステップS305で保存した測定値から、劣化要因ごとに、CC充電時の例えば4.1Vにおける特徴量ΔV1とSOCの関係式を作成する。
【0084】
図23は、
図22の手順で作成される関係式によって表される特性を示す図である。なお、図面の横軸は電圧差ΔV1を2.5で除した値である。
図23に示すように、4.1VにおけるSOCは、特徴量の値が同一でも劣化要因により大きく異なっている。従って、劣化要因ごとに特徴量とSOCとの関係式を作成しておき、特徴量がp1である場合のSOCを劣化要因に対応した関係式により推定すれば、4.1VにおけるSOCの推定精度が向上することがわかる。
【0085】
図24(a),(b)は、特定の特徴量の値における複数の電圧値に対するSOCの値及びCV充電開始からの経過時間とSOCの値との関係を示す図である。
同様に、CC充電時の例えば3.7V,3.8V,・・・などの各所定の電圧における特徴量とSOCの関係式を算出しておけば、劣化電池の診断時に特徴量の値がp1であるような劣化電池に対して、劣化要因ごとに
図24(a)に示すような関係を呈する電圧とSOCとの関係式を得ることができる(ステップS1901)。
【0086】
また、同様の処理をCV充電開始からの、例えば1000秒,2000秒,・・・などの各所定の経過時間に関して行なって各所定のCV充電開始からの経過時間における特徴量とSOCの関係式を算出しておけば、特徴量の値がp1であるような劣化電池に対して、劣化要因ごとに
図24(b)に示すように、CV充電開始からの経過時間とSOCの関係式を得ることができる(ステップS1902,ステップS1903)。
【0087】
<劣化電池の診断>
図25は、劣化電池の診断手順を説明するためのフローチャートを示す図である。まず、診断対象とする劣化電池の充電または放電を開始する(ステップS2201)。次に、該劣化電池の電圧を測定する(ステップS2202)。そして、ステップS2202における測定値がトリガー電圧に達するのを待ち(ステップS2203:No)、トリガー電圧に達したら(ステップS2203:Yes)、単位充電プロファイルを該劣化電池に印加する(ステップS2204)。
【0088】
なお、ステップS2203におけるトリガー電圧は、既述の劣化要因参照用データ作成用のデータ収集時と同じものを使用する。また、ステップS2204における単位充放電プロファイルについても既述の劣化要因参照用データ作成用のデータ収集時と同じものを使用する。
ステップS2204の後、電圧及び/又は電流を測定する(ステップS2205)。そして、ステップS2205の測定によって取得した電圧値及び/又は電流値から特徴量を算出する(ステップS2206)。次に、ステップS2206で算出した特徴量と劣化要因参照用データを比較し、劣化電池の劣化要因の類型を識別する(ステップS2207)。
【0089】
そして、ステップSS2207で分類した劣化要因の類型に対応する特徴量と劣化度の関係式(上述した劣化度算出関数1乃至3の何れか)から、この劣化電池の劣化度を推定する(ステップS2208)。次に、分類された劣化要因に対応する特徴量とSOCの関係式から、この劣化電池のSOCを推定する(ステップS2209)。
なお、ステップS2201乃至ステップS2209において、充電開始−充電終了の条件は任意であり、充電開始−充電終了期間内にトリガー電圧に等しい電圧が観測されなかったら、その回は電池診断を実施しないだけである。
【0090】
以上説明した本実施例では、実際の劣化電池の特徴量の代わりに、劣化要因参照用データ作成のために収集したデータのうち劣化要因参照用データ作成に使用しなかった評価用データと作成した識別関数をSVMに与えて分類を行い、識別性能の評価を行った。
図26は、評価用データの類型の識別に適用する手法をステップに区分して系統的に表す概念図である。識別ステップ1,2−1,2−1,3及び4における学習用データの特徴量の分布と、識別に使用した識別関数を以下の
図27乃至
図31に示す。各図の識別関数は、
図8のステップS603で作成したものである。但し、SVMにより算出される識別関数の形状は複雑なため、
図11乃至
図15で示した簡易化した識別曲線を表示してある。
【0091】
