【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年2月28日、平成24年度機械工学科第45期生卒業研究論文要旨集、一関工業高等専門学校機械工学科 〔刊行物等〕 平成25年2月28日、平成24年度機械工学科第45期生卒業研究発表会、一関工業高等専門学校機械工学科
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両に搭載され独立して制御可能な二つの駆動源と、左右の駆動輪と、前記二つの駆動源と前記左右の駆動輪との間に介設され、3要素2自由度の遊星歯車機構を同軸上に二つ組み合わせてなる歯車装置と、を備えた左右輪駆動装置であって、
前記遊星歯車機構は、それぞれ、入力用の第一回転体であるサンギヤと、前記サンギヤと同軸上に設けられた出力用の第二回転体と、前記サンギヤと同軸上に設けられ、前記第二回転体を固定したときに前記サンギヤと逆方向に回転する第三回転体と、を含み、
前記歯車装置は、一方の前記サンギヤと他方の前記第三回転体とが結合された第一結合要素と、一方の前記第三回転体と他方の前記サンギヤとが結合された第二結合要素とを有し、
一方の前記駆動源は前記第一結合要素に接続され、他方の前記駆動源は前記第二結合要素に接続され、
一方の前記駆動輪は一方の前記第二回転体に接続され、他方の前記駆動輪は他方の前記第二回転体に接続される
ことを特徴する、左右輪駆動装置。
前記歯車装置は、前記第一結合要素及び前記第二結合要素が同軸上に配置されるとともに一方が中実軸を含み他方が前記中実軸が挿通される中空軸を含んで構成され、二つの前記遊星歯車機構の間を通る軸が二重構造である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の左右輪駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0017】
[1.第一実施形態]
[1−1.全体構成]
まず、本実施形態に係る左右輪駆動装置の全体構成について、
図1を用いて説明する。本左右輪駆動装置1は、自動車をはじめとした車両に搭載された第一モータ2及び第二モータ3(二つの駆動源)と、左駆動輪4L及び右駆動輪4R(左右の駆動輪)と、これらの間に介設された歯車装置5と減速ギヤ列6,7とを備えている。
【0018】
第一モータ2及び第二モータ3は、車両に搭載されたバッテリ(図示略)からの電力供給により作動する電気モータ(以下、単にモータともいう)であり、図示しない電子制御装置により個別に制御され、異なるトルクを発生させて出力することが可能である。ここでは、第一モータ2及び第二モータ3は、同一の最大出力を有する同一規格のモータである。車両は、これら第一モータ2及び第二モータ3を駆動源とした電気自動車やハイブリッド電気自動車等である。第一モータ2の出力軸2a及び第二モータ3の出力軸3aは、それぞれ減速ギヤ列6,7を介して後述する歯車装置5の各結合要素11,12に接続されている。
【0019】
第一の減速ギヤ列6は、第一モータ2と歯車装置5との間に介設され、第一モータ2の回転速度を減速して歯車装置5へと出力(伝達)するものである。第二の減速ギヤ列7は、第二モータ3と歯車装置5との間に介設され、同様に第二モータ3の回転速度を減速して歯車装置5へと出力(伝達)するものである。また、第一モータ2及び第二モータ3が発生する各トルクTM1,TM2は、歯車装置5を介して左右の駆動輪4L,4Rへ伝達される。
【0020】
[1−2.歯車装置]
歯車装置5は、3要素2自由度の同一の遊星歯車機構10A,10Bが同軸上に二つ組み合わされて構成されている。本実施形態では、遊星歯車機構10A,10Bには、何れも
図2(a)に示すようなダブルピニオン遊星歯車機構が採用されている。
