(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6148904
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】筒形防振装置用アウタブラケットおよびアウタブラケット付き筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20170607BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20170607BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F15/08 K
B60K5/12 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-114749(P2013-114749)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234833(P2014-234833A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】平澤 睦弘
(72)【発明者】
【氏名】森川 将司
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−094062(JP,A)
【文献】
特開2009−097618(JP,A)
【文献】
特開2001−146939(JP,A)
【文献】
実開平02−008620(JP,U)
【文献】
特開昭62−110037(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0166506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K1/00−6/12
7/00−8/00
F16F1/00−6/00
15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材を備えた本体ゴム弾性体からなる筒形防振装置本体が挿入されて取り付けられる、全体が一定厚さの円筒形状とされた筒状部を備えた筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、
前記筒状部の周方向に延びる溝形をもって、一定厚さのプレス板金具で構成されたストッパ部が、一対の側壁部の開口側端部において該筒状部の外周面に固着されており、該ストッパ部の底壁部が該筒状部の外周側に離隔して対向配置されて該筒状部の周方向に延びていると共に、該ストッパ部の該一対の側壁部と該底壁部との接続角部が湾曲外面形状をもって延びており、該ストッパ部における該一対の側壁部に対して前記インナ軸部材側が当接せしめられて該インナ軸部材と該筒状部の軸方向での相対変位量が制限されることを特徴とする筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項2】
前記ストッパ部の前記底壁部に開口窓が形成されている請求項1に記載の筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項3】
前記ストッパ部の前記一対の側壁部の開口側端部が前記開口窓を通じて該ストッパ部の幅方向内側から溶接されて前記筒状部の外周面に固着されている請求項2に記載の筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項4】
前記ストッパ部における前記一対の側壁部の外側面が、前記筒状部の軸方向端面と同一平面上で広がっている請求項1〜3の何れか1項に記載の筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項5】
前記筒状部の外周側に一方の防振連結対象部材に固定される取付部が配されていると共に、該筒状部と該取付部との接続部分には該筒状部の周方向に延びる補強部が設けられており、該補強部の一端が該取付部に固定されていると共に、該補強部の他端が前記ストッパ部の長さ方向端部に連続している請求項1〜4の何れか1項に記載の筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項6】
前記補強部の外側面が前記筒状部の軸方向端面よりも該筒状部の軸方向で内側に位置しており、該補強部が幅方向外側において該筒状部の外周面に溶接されている請求項5に記載の筒形防振装置用アウタブラケット。
【請求項7】
インナ軸部材とアウタ筒部材を内外挿配置して本体ゴム弾性体で弾性連結することで筒形防振装置本体が構成されており、該筒形防振装置本体の該アウタ筒部材が請求項1〜6の何れか1項に記載された筒形防振装置用アウタブラケットの前記筒状部に圧入固定されていると共に、該アウタブラケットの前記ストッパ部が該インナ軸部材側に当接することで該インナ軸部材と該アウタ筒部材の軸方向での相対変位量を制限するストッパ手段が構成されるようになっていることを特徴とするアウタブラケット付き筒形防振装置。