図27は、本実施例での識別ステップ1における評価用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図28は、本実施例での識別ステップ2−1における評価用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図29は、本実施例での識別ステップ2−2における評価用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図30は、本実施例での識別ステップ3における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図31は、本実施例での識別ステップ4における学習用データの特徴量の分布と識別関数を表す図である。
図26における各識別ステップでの識別精度を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施した評価において、表1に示した如く、略100パーセントの精度で入力データを劣化条件に対応した劣化要因の類型に識別できており、本手法が劣化要因の類型の推定に効果的であることがわかった。
この知見に依拠して、
図25のフローチャートにおけるステップS2208の如く、推定された劣化要因の類型に対応する特徴量と劣化度との関係式から、この劣化電池の劣化度を推定した。
そして、
図26に示す識別手法に従って複数の劣化条件の類型(条件)に評価用データを推定し、この劣化条件の類型ごとに劣化度推定性能を評価した結果を次の表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2には、それぞれの関係式(劣化度算出関数)を使用した場合の電流容量劣化度の推定誤差を示している。
表2に示した如く、劣化要因の類型の識別を行わずに電流容量劣化度を推定した場合の推定誤差は±9.4パーセントである。これに比べ、劣化要因ごとの関係式により推定した場合は、識別誤りを含めた場合でも、25℃サイクル劣化で±6.6パーセント、45℃サイクル劣化・45℃保存劣化で±3.6パーセント、60℃サイクル劣化・60℃保存劣化で±1.6パーセントと推定誤差が大幅に減少した。
劣化電池の電流容量は、劣化電池の電流容量劣化度と劣化電池の初期電流容量との積で求まるため、本発明により、劣化電池の電流容量に関しても同じ割合で推定誤差が減少する。
【0096】
以上説明した本実施例では、最初に特徴量と電流容量劣化度の関係式を算出しているが、この手順を変更して、最初に特徴量と電流容量の関係式を算出しても同様の結果を得ることができる。また、電流容量および電流容量劣化度に替えて、電力容量および電力容量劣化度を使用しても同様の結果を得ることができる。
また、上述したSOC特性で示したように、算出推定された劣化要因に対応する特徴量とSOCと関係式から、劣化電池の特徴量に対応した電圧とSOCの関係式およびCV充電開始からの経過時間とSOCの関係式が得られ、それらの式を使用して、任意の電圧あるいは任意のCV充電開始からの経過時間におけるSOCの値を高精度で算出できる。
【0097】
<本発明の電池状態推定装置>
図32は、本発明に係る二次電池の電池状態推定装置を説明するためのブロック構成図で、二次電池の劣化要因を分類し、劣化度、容量、SOC特性を算出する二次電池の劣化要因推定装置及び/又は二次電池の容量又は劣化度推定装置を示すブロック図である。図中符号5は充放電コントローラ、6は負荷システム、7は充電システムを示している。なお、
図4と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。
【0098】
本発明の二次電池の電池状態推定装置は、被検電池としての二次電池1の電圧を測定する電圧検出器2及び二次電池1の電流を測定する電流検出器3を有し、これら電圧検出器2及び電流検出器3は、それらによる測定値をCPU4に供給する。CPU4は、その出力によって充放電コントローラ5の作動を制御する。そして、充放電コントローラ5は、その各対応する出力によって負荷システム6及び充電システム7の作動を管理する。また、CPU4は、後述するようにその出力データを診断装置インターフェイス8を介して外部に供給する。
【0099】