図2(a)に示すように、ダブルピニオン遊星歯車機構は、同軸上に設けられた同一モジュールのサンギヤS及びリングギヤRと、これらサンギヤSとリングギヤRとの間であって同軸上に設けられたキャリアCと、このキャリアCに回動可能に支持され互いに噛み合う二つのピニオンギヤPとから構成される。一方のピニオンギヤPはサンギヤSと噛み合い、他方のピニオンギヤPはリングギヤRと噛み合っている。
【0021】
サンギヤSの歯数Z
SはリングギヤRの歯数Z
Rの略半分に設定される(すなわち、Z
S:Z
R≒1:2)。また、歯数とピッチ円直径とは比例するため、サンギヤSのピッチ円直径D
SとリングギヤRのピッチ円直径D
Rとの比は約1:2となる。なお、サンギヤSとリングギヤRとの関係を、Z
S:Z
R=D
S:D
R≒1:2と設定する理由は、強度とスペースとのバランスを考慮したからである。
【0022】
すなわち、サンギヤSのピッチ円直径D
Sが大きすぎると、サンギヤSとリングギヤRとの間にピニオンギヤPを二つ配置することができなくなり、反対にサンギヤSのピッチ円直径D
Sが小さすぎる(歯数Z
Sが少なすぎる)と、同じ歯が噛み合う回数が増え、歯車の強度が低下するおそれがあるためである。そのため、サンギヤSとリングギヤRとを上記の関係に設定することで、歯車機構として成り立たせながら強度を確保している。なお、ピニオンギヤPの歯数Z
P(又はピッチ円直径)は、ダブルピニオン遊星歯車機構として成り立つ数(又は大きさ)に設定される。ここで、ピニオンギヤPは、複数組〔
図2(a)では3組〕設けられ、伝達力が分散されるため、小径小歯数のギヤを採用できる。
【0023】
このようなダブルピニオン遊星歯車機構における速度線図を
図2(b)に示す。ダブルピニオン遊星歯車機構では、キャリアCを固定した場合にサンギヤSとリングギヤRとが同一方向に回転するため、速度線図に表すとリングギヤR及びサンギヤSがキャリアCに対して同じ側(図では左側)に配置される。言い換えると、キャリアCはリングギヤRを挟んでサンギヤSの反対側に配置され、リングギヤRを固定した場合はサンギヤSとキャリアCとが逆方向に回転する。キャリアCからリングギヤRまでの長さとキャリアCからサンギヤSまでの長さとの比は、リングギヤRの歯数Z
Rの逆数(1/Z
R)とサンギヤSの歯数Z
Sの逆数(1/Z
S)との比と等しい。
【0024】
本実施形態に係る歯車装置5は、
図1に示すように、サンギヤS1(第一回転体),リングギヤR1(第二回転体)及びキャリアC1(第三回転体)を有する第一遊星歯車機構10Aと、同じくサンギヤS2(第一回転体),リングギヤR2(第二回転体)及びキャリアC2(第三回転体)を有する第二遊星歯車機構10Bとが同軸上に組み合わされて構成されている。
【0025】
具体的には、第一遊星歯車機構10AのサンギヤS1と第二遊星歯車機構10BのキャリアC2とが結合されて第一結合要素11を形成し、第一遊星歯車機構10AのキャリアC1と第二遊星歯車機構10BのサンギヤS2とが結合されて第二結合要素12を形成している。第一結合要素11には、第一モータ2で発生されたトルクTM1が入力され、第二結合要素12には、第二モータ3で発生されたトルクTM2が入力される。また、第一遊星歯車機構10AのリングギヤR1は左駆動輪4Lに接続され、第二遊星歯車機構10BのリングギヤR2は右駆動輪4Rに接続される。
【0026】
第一結合要素11は、歯車装置5の軸心に沿って延在する中空軸を含んで構成されており、その内部には第二結合要素12が挿通されている。第二結合要素12は、歯車装置5の軸心に沿って延在する中実軸を含んで構成されており、第一結合要素11及び第二結合要素12は同軸上に配置されている。中実軸である第二結合要素12は、その一端(図中右端)がサンギヤS2の回転軸であり、他端(図中左端)がサンギヤS1を貫通して設けられ、二つの遊星歯車機構10A,10Bをつないでいる。なお、中空軸である第一結合要素11は、一端(図中左端)がサンギヤS1の回転軸となっている。
【0027】