【請求項8】
前記インナ軸部材側と前記アウタブラケットの前記ストッパ部との当接面間に緩衝ゴムが配設されており、該緩衝ゴムが該ストッパ部よりも外周側にまで突出して設けられている請求項7に記載のアウタブラケット付き筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒形防振装置本体に装着される筒形防振装置用アウタブラケットと、それを用いたアウタブラケット付き筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筒形防振装置本体に筒形防振装置用アウタブラケット(以下、アウタブラケット)を装着したアウタブラケット付き筒形防振装置が知られている。アウタブラケット付き筒形防振装置は、例えば特許第2861667号公報(特許文献1)等に示されているものであって、インナ軸部材とアウタ筒部材を本体ゴム弾性体で弾性連結した筒形防振装置本体に対して、アウタブラケットの筒状部をアウタ筒部材に外嵌装着した構造を有している。
【0003】
ところで、アウタブラケット付き筒形防振装置では、本体ゴム弾性体において剪断変形が支配的となる軸方向の入力に対して、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量を制限するストッパ手段が設けられる場合もある。このストッパ手段は、例えば、アウタブラケットにおける筒状部の軸方向端面とインナ軸部材側との当接によって構成される。
【0004】
ところが、筒状部の軸方向端面をストッパ手段におけるストッパ当接面として利用する構造では、筒状部が薄肉の場合には、筒状部の変形剛性が不充分になるおそれがあると共に、ストッパ当接面積が小さくなることで荷重の集中による耐久性の低下等も問題になり易い。一方、単純に筒状部を厚肉化すると、ストッパ当接面を構成する筒状部の変形剛性やストッパ当接面積が充分に確保される一方で、アウタブラケットの重量が著しく増加するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2861667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、重量の増加を抑えつつ、ストッパ当接面積を高い自由度で設定可能であると共に、ストッパ当接面の変形剛性も効率的に得ることができる、新規な構造の筒形防振装置用アウタブラケットを提供することにある。
【0007】
また、本発明は、上記の如き優れた効果を奏する筒形防振装置用アウタブラケットを用いた、新規な構造のアウタブラケット付き筒形防振装置を提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明の第一の態様は、
インナ軸部材を備えた本体ゴム弾性体からなる筒形防振装置本体が挿入されて取り付けられる
、全体が一定厚さの円筒形状とされた筒状部を備えた筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記筒状部の周方向に延びる溝形
をもって、一定厚さのプレス板金具で構成されたストッパ部が
、一対の側壁部の開口側端部において該筒状部の外周面に固着されており、該ストッパ部の底壁部が該筒状部の外周側に
離隔して対向配置されて該筒状部の周方向に延びていると共に、該ストッパ部の該一対の側壁部と該底壁部との接続角部が湾曲外面形状をもって延びて
おり、該ストッパ部における該一対の側壁部に対して前記インナ軸部材側が当接せしめられて該インナ軸部材と該筒状部の軸方向での相対変位量が制限されることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた筒形防振装置用アウタブラケットによれば、筒状部の外周面上に配されるストッパ部の側壁部の外側面を利用してストッパ当接面を構成することができて、ストッパ当接面の面積を容易に確保することが可能となる。
【0011】
しかも、溝形状とされたストッパ部は、一対の側壁部の開口側端部を筒状部の外周面に固着されていることから、一対の側壁部が筒状部および底壁部によって相互に連結されている。従って、ストッパ当接面を構成する一対の側壁部の変形剛性が高められて、耐荷重性の向上が図られる。特に、底壁部が筒状部の外周側に離れて対向配置されることによって、一対の側壁部が離れた二箇所で相互に連結されることから、補強効果がより有利に発揮される。
【0012】