CPU4は、二次電池の劣化要因推定装置及び二次電池の容量推定装置の双方の装置又は何れか一方の装置として機能させるべく、系全体を統括的に管理するシステムコントローラとして機能する。
そして、このシステムコントローラとしての機能によって、本発明の二次電池の電池状態推定装置を、上述した
図5,
図8,
図17,
図22,
図25,
図26を参照して説明した如く機能させ、また、
図33を参照して後述する如く機能させる。
【0100】
本発明が、もっぱら二次電池の劣化要因の分類、劣化度の算出、電流容量の算出、電力容量の算出、SOC特性の算出(以下、「二次電池診断」という)を実行する機能(以下、「二次電池診断機能」という)を目的とした二次電池の劣化要因推定装置及び/又は二次電池の容量推定装置である場合には、CPU4は、二次電池の診断機能のためだけに稼働する。
しかしながら、このCPU4がバッテリ電気自動車、家庭設置蓄電などの機器に組み込まれている態様である場合は、このような機器の二次電池制御のためのCPUであり、二次電池の診断機能は、二次電池の制御機能の一部として構成される。
【0101】
負荷システム6は、二次電池の診断装置としての構成を採る場合には、二次電池の診断機能を実施する際に実施される放電のための負荷である。しかしながら、負荷システム6が、バッテリ電気自動車、家庭設置蓄電設備などの機器に組み込まれている場合には、単純な放電のための負荷であるばかりではない。例えば、負荷システム6が、バッテリ電気自動車に組み込まれている場合には、バッテリ電気自動車を駆動するためのインバータ,モータなどと二次電池の診断機能を実施する際に実施される放電の負荷などを含んで構成される。
【0102】
また、家庭設置蓄電設備に組み込まれている場合には、電池の直流電力を交流に変換し、電圧を交流家庭用電灯線電圧に合わせて変圧し、交流家庭用電灯線に電力を供給するコンバータと二次電池の診断機能を実施する際に実施される放電のための負荷を含む態様で構成される。
充電システム7は、二次電池の診断装置としての構成を採る場合には、もっぱら二次電池の診断機能を実施する際に実施される充電を行うための充電システムの形をとる。また、充電システム7は、バッテリ電気自動車、家庭設置蓄電設備などの機器に組み込まれる場合には、当該自動車又は設備における充電システムを構成する。
なお、ここでは本発明の二次電池の診断装置が説明の主題であるため、二次電池の診断機能以外のCPU4、負荷システム6、充電システム7の機能、動作についてはこれ以上言及せず、もっぱら二次電池の診断装置についての説明を行う。
【0103】
充放電コントローラ5も、バッテリ電気自動車、家庭設置蓄電などの機器に組み込まれている場合は、バッテリ電気自動車であればバッテリ電気自動車を駆動するためのインバータ、モータを、家庭設置蓄であれば、電池の直流電力を交流に変換し、電圧を交流家庭用電灯線電圧に合わせて変圧し、交流家庭用電灯線に電力を供給するコンバータをコントロールし、当該機器が備えている充電システムとしての充電システム7をコントロールすると共に、二次電池の診断機能を実施する際に実施される放電を行うために負荷システム6、充電システム7をコントロールする役割を担うが、ここでは本発明の二次電池の診断装置を説明が目的であるので、充放電コントローラ5についてももっぱらの二次電池の診断装置としての説明を行う。
【0104】
充放電コントローラ5も、バッテリ電気自動車に組み込まれている場合と、家庭設置蓄電設備などに組み込まれている場合とでは構成を異にする。例えば、バッテリ電気自動車に組み込まれている場合には、バッテリ電気自動車を駆動するためのインバータ、モータを制御するように構成される。
また、家庭設置蓄電設備などに組み込まれている場合には、電池の直流電力を交流に変換し、電圧を交流家庭用電灯線電圧に合わせて変圧し、交流家庭用電灯線に電力を供給するコンバータを制御し、当該機器が備えている充電システムとしての充電システム7を管理すると共に、二次電池の診断機能を実施する際に実施される放電を行うために負荷システム6、充電システム7を統括的に管理する役割を担うように構成される。
【0105】
なお、ここでは本発明の二次電池の診断装置が説明の主題であるため、充放電コントローラ5の機能、動作についてはこれ以上言及せず、もっぱら二次電池の診断装置についての説明を行う。