第一遊星歯車機構10Aと第二遊星歯車機構10Bとの間には、これら第一結合要素11及び第二結合要素12の二つの軸のみが通っている。すなわち、第一遊星歯車機構10Aと第二遊星歯車機構10Bとの間は、第一結合要素11及び第二結合要素12のみの二重構造となっており、この二つの遊星歯車機構10A,10Bの間において、これら二つの軸が軸受(図示略)によって支持される。
【0028】
ここで、本歯車装置5によって伝達される駆動トルクについて、
図3に示す速度線図を用いて説明する。歯車装置5は、二つの同一のダブルピニオン遊星歯車機構10A,10Bを組み合わせて構成されるため、
図3に示すように二本の速度線図によって表すことができる。ここでは、分かりやすいように、二本の速度線図を上下にずらし、上側に第一遊星歯車機構10Aの速度線図を示し、下側に第二遊星歯車機構10Bの速度線図を示す。
【0029】
また、第一遊星歯車機構10Aの速度線図と第二遊星歯車機構10Bの速度線図とは、サンギヤSとキャリアCとが左右反対に配置される(左右シンメトリーとなる)。すなわち、
図3において、第一遊星歯車機構10AのサンギヤS1の下に第二遊星歯車機構10BのキャリアC2が配置され、第一遊星歯車機構10AのキャリアC1の下に第二遊星歯車機構10BのサンギヤS2が配置される。
【0030】
本歯車装置5は、
図3に示す二本の速度線図の両端に位置する要素同士が、図中破線で示すようにそれぞれ結合されて第一結合要素11及び第二結合要素12が形成される。そして、第一結合要素11及び第二結合要素12に、それぞれ第一モータ2及び第二モータ3から出力されたトルクTM1及びTM2が入力される。一方、速度線図上で中間に位置するリングギヤR1,R2から左右の駆動輪4L,4Rに伝達される駆動トルクTL,TRが出力される。
【0031】
このように構成された歯車装置5によれば、第一モータ2及び第二モータ3で発生させる各トルクTM1,TM2にトルク差(入力トルク差)ΔT
IN(=TM2−TM1)を与えることで、左駆動輪4Lに伝達される駆動トルクTLと右駆動輪4Rに伝達される駆動トルクTRとにトルク差(駆動トルク差)ΔT
OUT(=TL−TR)を発生させることができる。言い換えると、左右の駆動輪4L,4Rに伝達される駆動力の配分を操作することができる。
【0032】
すなわち、本歯車装置5によれば、以下の式(1)の関係が得られる。
ΔT
OUT=α×ΔT
IN ・・・(1)
ここで、係数αは、入力トルク差ΔT
INを増幅させるトルク差増幅率であり、この値が大きいほど、小さな入力トルク差ΔT
INでも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを得ることが可能となる。
【0033】
本実施形態に係る歯車装置5のトルク差増幅率αについて説明する。ここでは、二つのダブルピニオン遊星歯車機構10A,10Bは、同一の歯数の歯車要素を使用しているため、キャリアC1とリングギヤR1との距離及びキャリアC2とリングギヤR2との距離は等しく、これをaとする。また、サンギヤS1とリングギヤR1との距離及びサンギヤS2とリングギヤR2との距離も等しく、これをbとする。左右両端の第一結合要素11,第二結合要素12に、それぞれ第一モータ2,第二モータ3のトルクTM1,TM2を入力し、リングギヤR1,R2から駆動トルクTL,TRを取り出す。
【0034】
トルクの入力と出力との関係から、以下の式(2)が成立する。
TR+TL=TM1+TM2 ・・・(2)
また、図中の左端(C1,S2部)を基準としたモーメントの式は、以下の式(3)となる。
0=aTL+bTR−(a+b)TM1 ・・・(3)
これら式(2),(3)から、TL,TRについてまとめると、以下の式(4),(5)となる。
【0036】
これら式(4),(5)から、駆動トルク差ΔT
OUTは、以下の式(6)となる。
【0038】
ダブルピニオン遊星歯車機構の場合、長さaはリングギヤRの歯数Z