さらに、ストッパ部における一対の側壁部と底壁部との接続角部が湾曲外面形状をもって延びていることにより、ストッパ部の接続角部において耐荷重性の更なる向上が図られる。加えて、ストッパ部の一対の側壁部の外側面によってストッパ当接面を構成する際に、接続角部が湾曲外面形状を有することで、接続角部への当接による他部材(緩衝ゴム等)の損傷が防止される。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記ストッパ部の前記底壁部に開口窓が形成されているものである。
【0014】
第二の態様によれば、ストッパ部の底壁部に開口窓が形成されることで、ストッパ部の軽量化が図られる。しかも、ストッパ当接面を外れた底壁部に開口窓が形成されることで、ストッパ当接面の面積を確保しながら軽量化を実現できる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記ストッパ部の前記一対の側壁部の開口側端部が前記開口窓を通じて該ストッパ部の幅方向内側から溶接されて前記筒状部の外周面に固着されているものである。
【0016】
第三の態様によれば、一対の側壁部の開口側端部の外側面に溶接金属が突出するのを防いで、一対の側壁部の外側面で構成されるストッパ当接面の実質的な面積をより大きく確保することができる。また、溶接金属が緩衝ゴム等の他部材に当接するのを回避することで、緩衝ゴムの切れ等を防ぐことができる。
【0017】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記ストッパ部における前記一対の側壁部の外側面が、前記筒状部の軸方向端面と同一平面上で広がっているものである。
【0018】
第四の態様によれば、一対の側壁部の外側面と筒状部の軸方向端面とによって協働してストッパ当接面を構成することで、ストッパ当接面の面積をより効率的に大きく得ることができる。特に、本態様の構成に第三の態様の構成を組み合わせて採用すれば、溶接金属の突出によってアウタブラケットの軸方向寸法が必要以上に大きくなるのも回避される。
【0019】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記筒状部の外周側に一方の防振連結対象部材に固定される取付部が配されていると共に、該筒状部と該取付部との接続部分には該筒状部の周方向に延びる補強部が設けられており、該補強部の一端が該取付部に固定されていると共に、該補強部の他端が前記ストッパ部の長さ方向端部に連続しているものである。
【0020】
第五の態様によれば、筒状部と取付部を接続する補強部が、ストッパ部に連続して設けられることにより、筒状部と取付部との接続構造が部品点数の少ない簡単な構造で実現される。また、補強部をストッパ部と同様の溝形状とすれば、筒状部と取付部の接続部分において重量の著しい増加を防ぎつつ、充分な強度を得ることができる。
【0021】
本発明の第六の態様は、第五の態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットにおいて、前記補強部の外側面が前記筒状部の軸方向端面よりも該筒状部の軸方向で内側に位置しており、該補強部が幅方向外側において該筒状部の外周面に溶接されているものである。
【0022】
第六の態様によれば、補強部を溝形状として内側から溶接する場合に比して、補強部が外側から溶接されることで、溶接作業がし易くなって、溶接の品質や寸法精度を高め易くなる。従って、目的とする耐久性等が高度に実現されて、信頼性に優れたアウタブラケットを提供することができる。
【0023】
本発明の第七の態様は、アウタブラケット付き筒形防振装置であって、インナ軸部材とアウタ筒部材を内外挿配置して本体ゴム弾性体で弾性連結することで筒形防振装置本体が構成されており、該筒形防振装置本体の該アウタ筒部材が第一〜第六の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置用アウタブラケットの前記筒状部に圧入固定されていると共に、該アウタブラケットの前記ストッパ部が該インナ軸部材側に当接することで該インナ軸部材と該アウタ筒部材の軸方向での相対変位量を制限するストッパ手段が構成されるようになっていることを、特徴とする。
【0024】
第七の態様に従う構造とされたアウタブラケット付き筒形防振装置によれば、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向での相対変位量がストッパ手段で制限されることから、本体ゴム弾性体の過大な変形が防止されて、耐久性の向上が図られる。しかも、アウタブラケットにおいてストッパ当接面の耐荷重性や面積が確保されることから、目的とするストッパ作用を高い信頼性をもって得ることができる。加えて、上述の如き耐荷重性やストッパ当接面の確保は、比較的に軽量のアウタブラケット構造によって実現されることから、筒形防振装置全体としての軽量化も図られる。
【0025】
本発明の第八の態様は、第七の態様に記載されたアウタブラケット付き筒形防振装置において、前記インナ軸部材側と前記アウタブラケットの前記ストッパ部との当接面間に緩衝ゴムが配設されており、該緩衝ゴムが該ストッパ部よりも外周側にまで突出して設けられているものである。