二次電池1は、二次電池の診断機能の対象となる二次電池である。二次電池1には電圧検出器2が接続されており、この電圧検出器2が二次電池1の電圧を検出するよう構成されている。また、この二次電池1には、電流検出器3も接続されており、この電流検出器3が二次電池1に充電される充電電流値及び二次電池1が放電する放電電流値を検出するよう構成されている。
【0106】
電圧検出器2は、CPU4に接続されており、この電圧検出器2が検出した電圧値がCPU4に入力される。また、電流検出器3もCPU4に接続されており、この電流検出器3が検出した電流値がCPU4に入力される。
CPU4は、このように入力された電圧値と電流値に基づいて二次電池1の充放電状態を検出できる構成を有している。また、CPU4は、演算機能と演算機能を動かすためのプログラムおよびデータを記憶するメモリを含んで構成されている。
【0107】
二次電池の診断装置でのプログラムは、二次電池の診断を行うための充電と充電時に挿入される単位充放電プロファイル又は二次電池の診断を行うための放電と放電時に挿入される単位充放電プロファイル又は二次電池の診断を行うための充放電と充放電時に挿入される単位充放電プロファイル(以下、「二次電池の診断充放電プロファイル」という)を命令するためのプログラム、二次電池の診断充放電プロファイルでの電圧値又は電流値、又は電圧値と電流値の双方を測定するプログラム(以下、「二次電池の診断測定プログラム」という)、測定結果ら劣化要因の分類、劣化度、電流容量、電力容量、SOC特性を算出するためのプログラム(以下、「二次電池の診断分類算出プログラム」という)を含んで構成されている。
【0108】
二次電池の診断分類算出プログラムは、本発明の実施例の説明において既述の、二次電池の劣化要因の分類、劣化度の算出、電流容量の算出、電力容量の算出、およびSOC特性の算出等に関する各方法をプログラム化したものである。そして、二次電池の診断装置のデータは、劣化要因の類型に対応した劣化要因参照用データ、劣化度、電流容量、電力容量、SOC特性等をそれぞれ算出するためのデータ(以下、「二次電池の診断データ」という)を含んで構成されている。
【0109】
充放電コントローラ5は、CPU4に接続されており、CPU4から二次電池の診断充放電プロファイルを実行する命令を受ける。充放電コントローラ5は、また、負荷システム6と充電システム7とに接続されており、CPU4からの命令に従って、負荷システム6及び充電システム7に対して二次電池の診断充放電プロファイルを実行させるように管理する。
【0110】
CPU4は、二次電池の診断充放電プロファイル適用後、二次電池の診断測定プログラムに従って既定の二次電池の診断充放電プロファイルでの電圧値及び電流値の何れか、又は電圧値と電流値との双方を、電圧検出器2及び/又は電流検出器3による測定値として取得する。
CPU4は、上述したように、取得した電圧値および電流値の何れか、又は電圧値と電流値との双方について、二次電池の診断分類算出プログラムと二次電池の診断データに基づいて劣化要因を分類し、必要に応じて劣化度、電流容量、電力容量、SOC特性を算出する。
【0111】
更に、CPU4は、所要に応じて、自己に接続された診断装置インターフェイス8を介して、劣化要因の分類結果、劣化度、電流容量、電力容量、SOC特性等の算出結果を、二次電池の診断装置の出力として外部に供給する。
以上に説明した実施例を包摂する本発明の技術思想について次のとおり概括し、適宜、説明を補足する。
【0112】
本発明の技術思想は、その一つの局面において:
(a−1)電池を充電状態や放電状態から休止状態に切り替えた時に起きる電圧の変化
(a−2)電池を休止状態から充電状態や放電状態に切り替えた時に起きる電圧の変化
(a−3)電池を既定の条件で放置した時に起きる電圧の変化
などに依拠して
(b−1)電池の電池状態の類型を推定できる
(b−2)推定された電池状態の類型ごとの関係式を使用することにより、電池の現在の充電容量や放電容量、あるいはセルバランスを高精度で推定できる
との知見に基づいて、発明者等による更なる実験ならびに考察によって確立されたものである。