Rの逆数(1/Z
R)であり、長さa+bは、サンギヤSの歯数Z
Sの逆数(1/Z
S)であるため、上記の式(6)は以下の式(7)のように書き換えられる。
【0040】
すなわち、トルク差増幅率αは、以下の式(8)となる。
【0042】
上述のようにダブルピニオン遊星歯車機構では、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比は約1:2であるため、式(8)の分母は0に近い小さな値となる。そのため、本歯車装置5によれば、トルク差増幅率αを大きな値とすることができるため、小さな入力トルク差ΔT
INでも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを得ることが可能となる。なお、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比がちょうど1:2に設定されると、式(8)の分母が0になってしまうため、本実施形態では、サンギヤSの歯数Z
SはリングギヤRの歯数Z
Rの半分よりも僅かに大きい値か僅かに小さい値に設定される。
【0043】
図4(a),(b)に、減速ギヤ列6,7を省略したスケルトン図を示す。ここでは、歯車機構の軸心の片側のみを示している。
図4(a)は、
図1の左右輪駆動装置1に対応するものである。一方、
図4(b)は、
図4(a)の左右輪駆動装置1のレイアウトを変形させたものであり、二つの遊星歯車機構10A,10Bの接続部分は同一である。
【0044】
図4(b)の例では、
図4(a)のレイアウトに比べて、二つの電気モータ2,3が軸方向外側に配置され、二つの遊星歯車機構10A,10Bが近接して配置される。また、第二結合要素12は、歯車装置5の軸心に沿って延在する中空軸を含んで構成されており、その内部には第一結合要素11が挿通されている。第一結合要素11は、歯車装置5の軸心に沿って延在する中実軸を含んで構成されており、第一結合要素11及び第二結合要素12は同軸上に配置されている。
【0045】
中実軸である第一結合要素11は、その一端(図中左端)がサンギヤS1の回転軸であり、他端(図中右端)がサンギヤS2を貫通して設けられ、二つの遊星歯車機構10A,10Bをつないでいる。なお、中空軸である第二結合要素12は、一端(図中右端)がサンギヤS2の回転軸となっている。第一遊星歯車機構10Aと第二遊星歯車機構10Bとの間は、これら第一結合要素11及び第二結合要素12の二つの軸のみが通る二重構造となっている。本左右輪駆動装置1は、
図4(a),(b)に示すようなレイアウトで車両に搭載することが可能である。なお、これら以外のレイアウトであってもよい。
【0046】
[1−3.効果]
したがって、本実施形態に係る左右輪駆動装置1によれば、二つの遊星歯車機構10A,10Bの間に、第一結合要素11及び第二結合要素12の二つの軸が通るようにすることができ、すなわち第一結合要素11及び第二結合要素12の二重構造とすることができる。これにより、二つの遊星歯車機構10A,10Bの間において、これら二つの軸を支持するための構造を複雑化することなく、剛性や精度を確保することができる。また、連設ピニオン式やラビニヨ式の遊星歯車機構を用いる場合に比べて、歯車装置5の構造を簡素化することができる。
【0047】
さらに、二つのモータ2,3で異なるトルクTM1,TM2を発生させて入力トルク差ΔT
INを与えると、歯車装置5において入力トルク差ΔT
INが増幅され、入力トルク差ΔT
INよりも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを得ることができる。すなわち、入力トルク差ΔT
INが小さくても、歯車装置5において所定のトルク差増幅率αで入力トルク差ΔT
INを増幅することができ、左駆動輪4Lと右駆動輪4Rとに伝達される駆動トルクTL,TRに、入力トルク差ΔT