【0026】
第八の態様によれば、インナ軸部材側とストッパ部が緩衝ゴムを介して間接的に当接することで、緩衝ゴムの緩衝作用に基づいて当接時の打音が低減される。更に、緩衝ゴムがストッパ部よりも外周側にまで突出していることで、インナ軸部材がアウタ筒部材に対してこじり方向に相対変位する場合にも、インナ軸部材側とストッパ部の間に緩衝ゴムが介在して、打音の低減作用が有効に発揮される。
【0027】
しかも、ストッパ部における一対の側壁部と底壁部との接続角部が湾曲外面形状を有していることで、緩衝ゴムがストッパ部よりも外周側にまで突出していても、緩衝ゴムが接続角部への当接によって切れることはなく、緩衝ゴムの耐久性も十分に確保される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、筒状部の外周側に溝形状のストッパ部が設けられていることから、かかるストッパ部の一対の側壁部の外側面を利用してストッパ当接面を構成することで、筒状部を必要以上に厚肉化することなく、ストッパ当接面において充分な当接面積を設定することができる。しかも、ストッパ部が一対の側壁部の開口側端部において筒状部の外周面に固着されて、底壁部が筒状部の外周側に対向して配置されるように筒状部に取り付けられることから、一対の側壁部の変形剛性が筒状部および底壁部によって高められて、ストッパ荷重の入力に対する変形が防止される。加えて、一対の側壁部と底壁部との接続角部が湾曲外面形状で延びていることにより、ストッパ部の接続角部における耐荷重性の向上が図られると共に、緩衝ゴム等の接続角部への当接による損傷が回避されて、信頼性の向上も実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態としての筒形防振装置用アウタブラケットを示す右側面図である。
【
図2】
図1に示す筒形防振装置用アウタブラケットの正面図。
【
図3】
図1に示す筒形防振装置用アウタブラケットの底面図。
【
図5】
図1に示す筒形防振装置用アウタブラケットを用いたエンジンマウントの右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1〜4には、本発明の一実施形態としての筒形防振装置用アウタブラケット10(以下、アウタブラケット10と称する)が示されている。アウタブラケット10は、後述するマウント本体42が挿入されて取り付けられる筒状部12を備えている。この筒状部12は、大径の略円筒形状を呈する高剛性の部材であって、略一定の直径で直線的に延びる円形断面の内孔を備えている。
【0032】
また、筒状部12の外周側には、取付部14が配されている。この取付部14は、屈曲プレート状であって、筒状部12の軸方向端面よりも外側にまで延び出している。また、筒状部12の周上の一部から互いに異なる二方向に延びる第一,第二の取付板部16,18を備えていると共に、筒状部12よりも外側に突出した各取付板部16,18の端部付近には、それぞれボルト孔20が貫通形成されている。
【0033】
さらに、筒状部12と取付部14の間には、支持部22が設けられている。支持部22は、溝形を呈する高剛性の部材であって、長さ方向一方の端部が取付部14の第一の取付板部16に溶接等の手段で固定されている。更に、溝形とされた支持部22の一対の側壁部は、開口側の端部が筒状部12の外周面に重ね合わされて、突当て状態で溶接により固定されている。なお、溝形とされた支持部22の幅寸法が筒状部12の軸方向寸法よりも小さくされており、支持部22の一対の側壁部が筒状部12の外周面に対して外側から溶接されている。これにより、溶接の作業性向上による溶接品質の向上が図られて、筒状部12と取付部14が高い強度をもって連結される。
【0034】
更にまた、筒状部12と取付部14の間には、補強部24が設けられている。補強部24は、溝形を呈する高剛性の部材であって、長さ方向一方の端部が第二の取付板部18に溶接等の手段で固定されている。一方、溝形とされた補強部24の一対の側壁部は、開口側の端部が筒状部12の外周面に重ね合わされた突当て状態で溶接により固定されており、補強部24が筒状部12の周方向に延びている。これらのように、取付部14は、支持部22および補強部24によって、筒状部12の外周面に対して固定されている。なお、溝形とされた補強部24の幅寸法が筒状部12の軸方向寸法よりも小さくされて、補強部24の一対の側壁部の外側面が筒状部12の軸方向端面よりも内側に位置しており、補強部24の一対の側壁部が筒状部12の外周面に対して外側から溶接されている。これにより、内側から溶接する場合に比して、補強部24を筒状部12に溶接する際の作業性が向上して、溶接品質が高められることから、強度や耐久性の向上が実現される。
【0035】