【0113】
上述した(b−1)における電池状態の類型とは、端的には、電池の使用環境ないし使用態様の履歴、あるいはセルバランスであり、例示的には:
(b−1−1)25℃の環境下で、完全放電→満充電、のサイクルを繰り返した電池か
(b−1−2)45℃の環境下で、完全放電→満充電、のサイクルを繰り返した電池か
(b−1−3)60℃の環境下で、完全放電→満充電、のサイクルを繰り返した電池か
(b−1−4)45℃の環境下で満充電の状態で長い間放置されていた電池か
(b−1−5)60℃の環境下で満充電の状態で長い間放置されていた電池か
などである。
【0114】
次に、本発明の技術思想における上述の一つの局面を、より具体的に例示する。
上述した
図7には、単位充電プロファイルとして、CCCV充電期間の後の、一時充電休止期間(休止状態期間)→一時放電期間→一時放電休止期間(休止状態期間)→一時充電期間→CCCV充電期間の如く遷移するプロファイルを例示した。そして、上述した
図9には、
図5の単位充電プロファイルにおける、ΔV1、ΔV2、ΔV3、および、ΔV4を示した。これらは、それぞれ、
ΔV1(第1の電圧差):被検二次電池の休止状態での電圧と休止状態から充電又は放電開始した際の充電又は放電開始直後の電圧との電圧差。
ΔV2(第2の電圧差):被検二次電池の休止状態の電圧と休止状態から充電又は放電開始直後から所定時間経過後の電圧との電圧差で、所定時間に特に限定は無いが、30秒以内が目安となる。
ΔV3(第3の電圧差):被検二次電池を充電したのち充電の休止を行った時の、充電から充電休止への切り替えを行った時刻から所定時間内における二次電池の充電時の電圧と充電休止時の電圧との電圧差である第3の電圧差で、所定時間に特に限定はないが、30秒以内が目安となる。
ΔV4(第4の電圧差):被検二次電池の休止状態から一時充電又は放電した後、再び休止状態に状態変化させた際の状態変化直前の電圧と休止開始から所定時間経過後の電圧との電圧差である第4の電圧差である。所定時間に特に限定は無いが、30秒以内が目安となる。
そして、本発明の技術思想における上述の一つの局面は、
(c−1)ΔV1とΔV1/ΔV2とを用いて、電池の劣化要因の類型を推定できる
(c−2)ΔV3とΔV3/ΔV4とを用いて、電池の劣化要因の類型を推定できる
との知見に基づいて、発明者等による更なる実験ならびに考察によって確立されたものである。
【0115】
上記(c−1)については、例えば、上述した
図15において、ΔV1とΔV1/ΔV2を用いることによって、被検二次電池の劣化要因の類型を推定できることを示した。つまり、60℃サイクル劣化された電池と、60℃保存劣化された電池とが識別できることを示した。
一方、例えば、上述した
図17の手法によって、ΔV1の値から、被検二次電池の劣化度を高精度で推定できることを示した。
劣化度とは、被検二次電池における(現在時点での充電容量)/(新品時の充電容量)の値であり、(劣化度)×(新品時の充電容量)によって現在時点での当該二次電池の充電容量を推測することができる。
【0116】
なお、上述した
図7には、単位充電プロファイルとして、CCCV充電期間の後の、一時充電休止期間→一時放電期間→一時放電休止期間→一時充電期間→CCCV充電期間の如く遷移するプロファイルを例示した。そして、上述した
図9には、
図7の単位充電プロファイルにおける、ΔV1,ΔV2,ΔV3及びΔV4を示した。このプロファイルにおける一時放電期間はΔV4を取得するために設定した時間区間であるが、被検二次電池の劣化要因の識別にΔV1とΔV1/ΔV2とを用い、ΔV4は用いない場合には、この一時放電期間を設定することなく、一時放電期間に次いで直ちに一時充電期間に移行するプロファイルを採ることができる。
【0117】
また、「充電」と「放電」とを、上述した逆の関係に設定したプロファイルを適用することも可能であると考えられる。
一方、上述した(c−1)では、劣化要因の類型を推定する為の識別関数(例えば、上述した
図14における破線図示の関数)を作成し、この識別関数に依拠して、測定対象たる被検二次電池について、そのΔV1とΔV1/ΔV2とからそれらの劣化要因を推定している。
【0118】