INよりも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを与えることができる。
したがって、比較的大きなトルク差増幅率αを得ながら、コストを低減することができる。
【0048】
また、上記の左右輪駆動装置1では、歯車装置5が二つのダブルピニオン遊星歯車機構10A,10Bを組み合わせて構成されているため、トルク差増幅率αは上記の式(8)で表現される。また、ダブルピニオン遊星歯車機構では、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比は約1:2に設定されるため、式(8)の分母は0に近い小さな値となり、トルク差増幅率αを大きな値とすることができる。
【0049】
例えば、サンギヤSの歯数Z
Sを30、リングギヤRの歯数Z
Rを75に設定すれば、トルク差増幅率αを5とすることができ、サンギヤSの歯数Z
Sを30、リングギヤRの歯数Z
Rを72に設定すれば、トルク差増幅率αを6とすることができる。また、サンギヤSの歯数Z
Sを30、リングギヤRの歯数Z
Rを66に設定すれば、トルク差増幅率αを11とすることができる。
【0050】
つまり、上記の左右輪駆動装置1によれば、小さな入力トルク差ΔT
INでも、十分に大きな左右駆動輪4L,4R間の駆動トルク差ΔT
OUTを得ることができる。また、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比を変更するだけで、様々な値のトルク差増幅率αを得ることができる。言い換えると、トルク差増幅率αの設定の自由度が高い左右輪駆動装置1を得ることができる。
【0051】
また、上記の左右輪駆動装置1では、第一結合要素11及び第二結合要素12が同軸上に配置されるとともに、一方が中実軸を含んで構成され、他方が中実軸が挿通される中空軸を含んで構成されている。これにより、二つの遊星歯車機構10A,10Bの間を通る軸を二重構造にすることができ、軸の支持構造をより簡単なものとすることができ、歯車装置5の径方向の寸法を小型化することができる。
【0052】
さらに、中実軸は、その一端が一方のサンギヤの回転軸であって、他端が他方のサンギヤを貫通して設けられ、二つの遊星歯車機構10A,10Bをつないでいるため、シンプルな構成で剛性を確保することができるため、構造上の信頼性を高めることができる。また、歯車装置5を軽量にすることもできるため、左右輪駆動措置1全体の重量を低減することができる。
【0053】
また、上記の左右輪駆動装置1では、二つの電気モータ2,3を駆動源としているため、入力トルク差ΔT
INを容易に発生させることができる。また、第一モータ2及び第二モータ3が同一の最大出力を有する同一規格のモータであれば、同じモータを二つ搭載すればよいため、コスト低減に繋がり、左右の駆動輪4L,4Rのトルク制御もよりシンプルにバランスよく行うことができる。
【0054】
[2.第二実施形態]
[2−1.構成]
次に、第二実施形態に係る左右輪駆動装置1′について、
図5〜
図7を用いて説明する。本左右輪駆動装置1′は、歯車装置8の構成を除いて、第一実施形態の構造と同様である。以下、第一実施形態と同様の部品や構造については、第一実施形態と同様の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
図5(a)〜(c)に示すように、本実施形態に係る歯車装置8は、3要素2自由度の同一の遊星歯車機構20A,20Bが同軸上に二つ組み合わされて構成されている。なお、
図5(a)〜(c)はレイアウトが異なるのみで、二つの遊星歯車機構20A,20Bの接続部分は同一である。本実施形態では、遊星歯車機構20A,20Bには、何れも
図6(a)に示すようなシングルピニオン遊星歯車機構が採用されている。
【0056】