また、補強部24の長さ方向他方側には、ストッパ部26が連続して設けられている。ストッパ部26は、筒状部12の周方向に延びる溝形の部材であって、それぞれ平板形状とされた一対の側壁部28,28と、それら一対の側壁部28,28を相互に連結する平板形状の底壁部30が、R状の接続角部32,32を介して一体形成されることで、全体として略コの字形の断面形状を有している。更に、
図4に示すように、一対の側壁部28,28と底壁部30との接続角部32,32が湾曲外面形状を有しており、接続角部32,32の外面において折れ点や折れ線の形成が回避されている。本実施形態では、長手の板状金具の幅方向両端部をプレス加工によって曲げることで、一対の側壁部28,28と底壁部30が湾曲外面形状を有する接続角部32,32を介して一体形成されている。なお、本実施形態では、一対の側壁部28,28が底壁部30に対して略垂直に設けられている。更に、一対の側壁部28,28の底壁部30からの突出寸法が、それら一対の側壁部28,28の対向面間距離よりも小さくされており、ストッパ部26が浅底の溝形状とされている。
【0036】
このストッパ部26は、
図4に示すように、一対の側壁部28,28が開口側の端面を筒状部12の外周面に突き当てられて、溶接によって筒状部12の外周面上に固定されている。これにより、ストッパ部26の底壁部30が筒状部12に対して外周側に所定距離を隔てて対向配置されており、ストッパ部26の一対の側壁部28,28および底壁部30と筒状部12とによって囲まれた中空トンネル状の空間が形成されている。本実施形態では、ストッパ部26の筒状部12への装着状態において、ストッパ部26における一対の側壁部28,28の各外側面が、筒状部12の軸方向端面と略同一平面上に配されており、それら一対の側壁部28,28の各外側面と筒状部12の軸方向端面とによって、本実施形態のストッパ当接面34,34が構成されている。
【0037】
さらに、ストッパ部26の底壁部30には、開口窓36が貫通形成されている。開口窓36は、
図1,2に示すように、ストッパ部26における補強部24と反対側の端部付近において、底壁部30の幅方向中央部分に形成されており、略角丸四角形の開口形状を有している。かかる開口窓36が形成されることによって、ストッパ部26の軽量化が図られていると共に、筒状部12の外周面に突き当てられた一対の側壁部28,28の開口側端部の各内側面が開口窓36を通じて外部に露出されている。そして、本実施形態では、一対の側壁部28,28の開口側端部が、開口窓36を通じて幅方向内側から溶接されることにより、ストッパ部26が筒状部12に固定されている。このように内側から溶接することにより、溶接金属がストッパ当接面34上に露出するのを回避できる。なお、本実施形態では、開口窓36よりも補強部24側に肉抜孔38が形成されており、ストッパ部26の更なる軽量化が図られている。
【0038】
かくの如き構造とされたアウタブラケット10は、
図5〜8に示すように、アウタブラケット付き筒形防振装置としての自動車用のエンジンマウント40を構成するようになっている。即ち、エンジンマウント40は、アウタブラケット10が筒形防振装置本体としてのマウント本体42に取り付けられた構造とされており、そのマウント本体42が、内外挿配置されたインナ軸部材44とアウタ筒部材46を、本体ゴム弾性体48によって弾性連結した構造とされている。
【0039】
より詳細には、インナ軸部材44は、厚肉小径の略円筒形状であって、鉄やアルミニウム合金等の金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。一方、アウタ筒部材46は、薄肉大径の略円筒形状であって、インナ軸部材44と同様の材料で形成された高剛性の部材とされている。
【0040】
そして、インナ軸部材44がアウタ筒部材46に挿通されて、それらインナ軸部材44とアウタ筒部材46の径方向間が本体ゴム弾性体48によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体48は、厚肉大径の略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材44の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材46の内周面に加硫接着されている。本実施形態の本体ゴム弾性体48は、インナ軸部材44とアウタ筒部材46を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0041】
さらに、本体ゴム弾性体48には、第一のすぐり部50と第二のすぐり部52がそれぞれ軸方向に貫通して形成されている。第一のすぐり部50は、
図5に示すように略周方向に延びており、周方向両端部がそれぞれアウタ筒部材46まで達している。一方、第二のすぐり部52は、第一のすぐり部50に対してインナ軸部材44を挟んだ径方向反対側に形成されており、外周側に向かって周方向幅寸法が大きくなる孔断面形状をもって軸方向に貫通していると共に、外周側の壁内面から径方向内側に向かってストッパゴム54が突出している。