しかしながら、本発明の技術思想においては、上述したように識別関数を作成し、該作成した識別関数に依拠して推定する手法に限定されるものではなく、他に、種々の手法を採り得る。これら他の手法について、次に、例示的に列挙する。
(d−1)ある閾値以上か閾値以下かで劣化要因の類型を推定する
(d−2)被検二次電池のΔV1とΔV1/ΔV2の値と最も距離的に近い点のサンプル電池の劣化要因を測定対象の電池の劣化要因とする
(d−3)劣化要因Aのサンプルを集めて劣化要因参照用データを作成し、劣化要因Bのサンプルを集めて劣化要因参照用データを作成し、測定対象の電池のΔV1とΔV1/ΔV2がどちらの劣化要因参照用データと尤度が高いか計算し、尤度の高い劣化要因参照用データの劣化要因を測定対象の電池の劣化要因と推定する。
【0119】
図33は、本発明における被検二次電池の劣化要因参照データを用いた劣化要因モデル作成及び特徴量と劣化度の関係式作成に係る手順を説明するためのフローチャートを示す図である。
まず、被検二次電池(本例では、18650円筒リチウムイオン二次電池)について、次の5つの態様での劣化を与える(ステップS3001)。
(30−1)25℃サイクル劣化。
(30−2)45℃サイクル劣化。
(30−3)60℃サイクル劣化。
(30−4)45℃保存劣化。
(30−5)60℃保存劣化。
【0120】
次に、ステップS3001で劣化させた各被検二次電池を標準環境に戻し、容量測定用充放電プロファイルで充放電を行う。ここで、標準環境とは常温(25℃)雰囲気下に置く状態である(ステップS3002)。
ステップS3002におけるような標準環境下での放電および充電の後、各被検二次電池について測定を行い、電流量、電力量を積算して、充電電流容量、放電電流容量、充電電力容量及び放電電力容量を取得する(ステップS3003)。
【0121】
ステップS3003で上述した各状態量を取得した後、特徴量測定用充放電プロファイルで充放電を行う(ステップS3004)。
ステップS3004におけるような条件での放電及び充電中、各被検二次電池について測定を行い、電圧値及び電流値を取得する(ステップS3005)。
次に、ステップS3005で取得した各電圧値及び/又は電流値に基づいて特徴量を算出する(ステップS3006)。
ステップS3006における特徴量の例は、上述した
図9を参照して既述のものである。
【0122】
既述のように、特徴量の一例として、ΔV1,ΔV2の比ΔV1/ΔV2及びΔV3,ΔV4の比ΔV3/ΔV4を算出し、劣化要因参照用データ作成に関しては、(ΔV1,ΔV1/ΔV2)及び(ΔV3,ΔV3/ΔV4)のセットを特徴量とし、特徴量と容量の関係式(容量算出関数)、特徴量とSOCの関係式作成にあたっては、ΔV1を特徴量とした。
【0123】
次に、被検二次電池の劣化度が所定の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS3007)。ステップS3007において、被検二次電池の劣化度が所定の閾値以上であると判断した場合には(ステップS3007:Yes)、ステップS3001に戻ってステップS3007までの動作を繰り返し、被検二次電池の劣化度が所定の閾値以下になったと判断するに到った場合には(ステップS3007:No)、次のステップS3008に移行する。
【0124】
なお、ステップS3007では、当該閾値を50パーセント乃至60パーセント等の所定の値に設定し、被検二次電池の劣化度が当該閾値を下回ったら漸次劣化させる扱いを終了し、「No」とした((30−3)60℃サイクル劣化に関しては閾値を80パーセントに設定)。
ステップS3007で「No」と判断するに到ったときには、それまでに取得したデータを保存する処置(例えば、情報記録媒体に記録する処置)を講じてデータの収集を終了する(ステップS3008)。
【0125】
次に、ステップS3008で保存した既得の特徴量を用いて劣化要因の類型を識別する識別関数を作成する(ステップS3009)。
ステップS3009における識別関数の作成手法について次に説明する。
(3009−1)算出した全特徴量のうち、容量維持率が約92パーセント乃至70パーセントに該当するデータをデータ数が略等しくなるように2分割し、その一方を学習用データ、他方を評価用データとする。