図6(a)に示すように、シングルピニオン遊星歯車機構は、同軸上に設けられた同一モジュールのサンギヤS及びリングギヤRと、これらサンギヤSとリングギヤRとの間であって同軸上に設けられたキャリアCと、このキャリアCに回動可能に支持された一つのピニオンギヤPとから構成される。ピニオンギヤPはサンギヤSとリングギヤRとに噛み合っている。
【0057】
シングルピニオン遊星歯車機構においても、上記のダブルピニオン遊星歯車機構と同様、サンギヤSの歯数Z
SはリングギヤRの歯数Z
Rの略半分に設定され、サンギヤSのピッチ円直径D
SとリングギヤRのピッチ円直径D
Rとの比は約1:2となる。また、ピニオンギヤPの歯数Z
P(又はピッチ円直径)は、シングルピニオン遊星歯車機構として成り立つ数(又は大きさ)に設定される。
【0058】
このようなシングルピニオン遊星歯車機構における速度線図を
図6(b)に示す。シングルピニオン遊星歯車機構では、キャリアCを固定した場合にサンギヤSとリングギヤRとが逆方向に回転するため、速度線図に表すとリングギヤR及びサンギヤSがキャリアCに対して反対側に配置される。言い換えると、リングギヤRはキャリアCを挟んでサンギヤSの反対側に配置される。キャリアCからリングギヤRまでの長さとキャリアCからサンギヤSまでの長さの比は、上記と同様、リングギヤRの歯数Z
Rの逆数(1/Z
R)とサンギヤSの歯数Z
Sの逆数(1/Z
S)との比と等しい。
【0059】
本実施形態に係る歯車装置8は、
図5(a)〜(c)に示すように、サンギヤS1(第一回転体),キャリアC1(第二回転体)及びリングギヤR1(第三回転体)を有する第一遊星歯車機構20Aと、同じくサンギヤS2(第一回転体),キャリアC2(第二回転体)及びリングギヤR2(第三回転体)を有する第二遊星歯車機構20Bとが同軸上に組み合わされて構成されている。
【0060】
具体的には、第一遊星歯車機構20AのサンギヤS1と第二遊星歯車機構20BのリングギヤR2とが結合されて第一結合要素21を形成し、第一遊星歯車機構20AのリングギヤR1と第二遊星歯車機構20BのサンギヤS2とが結合されて第二結合要素22を形成している。第一結合要素21には、第一モータ2で発生されたトルクTM1が入力され、第二結合要素22には、第二モータ3で発生されたトルクTM2が入力される。また、第一遊星歯車機構20AのキャリアC1及び第二遊星歯車機構20BのキャリアC2は、それぞれ左右の駆動輪4L,4Rに接続されて出力が取り出される。
【0061】
また、
図5(a)の例では、第二結合要素22は歯車装置8の軸心に沿って延在する中空軸を含んで構成されており、その内部には第一結合要素21が挿通されている。第一結合要素21は、歯車装置8の軸心に沿って延在する中実軸を含んで構成されており、第一結合要素21及び第二結合要素22は同軸上に配置されている。中実軸である第一結合要素21は、その一端(図中左端)がサンギヤS1の回転軸であり、他端(図中右端)がサンギヤS2を貫通して設けられ、二つの遊星歯車機構20A,20Bをつないでいる。なお、中空軸である第二結合要素22は、一端(図中右端)がサンギヤS2の回転軸となっている。
【0062】
また、
図5(b)の例では、第一結合要素21は歯車装置8の軸心に沿って延在する中空軸を含んで構成されており、その内部には第二結合要素22が挿通されている。第二結合要素22は、歯車装置8の軸心に沿って延在する中実軸を含んで構成されており、第一結合要素21及び第二結合要素22は同軸上に配置されている。ただし、
図5(b)の例では、中実軸である第二結合要素22の一端(図中右端)はサンギヤS2の回転軸となっているが、他端(図中左端)はサンギヤS1を貫通せずに設けられている。
【0063】
図5(a)及び(b)の例では、第一遊星歯車機構20Aと第二遊星歯車機構20Bとの間には、これら第一結合要素21及び第二結合要素22の二つの軸のみが通っている。すなわち、第一遊星歯車機構20Aと第二遊星歯車機構20Bとの間は、第一結合要素21及び第二結合要素22のみの二重構造となっており、この二つの遊星歯車機構20A,20Bの間において、これら二つの軸が軸受(図示略)によって支持される。