【0042】
このような構造とされたマウント本体42は、アウタ筒部材46がアウタブラケット10の筒状部12に圧入固定されることにより、エンジンマウント40を構成するようになっている。そして、
図8に示すように、アウタブラケット10の取付部14が一方の防振連結対象部材としての車両ボデー56に固定されることによって、エンジンマウント40のアウタ筒部材46側が車両ボデー56に取り付けられるようになっている。一方、エンジンマウント40は、インナ軸部材44が、インナブラケット58を介して他方の防振連結対象部材としてのパワーユニット60に取り付けられるようになっている。これらによって、エンジンマウント40がそれら車両ボデー56とパワーユニット60の間に介装されて、それら車両ボデー56とパワーユニット60が相互に防振連結されるようになっている。なお、
図5〜8では、エンジンマウント40単体の構造が実線で示されていると共に、車両ボデー56やパワーユニット60およびインナブラケット58が二点鎖線で仮想的に示されている。また、
図5〜8では、パワーユニット60の分担支持荷重が入力されていない状態で図示されているが、エンジンマウント40の車両装着状態では、インナ軸部材44とアウタ筒部材46の間にパワーユニット60の分担支持荷重が入力される。これにより、インナ軸部材44がアウタ筒部材46に対して
図8中の下方に相対変位して、第一のすぐり部50の幅が広がると共に、第二のすぐり部52の幅が狭くなり、各すぐり部50,52においてそれぞれ所定のストッパクリアランスが設定されるようになっている。
【0043】
なお、インナブラケット58は、
図6,7に示すように、インナ軸部材44を軸方向両側から挟み込む一対の対向板部62,62を備えており、一対の対向板部62,62の一端に設けられたボルト孔64に挿通される図示しないボルトによって、一対の対向板部62,62がインナ軸部材44に固定されるようになっている。更に、一対の対向板部62,62の他端が連結部66によって相互に連結されていると共に、連結部66に形成された複数のボルト孔68に挿通される図示しないボルトによってインナブラケット58がパワーユニット60に固定されるようになっている。
【0044】
かかるインナブラケット58のインナ軸部材44への装着状態において、一対の対向板部62,62がアウタブラケット10のストッパ当接面34に対して筒状部12の軸方向外側に所定距離を隔てて対向配置されている。そして、一対の対向板部62,62がストッパ当接面34に当接することで、インナ軸部材44とアウタ筒部材46の軸方向での相対変位量を制限するストッパ手段が構成されるようになっている。なお、本実施形態ではインナ軸部材44に固定されるインナブラケット58がアウタブラケット10のストッパ当接面34に当接することで、アウタブラケット10のストッパ部26がインナ軸部材44側に当接してストッパ手段が構成されるようになっているが、例えば、インナ軸部材の外周面上に突出部を設ける等して、インナ軸部材がストッパ部26に対して直接に当接することでストッパ手段が構成されるようになっていても良い。
【0045】
さらに、インナブラケット58の一対の対向板部62,62とアウタブラケット10のストッパ当接面34,34との対向面間には、それぞれ緩衝ゴム70が配設されている。緩衝ゴム70は、略長手板状のゴム弾性体で形成されており、長手方向一方の端部に形成された挿通孔に対してインナ軸部材44の軸方向両端部分が挿通されることで、インナ軸部材44によって支持されている。そして、緩衝ゴム70は、径方向一方向で外周側に向かって延び出しており、長手方向の中間部分がアウタブラケット10のストッパ当接面34とインナブラケット58の対向板部62との間に差し入れられていると共に、長手方向他方の端部がストッパ当接面34よりも外周側にまで突出している。これにより、インナブラケット58の一対の対向板部62,62とアウタブラケット10のストッパ当接面34,34が、それぞれ緩衝ゴム70を介して当接するようになっており、緩衝ゴム70の緩衝作用によって、当接時の打音が低減されるようになっている。
【0046】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント40によれば、ストッパ手段を構成するストッパ当接面34が、筒状部12の軸方向端面だけでなく、ストッパ部26における一対の側壁部28,28の外側面を含んで構成されている。それ故、筒状部12に取り付けられるストッパ部26の形状や大きさ等を適宜に設定することで、ストッパ当接面34の面積を高い自由度で適宜に設定することができる。
【0047】