(3009−2)学習用データを使用して、次の5つの識別関数劣化要因参照用データを作成する。
識別関数1:「25℃サイクル劣化・45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」と「60℃サイクル劣化・60℃保存劣化」を識別する識別関数。
識別関数2−1:劣化が進んでいない被検二次電池に関して「25℃サイクル劣化」と「45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」を識別する識別関数。
識別関数2−2:劣化が進んだ被検二次電池に関して「25℃サイクル劣化」と「45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」を識別する識別関数。
識別関数3:「60℃サイクル劣化」と「60℃保存劣化」を識別する識別関数。
識別関数4:「45℃サイクル劣化」と「45℃保存劣化」を識別する識別関数。
(3009−3)全評価用データと識別関数1を使用して、識別関数1の識別性能を評価する。
(3009−4)「25℃サイクル劣化・45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」の評価用データと識別関数2−1および識別関数2−2を使用して、識別関数2−1および識別関数2−2の識別性能を評価する。
(3009−5)「45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」の評価用データと識別関数3を使用して、識別関数3の識別性能を評価する。
(3009−6)「60℃サイクル劣化・60℃保存劣化」の評価用データと識別関数4を使用して、識別関数4の識別性能を評価する。
なお、上述したSVMを1回適用することによっては一方の分類に属するか他方の分類に属するかの判断のみ可能であるため、上述した
図25における、評価用データの分類に適用する手法のステップに従って全評価用データを「25℃サイクル劣化」、「45℃サイクル劣化」、「60℃サイクル劣化」、「45℃保存劣化」、「60℃保存劣化」の何れかに分類する。
【0126】
上述したようなステップS3009の後、劣化要因ごとに「特徴量と劣化度の関係式」を算出する(ステップS3010)。
ステップS3010において用いるデータは、容量維持率が約92パーセント乃至70パーセントに該当する全データである。そして、算出の手順は次の通りである。
(3010−1)3次の回帰分析により、劣化要因ごとに特徴量(ここではΔV1を適用)と劣化度の関係式を算出する(上述した
図18乃至
図21参照)。この関係式は「25℃サイクル劣化」、「45℃サイクル・45℃保存劣化」、「60℃サイクル・60℃保存劣化」の3種類を作成する。
(3010−2)容量維持率が約92パーセント〜70パーセントに該当する全データを用いて関係式を作成する(上述した
図26参照)。
【0127】
上記(3010−1),(3010−2)の手順から、容量維持率が約92パーセント乃至70パーセントに該当する全データを用いた関係式による劣化度の予測精度が±9.4パーセントだったのに対し、劣化要因ごとの関係式による予測精度は、「25℃サイクル劣化」に関して±6.6パーセント、「45℃サイクル劣化・45℃保存劣化」に関して±3.6パーセント、「60℃サイクル劣化・60℃保存劣化」に関して±1.6パーセントと、予測精度が向上した(上述した表2参照)。
【0128】
また、SOCの算出に関しても、劣化要因ごとの電圧とSOCの関係式あるいはCV充電からの経過時間とSOCの関係式を使用することにより、SOCの推定精度が向上することを示した。
次に、電池パックの製造方法及び二次電池のセルバランス確認方法について以下に説明する。電池パックの製造方法は、上述した本発明の二次電池の電池状態推定装置によって複数の二次電池の類型を識別する工程と、この類型が同じである複数の二次電池を選別する工程と、この選別された二次電池を直列接続する工程とを有している。また、二次電池のセルバランス確認方法は、上述した本発明の二次電池の電池状態推定装置を用いて
、二次電池の電池状態の類型を識別し、各セルの電圧を均等化するセルバランスを行う。