【0064】
一方、
図5(c)の例では、第一結合要素21及び第二結合要素22は、何れも歯車装置8の軸心から径方向外側に離れた位置に配置されており、何れも中空軸を含んで構成されている。
【0065】
ここで、本歯車装置8によって伝達される駆動トルクについて、
図7に示す速度線図を用いて説明する。歯車装置8は、二つの同一のシングルピニオン遊星歯車機構20A,20Bを組み合わせて構成されるため、
図7に示すように二本の速度線図によって表すことができる。ここでは、分かりやすいように、二本の速度線図を上下にずらし、上側に第一遊星歯車機構20Aの速度線図を示し、下側に第二遊星歯車機構20Bの速度線図を示す。
【0066】
また、第一遊星歯車機構20Aの速度線図と第二遊星歯車機構20Bの速度線図とは、サンギヤSとリングギヤRとが左右反対に配置される(左右シンメトリーとなる)。すなわち、
図7において、第一遊星歯車機構20AのサンギヤS1の下に第二遊星歯車機構20BのリングギヤR2が配置され、第一遊星歯車機構20AのリングギヤR1の下に第二遊星歯車機構20BのサンギヤS2が配置される。
【0067】
本歯車装置8は、
図7に示す二本の速度線図の両端に位置する要素同士が、図中破線で示すようにそれぞれ結合されて第一結合要素21及び第二結合要素22が形成される。そして、第一結合要素21及び第二結合要素22に、それぞれ第一モータ2及び第二モータ3から出力されたトルクTM1及びTM2が入力される。一方、速度線図上で中間に位置するキャリアC1,C2から左右の駆動輪4L,4Rに伝達される駆動トルクTL,TRが出力される。
【0068】
このように構成された歯車装置8によっても、第一モータ2及び第二モータ3で発生させる各駆動トルクTM1,TM2にトルク差(入力トルク差)ΔT
IN(=TM2−TM1)を与えることで、左駆動輪4Lに伝達される駆動トルクTLと右駆動輪4Rに伝達される駆動トルクTRとに駆動トルク差ΔT
OUT(=TL−TR)を発生させることができる。すなわち、本歯車装置8によれば、以下の式(9)の関係が得られる。なお、係数βはトルク差増幅率である。
ΔT
OUT=β×ΔT
IN ・・・(9)
【0069】
本実施形態に係る歯車装置8のトルク差増幅率βについて説明する。ここでは、二つのシングルピニオン遊星歯車機構20A,20Bは、同一の歯数の歯車要素を使用しているため、リングギヤR1とキャリアC1との距離及びリングギヤR2とキャリアC2との距離は等しく、これをaとする。また、サンギヤS1とキャリアC1との距離及びサンギヤS2とキャリアC2との距離も等しく、これをbとする。つまり、
図7は、上記の第一実施形態で説明した
図3に対して、C1とR1との位置及びC2とR2との位置をそれぞれ入れ替えたものとなる。
【0070】
左右両端の第一結合要素21,第二結合要素22に、それぞれ第一モータ2,第二モータ3のトルクTM1,TM2を入力し、キャリアC1,C2から駆動トルクTL,TRを取り出すとすると、上記の式(2)〜(6)と同様の式が導出される。シングルピニオン遊星歯車機構の場合、長さaはリングギヤRの歯数Z
Rの逆数(1/Z
R)であり、長さbは、サンギヤSの歯数Z
Sの逆数(1/Z
S)であるため、上記の式(9)は以下の式(10)のように書き換えられる。
【0072】
すなわち、トルク差増幅率βは、以下の式(11)となる。
【0074】
上述のようにシングルピニオン遊星歯車機構においても、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比は約1:2に設定されるため、式(11)からトルク差増幅率βは3前後の値となる。
【0075】
[2−2.効果]