特に本実施形態では、ストッパ部26における一対の側壁部28,28の外側面と筒状部12の軸方向端面とが略同一平面上に配置されており、それら一対の側壁部28,28の外側面と筒状部12の軸方向端面とが協働してストッパ当接面34,34を構成するようになっている。これにより、ストッパ部26のみでストッパ当接面34,34を構成する場合に比して、各ストッパ当接面34の面積をより効率的に大きく確保することができる。
【0048】
さらに、ストッパ当接面34を構成する一対の側壁部28,28は、ストッパ部26の開口側に位置する端部が、筒状部12の外周面に突き当てられて溶接固定されていると共に、開口側と反対に位置する端部が、底壁部30によって相互に連結されている。これにより、各ストッパ当接面34を構成する一対の側壁部28,28が、筒状部12および底壁部30によって補強されて、ストッパ荷重の入力に対する耐久性の向上が図られる。特に、底壁部30が筒状部12に対して外周側に離隔して対向配置されており、一対の側壁部28,28が筒状部12の径方向で離れた二箇所において筒状部12と底壁部30で相互に連結されていることから、一対の側壁部28,28に対する補強効果が効率的に発揮される。
【0049】
しかも、ストッパ部26が溝形状とされており、ストッパ部26の底壁部30と筒状部12との間に隙間が形成されていることから、ストッパ当接面34の面積やストッパ当接面34を構成する側壁部28の変形剛性を充分に確保しつつ、アウタブラケット10の重量の増加が抑えられる。
【0050】
また、ストッパ部26の底壁部30に開口窓36が貫通形成されており、ストッパ当接面34,34の面積を減じることなく、ストッパ部26の軽量化が図られている。加えて、本実施形態の底壁部30では、開口窓36に加えて、肉抜孔38が形成されており、更なる軽量化が実現されている。
【0051】
さらに、一対の側壁部28,28は、開口側の端部を筒状部12の外周面に突き当てられた状態で、内側面が開口窓36を通じて外部に露出されており、開口窓36を通じて溶接用のトーチ等を差し入れて、一対の側壁部28,28が筒状部12に対して内側から溶接されている。これにより、溶接金属がストッパ当接面34,34上に突出するのを防いで、ストッパ当接面34,34の実質的な面積を大きく確保することができると共に、溶接金属に緩衝ゴム70等の他部材が接触して損傷するのを防止できる。
【0052】
また、ストッパ部26では、一対の側壁部28,28と底壁部30との接続角部32,32が湾曲外面形状を有していることにより、例えば、緩衝ゴム70,70が接触して切れる等の不具合を回避することができる。
【0053】
さらに、接続角部32,32への当接による緩衝ゴム70,70の損傷が防止されることにより、緩衝ゴム70,70をストッパ部26よりも外周側にまで突出させることが可能となっている。その結果、インナ軸部材44とアウタ筒部材46が相対的にこじり変位する場合にも、インナブラケット58の一対の対向板部62,62とアウタブラケット10のストッパ当接面34,34とが、緩衝ゴム70,70を介して当接して、打音を防止しながら有効なストッパ作用を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ストッパ当接面は、ストッパ部26における一対の側壁部28,28の外側面と筒状部12の軸方向端面とが協働して構成されるものに限定されず、例えば、一対の側壁部28,28の外側面だけでストッパ当接面を構成することもできる。
【0055】
また、前記実施形態では、ストッパ部26と補強部24が一体形成されて長さ方向で連続している構造が例示されているが、例えば、ストッパ部と補強部を別部材としてそれぞれ筒状部12に溶接固定することで、長さ方向で相互に連続するように配置しても良い。
【0056】
また、ストッパ部の一対の側壁部は、前記実施形態における支持部22および補強部24の側壁部と同様に、筒状部12に対して外側から溶接されていても良い。一方、支持部の側壁部や補強部の側壁部を、前記実施形態のストッパ部26の側壁部28と同様に、筒状部12に対して内側から溶接することも可能である。
【0057】
また、前記実施形態では、筒状部12の周方向に略1/4周の長さで延びるストッパ部26が例示されているが、ストッパ部の長さは特に限定されるものではない。
【0058】
また、ストッパ部の底壁部に形成される開口窓は1つに限定されるものではなく、周方向に複数の開口窓を配することで、それら開口窓の総開口面積を確保しながら、各開口窓の周方向長さを小さくして、ストッパ部の変形剛性が周上で部分的に小さくなるのを防止することもできる。
【符号の説明】
【0059】
10:筒形防振装置用アウタブラケット、12:筒状部、14:取付部、24:補強部、28:側壁部、30:底壁部、32:接続角部、36:開口窓、42:マウント本体(筒形防振装置本体)、44:インナ軸部材、46:アウタ筒部材、48:本体ゴム弾性体、56:車両ボデー(一方の防振連結対象部材)、70:緩衝ゴム