したがって、本実施形態に係る左右輪駆動装置1′によれば、二つの遊星歯車機構20A,20Bの間に、第一結合要素21及び第二結合要素22の二つの軸だけが通るようにすることができ、すなわち第一結合要素21及び第二結合要素22の二重構造とすることができる。これにより、二つの遊星歯車機構20A,20Bの間において、これら二つの軸を支持するための構造を複雑化することなく、剛性や精度を確保することができる。また、連設ピニオン式やラビニヨ式の遊星歯車機構を用いる場合に比べて、歯車装置8の構造を簡素化することができる。
【0076】
さらに、二つのモータ2,3で異なるトルクTM1,TM2を発生させて入力トルク差ΔT
INを与えると、歯車装置8において入力トルク差ΔT
INが増幅され、入力トルク差ΔT
INよりも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを得ることができる。すなわち、入力トルク差ΔT
INが小さくても、歯車装置8において所定のトルク差増幅率βで入力トルク差ΔT
INを増幅することができ、左駆動輪4Lと右駆動輪4Rとに伝達される駆動トルクTL,TRに、入力トルク差ΔT
INよりも大きな駆動トルク差ΔT
OUTを与えることができる。したがって、比較的大きなトルク差増幅率βを得ながら、コストを低減することができる。
【0077】
また、本左右輪駆動装置1′では、歯車装置8が二つのシングルピニオン遊星歯車機構20A,20Bを組み合わせて構成されているため、第一実施形態の構成に比べてより簡素な構造にすることができ、コストをさらに低減することができる。
【0078】
また、本左右輪駆動装置1′においても、
図5(a)及び(b)に示すように、第一結合要素21及び第二結合要素22が同軸上に配置されるとともに一方が中実軸を含んで構成され、他方が中実軸が挿通される中空軸を含んで構成されている。これにより、二つの遊星歯車機構20A,20Bの間を通る軸を二重構造にすることができ、軸の支持構造をより簡単なものとすることができ、歯車装置8の径方向の寸法を小型化することができる。
【0079】
このとき、
図5(a)に示すように、中実軸は、その一端が一方のサンギヤの回転軸であって、他端が他方のサンギヤを貫通して設けられ、二つの遊星歯車機構20A,20Bをつないでいるため、シンプルな構成で剛性を確保することができるため、構造上の信頼性を高めることができる。また、歯車装置8を軽量にすることもできるため、左右輪駆動措置1′全体の重量を低減することができる。
【0080】
また、上記の左右輪駆動装置1′においても、二つの電気モータ2,3を駆動源としているため、入力トルク差ΔT
INを容易に発生させることができる。
【0081】
[3.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記各実施形態では、同一の遊星歯車機構10A及び10B,20A及び20Bを二つ組み合わせたものを例示したが、二つの遊星歯車機構が同一でなくてもよく、例えば要求される強度やレイアウトの関係から二つの遊星歯車機構の歯数が若干異なって構成されていてもよい。また、サンギヤSの歯数Z
SとリングギヤRの歯数Z
Rとの比は1:2前後に限られない。
【0082】
また、二つの駆動源が何れも電気モータ2,3であり、同一の最大出力を有する同一規格のモータである場合を例示したが、二つの駆動源はこれに限られない。
また、左右輪駆動装置1,1′のレイアウト例を
図4(a),(b)及び
図5(a)〜(c)に示したが、これら以外の配置で車両に搭載されてもよい。また、
図5(c)に示すような、第一結合要素11及び第二結合要素12の何れか一方が中実軸,他方が中空軸で構成され、同軸上に配置されていないものであってもよい。
なお、左右輪駆動装置1,1′が搭載される車両は、電気自動車やハイブリッド電気自動車に限られず、例えば第一モータ2及び第二モータ3を駆動源とした燃料電池自動車であってもよい。